pixiv作品 名探偵コナン
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ビシッと。
何か弾ける音が聞こえてすぐ。
お腹に焼けるような激痛が走った。
“…ごめん…撃たれた…”
痛みの正体を見て、狙撃されたと知って。
足元に広がる血の海が目に入った瞬間。
ああ、死んだわ。
って思った。
その日は。
毛利が爆破事件について私に連絡をしてきた。
あいつから私に連絡なんて珍しいけど、爆破事件については今は話せない。
警視庁の要請だと嘘を言ってまで何故知りたいのか。
それは。
友人で毛利の妻である英理の頼みだから。
きっと英理から“ 冬華に協力してやってほしい”と頼まれて、私に連絡をしてきたのでしょうね。
毛利と話していて、そういえば英理にはそれとなく話していたなと気付いて。
これはちょっと毛利に英理を守らせないとダメだと思ったから。
毛利と会って話すことにした。
千速はずっとその話を聞いていたけど、千速にも話せない内容だから言わなかった。
毛利とどこで会うのかを聞かれて。
特に気にすることもなく毛利と会うお店を教えた。
…これが間違いだったわね。
「おい毛利、その子は?」
「…付いてきちまったんだよ」
すでに来ていた毛利と一緒にいた少年。
私の記憶の中ではこのくらいの年で止まっているユキの子供に似ていて。
「ボクの名前は江戸川コナンです…!」
ずっと見ている私に、どこか焦りを見せながら名前を言ってきた。
「…ほう。コナン、か」
「う、うん…は、初めまして…」
目を細めてやれば、ビクッとして毛利の後ろに隠れた。
「何ガキに威嚇してんだ」
「威嚇などしてないよ。ただ…」
と言いかけたところに。
「ん?奇遇ですね、蒼月警視、毛利探偵。そして少年」
千速がお店に現れた…。
やけに素直に出て行ったなぁと思ったら…。
これだからこの子には何も言えない。
きっと私が命を狙われてると知れば、今よりもっと関わってくるだろう。
横溝にも口止めをしておいて正解だったわね。
私はため息を零して、でもまぁ来てしまったものは仕方ないと思って。
「まぁいい。萩原」
「はい」
「この小僧のお守り」
と、毛利が連れてきた少年を千速に託した。
怪しい子だけど、箝口令が敷かれている爆破事件の話を子供に聞かせるわけにはいかないと思ってね。
少年は白バイに乗りたかったと言って、千速が乗ってきた白バイのほうへと駈けて行った。
「萩原」
「わかりましたよ、もう」
少年へ指を差すと、千速はジト目で私を睨んで少年を追った。
話に参加するつもりだったわね、あれ。
危ない危ない。
あの少年がいて助かった…。
毛利とオープンカフェに行き、爆破事件について聞けば“警視庁から要請があった”と言った。
通話でも言っていた言葉。
「警視庁の誰だ?名前を教えろ」
「んなこたぁどうでもいいだろ」
いいわけないでしょ。
本当は毛利にだって話しちゃいけないことなんだから。
「よくない。この事件は今は箝口令が敷かれている。警視庁がお前に要請を出したということは、立派な規律違反に値する」
でも万が一、本当に警視庁の連中から聞いたのならば話は別。
すぐに警視庁に確認をとって漏洩した者を罰しなければならない。
毛利は黙って視線を逸らしたから。
ああ、やっぱり英理だなって確信した。
「英理なんだろ?」
「…ぐ…っ」
私がニヤニヤして聞いた時、千速がチラッと私を見た。
…なんか企んでるわね?
何を企んでるのかしら。
その視線の動きが気になったけど、今はこちらに集中しよう。
「英理に、私に協力してやれと言われたんだろ?」
深追いで聞いてやれば、毛利は頭を掻きながら照れ臭そうに認めた。
英理から別居することにしたと聞かされた時、理由を聞いて笑っちゃった。
毛利がまだ所轄の刑事だった頃。
取り調べ中、毛利が逮捕した犯人が逃走し、たまたま毛利の着替えを持って所轄に来た英理を人質に取った。
毛利は英理を救うために、英理の太腿を撃って人質としての役割を失わせることで英理を救った。
当時はこれが問題視されてしまい、何とか納めたかった問題だけど、その前に毛利は刑事を辞めてしまった。
“私でもそうする”
と、英理に告げれば英理も納得して。
“夫として当然の行動だった”と笑っていた。
のに、よ?
