pixiv作品 名探偵コナン
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「蒼月警視!」
「!萩原、これから巡回か?」
冬華さん、退院翌日。
神奈川県警 本部の廊下で立ち止まっている冬華さんを発見した。
たった五日間だったが、神奈川県警に冬華さんが居ない違和感が半端なくて、寂しくて。
ようやく戻ってきた時のこのしっくり来る感じがたまらなく良い。
ちなみに退院一発目はラーメンと決めていたが、退院が早すぎて傷も癒えてないため、啜るのはまだ無理ということで抜糸後になった。
「そうだよ。冬華さんは?」
「私は本部長へ報告をな」
で、だ。
冬華さんはどこか疲れている様子だ。
「どうした?大丈夫なのか?」
無理はしない約束なのにまさか無理をしてるんじゃないだろうな?
「大丈夫だが…」
壁に手を付き、軽く息を吐き出して。
「たったの五日間しか入院していなかったのに、予想外に体力がなくなってて笑ってしまうよ」
肩を竦め、小さくはにかんだ。
県警の長い廊下が疲れるようだった。
「無理もないだろ。エネルギーがかなり消費されてんだよ」
撃たれたことと、傷を治そうとする細胞?的な?あれにエネルギーを持って行かれてるんだろうな。
「抜糸が終わったら、ジムにでも通うかな」
「ジム?」
「体力を戻すためのな」
…下着みたいな服装でランニングマシン走るのか?
「絶対的にダメだ」
「お前はすぐ変な想像をするな」
冬華さんが呆れてため息を零した時。
「っ蒼月警視!」
刑事課の奴が走ってきて。
「なんだ、なにか「これっ!伊豆に行った時のお土産です!よかったらどうぞ!」
菓子折りを渡してきた。
冬華さんは菓子折りとそいつを交互に見て。
「え、箱ごと?」
刑事課の奴らへの土産ではなさそうで、箱ごと○○さんへっぽい。
「は、はい!刑事課のみんなにはまた別に買ってもう渡してますので!」
では!と、走り去って行った。
「…あ、礼を言い忘れた…」
「中身なに?」
「クッキーみたいだ」
「美味そう」
執務室行った時に食おうっと。
「あとで礼を言わないと…」
その菓子折りを傍に抱えた時。
「あ、いた!蒼月警視!」
また刑事課の奴が走ってきて。
「これ!うちの実家で採れたやつですっ!お裾分けしますね!では!」
「っちょっと待ってくれ!さすがに」
言い終える前に、走り去って行った。
「持つよ」
「あ、すまん…」
私が受け取ったのはスイカ。
「スイカを神奈川県警に持ってくるとはなかなかの強者だな」
このスイカも美味そうだ。
と。
「蒼月警視ー!!」
刑事課の奴が走ってきて。
「こ、これ…!母が送ってくれたお野菜ですっ!食べきれないのでよかったら…!」
野菜詰め合わせの袋を渡されて。
「い、いや待っ「では!失礼しますっ!」
走り去って行った。
「私は野菜は食いたくない」
「食わす」
冬華さんはもらったものを順番に見て。
「なんだ、急に。どうしたんだ…あいつら…」
こんなこと今までにないと戸惑いを見せていた。
だから私は。
「あんたは畏怖以上に、憧れと尊敬を抱く奴らが多いってことだよ」
クツクツ笑った。
前までの冬華さんは言い方もキツいし、笑みを零すこともない“鬼警視”だった。
“鉄の女”とか言ってる奴もいたが、それらを言っている奴らは刑事課以外の人間で。
私を含め、当時の私たちは冬華さんをわかってはいなかったから。
だがこうして冬華さんと交際し、冬華さんを近くで見て行くうちに。
ああ、この人の奥底には“如何なる理由があっても、たとえ嫌われても部下の命は必ず守る”という一つの強い信念があって。
それ故に、厳しくなってるんだとわかった。
犯罪者に容赦ないのも、被害者を想う気持ちから。
命令は絶対。
だが、“時として従ってはならない場合がある”
それが、命を、自分を守るための行動の時。
命令に従うだけの奴はつまらない、と。
そう考えているのが冬華さんだから。
みんな付いて行くんだろうな。
この人になら命を預けてもいいという信頼が生まれるんだろう。
「…憧れと尊敬、か」
なんだか照れ臭いな、と冬華さんは小さく笑った。
「とりあえずこのスイカは刑事課で「え!?私も食いたいんだが!?」
まさか刑事課で分け合うのか!?
