pixiv作品 名探偵コナン
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「す、好きです…!よかったら付き合ってくださいっ!」
「…よくないのですみません」
入院生活、四日目。
今日、この看護師で三人目。
私に告白をしてきたのは。
千速が毎日毎日来ているのに、恋人だと思わないのかしら。
捲るな触るなで、千速に結構文句言われてるだろうに。
「すみませんでした…っ」
今断った看護師も、泣きながら病室を出て行った。
「…はぁ…面倒くさい…」
英理やユキにも言われるけど、誰かもわからない人の好意ほど面倒なものはない。
“断るにも言い方を考えなさい”
と英理に叱られて。
“不機嫌オーラ全開よ?笑顔 笑顔!”
“笑ってられるか”
ユキにはケラケラ笑われた。
“はっ、良いご身分だなぁ冬華”
“あ゙?なんだ毛利、羨ましいならそう言え。喜んで代わってやるぞ”
“誰がだ!”
毛利には絡まれて。
“英理、毛利にちゃんと口輪付けとけ”
“っばか…!”
なんてやり取りもした。
告白をしてきた人たちに対し、良い態度を取っていたわけでもなく。
むしろ嫌われてもおかしくない態度だったのにも関わらず。
悪い噂どころか、誰が先に落とすかで競われてるのも噂で聞いた。
好かれる理由もないのに“好きだ”と言われて。
“わたしっ!諦めませんから…!”
後輩からは何度も言われた言葉で、何度も告白をされた。
鬱陶しすぎて。
“…頼むから諦めてくれ…”
と言ったって諦めてくれず。
“お前いい加減付き合ってやれよなぁ”
“試しに付き合ってみたら?好きになるかもよ?”
“罪な奴だよお前は”
同級生からはそう言われ続けた。
「…私みたいなののどこが良いのかしら」
別に笑いかけるわけでもない、話しかけるわけでもないのに。
ああ。
「…苛々する」
断れば泣かれて、私が悪いみたいな雰囲気に苛々してくる。
「はー…千速ー…」
会いたすぎる。
こんな苛立つ気持ちを解消出来るのは千速しかいない。
「まだ来ないわよねぇ…」
真面目に仕事をしてるのかすら怪しいけどね。
「…どこか散歩でも行こうかな」
ここに居たら、また用もないのに看護師が来るかもしれない。
「…つ…っ」
私はベッドから降りて。
「…っ重力…っ」
手術した箇所を押さえながら、点滴スタンドを掴んで。
「…旅に出よっと…」
病院内を散歩することにした。
病室から顔を出し、周りを見回して。
「…いたぁ…早く痛み取れてほしい…」
まだ歩いていい許可は下りてないけど、歩かないと治るものも治らないしね…。
「はー…痛すぎる…」
病院敷地内である外。
カラカラと点滴スタンドを持って歩く。
「ぅ…ぃ゙…ぁ゙…」
…一歩踏み出す度に唸り声が出る。
けど、こればかりは仕方ない。
「…これどうやって戻るの?」
こんな痛くて、また歩いて戻らないとダメなの?
誰よ、旅に出よって言った奴。
「……」
痛みで眉間に皺を寄せながら歩いていたら。
車椅子に乗った少年が居て。
私は周りを見て、もう一度少年を見る。
どうやら私を見ているみたい。
「こんにちは」
挨拶をしてみる。
「おう」
はい生意気ー。
生意気な小僧に認定しました。
これだから子供は苦手。
「少年、挨拶はキチンと返せと教わらなかったか?」
でも、ニコリと笑って注意すると。
「教わってませーん」
ベッ、と舌を出してきた。
ゲンコツしてもいいかなー?
いいかなー?