理由はどうあれ、足を撃たれても離婚しなかったのに。
毛利にせっかく作った料理を“まずい”と言われ、“こんなものを作るくらいなら寝てろ”って言われたことに腹を立てて毛利がトイレに篭ってる間に出て行ったんだって。
毛利らしい不器用な心配だったんだろうけど。
笑うしかないわよね。
まぁ当時の私は独り身だったし、そんなことで?と笑ったけど。
今は千速が居るから、痛む足を我慢してせっかく作った料理をまずいって言われたらそりゃあ怒るか、となんとなく気持ちがわかるようになった。
ま、まぁ私は英理ほど料理が下手……独創的ではないからまずいって言われることはないし、千速はどんな料理でも“美味しい”って食べてくれるでしょうし。
「何だかんだで英理の頼みを聞いてやるんだな。さっさと謝って戻って来てもらえ」
お互い嫌いで別居したわけではないけど、ちゃんと英理の頼みを聞いてあげるなんて優しいじゃんって思いながら揶揄ってやると。
「う、うるせーっつんだよ!おめぇには関係ねぇだろっ」
顔を赤くして怒ってきた。
たった一言“すまん”でいいのに、こいつは本当に不器用ねぇ。
でも。
「だがまさか、英理がな」
英理がまさか、毛利に協力を仰ぐとは予想してなかった。
そこまで思い悩んでいたとは思わなかったから、ちょっと驚いたわ。
毛利ならいざ知らず、英理まで巻き込んじゃうとは。
私は眉間に皺を寄せて、真剣な眼差しを毛利へと向けて。
「お前はこの件に関わらず、英理を目の届くところに置いておけ」
英理も知っている以上、毛利にも関わらせるわけにはいかない。
だから毛利には英理の傍を離れないように警告をすれば。
「……ヤバいのか」
毛利は今の状況をすぐ理解してくれた。
昔から優秀な奴だったから、刑事を辞めてほしくなかった。
いつかこいつを部下にしてコキ使ってやろうとさえ思うほど。
拳銃の腕も、警察学校で唯一毛利に敵わなかった。
「…多分な。だがどこまでなのかまだわかっていない」
△△警視長の他に、■■警視長と警視正二名、警視三名が加担しているのは突き止めたけど。
その下にどれだけ加担しているのかはまだ。
「今、信用出来る上層部は…」
と、言いかけて、毛利の襟元に何か貼ってあることに気付いた。
「…毛利…お前、それ…」
それに手を伸ばせば、それは小さな小さな盗聴器で。
やられたと思った。
やっぱりあの少年、ユキのとこのガキンチョだと。
昔から父親の優作さんの影響で探偵の真似事をしていたから。
ただの子供が盗聴器なんて仕掛けるわけないし、子供らしからぬ推理力だった。
それに、いつの間にか助手席に乗り込んでたと言っていたから、その時にこっそり後ろから貼ったんだと。
今は蘭と同じ高校生だと思うけど、どうしてあんな姿になっているのか後で問いただしてやらないとね。
そう思いながら、私はため息を零して。
「……こっちを向け」
その盗聴器に向かってそう言った。
「……!」
何か口を開こうとした毛利を手で制して。
「お前だよ、萩原ぁ。聞こえてるんだろ?おい」
盗聴器越しに千速へ話しかけると、千速は機械音が聞こえてきそうなくらいぎこちなくこちらへと振り返った。
私は笑みを浮かべて手招きをする。
千速はビクビクしながら新一を傍に抱えて近づいて来た。
どこからどこまで聞いていたのかを問えば、二人は顔を見合わせて。
「……まぁ…なんというか…」
「…全部とは言わないけど…まぁ…最初からというか…」
最初から聞かれていた。
私はまたため息を零すと。
「すみま「警察上層部がヤバいってことなの?冬華さん」
事の重大さを知った千速が謝ろうとしていたのを遮り、新一が私に問いかけてきた。
…まずいことになったわね。
この子に知られれば、絶対に関わってくる。
千速だってもう黙ってないわ。
「冬華さ「とにかく、だ。毛利、お前は英理としばらく居るか目の届く位置に置いておいてくれ。なるべく早く解決させるから」
全容が明らかになってからと思っていたけど、今現在でわかっている奴らを何かしら言い訳を付けて拘束しないと。
関わらせる前に、わかってることだけでも総監に報告をしよう。
「…大丈夫なのか?」
毛利の心配する声に。
「黒幕と思われる奴の目星は付いているから、そう時間はかかるまい」
新一の鼻を摘みながら。
「…あにひゅんのさ…」
「スパイかお前は」
あの頃と変わらず、生意気そうな顔に笑った。
「ボ、ボクじゃなくて…千速さんがさぁ…」
「はぁ!?なんで私だ!お前だろう少年!」
千速には心配をかけたくなかったけど、もうグズグズしてられない。
さっさとこれを明るみにしないと。
と。
思った矢先だった。
ビシッと。
何か弾けるような音が聞こえてすぐ。
お腹に焼けるような痛みが走ったのは。
「冬華さん?」
その音は千速たちにも届いたようで、私へと振り返った。
私はゆっくりと視線を下げて、痛みの正体を知る。
「…ごめん…撃たれた…」
ああ、狙撃された。
どこから?
