pixiv作品 名探偵コナン
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「…しかし強い雨だな」
今日は。
研二の七回目の命日で。
ザァザァと強い雨が降っている中で、墓参りへとやってきた。
この雨の強さではバイクでは来れないから、電車とタクシーで。
傘を持ち、もう片方の手で水桶を持って。
脇に仏花を挟めて。
こんな雨の日になんて、誰も墓参りになんて来ないだろうなと小さく笑いながら。
研二の墓へと歩いて行くと。
「…ん?…誰だ?」
研二の墓の前に、誰かが立っていた。
身なりからして女だ。
傘も差さずにずぶ濡れで。
歩みを緩め、少し警戒しながら近づくと。
「…!…お前は…」
その見覚えのある横顔に、私は目を見開いた。
そいつは呆然と研二の墓を見つめていて。
「……」
静かにそいつの隣に立ち、傘を傾けてそいつを入れる。
「……こんなにずぶ濡れなんだから、傘なんてもう意味ないよ」
私のほうを見ずに、呟くように口を開いた。
「はは、そうかもな」
私は小さく笑って。
「こんなに雨が降ってりゃ、墓掃除もせんでいいか」
傘を持っているため手を合わせることは出来ないから、片手で祈って。
「…元気だったか?冬華」
冬華と呼んだそいつへと視線を向けた。
「……元気満々」
「嘘こけ。まったくお前は…」
「じゃあ聞かないでよっ」
ずっと研二の墓を見つめている。
こいつは、研二の彼女。
高一の時から交際をしていて、どこへ行くにも一緒だった。
“陣平ちゃんと仲良くなりすぎじゃねぇ!?”
“お!ヤキモチ研二君!可愛いなぁ!”
陣平とも仲が良く、よく研二が嫉妬をしていたものだ。
……七年前。
“…うそ…嘘だよね…?嘘だよね!?!?え…っ?研二が…っ?ねぇ…!!”
研二の訃報を伝えた時。
冬華は私に縋り付き、泣き狂った。
何度も嗚咽して、何度も吐いて。
私の下に帰ってきた研二は、とても小さくなっていて。
“……遺骨は、お前が持っていたほうがいい”
小指の先ほどしかない研二の遺骨を、冬華に託した。
そうしたほうが、研二も喜ぶと思って。
“けん…っけんじぃ…っ”
冬華は、小さな研二の遺骨を抱き締めて。
また泣いた。
初七日、四十九日、月命日と祥月命日。
全てに冬華を呼んだんだが、冬華は来なかった。
行ってしまえば。
研二が死んだと認めてしまうのが怖いと言っていた。
研二の死を受け入れられず、うつ病にまで陥って。
私と忍、陣平の三人で冬華を励まそうと家を訪れた時。
“……おい開いてるぞ?”
“なんかヤバい気配しない…?”
“おーい!冬華ー!いるんだろー!?”
私たちが家の中に入って、冬華を見つけた瞬間。
“…ッちょっと!!!冬華!!”
“ッ救急車を呼ぶ!!”
“…ッ馬鹿野郎が!!こんなことをしてハギが喜ぶと思ってんのか!!”
薬を大量摂取して、自殺を図っていた。
幸いにも発見が早かったから、死には至らなかったが。
“…なんで…放っておいてくれないかなぁ…”
病室のベッドで横になりながら、ずっと天井を見ながら。
瞳からは止めどなく流れる涙を見ながら。
“自殺でハギと同じ場所にいけると思うなよ”
陣平の厳しい言葉と。
“…私たちは冬華の友達だから。放ってなんておかないよ”
忍の優しい言葉。
私はなんて言ってやればいいんだと思っていたら。
“……千速さんは…”
“…なんだ?”
