pixiv作品 名探偵コナン
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「大きくて持ちにくいわね…」
執務室で、新しくなったスマホをタプタプと操作する。
とりあえず千速と横溝、英理と有希子は登録した。
ああ、神奈川県警と本部長、警視庁と総監のもね。
前までのスマホはスーツのポケットに丁度良く収まってたけど、このスマホは大きくてちょっとはみ出る。
「…失敗したぁ」
前と同じのにすればよかった。
なんか変な機能も付いててよくわからないし。
スマホを置き、ため息を零した時に。
コンコン
『横溝です』
「入って」
「失礼します」
横溝が来た。
「どうしたの?何かあった?」
千速から、嫌々ながらに横溝には口調を戻していいという許可が下りたため楽になった。
前までは男の口調のほうが使ってた期間が長いせいか使いやすかったんだけど。
千速と交際してからは女口調のほうが使いやすくなっちゃった。
「何かあった、というか」
「?なぁに?」
横溝はガシガシと頭を掻いて。
「…刑事課の奴ら、警視と連絡先を交換したいって喧しいんすよ」
ため息を零した。
「へ?」
私と?
連絡先を?
え、なんで?
私なんかと交換したって話すことないでしょうに。
「なんで私の連絡先を知りたいのかしら」
あ、諸々の報告に便利だからか。
わざわざ執務室に来なくて済むし。
……って、刑事課の連中が報告書提出以外で来たことないわね。
「“連絡先に警視の名前があるだけで心強い”…だそうすよ」
「そ、そう…」
…スマホの名簿に私の名前があるだけでいいなら。
「教えてもいいわよ。ただ連絡をくれるなら連絡くれる人の連絡先も教えてほしい」
じゃないと誰からかわからないから警戒対象になってしまう。
ちなみに、知らない番号は出ないという選択肢はなく絶対に出る。
詐欺電話かもしれないからね。
「…いいんすか?」
「えぇ、いいわ」
横溝は徐にポケットに手を入れ、紙を取り出して渡してきた。
「何これ」
「見てみてください」
開くと、A4サイズの紙にびっしりと番号とIDと名前が記載されていて。
「…嘘でしょ」
「警視と連絡先を交換したい刑事課一同からです」
こ、これを…手動で…?
私が、入れる…の…?
「“横溝警部は結構仲良しだから渡してきてください”って押し付けられました」
「仲良し…」
横溝とは昔はタッグを組んだりしてたから話しやすさはある。
私が警視に上がってからはなくなったけどね。
「…時給発生するの?この作業…」
「しないっすね」
私は紙を畳んで端に置いて。
「私の連絡先とIDを知りたいならそちらから来いと伝えておいて。これは警視にさせる作業じゃないから」
「…そうは言ったんすけど、とりあえず意思表示として!っつって…」
「意思は伝わったけど面倒すぎる」
「っすよね。伝えときます」
横溝は敬礼をして、執務室を出て行った。
「…私とID交わしてどうするのかな」
さすがにプライベートに介入されるのは面倒。
でもまぁ、来た人にくらいは教えるけど…。
「…千速、絶対に怒りそうよね」
すぐ変な想像してすぐ怒るから。
独占欲もさることながら、束縛も結構激しめなのが面白い。
あんな綺麗でクールぶってるのにね。
なんて一人で笑っていたら。
〜♪ 〜♪ 〜♪
スマホが鳴った。
「……」
知らない番号から。
詐欺だったら少し遊んでやろうかしら。
ピッ
「もし『冬華さん、狙撃の件で話したいことがあるんだけど』