振り返る余裕すら、もうない。
バレてた。
私がすでに掴んでいることが。
昔、SATに所属していた■■警視長が関わっている以上、どこかで狙撃されるかもしれないとは思っていた。
だから、外に出る時は細心の注意を払って出ないとって。
でも。
でもまさか。
まさかこんな白昼堂々と街中で、大勢いる中で狙撃されるとは思わなかった。
完璧な私の落ち度だ。
すでに広がる血の海が視界に入って。
あ、死んだわこれって。
ああ、千速との約束、こんなに早く破っちゃうことある?とか。
あー、そういえば千速の家にあるスーツ、クリーニング出すの忘れたとか。
あーもう、このスーツ高かったのに、とか。
一気に流れ出た血液に、足に力が入らなくなって。
崩れ落ちる間の、一秒にも満たないだろう時間でそう考えていた。
所謂、走馬灯ってやつ?
「ッ冬華さん!!!」
地面へ衝突する前に千速が抱き留めてくれたから、地面に衝突しないで済んだ。
激痛と出血量の多さに意識が遠退いて。
毛利や新一が何か叫んでるのも、もう聞こえなかったけれど。
「おい冬華さんッ!!しっかりしろ!!」
千速の声だけは、ハッキリと鮮明に聞こえていた。
焦ってる千速の表情が目に入る。
ああ、私。
また千速にこんな表情をさせてるんだ。
またこんなに。
心配させて、不安にさせてるんだって申し訳なくて。
「っあ、あぁ、わかった…っ」
千速のその言葉と同時に、物凄い激痛が走って。
「ぅ゙…ッぃ゙ぅゔ…ッ」
あまりの痛さに、唸り声が出た。
止血をしてくれてるのかな。
痛すぎて意識が戻り、でもすぐにまた遠退く。
「…っ冬華さん歯を食いしばるな!私の肩に噛みつけ!!」
食いしばりすぎて、歯が折れる前に。
私は震える手で千速の背中に腕を回して、背中側の制服を握り締めて。
「…ぅ゙…ッ」
千速の肩に噛みついた。
相当な力が入っちゃってると思うけど、加減出来ない。
「もう少しだ…ッもう救急車が来るから…ッ」
千速の肩に噛みつきながら。
千速へと視線を巡らせる。
これじゃダメだ。
奴らに逃げられる。
■■警視長の狙撃だという決定的な証拠を掴むために、現行犯で逮捕しなければ。
痛い。
痛すぎる。
正直、このまま支えていてほしい。
このまま傍に居てほしい。
でも。
「…っちは…っや…っ」
でも私たちは。
「…ッ冬華さん!大丈夫だ!私はここに」
使命を。
「追え…ッ!犯人を…ッ逃すな…ッ!」
責任を。
「…いやだ」
「…っ行け…ッ」
「嫌だ!!」
全うすべき。
「おまえは…っけいさつかんだ…っ!!」
警察官だから。
「今あんたの傍に居られないなら警察など辞めてやる!!」
任務を全うすべき、警察官なのに。
千速は。
私の傍に居ることを選んでくれた。
ああ、もう。
好きだなぁ、もう。
「…っばか…ね…っ本当…っ」
その言葉は、私に安心を与えて。
ずっと何とか保てていた意識が。
「…ッおい!寝るな!意識を––––
途絶えた。
–– 真っ暗な場所で。
ゲシッと、誰かに蹴られた。
“いたぁ…誰?”
振り返れば、若い男が二人立っていて。
–– なに勝手にくたばろうとしてんだよ、あんた ––
髪の短いほうが、私を睨んできた。
“誰だお前ら”
私も睨み返すと、髪の長いほうが苦笑いを零して。
–– まぁまぁ落ち着いて。とりあえずさ、あんたは戻ってくれよな ––
戻れと言った。
“戻れって、どこに”
–– 決まってんだろ!!千速んとこにだよ!! ––
「…ッぅ…っ」
意識が戻った。
暗い場所にいた彼らは誰だったんだろう。
髪の長いほうは、どこか千速に似ていた気がする。
……千速?
私は視線を巡らせて。
千速を見つけた。
不安そうで、泣きそう。
ああ、そうだ。
死ねないんだ。
約束をしたんだ。
絶対に死なないって。
絶対に生きて、千速の下に帰るんだって。
私は力が入らないけど、何とか手を動かして。
「……!」
千速へと親指を立てた。
“絶対に死なないから、そんな顔をしないで”
そういう意味を込めて。
千速も、泣きそうになりながら。
「…ん!」
親指を立てて、泣きそうだけど、その中で精一杯の笑顔をくれた。
それから。
よく覚えてないんだけど…。
「…私もその血液型なんだが私の血は使えないだろうか!?」
千速が、輸血を申し出てくれたのは聞こえてきて。
千速の血が。
私の中に入るんだというのは理解出来た。
あは、嬉しすぎない?それ。
もう絶対に一滴の血も流さないんだから。
そう思いながら。
泣きそうな千速の顔を見て。
私は手術室へと。
運ばれた。
–– また来やがったこの野郎 ––
また、真っ暗な場所。
さっきと同じ若い男たちがいた。
“…随分舐めた口の聞き方だな、お前。名乗れ小僧”
–– 誰が小僧だ!っつか、あんたは本来そんな口調じゃねぇのはもう知ってんだよ! ––
髪の短い彼に、本来の私を知られていて。
“……なんで知ってるのよ。千速から聞いた?”