キコキコと車椅子を動かし、私の前に来た。
「じゃあ両親は?親にくらい言われてるだろ」
「忙しくて滅多に来ないから知らね」
少年はどこか不貞腐れている感じで。
「では私が教えてやるよ。挨拶をされたならキチンと返せ。されずとも自分から声を出せるようになれ」
「めんどくせ」
はー。
ゲンコツしたいなー。
「…っ、ちょっとあそこのベンチまで行け」
近くにベンチがあったから、とりあえず座りたいと思って少年を先に行かせる。
「あんた、歩くのつらいのかよ」
「冬華だ。あんたじゃない」
「冬華、歩くのつらいのかよ」
「呼び捨てにすんな小僧こら」
いい加減腹が立つわよね。
「オレは湊っつーの」
クルッと車椅子を反転させて。
「点滴はオレが持ってやるから掴まって歩けよ」
車椅子のハンドルを握れと言ってきた。
あら。
生意気なクソガキかと思ったけど。
「ありがとう」
「おう」
意外と良い子みたいね。
掴まり歩き出来るだけ全然違う…。
「…ふぅ…助かった…」
ゆっくり歩き、ベンチに座る。
「痔?」
「ほざきやがれ。違うわ」
少年は悪戯にケラケラと笑う。
子供らしい笑顔に、私も小さく笑う。
「湊はなぜ入院を?」
「オレ、交通事故に遭ってさ」
「…交通事故?」
少年が膝掛けを取ると。
「…足が…」
左足の膝から下がなかった。
「うん。左足が自転車とガードレールに挟まっちまって、ダメになっちゃった」
「…そうか」
そんな大怪我を負う事故に…。
「しかもさ」
「ん?」
少年は眉間に皺を寄せて。
「逃げてんだぜ、そいつ。ムカつくよな」
なんとひき逃げに遭ったらしい。
「いつの話だ?それは」
私も眉間に皺を寄せて、問いかけると。
「一ヶ月くらい前かな。東京でさ。友達とチャリで行ったんだよ」
「また随分遠くまで行ったな」
「なんかノリで、行ってみようぜってなったんだ」
結構かかったでしょうに。
「そしたら事故って、気が付いたらこの病院にいたってわけ」
「なるほど」
あとで警視庁に電話してみようかしら。
「冬華は?」
「冬華“さん”な。私は五日前に撃たれたんだよ。銃で、パーンと」
撃たれた箇所を触りながら言うけど。
「そんなゲームじゃあるまいし」
信じてもらえない。
「ほんとほんと。狙撃されたんだ、ここ。スナイパーに」
クツクツ笑い、撃たれた箇所を指すと。
少年はきょとんとして、私の顔と私のお腹の傷を交互に見て。
「…その筋の「だから違うわ阿呆」
顔を真っ青にさせたけど、食い気味に否定しといた。
「私は「冬華さん!やっと見つけた!!」
私の言葉を遮ったのは。
「…千速。お前またサボったのか?」
千速だった。
「サボってねぇよ!もう昼だよ!」
「え」
時計を確認しようにもなくて。
「病室にいないし、院内探しまくったんだからな。昼食はもう持ってきてもらってるぞ」
と、千速は少年を見て。
「誰だこの少年は」
指を差せば。
「おい千速、指差すなって教わらなかったのか?」
私が“千速”と呼んだことにより、少年までもが千速を呼び捨てにして。
「あ゙?」
千速は生意気な少年の言葉に、コメカミに青筋を浮かばせた。
「なん「子供相手に本気になるな」
と言いつつ、私もさっき本気になったけど…。
「手を貸してくれ」
「ん」
千速の手を借りて、立ち上がる。
「湊、なかなかに楽しい時間だったよ」
少年を横目で見て、小さく笑うと。
「…おう。オレも楽しかったよ」
少年はほんのり頬を赤らめて、ニッと笑った。
「じゃあな」
