pixiv作品 名探偵コナン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「空き巣?」
「あぁ、冬華さんが狙撃された後、神奈川県警に通報があってな」
「あー…やっぱり入られたかー」
入院生活、二日目。
今日は車椅子で、病院敷地内なら散歩してもいいという許可をもらった。
だから外に出て、車椅子を押しながら空き巣に入られたことを話した。
すると、冬華さんは大した驚きもせずにため息を零すだけだった。
「予想はしてたのか?」
「まぁね。私の命とデータを狙ってくると思ってた」
「…狙撃されることは?」
「■■警視長が関わってる時点で覚悟はしてたけど、まさかあんな白昼堂々と街中で撃たれるとは思わなかったわ…」
私の落ち度、と肩を落とすこの人…。
一体何手先まで読んでるんだよ…。
「パソコンをボロボロにされて、それに気付かせるのを遅らせるために家の中も荒らしたって感じだな」
まぁ、真っ先にあの少年にはバレていたが。
「そっかー…引っ越しかー…」
結構良い場所だったのに、とまたため息を零した。
命を狙われる心配はもうないのだろうが、やはり一度でも空き巣に入られたらな。
金銭的に余裕があるなら、引っ越した方がいい。
「…引っ越し、か」
近いうちに辞令が下りるだろうけど。
「私の家に荷物を送っとくか?」
東京で物件が見つかるまでの間でも、うちにいて欲しい。
「片付けてくれるの?」
「それはそうだろ。冬華さんはいつ退院出来るかわからないしな」
それに下着とか衣服を他の奴に触らせたくないし。
「助かるー!下着と衣服以外は全部捨ててもいいから」
「…全部捨てるのかよ」
まぁテレビも割られてたし、引き出しという引き出しも全部開けられていて。
「金目のもの何もなかったでしょ?」
「そうみたいだな。全部貸金庫?」
「そ」
抜かりないな、本当に。
「それに、今は千速の家の方が私のものない?」
「…あるかも」
歯ブラシも、食器も、衣服だってよく着るやつは私のクローゼットにあるし。
ど、同棲してるのかと言わんばかりに冬華さんのものがある。
冬華さんは私を見上げて。
「ふふ、同棲してたみたいよね」
同じことを思ってた。
「ん」
返事をする代わりに、触れるだけのキスをする。
あまり人が居ない場所に向かってるから大丈夫だ。
だから冬華さんはこうしてワントーン高い女口調で話が出来るんだ。
「というか、千速はそろそろ仕事に行かないとね」
「辞めた」
「私が辞めさせると思う?」
隊長や本部長の計らいで、今こうして○○さんの傍に居れることは理解している。
でも甘えてばかりはいられない。
冬華さんも完璧に意識を取り戻したし、私も復帰しないと。
「あなたが居なければ私は死んでたんだから、そこは胸を張って主張してちょうだい」
「ふ、そうだな。明日から復帰するよ」
「それがいいわね」
本当は退院するまで居たかったが。
「ね、ちょっと支えて」
「なに?歩くのか?医師の許可はまだ下りてないぞ?」
「内緒内緒!あなたルールなんて守るタイプじゃないでしょ?」
まぁそれもそうか。
「ちょっと待ってろ」
車椅子が動かないようにストッパーを掛け、冬華さんの前に回る。
「ゆっくりだぞ?」
「…ぃ…た…っ」
冬華さんの手を取り、誘導するようにゆっくりと立たせて。
「っぁ゙…っ重力が…っ」
傷口が突っ張るし、立ち上がることで内臓も動くからな。
「っぷ…っはは!」
「な…によ…っ」
冬華さんは二日ぶりに立つから、足がプルプルしてて。
「産まれたての子鹿みたいだなと思って」
そう言うと。
「ぃ゙…ッふ…っちょ…っ笑わ…っせな…っい゙…ッで…っ」
