pixiv作品 名探偵コナン
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「千速、今日夜ご飯どうする?作ってく?外食にする?」
「…食ってから行けばいいだろ」
「……ふ」
「笑うな」
送別会当日。
朝から千速の機嫌が悪くて悪くて可愛すぎる。
ずっとムッと口をへの字にしてるし、眉間に皺を寄せて怒ってますアピールしてくるしで本当に可愛い。
でも、どんなに機嫌が悪くても。
「おいし?」
「美味い」
美味い美味いって食べてくれる。
本気で怒ってるわけじゃなくて、ただ行くなよっていうアピールなのよね。
「そんなに遅くならないから」
「じゃあ19時帰宅だぞ」
「19時からなのよ」
むぅ…と頬を膨らませながらお味噌汁啜ってる。
ふふ、器用なことをしてる。
私は私で食べ終わったから、お茶碗を下げにキッチンへ行く。
「あ、ありがと」
お茶碗を洗っていると、千速も食べ終わって食器を下げに来てくれた。
「冬華」
「んー?」
千速の食器も洗っていたら、後ろから抱き締められた。
私の肩に額を置いて。
「…寂しい」
小さく呟いた。
私は食器を洗ってる手を止めて。
「え?」
私の肩に額を置いてる千速へ、視線だけを向ける。
今、寂しいって。
言わなかった?
「千速?」
「……」
千速はグリグリと私の肩に顔を押し付けて。
「ね、もう一回言って?」
「…っもう一回言ったら行くのやめるか?」
「…や、やめは…しないかも…」
ギュッと私を抱き締める腕に力が入った。
「千速」
私はタオルで手を拭いて、私のお腹にある千速の手をポンポンと優しく触れると。
「ん?」
千速が抱き締める力を抜いてくれたから、千速へと向き直って。
「寂し?」
千速の首に腕を回した。
「……」
千速はジト目で見てくるけど、顔が赤くて。
視線を逸らしながら。
「……寂しい」
本当に小さな声で、もう一度言ってくれた。
…あー、どうしよ。
行かない選択肢が私の中に現れ始めちゃった。
行くのやめて、千速の傍に居ようかなって。
でも、せっかく誘ってくれたわけで。
田中さんは今日で終わりだから、ちゃんとお見送りしたいし。
「ごめんね?千速。すぐ帰って来るから」
「……」
そっぽ向く千速の頬にキスを一つ落とすと。
「ん」
チラッと私を見てから、唇にキスをしてくれた。
「ん、ン」
啄むように、角度を変えて。
ゆっくりと、味わうように。
「…は…ン…」
舌を絡め取られ、粘着質な水音が増した。
スウェットの中に、千速の手が入ってきて。
それから…それから…。
「…大丈夫?」
「え?」
出勤後、パソコンの前に座って仕事をしていたら。
田中さんにコソッと声を掛けられた。
「な、なんか…その…腰痛そうだから…っ」
コホコホと小さく咳払いをしながら、誤魔化すように言われて…。
「…あ、いえ…だ、大丈夫ですっ」
無意識で腰を摩ってたみたい…。
気をつけないと…。
「は、萩原警部補って…あの…夜は…その…」
夜じゃないんだよなぁ…。
さっきなんだよなぁ…。
私は周りを見て。
「千速は…あ、萩原警部補は…その…なかなか…です…」
コソッと田中さんだけに言うと。
「…そ、そう…っコホコホコホ…っ」
顔を赤くして咳でまた誤魔化した。
「ふふ」
普段ならそんな話はしないのだけど、女性同士だし田中さんだしいいかなって思って。
すると。
「ちわー!須川急便でーす!」
荷物が届いた。
「あ、はーい」
「まいどさまですー」
私と田中さんが立ち上がり、荷物のほうへ。
私が伝票を確認して、田中さんが口数と送り先の確認をして。
「ん、合ってるわね」
「はい」
伝票にサインを書いた時に。
「これ!」
「はい?」
小さな白い紙を渡された。
「?」
「……」
白い紙と宅配屋さんを交互に見る私と田中さん。
カサカサと開けば、メッセージアプリのIDと電話番号が書かれていて。
「あ、あー…」
「…はぁ?」