「うん。痔早く治せよな」
「え、痔「誰が痔だと言った。生意気な小僧め」
「へへ、またな」
そうして私は、少年と別れた。
「…痔な「そんなわけないでしょ?あのガキはまったく…」
千速がしばらく信じちゃって、誤解を解くのが大変だったわよ…。
「…はぁ…はぁ…」
「…そんな歩くのつらいのに出歩くな」
やっとの思いで病室へ戻った。
出歩いたにはわけがあるんだけど、それを言うと怒るだろうし…。
「少しは歩かないとダメでしょ」
「まだ医師からの許可が下りてないだろ」
千速はお弁当買ってきたようで、ガサガサと袋から取り出してベッドの横にある机に置いて。
ヘルメットは私のベッドの上にあって、それを避けてもう一つの椅子の上に置いた。
「うどん?」
「ん?ああ、私だけ普通の食べるわけにもいかんからな」
お昼に流動食を食べる私に合わせて、千速もうどんを買ってきたみたいで。
「私に合わせなくてもいいのよ?好きなの食べて」
私は箸を取り、うどんを食べる。
「うどんも好きだぞ私は。だから無理して合わせてるわけじゃない」
「そう?…ならいいけど…」
こうした気遣いがちょっと嬉しい。
「あ、プリン買ってきた」
「わ!ありがと!」
今日はゼリーじゃなく、プリンを買ってきてくれたみたい。
久しぶりの甘いもので嬉しい。
「っつか、さっきのガキはなんだよ」
「散歩してたら会ったのよ。一ヶ月前に轢き逃げ事故で左足の膝から下を切断したんだって」
先ほどの少年について聞かれ簡単に説明をすれば、千速はきょとん顔をして。
「…そうなのか」
眉間に皺を寄せた。
「一ヶ月前に轢き逃げ事故なんてあったか?」
「東京でらしいわよ。お友達と自転車で行った時に遭ったらしいわ」
「…東京にチャリで?さすがガキンチョの行動力って感じだな」
千速はうどんの汁を飲んで。
「…また関わる気だろ」
ジト目で睨んできた。
「あ、わかる?ふふ、ちょっとスマホ貸して」
さすが、私のことをよくわかってるじゃない。
「まったく…警視庁の連中に任せときゃいいのに」
ぶちぶち文句を言いながら、千速はスマホを貸してくれて。
「これも何かの縁、でしょ?」
横溝に電話を掛ける。
『おう、千速。どうした』
「ああ、横溝。私だ。蒼月だが」
『ッ警視!?…すんません…千速かと思いまして…』
私だと知り、ちょっと焦ってる横溝。
「構わんよ。それより東京で一ヶ月前に轢き逃げ事故が発生してるらしく、湊という名の被害者の案件の資料を警視庁から取り寄せてもらえないだろうか」
『轢き逃げ事故?警視庁って、うちの管轄外なのにですか?』
「あぁ、ちょっと縁あって被害者の少年と会ってな」
『……』
私らしくない、と思ってるでしょうね。
『わかりました。警視庁へ連絡してみます』
「ああ、よろしく頼む」
と、通話を終えて、千速にスマホを返す。
「私らしくないなって思ったんじゃないかしら」
「思うだろうさ。前までのあんたなら命令がない限り自分から他県の案件には関わろうとしないだろ」
確かにね。
だって面倒くさいし。
コンコン
「「ん?」」
不意に病室のドアをノックされて。
「どうぞ」
中へ通すと。
「……っあ…!いえ…!すみません間違えました!」
看護師が入ってきて、千速の姿を見るや否や慌てて去って行った。
「「……」」
千速と顔を見合わせる。
「今のって」
「絶対に冬華さんに告白しにきたぞ、あれ」
…よね。
さすがに気付くわよ。
今は告白をされなかったけど、これで四度目よ?