私も食いたいのに!?
「まだ帰らないし、どこに置いとくんだよ」
「冬華さんの執務室でいいだろ!」
「…スイカを、丸ごと?」
「そうだよ!忍誘って三人で食おう!」
冬華さんがもらったもんだし、私も食いたいし、忍に冬華さんを紹介する良いタイミングにもなるし!
「忍?ああ、お前の親友か。…まぁ…わかったよ」
「よし。だから野菜を刑事課で分けたらいい」
「野菜こそお前に食わす」
「嫌だって言ってる!」
「喧しい、好き嫌いは許さん」
冬華さんと一緒に執務室へ行って、机にもらったもんを置く。
ピッピッ、と音を立ててエアコンを起動させれば間も無く涼しい風が頬を撫でた。
「…警視総監がいらっしゃるのに、スイカがあると雰囲気が…」
「和んでいいだろ」
警視総監が来るのか。
見舞いにも来なかったあの野郎、まさか…異動と昇格と勲章授与の話をするために来るんじゃ…。
「記者会見などで忙しかっただろうし、その中で総監が私のお見舞いに来たらすっぱ抜かれちゃうから来なかったのよ」
どこに潜んでるかわからないマスコミ対策だったらしい。
「まぁそういうことにしといてやるよ」
「そういうことなの」
冬華さんはクスクスと笑いながら、さっきの菓子折りを開けた。
「美味しそうなクッキーよ。食べる?」
「食べる」
クッキーを一つもらい、袋を開けて食う。
「美味い」
「三種類の味があるみたい」
もう一つ、違う味の袋を開けて口に入れると。
コンコン
『横溝っす』
「入れ」
ガチャ
「失礼…って、千速も居たのか。…お前何食ってんだ?」
重悟が来た。
「冬華さんが刑事課の奴にもらった伊豆の土産」
「伊豆?…ああ、あいつか。警視の見舞いに行きたがってたんスよ、あいつ」
なんでスイカがここに?みたいな顔をしながらデスクに近づき、私の隣に立った。
「来ればよかっただろ」
何を躊躇する必要が?
「…あのな。警視という階級の人間に対して、みんながみんなお前みたいにフランクに話せるわけじゃねぇんだっつの」
要は高すぎる階級が仇となり、近づき難い存在になってるってことか。
「まぁお前は蒼月警視と交際してるからって言えばそれまでだがな」
重悟は肩を竦め、冬華さんに茶封筒を渡した。
冬華さんは苦笑を零し、茶封筒を受け取る。
「何の書類だ?」
「例の轢き逃げ事故のだよ」
ああ、あの少年の。
「それとパソコン件ですが」
「ああ、それは本部長に聞いたよ。古いのを譲ってくれると」
買う手間が省けた、と冬華さんは肩を竦めた。
「あとはスマホか。今日買いに行かないと不便だよな」
「確かに、警視とすぐ連絡が付かないのは不便すぎる」
「そうだな…買い替えたばかりのスマホだったが…仕方ないか…」
一つは爆破事件で吹っ飛び、一つは狙撃で貫通。
「次は水没と見た」
「やめろお前!次は絶対にない!大切にするよ!」
というか粗末に扱ったわけじゃないが、とジト目で睨んできた。
ケラケラ笑ってやり、クッキーをもう一つ。
「食う?美味いぞ」
「もらう」
冬華さん宛だが、私のでもあるので重悟にもやった。
「っつか、スイカとか野菜ももらったんすか?」
「ワーッてきて、ワーッて渡して行った。二人とも」
「…県警に持ってきたって困らせるだけなのにあいつらは…」
「いや、気にかけてくれてるということだから有難いよ」
野菜は千速に食わすがな、としつこい。
私は食いたくないと言っているのに。
「そうだ、警視の自宅の片付け、刑事課の奴らみんな行きたいそうっすよ」
「「は?」」
私と冬華さんはきょとん顔をし、見合わせた。
「な、なんでまた…というかお前ら手伝ってくれるつもりだったのか」
私は確定していたが、まさか重悟たち刑事課の奴らがな。
「今回の狙撃の件で、警視が死ぬかもしれないっつーのが奴ら結構怖かったようで」
退院したら積極的に関わろう、ということになったらしい。
