pixiv作品 名探偵コナン
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朝、冬華さんと出勤途中。
「冬華さんは何か動物を飼いたいと思ったことないのか?」
動物、というかペットについて聞いてみた。
何か意味があるわけじゃなくて、何となく聞いてみたら。
「動物?例えばゾウとか?」
「まぁライオンでもいいし、クマでもいいぞ」
冗談に冗談を重ねると。
「ふふ、そうねぇ…今いるネコちゃんで手一杯だしなぁ」
冬華さんは笑いながらそう言った。
「今いる猫?猫なんて飼ってたか?」
すでに猫を飼っていた。
「えぇ、可愛い可愛いネコちゃんがいるの」
「猫がいるのに私の家に入り浸っていいのかよ。っつか、居たか?冬華さんちに猫。見たことないが…」
猫を一匹ぼっちにしてるのか?
それならうちに連れてきてもいいのに。
それなのに。
「うちにはいないわよ」
「…?どういうことだ…?」
自分ちには猫はいないという。
意味がわからず首を傾げると。
「可愛い可愛いネコちゃんの名前、なんていうか知ってる?」
どんな名前かを聞いてきた。
「いやわからん。冬華さんちの猫なんて見たことないし、聞いたこともないだろ」
そもそも冬華さんちに猫がいることも知らなかったし。
冬華さんはクスクスと笑って。
「“千速”って言うの」
と、ツンと私の頬を突っついてきた。
「……」
…そういう…こと…か…っ!
「鈍いなぁ、うちのネコちゃん」
「……っわ、わかりづらいんだよ!!通りで話が噛み合わないと思ったわ!」
なんて。
そんな恥ずかしい会話をしながら。
神奈川県警の門を潜って、本部へと足を踏み入れれば。
「蒼月警視」
「!……△△警視長。おはようございます」
□□県の△△警視長が、仁王立ちで立っていた。
たちまち“ 冬華さん”から“ 蒼月警視”に変わる冬華さん。
△△警視長の傍には本部長と重悟も立っていて。
「……」
「……」
蒼月警視は本部長へと視線を向ければ、本部長は眉間に皺を寄せて肩を竦めた。
それはまるで。
“なぜこいつがここに?”
“わからん、急に来た”
とアイコンタクトを交わしたかのようなやり取りで。
冬華さんが△△警視長へ挨拶をしたのと同時に、重悟だけ離れて。
「…!」
無言で冬華さんに背中を押され、重悟の隣へと行かされた。
「なん…、、!」
冬華さんへ歩み寄ろうとすれば、重悟に腕を掴まれた。
「(重悟、なんだよ)」
小声で重悟に文句を言う。
「(やめろ。蒼月警視を困らせるな)」
困らせる?
何を言ってるんだよお前は。
「(私は別に「(いいから、黙っとけ)」
くそ。
私は眉間に皺を寄せながら、冬華さんと△△警視長のほうへ向き直り、重悟と同じように後ろ手を組んで立つ。
「警視長である私がすでに出勤していると言うのに、随分と良い身分での出勤だね。蒼月君」
まず、△△警視長の嫌味が一つ飛んだが。
「本日△△警視長がいらっしゃるという報告は受けておりませんし、規定時間内での出勤なので問題ないかと」
冬華さんは、スンと無表情で。謝らない。
「報告など必要なかろう。何時如何なる時も常に一歩先を読んで正しい行動を取れ」
「“何時如何なる時も”ではなく、命に関わる現場では常に先を予測し最悪を想定し、そうならない未来を何通りも考えて行動しております。それが部下の命を預かる私の責任と務めなので」
物怖じせず、真っ直ぐ△△警視長を見据えて淡々と反論する。
「…相変わらず生意気だな。まぁいい。本日はあの爆破事件についての報告をしまたえ」
「爆破事件については警視庁と連携して捜査中です。本日も午後から警視庁へ赴き会議の予定なので、今ここで△△警視長にご報告すべき情報はございません」
さらに、へつらえず媚を売らない。
県警の入口でやり合っているため、周りもハラハラしながら見ている。
冬華さんは鬼警視だなんだと畏怖されているが。
「…かっこいいな」
それ以上に、その凛とした姿や揺るがない意思と。
判断と決断が早く、それでいて正確な命令を部下へと下すこの人に憧れと尊敬の念を抱く奴らのほうが圧倒的に多くて。
そんな人が私の恋人だと思うと、自慢で自慢で仕方ない。
「…貴様、誰に向かってそんな口を叩いているんだ?」
「△△警視長、その辺にしてお茶でも如何ですか?」
さすがに本部長も間に入り、止めにかかったが。
冬華さんは本部長の肩に手を置いて小さく頷くと、本部長はため息を吐いて一歩下がった。
「そもそも、□□県警はこの件は追っておられないでしょう。何故この事件について知りたいのですか?」
「…総監からの要請だ」
「警視総監からそんな報告は受けておりません」
冬華さんもため息を零して。
「私を出し抜きたいのであれば、もっと私の情報を集めるか、もっとマシな嘘を吐いていただきたいものですね」
ニコリと笑った瞬間だった。
「……ッこのアマ…ッ!!」
パンッ
県警内に、乾いた音が響いたのは。
「…は?」
「あ?」
私も重悟も、きょとん顔を浮かべる。
今、叩かれた?