私は苦笑を零し、田中さんは眉間に皺を寄せて。
「ちょ「連絡待ってますんで!ではあざしたー!」
宅配屋さんは、パチっとウインクをして、去って行った。
「…須川急便に苦情出しておくわ」
「あ、そこまでしなくても大丈夫です」
ただ私が受けなければいいだけだしね。
白い紙をポケットに入れて。
「でも…」
「大丈夫ですって!では各部署へ連絡しておきますね」
「…えぇ、お願いね」
仕事へと戻った。
「うわぁあああん!」
「「…!」」
お昼少し前、突然の泣き声に驚く私たち。
「子供?」
「の、泣き声…ですよね」
田中さんと顔を見合わせて、声の方を見ると。
「だ、だからママかパパのお名前わかる?ボクの名前は?」
「ママー!!ああああっ」
「こ、困ったなぁ…」
どうやら迷子のよう。
見た感じ、3才か4才くらいの男の子。
「迷子君ですね。どこにいたんだろ」
「ちょっと話聞いてくるわ」
と、田中さんが行って、対応してる職員の方に話をかけたら…。
「ひっ!ああああっパパーっ!」
「……」
男の子は田中さんを見た瞬間、ビクッとしてますます泣き出しちゃった…。
「…… 蒼月さん、私ってそんな怖いかしら…」
「い、いえ!!そんなことありませんよ!」
シュン、と落ち込みながら戻ってきた…。
「…警察署の前にいたみたいよ」
「あらあら、良いところで迷子になったなぁ」
…私が行って役に立てるかな。
私も怖がられちゃう気がするけど…。
と。
「うわぁあ……!…ぁああ………」
「!」
男の子が私に気付き、目が合って。
「……」
「ッわぁっ」
ダッ!と走って来て、ガシッと抱き付かれた。
こ、このくらいの子供への対応がわからないけど。
「…抱っこしよっか?」
「ぅん…」
まだくすんくすんしてる男の子の頭を撫でて。
「よい、しょっと!」
とりあえず抱っこしてあげた。
「…ま、まぁ蒼月さん美人ちゃんだしね…」
田中さんの恨めしそうな声に、苦笑いを零す。
「ぼく、なに君?」
「…ゅぅと…」
「ゆうと君かぁ。お名前ちゃんと言えて偉いねぇ」
ね?と笑いかけると、ゆうと君は自分の親指を咥えながらコクンと頷いた。
「お名前、ゆうと君だそうです」
「近辺の交番に確認取るわね」
「お願いします」
このくらいの年齢なら、行ける範囲は狭いはず。
「!」
突然、ゆうと君は両手で私の胸を触ってきた。
「ママもおっきぃけど、おねえちゃんもおっきぃね」
「そう?普通だと思うよ?」
ママの胸と私の胸の大きさを比べてて。
「ん?」
今度はペタペタと顔を触られる。
ふふ、小さな手。
夢に出て来た我が子は5才だったけど、きっと同じくらいの手のサイズよね。
「あ、赤いの付いちゃうわよ?」
薄くグロスを塗ってるから、触ると付いてしまう。
「!」
不意に、ゆうと君が顔を近づけてきた時だった。
「おい冬華、お前無抵抗にもほどがあるだろ」
後ろから、手で口を塞がれたのは。
「!!」
顔だけ、少し振り返れば千速が立っていて。
なんか…めちゃ眉間に皺を寄せてる…。
「っわ!」
「…っちょっと!」
千速はゆうと君の服の襟を掴み、私から下ろして。
「うわ「泣くな、男だろ」
泣こうとしたゆうと君をジト目で睨むと、ゆうと君は肩を震わせてピタッと止まった。
「ちは「お前は黙ってろ」
ジト目のまま睨まれ、視線をゆうと君に戻す。
「名前は?」
「ゆ…ぅ…と…」
「ゆうとか。良い名前じゃないか。いいか、ゆうと」
ゆうと君の前で屈んで、視線を合わす。
「お前、ママを私に連れて行かれたらやだろ?」
「や、やだ!ママはゆうとのママだもん!」
「だろ?それと同じで、こいつは私のだ。わかるか?」
「…ぅん」
「よし、一つ良い男になったな」
難しい言葉は使わず、言い聞かせてる…。
「大好きなママにチューされたらやだろ?」
「…やだ!」
…それは私もやだな…。
だって、千速は私のだし…。
「うん、私もこのおねえちゃんにチューされるのやだ。これもわかるよな?」