「そ、そうか…有難いんだが…その…いいのだろうか…」
ここまで気を使われたことがないから、やはり戸惑っていて。
「いいんスよ。あいつら自ら行きたいっつってるので」
「だが全員で来るわけにはいかんだろ」
「あぁ、くじ引きでもさせるさ」
くじ引きにするほどのこと、なのか…。
重悟はチラッとクッキーを見て、一つ取って。
「では失礼します」
「あぁ」
「クッキー泥棒かお前は」
「味が三種類だから、実質一個だろ」
などと意味不明なことをほざき、執務室を出て行った。
「……」
「困惑してるな」
「そ、そりゃするでしょ。今までこんなことなかったんだから」
憧れや尊敬だとしても、近づき難さから畏怖もされていた人だからな。
だが今、みんな一歩ずつでも歩み寄ろうとしている。
総監を爆破事件から守った時も、きっと自慢だっただろう。
“自分らの警視の優秀さを見たか!”と、他の県警の奴らに自慢したいだろうな。
なぜわかるのか、だと?
私もしたいからに決まってるだろ。
うちの県警の警視、優秀だろ?
私の恋人なんだぞ?
羨ましいだろって言いふらしたい。
「さて、千速。そろそろ警視総監がいらっしゃるから」
「あぁ、わかった。私も巡回へ行ってくる」
クッキーを一つ頬張って、もう一つ手に取ってから。
「もらった私より食べてるわね」
「美味いクッキーだからな」
執務室を出た。
昼が過ぎた頃、巡回を終えてヘルメットを脇に抱えて冬華さんの執務室へ向かう。
「まだいるよな」
今日は午前中で帰るはずだが、きっと私が戻るまで待っててくれてるはず。
さっきのクッキー、まだあるかな。
「あれ美味かった」
確か伊豆の土産だと言っていたが、もし行く機会が…。
「……あるか?そんな機会」
冬華さんは忙しくなるから無理だし、でも忍となら休暇を取って行けそうか。
忍となら冬華さんも許してくれそうだし、いいか。
「ん?」
冬華さんの執務室へ向かう途中、前方から歩いてくる人間がいた。
「……、、!」
ジッと見つめ、ハッと気付き端に寄ってヘルメットで顔を隠した。
…やばい。
警視総監だ。
まだ居たのかよ。
何とか通り過ぎようとしたんだが。
「いやいや、白バイ隊の制服だしここは県警本部だから私相手に他人のふりは通じないよ?」
…声をかけられた…。
「…お疲れ様です、警視総監」
小さくため息を零し、警視総監に敬礼をする。
「ご苦労様だね。萩原君」
…私の名前知ってんのか。
てっきり下っ端の名前も顔も知らないと思っていた。
「君が蒼月君の恋人だってことは私と警察長も認知してるからね」
エスパーかよこの人…。
しかも警察トップの警察長まで…。
あの人凄すぎないか…。
「…そ、そうですか。恐縮です…」
カツンと足音を立てて私へ歩み寄ってきた。
…冬華さんとこ行くんだからさっさと帰れよな。
「君のせいだ」
「……は、い?」
突然、何か知らんが私のせいにされた。
「君が居なければ、全て上手くいったんだ」
「……は、はぁ…それは…すみません…」
「いや、何がだよって怒らないのかい?」
警視総監相手にそんな軽口叩けるか!!
「はっはっ。彼女から君の話を聞くに、上官を恐れず命令に従わない面白い奴、って言っていたんだが」
あの人総監に私の話をするのか。
しかも命令に従わないって、総監にチクるんじゃねぇよまったく。
「今日はね、蒼月君のお見舞い兼 退院祝いで辞令を持ってきたんだ」
辞令。
ついに来た。
やっぱり来た。
……。
…はぁ…来たのか…。
「警視庁への栄転、そして勲章授与だ」
わかってるよ。
あの人はそれだけの功績を残しているから。
「これは命令だから、従わなければならないことなんだ。わかるだろう?」
「…はい、わかります」
まどろっこしいな。
さっさと本題言ってさっさと帰ってくれ。
……ん?