「……」
え、今。
打たれたのか?
その拍子に、冬華さんは唇の端から血が滴って。
ポタリと床に落ちた時。
「ッてめ「やめろ!!千速!!」
カッとなって、△△警視長に殴りかかろうとしたのを重悟に羽交締めにされて止められた。
「ッ離せ「横溝」
「!はい」
冬華さんは横目で私たちを見て。
「そいつを連れて行け」
手で払う仕草をした。
庇われたとわかった。
違う。
違うよ冬華さん。
庇ってほしいわけじゃない。
私はあんたを助けたいんだよ。
冬華さん、わかるだろ?
「わかりました。行くぞ、千速」
「ッ待てよ重悟…ッ!私はまだ「萩原君、横溝君、ここは私が何とかするから行きたまえ」
本部長にも止められて。
「っす。失礼します」
「…ッなん…っ!!冬華さん…!!」
冬華さんを見れば、冬華さんはチラッと私を見て。
一瞬だけ目を閉じた。
それは。
“ごめんね、千速”
そう言っているかのようで。
「……ッ」
ああ。
まただ。
また守られた。
私がこの場に居れば、重悟を振り切ってでも△△警視長を殴り倒してしまうから。
私を“そいつ”と呼んだのも、△△警視長の関心が私に向かないため。
さらに重悟に私を連れて行かせるのも、我慢に耐えかねた重悟に△△警視長を殴らせないため。
あの人は刑事課の警視だから、重悟の性格も理解している。
そして、本部長も部下を殴られた怒りで手が震えてる。
どんな状況でも。
冬華さんは私を、重悟を守る行動を取ってくれる。
何も言えない。
何も言えないじゃないか、冬華さん。
ここで重悟を振り解いてあいつを殴れば、貴女が庇ってくれた意味がなくなっちまう。
くそ。
「……冬華さん…っ」
私は重悟に腕を掴まれ、引かれるままに。
冬華さんたちから離れるしかなかった。
「お前があの野郎を殴りたい気持ちはわかるよ」
給湯室の自販機で、重悟がジュースを奢ってくれた。
「……血が…出てた…」
「あぁ、出てたな」
ジュースの缶を両手で握り、怒りに震える。
「俺としちゃお前が居てくれて助かった」
「…どういうことだ?」
眉間に皺を寄せ、重悟を睨むように見上げると。
「お前を止めるのが必死だったから、俺一人ならあの野郎をぶん殴ってた」
重悟は肩を竦め、ニヤリと笑った。
「…だからお前に私を連れて行かせたんだろ」
「だな。あの人は俺の直属の上司だからな。尊敬してる人をああも理不尽に殴られちゃ、黙ってられねぇ」
お前が居てくれて本当によかった、と続けた。
「……」
私はまた缶ジュースへと視線を落とす。
無力だ。
なんて無力なんだ。
警部補だ警部だと言っても、それを上回る権力の前で私たちはなんて無力なんだろうと思い知る。
「まぁお前の役割は、イラついてるだろう蒼月警視を鎮めるこった」
「……それは、わかってるよ」
もちろんそのつもりではあるけど。
どうにも元気が出ない私に、重悟はため息を零して。
「あの人、血を拭わなかったろ?」
「!あ、あぁ…そうだな」
「あれ、△△警視長をビビらせるためだぞ」
そう言って、またニヤリと笑った。
「なに?」
血が滴って床に落ちたのに、拭わずにそのままにしていた理由は。
「昔、一緒に追っていた事件があってな。星は女である蒼月警視に拘束されたことに腹を立てて、苦し紛れに蒼月警視を殴ったんだよ」
さっきみたいに口の端から血が伝い、地面に滴り落ちて。
“……って、てめぇが…っ悪ぃんだからな…!!”