笑うことで腹に力が入り、痛がっている。
「…っふー…」
時間かけて立ち上がり、ゆっくりと深呼吸をして。
「はー…今日は気持ちの良い風が出てるわねぇ」
「こんな日はバイクを走らせるともっと気持ち良いぞ」
そよそよと頬を撫でる風に、目を細めた。
冬華さんを乗せて、どこまでも走りたいな。
なんて話してた時。
「ッ蒼月警視!!!」
突然、冬華さんの名を叫ぶ声が聞こえてきた。
「「…!!」」
私たちは驚いてそちらを見ると、重悟と若い男が立っていて。
「横溝、と」
「誰だそいつ」
「こいつは「蒼月警視!!!」
重悟は男の肩に手を置いたが、もう一度冬華さんの名前を叫び重悟の手を振り払って。
「ッおい「ッお願いします!!警視!!兄を許してください!!」
走って冬華さんに縋り付いてきた。
「ッま…ッて…ッぃ゙…ッぅ゙ゔ…ッ!」
途端に冬華さんが痛みで顔を歪ませた。
「ッおいてめぇ!!離れ「蒼月警視!!お願いですッ!!どうか兄を…ッ!!」
「お前!!何やってんだ!離れろ!!」
私はそいつの頭を掴んで冬華さんから引き剥がそうとするがなかなか離れない。
重悟も慌てて駆け寄り、そいつの肩を掴んで。
「い゙…ッは…っはなれ…ッろ…っぅ゙うゔ…ッ」
「離れろ馬鹿野郎ッ!!!」
やっと引き剥がしたが。
「ぅ゙…ッぁ゙…ッぐ…ッ」
「冬華さんッ!」
冬華さんは傷跡を押さえて倒れそうになったのを抱き留め、車椅子に座らせた。
まずい。
冷や汗を掻き始めてる。
「ッ蒼月警視!!兄さ「ッうるせぇ!!今それどころじゃねぇだろうが!!」
私が怒鳴り、冬華さんの前で屈んで押さえてる場所を見ると、入院着が赤く染まっていて。
「ッ血が…っ」
「千速!すぐに医者に連れて行け!!」
「わ、わかった!!」
今ので傷口が開いたんだ。
「ッ待ってくだ「今話せる状況じゃねぇだろ!」
重悟も男に怒鳴り、駆け寄って来そうなのを抑えてくれていた。
「…ぅ゙…っぃ゙…ってきも…っ流したくないのにぃ…ッ」
「ッそんなこと言ってる場合か!」
私はすぐに車椅子を反転させて走らせ、病院内へ急いだ。
手術室前。
傷が開いちまって、再び縫合しないといけなくなった。
縫合だけだからそう時間はかからないらしい。
「千速!」
「!…重悟か…」
重悟が走ってきた。
「…あいつは?」
「部下と車の中で待機させてる」
重悟は私の隣に立ち、ガシガシと頭を掻いて。
「…悪ぃ、あんな行動に出るとは思わなかった…」
私に謝ってきた。
私は小さく笑って、重悟の胸をノックするように叩いて。
「お前は悪くないだろ。気にするな」
そう言った。
悪いのはあいつ。
冬華さんがなぜ入院してるかを知っているはずなのに自制が利かず、縋り付いてきたあいつが悪い。
ただ。
「…あいつの兄って…まさか…」
あいつが言っていた“兄を許してくれ”という言葉。
重悟は目を閉じて。
「…あぁ。あいつは今回の事件で関わっていた警部補の弟だよ」
ため息を零した。
「…そうか。だが、冬華さんに謝りに来たって意味ないだろ」
この事件はすでに、冬華さんや警察の手から離れて司法に委ねられている。
ただ詳しい調査は必要だろうけど。
「そう言ったんだが、どうしても面会したいっつってな」
まず面会してもらえるかどうかを聞きに行こうとしたら、たまたまあそこに居るのが目に入っちまって。
一目散に走ってきたらしい。
「……」
私にも姉弟が居たからわかる。
弟であるあいつの悲痛な思いが。
「… 蒼月警視は犯罪を犯した奴には決して甘くねぇぞっつーのも伝えたんだが…」
「それでもいい、か」
「あぁ」
きっと、あいつに向けて無慈悲な言葉を投げるだろう。