“君が居なければ、全て上手くいったんだ”
え?
「気付いたかね」
総監はクツクツと笑って。
「命令なのに、異動も昇格も勲章授与も見事なまでに全部断られたよ」
茶封筒を見せてきた。
「あ…え…?冬華さ…蒼月警視が…ですか…?」
冬華さんへの辞令が記載されているだろう書類が入っている茶封筒を。
「そうだよ」
嘘だ。
嘘だろ?
仕事の鬼の冬華さんが、辞令を拒否?
「昇格は“今以上に忙しくなるとプライベートが持てなくなる”、勲章授与に至っては“いらない”だってさ。栄誉なものをいらないだって。彼女らしいだろう?」
“プライベートが持てなくなる”は、私との時間がなくなるからってこと?
勲章は、当然のことをしたまでだと思ってか?
そ、そんな…。
そんな…夢じゃないのか…?
「異動拒否の理由については、仕事上の都合でも身体的な都合でもなくて」
真っ直ぐ私を見据えて。
「“どうしても離れたくない人がいる”という私情だった」
肩を竦めた。
「……ッ!!」
冬華さんが口にした。
“どうしても離れたくない人”
ドクン、と。
大きく。
今までにないくらい大きく心臓が脈打った。
警視総監相手に。
私情で、異動も昇格も断った。
「その離れたくない人ごと異動は?と聞いたら、彼女は何と言ったと思う?」
総監は目を細め、問いかけてきた。
「…そ…れは…」
そ、そんなの。
そんなのわからない。
わからないから。
わからないから早く教えてくれ。
「“嘘みたいに綺麗な子だから、人の多い東京へ連れて行きたくない”だそうだ」
君を見て納得したよ、と。
総監は笑い、ポンと私の肩に手を置いて。
「しつこく言って彼女に退職されても困るから、大人しく引き下がるとするさ。まぁこれからも警視庁へ呼びまくるが、それは勘弁してくれ」
総監は片手を上げて、去って行った。
「……ッ、ッ」
ヘルメットを落とし、口を押さえて蹲る。
“どうしても離れたくない人がいる”
警視総監の言葉が脳内で繰り返される。
仕事の鬼である冬華さんが。
仕事の都合や身体的な都合じゃなくて。
私と離れたくないから。
私を他の知らん奴の目に入れたくないから。
警視総監の命令より。
仕事より。
使命より。
責任よりも。
…何よりも。
何よりも私を優先してくれた。
「……っは…っはぁ…っ」
息が苦しい。
ドキドキと速い心音が、周りにも聞こえてしまうかもしれない。
じゃあ冬華さんは、異動しないでずっと神奈川にいるってことだよな?
ここの勤務だってことだよな?
じゃあ。
じゃあ……このまま私の家に……?