星はわけわからない言葉を発して。
“……警視、ハンカチを“必要ない”
部下がハンカチを渡そうとすれば、ハンカチを持つ手を遠避けられて。
“お前今、私に傷害を負わせたぞ?自分で自分の罪を重くするなどさぞかし冷たい檻の中が恋しいようだな”
「血を滴らせたまま、蒼月警視が薄く笑みを浮かべてそう言った時の星の顔は、まぁ青褪めててな」
パトカーの中で。
“……血が…出ると…思わなかったんだ…”
涙を零していたらしい…。
「しかも後で聞いたら、わざと殴らせたらしくてな」
わざと殴らせることで、罪を重くさせたのか。
“拳じゃなくて平手打ちだったところに、あの阿呆の甘さを垣間見たよ”
と、○○さんは肩を竦めていたようで。
「……」
「だから今回もわざと殴らせたに違いねぇ。△△警視長の暴力の証拠をその身に残したんだろうな」
殴らせることで有利に立ちたいのはわかるが、それを見せられる私の気持ちも考えてくれよ。
重悟はケラケラ笑って。
「だから、んな顔すんな。お前はいつもみたいに余裕に笑ってりゃいいんだよ」
こいつ、私を励まそうとしてくれてるんだな。
「…そうだな」
落ち込むなど私らしくないし、冬華さんがこんな私を見たら心配するだろう。
「っつかお前、私よりも蒼月警視を知ってる風で話すなよ!ムカつくだろ!」
「はっはっ、知ってんだから仕方ねぇだろ?俺ら刑事課はお前よりあの人との付き合いが長ぇんだよ」
悔しいがその通りだよな。
私と冬華さんは半年以上前に交際を始めたが、刑事課の連中は何年も前から冬華さんと一緒だし。
重悟と小さく笑い合った時。
「ここに居たのか、お前ら」
給湯室に、冬華さんが来た。
「「警視!!」」
私も重悟も冬華さんを見ると、唇が切れてるのと血を拭った痕が目に入って。
「大丈「横溝、千速を連れて行く」
「…っ!」
「あ、うっす。どうぞどうぞ」
男勝りの口調のまま、『萩原』ではなく『千速』と呼ばれて胸が高鳴った。
腕を掴まれ、早足である場所に向かっている。
ある場所とは、冬華さんの執務室で。
「…っ蒼月警視…!」
「喧しい。黙って付いて来い」
随分苛々してるな。
無理もないか。
理不尽に文句を言われた挙句に殴られてるんだから。
「…ッ」
執務室のドアを開けて、グイッと強く押されて中に入らされて。
「なぁ、冬華さ––––
ん、とは続けられず。
ドアに押し付けられて、キスをされた。
キスをされながら、鍵を閉めた。
その音を聴いてか、キスが段々と激しくなる。
「ん…ッんぅっ」
噛み付くような、乱暴なキスに。
「は…ッぅ…っん、んっ」
両頬を押さえられ、舌を絡め取られて。
吐息すらも飲み込まれる。
「…ふ…っぁ…っ」
口の中も切れたようで、鉄の味がする。
この鉄の味と、逸らされない強い視線が私の脳内を支配して。
冬華さんのスーツの袖を握り、私からも必死に求めたが。
「ふ…っ冬華さ…っン…っくるし…っ」
さすがに苦しい。
「…は…っはぁ…っはぁ…っ○○さん…っ」
唇を解放され、伝う透明の糸をそのままに。
「…っばか…っまだ午前中…っ」
私の制服のボタンを外し、白いハイネックの首元を指で引っ掛けて下げて。
「…んっ」
チリ…ッと吸い付かれ、赤い痕を残されて冬華さんは私の肩に額を乗せた。
…最後までされるかと思った。
「…あー…ムカつく…」
私の肩に額を乗せてるが、手はドアに付けたままだ。
「はは、朝から災難だったな」
冬華さんの背中に腕を回し、ポンポンと宥めてやる。
「災難どころか疫病神よ。私に文句を言うためだけに来るんだもの嫌になる」
どうやってあの場を治めたのか気になるが。
「間髪入れずに反論してたじゃないか。カッコよかったぞ?」
