pixiv作品 名探偵コナン
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「…起きるかぁ」
早朝。
お弁当を作るにも朝ご飯を作るにもまだ早い時間帯。
目が覚めちゃって、二度寝すると寝坊しそうだから仕方なく起きた。
玄関へ新聞を取りに行き、テーブルに置く。
「はぁ…おいし」
コーヒーを淹れ、ふぅふぅと湯気を飛ばして火傷しないように飲む。
新聞からチラシを取り出して、本日の売り出しを確認して。
「今日は特に、って感じね」
特に安くなっているものもなく、チラシを畳んで次は新聞を、と思ったら。
カチャ、と。
控えめな音が聞こえ、リビングのドアが開いて。
「ぉ…ふぁ…あ〜…ぅ…」
千速が欠伸をしながら起きてきた。
「ふふっ、おはよ。まだ寝てても大丈夫よ?」
いつもはもう少し遅い時間に起きてくるんだけど、今日は千速も早起きさん。
「…お前は?」
「私はもう目が覚めちゃった」
「…じゃあ寝ない…」
と、私の隣に座った。
でもウトウトしててすごく眠そう。
「千速?」
「ん」
「寝る?」
「…ねぁい…」
「ふふ」
可愛いなぁ。
頑張って起きてるつもりなんだろうけど、半分夢の中。
「あ、そうだ」
せっかく早起きしたし、まだ早い時間だけど今日は忍とランチだからシャワー浴びてくるかな。
「千速、ちょっとシャワー浴びてくるわね」
千速にそう告げて、コーヒーカップを流し台に置いて浴室へ行くと。
「……」
「私も浴びる」
はっ!と覚醒して付いてきた。
「今の今まで寝てたわよ?」
「寝てないよ。ちゃんと起きてた」
「絶対寝てた!」
「寝てない!起きてましたー!」
寝てた・寝てないを延々と言い合いながらお風呂場に入った瞬間。
「…そ、そうやって黙らすのズルいからね…!」
「ズルくありません!好きな女が全裸だったらするだろ普通は!」
「お風呂なんだから全裸でしょうが…!」
「ええい黙れ黙れ!ランチ行けなくなるまでイかすぞ!」
「っ忍にバレるからそれはやめて!」
「……エスパーだからな、あいつは」
「そう、エスパーなのよね、忍は」
なんて二人で笑い合って。
「っ…も…っむり…っ」
「もう一回だけ」
……朝の運動をしました。
玄関で、千速の見送りの時。
「そうだ。昼に合流するから弁当は持ってきてくれないか?」
「一緒に食べる?」
「うん」
そう言って、お弁当を渡してきた。
「わかったわ。今日の待機場所から近そうなところにするわね」
「あぁ、頼む」
千速からお弁当を受け取って。
「行ってらっしゃい」
顔を近づけてきたから。
「…違うだろ」
頬にキスをしたら、ジト目で睨まれた。
「さっきたくさんしたでしょ…?」
…お風呂で、たくさん…。
「それとこれとは別だろ」
「もう…」
ちゅ、と唇にキスをしてあげると、満足そうに頷いて。
「行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
ようやく仕事へと向かった。
私はリビングに戻って、鏡の前に立って。
「……見えるところにキスマークはなし」
キスマークの確認をする。
見えるところにはないけども…。
少しだけスウェットの裾を上げると。
「………」
見える見える…たくさんのキスマークが…。
今日のものだけでは…ないん…だけども…。
「…まぁ見えるところには付けないようにしてくれるだけいいわよね」
スウェットを戻して、時間を確認する。
「…一時間くらい寝よ…」
ベッドで寝るとたくさん寝ちゃいそうだから、毛布を持ってきてソファーで。
「この二度寝が至福なのよねぇ」
と、目覚ましをセットして私は目を閉じた。
「あ、修学旅行生」
「どこから来てる子たちかしらね」
お昼より少し前、早めに忍と合流した。
千速の待機場所からそう遠くない場所で、良さそうなお店を探すため。
スマホで検索もいいけど、こうして忍と話しながら歩くのもまた楽しいから。
お店を探しながら歩いていると、修学旅行生たちが目に入った。
きゃあきゃあとはしゃぎ歩いてて、こちらまで笑顔になってしまうくらい楽しそう。
「今はスマホの地図アプリがあるし、色々効率良く回れるわよね」
「そうねー。あの頃は迷子になりまくったもんね」
私たちも私と千速、忍の三人と男の子三人の班で。
「千速が予定通りに行動してくれなかったからね」
「“プラン通りなどつまらん!”って言ってね」
男の子たちを置いてけぼりにして、千速はどんどん前に進んじゃって。
それが楽しくてたくさん笑ったのを今でも覚えてる。
「懐かしいなー」
「そうね。本当に懐かしい」
というか、忘れたことはない。
…なぜなら。
あの修学旅行で私と千速は。
“お前が好きだ!!冬華…!!絶対に誰にもやらん!!”