頭を傾け、私の方を見て。
“…もう来ないで…”
拒絶を示した。
衝撃だった。
研二の姉である私が、まさか拒絶されるなんて思いも寄らなかった。
“あなたを見ていると…っ研二を思い出してつらいんだ…っ”
ごめん、ごめんなさいと。
冬華は両手で顔を覆い隠して。
声を上げて泣いた。
姉弟だから、顔が似ているから。
“…わかった”
私は冬華に背中を向けて。
“ 冬華、そこまで研二を愛してくれて、ありがとな”
そう告げて、病室を出た。
その日から、私は冬華と会ってはいない。
年に一度の命日にも来なくて。
墓参りにも来ている形跡がなかった。
それなのに、七年経った今。
「あっちに東屋があるから行くぞ」
冬華はようやく墓参りに来た。
七年経って、ようやく研二の死を受け入れられたのだろうか。
「……」
冬華の手を引いて、水道の近くにある東屋に行く。
「寒くないのか?」
「……寒すぎ」
「バカ」
私はため息を零して、上着を脱いで冬華の肩にかける。
「…濡れるよ」
「いいさ」
ずぶ濡れで凍えてる奴を放っておけるほど、冷たくはないぞ。
研二の墓を拭くために持ってきたタオルを冬華の頭に掛けて、ガシガシと拭いてやる。
ザァザァと降り頻る雨。
屋根に雨が当たり、結構煩い。
「…遊ばないでよ」
「はは、お前が抵抗しないから」
髪を拭き終え、顎の下で結んでやって頬被り(ほっかぶり)みたいにしてやった。
「……千速さん」
「んー?」
光を失った瞳で私を見て。
「……ごめんね…」
私へと謝罪をしてきた。
七年前に、私を拒絶したことへの謝罪だろう。
私は小さく笑って。
「バーカ。気にしてねぇよ」
まぁ、ショックではあったが。
でも私を見れば研二を思い出しちまうなら仕方ないことだったから。
「…初七日も、四十九日も、月命日も、祥月命日も…全部行けなくてごめんなさい…」
「だから気にしてないって。こうして墓参りに来てくれただろ」
東屋の縁に腰をかけて、悪戯に笑う。
「……やっぱり研二に似てるね、千速さん」
「違う。研二が私に似てるんだよ。私の方が先に生まれてるんだからな」
「…そっか。そうだよね」
肩を竦めてやると、冬華も小さく笑った。
…やっと笑ってくれたか。
「ねぇ、千速さん」
「なんだ?」
冬華はザァザァと降る雨へと視線を戻して。
「私と付き合ってよ」
そう言った。
私は研二の姉だから。
研二は私に似てるけど。
「…私は研二じゃない」
私は研二の代わりにはなれない。
そして。
「研二も、姉である私を自分の代わりにされることを望むような奴じゃないと、お前もわかってるだろ」
誰も幸せにならない結末を、望むような男じゃない。
「…厳しいなぁ、千速さんは」
冬華はクスクスと笑って。
「慰めてよね、少しはさー」
–––– 一筋の、涙を零した。
その光景が。
なぜかとても綺麗だと思った。
「…飯でも奢って慰めてやるよ。とりあえず着替えなきゃ風邪を引くぞ?」
「風邪を拗らせて死んだら、研二に会えるかなぁ」
「会えるといいな。そして追い返されろ」
「あは!おもしろ!その発想はなかった!」
七年前よりは立ち直ったらしいが、まだどこか危ういな。
「ほら、行くぞ。私の家の方が近いから、風呂と着替えを貸してやるよ」
「うん、ありがと」
私は傘を広げ、冬華と並んで歩……。
「おらぁ!!傘など不要じゃあ!!」
「ッおい!お前タクシー乗るんだぞ!」
かず、傘を奪われてポーンと投げられた。
私までずぶ濡れになった…。
ずぶ濡れだから、電車では好奇の目に晒され…タクシーにも嫌な顔をされた…。
「…お邪魔します」
「おー」
家に着き、冬華を通す。
「!……」
リビングに行くと、目に入ったのは研二の仏壇で。
私が冬華の背中に手を添えて。
「声をかけてやってくれ」
そう言うと。
「…ぅん…」
冬華はゆっくりと歩み寄り、研二の仏壇の前に座って。
「……!」
鞄を漁っていると思えば、小瓶を取り出した。
研二の小さな遺骨が入った小瓶だった。
「…ずっと…家に帰してやりたいなって思ってたんだ」
「…そうか」
位牌の前に置き、ロウソクと線香に火を灯して。
「……長い間、ごめんね研二…」
やっと家に帰れたね、と。
冬華は言った。
「あいつの場合、お前の傍の方がいいと思うがな」
「そんなことないよ。この家には、自慢すぎる大好きな姉ちゃんがいるんだしさ」
きっと帰りたかったと思うと続けた。
「…ほら、シャワー浴びてこい。服を用意しておくから」
「千速さんもずぶ濡れじゃん。一緒に浴びようよ」
「なんだ?一人で浴びれないお子ちゃまか?」
「そう、お子ちゃまなの!ほらほら!」
「お、おい…!」
冬華に手を引かれ、浴室まで引っ張られる。
シャワーのバルブを回し、共にシャワーを浴びる。
私の方が僅かに背が高い。
「あったかーい」
華奢な体だと思った。
七年前より痩せているし、体重も軽そうだ。
かと言って不健康そうでもなさそうだから。
やはりやっと立ち直れたのかもしれんな。
「髪洗ってやるよ」
「わーい」
向かい合わせになり、冬華と目が合う。
研二が惚れた女は、七年前よりも大人っぽくなっていて。
“良い女”になっていた。
研二が生きていれば、結婚をして子供もいるんだろうな。
子供は男なら研二似で、女なら冬華似で。
家族四人で笑い合っているのを、私は後ろから見守っててさ。
なんて。
物思いに耽けながら、冬華の髪を洗っていた時。
「…千速さん」
「ん?なん––––
名を呼ばれ、視線を冬華に向けた瞬間だった。
「…っお前…!」
冬華にキスをされた。
触れるだけの、ただ唇同士を合わせただけの。
付き合いたての学生がするような、軽いキスを。
「……だめだ、やっぱり…」
「……冬華?」
冬華は背中を向けて。
わしゃわしゃと自分でシャンプーを洗い落としながら。
「だめだー、やっぱり千速さんを研二と重ねちゃう」
冬華はクスクス笑って。
「本当、研二と似すぎじゃなーい?」
そう言った。
「…冬華…」
何も言えない。
だって、仕方ないだろ?