口調を戻した。
–– 聞いたっつーより、見てたって感じかな ––
髪の長い彼が、ニヤリと笑った。
見てた?
–– いいか?よく聞け。俺らもうあいつの傍には居られねぇが、あんたは違う ––
髪の短い彼は、私の胸倉を掴んで。
“…なに…”
–– 本当は俺が千速を嫁にするはずだったのにそれはもう叶わねぇ。だから、あんたに千速を託すからよ ––
バッと私を離して。
–– こんなところで油売ってねぇで、さっさと千速んとこ戻れよな。あいつ今ヤベぇぞ ––
私に背中を向けた。
千速がヤバい?
“どういうこと?千速がヤバいってなに?”
髪の短い彼に手を伸ばせば。
–– 姉ちゃん、今にも△△のジジィに発砲しそうなんだよ。止められるのはあんたしかいないってことさ ––
発砲?
ああ、もしかして誰かが暴いてくれたのかな。
誰かって言っても、それが出来るのはあの親子しかいないんだけど。
それよりも。
“…ねえ…ちゃん…?”
私は眉間に皺を寄せて、髪の長い彼を見る。
あ、だからだ。
だから千速に似てるんだ。
“…あなた…千速の弟君…?”
髪の長い彼はニッと笑うだけで。
––おら!さっさと戻れ!んで、二度と来んなよ!? ––
–– 姉ちゃんを頼むぜ?冬華さんよぉ ––
髪の短い彼にまたゲシッと蹴られ、千速の弟君には背中を叩かれて。
「…ぅ…っ」
また。
世界に戻された。
「…!冬華さん!?」
ゆっくりと、少しだけ開く目が千速の姿を捉えた。
まだ泣きそうな顔してる。
「… 冬華さん」
私は力が入らない手を動かし、酸素マスクに触れる。
「なんだ、どうした?」
声が上手く出せない。
聞こえるかわからないけど、伝えてほしいと千速に言うと。
「ん、少しだけだぞ」
ちゃんと聞こえたみたいで、酸素マスクを少し浮かせて。
けいさつを…わたしのぶかを…なめるな…って言って。
千速に伝えると。
「…ふ、わかった」
千速は不敵な笑みを浮かべて。
「“警察を、私の部下を舐めるな、バーカ”だそうだ」
千速らしい一言を添えて、そう放った。
まぁそれからはまた意識が飛んだからわからないんだけど。
髪の短い彼と、千速の弟君はもう現れることはなかった。
『……ん…』
頬にある、温かい感触で。
徐々に意識が戻ってきて。
少しだけ目を開けた。
千速、どこだろ。
帰っちゃったかな。
視線を彷徨わせて、千速を探していたら。
「………冬華さん…」
小さく私の名を囁く声が聞こえて。
その声を辿れば、千速の顔が見えた。
ああ。
さっきみたいな、不安で、泣きそうな、そんな表情で。
『……ちは…や……』
まだちゃんと声が出ないけれど、千速の名を口にすると。
「……っ」
千速は、ポロポロと、涙を零し始めた。
「……ぅ……っ」
顔を伏せて、肩を揺らして、静かに泣いてる千速。
そんな千速に、手を伸ばして。
『……いつ…から…そんな…なきむ…しに…なったの…?』
小さく笑うと、千速はその手を取ってくれて。
「…っ泣かせてるのはいつも貴女なんだよ…っばかやろうが…っ」
千速の頬を、触らせてくれた。
温かいなぁ。
爆破事件の時みたいな、ギャン泣きじゃなくて。
ポロポロと、安心したかのような泣き顔。
可愛いなぁ。
千速の顔を見て、私の中に、千速の血が流れていることを思い出した。
「お、おい」
千速と手を繋いでいないほうの手で、酸素マスクに触れると。
「まだ取ったらだめだ」
千速に止められたけど。
『……とって…ちはや…』
酸素マスク越しじゃなくて、外の、千速と同じ空気が吸いたくて。
「…すぐ付けるからな」
千速は酸素マスクを取るのを手伝ってくれた。
「…はー…」
軽く息を吸って、吐いた。
自分の胸に手を置いて。
「…胸が痛いのか?」
心配する千速に、首を横に振って。
「千速の血が…流れてるんだな…って思うと…なんだか嬉しくて…」
血が繋がったとか、そんなわけじゃないけれど。
輸血はただの、不足した赤血球とかの成分を補うための医療行為だけど。
それでも。
千速の血で私は今生きているから。
なんだかすごく、幸せだなって思った。
「き、聞こえてた…のか…?」
千速は、自分の言葉が聞こえていたとは思ってなかったようで、ひどく驚いていた。
「えぇ…聞こえてた…千速の声だけは…はっきりと…」
薄れ行く意識の中。
千速の声だけが届いていたから。
私は何度もこの世界に戻ってきた。
まぁ、戻れよって、蹴飛ばされたのもあるんだけど。
「…ありがと…千速…」
“追え…ッ!犯人を…ッ逃すな…ッ”
私の命令に従わず、傍に居てくれて。
「っいいんだよ!当たり前のことなんだから…!」