今はこの人の怒りを治めるのが先だ。
「…“そいつ”って言ってごめんね?」
「いいさ。私に関心が向かないように敢えて冷たく離したんだろ?」
「…えぇ」
グリグリと肩に額を擦り付け、ようやく私の背中に腕を回して抱き締め返してくれた。
「本部長は?」
「あの後すぐに怒りのまま警視総監にその場で連絡してね」
「お…」
やっぱり本部長もブチギレてたか…。
「今すぐ来いと言われて真っ青な顔のまま警視庁へ行ったわよ」
警視総監のお気に入りに怪我を負わせたんだ、タダじゃ済まんだろうな。
「でもまぁ」
「?」
冬華さんは私から離れて、自分のデスクへと行って。
「それでなくても遅かれ早かれ△△警視長はパワハラと暴力で内部告発されてたんだけどね」
A4サイズの茶封筒を引き出しから出した。
「……冬華さんが内部告発を?」
「□□県警から総監に秘密裏に調査をしてほしいって要請があってね。総監が動くには目立ちすぎるから、総監から私に調査をするように命じられて」
今日の警視庁行きも嘘で、□□県警に行って告発者と打ち合わせをする予定だったらしい。
「今日は□□県警から、△△警視長は警視庁へ行くって聞いてたのにここに居てびっくりしたわよ…」
「…警視庁へ行くっつったのは嘘だったわけか」
余程冬華さんに文句を言いたかったんだな…。
「…というか、そんな調査をしてることに気付かなかった…」
「水面下で、秘密裏に動いていたからバレちゃお終いでしょ?」
凄いな。
私と過ごしていた中で、内部告発の情報を集めつつ爆破事件も追っていて。
総監から別の事件でも頼られて。
「…これだもの休む暇ないってわけか」
この人が休めないわけを知った。
「でも、今日のことで△△警視長はもう終わりだから」
冬華さんは椅子に座り、冬華さんを跨ぐように私も座って。
「…打たれたしな」
切れている唇に触れて。
「そうね。逃れられない証拠をくれてありがとうって感じかしら」
冬華さんにキスをした。
「ん、ん」
啄むキスをして、舌を絡めて。
「…っん…っ」
冬華さんの手が私の服の中に入ってくる。
ちなみに、さっきも言ったがまだ午前中だ。
だが仕方ない。
これは冬華さんの怒りを鎮めるためだから仕方ない。
だがこの人は忙しい人だから、すぐに誰か…。
コンコン
『警視、いらっしゃいますか?』
ほら来た。
まったく空気を読んでもらいたいものだ。
私と冬華さんは顔を見合わせて。
「いる。だが後にしてくれ。今は怒りで何も考えられない」
冬華さんがそう言うと。
『わ、わかりました!また来ます!!』
慌てたように、走って去って行った音が聞こえてきた。
「…いいのか?」
「いいの。こっちのが大事」
初めて仕事を後回しにして、私を優先してくれた。
それが嬉しくて、冬華さんの瞼にキスを落として。
「…っん、ん…っぁ…っあ…っ」
白いハイネックを捲られ、下着も上げられて。
露わになった胸の先を口に含まれ、私の意思とは関係なく背中が反った。
しつこく言うが、まだ午前中だ。
いや、もう少しで午後にはなるが、まだ午前中なんだ。
だから激しさはなく、緩やかで優しい愛撫に気が狂いそうになりながら。
「…はー…可愛い…安らぐ…癒される…」
「……朝からすることじゃないんだよ」
「満更でもないくせにー!」
「ぐ…っ喧しい…っ!」
何とか冬華さんの怒りを治めることに成功した。
「さてと。病院行って診断書をもらってくるわ」
「あぁ、わかった」
内部告発書に添付して総監へ提出するつもりだろう。
制服を整え、執務室を出ると。
「お、千速…っと、蒼月警視」
タイミング良く重悟が来た。
「横溝、先ほどはすまなかったな」
「…いえ、警視の怒りが治ったようで何よりです」