…千速が帰ったらまた来るわよね。
「もう退院したい…」
「してほしいよ、私だって」
千速は頬を膨らませて、ベッドへ腰を掛けた。
「寂しい?」
「…っべ、別に…まぁ…その…さ、寂しい…というか…居ないと落ち着かないというか…っ」
ごにょごにょと濁してるけど、寂しいって思ってくれてるようで。
「ふふ、来て千速」
「…ん」
千速に手を伸ばすと、千速はその手に顔を近づけて。
千速の頬に触れ、私の方へと誘導して。
「ん」
キスをした。
少しだけ啄んで、千速の軽く唇を舐めてから離れる。
「あ、また口紅落ちた」
「…今日は持ってきてる」
ポケットから口紅を取り出したから。
「塗ってあげるわ」
「ん?うん」
千速から口紅を受け取り、ゆっくりと口紅を引く。
目を閉じてる千速。
本当、なんて整った顔をしてる子かしら。
こんな綺麗な顔立ちから、男勝りの言葉が出るって本当たまらないギャップよね。
「ん、よし」
「すまん」
口紅を塗ると、千速はまむまむと馴染ませて。
「キスしてもいい?」
「口紅直した直後に?」
二人で笑う。
「あ、ほら。そろそろ戻らないと」
「………はぁ…わかってるよ…」
ふふ、すごく嫌そう。
「今日はシャワーだから、手伝ってくれるんでしょ?」
「!あぁ、もちろん。というか当たり前というか、手伝いたい」
この個室にはシャワーまで付いてるから安心して委ねられる。
もちろん医師の許可済みよ。
「ビニールとテープ持ってきてね」
「ビニール…は、ビニール袋でもいいのか?」
ガーゼが濡れないようにしないといけないから、ビニールとテープが必要。
「えぇ、ガーゼが濡れなければ何でもいいわ」
「わかった。必ず持ってくる」
千速は立ち上がり、キスをしてくれて。
「じゃあ戻るよ」
「定時で上がるように」
「当然」
また笑い合い、千速は仕事へと戻って行った。
それから二時間くらい経った時。
「蒼月警視!」
「!横溝か。どうした?」
また旅に出ようと思って、病室を出れば横溝が来た。
「…医師の許可は下りてるんすか?」
「下りてないが、病室にばかり居たら気が滅入る」
腰をに手を当て、肩を竦める。
「何か用事か?あ、警視庁は轢き逃げ事故についてなんて?」
「なかなか目撃者が見つからず、結構苦労してるみたいです。“蒼月警視が関わってくれるのは有難い!”って言ってましたよ」
あの少年の轢き逃げ事故、結構厄介になってるな。
東京は車も多いし人も多いのに、目撃者がいないとは。
「んで、その少年の親も忙しくてなかなか調書取れないようで、息子が轢かれたというのにとんでもない親だと文句言ってました」
あの少年の不貞腐れたような、寂しそうな表情を思い出す。
「…手術費用に入院費、決して安くはないからな」
共働きで頑張って稼いでるのかもしれん。
「で、要件は?」
「あ、はい。これ、本部長から蒼月警視に渡してきてほしいと頼まれまして」
「本部長が?………見ないとダメかな…」
「気持ちはわかりますが…」
私はため息を零して受け取り、中を確認する。
「………」
文字を目で追って。
「…段々眉間に皺が…」
眉間に皺を寄せて、またため息を零す。
「…まぁ、事件ファイルを確認してほしいということだな」
「っつーことは、パソコンがないとダメっすよね」
「あぁ。しかし私のパソコンは奴らにバキバキにされてしまったから」
新しいパソコンを買うか、本部長のパソコンを借りるかでしか方法がない。
「本部長に連絡してみますか?」
「んー…」
面倒くさいわね…。
でもまぁ、暇だしいいか。