「…ぅん」
「うむ、また一つ良い男になったぞ!お前が他の誰かにチューしようとも構わんが、このおねえちゃんだけには絶対にチューはダメだ。いいな?」
「わかった」
「よしよし!良い男だお前は!」
千速はニッと笑い、ガシガシと頭を撫でてあげたところに。
「っゆうと!!」
「ママ!ママだ!」
ママが来た。
「もうどこ行ってたのよぉ…っ探したんだからぁ…っ」
ママは泣いていて、汗もすごくて。
ずっと必死に探していたんだというのがよくわかった。
「近辺の交番に駆け込んでた時だったみたい」
タイミング良く連絡が入り、30秒で行きます!と。
「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!」
「あ、いえ。見つかってよかったです」
「ゆうと、もうママの手を離すなよ?」
「ぅん、わかった」
ゆうと君は手を振り、私たちも振り返すことでやっと笑顔になってくれて。
「ばいばい」
「ばいばーい、またねゆうと君」
「(またはないが)じゃあな、ゆうと」
ママと一緒に帰って行った。
最後“またはない”って聞こえた…。
「はー…どう「来い、お前」…え!?なに!?」
笑顔で手を振ってたのに、振り返った千速は眉間に皺を寄せていて手を掴まれた。
「ちょ、ちょっとまだ仕事…っ」
視線で総務課の皆さんに助けを求めたけど…。
「「「………」」」
皆さん笑顔で手を振ってらっしゃって…。
「っ!ちょっと…っ」
これはまずいと思って、慌てて止めようとしても…。
「聞いて…っ!千速…!」
制止の声も届かず…。
「待ってよ…っ!」
本部内の少し奥。
あまり使われていないトイレに連れ込まれて…。
「っねぇ…!ま、待ってってば…っ」
トイレのドアに押し付けられ、上を向かされた。
「お前、私が見てないと思ったのか?」
「…千速、相手は3、4才の子供よ?」
「関係ないだろ」
「関係あるわよ。子供相手に本気に––––
ならないで、という言葉は噛み付くようなキスで封じられた。
千速の肩を押し、離そうとしても両手をドアに押し付けられて叶わず。
ずりずりと頭上で、しかも片手で拘束されて。
顔を逸らしてキスから逃れようとしても顎を押さえられて叶わず。
足掻けば足掻くほど激しくなる口付け。
生々しく厭らしい水音が耳に届き、自宅ではなく本部という場所に恥ずかしくなってくる。
苦しい。
苦しいけど。
…苦しいけど。
–––– 気持ち良い ……–––
いつの間にか、顎から離れた千速の手が私のワイシャツの中に潜っていて。
真っ直ぐ捉えられた眼差しから視線を外すことが出来なくて。
キュッと胸の先を摘まれた瞬間だった。
「……ッッ!」
ビクッと肩が震えたのは。
「……は…はぁ…」
やっと解放され、千速の首に腕を回して。
ピクピクと僅かに震える身体を落ち着かせる。
「子供相手に、なんだって?」
「……」
また顎を持ち上げられ、千速の瞳に私が映った。
綺麗な、青い瞳。
日本人なのにこんなに綺麗な瞳でズルいなぁと。
さっきの子と関係ないことを思う。
「……なんでもない」
「よし」
横抱きにされ、フタを下ろした便器に座らされて。
「弁当持ってくるから、ここでジッとしてろ」
「…えぇ、わかったわ」
チュ、と額にキスをしてくれて、個室の扉を閉めてお弁当を取りに行ってくれた。
「…どこでもスイッチが入るの本当やめてほしいわね…」
まぁ…拒否し切れない私も私だけども…。
チラッとワイシャツを見て、裾が出てるのを確認する。
「…総務課の皆さんになんて言い訳しようかしら…」
なんて思いながら、服装を整えました…。
「ありがと」
「あぁ」
夜、送別会会場の居酒屋へ、千速に送ってもらう。
ちなみに服装は、千速のOKが出るまでに一時間もかかったシンプルなコーディネート。
“スウェットで行け”
“そんな人を送り迎えすることで、逆にあなたが恥ずかしい思いをするのよ?”