眉間に皺を寄せ、一度耳からスマホを離して画面を見る。
やっぱり知らない番号から。
『?おい、冬華さん。どうしたんだよ。何かあったのか?』
でも声がコナンの声。
「……シン、お前まず名乗れ。私はお前の番号を知らないんだからな」
ユキから私の番号を聞いたみたいだけど、私がコナンの番号を知ってる体(てい)で話されてもね。
『あ、わりぃ…つい…』
「まったく。それで、狙撃の件で話したいこととは?」
軽くため息を零し、狙撃の件についての話を即す。
『電話じゃなくて会って話したい』
「いつが都合いい?」
『出来るだけ早く』
「……」
視線だけをスマホに向ける。
出来るだけ早く。
つまり。
「緊急か?」
『うん』
「これから行く。問題は?」
『ない』
通話を終えて、スマホをデスクに置く。
「…あいつ、あれの正体を知ってるのねきっと」
上等。
あれの名前、もしくはコードネームと組織名は知っておかなければ。
また近いうちに、なんてほざいてたし。
まだ傷も完治してないのに、次から次へと。
「さて、と。千速、まだ巡回から戻ってないわよね」
千速へは警視庁へ行ってくるとメッセージを入れて。
鞄とコートを持って執務室を出る。
『どうしました?』
「少し警視庁へ行ってくる。何かあれば連絡をくれ」
『了解です』
歩きながら横溝へ連絡を入れて。
嘘を吐いてごめんだけど、あなたたちをこの件に関わらせるわけにはいかないから。
きっと、やばい奴ら。
日本の警察でどうにかなるような問題でもないでしょうし、もしかしたらFBIやCIAなどの組織と繋がらないといけないかもしれない。
「…きっと千速、私が執務室にいないから怒るだろうから帰ってきたらいっぱいチューしてやろ」
それで何とか機嫌を取って、出来れば夕方までには戻りたいなぁなんて思いながら。
私は東京へと向かった。
工藤邸。
「相変わらず本ばかりの家だな」
「父さんが作家だからな」
優作さんのデスクに付き、周りを見渡す。
「千速さんはいないんだな」
「あいつには関わらせんよ。突っ走って痛い目を見るだろうから」
「…確かに」
コナン…いや、新一は苦笑いを零して。
「さっそくだけど、冬華さんを狙撃したのは■■警視長じゃないかもしれないことがわかったんだ」
私を呼びつけた理由の話をし始めた。
「…ほう」
デスクに頬杖を付き、目を細める。
「あれからオレなりに警視庁へ潜り込んで、警視長たちの金の流れを探ってたんだけど」
「警視庁に潜り込んで、って。どうやって?」
簡単に言うけど、お金の流れを探るなんて警察上層部に潜り込まないと出来ない。
なのに、この子どうやってそれをやったの?
「……ま、まぁ色々と…その…方法があって…」
「その方法は?」
「……怒らないって誓うなら」
「誓う」
即答をしてから。
「…冬華さんに変装させてもらって潜った」
「前言撤回。お前何してくれてるんだこら」
「撤回が早すぎるっ!」
前言を撤回して怒る。
「っだって気になったんだもん!」
「こんな時だけ子供ぶるな阿呆」
椅子の背もたれに背中を預けて。
「台本を寄越せ。じゃないと話を振られた時に噛み合わなくて私本人まで疑われるだろ」
飛んだとばっちりにため息を零した。
「オッケー!サンキュー冬華さん!やっぱあんた話わかるよな!」
「喧しいぞ」
まったく、抜け目のない子。
でもまぁ、ユキの変装技術で私になりすまして警視庁へ潜ったってことよね?
つまり。
この子、何らかの方法で元の姿に戻れるってことか。
阿笠さんの発明でそんなことが可能なの?
そんな近未来的な発明を?
