pixiv作品 名探偵コナン
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「見つけた。萩原」
「……」
「…おい、萩原」
「……」
「……千速」
「なんですか、蒼月警視」
冬華さんが△△警視長をやっつけた数日後。
巡回へ行こうとしていた時に、冬華さんに呼び止められた。
苗字で呼ばれたから、無視を続ければ名前で呼んでくれた。
ワントーン高い女な口調ではなく、男勝りの口調のまま。
“横溝、千速を連れて行く”
あの時のあれに、どハマった。
もちろん二人きりの時の女口調で名前を呼ばれるのも嬉しいんだが。
男勝りの口調の時に名前を呼ばれたのが初めてで。
あ、これもまた最高に良い。と思った。
どんな時でもこの人には名前で呼ばれたいんだろうな、私は。
「警視を無視するとは大した度胸だな」
「無視なんてしてませんよ。聞こえてませんでした」
「分かりやすい嘘を吐くな…」
冬華さんは呆れるようにため息を零して。
「お前の上司から“お前を甘やかしすぎだ”とお叱りをいただいたんだが、何か心当たりはあるか?」
ジト目で私を睨んできた。
隊長から、私を甘やかしすぎだと言われたらしい。
心当たり?
「………いやぁ、ないですねぇ…」
ありまくる…。
「そうだな、例えば白バイを故障させて注意された時に“気をつけまーす”と適当に返事をしている、とか」
「例えが具体的すぎませんか」
そういう感じで隊長に言われたんだろうな…。
まぁ確かに?
私は警視である冬華さんの恋人で、そんな冬華さんの同期が隊長だから。
…ちょっと調子に乗ってしまった感は否めなくはない。
「というか、蒼月警視だって私が白バイを壊した時に叱らず笑っていたじゃないですか」
「程度によるだろう。今回の修理費用、いくらだったと思う?お前の給料から差し引いたってマイナスだぞ?」
「……それはまぁ…」
「まぁ、なんだ?」
「………仕方ない、というか」
冬華さんから視線を外し、ムゥ…とむくれれば。
「……っ!」
冬華さんは壁に手を付き、もう片方の手で私の顎に手を添えて。
そっぽ向いていたのを冬華さんへ向き直らされて…。
「……いいか、千速」
「……っ」
真正面。
あと数センチで唇が触れると言う距離まで顔を近づけられて…。
「お前が調子に乗ることで痛い目に遭うのは、何もお前だけじゃないんだよ」
ニコニコ笑顔だが、怒気が含まれている声で。
「私やお前の上司、本部長までもが上から文句を言われることになるんだぞ?」
迫られる。
「…ぅ…っ」
「そうなったらお前、どう責任を取ってくれるんだ?」
「……っ」
正直、怖くはない。
何故ならこの人、本気で怒ってはいないから。
本気でブチギレたら恐らくは執務室に呼ばれて、もっと冷静に感情を出さずに淡々と注意してくるだろう。
ただ今、私は直ちにこの状況を脱したい。
だって。
だって今、めちゃくちゃ迫られてるだろ?
側から見たらお前、これめちゃくちゃ口説かれてるように見えるだろ?
恥ずかしさの極み!!!