結ばれたのだから。
「ふふ」
「どした?」
あの時のことを思い出して小さく笑うと、忍が首を傾げた。
「あの時のこと、ちょっと思い出しちゃった」
「あの時?あんたと千速がくっ付いた時の?」
「そ、そうよ」
「あれねー。本当にやっとかって思ったよ」
忍はニヤニヤしながらそう言って。
「…ま、まぁね。でも忍のブチギレ事件だって忘れてないわよ?」
「あれはブチギレるっしょ!」
思い出しただけでも腹立つ!と、忍が怒り出した。
私たちが結ばれた、あの日。
温厚な忍がブチギレて、クラスメイトたちが震えていたのもよく覚えてる。
あの日は。
夕食後、お風呂も入った後に私はクラスメイトの子に公園へ呼び出されて。
“何かしらね”
“絶対告白っしょ。あんた千速がいるんだからちゃんと断りなよ?”
浴衣に半纏を羽織り、忍と二人でカランコランと下駄を響かせて歩いていた。
“だ、だから千速とは付き合ってないって…っ”
“というかその千速は?”
“さっきT橋さんたちがワーッと来て、萩原借りるから!って言ってワーッとどこか連れて行かれてたわよ”
“はー?付いて行かなかったの?”
“?えぇ、私もって言われてないもの”
“…あいつら、何企んでるのかな”
私も私で、一人で来てって言われたけど、私の場合は忍が絶対に私も行くって利かなかったから。
“あ!来た来た”
“ 冬華!こっち!”
“なぁに?”
“…何してんの?あんたたち”
草むらに隠れてるクラスメイトに手招きをされて。
“…?”
指されたほうを見ると。
“…え?”
“は?な、なにあれ…”
タイミング良く、まるで示し合わせたかのように。
“俺!萩原が好きなんだ!!付き合ってくれ!!”
クラスメイトの男の子が、千速に告白をした。
“…え?…うそ……え…?”
一瞬、何が起こっているのかわからなくて。
なにこれ。
“いいのか?蒼月、割って入らなくて”
“ちょ、ちょっとあんたたち…!!”
私にこれを見せたくて呼んだの?
千速が告白をされる瞬間を、私に見せたくて呼んだの?
私がどう思うかとか、考えてはくれなかった?
“早く割って “ッ冬華…ッ!!”
見ていられるわけないじゃない。
千速がどんな表情をしていたか、なんて。
見る余裕がなくて。
ただ見ていたくなくて。
一刻も早くこの場から離れたくて。
私は逃げた。
クラスメイトたちの楽しそうな声を遮るように、忍が私の名前を叫んでるのを背中で聞きながら。
ただ走った。
私は千速が好き。
好きで好きで仕方なくて。
一緒にいる中で、千速も私のことを好いていてくれてるのかもしれないって。
あれは自惚れだったのかなって。
恥ずかしくて、苦しくて。
涙が溢れて。
“っ待って…ッ!冬華…!”
“…ッは、離して…ッ!忍…ッ!”
“絶対離さない!!”
忍に腕を掴まれ、立ち止まった。
忍は私を抱き締めてくれて。
“大丈夫、ねぇ大丈夫だから冬華…”
“…っう…っぅ…っしのぶ…っ”
“うん、大丈夫だよ。絶対に大丈夫”
ずっと背中を摩ってくれて、忍の優しさにますます涙が溢れた。
すぐに千速と、クラスメイトたちも追いかけてきて。
“…冬華…”
千速が私に近寄ってきた時に。
“…っごめん千速…っ聞きたくない…っ”
この時初めて千速を拒絶した。
忍の肩に顔を埋めて、千速を視界から消した。
見ていられなかったから。
今思えば、千速は悲しそうな表情をしていたと思う。
でも私にとって千速は初恋の人で。
だからこそ。
こんなに誰かを好きだと思ったことがなかったから。
だから見せられたあの場面は、本当につらくて苦しくて。
認めたくなくて。
失恋なんて、生きていれば誰でも経験することなのに。
初恋の私には、それを乗り越えられそうにもなかった。
“いや、蒼月!俺らはたださ、お前ら見てるとなんかこう…ヤキモキっつーかさぁ”
“ごめんごめん冬華!私たちやりすぎちゃったけど、あんたたちのためを思って!”