売り出せば億万長者じゃないそれ。
それまぁ置いといて。
「で、金はどう流れていた?」
腕を組み、話を戻す。
「△△元警視長と■■元警視長が金で部下を操ってたのかと思ってたけど、その二人も金で操られてた」
「ふむ」
「あの二人よりさらに上に関わってる奴らがいるってことで、それを調べようとしたら…」
「二人が殺害された、と」
「あぁ」
コナンは顎に手を添えて。
「おそらく口封じに消されたんだ。留置所にいる二人を殺せる奴は…あいつしかいない…」
一筋の汗を零した。
私は目を細める。
“あいつしかいない”
やっぱり、知ってるのね。
新一は。
あれの存在と組織を。
「ふむ」
じゃあ、教えてもらおうかしら。
あいつのコードネームを。
「…私を狙撃した奴なら、会ったよ」
デスクに両肘を付き、手に顎を乗せる。
「え?」
真っ直ぐ新一を見つめて。
「千速に化けて、病院で接触をしてきた」
少し肩を竦めた。
「な…ッ!?」
新一は目を見開き、デスクへ駆け寄り飛び乗った。
「ッ千速さんに!?」
「あぁ。千速には話していないから絶対に言うな」
巻き込みたくない、と新一に伝える。
「っあぁ、わかってる。冬華さんに接触を図った女のコードネームは“ベルモット”で、百の顔を持つ魔性の女だ」
百の顔を持つ、魔性の女。
“ベルモット”
それがあれのコードネーム。
「…組織に名はないのか?」
「多分ない。奴らは黒い服を纏ってるから、オレは黒の組織って呼んでる」
黒の組織、か。
迂闊に近づくのは危ないわね。
慎重に調査していかないと。
「それで「私の紹介もしてくれないかしら」
さらに詳しく聞こうとすれば、赤みがかった茶髪の女の子が部屋に入ってきた。
初めて見る顔。
「は、灰原…オメー来んなっつっただろ…」
「組織の話をするなら私も必要でしょ?それに、私も○○さんと直接話がしたいの」
今の新一と同じくらいの年齢だろうけど、表情が子供のそれじゃない。
それに、組織を知ってるのね。
「…誰だ。名乗れ」
じゃあ子供扱いはしない。
「…私は灰原 哀。彼と同じ薬…APTX4869を飲んで体が縮んだの」
新一と、同じ薬?
視線を新一へ送ると、新一はため息を零してガシガシと頭を掻いた。
嘘ではなさそう。
「…オレは黒の組織が開発した毒薬を飲まされたんだ。トロピカルランドで起きた殺人事件に遭遇して…」
その時に黒い服を着た怪しい二人組がいて、そいつらを追っていたら怪しい取引をし始めて写真を撮ってたら後ろから殴られて。
「…で、気を失っちまって起きたら…」
「その姿に、ね」
コクンと頷いた。
私は哀へ視線を移して。
「君は何者だ?黒の組織の話に何故君が必要なんだ?」
目を細めたけど。
「…その毒薬を作ったのが私だからよ」
「……ふー…」
すぐに目を閉じ、天井を仰ぐ。
…情報過多。
もう情報量が多すぎて頭痛くなりそう。
「ったく、オメーが出て来ちまうなら全部説明しねぇとややこしくなっちまうだろ」
この子が来たらややこしくなるのね。
上等 上等。
「呼んだのはお前だろうが。全部話せ」
知ってることを全部話してもらおう。
「わかったよ。ちっと長くなるけど」
「構わない」
新一と哀は頷き合って、さらに深く“黒の組織”についての話をしてくれた。
「……」
カチ、カチ、と。
静かな空間で、鮮明に聞こえる時計の音。
私は俯き、腕を組み、人差し指でトントンと組んだ腕をノックする。
ベルモットのほかに。
ジン、ウォッカ。
コルン、キャンティ。
バーボン、ライ、キール。
バーボンは実は公安警察官で、黒の組織に潜入している公安のスパイ。
しかも“ゼロ”に所属って、警視庁の秘密組織よね?
存在は何となく知ってたけど、私ですら入り込めない最重要機密満載の組織。
さらに私たち一般の警察が守る対象は国民だけど、公安が守る対象は国家であることからして、場合によっては私たちと敵対しそうね。
起こった事件を解決する私たちと、起こる前に阻止をすることが公安の仕事だから。
そして、ライ。
FBIのスパイで、キールに至ってはアメリカのCIA。
「…冬華さん、大丈夫かよ」
「はー…しんどい…」
「…でしょうね」
というかスパイに入られすぎじゃない?