「…っわ、わかりましたから!!蒼月警視…っ!」
冬華さんの肩を押し、何とか離そうとしても離れてくれなくて。
冬華さんは小さく笑みを浮かべて、私の耳元に顔を近づけて。
「…ねぇ、どうやって責任を取ってくれるの?千速?」
ワントーン高い女口調で、そう囁かれた瞬間だった。
「…っぁぅ…っ!!」
ゾクゾクと背筋に電流のようなものが走ったのは。
まずい。
非常にまずい。
緊急事態だ。
冬華さんの眼差しは、“警視”のものなのに。
囁かれた声と口調は“本来の冬華さん”で。
今、これ以上一緒にいると。
理性が崩れ、本能のままに冬華さんを求めてしまう。
ヤバい。
ヤバすぎる。
私は両耳を押さえ、ギュッと目を閉じると。
「……っ?」
ふ、と。
目の前の気配がなくなった。
薄く目を開き、確認する。
「……冬華さん」
「警視」
「… 蒼月警視」
冬華さんは私から一歩離れ、腕を組んで。
「今はまだ私やお前の上司で止まっているからいいが、これが私たちを上回る権力者どもの耳に入ったらどうなるかわかるだろ?」
軽く息を吐く。
私は壁に背中を預け、自分を守るように抱き締める。
「…わかります」
疼き出す身体を、抑えるように。
「部署を異動させられるか、他県への異動になる場合だってある」
「…わかりました。もうわかりましたから…」
一刻も早く、この場から。
この人から離れなければ。
「…ちは「蒼月警視!」
冬華さんがため息を零したと同時に、刑事課の奴が走ってきた。
「なんだ」
「あっ、お取り込み中でしたか?」
私と冬華さんを交互に見て首を傾げる。
冬華さんはチラッと私を見て。
「いや、大丈夫だ。何かあったのか?」
刑事課の奴に向き直った。
…助かった。
これ以上はヤバかった…。
今、これ以上この人といると求めてしまうところだった…。
「あ、はい!本部長がお呼びです!」
「本部長が?わかった、すぐ行く」
刑事課の奴は冬華さんに敬礼をして、去って行った。
冬華さんは顎に手を添えて。
「…また何か面倒なことを押し付けられそうだな」
そう呟き、ため息を零した。
「…冬華さん、早く行ったほうがいいんじゃないか?」
「!……そうね」
冬華さんは私へと手を伸ばしたけど。
「……」
ふと笑い、触れずに引っ込めて。
「…じゃあ千速、私は行くけど気を付けるように」
私に背中を向けて歩き出した。
あ、もしかしたら。
これは勘違いさせたかもしれん。
私が冬華さんを拒絶してると思わせたかもしれん。
ただ冬華さんを求めないようにしていただけなのに。
「…っ冬華さん…!」
「なん…ッお゙ふ…ッおい…っ」
私は冬華さんを追いかけて、タックルするように抱き着いた。
「なんだ、どうした?」
「……別に」
「ん?」
冬華さんの手が私の頭に置かれた。
「…別に拒絶したわけじゃないからな」
そこはわかってほしい。
誤解されたままじゃ嫌だ。
チラッと冬華さんを見上げれば。
「ん、大丈夫だ。ちゃんとわかっているよ」
冬華さんは小さく笑みを浮かべて、私の頭をポンポンと撫でてくれた。
安心した。
誤解されてるわけじゃなかったんだな。
「…その、白バイはなるべく壊さないようにはするようにはしようと思ってはいる」
「違う。そうじゃない」
「…違う?」
私が冬華さんから離れると、冬華さんはまた腕を組んで。
「要はもっと上手くやれってこと。深追いするにも最もらしい言い訳を考えなさい。そしたら怒られないし、私も庇えるんだから」
ね?と、女口調で優しく微笑んだ。
「…わかった」
…本当にこの人はつくづく私に甘いな。
私を庇えるようにするためだけに注意を促してくれたわけか。
「彼もあなたのライテクには一目を置いてるし、手放したくはないのよ」
彼とは、うちの隊長のことで。
「…なんかやだな。その言い方」
「彼?」
「…うん」
…なんか、恋人みたいな言い方だ。
「あいつ、ならいい?」
「よし」
言い直してくれて、小さく笑う。
「さっきも言ったけど、私とあいつが庇えないほどの権力が動く前にちゃんと考えなさい」
「…あぁ、わかった」
壊すな、じゃなくて。
私が調子に乗って適当に答えていたから。
冬華さんに甘えて大して怒られないと思い込んでいたから。
それに至った理由を、曖昧にせずに多少大袈裟でもいいからちゃんと考えろということだった。
「では本部長に呼ばれているから私はもう行くぞ」
「はい…すみませんでした…」
冬華さんはまた小さく笑って、本部長の下へと行った。
「……ちょっと調子に乗りすぎたな」
冬華さん以上の権力が働くかもしれないことは頭になかった。
「……隊長にジュースでも奢って機嫌取っとくか」
きっと冬華さんが、自分が注意すると申し出てくれたんだろうな。
まったく。本当に。
「頭が上がらないよな…」
小さく呟き、ヘルメットを被り巡回へと向かった。
「ん?いない?」
巡回から戻り、冬華さんの執務室に行けば。
鍵がかかっていた。
まだ本部長のところから戻ってないのか?