“……”
“それでもいいならスウェットで行くわ”
“…それでもいい”
“あは…っ!いいんだ!?ふふ…っ”
“わ、笑うなっ!私は本気なんだからな!”
なんてやり取りを経て、今の落ち着いた服装に決まりました。
「そういえば、今日は忍とどこ食べに行くの?」
まだ時間あるし、駐車場で千速と話す。
「なに、そんな大した店じゃないよ」
と、ニコリと千速が笑う。
…なんか企んでるわね。
何かしら。
ここから近いお店?
それとも高くてドレスコードがあるような…。
「なんだよ」
「いえ…」
千速の格好を見て、それはないなと思った。
すると。
「千速ー!冬華ー!」
忍が来た。
「忍!」
「冬華!」
ギュッと抱き付き、抱擁挨拶を交わす。
「ごめん遅れた!?」
「いや、私たちが早く来すぎたんだ」
「今日はごめんね?忍、千速のお世話お願いします」
「なん「はーい!任せて!しっかりとお世話します!」
ムゥ、と朝と同じように頬を膨らませた。
クスクス笑うと。
「蒼月さーん!」
「!田中さーん!」
本日の主役、田中さんが到着した。
「じゃあ行ってくるわね」
「あぁ。私たちも行こうか、忍」
「うん。そうだね、千速」
私は田中さんのほうへ駆け寄って。
「こんばんは!今日はありがとね!」
「こんばんは。とんでもないです。誘っていただけて嬉しいです」
挨拶を交わして、付いて来る二人へ振り返る。
「どうしたの?二人とも」
田中さんは千速と忍に軽く会釈をして、二人とも会釈を返す。
「何が?」
「ご飯、食べに行くんでしょ?」
「あぁ、行くよ」
千速と忍は顔を見合わせて、ニッと笑う。
「…え、まさか…」
「そう!そのまさか!」
ここで!と、忍が居酒屋を指した。
「…ねー…お酒そんな飲まないってー…」
「絶対に飲むんだよお前は」
「ほら行くよー」
千速たちは先に居酒屋へと入って行った…。
「嘘でしょー…」
「…あ、愛されてるわね、蒼月さん…」
田中さんもさすがに苦笑い。
「…過保護すぎて大変ですよ…もう…」
…まぁ前科があるからなんだけども…。
それにしたってよ…。
「まぁいいじゃない!せっかくなんだから楽しみましょ!」
田中さんは私の腕に自分の腕を絡めた時に。
ガラッ
「……それ、やめてもらっても?」
「は、はいすみませんでした…」
千速が来て田中さんを威嚇し、田中さんは私から離れた…。
「えー、皆様、お疲れ様です。本日は田中さんの送別会にお集まり頂きありがとうございます。短い時間ですが、今夜は田中さんを囲んで楽しく過ごしましょう。それでは、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
送別会が始まり、すぐにガヤガヤと賑やかになる。
みんな田中さんに話をかけて、聖徳太子のようにみんなの話を聞いていて。
みんなたくさん笑顔で。
「ふふ、すごいなぁ」
なんだかすごく楽しい雰囲気。
私は私で田中さんの隣に座らせてもらって、ビールを飲む。
「…ッはーッ、美味しー!」
「良い飲みっぷりねぇ」
「仕事の後のビールは最高ですね!」
「何よりのご褒美よね!」
なんて笑い合い、チラッと千速を見る。
……めちゃ見てる。
忍はそんな千速に、ケラケラ笑ってる…。