大丈夫なの?その組織。
「ベルモットに関しては、オレや灰原の正体を知ってるんだ」
「知っていて何故かシンと蘭は守ってくれる、と」
「…あぁ」
強ち悪い奴でも………。
いや、悪い奴よね。
だって千速に化けた時点で悪だし。
「だがまぁ、色々わかったが」
私は立ち上がり、哀の前に立って。
「お前が組織の元一員の“シェリー”だとして、私が黙ってるとでも思うのか?」
見下す。
毒薬を作っているつもりはなかったと言っても、それは結果論。
作った事実は変わらないし、新一だって縮んだのは単に運が良かっただけ。
もしかしたら死んでいたかもしれない。
犯罪者など全員死刑でいいとすら考えてるくらい、許せないことだけど。
「黙ってるしかないだろ?灰原の悲しみは計り知れないんだからな」
両親と姉が組織の一員で、全員亡くなってるし姉に至っては妹のこの子と組織を抜けるために10億円を強奪したけど、結局組織に騙されて殺害されたって。
両親が組織の一員であるばかりに、二世のこの子たちが悲劇を背負うって。
許すしかなくない?
そんな悲劇を経験してる子、守ってあげるしかなくない?
私は表情を和らげて。
「…はぁ。自叙伝を出版したら一番最初に買うよ」
「出さないわよ…」
私はため息を零した。
「しかし、私にここまで話して大丈夫なのか?」
“黒の組織”について、結構核心をつく話をしてくれたけど。
まぁバーボンが誰なのか、ライが誰なのかは聞いてない。
向こうから接触して来ない限りは探るつもりもない。
探ってるのがバレて警戒されて調べづらくもなるだろうしね。
「冬華さんなら助けてくれるだろうし、警視庁に融通の利く冬華さんが味方になってくれたら潜入しやすいしな」
私まで利用してくるなんて、本当に危なっかしい子。
「利用するのはいいが、その都度台本を寄越せ。そして、一つ警告しておく」
「…警告?」
新一へ、視線を合わせるように屈んで。
「千速を巻き込んだ瞬間、如何なる理由があろうと私とお前は敵同士だ。わかったか?」
真っ直ぐ新一を見据える。
それだけは絶対に許さない。
ユキの息子であろうと関係ないし、新一の行動でユキとの仲が裂かれるかもしれないことを突きつければ。
「…わかってるよ。絶対に巻き込まねぇって約束する」
新一が息を呑んだ。
「…ベルモットが千速って人に化けたのならもう巻き込まれてると思うけど」
「要は千速に“黒の組織”の存在を知られたらってことだ」
哀が肩を竦めたから、哀の頭を撫でる。
私からは“黒の組織”の話は絶対にしない。
FBIや公安、CIAが絡んでるような重要機密をおいそれとは口に出来ないしね。
私は私なりに秘密裏に探ろう。
「でも、警視長たちの殺害の件は…」
「おそらく警視庁はうやむやにするだろう。“ゼロ”に任せて、表面上では捜査してる風を装うだけだろうな」
「…そうか、、あ…っ!」
ひょいっと新一の眼鏡の取り、立ち上がる。
「なるほど、この部分が盗聴器で…おい発信機まで搭載されてるのかよ」
「…っか、返せよっ」
「望遠レンズにズーム、赤外線に暗視機能…」
ピョンピョンとジャンプして私から眼鏡を取り返そうと必死ね。
「……とんでもないスパイ機能だな」
本当に阿笠さん、これ売り出さないのかしら。
「他には?」
「あん?」
眼鏡を返して、他に何の道具があるのかを聞く。
「ほら、スパイ道具」
「ス、スパイじゃねぇし…」
「あとは探偵団バッジに発信機とトランシーバー機能と、彼が付けてる蝶ネクタイにはボイスチェンジャー機能があるわね」
「スパイじゃないか」
「言うなよ灰原…!」
まったく。
ユキも優作さんも、ここまで自由にさせてるなんて放任主義どころか育児放棄レベルなんだけど。
と言っても新一はもう高二だから育児放棄も何もないか。
〜♪ 〜♪ 〜♪
「ん、千速からだ」
「千速さんから?」