「あ、萩原警部補。お疲れ様です」
「!ああ、ご苦労様。蒼月警視はまだ本部長のところか?」
刑事課の奴が通りかかったから、冬華さんの居場所を聞いてみると。
「蒼月警視はシャワー室ですよ」
シャワー室にいるという。
「シャワー室!?」
なんでシャワー!?!?
「なんでシャワーなんて浴びてるんだよ!!」
ギョッと目を見開き、そいつの肩を揺らす。
「ほ、本部長の執務室のエアコンが壊れてるらしく…っ汗だくで話し合いをしていたようで…!!」
それにしたって…!!
「ちぃ!間に合うか!!」
「っ萩原警部補!?」
私はそいつを離し、シャワー室へと走る。
バンッ
「冬華さん!!!」
「ッ!?び、びっくりした…お前扉は乱暴に開けるんじゃない…」
「「…!?!?」」
シャワー室の扉を開ければ、すでに○○さんは着替え終わっていて。
「萩原警部補…っ」
「お、お疲れ様です…!」
居合わせた奴らは顔を真っ赤にさせていて。
「お前も浴びるのか?」
冬華さんはわしゃわしゃと備え付けられているタオルで髪を拭きながら。
「い、いえ私は…」
浴びないと答えようとしたら。
「…っ失礼しますっ」
居合わせた奴らが…。
冬華さんの裸を見ただろう奴らが私の横を通り過ぎる際に。
「…(おっきかったぁ…!)」
「(蒼月警視ってあんなエロい体してるんだね…っ)」
なんてコソコソ話していた。
「萩原、どうした?」
私はワナワナと震えて、キッと冬華さんを睨んで。
「私だけの裸だったのに!!」
叫んだ。
きょとん顔をする冬華さんと、通りかかった警官たちや職員たち。
「……お前、声量と言葉を間違ってないか…」
冬華さんが笑みを引き攣かせてため息を零した。
周りの奴らはなぜか頬を赤らめ、足早に去って行った。
「なんで本部でシャワーなんか浴びてるんだよ!帰ってからでもいいだろうが!」
「本部長の執務室が暑すぎて汗だくになったんだよ。汗で濡れたままでは居たくないだろ」
「それはそれで見たい!だから私が巡回から戻るまで待っててくれよ!」
冬華さんはニコリと笑って。
「なん………む…」
私の両頬を片手で掴むように口を塞いできて。
「…萩原ぁ…声量と言葉使いを正せるかぁ…?」
圧をかけてきた。
「…といみらしまひら…ひゅみまふぇん…」
(取り乱しました…すみません)
両頬を掴まれながら謝ると。
「よろしい。来い」
「はい…」
解放された。
「……」
無言で付いて行く。
冬華さんは白いワイシャツ姿で、上着と着替えただろうワイシャツは手に持っている。
執務室に予備があるのか?
着替えをちゃんと備えてあるのか?
