pixiv作品 名探偵コナン
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「……眠れん」
あれから自宅へと戻ってきた。
風呂に入る気にも、飯を食う気にもなれなくて。
ただ一人で、ソファーに座り天井を見る。
“…ごめん…撃たれた…”
あの言葉に脳内が支配される。
目を閉じればあの光景が浮かんで。
目を閉じるのが怖くなった。
「…冬華さん…」
抱き締めて、背中を摩って。
“大丈夫”と言って欲しい。
いい大人が恥ずかしいかもしれんが、今の私はそうでもしないとトラウマを克服出来そうにない。
だって、目を閉じたら冬華さんが倒れる瞬間が見えるんだぞ?
夥しい量の血を垂れ流しながら、膝から崩れるあの光景が浮かんでしまう。
テレビで気を紛らわせる気にもならない。
時計へ視線を移せば、とっくに日付が変わっていて。
何なら朝方と言ってもいいくらいの時間帯だ。
…今から病院へ戻ったってまだ入れないよな。
まだICUから出れないだろうし、傍には居られないのもわかってる。
でも。
それでも落ち着かないし、すごく気になるから。
「…行ってみるか」
入れるとは思わないが、少しでも近くに居たい。
私は上着を羽織り、バイクの鍵を手に取って。
「こっそり入れるかなー」
入れる場所があったら入ってやろうと思いながら、リビングの電気を消した。
「!重悟、お前どうした?こんな時間に」
病院に着いた頃には空が白んできて。
病院の入り口には、なんと重悟がいた。
「やっぱり来たか」
どうやら私を待っていたようだ。
「やっぱりって、私が来ると思ってたのか?」
「あぁ、お前なら絶対に来ると思った」
居ても立っても居られないだろうしな、と重悟は続けた。
私は小さく笑って、入り口の窓ガラスを覗き込んだ。
誰も居ないのかな。
「どこか入れそうなところ知らないか?」
「…警察呼ばれるぞ」
「お前が弁明してくれよ」
警察を呼ばれたら重悟に責任を取らせる。
こいつは私より一つ階級が上だし。
「…まったく。お前は本当に自由な奴だよ」
重悟はそうため息を零して、私の腕を掴んだ。
「!お、おい…!なんだよ!私はどこにも行かないからな!」
「うるせぇ。騒ぐな。黙って付いて来い」
向かったのは、病院の職員が利用するだろう入り口で。
「は、入れるのか?」
「警備の交代でな。俺ら刑事は許可されてるんだよ」
だからこいつ、私を待ってたのか。
絶対に来るとわかってて。
重悟が私の腕を離したから、重悟の隣を歩いて。
「愛してるぜ、重悟」
ニッと笑ってやると。
「…警視に殺されるから二度と言わないでくれ」
顔を真っ青にさせた。
「失礼な奴だな!喜べよ!」
「馬鹿野郎!喜べるかっ」
静かな院内に私たちの会話が響き、思わず口を塞ぐ。
「(静かに歩けっ)」
「(お前こそ!)」
ゲシッと重悟を蹴り、冬華さんがいるICUに向かう。
「!横溝警部、萩原警部補、お疲れ様です」
冬華さんがいるICUを警護している重悟の部下たちが私たちに気付き、敬礼をした。
「おう。ご苦労さん。交代だ」
「すまんな、ありがとう」
「いえ、では自分らはこれで」
「失礼します」
私も重悟もそいつらに敬礼をして、そいつらは帰って行った。
「…まだ目が覚めないか」
窓ガラス越しに眠る冬華さんを見る。
さすがにICUでの面会時間は破れないため、正式な面会時間までここにいるしかない。
「…まだ配線だらけだ」
一時的にでも目を覚ましたのが奇跡だが、バイタルが乱れた時は心臓が一回止まったと思う。
「なぁ、千速」
「あん?」
「お前さ、さっき蒼月警視の言葉を代弁しただろ?」
冬華さんの言葉?