千速はずっと泣いてて。
やっぱり可愛いなぁと思って。
「ふふ…、っ…ぅ…っ」
笑うと、激痛が走った。
痛すぎて泣きそう。
「っ冬華さんっ」
「だ…大丈夫…っ」
大丈夫じゃないけど、ギュッと千速の手を握る手に力が入っちゃったけど。
なんとか耐えて。
「…そろそろ酸素マスク付けるぞ」
「えぇ…」
千速が酸素マスクを付けてくれて、また手を握ってくれた。
少し、無理をしたみたい。
『…ちょっと…寝るわね…』
全身麻酔か、または点滴の作用かわからないけど。
すごく眠くて。
「あぁ、おやすみ。冬華さん…」
『おやすみ…千速…』
千速と小さく笑い合って、私は眠りに就いた。
朝、起きた時はまだ頭が回らなくてぼうっとしてたと思う。
「冬華さん、水飲むか?」
「ん…?えぇ…そうね…」
まだ手に力が入らなくて、カップを持つことも出来なかったから。
「ほら」
千速が飲ませてくれた。
「…ん…ん…」
………うぅ…冷たいお水が飲みたいよぅ…。
美味しくないよぅ…。
「はー……っつ…っ」
お水を飲み、体を倒すと激痛。
もう、泣きたい。
痛すぎて泣きたい。
背中側から入ったから、背中にも銃創がある。
うつ伏せも仰向けも痛い。
そんな痛みがある中。
「…ちはや…」
「ん?なんだ」
千速の顔を見て。
「…ありがとね…傍に居てくれて…」
改めて、傍に居てくれることにお礼を言った。
千速は小さく笑って。
「そんなの当たり前だろ?まったく…」
私の前髪に触れ、ちょいっと払ってくれた。
「…肩…痛くない…?大丈夫…?」
めちゃ強く歯を立てちゃったから。
「肩?大丈夫だよ。制服の上からだったしな」
確かに、制服は丈夫だものね。
よかった。
「… 冬華さん…」
「…ん…?」
千速は私の頬に手を添えてくれたから、私も千速の手に自分の手を重ねて。
千速は身を乗り出して。
「…ん」
キスをしてくれた。
いつものような激しさはなくて。
啄むようなキスだけど、ただ上部だけに触れるような。
優しいキスを。
ちゅ…と。
小さなリップノイズが耳に届き、唇を離して。
そのまま額を合わせて。
「…早く元気になってくれ…」
千速は願いを口にした。
「……そうね…早く元気になって、千速にちゃんと触れたいわ…」
キスも、もっと執拗で激しく深いキスを。
私たちはまた小さく笑って。
「ん…」
もう一度、唇を合わせた時だった。
コンコン ガラッ
「蒼月警視、失礼しま俺は何も見ていない」
横溝が扉を開けて、すぐ閉めたのは。
「あら…見られた…」
「っおい重悟!!お前ノックをしたなら返事を待ってから開けろよ!」
千速はそう言いながら扉のほうへ走って行った。
…それは千速にも言えることだけどね、なんて思った。
未だはっきりしない頭。
千速と横溝が何か会話をしてるみたいだけど、聞こえてはこない。
千速がベッドの横に戻ってきた。
「…よこみぞ…なんだったの…?」
「妃さんたちが面会したいそうなんだ」
「…英理たちが…」
…面会か。
正直、まだ面会出来るほど頭がはっきりしてないからなぁ。
「まだ頭がハッキリしてないだろ?だからちょっと待ってもらったよ」
けど、千速が気を利かせてくれたからよかった。
「ありがと」
お礼を言って、目を閉じる。
「ん?」
千速の声。
どうしたのかしら。
視線だけを千速に向けると、小さなメモ書きみたいなのを見て。
段々と眉間に皺を寄せた。
「…千速?どうしたの…?なにその紙…」
千速が持ってるメモ書きについて聞けば。
「いや、前にこの病室を使ってた奴のゴミだった」
ニコリと笑って、紙を握り締めてポケットに入れた。
明らかな嘘。
「…本当に?」
ジト目で睨む。
「嘘を言ってどうするんだよ」
「じゃあ見せて」
「ダメだ。目に毒すぎる」
「…千速」
「ダメだったらダメだ」
どうしたって見せる気がないのね。
千速とジト目で睨み合ってると。
コンコン
「失礼します。手術痕の消毒と点滴を替えますね」
看護師さんが入ってきた。
一時休戦、ね。
「冬華さん、体調はどうですか?」
「悪くありません…大丈夫です」
看護師さんは私の隣にある点滴を付け替え、点滴の落ちる速度を確認して。
「体起こせますか?」
「…っぅ…っ」
ゆっくりと体を起こそうしたら。
「大丈夫だ、支える」
千速が支えるように抱き締めてくれた。
「…ああ、すまない…」
あー、このまま居たいわね。
抱き締められたままで居たい。
背中を捲られ、ガーゼを取られるのも痛い。
「……ぅわ…」
「…うわって聞こえたぞお前…」
「い、痛そうすぎる…」