罪を重くさせるためにわざと殴らせるような人だから。
犯罪者に対しては“冷酷な蒼月警視”だから。
そしてそれを重悟もわかっている。
「…きついな、身内が犯罪に手を染めたなんて…」
「あぁ…かなりな…」
と。
バツンッと手術室の灯りが消えた。
「「…!」」
手術室の扉が開いて、カラカラと看護師に車椅子を押されながらぐったりしてる冬華さんが出てきた。
「…○○さん…」
『……はー…死ぬかと思った…』
今回の麻酔は局部麻酔だったようで、意識はあるが酸素マスクを装着している。
…よかった。
「…すんません警視…あいつがあんな行動に出るとは…」
『いや…いい…』
冬華さんも重悟は悪くないとわかってるから責めたりはしない。
看護師から車椅子を押すのを交代し、私が押して病室を目指す。
『兄を許せとほざいていたが…まさか今回の事件の?』
「はい。加担していた警部補の、そのうち一人の弟です」
『…そうか』
今は局部麻酔が効いてるから平気そうだが…。
「…はぁ…」
「水飲むか?」
「あぁ…頼む…」
「わかった」
病室に着き、車椅子から病室のベッドへと移る。
酸素ボンベも定位置に置いた。
「俺が行ってくる」
「あ、すまんな。頼む」
デイルームへ、マグカップに水を入れに行こうとしたら重悟が行ってくれた。
『…また一からだぁ…』
「だな。せっかく呼吸時の痛みも薄れてきてたのにな」
術後、呼吸する度に痛んでいたのがやっと薄れてきた矢先にこれだ。
「蒼月警視」
『ああ…ありがとう…』
重悟が戻ってきて、マグカップを受け取り酸素マスクを外して喉を潤す。
「はぁ…」
小さく息を吐いて、今度は私がマグカップを受け取る。
「…横溝」
「はい」
私は冬華さんに酸素マスクを付け、冬華さんは重悟を横目で見て。
『さっきのを呼べ…』
そう言った。
「いや待てよ。面会すんのか?またさっきみたいなことになったらどうすんだよ」
すかさず待ったの声を上げたが。
『…さっきみたいなことになったら…今度はお前らの警護ミスだな…』
○○さんは小さく笑った。
「「……」」
私と重悟は顔を見合わせ苦笑を零し、同時に肩を竦めた。
「…連れてきます」
『あぁ…』
「急げよ重悟。局部麻酔が切れる前には終わらせたいからな」
「おう」
この人には敵わないな、本当に。
「許すのか?さっきの奴の兄」
『許すも何も、私には権限がないわ』
だよな。
やっぱりもう冬華さんには無理なんだよな。
『彼に「あ?」…あいつに言いたいことがあるからよ』
まったく。
彼って言葉を容易く使わないでほしい。
「言いたいこと、か」
きっと、“ 蒼月警視”としての厳しい言葉なんだろうな。
でも仕方ない。
あいつの兄は、それだけ重大な事件に加担してしまったのだから。
「蒼月警視、戻りました」
数分経って、重悟がさっきの奴を連れて戻ってきた。
「……っ」
先ほどよりは幾分か落ち着いてはいる。
「ッ蒼月警視…ッ」
「!おい…!」
「…!」
そいつはまた走って来たから、私は冬華さんの前に立って。
重悟が手を掴もうとすれば。
「「「……」」」
そいつは私の目の前で土下座をした。
私と重悟は顔を見合わせ、私はベッドの反対側へと戻った。
『何のつもりだ』
冬華さんはそいつを横目で見る。
その眼差しに、今までの優しさはない。
“蒼月警視”そのものの強い眼差しだった。
「ッあ…兄を…兄さんを…ッ許してください…ッ」
『私に謝罪をしても、すでに私や警察の手から離れ司法に委ねられた事件だ。無意味だな』
冷たい口調に、息を呑む。
「ッ兄は…ッ兄は命令に従っただけなんです…ッ逆らえなかったんです…ッ」