電話が鳴り、画面を見れば千速から。
「もしもし、どうした?」
『どうした?じゃねぇよ。いつ帰ってくるんだ。遅すぎだろ』
「お前な…警視庁へは遊びに行ってるわけじゃないんだぞ」
…警視庁へは行ってないんだけどね。
チラッと新一たちを見る。
ここまで詳しく話してくれたなら、もう一つ教えておこうかしら。
『そうだけど、夕方には戻るんだろうな?一人で退勤嫌だからな!』
「私はしばらく午前中までだから帰ったら退勤するぞ」
千速に気付かれないように、小さく息を吐き出して。
「…というか、あなたは子供じゃないんだから一人で帰れるでしょ?」
口調を女口調へと戻して、もう一度二人をチラッと見れば。
「「……」」
きょとん顔から。
「「…ッ!?!?」」
ギョッと目を見開いた。
『うるせぇ!いいから早く帰って来い!わかったか!』
「警視に対しての言葉使いじゃないけど。周りに誰もいないんでしょうね?」
『冬華さんの執務室で、今は重悟がいる』
うっす、と小さく横溝の声が聞こえてきた。
「私の執務室で?横溝と?二人きり?…なんで横溝といるの?ちょっと戻ったら詳しく聞くから待ってなさいね」
『待ってるっつってんだろ!なるべく早くだぞ!』
「はいはい、わかりました」
通話を終えて、二人に向き直ってニコリと笑う。
「ふぅ…警視に対してすごい言葉使いだろ?」
大きな声を出してたから、きっと聞こえてたわよね。
「え…冬華さん…今のって…は、話し方というか…口調が…」
新一はワナワナと震えながら私を指差す。
「普段の男口調は昔馬鹿にされたからってだけで、これが本来の私の口調よ」
「嘘だろ…違和感しかねぇ…でも変な感じはしない…のがまた違和感だ…」
「喧しい。いい?二人とも」
また二人の前で屈んで。
「あなたたち二人だけの時はこの口調で話すわ。でもそれ以外の人間が一緒にいる場合は普段の男口調。だから…」
「だからベルモットの奴が冬華さんに変装した時は…」
「それで見破れってことね」
「正解」
ツン、と哀の額を突く。
「ちなみにこれ、千速やユキにも内緒ね。千速は私の女口調を誰にも知られたくない子だから」
「母さんたちも知らないのか…」
「知らないわ。小学生の頃からだから」
英理も知らないし、毛利も知らない。
「あ、横溝は知ってるわよ」
「横溝…弟のほう?」
「弟のほう」
時計を見て、コートを着る。
玄関へ行き、靴を履いて。
「最後に一つ聞くけど」
「なに?」
新一を見て。
「ベルモットはユキの知り合い?」
問いかけた。
あの変装技術は全くの他人とは思えない。
新一は目を閉じて。
「…同じ師に変装技術を学んだ姉妹弟子だよ」
少しつらそうに口にした。
「…なるほどね。わかったわ」
ユキにとってベルモットは大切な存在か。
そうなるとちょっとやりづらいけど、喧嘩を売ってきたのは向こうだから。
「…あのさ、冬華さん…口調を戻してくれない?」
なんかしっくり来ねぇ…と言われて、私は苦笑いを零して。
「では、口調で判断してくれ。わかったな?」
男口調に戻した。
「おう。やっぱりそれがしっくり来る…」
「私には女口調で話してちょうだい」
「口調が迷子になるから無理だ」
新一は苦笑を零して。
「…冬華さん、無茶だけはしないでくれよな」
「それはお互いにな」
視線を交わし、小さく笑い合う。
きっとまだ何か隠してるだろうけどとりあえずはいいか。
知った情報を整理しないと。
「冬華さん、連絡先を教えてくれないかしら」
「ん?ああ、構わないよ」
哀とも連絡先を交換して。
「じゃあ、千速が煩いからもう帰るわね」
「違和感だからやめてくれ!」
「ふふ、またな」
女口調をやめろって言われたの初めてだから笑っちゃった。
「で?なんで横溝といたわけ?」
「…だ、だから、いたんだよ重悟が。冬華さんの執務室に…」