痛そうじゃなくて死ぬほど痛いわよ…。
でも大人だから我慢してるだけ…。
子供だったらギャン泣きレベル…。
「今はまだ手術が終わったばかりなので痛そうですが、時間が経てば薄くなってきますよ」
「…だが、残る…んだよな…傷跡…」
「…そうですね、それは…恐らく消えることはないかも…」
背中とお腹に残っちゃうかー。
でも千速以外に見せる機会ないし、まぁいいか。
「では次、前側を…」
背中の消毒が終わって、次は前側。
「……ちょっといいですか」
「…はい?」
千速が看護師さんの手を止めて。
「…そんなに捲る必要あるのだろうか?」
と、言い出した。
傷の位置は、お臍の並びの左側腹部。
今、捲られてるのは胸が見えそうなくらいというかほぼ見えてる状態。
「あ、いえ…あ…えーっと…」
看護師さんはしどろもどろになって。
「…千速…看護師さんを困らせるんじゃない…」
ちょっと千速へ注意すると。
「あのな、困ってるわけじゃねぇよ」
どこか怒ってる雰囲気の千速に。
「では終わりましたのでこれで!!!」
ささっと消毒をして、出て行った。
「……千速が脅すから」
入院着を戻し、ジト目で千速を睨む。
「あんた今、セクハラを受けそうになった自覚ある?」
セクハラ?
「…消毒してくれただけでしょ」
すぐ大袈裟に騒ぐんだから。
「胸が見えるくらい捲る必要あるのかどうかの質問に、なんであんなに動揺するんだよ」
まぁ確かに動揺はしてたけど。
あんなに睨まれちゃ動揺もするでしょ。
「あなたは色々気にしすぎよね」
「いやいや!本部でのシャワーといい、あんたが気にしなさすぎなんだっつの!」
すぐ怒るんだから。
私はため息を零し、横になろうとすれば。
「……ぃ…っつ…つ…」
「!ほら、ゆっくり」
千速は落ち着いて、手伝ってくれた。
「…はぁ…だいぶ意識もハッキリしてきたから、面会大丈夫そうよ」
「じゃあ、午後から面会出来る旨を重悟に伝えるよ」
千速はスマホをいじり、横溝に連絡をしてくれた。
いつ頃退院出来るのかしら。
明日とか無理かな。
「…しばらく一人か」
千速の呟き。
「あら、寂しくて寝れない?」
揶揄ってやれば。
「っそ、そんなわけあるかっ」
顔を赤くして否定してきた。
…しばらく一人、か。
私は一人、やだなぁ…。
どんなに遅く帰っても、“おかえり”って言ってくれる千速が恋しい。
病院に泊まってほしいくらい。
一人だった夜が思い出せないくらい、今は千速にハマってる。
なんて、恥ずかしいから言わないけどね。
……で。
「こんな怪我をして!!警察なんて辞めなさい!!」
午後からの面会で、英理にめちゃくちゃ怒られた…。
「…したくてした怪我ではないぞ…」
毛利も引くくらいの勢いで、ね…。
「少年が?」
「あぁ、なぜか冬華さんの機密データを持っててあの子が暴いてくれたんだ」
英理たちが帰った後に千速に聞かされたのは。
なぜかあの少年が私が集めた重要機密データを持っていた、ということ。
銀行の貸金庫に預けてあったデータは、代理人を立ててない私にしか開けられないのにも関わらず。
そんなことが出来るのは一人しかいない。
ユキが私に変装して貸金庫を突破したんだ。
あの場には新一もいたし、ユキに頼んだに違いない。
でもまぁ、それは予想してた。
今回に限らず、万が一私が何者かに殺害された場合。
私はタダでは死なないから、ユキの旦那の優作さんが絶対に何か情報があるはずだと勘付き、銀行の貸金庫の存在に気付いてくれる。
で、ユキに私に変装させて突破して、という流れになるだろうと思っていたから代理人は立てなかった。
まぁ、それが優作さんではなく新一だったってことに驚いたけどね。
「あの少年は本当に何者なんだろうな」
「…でもまぁ、あの子のおかげで助かったから。深くは詮索しないでおきましょうか」
「だな」
今回の件で大きな借りを作っちゃったわね。
ちゃんと返さないと。
「っと。冬華さん、入院に必要なものを買ってくるよ」
「えぇ、ありがと」
急な入院だから、何も用意していないため千速が買いに出てくれることに。
「何か欲しいものあるか?」
「コーヒー飲みたいわ」
「それは医師と相談してからだ。今は食事制限しないとだからな」
「えー…。コーヒー飲んで、お腹からピューッと出たらどうしよ」
「…ふ…っそ、そんなわけ…ふ…っ」
「でももしかしたら、があるじゃない?」
「っく…ふ…っギャグ漫画でも…っあるまいし…っふは…っはははっ」
冗談を言えば、思いの外千速にウケたみたいでめちゃ笑ってる。
ふふ。
よかった。