クラスメイトたちはどこか楽しそうな笑みを浮かべていて。
私と千速のためだと口にした。
こんなにつらいのに、悲しいのに、苦しいのに。
どうして笑っているのかわからなかった。
どこが私たちのためなのか。
“真面目に受け取りすぎだって!大江からも何か言ってやってくれよ!”
“……っ”
クラスメイトたちが忍に振る。
“……まぁ、確かに?”
やだ、忍。
なに?
忍は何を私に言うの?
忍も私を笑う?
泣きすぎだって。
真面目すぎだって。
忍も本当は、そう思ってるの?
“…っ確かにさ”
忍の、私を抱き締めてくれている腕に力が入って。
“確かに早くくっ付けバカヤロー!って思ってたよ?こんなに両想いなのに何をモタモタしてんだってさ”
冷静で、静かな忍の言葉。
“あんたたちもさ、冬華と千速に歯痒さを感じてたからこんなことしたんでしょ?”
“まぁ “でもね?でもさ…”
忍はクラスメイトの言葉を遮って。
そして。
“ッやり方が違うじゃん…ッッ!!!”
爆発した。
“お前ら冬華を傷つけて何笑ってんだよ!!何が楽しいんだよ!!”
“…ッ!?”
“自分らが何をしたのかわからないなら教えてやるよ!!お前らはただ面白半分で冬華を傷つけて、千速から離そうとしただけ!!逆効果なんだよ!!分かれよそのくらい!!”
普段の忍から考えられないくらい強い口調で捲し立てて。
「すごい迫力だったわよ、あの時」
「あれねー…。私、人生で二回ブチギレたことあるんだけどそのうちの一回目ね」
“…い、いや大江…俺らは…”
“…そ、そんな怒ることないじゃん…っ”
クラスメイトたちも怯えていた。
“千速!”
“お…”
その怒りの矛先は千速にも向いて。
“何しに来たの?”
“…な、なにしにって…冬華が…泣いてるから…”
“泣いてるから、なに?泣いてたら何なの?”
“…や、あの…”
さすがの千速もタジタジになって。
“ねぇ、あのさ。よく聞いて”
忍は私の手を引いて立ち上がらせてくれて。
“想いっていうのは、口にしないと伝わらないの。だからこういうことになるでしょ?察してもらうじゃダメなんだよ”
私の涙を拭い、背中を押して。
“千速、あんたが今言うべき言葉は何なのかわかる?あんたの中に秘めたそれを今ここで口に出来ないなら”
一拍置いて。
“私が冬華をもらうから”
この時に忍のこの言葉があったから。
“…ッいくら忍でも冬華はやらん!!”
千速は私を抱き締めてくれて。
“お前が好きだ!!冬華…!!絶対に誰にもやらん!!”
秘めた想いを言葉に出してくれた。
だから私も。
“…っ私も…っ千速が好き…っ大好き…っ”
千速を抱き締め返して、秘めた想いを言葉に出せた。
“…はぁ…やっとかぁ…このバカタレぇ…”
そんな私たちを見て、忍は泣きながら笑って。
“わかったかお前ら!こうやんだよバカタレども!!”
クラスメイトたちに最後のお叱りの言葉を口にした。
“…べ、勉強なります…大江先生…”
“大江先生…実は私も好きな子いて…何とかお力添えを…”
クラスメイトたちは忍をキューピッドとして崇拝し始めてたわ。
…ふふ。
忍がいなかったら、私たちは結ばれてはいなかった。
忍が怒ってくれたから。
今の私たちが在る。
私たちの最高の友達。
「あ、そういえばさ」
忍が突然、思い出したかのように。
「ん?」
「あんたたち、あの後ホテルに帰ってくるの遅かったじゃん?」
そう聞いてきた。
あの時、忍たちは私と千速を二人きりにしてくれて、先にホテルに帰ったけれど。
「あれ、迷子になったのよ。土地勘もないのに走って逃げちゃったから」
私たちは迷子になっていた。
“…こっちから走ってきたような…”
“…こっちじゃない…?なんかこの道に見覚えが…”
知らない土地で、何も考えずに走ったらそりゃあ迷子になるわよね。
「それはそうなんだろうけど、びちゃびちゃになって帰ってきてさ」
「…あれはやっと公園に戻れて、その公園にあった水飲み場の水を千速にかけられたの」
……ま、まぁ。
水を掛けられたには理由があるんだけども…。
「ふーん?」
「…な、なによー…」
忍はずっとニヤニヤして、私の前で、後ろ向きで歩きながら。
「エッチしたんでしょ?あの時」
ツン、と私の肩を突っついた。
「……は?」
ピタッと立ち止まる私。
「ん?」
「はぁ?」
「んー?」
「…な、何言ってんだか。はぁ?意味わからない。本当、何言ってるのよ忍。はぁ?」
なんとか誤魔化そうと、忍を押し退けて歩き出す私。
でも…。
「耳まで真っ赤だよ?」
「…っみ、見ないで…!」
両手で耳を隠した…。
まさかバレてるなんて思わなかった…。
「したんでしょ?」
もう一度、後ろを歩く忍に聞かれて。
「…あの時…は、なんか…なんかね…なんか…」
ゴニョゴニョと濁しながら。
「なんか、なに?」
あの時、やっと呼び出された公園に戻れて。
そのままホテルに戻るのもどこかもったいなくて。
“広い公園だよな、ここ”
“そうね、向こうに大きな池があるみたいよ。見に行かない?”