重悟は目を閉じる。
悲痛だ。
可哀想に。
だが。
『兄と面会をしたのか?』
“蒼月警視”には通じないんだよ。
情で揺さぶろうとしても無駄なんだ。
「…ッはい…ここに来る前に…会わせていただきました…っ」
『何と言っていた?』
「な、なにも…何も言ってませんでした…っただ“すまん”と…一言…っ」
“すまん”
兄はただ一言、弟に告げた。
“蒼月警視”は。
『くだらん』
そいつに見ずに、そう言った。
「冬華さ「千速」
さすがにその言葉はないと思って、冬華さんに文句を言おうとしたら。
「やめろ。今は冬華警視が話している」
重悟に止められた。
「……」
悔しいが、黙るしかなかった。
「ッ蒼月警『お前は今、“兄は命令に逆らえなかった”と言ったな』
そいつの言葉を遮り、冬華さんが口を開く。
「そうですッ警察は完璧な縦社会ですから上の命令は絶対だ!だから逆らえなかっただけなんです…ッ」
確かに警察は完璧なピラミッド型の縦社会。
こいつが言う“上の命令は絶対”なのは確かだ。
『確かに、上の命令は絶対だ。逆らえないのも理解出来る』
冬華さんは横目でそいつを見て。
「っでしたら『だが、お前の兄は多額の金を受け取っている』
そう言った。
「…か、金を…?」
私もそいつも目を見開き、私は重悟を見ると。
重悟は眉間に皺を寄せて黙っていた。
『今回の事件に加担した奴ら全員、金を受け取っているんだよ。だから命令に“逆らえなかった”のではない』
冬華さんは酸素マスクを取って、そいつのほうへ顔を向けて。
「“逆らわなかった”んだよ。目先の金に目が眩み、警察官としての矜持も忘れ、総監の暗殺計画に加担した愚か者だ」
そう吐き捨てた。
命令に逆らえなかったんじゃなくて。
逆らわなかった。
金がもらえるから。
逆らう必要がなかった。
私も眉間に皺を寄せて目を閉じる。
…同情出来ないな。
こればかりは。
「…ち…ッ違う…ッ!逆らわなかったんじゃない!!逆らえなかったんだ!!」
そいつは立ち上がって、“蒼月警視”を睨む。
「…たとえ逆らえなかったとしても」
冬華さんは真っ直ぐにそいつを見つめて。
「犯罪へ加担していい理由にはならないんだよ」
「…っ!?」
小さく息を吸って。
「時に“命令”は、自分自身や家族を守るために“逆らわなければならない”場合があることを忘れるな」
そう言った。
“逆らわなければならない命令”
たとえ警察を追われることになったとしても。
こいつの兄は、逆らわなければならなかったんだ。
「…っそんなこと…っ出来るわけないだろっ!俺ら下っ端は上の命令になんて逆らえない…っ!!」
そいつは俯いて、肩を震わせて叫ぶ。
「…逆らうのが怖いか?」
「こ、怖いさ…ッ!だってあんたら上層部はすぐに権力を振り翳すだろ!?」
確かに上層部は権力で物を言わす連中が多い。
チラッと冬華さんを見ると。
「…っ」
痛みに顔を歪めていて。
「冬華さん!」
「蒼月警視!」
私と重悟の声が重なり、冬華さんは片手で私たちを制した。
局部麻酔が切れてきたのか。
痛み止めの点滴はされてるが、呼吸するだけでも痛いんだろうな。
「冬華さん、せめて酸素マスクを」
「…ん」
酸素マスクを付けて。
『…ぅ゙…』
ゆっくりとベッドに背中を付けさせた。
冬華さんは、横目でそいつを見て。
『…すぐ権力を振り翳す、か』
ふ、と。
表情を和らげて。
『ならば、これから先…理不尽な権力を振り翳されて心が折れそうになったなら…』
言い聞かせるように。
『私の下に来い』
小さな笑みを浮かべる。
「ぇ…?」
そいつは冬華さんのほうを見て。
『…警察官としての誇りを忘れず、権力と戦う覚悟がお前の中に見えた時…その時は一緒に戦ってやるよ』