「そうだな。本部長に連絡をしてパソコンを借りれるか聞いてみてくれ」
「了解」
横溝はスマホを取り出して、本部長へ連絡をしてくれた。
そこに。
「蒼月警視!」
千速の声が聞こえてきて。
「!ちは……」
振り返れば、満面な笑みを浮かべてこちらに走ってきていた。
私は眉間に皺を寄せる。
「…お前、仕事はどうした?」
「巡回中だったんだが、重悟の姿が見えてな」
追ってきた!と言った。
横溝も本部長へ電話をしながら驚いていて。
「なんだよそれ。まさか入院中に仕事をする気か?」
「あぁ。本部長が手伝ってほしいらしい」
と、私は肩を竦めた。
「なんでお前がここにいるんだよ千速」
「お前の姿が見えたからな。二人きりにさせてたまるか」
ニヤニヤと笑いながら、肘で横溝の脇を突く。
「二人きりって…俺ぁ別に…」
「別に、なんだ?もしかしてお前…」
「横溝、本部長はなんて?」
二人の会話を止め、横溝に問いかける。
「あ、パソコン貸してくれるみたいす。取りに行ってきます」
「そうか。すまん。あ、ボールペンないか?書類にサインしないと」
「ありますよ、はい」
「ありがとう」
横溝からボールペンを受け取る。
「ん、書きやすいボールペンだな」
「そうすか?神奈川県警で支給されたやつですし、あげますよそれ」
「いいのか?すまんな」
横溝が使っていたボールペンが書きやすくてそう言ったら、神奈川県警で支給されたやつらしくくれた。
「おい千速、お前も行くぞ」
「え゙…私はまだいるよ」
ギュッと私の腕を掴んで、横溝をジト目で睨む。
「馬鹿野郎、お前 巡回「いいわよ。このまま私の散歩に付き合ってもらうわ」
私がニコリと笑むと、勝ち誇ったような笑みを横溝に向けて。
「…警視、甘やかしすぎじゃないすか」
「えー?恋人だもの。甘やかしたくなるじゃない?」
「そうだぞ重悟。それに冬華さんはまだ無理出来ないから補助が必要だろ」
横溝は私と交互に見て、私がクスリと笑うことでため息を零した。
「…わかったわかった。あんまり長居すんじゃねぇぞ?」
「おう。わかってるって」
そうして横溝は片手を上げて、神奈川県警へパソコンを取りに行ってくれた。
「ふー…じゃあさっそく行くわよ」
「うん。一応車椅子持ってくよ」
「あら、ありがと」
私の病室から車椅子を持ってきてくれて、私と並んで歩く。
「どこまで行く?」
「そうねぇ。屋上行ってみましょうか」
「開いてるかー?」
エレベーターまでゆっくりと歩き、最上階のボタンを押す。
「ねぇ、ヘルメットはどうしたの?」
「白バイのところに置いてきたよ」
「そう」
他愛のない会話をしながら。
「座るか?」
「んーん、大丈夫よ」
間も無く最上階に着き、またゆっくりと歩き出す。
「ぅ゙…あー…痛い…」
「階段上がれるか?」
「…はー…心の準備を…」
屋上へ続く階段も、一段一段上がって。
「ど?」
「開いてる!」
屋上に続く扉に鍵がかかってないことに、私たちはニヤリと笑って。
「おー、良い風だー」
「ほんとねー」
屋上に出た。
屋上には誰も居らず、私たちだけ。
「早く退院しないかな」
「まだ当分はねぇ…一回縫合し直しちゃったし」
あれで退院が数日延びたと思う。
「県警に冬華さんが居ないのが寂しすぎるんだよ」
「私が居ないからってサボってないでしょうね?」
「さ、サボってねぇよっ!」
「ならいいけどー?」
ジト目で睨むと、一瞬だけタジったわね。
屋上のフェンスの傍に立ち、広がる景色を見る。
「はー…面倒だなぁ…」
小さく呟く。
「何がだ?」
「んー?色々とね」
私の隣に立って。