“警察を、私の部下を舐めるな、バーカ”
ああ。
「したな。それがどうした?」
重悟はジト目で私を見て。
「最後のあれ、お前の言葉だろ」
最後のあれとは、“バーカ”の部分のこと。
そう。
冬華さんから伝えられた言葉は。
“けい…さつを…わたしの…ぶかを…なめるな…っていって…”
だった。
「バレたか」
私は重悟に悪戯に笑いかけ、冬華さんへと視線を戻す。
「バレバレだっつの。最後のは警視の言い方じゃねぇからな」
冬華さんが警視として放つなら、“バーカ”ではなく。
“馬鹿が”とか、もっと強い語気で放つだろう。
「何か一言言ってやりたかったんだよ」
“バーカ”は、私にしたら我慢したほうだ。
本当は“クソ野郎”とか“死ね”とか言ってやりたかった。
だがそれだと冬華さんの言葉としてあまりにも品がないから。
“バーカ”で終わらせた私は結構偉いだろ?
「で?芋は掘れそうなのか?」
「まだ何ともだが、警視長二名はアホみたく黙秘を貫いてて警視正と警視たちはゲロったよ」
全ては警視長二名が企てたことから始まり、警視正と警視の階級の奴らは金で釣られた、と。
「…金か。クソだな、本当」
「まったくだな」
金のために警視総監暗殺に加担し、そこにたまたま居合わせた冬華さん諸共と殺害しようとしたのか。
しかし、奴らの誤算は冬華さんを巻き込んだこと。
警視総監一人なら、あの爆破事件で殉職していたかもしれんが。
冬華さんの行動力と聡明さを見誤ったあの馬鹿どもの落ち度だな。
「…あー…冬華さん…警視庁へ異動だよなー…」
窓ガラスに両手を付き、俯いてため息を零す。
死者を一人も出さずに警視総監を守り、さらには暗殺計画まで暴いた功績がデカすぎる。
「今回の功績はでかいからな。勲章授与と警視庁へ異動と同時に昇格、って感じか」
遠距離恋愛か…。
今までみたいに、私の家から通ったり冬華さんの家から通ったりが出来なくなるし。
何なら会える頻度だって劇的に減る。
さらに昇格すれば、元々忙しい人だったのに今よりももっと忙しくなって。
下手したら月一も無理だ。
「…いやだー…嫌すぎる…」
絶対に嫌だが、“命令”である以上仕方ない、か…。
…あの人はきっと“命令”なら従うだろうし。
「だがまぁ」
「?」
重悟はチラッと私を見て。
「本部長が手放さねぇと思うがな」
小さく笑う。
「本部長が?なんでまた」
「お前、蒼月警視がしょっちゅう本部長に呼ばれてんの知ってんだろ?」
「あ、あぁ、まぁ」
また面倒ごとを押し付けられる、と零していたこともあるからな。
「結構仕事を押し付けられてんだよあの人」
“もう年だから体が痛くて痛くてゴルフしか出来ない”
“ゴルフ出来てるのなら十分でしょうがポンコツですか”
“そうポンコツなんだよ!だからこの件頼むね!”
“…本部長はその間何をしておいでで?”
“ん?君がミスをした場合を考えての責任を取る準備!”
“……私が今までミスをしたことは?”
“ないね!だから実はあまり準備してない!”
という会話が結構されてたようで。
「ってな感じでいつも“ポンコツが”っつって文句を言ってるんだ」
「…本部長相手でも揺るがないのか…あの人…」
重悟はクツクツと笑って。
「だから神奈川県警としては、あの人が抜けるのは相当な痛手なんだ」
重悟も窓ガラスの向こうにいる冬華さんへと視線を向けた。
警視庁として一番欲しい人だろうし、神奈川県警として一番手放したくない人だ。
みんなから必要とされてるんだな、冬華さんは。
重悟と冬華さんを見つめながら話していると。
「!刑事さん」
看護師が来た。
「警備を交代したんだ」
「そうなんですね」
看護師が私を見て会釈をしてきたから、私も軽く会釈を返す。
「冬華さん、容態が安定しましたよ」
「!じゃ、じゃあ…」
ICUから出られる?