“ん、行こう”
手を繋いだまま、公園の池を見に行った。
その池の真ん中には木造の橋が架けられていて。
橋の真ん中で止まって。
“…鯉って美味いのかな”
千速が欄干に両手を乗せ、優雅に泳ぐ鯉を見つめながら口を開いた。
私もその隣に立って。
“鯉は淡水魚特有の泥臭さがあって、ちゃんと泥抜きをしないと美味しくないわよ”
清流で育った場合はまた別だけど、と続けた。
“へー。お前はちゃんと泥抜きとかして食えるように出来るの?”
“調理したことないから何とも言えないけど、やれって言われたら調べながら頑張ってみるかな”
“…そうか、すごいな。私には無理だ”
千速は足元にあった小さな小石を拾い、池に向かって放ると。
“あ”
“あら”
コン、と鯉の頭に当たって。
“今絶対に睨んで来てたぞ”
“わかる。こっち見たものね”
鯉に睨まれて、私たちは顔を見合わせて笑った。
そんなムードある会話なんてしてないのに。
“……”
“……”
見合わせたまま、何故だか視線を外すことが出来なくて。
お互い、引き寄せられるかのように口付けをした。
啄むように何度も。
交わる視線で、さらに熱くなって。
お互いの唾液を混ぜ合うかのように、舌を絡め合わせた。
離れた時には透明の糸が私たちを繋いで。
それで、なんか…。
「…なんか変に…変に熱くなっちゃって…」
そのまま…流れで…っ
忍はケラケラと笑いながら。
「それを誤魔化すためにびっちゃびちゃになってきたんだなってわかってたよ」
そう言った。
「……っ!」
…びしょ濡れになった理由は。
“…お前、色香が醸し出てヤバすぎる…”
“え…そうなの…?ど、どうしたらいいのかしら…”
自分ではわからない、事後特有の気怠い色香を誤魔化すためで。
“あの水道…”
“水道?”
公園に備え付けられている水道へと歩み寄って。
“…っ冷た…っ!!”
“はは、これで誤魔化そう”
千速に水を掛けられたから。
“…っおい!私はいいんだよ!!”
“私だけずぶ濡れなのもおかしいでしょ!”
千速にも掛けてやったのよね。
「…な、なんで…その…」
「ん?」
私はまたゴニョゴニョと濁しながら。
「…その…し…た…って…わかったの…?」
どうしてバレたのかを聞くと。
「え?みんな気付いてたよ、そんなこと」
忍はきょとん顔をしてそう口にした。
「え!?!?なんで!?み、見てたの!?」
嘘でしょ?
見られてたってこと?
あの…アレを…?
「だってあんた、公園に行く時は付いてなかったキスマーク、戻ってきたら付いてたし」
ここに、と。
トントンと自分の首を突っついた。
「え、キスマーク?」
「そう、キスマーク。付けられたんでしょ?千速に」
私は首を傾げる。
…キスマーク。
キスマークなんて…。
“…千速、キスマーク付けた?”
首筋にチリっとした感覚があったから、千速に聞いてみたら。
“付けてないよ。そんなクラスメイトたちにバレることはしないって。虫に刺されたんじゃないか?”
って、言ったから。
“そっか。薬塗らないとダメね”
“だな”
「…虫刺されだと思って…たんだけど…っ」
「次の日ずっと千速がニヤニヤしてたの知ってるでしょ?」
「…し、知ってるけど…あれはその…前の日の夜の…ことで…ニヤついてるのかと…」
え?
え?うそ、じゃあなに?