冬華さんの言葉に目を見開いた。
『…だからお前は』
冬華さんは少しだけ穏やかな表情を浮かべて。
そして。
『兄と同じ轍を踏むな』
目を瞑った。
「…ッ」
そいつは泣きながらギュッと目を閉じて。
もう一度冬華さんの前で両膝を付き、深く頭を下げた。
私も重悟も驚いた。
まさか“蒼月警視”が。
まさかこんな優しさを見せるなんて。
こんな寄り添う言葉を言うなんて。
「…!」
冬華さんは手で払う仕草をすれば。
「ほら、もう行くぞ」
「ぁ …はい…!」
重悟がそいつの腕を掴んで病室の入り口へと行く。
「蒼月警視、失礼しました」
「…っ」
重悟は敬礼を、そいつはまた深く頭を下げて。
そして、帰って行った。
「お疲れ、冬華さん」
「…はー…しんど…」
冬華さんは酸素マスクを取って、ゆっくりと息を吐き出した。
冬華さんの立場は本当につらい役割を持ってるよな。
でも。
「なんか、よかった」
“蒼月警視”として厳しい言葉を投げかけて、冷たく突き放すだけかと思っていたから。
垣間見せた優しさに、すごくホッとしたしなんか嬉しかった。
「何がー?」
冬華さんは視線だけを私に向けて。
「全部だよ。なんかすごく響いた」
笑みを浮かべた。
「…昔の私からしたら、考えられないなって自分でも思うわ」
「昔の冬華さんならなんて言っていた?」
「知らん消えろ、かしら」
「自分で面会を通しておいて?」
「ね」
小さく笑い合う。
「…はー…痛い…」
「ちょっと休んだほうがいいな」
「…そうね…少し寝ようかしら…」
ベッドを倒して、横にさせた。
「千速は…何してる…?」
自分が寝てる間、ってことかな。
「そうだな。私は売店で何か買って爆食してるかな。腹減ったし」
「そう…私の分も残しておいてね…」
「今の冬華さんが食えそうなのも買っとくよ」
「…ステーキ「ダメに決まってるだろ。それは食事制限が解けたらな」…もう…ルールとか破るタイプのくせに…」
「さすがに医療に関しては守るよ」
冬華さんへ触れるだけのキスをして。
「アイスお願いね…」
「わかった。買っとく」
冬華さんは間も無く寝息を立て始めた。
「…“時に逆らわなければならない命令”、か」
眠る冬華さんの頭を撫でながら、冬華さんの言葉を口にする。
私にとってはあれだな。
犯人を追えという“蒼月警視”の命令に従わず、冬華さんの傍から離れなかったあの時。
あの時、“蒼月警視”の命令に逆らわずに従って犯人を追っていたら。
冬華さんは死んでいた。
輸血が足りず、他の病院や輸血センターに確認している間に。
きっと死んでいた。
命令に従わなくて心の底からよかったと思った。
すぅすぅて寝息を立てている冬華さんの寝顔を見つめて。
「…鬼だ冷徹だと畏怖された貴女があんなに甘くなった理由が、私だったらいいなぁ」
そう囁いて、小さく笑った。
「っつか、アイスは起きてから買った方がいいか」
売店で、アイスの冷凍庫を見る。
寝てる間に溶けるかもだしな。
「菓子は…結構するなぁ…ジュースも高いし…スーパー行くかな…」
面倒だけど、価格が結構違うからスーパーに行こうか迷っていた時。
「萩原さん?」
突然声をかけられた。
「!…妃さん」
振り返れば、妃さんが立っていた。
毛利探偵は居なく、一人で来たようだ。
「面会か?」
スーパーに行くタイミングを逃したため、私はゼリーとかジュースとかサンドイッチとかをカゴに入れる。
いいか、ここでも。
冬華さんのクレカだし。
「まぁ面会と言えば面会なんだけど、冬華のスマホに何回電話しても出ないからどうなってるのか聞こうと思ってね」
冬華さんのスマホ?