「はい、これから一般病棟の個室に移送します」
カラカラ、と小さな音を立ててベッドごと冬華さんがICUから出てきた。
「… 冬華さん」
ベッドを覗き込むと、冬華さんはスゥスゥと寝息を立てていて。
「…さ、触っても…?」
「大丈夫です」
看護師が小さく頷いたから、冬華さんの頬に触れた。
暖かい。
生きている温もり。
「…まだ全身麻酔が…?」
「いえ、全身麻酔の影響というより術後の鎮痛剤投与をしているのでその影響です」
鎮痛剤の影響か。
「…そうか…」
「では、移送しますね」
ベッドから離れ、ベッドを押す看護師に付いて行く。
付いて行きながら、チラッと重悟を見る。
…さっきの話。
冬華さんの伝言を伝えた時の。
“私の部下を舐めるな”
この言葉は、多分重悟に向けての言葉だろう。
こいつには絶対に言わないが、冬華さんが刑事課の中で最も信頼を置いているのが重悟で。
だから重悟に私を託したんだろうな。
…ムカつく。
「……妬けるな」
「なんだ急に。何に嫉妬してんだよお前は」
「…お前らなんか通じ合いすぎんか」
「お前らって、俺と警視か?」
「そうだよ」
私の冬華さんなのに。
「それは仕方ねぇっての。俺はお前が神奈川県警に配属される前からあの人の部下なんだから」
私が配属される前からの部下。
私は重悟をジト目で睨んで。
「死ね」
ふん、と顔を逸らすと。
「お前なぁ。もっと可愛く嫉妬しろよ」
「嫉妬に可愛いもクソもあるかよ」
「クソはあるだろ。今のお前だよ」
「喧しい!死ね!」
クツクツ笑う重悟に、また蹴りを入れてやった。
「こちらです」
一般病棟の個室に移送された。
「あの、起きたら水は飲ませてもいいのだろうか?」
絶対に喉が渇いてるだろうし、水くらい飲ませてやりたいのだが。
「先生に確認取っておきますね」
「すみません」
看護師が病室から出て行って。
「じゃあ千速、俺ぁ警護に移るからよ」
「私はここに居てもいいのか?」
「ダメだっつったら帰るのか?」
「帰らない!」
重悟はため息を零し、ジト目で私を睨み、私へと指を差した。
“静かにしとけよ?”と言わんばかりに。
「ん!」
私は笑顔で親指を立てて返事をした。
そして、冬華さんと二人きりになった。
「……」
酸素マスクが曇って、ちゃんと呼吸してる。
心電図の音も正常。
椅子に座って。
「……綺麗な寝顔だな」
冬華さんの寝顔を見つめる。
腹の銃創以外の外傷はなし。
二発目が放たれる前に毛利探偵がカフェテーブルを倒してくれたから。
貫通はしたが、その一発で済んだ。
“運が悪かったら即死”
重悟の言う通り、運が良かったんだ、貴女は。
これが映画やドラマで出てくるようなスナイパーなら、頭をぶち抜かれて死んでるんだよな。
「……本当…運が良かった…」
また、そっと頬に触れると。
「……ん…」
冬華さんが僅かに身動いだ。
しまった。
起こしたか?