というか、服装を整えてほしい…。
ワイシャツのボタン上2つは外れたまま、裾も出したまま。
髪だって洗っただろうから下ろしたまま、濡れたまま。
「……女を出すんじゃねぇよ…」
と小さく呟けば。
「聞こえてるぞ」
冬華さんまで届いていた。
「ドライヤーないし、仕方ないだろ」
通り過ぎる奴ら全員見てるじゃないか。
鬼だと言われてる警視で、普段はピシッと纏め上げた髪にピシッと皺一つないスーツ姿なのに。
「… 蒼月警視……ですか…?」
「?そうだが、何か用か?」
「い、いえ!!失礼しました!!」
今の姿は、普段のこの人を見てる奴らからしたら信じられない光景で。
「……(ちゃんと女なんだな、あの人…)」
とか。
「……(なんか色気ヤバい…)」
とか。
「……(意外すぎて惚れそう…)」
とか。
コソコソとムカつく声が聞こえてくる。
さっきの冬華さんの裸を見た奴らだってそうだ。
冬華さんの“女の部分”を垣間見て顔が真っ赤だった。
「なんだったんだ」
「…ど鈍いにも程がある」
「ど鈍いなんて新しい日本語を作るな」
冬華さんの執務室。
鍵を開けて中に入って。
「…ッ!?」
冬華さんに抱き上げられ、ソファーに倒されて。
「で?さっきから何?何をぶつぶつ文句言ってるの?」
覆い被さってきた。
「…っ」
鍵がかかっていない執務室。
なのにこの体勢と、この状況。
朝と同じ意味でヤバすぎる。
誰かが入ってきたらアウトだ。
朝のはギリ 説教されて圧をかけられたで終わらせられる。
だが今の状況は無理だ。
「千速?」
「…っ」
ズリズリと両腕を頭上で、しかも片手で拘束されて。
「朝といい、今といい、お説教し足りなかったかしら?」
プチプチと片手で制服のボタンも外されて。
「ちが…っ!違うって…!」
白いハイネックのスカーフが取り払われ、県警のロゴが入ったネイビーのTシャツの裾を引っ張り出されて。
「何が違うの?言って。聞いてあげるから」
「…っちょ…っちょっと待って…っくれ…っ」
Tシャツの中に侵入してくる手。
ゆっくりと、触れるか触れないかの絶妙な愛撫をしながら腹に手を這わせられて。
「ねぇ、千速」
「ま…って…っ待って…っ」
その感覚に身体が反応してしまい、言葉なんて考えられるわけがない。
下着をTシャツの中で捲られ、胸の先を指先で撫でられて。
「…っぁ…っ」
呼吸を乱すとTシャツで擦れて、また呼吸が乱れ、またTシャツで擦れて。
もどかしさで頭がおかしくなりそうだ…。
「…っは…っはなすから…っ」
だがまだ戻れる。
まだ戻れるから、愛撫をやめてほしい。
「えぇ、話して。早く」
「…っ」
話すまでやめてくれそうにない…。
「…ぁ…あ…あ…」
ああ、もどかしさでイライラしてくる。
早く触れて欲しくてイライラしてくる。
だがしかし!!!