“飲みすぎるなよ”
口パクでそう言ってるから。
「…ん!」
親指を立てることで返事をする。
…飲まないとは言ってない。
お料理も続々と運ばれてきて。
「あ、田中さん私やります」
主役の田中さんが取り分けてくれた。
「いいのいいの!座ってて!」
「蒼月さーん!これ美味いっスよ!一つ食ってみませんか!」
と、N村さんが唐揚げを一つ私に食べさせてくれようとしたので。
「いいんですか?いただき………田中さん?」
そのままいただこうとしたら、私を押し退けて田中さんがパクリと食べちゃった。
「田中さんじゃないっスよ!!」
「うるっさい!蒼月さんには恋人さんがいるの!」
田中さんはN村さんに叱りながら、またチラッと千速を見ると。
「……」
千速はまさにこっちに来ようとしてて…。
汗を拭う仕草をしつつ田中さんと親指を立て合っていた…。
…結託してる。
さっきは田中さんに怒ってたのに…。
「…美味しそうな唐揚げだったのにぃ…」
食べさせてもらわずとも、食べたかったなぁ。
「ほらこれ、誰も口付けてないから」
田中さんが私の前に唐揚げを置いてくれた。
「わっ!いいんですか?」
「食べたかったんでしょ?いいわよ」
優しいなぁ。
…田中さん、辞めちゃうんだもんなぁ…。
脂が滴り落ちないように手を添え、唐揚げを食べる。
一口では行けないから二回に分ける。
「ん!美味しい!」
「…ずっと思ってたけど、あなたって仕草が上品よね」
「そ、そうですか?気にしたことないですが…」
上品、か。
昔、千速にも言われたわね。
“お前なんでそんな上品に食うんだよ。ガブッと豪快に行け!”
何回目かのファーストフード店で、ハンバーガーを食べる時に。
“口がそこまで開かないわよ…”
“開かないじゃない、開けるんだ!見とけ!”
ガブッと豪快に食べる千速の食べ方はすごく美味しそうだったんだけど。
“…あ、顎外れそう…っ”
“外れない!頑張れ!”
なんて、千速に笑われたわね。
「きっと、ご両親の教育が良かったんでしょうね」
田中さんは笑ってそう言った。
「…そう、ですね。多分、そうなんだと思います」
はにかむように笑い、ビールを飲む。
両親の教育、失敗したから今の私がいるのよねぇ。
両親の言うことを聞かず、千速と忍、それに研二君や陣平君たちと遊びすぎて監禁されたこともあったし。
“二度とあいつらと遊ぶな”
“あんな教育の悪い子たちと一緒に居ないで”
いつの間にか部屋に鍵を付けられ、外側からしか掛けられないし開けられなくて。
部屋で泣いていた時に、コツンと窓に何か当たった。
“……?”
窓の外を見れば、千速たちが居て。
“そこから降りてこい!受け止めてやるから!”
窓の下で、千速が両手を広げて待っていてくれた。
まぁ飛び込んだわよね。
“ぐわっ!”
“だ、大丈夫!?”
“いたた…っ大丈夫だ!問題ない!”
千速と一緒に倒れ込んで。
“だーから俺らに任せろっつったのに”
“まぁまぁ陣平ちゃん、姉ちゃんはドラマのように受け止められるって思ったんだろうよ”
“喧しいぞ陣平、研二!”
“ほら早く立って!行かないと親来ちゃうよ!”
“そうだ!ずらかれ!”
“おう!”
“逃げちまおうぜ!”
“うん!”