「……ど…同棲…って…こと…?」
……ッッ
やばい。
やばすぎる。
苦しい。
心臓が破裂する。
「……ッ」
私は口を押さえながら、チラリと無造作に転がっているヘルメットへ視線を移して。
「…ッ」
ガッと掴んで、走った。
バンッ
「冬華さん!!!」
冬華さんの執務室のドアを思いっきり開けて。
「ッッ!び…っくりした…っッだからドアはそんな思いっきり開けるなって言ったでしょ…っ!」
飛び上がるくらい驚いている冬華さん目掛けて、またヘルメットを落としてまた走る。
「ッ待って待って待って!!と、止ま…ッぃ゙だ…ッちょっと…っ千速…っ」
勢いを殺さず抱き着いて、強く抱き締めた。
「…ッッ千速…っちょっと痛いって…っ!」
「我慢しろ!今は我慢してくれ!」
強く抱き締めるのは良くないのはわかってる。
でも無理だ。
抱き締めずにはいられない。
居られるわけがない。
「ど、どうしたのよ突然…何があったの?」
冬華さんは責めず、ポンポンと背中を撫でてくれた。
「……っそこで警視総監に会った…!」
冷めない興奮。
貴女が私を選んでくれた喜びは、きっと私にしかわからない。
「…あー…聞いちゃった?」
「聞いたッ!っつか総監から話してきたんだ!」
ウリウリと冬華さんの胸に顔を押し当てる。
冬華さんの心音も僅かに速い気がした。
「ふふ、“彼女のせいかー、まったく”とショックを受けていたわ」
「…ッ」
冬華さんを見上げると、冬華さんはとても優しい眼差しをしていて。
「私に命令拒否をさせたのは千速なんだから、責任取ってもらうからね?」
捨てたら恨むから、と笑った。
「誰が捨てるか馬鹿野郎…!私こそ離れてやらんからな!覚悟しとけ!」
別れるなんて選択肢は疾うにない。
死ぬまで離れないし、死んだって離れてやらん。
だから、死ぬ時は一緒に往く。
研二や陣平、残してしまった忍には叱られかもしれんが。
もう知らん!
怒りたきゃ怒れ!
「えぇ、覚悟しとくから離れないでよ?」
「っ当たりまえ––––
だ、とは、口を塞がれて続けられなかった。
「…っ冬華さん…」
泣きそうだ。
嬉しくて泣きそうだ。
「…それで、あのね…?千速…物凄く良い雰囲気なとこ悪いけど…ちょっと力緩めてくれない…?痛くて泣きそう…」
冬華さんは別の意味で泣きそうだった…。
「っす、すまん!つい…」
バッと離れ、一歩下がる。
「…だ、大丈夫かな…傷開いてないか…?」
「大丈夫よ。病院の外で縋り付かれた時よりは痛くなかったから」
あれは地獄だった、と顔を真っ青にさせた。
よかった。
「!…、、」
冬華さんは私の頬に手を添えたから、自分の手を重ねて擦り寄せる。
「ふふ、可愛いなぁ」
ああ、愛おしい。
愛おしすぎる。
「じゃあそろそろ私、刑事課に顔を出して先に帰るわね」
まだ居てほしいのに、そろそろ帰ると言い出した。
…まぁ午前中までとは言っていたしな。
無理をして部下に迷惑かけられないしな。
「………」
だが私はまだ仕事だし、先に帰られるのは面白くない。
「おかえりーってエプロン付けて出迎えてあげるから、そんな顔しないの。ね?」
前・言・撤・回!!!
「わかった!絶対に定時で上がるからな!」
冬華さんの、エプロン付けておかえりーはヤバすぎる!
絶対にしてほしいランキング5位以内に入るほどのイベントだ!
そうして、冬華さんを入り口まで送って。
「それじゃ、待ってるから頑張ってね」
「おう!」
スイカと野菜を後部座席に積み、冬華さんは車に乗り込んだ。
「あ、スマホ買ってから帰らないと」
「私が帰るまでは誰も登録するなよ?」
「はいはい、わかってますよ!」
一番は私だからな!
ニッと笑い合い、冬華さんは帰って行った。
冬華さんの車が見えなくなるまで見送る。
「…“どうしても離れたくない人”…か」
だめだ、ニヤける。
嬉しくて仕方ない。
だって、あの人がだぞ?
あの仕事の鬼が、私情を出して異動と昇格と勲章授与を断ったんだぞ?