重悟は私をチラッと見て、何故か視線を逸らした。
「△△警視長は降格待ったなしだな」
私がニヤニヤ笑いながら言うと。
「降格?まさかまさか」
「降格処分にはならないんすか?」
冬華さんはまたニコリと笑って。
「懲戒解雇だよ」
そう口にした。
「…懲戒…」
「解雇…」
私も重悟も笑みを引くつかせる。
降格処分より重い懲戒解雇になるなんて…。
「公表することはないが、あの男はそれだけのことをしている。というか懲戒解雇で済むだけ有難いと思ってほしいものだな」
…冬華さんの最後の情けか。
懲戒解雇になるほどのことをしでかした人間にも情けをかけるなんて。
冬華さんもなかなかに甘いな。
「じゃあ私はこれから色々用事を済ませて警視庁へ行く。お前らも早く仕事に戻れよ?」
「っす」
「わかりました」
冬華さんは私を見て、小さく笑みを浮かべて執務室の中へと戻って行った。
「……凄いな、本当にあの人は」
重悟と並んで歩く。
「……」
また重悟がチラッと私を見て、視線を逸らした。
「なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言え」
立ち止まり、腰に手を当ててジト目で重悟を睨む。
「……いいのか?言っても」
「いいよ。お前のその態度が気になる」
何を思ってそんな恥ずかしそうな、鬱陶しい態度になってるのか。
「…お前さ」
「なんだ」
重悟は再度チラッと私を見て。
「……執務室で警視とシただろ」
気を使って小声でそうほざいた。
「………」
私はきょとん顔から、ジト目になり、顔が熱くなり、重悟から視線を外して。
「…………そんなわけないだろ」
歩き出した。
「ちは「だからしてない。こんな場所でするわけないだろっつってんだ。お前大丈夫か?何を根拠にそう思ってんだ、バカヤロウだなお前は。はぁ?」
「…その…赤い痕が見えてんぞ」
「…ッ!?!?」
また立ち止まり、バッと口元が隠れるくらい白いハイネックの首元を上げる。
「………虫に刺された」
言いながら重悟へ振り返って睨むが。
「虫に刺されただけの奴が見せる仕草じゃねぇだろ…」
ダメだった…。
嘘だろ。
二箇所付けられた?
一箇所目は喉より下のほうなのに、もう一箇所は見える場所なのか?
…行為に夢中で気付かなかった。
「……ちなみに、あくまで、参考として、薬を塗るために聞くが…どこら辺…」
「……ここ」
重悟が自分の首を指して教えてくれた場所は、喉仏よりも上で。
ハイネックでは隠せない場所だった。
「………」
「……さっき部下に渡された絆創膏やる」
「……別に、何でもないが一応もらっといてやるよ」
重悟から絆創膏を受け取り、ハイネックで口元を隠したまま。
「…じゃあな重悟。何でもないが誰かに言ったら殺す」
「言わねぇよ…警視にちゃんと怒っとけよ?」
「…何のことかわからんが、言っとく」
「もう誤魔化そうったって遅ぇんだよ…まったく…じゃあな、千速」
そうして私は、トイレへと行って。
「……ガッツリ付いてる」
キスマークの場所を確認しながら、絆創膏を貼った。
「……勘弁してくれよ…冬華さん…」
見られたのが重悟だけでよかったと。
心からそう思った…。
まぁ帰ってからは。
「……どうやって隠そうかしら」
私も冬華さんの首に赤い痕と、歯型を残して。
赤い痕はファンデーションとかで隠せるかもしれんが、歯型はそうはいかん。
「ゾンビごっこをした、でいいんじゃないか?」
「…信じてくれる人いるかな」
「いないだろうな」
冬華さんを困らせてやった。
まぁ、翌日はガーゼを貼って。
どうしたのかと聞かれる度に。
“飼ってるネコに噛まれた”
と、言っていたらしいがな…。
next