たくさん笑った。
「蒼月さん?」
「!あ、すみません。ちょっと考えごとを…」
昔を思い出していたら、田中さんに顔を覗き込まれた。
懐かしいな、本当。
私の悪さは全部千速から、千速たちから教わった。
サボったことのない学校もサボったり、下校中の買い食いだってそう。
必要日以外、お財布を持ち歩いてなかった私が、毎日お財布を持つようになった。
“当たり前だからな、それ”
“そ、そうなの?だって学校帰りに寄り道なんてしたことないし…”
千速には驚かれたけど。
「次は何飲む?」
「んー、カルピスサワー行こうかなぁ」
と、チラッと千速を見る。
…ジト目で見てきてる…。
うぅ…っ
2、3杯飲む予定が…。
「…っ」
もう一杯だけ!というジェスチャーをすると。
千速は忍と話し合って、忍がチラッと私を見てジト目で睨んできて…。
グッと親指を立てた。
「やったー」
「許可下りた?」
「あっ、すみません…っ下りました…っ」
一連のやり取りを見られてた…。
「この様子だと、終わるまで居座りそうね」
「居ると思います…」
田中さんはクスクス笑い、私はたまらず苦笑いを浮かべた。
それから、二時間ほど経過して、出来上がっちゃった方々がちらほらと。
「蒼月さーん!飲んでますかー?」
「いただいてますよー」
「それお茶じゃないっすかー!?」
「ウーロンハイです」
運ばれてきた烏龍茶を見せて、グラスに口付ける。
カルピスサワー後、ちょっとお茶を間に挟んでおこうと思って。
ウーロンハイって嘘吐いちゃったけど、仕方ないわよね。
「お待たせしましたー、鳥つくねです」
店員さんが、私の前にお皿を置いた。
「あ、はい。ありがとうございます」
誰だろ、注文したの。
「ん?」
お皿を持ち、誰が注文したかを聞こうとすれば。
お皿の下に小さな白い紙があって。
「なに、それ」
「なんでしょう」
お皿を置き、白い紙を開いてみると。
“一目惚れしました。連絡ください。xxx-xxxx-xxxx”
という…その…。
連絡先が…。
「「……」」
田中さんと顔を見合わせ、恐る恐る千速へ視線を向けると。
「……ちょっと行ってきます…」
「が、頑張って…」
ジト目で手招きをしてた…。
「なんだ、それ。何を見てた?」
「…やー…こ、これ、はー…」
チラッと忍に助け舟を求めると、ニヤニヤしながらビールを飲んでて助けてくれそうにない…。
「…わ、私はー…悪くないというかー…」
「いいから見せろ」
白い紙を奪われた…。
「……」
「鳥つくねがね、運ばれてきて…」
私宛じゃないかもしれない、って言ったんだけど…。
「お前の前に置かれたんだろ?」
「…まぁ…」
そう…、だけど…。
っ私悪くなくない!?
だって私、鳥つくね頼んでないし!
そんな紙もらうなんて思わないし!
「前にも言ったけど、隙だらけってこと」
「ど、どうやって隙を無くしたらいいのよっ」
何を意識したらいいわけ!?
「これは私が火炙りにしとくから戻っていいぞ。あ、ここで飲んでもいいし」
「…戻ります」
火炙り…。
本当にしそう…。
ライターある?って忍に聞いてるし、あるよってタバコ吸わないのに忍も持ってるし…。
「…大丈夫だった?」
「…連絡先は火炙りにするらしいです…」
「相当お怒り…?」
「あ、いえ、怒ってるというより不貞腐れてる感じです」
カルピスサワーを飲み、小さく息を零す。
「でも、まだ飲ませてもらってるだけ良い方ですよ」
「そ、そうなの?」
「前に勤めてた会社の送別会では、一時間後に迎えに来て強制送還されました…」
まだセクハラを受ける前の、初めての送別会。
私自身まだお酒飲んだことなかったから、なんかちょっと怖くてソフトドリンクを飲んでたのにも関わらず。
“帰るぞ”
“え!?もう!?まだ始まったばかりだけど!”
“もう一時間も経ってる。十分食ったろ”
“まだ食べてないってば…!千速…!”
手を掴まれ、私の荷物を持って退店…。
次の日、みんなから“束縛大丈夫だった…?”と心配された…。
まぁ…嫌ではないからなぁ、というね。
私もなかなかよね。
千速に束縛されるなら嬉しいし、嫉妬も嬉しい。
監禁だってニヤニヤしちゃいそう。
…なかなかよね、本当。
「一時間…」
「そうです。なので、こうして飲ませてもらえてるだけまだ良い方なんです」
そこにいるから、というのもあるけど。
「でも羨ましいわ。そこまで愛し合ってる仲ってことだものね」
「…っこ、言葉にされると恥ずかしいですが…っ」
グラスに口付け、烏龍茶を飲み干した。
次注文しようかなぁ…と思って、またチラッと千速を見ると。
「……」
首を横に振っていた。
もうダメだって…。
「…お酒はまだ2杯しか飲んでないのに…」
「前に悪酔いでもしたことあるんじゃないの?萩原警部補の言うことを聞いておいたほうがいいわよ?」
そうなんだけど…。
「カルアミルクお願いしまーす」
頼んじゃお!