「あら、なに?癒してくれるの?」
「…だ、誰もいないし…いいだろ…」
ギュッと私の入院着を握り、見上げてくる。
「キスしたい?」
「…し、したい…」
ほんのり頬を赤らめたから。
「仕方ないなぁ」
後頭部に手を回して、ライトブラウンの髪に指を絡ませる。
「…冬華さん」
お互いに顔を近づけて、そして。
「誰だお前」
グッと髪を掴み、引いた。
「ぐ…っ冬華さん!?」
大きく目を見開き、私を見ている。
“千速”に化けたそいつ。
「その顔、その声、その容姿は千速に似ているが、お前は千速ではない」
掴んだ髪を離さず、そいつを見下すように睨む。
「な、何言って…っ私だよ!!は、離してくれ…!」
苛々する。
いつまで千速になりすましたままでいるつもりなのか。
「…腹立たしい限りだな」
「…っ」
さらに髪を引き、上を向かせて。
「千速は、県警外で私を“蒼月警視”と呼ぶことはないんだよ」
そいつに放つ。
さらに、横溝に女口調で話した時の受け入れ方。
あれは横溝も不思議がっていた。
これはこいつに言わず、今後千速になりすますヒントを与えない。
「そしてヘルメット。あいつはヘルメットを白バイのところには置いてこない。盗まれたら大変だからな」
県警のロゴ入りと、通信機能、拡声器機能など。
幅広い機能を搭載したヘルメットを置いてくるはずがない。
「……」
すると、そいつは“演技”を止めて。
「だから、さっさと正体を現せ」
目を閉じ、薄く笑みを浮かべて。
「…あらあら、それは…」
千速の声でそう言って。
「…盲点だったわね」
ベリッと変装用の顔の皮を剥ぎ、正体を現した。
なりすましていたのは女。
じゃないと華奢な千速になり代われない。
容姿は、ウェーブかかった長いブロンドの髪。
青い瞳とすごく整っている顔。
…でも…どこかで見たことある顔。
それより、千速の姿と声を真似する技術、まるで有希子のよう。
ユキに聞いてみる?
同じような技術を持った知り合いがいるかどうか。
…いや、ダメだ。
もう英理もユキも巻き込めない。
「あなた、なかなか鋭いのね。てっきり騙されてると思ってたのに」
「ほざけ。お前が現れてから私はただの一度も“千速”と呼んでないぞ」
「あらま、それは気付かなかったわ」
そいつはクツクツと笑い、長い髪を払い風に靡かせた。
「…お前、何者だ?なぜ私の前に現れた?」
「さぁ?それはあなたがこれから調べたらいいんじゃないかしら」
私は眉間に皺を寄せる。
「まぁ調べたからといって、あなたたち日本の警察には解明出来ないけどね」
ああ、面倒くさい。
こういう回りくどい人間は本当に苛々する。
「そんな「だって、気付かなかったでしょ?」
気付かなかった?
「だからお前が千速では「ああ、違うわ。それじゃなくて」
それじゃなくてって、じゃあ何のことを言っているの?
「ほら、わかってない」
クスクスと笑うそいつに苛立ちが募る。
そいつは私の背後に回って。
「この怪我よ」
「…ッあ゙…っ」
手術場所を強めに押され、激痛が走った。
「■■警視長に撃たれたと思ってるんでしょ?」
「…っや、やめろ…っ!」
そいつの手を払おうとすれば、パッ離れて私の前に戻って。
「…っづ…ッ」
今度は前側の手術場所を指で押してきて。
「これ、私が狙撃したのよ?」
衝撃的な言葉を発した。
「…な…っに…っ?」
■■警視長の狙撃…じゃない…?
嘘。
嘘よ。
■■警視長は元SAT所属で…。
押収したライフルからは■■警視長の指紋だって検出されているのに?
自供だってしてるわ。
自分が撃ったって。
それなのに、違う?