「…ッもっと自分を客観視してくれ…っ!!」
また叫んだ。
叫ばないと言葉に出せないから仕方ない。
「客観視?」
ピタッと愛撫が止まる。
「…すれ違う奴らみんな…あんたを見てただろ…」
「そりゃ警視が歩いてれば見るんじゃない?」
…そうじゃないだろ、まったく…。
「…では逆に、風呂上がりの私をジロジロ見てくる輩が居たとしたらどう思う?」
「……お風呂上がりの、千速を?」
冬華さんは視線を横にずらし、想像する。
「…シャワー室で私の裸を見た奴らが頬を染めたら、あんたはどう思う…?」
「……」
段々と眉間に皺が寄ってきた。
「……なんか、とんでもなく不快」
よかった。
別に平気だけど、とか言われたらわりとショックだ。
「…だろ?あんたが今抱いている感情が私の抱いてる感情だよ」
冬華さんは私の上から退いて。
「…私をそんな目で見るの、千速くらいだと思ってたけど違うのね…」
私の隣に落ち着き、はにかむように笑った。
「…さっきのは誰が見てもそんな目で見る格好だったよ」
私も体を起こし、上げられた下着を元の位置に戻す。
「…!」
冬華さんの頭にタオルを被せ、わしゃわしゃと拭いてやる。
まだ全然拭き足りてない。
「ワイシャツのボタンも留めて、スーツの上着も着ろ」
あまり無防備な姿を晒さないでくれよ。
「凛と背筋を伸ばし、無表情で揺るがない強い眼差しで前を見据えて歩く“蒼月警視”を崩すな」
そして、蒼月警視から冬華さんに変わるのは私の前だけであってほしい。
「…崩したつもりはないんだけどねぇ」
冬華さんは苦笑を零して。
「まぁとにかく、髪は乾くまでは下ろしてるけどスーツは正しますよ」
立ち上がり、スーツはちゃんと整えてくれた。
「…本当は髪も纏め上げてほしいが…仕方ないか…」
「それは髪が乾くまで我慢して?」
と、冬華さんを見上げてキスをしようとした時。
〜♪ 〜♪ 〜♪
「「…!!」」
冬華さんのスマホが鳴った。
「未登録の人」
「詐欺電話じゃないのか?」
冬華さんは通話ボタンを押して。
「誰だ」
そう声をかけると。
「!…毛利か。久しぶり。お前から私に連絡など明日は槍が降るな、はは」
なんと毛利探偵から。
「しかし、なぜ私の番号を?……ああ、英理か」
冬華さんは椅子に座り、クツクツと笑った。
「今日?まぁ取れなくはないが…そうだな、本部で話すのも何だし、外でお茶をしながらどうだ?」
毛利探偵が今日来る、というニュアンスの会話だな。
「…!…ほう、警視庁が…」
冬華さんの表情が変わって、自分の顎に手を添えた。
「あぁ、わかった。では一時間後にそこで落ち合おう」
通話を終えて、小さく息を零す。
「…どうした?」
「ん?いや、何でもない」
私には言えないということは、ただの世間話ではなく事件の話。
しかも、おそらくは私や重悟以上の階級しか関われないような。
「…警視庁、ね…」
口調は戻らず、蒼月警視のまま。
「…爆破事件か?」
「……」
問えば、冬華さんはニコリと笑うだけで答えてくれない。
「じゃあ別の質問いいか?」
それも気になるが。
「えぇ、答えられる範囲なら何でも」
もう一つ気になっていたもの。
「…冬華さんは、毛利探偵とどういう関係だったんだ?」
毛利探偵との関係。
「毛利と?」
「あぁ」
同級生なのは知っているんだけど、前に“毛利の馬鹿”と言っていたし、あまり仲は良くないものだと思っていた。
「どういう関係も何も、同級生で英理の旦那ってだけの関係よ」
ソファーに置いてある私の白いハイネックスカーフを手に取り、巻いてくれた。
「連絡してくるのが珍しそうだったのは?」
学生時代の話ももっと聞きたいし、警察学校でのことも交番勤めのことも。
聞きたいことばかりだ、この人には。
「ああ、だってお互い番号すら知らなかったんだから珍しいでしょ?それに私、英理絡みで学生時代から毛利にめちゃ嫌われてるの」
「…妃さん絡み?」
「理由はわからないんだけどね。英理と話してたらとんでもなく睨んで来て、話してる途中で私に突っかかってきたの。都度英理には怒られていたけど」
妃さんと仲が良いから、現在進行形で嫉妬してるのか。
「かと言ってユキにはデレるのよ?あいつ。意味不明よね」
え。
え?
「……」
…そ、それって。
それってまさか…。
妃さんは、学生の頃冬華さんのことが好きだったんじゃないのか?
それを毛利探偵は知っていて、突っかかっていたのでは?
好きな女がライバル視してる奴と話していることに、嫉妬をしていたんじゃ……。
私でも気付くのに、この人それに気付いてないのか?