「っ蒼月さん…!」
「大丈夫です!この一杯で最後にしますから!」
すごい千速の視線を感じるけど、極力見ないように…。
ブーッ
「ん?」
スマホにメッセージが来た。
“いい加減にしろ”
千速から、お叱りの…。
「……」
“もう一杯!これで最後にするから!”
“だから絶対に飲むって言っただろお前は”
“やめときなー、まーた脱ぎ出すから”
“脱ぎません!絶対!”
“まったく。それで最後だぞ”
“ありがと!大好き!”
“私は愛してるー”
“おい忍!私より先に言うな!私のが好きだからな!”
“そこは愛してるって言えない恥ずかしがり屋な千速ちゃん”
ここから返事がないから千速たちを見ると、千速が真っ赤な顔で直接忍に文句を言ってて笑っちゃった。
「ふふ、可愛いなぁもう」
「ニヤニヤしてるわよ、蒼月さん」
「はっ!す、すみません…っ」
メッセージのやり取りをしてたらどうやらニヤケてたみたいで、田中さんに笑われた。
「お待たせしました、カルアミルクです」
「ありがとうございます」
さっきメモをくれた店員さんが持ってきてくれて。
「あ、あの…メモ見てくれました…?」
コソッと話をかけてきた。
「え、えーっと…」
千速へ視線を巡らせれば、千速は忍と話しててこっちを見てなくて。
「すみません、私恋人いますので」
店員さんへお断りの返事をすると、店員さんはきょとん顔から徐々に眉間に皺が寄ってきて。
「……いや…知らんし…」
小さな呟きと共に。
「え?」
いきなり手を掴まれて。
「…ちょっと来てください」
引っ張られ、その拍子にカルアミルクが波々と入ったグラスがテーブルから落ちてしまい私に全部掛かった。
「や…ッ!待ってなになになに!?!?」
「「…ッ!?」」
私の大きな声で千速と忍が気付き、すぐに立ち上がって走ってきた。
「蒼月さんッ!!」
千速たちより早く田中さんに抱き寄せられ、庇ってくれて。
「ッ冬華!!」
「萩原警部補!蒼月さんを…!」
「…ッ」
田中さんから私を受け取り、千速が強く抱き締めてくれた。
「ッてめ「千速、騒ぎ立てたらダメだよ」……ッ」
忍も傍に居てくれて、私と千速、店員さんの間に立った。
あの夜の出来事が。
フラッシュバックする。
“ 冬華さん、今日遅いんだね”
“!■■さん、お疲れ様です。このファイルの整理してから退勤します”
あの夜。
私が少し残業していた時。
“…この後、何か予定あるのかい?”
“はい、恋人さんも一緒に久しぶりに友人たちと飲みます”
“……恋人?”
“?はい”
“………恋人いるのか、君は”
“は、はい…いますが何か “どこまで進んでるんだい?”
何を聞かれてるのかわからず、振り返った瞬間だった。
“ッ!?ちょっ…ッとま…ッ!!■■さんッ!?”
社長令息に、手首を掴まれデスクへと押し倒された。
あの夜のことを。
思い出して「冬華ッ!」
「…ッ!」
フラッシュバックから、千速に呼び戻される。
千速の顔を見上げる。
千速だ。
千速が、いる。
千速の顔を見た途端。
「…ち…は…」
体が震え出して、恐怖に支配された。
どうしよう怖い。
怖くて怖くてたまらない。
「っすまない…冬華…ごめんな…ごめん…っ」
気付くのが遅れた、と。
千速は何度も謝ってきた。
「離せよ!!俺は別に変なことしようとなんてしてねぇよ!!」
「喧しい。腕を掴んで引っ張っただけでアウトだアホ」
「暴行未遂により、現行犯逮捕する」
店員さんは、すぐに総務課の皆さんに取り押さえられて。
「!千速、ちょっと冬華連れて外出よ」
「あぁ、わかった」
居合わせたお客さんたちが、一斉にスマホを取り出して。
それを察して、動画に映る前にすぐに外へ連れ出してくれた。
どうしよう。
震えが止まらない。
どうしよう。
「冬華、大丈夫だ。大丈夫だから」
店の裏側。
人目に付かない場所で、千速が抱き締め続けてくれた。
背中を摩り、大丈夫だって優しい声で。
「…っご、ごめ「謝らなくていいんだ。お前は何も悪くない」
私、悪くないの?