姉弟なんだから。
私と研二は、姉弟なんだから。
似てるのは仕方ないんだよ。
「…今日、やっぱり千速さんと会わなければよかった」
「……」
「千速さんに、研二の代わりを求めちゃうもの」
クスクス、クスクス。
ずっと笑っている。
「冬華」
「ごめんね、千速さん。お風呂出たらすぐ帰るから。着替えはクリーニングして郵送して返すからさ」
手早く体も洗って。
「おい、冬華。話を聞け」
私は冬華の腕を掴み、引き止めて。
「!……冬華…」
振り返った冬華の表情を見て。
ああ。
未だに立ち直れずに、苦しんでいるんだと。
そう思った。
「…っもう千速さんに会っても大丈夫かと思ったんだよね。会って、あの時のことを謝ってさ。研二の思い出話でもしてさ」
研二を思い出として、あんなことがあったとかこんなことがあったとかを話して、私と一緒に笑うつもりだったと。
…研二、冬華は未だにお前の亡霊を探しているよ。
どう足掻いても似ている私にお前を重ね合わせて。
きっと。
きっと冬華は。
私に抱いてほしいんだと思うんだ。
「冬華、私の話を「でもダメだった!本当、整った顔の姉弟だよねー…っ!ど…っどうしてもさ…っどうしても…っ」
なぁ、研二。
「っちは––––
私はこの、お前を想い苦しむ冬華を放っておけないみたいなんだ。
「…ん…っン…っ」
なぁ、研二。
「…っあ…っあ…っ」
許してくれとは言わないからさ。
「…っけんじ…っあ…っ」
私に抱かれながら、お前の名を囁く冬華と。
「…冬華」
「ぁ…っあ…っ」
弟の恋人を抱く姉の姿を。
–––– どうか見ないで ––––
「え、ダサ!ダサーい!」
「ダサくない。結構高かったスウェットだぞ?特別に貸してやる」
風呂から上がり、着替える私たち。
先ほどまでの冬華は居らず、表面上は元気に見える。
「ビールでも飲むか?」
「飲むー」
ソファーに座り、冬華に缶ビールを渡す。
「ッあ゙ーッ美味い!」
「おっさんか」
小さく笑い、私も缶ビールを飲みながら。
研二の仏壇へと視線を向ける。
…何をやってるんだろうな、私は。
弟であるお前の恋人を、私は…。
「千速さん」
「ん?なんだ?」
冬華はソファーの上で膝を丸めて。
「…今日はたくさんごめんね」
また謝ってきた。
「大丈夫だ」
と告げて、私は冬華の頭を撫でてやった。
どうしたら冬華を救えるんだろうな。
研二の代わりをして冬華を抱いたとしても。
気は紛れるかもしれんが救われるわけじゃない。
…冬華がちゃんと、お前の死を受け入れられるまで。
お前の代わりに冬華を抱くしかないのだろうか。
「さっきも言ったけど、スウェットはクリーニングに出してから郵送するから」
もう会わない方がいいと、冬華は悲しく笑うから。
「ちゃんと届けに来い。それ以外は受け取らない」
またガシガシと頭を撫でて。
「…千速さん」
「んで、今度晴れた日にどこか遠出して美味いものでも食いに行こうぜ」
ニッと笑った。
七年前のあの日。
“…千速さんは、もう来ないで…”
そう告げられた時。
“嫌だ、また来る”
そう言って、素直に受け取らなければよかったんだよな、きっと。
ずっと寄り添ってやれていれば、もしかしたらこいつはここまで苦しんでなかったかもしれない。
「北海道行きたいな」
…研二、私は決めた。
「遠すぎだろ。まずは大阪を食い尽くそう」
お前の亡霊を探し続ける冬華と一緒に、お前の亡霊を探すよ。
救われないかもしれないけど。
お前の大切な冬華は、姉である私が責任持って面倒見るからさ。
だからどうか。
私を許してくれとは言わないから、どうか。
冬華の幸せを願っていてくれよ。
なぁ、研二。
頼むよ。
END
ちっ、千速の奴、わかってねぇなぁ。
そうなんよ。俺以外で冬華を幸せに出来る奴ぁ姉ちゃんしかいねぇのにさぁ。だから頼んだぜ?姉ちゃん。
END