「じゃ、じゃあ私、キスマークをずっと見せながら行動してたってこと!?」
ギョッと目を見開いて、手で口を覆う。
忍はニコッと笑って。
「そ。みんな大胆だなーって言ってたよ」
そう言った。
……15年以上経ってから新事実を知って。
「……た…っ」
「た?」
私はワナワナと震えながら忍の肩に手を置いて。
「っタイムマシン作って忍!!お願い!!!」
忍にお願いをした。
「あと百年待ってね」
「もう本当に信じられないっ!だって千速本人が付けてないって言ったのよ!?そうかぁ、になるでしょ!?」
「んー、ならないかなぁ。千速だし」
忍は私の額を突っついて。
「そういう面で千速を信じちゃダメだよ?あの子、あんたに付けたキスマークとか、あんたに付けられた歯形とか爪痕とか見せびらかしたい人だから」
またニヤニヤ笑った。
そう言うってことは…。
「……見せられたことあるの?」
そういうこと…よね…?
「………」
「忍?」
「あ!あそこのオープンカフェ良さそう!」
「ちょっと忍!話の逸らし方が雑すぎよ!」
足早にオープンカフェへと足を進める忍と、そんな忍を追いかける私のところに。
「待ってしの「あ、あの…!」
二人の女の子が近づいてきた。
「!どうしました?」
さっき見かけた制服と同じ制服だから、修学旅行生かな。
足を止める私と忍。
女の子たちは頬を赤らめて。
「こ、このお店に行きたいんですけど…っ道がわからなくて…!」
道を尋ねてきた。
迷子になったみたいね。
「ん、どこかな?」
「…っ」
女の子のスマホを覗き込み、探している店の情報を見る。
「あー、ここね。ここからだと結構遠いわよ?」
「あ…っそ、そうなんですね…!」
「どうしよう…っ」
忍は私の前に立って。
「君たちだけなの?他の班の子たちは?」
問いかけた。
「と、途中ではぐれちゃって…っ」
「ふーん…」
どこか不思議そうというか、ちょっと警戒?してる感じに見えた。
「まぁそのお店はここから遠いから、タクシーか何か交通機関を利用して行った方がいいと思うよ。お金はある?」
「あ、はい…少し…」
女の子たちは自分のお財布を見る。
私と忍は顔を見合わせて。
忍はタイミング良く通ったタクシーを停めて。
「ラッキーね、あなたたち。タクシー代は出してあげるから、横浜をたくさん楽しんでね?」
と、五千円渡した。
「え!?」
「私たちはそんなつもりで声をかけたわけじゃ…っ」
焦ってなかなか受け取ってくれなかったけど。
「ほらほら、タクシー待たせてるから。行った行った!」
忍が女の子の一人の背中を押して、タクシーへ押し込むと。
「っ番号を教えて「この人、束縛が激しくて嫉妬深くて独占欲の塊みたいな恋人がいるからごめんね!ドマゾなの!」
「ねぇ最後のいらなくない!?」
もう一人の女の子が私にスマホを見せてきたところに忍が割って入って、もう一人の子もタクシーへと押し込んだ。
タクシーが発進して、忍は笑顔で女の子たちに手を振ってたけど…。
「……まさかナンパ?」
「そ。途中から付いてきてたの気付いてなかった?」
「…き、気付いてなかった…」
忍は眉間に皺を寄せて。
「道を聞きたいってのも多分嘘だよ」
「え!?」
「冬華が女の子のスマホ覗き込んでた時、めっちゃニヤついてたし」
「………」
ため息を零して。
「冬華、ちょっと隙が多すぎ。気を付けないと危ない目に遭うんだからね?」
そう警告された…。
「は、はい…気を付けます…」
忍が居てくれてよかった…。
と、そこに。
「あら?サイレン?」
「近づいて来てるね」
白バイ特有のサイレンが聞こえて来て、段々と近づいてきた。
「またサイレン鳴らしてきてるのかしら」
「さすがにそれはダメでしょ」
来るだろう方向を見ていたら、物凄いスピードで走り去る一台の二人乗りバイクと。
「『停まれっつってんだろうが!!』」
千速が操縦する白バイが、ヘルメットに搭載されている拡声器機能で警察官らしからぬ制止の声を発しながら追いかけていて。
「…!!」
通り過ぎる瞬間。
本当に一瞬だけ、千速と目が合って。
“すまん無理だ”
“わかった、気を付けて”
その一瞬で、アイコンタクトを交わした。
「……ありゃ始末書だわ」
「ふふ、お昼は無理ねぇ」
県警にお弁当を届けてあげないとね。