ニヤけないなんて無理だろ。
「何ニヤニヤしてんだ」
「!重悟か。また何か用か?」
中に戻れば、重悟がいて。
「蒼月警視、帰っちまったか?」
「あぁ、今帰ったがどうした?」
「刑事課の奴から、これ警視にってよ」
また菓子折りを渡された。
「伊豆?」
「沖縄だ」
沖縄なら、ちんすこうかな。
「お前が開けんな」
「私のみたいなもんだろ」
やっぱりちんすこうだ。
「食う?」
「食う」
重悟もちんすこうを食った。
「よかったな」
「……何がだよ」
「警視、ここに残るんだってよ」
わかってるよ、警視総監から聞いたからな。
「仕事の鬼だった警視が、私情を出すなんて」
明日から槍が降り続くぞ、と重悟は笑う。
「甘くなったよな、あの人」
私は重悟ほど冬華さんを見ていなかったが、怒鳴られてる奴とかもいたのは知ってる。
相当厳しい人だったんだろうな。
私も初めて声をかけられた時はビビったもんだ。
なんて思っていたら。
「…お前だよ」
「?私が、なんだよ」
重悟は横目で私を見て。
「お前があの人を甘くして、人間らしくしたんだよ」
ポン、と肩に手を置いた。
「……私が…?」
きょとんと重悟を見上げる。
「そう、お前が」
冬華さんを、甘くした。
…あの人が甘くなった理由が、私だったらいいのにと願っていた。
あの人の中で、私の存在が大きければ大きいほどいいのに、と。
そう願っていたんだ。
「…あー…」
重悟に背中を向けて、空を見る。
「見ろよ重悟、良い天気だぞ」
「…ああ?雨降ってんじゃねぇ?」
ケラケラと笑う声が聞こえてくる。
「まだ降ってねぇよ」
「まだ、か。そうか」
重悟はちんすこうをもう一つ取って。
「口ん中の水分なくなったから飲みもん買いに行くわ。じゃあな」
「食い過ぎだっつの。あぁ、またな」
刑事課へと戻って行った。
「…はー…」
こんなに。
こんなに誰を好きになることってあるんだな。
離れたくない。
離したくない。
傍に居たい。
傍に居て欲しい。
ずっと見て居たい。
ずっと見て居て欲しい。
そんな感情ばかり溢れてくることってあるんだな。
袖で目を擦って。
「…ッはぁ…ッ!…よし」
グッと背中を伸ばしながら息を吸い、大きく吐き出す。
「…絶対に定時で帰る」
待ってるから、あの人が。
エプロン付けて、待ってるから。
…それから。
「…おい重悟、なんだよそれ…」
「!戻ったか、千速。警視への菓子折りだ」
夕方、巡回から帰って来れば。
重悟が私のデスクに菓子折りの山を乗せていた。
「刑事課の連中、旅行行き過ぎだろ」
「刑事課じゃなくて他の部署からだよ。刑事課に持って来られたが警視は帰っちまったからな」
だからお前が持って帰ってくれ、と。
他の部署かららしいが…。
「いや、バイクの私にどうやって持って帰れと?」
山積みにされた菓子折りを見つめ、重悟へ視線を戻して。
「お前、刑事課として手伝え」
「言われると思った」
ということで。
「おかえ……え、横溝…?どうし…ぅ〜…ぁ〜…」
「口調が迷子になってる…」
重悟に手伝わせて帰宅すれば、出迎えてくれた冬華さんは突然の重悟の存在に口調を迷子にさせていた。
「もういいっすよ。本当は女口調なの知ってるし」
「忘れろと言ったはずだぞ!」
「忘れられるか!」
本当は嫌だが、重悟は冬華さんが全信頼を寄せる奴だから…仕方ないか…。
「だがまぁ…嫌だけど…まぁ…いいよもう…重悟には…嫌だけど…」
「すごく嫌そうだな」
「ふふ、ありがと!はー!すごい楽ー!」
「…警視ってそんな明るかったんすね」
「え どういう意味で?」
重悟と、あとは忍の前でも女口調であることを許そう。
忍は私が全信頼を置く親友だからな。
「というか、なに?その菓子折りの山は」
「全部冬華さんにってもらったんだよ」
「……横溝、消費手伝ってくれる?」
「うい」
重悟にも菓子折りの消費を手伝わせた上に、なんぼか包んでやって。
「え、美味いんだが」
「あぁ、美味いな」
「おかわりあるわよ?」
「「おかわり!」」
野菜スープも、スイカも半分食って行った。
野菜は嫌だったが、冬華さんが作った野菜スープは美味すぎて。
「また食いに来ます」
「おい「えぇ、いつでもいらっしゃいな」
勝手に約束を取り付けていた。
「美味しかった?」
「美味すぎた。私もまた食いたい」
「ふふ、また作ってあげるわ」
こんなに美味いなら、野菜も悪くないな。
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