「横溝にも警視庁へ行くって話したはずだけど」
神奈川県警に戻り、私の執務室で千速をドアに押し付けるように詰め寄る。
「…っ書類を置きにきたって言ってた…!重悟に確認取ってみろ!」
「もしもし横溝?千速といたの?あなた」
「連絡が早いな…」
『書類を置きにきたら、ソファーで寝転がりながらスマホいじってる千速がいたっつーだけっすよ』
「そのタイミングで千速が私に電話をかけたってことで間違いない?」
『ないっす。何してんだって聞いたら、蒼月警視へ文句の連絡を入れるっつって』
止めたけど遅かった、と。
「そう、わかったわ。ありがと」
どうやら本当のようね。
通話を終えて、ニコニコ笑顔のまま。
「で、文句って?」
「…あの野郎…余計なことを…」
また千速に詰め寄る。
「千速?」
「…っそんな体で無理すんなってことだよ!せめて警視庁へは抜糸後に行け!」
「復帰をした以上そんなわけにはいかないの、わからない?」
痛み自体は触らない限りはないけど、痒みと突っ張ってる感があるからね。
「っわ、わかるけど…っ心配なんだよ…っ」
千速の顎に手を添えて。
「っ冬華さ––––
息を呑み切る前に、口を塞いだ。
見開かれる瞳の中に私が映る。
慌てて私の肩を押してくるけど。
「…っ」
キュッと眉間に皺を寄せて痛がる素振りを見せれば、千速は抵抗をやめる。
肩を押されたくらいじゃ痛くないのにね。
千速のそういう気遣いに付け込んでキスを深める。
綺麗な瞳に涙が浮かんでくる。
震える手で私の背中に腕を回して、千速からも求めてきて。
後頭部を押さえ、指に髪を絡ませて。
千速の、漏れ出る熱い吐息にますます興奮する。
頬に手を添え、何度も角度を変えて。
ガクガクと千速の足が震え出したから。
ちゅ…と音を立てて離れれば、透明の糸が私たちを繋いでプツリと切れた。
「ふふ、力抜けた?」
「っ喧しい…っ」
肩で息をしてる千速をソファーに座らせてあげる。
「まぁ横溝と密室で二人きりになった罪は今ので許してあげる」
横溝に疚しい気持ちはないけどね。
「…あんただって本部長と密室で二人きりになるじゃねぇか」
「それは上司と部下だから」
「っ言い訳だろそれ!」
「……」
「……っ」
ぎゃいぎゃい文句言ってくるから、目を細めてやれば黙った。
「千速はさぁ」
「…なんだよ」
私はデスクに頬杖を付き、ニヤニヤ笑いながら。
「私とキス、したくない?」
そう聞くと。
「…ッ」
千速は徐に立ち上がり、ジト目で睨みつつデスクの前に立って。
「ッそんなわけないだろバカヤロウ!」
怒ってきた。
私に“馬鹿野郎”って言えるの千速だけよね。
「じゃあなんでそんな怒るの?」
「っキ、キスで口を封じるのがズルいっつってんだよ!嫌だなんて一言も言ってないからなっ!」
真っ赤な顔で可愛く怒ってる。
「…っ何笑ってるんだよ!私は怒ってるんだぞ!」
「…っ可愛すぎてニヤける…っ」
本当に全てが可愛いなぁ。
私に会いたくてたまらないのに東京へ行ってていないし。
帰って来たら来たで私に横溝と密室で二人きりになったことを問われて詰められるし。
詰められたことで間近にある私の顔を見て顔に真っ赤にさせるし。
私がする一つ一つの行動で、千速はすぐ顔を赤くさせるのよね。
「…で?警視庁に何しに行ってたんだよ」
「私が警視庁へ行く理由はただ一つでしょ?」
「…あの元警視長どもと轢き逃げの件か」
…まぁ違うけど。
今日は警視庁へは行ってないけど。
あの二人が殺害されたのは全国区になったし、警察の失態で総監も警察長も世間から大バッシング。
そんな中で時間作って私のところに来たんだもの。
大変よね、警視総監も。
「多分、辞令を全部拒否したから警視庁へ呼ばれる回数は増えると思う」
「……まぁ…仕方ないよな、それは」
千速へ手招きをして抱き寄せれば、私を跨ぐように座ってきて。