冬華さんはゆっくりと目を開けて。
「……」
ゆっくりと視線を彷徨わせて。
「………冬華さん…」
私の小さな呼びかけに、冬華さんは私を見つけて。
『……ちは…や……』
酸素マスクの中で。
私の名を呼び、小さな笑みを浮かべてくれた。
「……っ」
無理だ。
ああ、無理だ。
「……ぅ…っ」
堪え切れない。
とても堪え切れない。
起こしてすまないと言わなければならないのに。
涙が溢れて。
息が詰まって。
言葉を発せない。
「……っ!」
冬華さんはゆっくりと、震える手を伸ばして。
『……いつ…から…そんな…なきむ…しに…なったの…?』
私はその手を取り、自分の頬へと誘導して。
「…っ泣かせてるのはいつも貴女なんだよ…っばかやろうが…っ」
ギュッと、強く握った。
朝までは聞いていたはずの声が、どこか懐かしく聞こえて。
聴きたかった声に。
ますます涙が溢れた。
すると。
「!お、おい」
冬華さんはもう片方の手で酸素マスクに触れて。
「まだ取ったらだめだ」
まだ鎮痛剤の影響で眠たげだし、医師の許可なく酸素マスクを外すわけにはいかない。
しかし。
『……とって…ちはや…』
取れという冬華さんの頼みを聞き入れて。
「…すぐ付けるからな」
一度手を離し、少しの間だけ外してやると。
「…はー…」
軽く息を吐いて、自分の胸に手を当てた。
「…胸が痛いのか?」
ナースコールに手を伸ばすと、冬華さんはまた首を横に振って。
「千速の血が…流れてるんだな…って思うと…なんだか嬉しくて…」
小さく笑みを浮かべた。
え?
なぜ私の血が入ってるって知って…。
まさか。
まさかあの時。
「き、聞こえてた…のか…?」
あの時の言葉が。
“…私もその血液型なんだが私の血は使えないだろうか!?”
耳に届いていたのか?
「えぇ…聞こえてた…千速の声だけは…はっきりと…」
周りの声は遠くなり聞こえなくなっていく中で。
私の声だけが。
この人の耳に届いていた。
「……っ」
冬華さんの手を両手で握り締め、額に付ける。
好きだ。
ヤバいくらい好きすぎて。
おかしくなりそうなくらい好きで。
もう好きという言葉では言い表せないほど。
–––– 私はこの人が愛おしい。
抱き締めたい。
今すぐに抱き締めて、キスをしたい。
でも無理はさせられないから。
「…ありがと…千速…」
「っいいんだよ!当たり前のことなんだから…!」
「ふふ…、っ…ぅ…っ」
クスクスと力なく笑い、痛みで顔を歪ませて。
「っ冬華さんっ」
「だ…大丈夫…っ」
私の手を握る手に力が入った。
もう休ませないとダメだな。
「…そろそろ酸素マスク付けるぞ」
「えぇ…」
酸素マスクを付けて、また手を握る。
『…ちょっと…寝るわね…』
「あぁ、おやすみ。冬華さん…」
『おやすみ…千速…』
小さく笑い合い、間も無く冬華さんは寝息を立て始めた。
「…眠れなかったのに、今は眠れそうだ」
私も何だか眠くなってきた。
冬華さんの声を聞いて、安心したからかな。
冬華さんの寝顔を見て、冬華さんの手を握ったまま。
ベッドに上半身を預けて。
「…おやすみ…冬華さん…」
もう一度おやすみを口にして。
私も、ようやく眠ることが出来た。
「冬華さん、水飲むか?」
朝、目を覚まして。
医師からは常温の水なら摂取してもいいと言われたから。
病院から水をもらって、冬華さんに飲むかを聞けば。
「ん…?えぇ…そうね…」
まだぼうっとしていた。
投与している鎮痛剤の影響で眠いんだろうな。
「ほら」
手にまだ力が入らないようだから。
「…ん…ん…」
私が飲ませてやったんだが…。
「ん…」
…漏れ出る声が…なんかエロい…。
「はー……っつ…っ」
少量の水を飲み、体を倒すと顔を歪ませる。
貫通してるから背中側にも傷がある。
うつ伏せも痛いし仰向けも痛いしで可哀想だな…。
「…ちはや…」
「ん?なんだ」
顔だけをこちらに向けて。
「…ありがとね…傍に居てくれて…」
眠たげな表情で、感謝の言葉を口にした。
「そんなの当たり前だろ?まったく…」
感謝されることじゃないっつの。
「…肩…痛くない…?大丈夫…?」
「肩?」