「あー…」
私は苦笑を零して。
「ちょっと待って………すまない、ありがとう」
「いいえ、いつかのお礼よ」
会計をしようとしたら、妃さんがクレジットカードで決済をしてくれた。
「あの人のスマホ、今神奈川県警にあるんだよ」
「神奈川県警に?事件の情報が入ってるの?」
買い物を腕に引っ掛けて、タプタプとスマホを操作して。
「ん。現在のあの人のスマホ」
重悟から送られてきた画像を見せると。
「………左ポケットに入れていたのね」
妃さんは呆れるようにため息を零した。
「はは、そうなんだよ。腹ごと抜かれてるんだ」
冬華さんのスマホは、スマホのど真ん中に風穴が空いている。
スーツの左ポケットに入れていたらしく、撃ち抜かれた左側腹部ごと穴が空いちまった。
こんな小さいものとは言え、人体と機械を貫通させるライフル銃って本当に恐ろしいよな。
「買い換えたばかりよね?」
「あぁ。復元は無理だし、データも壊れてるらしいから機種変じゃなくてまた新しい番号で契約だな」
「…まったく。あなたと連絡先を交換しといて正解だったわね」
私はクツクツと笑い、妃さんは苦笑を零した。
「冬華にまたお説教しないと」
「あ、今はちょっと諸事情があって寝てるんだよ」
「…諸事情?何?教えてちょうだい」
妃さんはグッと私の両肩に手を置くから。
「わ、わかった。話すよ。少し人気のない場所へ」
「えぇ、わかったわ」
その圧に負けて、話すことにした。
––––
「ということがあってな」
「……」
人気のない場所で、妃さんにさっき起こったことを話す。
「…それで?」
「ん?」
「向こうは弁護士を立ててるの?」
「いやいや!訴えないよ!!」
裁判沙汰にしようとしたのを全力で止めた。
「立派な傷害事件じゃない」
「事件ではない…」
私は苦笑いを零して、視線を前に向ける。
「あいつも必死だったんだ。兄を許してほしくてな」
仮に冬華さんが許したって司法が許さないから、どうしようもないことなんだが。
「…でも、あの冬華が“一緒に戦ってやる”…なんて言うなんてね」
随分と丸くなったものね、と妃さんは言った。
そうだよな。
妃さんや工藤さんは昔の冬華さんを知っているから。
冬華さんは大切な人以外の人間を気遣うような人じゃなかったのを知っているから。
……あ、そうだ。
妃さんに聞きたいことがあったんだ。
「…妃さん」
「なにかしら。あ、名刺渡しておくわね」
「あ、ありがとう…」
私は妃さんの名刺に視線を落としながら。
「妃さんは学生の頃、冬華さんのことを好いていたのか?」
問いかけた。
「……」
黙っている妃さん。
チラッと見れば、気まずそうな表情を浮かべている。
やっぱりか。
「いや、別に嫉妬をしたとかじゃないんだ。そこは誤解しないでくれ」
そう。
難攻不落のジャンジラ要塞と言われた冬華さんを堕としたのは私だけだから、嫉妬などする必要はない。
「…本当に?」
「本当だ」
ただ知りたいだけ。
どうして冬華さんを諦めたのかを。
もしかしたら、冬華さんに告白をしていれば結ばれていたかもしれないだろ?
あの人にとって妃さんは大切な親友なのだから。
「…まず、なぜ知っているの?」
「冬華さんが毛利探偵にすごく嫌われているって話してくれて」
毛利探偵は自分にはすごい威嚇してくるのに工藤さんにはデレる。
という話をすると。
「…あー…」
妃さんは頬を赤らめ、額に手を当ててため息を零した。
「…あの人には気付かれていたからね」
結構勘が鋭いのよ、と苦笑いを浮かべる。
「まぁ、探偵になるくらいだからな」
私もクスリと笑う。
妃さんは軽く息を吐き出して。
「…確かに私は、冬華が好きだったわ」
手すりに手を置いて。
「でもね、高二の時に冬華を好きでいることをやめたの」
小さく笑った。
「…なぜだ?」
どうしてやめた?