ちょっと元気になったみたいね。
千速は目に涙を溜めながら笑って。
「ん」
ちゅ、と触れるだけのキスをしてきて。
「じゃあ行ってくる…ふふ…っ」
「ふ…っぃた…っちょっと笑わせないでよ…っ」
ずっと笑ってるから、私も可笑しくなっちゃった。
千速が扉のところに行った時。
コンコン
ノック音が聞こえきて。
「はい」
千速が扉を開けると。
「冬華ー!あんた生きてんのー!?」
ユキと。
「…こ、こんにちは…」
新一が立っていた。
あらま、親子で来たか。
「こんにちは工藤さん、少年」
「千速ちゃん!あのバカに輸血してくれたんだって!?ありがとねぇ!!」
「バカとはなんだバカとは…」
「い、いえ…当然のことだからな」
千速はユキにギュッと抱き着かれて、苦笑いを零した。
私はその様子を見つつ、新一へ視線を送ると。
「……っ」
新一は私の視線に気付き、ワタワタした後 肩を落とした。
バレてると気付いてるのね。
「じゃあ冬華さん」
「あぁ、頼む」
千速はユキを引き剥がし、軽く会釈をして買い物に行った。
「本当、英理からあんたが撃たれたって聞いて驚いたわよー」
ユキと少年が私のベッドへと歩み寄ってきた。
「英理から、ではないだろ?」
「へ?」
私は病院のベッドの背中を上げて、凭れかかるように座って。
「そこの、お前の息子から聞いたんじゃないのか?」
視線だけをユキに向けた。
「…な…なにを言ってんのよー…」
乾いた笑みを浮かべてるけど。
「お前じゃないと銀行の貸金庫は突破出来ないからな」
私の言葉に、二人は顔を見合わせて。
「…ヤバいかもとは思ってたんだよね」
「だから冬華にはバレるって言ったのにー…」
認めた。
「貸金庫を突破したから気付いたんじゃなく、シンの盗聴器で気付いたよ」
新一、ではなく。
昔からの呼び方で呼ぶ。
「…あれで気付くのはあんたくらいだよ」
「誰でも気付くだろ。千速は毛利に触れてないんだし」
まったく、私を前にして考えが甘いのよね。
「で?お前、何故そんな姿なんだ?何かヤバい事件か?」
で、すぐに話題を現在の姿についてに切り替える。
「…まぁちょっとね」
「私も危ないからって何回も言ってるのに言うことを聞かないのよ!?」
探偵としてのプライドかな。
まだ高校生なのに、この子は。
「この件はオレが解決してみせる!だから絶対に手を出さないでくれ!」
真剣な眼差しで私を見据えてくる。
まだまだガキンチョだと思ってたけど、一丁前になったじゃない。
「…わかった。だが私の力が必要になればいつでも連絡をして来い。力になってやるよ」
「本当か!?」
「あぁ、受けた恩を返さねば落ち着かないからな」
「サンキュー!冬華さん!」
笑ってやれば、新一も悪戯に笑った。
と、その時。
コンコン
「失礼しまーす」
先ほどとは違う看護師さんが入ってきた。
「蒼月さん、どうですか?体調」
看護師さんは二人に軽く会釈をして、点滴を確認しながら私に調子を聞いてきた。
「悪くないです。大丈夫です」
さっきも言ったんだけど。
こんなに頻繁に来るものなのかしら。
まぁ昨日手術したばかりだから、色々あるんだろうけども。
「お熱を測ってみましょうか」
「体調は悪くないが、測るのですか?」
「はい、一応念のために」
念のため、ね。
「「………」」
チラッと二人を見れば、ジト目で看護師さんを見てる。
千速が看護師さんを睨んだ時みたいに。
「体温計を…」
看護師さんがベッドに膝を付き、入院着に手をかけてきた時。
「ほら!あんたいつまでも怪我人面してないで自分で測りなさい!看護師さんの手を煩わせないの!」
「…怪我人面って… 冬華さん昨日撃たれたばかりなんだけど…」
「お゙…ッまえ…っ体温計をそんな勢いで口に差し込むなっ」
ユキが看護師さんから体温計を奪い、私の口に差し込んできた。
吐くかと思った。
しかも口で測るタイプじゃないでしょこれ。
「大丈夫なので!今は私が面倒見ますので!こいつ恋人いますので!」
何故かユキが怒り気味に看護師さんを威嚇し始めた。
「あ…えーっと…」
看護師さんはしどろもどろになって。
「そ、そうですか…!よろしくお願いしますねっ」
慌てて去って行った。
「千速といいお前といい、なんでそんなに看護師さんを威嚇するんだ」
「ねぇ、今セクハラされそうになったのわからない?」
「…千速にも言われたが、医療行為をセクハラと決めつけるな」
「はー…あんたは昔からそう…。他人の好意に興味がないから気付かない…」
「…千速さん…どうやって落としたんだろうな、この人を…」
…なんか呆れられてない?