ああ、肩に噛み付いたものな。
「大丈夫だよ。制服の上からだったしな」
相当な力が入っていたが、赤くもなってなかった。
「…そう…よかった…」
トロンとした表情で、ふにゃりと笑う。
……誰にも見せたくないな。
今のこの人を…。
「…冬華さん…」
「…ん…?」
冬華さんの頬に手を添えれば、冬華さんも私の手に自分の手を重ねてくれて。
「…ん」
私は身を乗り出し、冬華さんへ。
ずっとしたかったキスをした。
優しく、緩やかな。
啄むようなキスをして。
小さなリップノイズを立て、唇を離して。
そのまま額を合わせて。
「…早く元気になってくれ…」
そう願う。
「……そうね…早く元気になって、千速にちゃんと触れたいわ…」
今は絶対安静だから。
それまで待ってるから。
「ん…」
もう一度、冬華さんにキスをした時に。
コンコン ガラッ
「蒼月警視、失礼しま俺は何も見ていない」
突然重悟が扉を開けて、私たちの状況を瞬時に理解して、瞬時に目を閉じて、瞬時に扉を閉めた。
「あら…見られた…」
「っおい重悟!!お前ノックをしたなら返事を待ってから開けろよ!」
私はすぐに立ち上がり、走って扉のところへ行って扉を開けた。
「…何がだ?俺は何も見てねぇ」
ずっと目を閉じている。
「…目を開けろ!変に気を使うなっ!」
チラッと私を見て、チラッと冬華さんを見て。
「… 蒼月警視は話せそうか?」
普通に目を開けた。
まったく…。
変に気を使われるほうが恥ずかしい…。
「… 冬華さんはまだぼうっとしてるから込み入った話は無理だ」
「そうか。毛利探偵らが面会したいそうだが…」
「…面会か」
それはそうだよな。
目が覚めた友人に会いたいよな。
チラッと冬華さんを見る。
「「……」」
ぼうっと布団に視線を落として、ウトウトしてる。
「もう少し後の時間にしてもらうか」
重悟も冬華さんの様子を見て、今はまだ面会出来る状況じゃないと理解したようだ。
「悪いな。大丈夫そうになったら連絡する」
「わかった。そう伝えておく」
重悟はもう一度冬華さんに視線を向けて、軽く会釈をして去って行った。
「…よこみぞ、なんだったの…?」
「妃さんたちが面会したいそうなんだ」
冬華さんのところに戻り、椅子に座る。
「…英理たちが…」
「まだ頭がハッキリしてないだろ?だからちょっと待ってもらったよ」
そう告げると、冬華さんは小さく笑って。
「ありがと」
お礼の言葉を口にした。
きっと今の姿は見られたくないだろうし。
…見せたくないしな。
例えそれが友人だったとしても。
こんなフワフワしてる冬華さんを誰にも見せたくない。
「ん?」
ふと、病院に備え付けられている机の上を見ると、数枚の折り畳んである白い小さな紙があった。
なんだこれ。
開いてみると。
“元気になったらここに連絡ください!×××-××××-××××”
“×××-××××-××××です!いつでも連絡ください!”
“一目惚れしましたっ!×××-××××-××××に連絡ください!”
「……」
…全部の紙に連絡先が書いてあった。
そうだった…。
この人は学生の頃にモテすぎて不登校になった人だった…。
それは今も健在のようで、こんなゴミを仕掛けられるんだな…。
「…千速?どうしたの…?なにその紙…」
冬華さんはこの紙の存在に気付いていないようなので。
「いや、前にこの病室を使ってた奴のゴミだった」
私はニコリと笑いそう言って、クシャッと握り締めて捨てるフリをし、ポケットに入れた。
ここに捨てたら、もしかしたら冬華さんに気付かれるかもしれないからな。
帰りに神奈川県警に寄ってシュレッダーに掛けて粉々にしよう。
いや、どこかで燃やそう。
「…本当に?」
「嘘を言ってどうするんだよ」
「じゃあ見せて」
「ダメだ。目に毒すぎる」
「…千速」
「ダメだったらダメだ」
絶対に見せない。
ジト目で睨み合っていた時に。
コンコン
「失礼します。手術痕の消毒と点滴を替えますね」
看護師が入ってきた。
「…!」
看護師は私に気付き、会釈をする。
「……」
私も会釈を返したが…。
…今の連絡先の一人か?