そこが一番聞きたいこと。
妃さんは少し視線を上げて。
「だって冬華に告白をした子たち、みーんな玉砕して行くのよ?無理だなって思うじゃない?」
はぁあ……と。
「結構キツイことを言われてる子もいてね?“言い方を考えなさい”って何度言ったことか…」
「…あの人らしいな」
盛大なため息を零し、私もまた苦笑いを零した。
そんな私を、妃さんはチラッと見てきて。
「…というのもあったけど」
「ん?」
笑みを浮かべて。
「それ以上に、冬華との“友情”を壊したくなかった、というほうが大きかったわね」
そう言った。
「友情を?」
「えぇ」
手すりに両手を置き、体を預けて。
「もしも告白をしたとして、受けるも断られるも、どちらにしても“友情”はなくなってしまう」
思い出に浸るかのように。
「“友情”から“愛情”に変わり、そうしたら親しく話す有希子にも嫉妬をしてしまうかもしれない…嫉妬で有希子を蔑ろにしてしまうかもしれないって思って」
懐かしそうに目を細めて。
「独占欲に支配されて、冬華と有希子との仲も壊れてしまうかもしれないって思ったら、このまま想いを告げないほうがいいって思って」
優しい笑みを浮かべて。
「一番親しくて、一番大切な“友”で居ようと決めたの」
そう言った。
一番親しくて、一番大切な友。
冬華さんといい、妃さんといい。
私の心に響く言葉をこうも簡単に言えるなんて。
すごいな。
本当に、この人も、冬華さんも、きっと工藤さんも。
三人が三人とも、想い合って理解し合っている。
「だからね?萩原さん」
「ん?」
妃さんは私に向き直って。
「諦めたわけじゃなく、自分の意思で好きでいることをやめたの。諦めたわけじゃないわ、やめたのよ。ここテストに出るから絶対に間違わないように」
私の肩に手を置いて、圧がある笑みを浮かべた。
「わ、わかった…好きでいることをやめたんだな」
「よろしい。くれぐれも冬華には言わないように。守秘義務を破ればあなた有罪だから」
「…は、はい…わかりました…妃先生…」
まぁ、私が言わないことくらいわかってるよな。
妃さんは小さく笑って。
「じゃあ、帰るわね。新しい番号になったら教えてちょうだい」
「伝えておくよ」
軽く頭を下げて、帰って行った。
「……友のままで、か」
自分の幸せを優先せず。
友を想い、結果友のままでいることにしたなんて。
すごく葛藤しただろう。
好きな人を諦め……好きでいるのをやめるのに、自分の想いを封じ込めて。
冬華さんや工藤さんに気付かれる前に。
好きな人から友へと戻すのに、大変だっただろう。
毛利探偵は、そんな妃さんに寄り添い続けたんだろうし。
冬華さんの周りにいる人間はみんな格好良すぎる。
「…あと6年早く産まれていれば…」
もっと早く冬華さんと出会えて。
妃さんや工藤さんたちとも同期で、友人になれていたかもしれない。
いやダメだ。
「そうなると忍と出会えなくなる」
なかなか上手いこといかんなと思いながら、私は袋からジュースを取り出して一口飲む。
「ん、美味いなこれ。冬華さんにも起きたら飲ませてやろう」
今は何か飲むだけでも腹が動いて痛いだろうけど。
「いつ退院出来るんだろうな、あの人」
入院が長引くならちょっと寝泊まり出来ないか聞いてみるかな。
個室だし、三人掛けのソファーもあるし。
そこで寝れるだろ、きっと。
一緒に寝れずとも、同じ部屋にいるだけで違うよな。
ジュースを袋の中に戻して。
「病室に戻るか」
私は踵を返して、歩き出した。
吹き抜けの下から。
私を見ていた存在に。
気付かずに。
next