いくら何でも鈍すぎるだろ…。
「っと、ほら。私は用事が出来たし、あなたもそろそろ仕事に戻りなさい」
その辺、すごく気になるがこの人は知らないだろうし。
…妃さんと話せたらそれとなく聞けるんだが。
だがまぁ今はいいか。
「…どこの店で会うんだよ」
どこの店で落ち合うのかを聞けば。
「ほらパンケーキが美味しいカフェあるじゃない?あそこオープンカフェもしてるからあそこで」
ああ、あそこだな。
私もニコリと笑って。
「では私も仕事に戻るよ。毛利探偵によろしく伝えておいてくれ」
「え?えぇ、伝えておくわ」
早々に、執務室を出た。
で。
「ん?奇遇ですね、蒼月警視、毛利探偵。そして少年」
「!あんたは…!」
「千速さん!」
巡回中に、たまたま見かけたから声をかけに近づくと。
「…通りで素直に出て行ったなと思ったよお前は…」
冬華さんは呆れるようにため息を零して。
「何のことです?私はただ巡回中に見かけたから挨拶をしに来ただけですが」
「白バイの巡回ルートじゃないだろ」
「変わったんですよ、最近」
「嘘を吐くな。まったく…」
私と少年を交互に見て。
「まぁいい。萩原」
「はい」
「この小僧のお守り」
と、少年の首根っこを掴み、私へと放った。
「「え!?」」
「事件の話なのに子供を連れて来るなどアホの極み」
「う、うるせぇな!いつの間に後部座席に乗ってたんだよ!!」
冬華さんはクツクツと笑って。
「毛利、あちらで話そうか」
オープンカフェを指した。
「…わぁーったよ。千速さん、すまんがコナンを頼む」
「い、いや私も「わかったよ!ボク千速さんと一緒にいるね!白バイ乗ってみたかったんだー!」
少年がバタバタと暴れるので下ろすと、少年はダーッと白バイのほうへ走って行った。
……あんな物分かりの良い子ではないのだが。
「萩原」
「わかりましたよ、もう」
冬華さんをジト目で睨みながら少年の下に行く。
「ほら、落ちるなよ?」
「わーい!」
白バイの座席に座らせてやれば。
『で?毛利、爆破事件のことは誰に聞いた?』
「…!?」
どこからか、冬華さんの声が聞こえてきた。
「「……」」
ジト目で少年と視線を合わせて。
「よくやった」
「でしょ」
ハイタッチをした。
少年は、毛利探偵に盗聴器を仕掛けていた。
どこで入手したかは不問としよう。
私は少年の眼鏡へと耳を寄せる。
『…警視庁から要請があったんだよ』
『警視庁の誰だ?名前を教えろ』
『んなこたぁどうでもいいだろ』
『よくない。この事件は今は箝口令が敷かれている。警視庁がお前に要請を出したということは、立派な規律違反に値する』
箝口令?
爆破事件に?
なら、神奈川県警にだって敷かれているはずなのに。
「…箝口令が敷かれてるの?」
「そんな話聞いてないが…」
どういうことなんだ。
『……』
『英理なんだろ?』
『…ぐ…っ』
毛利探偵がここに来た理由は、妃さん?
チラッと冬華さんたちのほうを見れば、冬華さんはニヤニヤ笑っていて。
『英理に、“私に協力してやれ”と言われたんだろ?』
『………そーだよ』
毛利探偵はガシガシと頭を掻き、視線を逸らした。
『何だかんだで英理の頼みを聞いてやるんだな。さっさと謝って戻って来てもらえ』
『う、うるせーっつんだよ!!おめぇに関係ねぇだろっ』
冬華さんはクツクツと笑っていたのに。
『だがまさか、英理がな』
『おめぇがさっさと解決しねぇから俺が出なきゃいけなくなったじゃねぇかよ』
眉間に皺を寄せて。
『お前はこの件に関わらず、英理を目の届くところに置いておけ』
そう言った。
また少年と顔を見合わせる。
「…英理おばさんを目の届くところにってことは…」
「…妃さんも爆破事件に巻き込まれたってことか?」
冬華さんは、毛利探偵に妃さんを守れと言っているのだろう。
「…爆破事件に箝口令が敷かれている状況で、尚且つ名探偵であるおじさんに関わるなと警告をする…」
箝口令が敷かれているから、△△元警視長には何の情報も渡さなかったのか?