「蒼月さん、体調はどうですか?」
「悪くありません…大丈夫です」
看護師は点滴を取り替えて、点滴の落ちる速度を確認して。
「体起こせますか?」
「…っぅ…っ」
冬華さんがゆっくり体を起こしたから。
「大丈夫だ、支える」
「…ああ、すまない…」
冬華さんの体を支えるように抱き締めた。
「「……」」
チラッと看護師が私を見たことで確信した。
こいつ、あの連絡先の一人だ。
「…っ」
まずは背中側の術後創の消毒をする。
「……ぅわ…」
「…うわって聞こえたぞお前…」
「い、痛そうすぎる…」
術後創を見ると、思わず目を背けたくなるほど。
「今はまだ手術が終わったばかりなので痛そうですが、時間が経てば薄くなってきますよ」
確かに、昨日手術をしたばかりだものな…。
「…だが、残る…んだよな…傷跡…」
「…そうですね、それは…恐らく消えることはないかも…」
はぁ…。
綺麗な冬華さんの体が傷物に…。
あのクソ野郎…同じ傷跡付けてやりゃよかった…。
「では次、前側を…」
背中側の消毒を終え、今度は前側の消毒。
「……ちょっといいですか」
「…はい?」
私は看護師の手を止める。
「…そんなに捲る必要あるのだろうか?」
胸が見えそうなくらい捲り上げやがる。
傷はヘソの位置くらいの左側腹部なのに、だ。
「あ、いえ…あ…えーっと…」
しどろもどろになってる。
「…千速…看護師さんを困らせるんじゃない…」
「あのな、困ってるわけじゃねぇよ」
私が睨みを効かせると、看護師はビクッとしてささっと消毒をして。
「では終わりましたのでこれで!!!」
さっさと出て行った。
「……千速が脅すから」
「あんた今、セクハラを受けそうになった自覚ある?」
…まぁ、今突っ込んでやったからもうされることはないだろうが。
…一応、妃さんの耳に入れておこう。
冬華さんの顧問弁護士で最強の弁護士の妃さんに相談すれば、絶対に動いてくれるだろ。
「…消毒してくれただけでしょ」
「胸が見えるくらい捲る必要あるのかどうかの質問に、なんであんなに動揺するんだよ」
必要ありますと言えばいいものを。
「あなたは色々気にしすぎよね」
「いやいや!本部でのシャワーといい、あんたが気にしなさすぎなんだっつの!」
くそ!
どうしたってこの人はこの手の話に疎すぎる!
私が言うくらいなんだから相当疎い!!
気が気じゃないよ本当に!!
「……ぃ…っつ…つ…」
「!ほら、ゆっくり」
「ん…」
冬華さんは横になりたそうだから、手伝いながらゆっくりと横にさせて。
「…はぁ…だいぶ意識もハッキリしてきたから、面会大丈夫そうよ」
軽く息を吐いた。
確かに、さっきよりハッキリしてるようだ。
「じゃあ、午後から面会出来る旨を重悟に伝えるよ」
タプタプと重悟に連絡をすれば、“わかった”の短文が送られてきた。
冬華さんも覚醒したし、恐らくこれからが忙しくなる。
入院中と言えど、入院中に出来ることを押し付けられそうだし。
「…しばらく一人か」
「あら、寂しくて寝れない?」
「っそ、そんなわけあるかっ」
しばらく一緒に寝れないが、今はとにかく回復に専念してもらって、だな。
…まぁ、午後の妃さんたちとの面会で。
「こんな怪我して!!警察なんて辞めなさい!!」
「…したくてした怪我ではないぞ…」
妃さんにめちゃくちゃ怒られてた…。
ちょっと可哀想だった…。
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