そんなバカなことあるはずが…。
…けど。
仮に。
仮にこいつの言う通りでも。
「弾速も弾道も見誤るなど、その程度の技術だということだろ…!」
そうよ。
こいつの狙撃だったとしても、私が生きているってことはその程度の腕前だということ。
私が生きていることが何よりの証拠だわ。
「あは、面白いことを言うのね」
「…なんだと…」
そいつは一歩私から離れて。
「どうして見誤ったと思うの?」
問いかけてきた。
え?
え?
見誤ったんじゃ…ないの…?
「どうして敢えてそこを撃たれたと思わないの?」
…そいつは私を見据え、小さな笑みを浮かべて。
「そこを撃たれて死ねば、あなたはその程度の人間。でも生き残れば、まぁなかなか面白い人間って思って」
ゲームをしたの、と。
そいつは言った。
私、こいつのお遊びで生かされた?
ゲーム感覚で撃たれた?
そいつは目を細め、自分のコメカミを人差し指を当てて撃つ仕草をして。
「本来なら一発の弾丸であなたの頭を抜かなければならなかったのに、そうしなかったのはなぜだと思う?」
問いかけてきた。
「…なぜだ」
「ふふ」
また一歩、私へと近づき…。
「たった一人で私たちに近づいたあなたに、興味が出たから」
私の頬に手を添えて。
「ねぇ冬華、私のものにならない?」
目を細めたまま、そう囁いた。
数多いる男や女を虜にしてきただろうその笑みは妖艶で。
綺麗な人。
自然とそう思った。
「悪い話じゃないと思うわよ?私のものになったら毎日愛を囁いてあげるし、ある程度の自由だってあげる。お金すらも思いのまま」
まぁ私もね?
今まで数多の告白を受けてきたわ。
いろんな言葉を聞いてきた。
ロマンチックな愛の言葉。
ぶっきらぼうだけど、心の籠もった愛の言葉。
暖かくて優しい、太陽のような笑みを浮かべて告げられた愛の言葉。
そう、いろんな言葉を聞いてきたけど。
まさかもう一度。
“警視、私のものになってください”
この言葉を聞くことになるとはね。
こいつ。
顔も整っているし、声だって良い。
体も良い体をしているし。
「ねぇ、冬華。どう?私のものになってくれない?」
…普通の人ならきっと、受け入れてるんでしょうね。
でも。
でもね。
「今の私にとって、何よりも鬱陶しい言葉だな」
千速の姿で、千速の声で私に近づいた罪は何より重い。
本当ならその綺麗な顔面に拳を減り込ませてやりたいレベルに腹が立つ。
「あら、断っちゃう?」
「当たり前だ。自分を狙撃した奴のものになる馬鹿がどこにいる」
そいつはクスクスと笑みを浮かべて。
「私のものになってくれないなら、あなたの大切な…萩原、千速さん…だったかしら?どうにかなるかもしれないわよ?」
千速を天秤にかけてきた。
…ああ、本当に。
本当に。
「なるほどな」
つくづく。
「それは」
つくづく思う。
誰かも知らない人間の好意ほど、煩わしく腹立たしいものはないと。
「悪手だったな」
ドスッ、と。
「なに……、、ぅ…っ」
鈍い音が聞こえて。
そいつはお腹を押さえて、よろけながら数歩下がった。
「…まさか刺されるとは…っナイフ…っ隠し持ってたの…っ?」
私は腰に手を当てて。
「よく見ろ。血は出てないだろ」
「…ぇ…」
刺されたと勘違いしているようだけど、血は一滴も出ていない。
「…っ!さっきのボールペンで突いたのね…痛いじゃない」
そいつは自分の両手を見て血が出ていないことを確認し、眉間に皺を寄せた。
「お前に一つ、警告をしておくよ。重要だ。メモを取ったほうがいい」
私は自分の手にあるボールペンを指で飛ばし、受け止めて。
「もしこれから先、千速に近づくことがあれば、私の地位…いや、人生を投げ打ってでもお前を殺す」
ニコリと笑い、警告を発した。