気のせい?
「恋人がこの手に関しての危機感がなくて千速ちゃんが不憫だわ…」
「…そこまで言うか…?」
千速以外の人間の好意なんてどうでもいいから、意識する必要なくない?
「逆にさ、冬華さん。千速さんが冬華さんと同じことをされてたらどう思うんだよ」
千速が、私と同じことを?
…本部でシャワーを浴びた時に千速に言われたやつね。
「…私は今何をされ「入院着を肌蹴させられそうになったの」
今、何をされそうになったのかもわからないけど…。
千速が入院したとして、入院着を、肌蹴させ…られ…。
「…ッぃた…っ痛い…っ傷口が開く…っ」
「怒りで力が入りすぎている…」
「そういうことよ!いい?冬華、ちょっと千速ちゃんの立場になって考えてみなさい!」
千速の立場になって…ね…。
「でもさ、そもそもセクハラされそうになってることにすら気付いてねぇんだぜ…?この人…」
「…救いようがないわね、本当に…」
「…ぅ…」
何も言い返せない…。
「とにかく!自分が触られた箇所を千速ちゃんが触られた箇所だと思ってみなさい!そうしたらわかるから!」
「わ、わかったわかった…そこら辺を意識してみるよ…」
「医療行為とセクハラの区別をちゃんとつけよう…」
ユキにお説教をされて、新一にも言われた…。
面倒くさいけど、千速が不憫と言われちゃったからそこら辺は気を付けていかないと。
「じゃあ私たちは帰るけど、ちゃんと気を付けなさいよ!?」
「わ、わかったって…」
「また来るから!」
「じゃ、じゃあまた…」
ユキはジト目で私を睨み、指を差しながら二人は去って行った…。
「…千速以外に興味なさすぎるのも良し悪しってことかしら」
気を付けるって言ったって、どうやって気を付けたらいいのかな。
私別に何もしてないのに言い寄られてる側なんだけど…。
昔からそう。
顔も見たことのない後輩、名前も知らない隣のクラスの子、ただ話しかけられたから少し会話しただけの先輩。
“好きですっ”
“好き!!”
“好きだ”
そう言われ続けた。
なんで?
どうして?
どこに好きになる要素が?
疑問だらけで。
話をかけただけで好かれたと思われることもしょっちゅう。
だから私には、英理とユキしか普通に話せる友人がいなかった。
「…今思えば、二人が居なかったら楽しい学校生活ではなかったわよね」
英理とユキが居てくれたから卒業出来たけど。
居なかったら中退していたレベルで面倒臭かった。
そして、そんな二人が真っ先に面会に来てくれた。
「持つべきものは友、ってね」
私は小さく笑って。
「体温計、どうしよ」
ユキに口に押し込まれた体温計を見て。
「……」
千速が体温計を咥えて熱を測ったことを想像して。
「…ちょっと消毒液ないかしら」
念のため、悪さされないように。
ベッドの布団で壊れるんじゃないかというくらい拭いて。
わざと床にも落として。
「あ、蒼月さん体温計…」
「あ、すみません。落としてしまって…」
「い、いえ!大丈夫です!」
体温計を取りに来た看護師さんに拾ってもらった。
申し訳なかったけど、仕方ないわよ…ね?
「ただいま、冬華さん。美味そうなゼリー買ってきた」
「おかえり千速。ちょっとキスしてくれない?」
「ん?わかった」
帰ってきた千速にキスをしてもらって。
「どうしたんだ?何かあった?」
「ユキにめちゃ怒られたの」
「…妃さんにも怒られ、工藤さんにも怒られて…ちゃんと反省してるのか?」
「…どうしてなんで怒られたかを聞かないで反省促すのよ」
「どうせ冬華さんが悪いからな」
むぅ、と頬を膨らませれば。
「ゼリーと、アイスも買ってきたぞ。医師には内緒な」
「大好き、千速」
「私も好きだ」
ニッ、と、千速と笑い合った。
まぁ、それから…。
『いい?冬華、これ以上萩原さんから報告が上がったら、あなたが黙っていても私は徹底的に戦うから。それが病院が相手だとしても負ける気はしないからね?』
「…わかりました。ちゃんと気を付けます」
千速は英理に相談したらしく…。
千速のスマホに英理から連絡があって…。
英理にセクハラを容認するなら病院を訴えると脅された…。
容認してるわけじゃなくて…セクハラだと思ってなかっただけなんだけど…。
「少年にも言われたぞ、冬華さん。医療行為とセクハラを履き違えてるから気を付けてねって」
「あんのガキャァ…」
……私悪くなくない?もう…。
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