『……ヤバいのか』
毛利探偵の冷静な声。
『…多分な。だがどこまでなのかはまだわかっていない』
ヤバい?
何がヤバいんだよ。
『今、信用出来る上層部は……毛利…お前、それ…』
『あん?』
信用出来る、上層部?
え。
もう一度少年と顔を見合わせる。
「信用出来る、上層部って…」
「まさか警察上層部が…爆破事件に…?」
少年と目を見開く。
警察上層部が関わっているから、箝口令が敷かれてるのか。
え、じゃあ冬華さんは今非常にヤバい状況では?
『……こっちを向け』
「?なんだ」
「どうしたんだ」
少年の眼鏡に、もう少し耳を寄せると。
『お前だよ、萩原ぁ。聞こえてるんだろ?おい』
「……ヤバい気がする」
「…気がするんじゃなくてヤバいと思う」
ギギギギ……と、ロボットみたいな音を立てて○○さんのほうを見ると。
ニコニコ笑顔のまま手招きをしていた。
「「……」」
私は少年を傍に抱え、二人に近づく。
「どこから聞いてた?お前ら」
「……まぁ…なんというか…」
「…全部とは言わないけど…まぁ…最初からというか…」
また怒られるかと思ったが、冬華さんは眉間に皺を寄せてため息を零した。
あ、これ。
「…参ったな。まさか聞かれるとは…」
まずいやつだ。
本当にまずいやつだ。
「すみま「警察上層部がヤバいってことなの?冬華さん」
少年は恐れずにそう問いかけた。
「……」
冬華さんは眉間に皺を寄せたまま立ち上がって。
「冬華さ「とにかく、だ。毛利、お前は英理としばらく居るか目の届く位置に置いておいてくれ。なるべく早く解決させるから」
「…大丈夫なのか?」
「黒幕と思われる奴の目星は付いてるから、そう時間はかかるまい」
少年の鼻を摘んで。
「…あにひゅんのさ…」
「スパイかお前は」
ニヤニヤ笑っている。
…本当に、もう少しで解決するのか?
冬華さん、貴女の置かれてる状況が危なすぎないか?
「ボ、ボクじゃなくて…千速さんがさぁ…」
「はぁ!?なんで私だ!お前だろう少年!」
私に罪を擦りつけようとしたので、少年を下ろしてぎゃあぎゃあと口論していた時。
ビシッ
何か弾ける音と。
コロコロ………コツ…
小石が転がってきて、私の靴に当たった。
「「?」」
私も少年もその小石を見て、冬華さんを見る。
冬華さんが蹴って転がった石なのかと思って。
「冬華さん?」
冬華さんは大きく目を見開いていて。
ゆっくりと視線を下げた。
「……は?」
冬華さんの足元は。
「…ごめん…撃たれた…」
すでに血の海になっていた。
毛利探偵がすぐに救急車を呼んで。
「狙撃か…ッ!!」
少年が叫び、どこか遠くの方を見て、眼鏡の望遠スコープ機能で狙撃場所を見て。
私は。
「ッ冬華さん!!!」
カクンと膝から崩れた冬華さんを抱き留めた。
「冬華!てめぇ死ぬんじゃねぇぞ!!」
「おい冬華さんッ!!しっかりしろ!!」
「ッ止血だ!止血をしないと!」
毛利探偵がカフェテーブルを倒し、狙撃から守るための盾を張ってくれて。
少年が冬華さんのスーツのボタンを外し、ワイシャツの下のボタン三つだけを外して。
「千速さんは前を!ボクは後ろの銃創を圧迫させるから!」
「っあ、あぁ、わかった…っ」
私は白いハイネックスカーフを取り、それを前側の銃創に押し当てると。
「ぅ゙…ッぃ゙ぅゔ…ッ」
冬華さんが痛みで唸った。