だ、だって。
だって飲み会に来なければ。
こんなことには。
「警察、すぐ来てくれるって」
「ああ、すまんな忍」
「んーん」
忍も通報してくれたようで、周りの様子を見ててくれて。
「千速」
「ん」
人が来そうな時は手を払い、もっと奥へと合図してくれた。
「ち、ちは…千速…っ」
「うん」
「ちはや…っ」
「あぁ、ここに居る」
震えが治らない。
“ッや…ッ!やめ…っやめて…ッくださ…ッ!!やだぁ…っ!”
“っいいのか?拒否すれば君の立場も悪くなるんだよ?”
“嫌…ッ離して…ッお願い触らないでぇ…ッ!”
ワイシャツを裂かれ、下着が露わになったあの時。
ああ、無理だ。
逃げられない。
このまま乱暴される。
助けて。
誰か。
誰か…。
…千速。
千速、助けて。
お願い…。
「冬華、私を見ろ」
「…っ!」
またフラッシュバックから、戻されて。
千速は私の両頬に手を添え、真っ直ぐ私を見てくれた。
「思い出すな。大丈夫だ。私だけを見てるんだ」
「…千速…っ」
千速だけを、見る。
優しい瞳。
優しい声。
愛しい温もり。
少しずつ。
体の震えが治ってきた。
「あ、横溝さん来たから説明してくるね」
「頼む」
忍がお店に戻り、対応してくれた。
「冬華、事情聴取があるが出来そうか?出来なさそうならさせない」
させないなんてことは出来ないだろうけど、きっと横溝さんならわかってくれる。
「だ、大丈夫…千速…が…傍に居てくれるなら…」
「あぁ、ずっと傍にいる」
少し落ち着いたのがわかってか、頬から手を離してまた抱き締めてくれた。
「千速、冬華、横溝さんが話したいって」
「どうだ?冬華」
「……っ」
横溝さんが、視界に入る。
あ、無理だ。
無理だ。
また体が震え出す。
怖い。
今は。
男の人が怖くてたまらない。
迷子になった時、横溝さんに肩に触れられた時は大丈夫だったから。
総務課でも、男性の職員さんがたくさんいる中で仕事が出来たから。
もう克服したと思ってたのに。
「無理だ、忍」
「わかった、伝えてくる」
忍はまた横溝さんに伝えに行ってくれて、チラッと私たちを見て頭を下げた。
申し訳ない。
本当に申し訳ない。
「…っちは…っ」
「あぁ、どした?」
田中さんにも謝りたい。
せっかくの送別会を台無しにしてごめんなさいって。
謝りたい。
でも、言葉が出てこなくなった。
「…っ、っ」
話そうとしても、声が出ない。
「…っちは…ゃ…っ」
千速の名前。
一番好きな言葉しか声に出来ない。
「…うん…私はここにいるよ…冬華…」
千速の、泣きそうな声。
ああ、私。
また千速にそんな表情をさせてる。
また私、千速を悲しませてる。
なんで。
なんで私ばっかりこんな目に。
なんで。
どうして。
「冬華の荷物は後で届けるから、冬華を連れて帰ってあげて、千速」
「ありがとう忍」
私はただ。
私はただ普通に。
普通に千速と生きて行きたいだけなのに。
「…帰ろう、冬華。一番安心する私たちの家に…」
優しい、千速の眼差し。
悲しい、千速の声色。
「バイク、乗れるか?タクシーで帰る?」
「……っ」
バイクは千速に掴まってられるから、バイクを指す。
「ん。ヘルメットを」
千速にヘルメットを被せてもらい、バイクに跨り千速に抱き着く。
トクントクンと、少し早い千速の心音が心地良くて。
冷たい風と暖かい千速の温もりで、ようやく心が落ち着いてきて。
「寒くないか?もうすぐ着くからな」
「……ん…」
さらに強く、抱き締めた。
ごめんね。
ごめんね千速。
まだ勤めて間もないのに。
こんなことになって。
本当にごめんなさい。
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