「……警察官の言葉とは思えないわね」
そいつは肩を竦め、私を見据えた。
「人生を投げ打ってでも、と言っただろ」
千速が老衰や病気以外で命を落とした場合。
私は、千速を死に至らしめた存在を必ず殺す。
たとえそれを、千速が望んでいなくても。
殺したって千速は帰ってこないけど。
千速を死に至らしめた奴がのうのうとこの世界を生きていると思うと、腑が煮え繰り返る。
あー、でも。
「いいか。よく聞け」
「…なにかしら」
交通事故でこちらが有責の場合は除く、かしら。
「私を殺さなかったことを後悔させてやるからな」
そう告げると、そいつは小さく笑って。
「…ふふ、面白いわね」
扉のほうへと歩き出して。
「近いうちに、もう一度会いましょう冬華」
扉に手を掛け、私へとキスを投げてきたから躱すように首を傾けて。
「逃げられるとでも?神奈川県警が包囲してるぞ」
「あら優秀。でも残念。あなたに今スマホがないことは知っているし、横溝警部にこの顔を見られたわけじゃないから」
横を通り過ぎて帰るわね、なんてほざいて。
そいつは去って行った。
「………」
私は扉からフェンスへと視線を向けて。
「……ッ」
ガシャンッ、とフェンスを殴る。
苛々する。
心底苛々する。
「…っ」
苛々しすぎて、傷が痛む。
絶対に許さない。
絶対に。
私を狙撃したということは、少なからずどこかの組織に属していて、その組織が私を目障りと判断したのでしょうね。
私“たち”とも言っていたし、組織を炙り出してやる。
日の下に曝け出して、必ず捕まえてやる。
「…っ警視庁に、△△警視長らの取り調べをし直すように言わないと」
もしかしたら、彼らすら操作されていた可能性だってある。
私は傷を押さえ、出来るだけ早く歩いて。
「…入院なんてしてる場合じゃないわね」
早急に退院手続きをしないと。
そう思っていたら。
「っ蒼月警視!!」
エレベーターから出て、自分の病室へ戻ろうとした時。
「横溝」
横溝が走ってきた。
やっぱり気付かずに横を通り抜けられたみたいね。
しかもパソコンを持ってる様子もないし。
「横溝、今すぐ警視庁へ「ったった今警視庁から!!」
横溝は私の言葉を遮って。
「■■警視長と△△警視長が死んでいたと連絡がありました!」
そう言った。
ああ、だからか。
だからあいつ、私に“自分が狙撃した”と言ったんだ。
私に調べられる前に、主犯格二人を殺害した。
証拠を消すために。
留置所にいる二人をどうやって殺害したのかは最早どうでもいい。
どうせあの変装技術で仲間に殺らせたんでしょうし。
「…はー…次から次へと…」
「っすね…」
額に手を当て、ため息を吐く。
「とにかく、私は退院を急ぐと本部長へ伝えておいてくれ」
「…大丈夫なんすか?それ」
まだ絶対安静だけど。
「無理はしないから大丈夫だ。じゃあ頼んだぞ」
「わかりました」
横溝は敬礼をして、戻って行った。
私は病室に戻り、窓際まで行く。
そして。
雲一つない晴天を見上げて。
「どうにも穏やかじゃないわねぇ…」
面倒くさいなぁと、小さく呟いた。
「…私に扮して千速に近づく恐れもあるか」
千速に気付かれないように対策を練らないと。
合言葉でも作ろうかしらね。
「…何にせよ、今度こそ千速に気付かれないように進めないと」
今回の案件は、爆破事件の比じゃないくらい大きくて闇深いかもしれない。
だから。
他の誰かを巻き込んだとしても、千速だけは巻き込みたくないから。
「…あーあ…変なのに目を付けられちゃった…」
本当、面倒の極み…。
そう思い、私はため息を零した。
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