「千速ー」
「!冬華…」
神奈川県警 本部。
「…すまんな」
「んーん。怪我はしてない?大丈夫?」
交通課の入り口から千速を呼ぶと、始末書と報告書の作成の手を止めて入り口まで来てくれた。
「ん、白バイを壊したわけじゃないから大丈夫だ」
今はお昼すぎで、交通課にはたくさん人がいるから。
でもチラチラと見られて、ニヤニヤと笑われてる…。
前にここでキスしそうになったから…仕方ないんだけどもなんか恥ずかしい…。
「あら、じゃあ何をやらかしたの?」
千速にお弁当を渡しつつ聞いたら。
「……追跡してたら煽られて、そのままバイクチェイスに発展した…」
「ふふ、警察が煽りに乗ったら駄目ですよ?萩原警部補」
「わかってるが、ムカついたんだよ…」
ムゥ…と頬を膨らませた。
警察が煽りに乗るなんてもっての外なんだけど、千速が頬を膨らませると可愛いなぁって思っちゃう。
クスクス笑っていると。
「い、いた!!田中さん!蒼月さん居ましたよ!」
「いたぁ!よかったぁ!姿を見たと思ったのよ!」
「「…!!」」
総務部の皆さんが慌てたようにやって来た。
「なんだ、どうした?」
「お疲れ様です。どうされました?」
私と千速は顔を見合わせて、首を傾げた。
「っ萩原警部補すみません!蒼月さんちょっと助けて…!どうしても計算が合わないの!」
「どこが間違ってるかわからなくて困ってたんです…!」
どうやら会計のほうでトラブルがあったみたい。
「わかりました、確認しに行きますね」
「お休みなのにごめんね…っ!」
「とんでもないです。千速、じゃあ頑張ってね?」
「あ、あぁ、わかった」
交通課を後にして、総務部へ急ぐ。
「ここなの…!どう計算しても合わないの…!」
「蒼月さんに連絡したんですが、出なくて…っ」
「ごめんなさい…友人とランチしててマナーモードにしたままでした…」
田中さんのデスクに座り、カタカタとキーボードを打つ。
「確かに合いませんね」
画面に出ている金額と、書類の金額が合わない。
記載されている数字は間違いないんだけどなぁ。
何度も書類を確認し、総務部で使用しているソフトの計算式で導き出された数字と、手動の電卓ど導き出された数字が合わない。
「もしかしたら、このソフトが壊れてる可能性がありますね」
「えー!?修復まで時間かかりそう!?」
「どこが壊れてるのか、直せるのかを詳しく調べないとなので結構時間かかっちゃうかも…」
「…うぅ…今日は残業かぁ…」
総務部の皆さんはシクシクと悲しそうに涙を零している。
んー…。
何とかしてあげたいけど……。
「あ、そうだ」
そうだ。
あれがある。
「なに!?何か方法ある!?」
「ちょっと待ってくださいね」
立ち上がり、鞄から鍵を取り出しながら自分のデスクに近づき、引き出しの鍵を開けて。
取り出したのはUSBメモリー。
自分のデスクのパソコンの本体に差し込み、とあるソフトをUSBメモリーに移してUSBメモリーを抜く。
私は総務部の皆さんが使っているソフトの計算式は使っていなくて。
「これ、私が昔作成した計算式のソフトなんですが」
「「え!?!?」」
昔、私自身が分かりやすいように且つ簡単に計算するために作成したソフトを、今度は田中さんのパソコンの本体にUSBメモリーを差し込んで。
田中さんのパソコンに入れた。
「これと、これと、これ。それとここと」
で、必要な数字を全て打ち込み、必要なデータと情報も打ち込んで。
間違いがないかを確認してからEnterを押すと。
「うっそ!!!」
「す、すげぇ……っ」
パッと現れた数字は電卓で計算したものと同じだった。
よかった。
電卓だけじゃ不安だものね。
完璧なまでに合わせたいわよね。
「これ蒼月さんが作ったソフトなの!?凄くね!?」
「こんな便利なのがあったなんて…!しかもすげぇ軽い!」
バッと田中さんに肩を掴まれて。
「蒼月さん!今すぐこのソフトをみんなに共有してくれない!?」
ガクガクガク、と揺らされた。
「あ、はい…!わかりました…!」
自分のパソコンから、皆さんのパソコンへ一斉転送をする。
「皆さんが使っていたソフトどうします?」
「蒼月さんのソフトがあるからもう使わないと思う!」
それなら、削除しても良さそうね。