「仕方ないって思ってくれるんだ?」
「そりゃそうだろ。何せその…一緒に…居るためには多少の妥協を…だな…」
私はクスリと笑い、千速の頬に手を添える。
「ん」
千速からのキスが降ってきて。
さっきと同じように、ゆっくりと啄む。
「…っぃ…痛くない…か…?」
「大丈夫よ」
このまま抱きたいけど、さすがに今の時間に執務室では危険か。
でもちょっとだけ。
「っおい…っ」
ちょっとだけ千速のえっちな声が聞きたいなと思って。
Tシャツを引っ張り出して、中に手を侵入させて
「…っぁ、あっ」
下着の中に手を滑らせ、指の腹で胸の先を摩ると。
千速は私の肩に顔を埋め、僅かに肩を震わせた。
はー…。
可愛い…。
ゾクゾクする…。
最後までシたい…。
でもダメダメ。
「……っ?…んっ」
手を抜き取り、キスをして。
「続きは帰ってから、ね?」
「……」
足りなくてジト目で睨んでくる千速を立たせた。
鍵を閉めたわけじゃないし、時間的にもまだたくさん職員がいる。
聞かれたら嫌だからね。
千速のえっちな声。
千速の制服を整えてあげて、私も立ち上がる。
「じゃ、私は本部長のところに顔を出して先に帰るわね」
「…嘘だろ…本当に帰るのかよ…」
「帰るわよ。今日何食べたい?」
「………」
ムゥ、と頬を膨らませて、ドアのほうへと歩いて行って。
「ッハンバーグ!!お疲れ様でしたバカヤロウ!」
ブチギレながら出て行った。
「ん…っふふ…っあは…っあはは…っな、なにあれ…っ可愛すぎるんだけど…っ」
あまりの可愛さと面白さに涙が出てくるくらい笑えてきて。
「ふふ…っねぇ、千速?」
呼ぶと。
『……なんだよ』
ドアの向こうにいるのよね。
そんな可愛い千速に。
「愛してる」
愛の言葉を贈ると。
カチャ…と小さくドアが開いて。
隙間から顔を覗かせて。
そして。
「……私も…ぁ…ぃ…してる…っ」
小さな声で愛を返してくれた。
「ふ…っふふ…っ」
バタンとすぐドアを閉めちゃったけど。
『な、何笑ってんだ!私は巡回へ行くからな!』
「えぇ、気を付けてね?」
ドアの向こうから気配が消えたから、本当に巡回へ行ったみたいね。
「なんであんなに可愛いんだろ。本当に罪な子よね」
椅子に座り、回転させて後ろを向く。
撃たれた場所に手を添えて。
「…出来れば、これ以上の怪我はしたくないなぁ」
小さく呟く。
千速のあんな顔、もう二度と見たくない。
しかも想像を絶するくらい痛かったから。
でも。
「…そんなわけにもいかないだろうけどね」
私が踏み込もうとしているのは。
FBIや公安、CIAといった国家機関が秘密裏に動いている“深淵の領域”
一警察官の私が関わるべきではないのはわかってるけど。
“近いうちに、もう一度会いましょう冬華”
「…絶対に許さない」
千速に化けた罪の重さを思い知らせてやるわ。
たとえ有希子との関わりが深くても。
たとえ綺麗な手袋を脱ぎ捨てることになったとしても。
千速の顔を汚した代償は、言葉で済むほど甘くはない。
それにより有希子に嫌われる未来になったら…。
「…甘んじて、その未来を受け入れるわよ」
私は私の守りたい人を守りたいだけ。
ただそれだけだから。
「明日、忍も来るって」
「あらま。忍ちゃんも手伝ってくれるんだ?」
「あぁ、オシャレしてくるってさ」
「あは!片付ける気はないみたいね?」
「ふ、そうかもしれないな」
帰宅して。
明日、私の自宅の片付けをするにあたって、千速の友達の忍ちゃんも来てくれるようで。
何やら面白い子の予感がして楽しみになってきちゃった。
けど今は。
「…冬華さん?」
「ん、ご飯前に一運動」
「…っ」
とにかく今は。
「ご飯食べてからも運動、シャワーでも運動、ベッドでも運動。果たしてあなたは明日起きれるでしょーか!」
「っ死ぬわっ!」
たくさん千速を愛したい。
next