「…っ冬華さん歯を食いしばるな!私の肩に噛みつけ!!」
じゃないと歯と顎に相当な負担がかかる。
「…ぅ゙…ッ」
冬華さんは震える手で私の背中に腕を回して、肩に噛みついた。
相当な力が入っているし、私の背中側の制服を握る手にも力が入っている。
「もう少しだ…ッもう救急車が来るから…ッ」
早く。
早く来てくれ。
飛び交う悲鳴と、向けられる視線。
そんなものに構ってられない。
一刻も早く病院へ。
早く。
「…っちは…っや…っ」
「…ッ冬華さん!大丈夫だ!私はここに」
いる、とは続けられなくて。
冬華さんは私を離し、肩を押して。
「追え…ッ!犯人を…ッ逃すな…ッ!!」
私にここから離れて、犯人を追えと言った。
この人は。
こんな時でも。
こんな時でも仕事を優先するのか。
使命を。
責任を。
優先するのか。
「…いやだ」
「…っ行け…ッ」
「嫌だ!!」
「おまえは…っけいさつかんだ…っ!!」
警察官なら、使命を?責任を?
そんなの知らん。
そんなの。
そんなの。
クソ喰らえ!!!!
「今あんたの傍に居られないなら警察など辞めてやる!!」
使命よりも。
責任よりも。
何よりも大切なものが私にはある。
「千速さん…」
少年がどこか儚そうに私を見る。
冬華さんの額は汗ばみ、それでも真っ直ぐに私を見て。
「…っばか…ね…っ本当…っ」
困ったように笑って。
「…ッおい!寝るな!意識を保て!!おい!!」
ふ、と。
意識を手放した。
「救急車が来た!千速さんも一緒に!!」
冬華さんを担架に乗せ、救急車へ運ばれて。
「冬華さん!!おい!おいって…!!」
「ちょっと離れてください!処置をします!」
冬華さんの手を離し、緊急処置をされていく冬華さんを見て。
血だらけの、自分の手を見る。
すごい出血量だった。
助かるのか?
え、これ。
助かるのか?
だって、すごい血だった。
助かる、のか?
「…冬華さん…?」
死なない、よな?
いや、死なない。
だって約束したから。
絶対に死なないって、約束をしたから。
「…ッぅ…っ」
「意識戻りました!」
「…っ!」
冬華さんは、視線を彷徨わせて。
「……!」
私を見つけて、震える手で親指を立てた。
“絶対に死なない”
そういう意味が込められたものだろう。
そうだ。
この人自身、死ぬ気でいるわけじゃないんだ。
私が死を考えていてどうする。
「…ん!」
私も親指を立てて、出来うる限りの笑みで応えた。
大丈夫、死なない。
この人は死なない。
絶対に。
絶対に、だ。
「先生!今の手術でこの血液型の輸血が足りませんっ!」
「っ他の病院へすぐに問い合わせろ!」
搬送された病院では、たった今輸血が必要な手術をしていたらしく。
冬華さんと同じ血液型の輸血がなくなってしまったらしい。
けど。
「…私もその血液型なんだが私の血は使えないだろうか!?」
医師の言葉で。
私と冬華さんが同じ血液型だと知って、迷うことなく名乗り出た。
「っすぐに採血室へ!」
私の血が。
貴女の体に入るんだ。
私の血で。
貴女を助けることが出来るんだ。
私から400ccもの血液を採取し、冬華さんへと輸血して。
「……冬華さん」
冬華さんの手術が終わるのを待った。
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