少しでも容量は軽くしときたいし。
元公認会計士としての知識をフルで活かせて、尚且つこうして喜んでくれる皆さんを見てるとすごく楽しい。
「あとはー、大丈夫そうですね」
「えぇ!本当にありがとうとごめんなさい…!」
田中さんはもうすぐここを退職するのに、仕事を適当にせずにしっかり責任を持って全うしてくれる。
…前の会社では辞めていく人は適当になりすぎて引き継ぎもまともに出来ず…全部私が教えてあげた。
……大変だったなぁ、あの時は…。
「冬華」
「!」
名前を呼ばれ、そちらへ振り返ると。
「千速」
千速がお弁当を持って立っていた。
「萩原警部補、すみません蒼月さんをお借りしちゃって…!」
「いや、大丈夫だ。もう解決したか?」
「はい!冬華さんのおかげで無事解決しました!」
私はUSBメモリーを自分の鞄にしまって。
「では私はこれで失礼しますね。お疲れ様でした」
「「「ありがとうございました!」」」
総務部の皆さんに軽く会釈をして、千速と総務課を後にした。
「始末書と報告書は終わった?」
「後だそんなもん。お前が帰る前に弁当を食いたい」
「ふふ」
休憩スペースで、千速がお弁当を広げる。
「ランチはどうだった?美味かった?」
「美味しかったわよ。今度は三人で行きましょ」
「あぁ、今度こそな」
玉子焼きを避けて、他のおかずを食べてる。
…その玉子焼きを食べたら怒るかしら。
「…お前、狙ってるだろ」
「!バレた!」
玉子焼きを狙ってるのがバレて、千速は箸で挟んで玉子焼きを守りだした。
ふふ、可愛いなぁもう。
「というか、忍から“奥さん隙が多すぎますよ”って報告があったぞ?」
「…っい、いつの間に密告したの!?」
「さっきだ。高校生にナンパされたそうじゃないか」
…もう。
忍ったら…千速に言わなくてもいいのに。
「私としては、道を聞かれたから教えてあげただけなんだけど…」
でも、実際に付いて来られてたことに気付かなかったし…。
「常に警戒のアンテナを立てておけ」
「…はーい。気を付けます」
隙をなくすにはどうしたらいいのかしら。
挙動不審にキョロキョロしてたらいいのかなぁ。
「ん」
「ん?」
ふと、千速に箸を渡された。
食べ終わったのかと思えば。
「ああ、はいはい」
千速が口を開けたので、最後の玉子焼きをあーんしてほしいと。
「あー」
「あー」
玉子焼きを箸で掴み、千速に食べさせようとした時…。
それは起こった…。
「は!?!?」
「あら…」
ひょい、と。
横から玉子焼きを奪われて。
二人でそちらのほうを見れば、横溝さんが立っていて。
「イチャつきすぎだろ、お前ら」
横溝さんに、玉子焼きを食べられた瞬間。
「…ッだから!!重悟お前いい加減にしろよ!!」
千速がブチギレた…。
「仕事場でイチャつくからだろ?」
まったくもう。
横溝さんは千速で遊ぶんだから。
こうなるってわかってて揶揄うんだもんなぁ。
「あんたの玉子焼き、美味いな」
「ありが「美味いから最後に食いたいんだよ私は!美味い玉子焼きの味を口の中にしばらく残したいんだよ!」
「その気持ちはわかるぞ。現に今残ってるからな」
「お前が盗んだからな!!窃盗で告訴するぞ!!」
「たちまち全国区だな。玉子焼きを盗んだ容疑って」
横溝さんはケラケラと笑って。
「じゃ、ごっそさん」
「あ、はい。また…」
片手を上げて去って行った。
「何しにきたんだあいつ!!くそ!!」
苛々しながらお弁当箱を片付けてる。
ここは県警本部の休憩スペースで。
怒ってる千速を、皆さんは苦笑い気味に見ている。
こんな苛々した気持ちで仕事に戻れば、事故を起こしかねないし、無理をしかねない。
だから私は。
「あ、千速。なんか落しちゃったかも」
「なんだよ!何を落とした!?どこだ!?大事なものか!?絶対見つけるから待ってろ!」
苛々しながらも、机の下を探してくれて。
「何もな––––
何もないことに顔を上げた千速へと。
「………」
「落ち着いた?」
触れるだけのキスをした。
テーブルで隠れて、誰にも見えてはいないと思う。
きょとんと私を見て、私の隣に座り直して。
「千速?」
今の今までめちゃ怒っていたのに。
「落ち着いた」
スン、と落ち着いた。
本当に可愛すぎる…。
「玉子焼きは作っておくから、そう怒らないの。ね?」
「わかった」
とんでもなく素直になった千速
千速からお弁当箱を受け取って。
「じゃあそろそろ帰るわね」
「その前に、ちょっと来い」
「なになに?どこ行くの?」
と、手を引かれて連れて行かれた場所は、事件ファイルとかたくさんある資料室で。
「った、たくさん資料あるのねー!あ!あっち見てみようかしら!」
これはまずいと思って、どうにか誤魔化そうとしたけど。
「…っ千速…っちょ、ちょっと待っ––––
て、とは続けられず…。
資料の棚に押し付けられて、キスをされた。
「は…っンぅ…っん…っ」
舌を絡め取られ、厭らしい音が耳に届いて恥ずかしくなる。
家でだと恥ずかしくなることはないのに。
「っんぅ…っん、ん…っ」
家以外の場所での深い口付けは、誰かに見られるかもしれないスリル感と、家以外の場所でこんなことをする背徳感でますます身体が熱くなってしまう。
求めてしまう。
これ以上のことを求めてしまう。
そうなる前に。
「っん…っ…ん…っ」
千速の肩を押しても離れてくれなくて。
「ふ…っ」
ああ、ダメかも。
ダメかもしれない。
いえ。
「ん、ん…ん…」
もうダメだ。
千速の首に腕を回して。
「ん」
私からも求めた。
資料室の鍵はかかってないから、誰か来るかもしれない。
それでも。
紙の匂いと少しだけ埃っぽい資料室で。
厭らしい音を響かせて。
私の顎を伝う唾液すら気にする余裕はもうなくて。
千速の手が、私の服の中に入ってきた瞬間。
ガチャ、と。
資料室の扉が開いて。
「!あ、萩原警部補と、蒼月さん。お疲れ様です」
職員さんが入ってきた。
「あ、お疲れ様です。萩原警部補、そちらにありました?」
「いや、こちらにはないな。違う資料室かもしれんな」
1秒にも満たない速さで離れて、資料を探しているふりをした。
「何の資料をお探しですか?手伝いますよ」
「あ、いや、大丈夫だ。多分ないからここには」
「え?ですが、あっちの棚とか見ましたか?どんな資料を探してるんです?」
「見ました。見たんですが、なかったんです」
職員の方は優しい方で、一緒に探そうとしてくれて…。
とても申し訳なかった…。
「ん?なんだろ。そこの足元、なんか濡れてません?」
職員の方は私たちの足元を見て首を傾げた。
私と千速は、足元の濡れている箇所を見て、そのまま天井を見上げる。
「…雨漏りかな」
「あ、あそこに染みない?」
「あるかも。わかりづらいがあるかも」
「ここ一階ですよ?そんなわけ……いや、あるかも…?」
私たちの足元に、濡れてるような感じの跡は…。
わ、私たちの…その…唾液で…っ
「こりゃちょっと業者だなー。お前ハンカチない?資料濡れたら困るから拭いとく」
「あ、あるわよ。そうね。ちょっと見積もり出してもらおっかな…!」
ささっと床を拭いて。
「で、ではお疲れ様でした…!!」
「あ、はい。お疲れ様でした」
そそくさと資料室を出た。
カツンカツンと足音を立てながら、県警の廊下を歩いて。
「「……危なかったぁ…っ」」
ドッと汗が出た。
「もう…!本当にやめてよ…っ!」
「はは、息がぴったりだったな!」
もう!笑ってる場合じゃないのに…!
…誰も入って来なかったら…。
きっと最後までしてただろうし…。
どこでも突然スイッチが入るの本当にやめていただきたいわよ…。
「お、帰るのか?」
県警の入り口で、再び横溝さんに声をかけられた。
「はい、お疲れ様でした」
千速は横溝さんをジト目で睨みながら。
「丁度良い。重悟お前、冬華を送れ。そうしたら玉子焼きの窃盗の件は示談にしてやるよ」
横溝さんに私を送れと言い出した…。
「いえ、大じょ「だから嫁さんに甘すぎ「高校生にまでナンパされてんだよ。隙だらけで危険なんだ。わかるだろ?」
私の言葉を横溝さんが遮り、横溝さんの言葉を千速が遮って。
「…高校生にまでか。そりゃ危険だな」
「だろ?頼んだぞ、重悟」
ということで。
「……本当にすみません…過保護が過ぎて…」
「本当だよ。過保護すぎていつか監禁されるんじゃねぇか?」
「…監禁、ですか」
「満更でもなさそうだな」
「…っそんなことありません!!や、やだなー!監禁!」
横溝さんに送っていただくことになりました…。
誠に申し訳ない所存です…。
END