pixiv作品 名探偵コナン
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「…段々腹が立ってきた」
「え、なに?どうしたの?」
「……いや」
妃さんたちとお茶をした時の会話の中に。
“先生にまで告白されて、その先生飛ばされてたわよ”
ってのがあった。
妃さんが、冬華さんが教師にまで告白をされていたと言っていて。
工藤さんの。
“そう!あれは驚いたー!”
からの。
“でも冬華に言わせたら“生徒の体を触るような奴なのに何故クビにならんのか不思議だ”ってブチギレててね”
という言葉の。
“生徒の体を触るような奴なのに何故クビにならんのか不思議だ”
これ。
二人もブチギレたと言っていた。
私はもう十五年以上前の、過去の話だと思って聞き流す感じで聞いていたが。
思い出せば思い出すほど腹が立ってきた。
「何に腹を立たせてるの?」
「……」
蒼月警視の執務室。
昼休憩でソファーに寝転がる私と、昼なのにずっと書類を見ている冬華さんがいて。
寝転がったまま、冬華さんをジト目で睨む。
「あ、私に?私何かした?」
「違う」
体を起こし、立ち上がって冬華さんのデスクに歩み寄る。
「…冬華さん」
「ん?」
私は腕を組み、仁王立ちをしながら。
「学生時代、教師にセクハラをされたんだろ?」
そう問うと。
「……なに?あの二人、あなたにそんな話をしたの?」
冬華さんは眉間に皺を寄せて。
「異常なまでに女にモテてた、とも聞いた」
ため息を零して。
「…ちょっと二人に文句「違う!待て!早まるな!」
スマホを取り出したのを全力で止めた。
「嫉妬をしたとかじゃない。難攻不落のジャンジラ要塞だったと面白く話してくれたんだ」
「…え゙、そんなふうに思われてたの?私…」
「妃さんが簡単にジャンジラ要塞の説明をしてくれて、詳しく知るためにジャンジラ要塞を調べた結果、私のスマホの検索履歴がジャンジラ要塞で埋まった」
スマホを見せながら、決して二人を責めてほしいわけではないことを伝えると。
「ふふっ、わかったわ。じゃあ何?教師からのセクハラに怒ってたの?」
冬華さんが小さく笑った。
怒りを鎮められたようだな。
「あぁ。教師が生徒にセクハラなどあってはならない大罪だろ」
しかも飛ばされただけで、懲戒解雇にはなってないっぽいし。
「そうねぇ。生徒指導室に呼ばれて行ったら」
“…俺はお前が好きだ…”
“…はぁ?すみませんが、興味ありません”
“っ待てよ!!断れば進路に響くぞ!?いいのか!?”
“…私の進路より、自分の身を案じたほうがよいのでは?”
“……っ冬華!!”
“!!”
「って感じで、机に押し倒されて胸を揉まれたわ」
「っ殺してやりたいぃい…ッ」
冬華さんは肩を竦め、苦笑いを浮かべた。
「…どうやって逃げたんだ?」
「金的一撃をね」
「……五撃くらいしてやればよかったのに」
というかセクハラの域を超えてるだろ。
最早 強姦未遂ではないのか?それは。
「クビじゃなくて移動になったことに、英理もユキも怒ってたわね」
「怒るだろ、そりゃ」
冬華さんも被害届でも出せばよかったのに。
「まぁその数年後」
「その数年後?」
冬華さんは思い出したかのように笑って。
「弁護士になった英理が最初に担当した裁判で、最初に有罪にしたのがその教師よ」
「え゙」
…まさかその後も生徒に手を出して…?
「裁判終了後に、英理がその教師に」
“先生、その節は私の大切な親友に、立場を弁えない『特別なスキンシップ』をしていただいたようで。本日はそのお礼に“有罪”という名の『特別なプレゼント』をお贈りしますわ”
「って、笑顔で言ってやったらしいわよ」
「怖すぎる…だがまぁ、当然の報いだな」
クスクスと笑う冬華さんを見て、トラウマにはなってなさそうで安心した。
で。
もう一つ、気になったことがある。
「異常なまでにモテてた話についてだが」
「えぇ、なに?」
と、話そうとした時に。
〜♪ 〜♪ 〜♪
執務室にある内線電話が鳴った。
「あら。ちょっと待ってね」
「あぁ」
冬華さんが受話器を上げて。
「はい、蒼月です。ああ、本部長。お疲れ様です」
県警内で冬華さんが敬語で話す数少ない人物からの内線電話のようで。
「はい、午後から警視庁へ行く予定ですが」
冬華さんの眉間が段々と寄ってきた…。
「…今からですか」
額に手を置き、首を横に振る。
「わかりました、ですが時間があまりないので。えぇ、はい、では」
会話を終え、受話器を置いて。
「どうしたんだ?」
「ちょっと会議に行ってくるわ。私抜きの会議の進行が悪くてお手上げなんですって…」
ため息を零した。
「……大変だな」
私は苦笑いを。
「ごめんね、千速。会議を終わらせてすぐ警視庁に行かなきゃだから、話は帰ってから聞くわね」
「あぁ、わかった」
冬華さんは早々に立ち上がり、私の前に立って。
「ん」
触れるだけのキスをして、執務室を出て行った。
「ふぅ…」
私はもう一度腕を組み、執務室内を見合わす。
犯行手口の資料や、防犯関係の資料。
「小さいが金庫まである」
この金庫に拳銃が入っているのだろうか。
いや、ドラマとかではデスクの引き出しにあるからもしかしたら引き出しにあるのかもしれん。
ロッカーには防刃・防弾ベスト。
「ちゃんと警察仕様の執務室になってるんだな」
余計なものが一つもない。
ソファーへ視線を落とす。
「このソファーも高そう…」
だな、と。言いかけて。
思い出すのはあの日のこと。
「……」
あの日。
私はこの執務室で、このソファーで。
“……抱いてくれないかな…冬華さん…”
あの人を求めた。
あの時はだって、本当に生きているのを確かめたかったから。
制服も、手が震えて脱げなかったのを冬華さんが脱がしてくれて……。
「……ヤバい」
一人で居ると次から次へと思い出しちまう。
私は口元を押さえ、冬華さんが居なくなった執務室をもう一度見て。
「…結構…大胆なことをしたんだな…私は…」
顔が熱くなってきたので、全部を思い出す前に執務室を出た。
「…随分長引いてるなぁ」
夜、20時すぎ。
まだ帰宅しない冬華さん。
飯は一応、拙いながらに作ってある。
一緒に食おうと思って待ってるんだが、なかなか帰って来ない。
連絡はした。
“『もう解放してほしい…』”
と来たのが18時頃で。
それからの連絡はしたがまだ既読にはなっていないと思っていたら。
「あ、既読になってた」
既読になっていて。
〜♪ 〜♪
電話が来た。
「もしもし」
『ごめんごめん、今やっと終わったからこれから帰るわね。神奈川県警にも寄らないとだから、もしかしたら日付変わるかも…』
「はは、お疲れ様。大丈夫だ。事故らないようにな」
『えぇ、ありがと。先に寝ててもいいからね』
「あぁ、わかったよ」
通話を終えて、スマホを隣に置く。
待ってると言うと、焦って帰って来そうだからな。
ソファーの天井を仰ぎ、小さく息を吐く。
「…大変だな、本当に」
警視という階級は、こんなにも忙しいものなのか。
はたまたあの人が優秀すぎるが故に、頼られているだけなのか。
後者な気はするが、それなりの権力を持つということは責任も重くのし掛かるわけで。
こんなに頼られるのであれば、通常より数倍重くのし掛かっているはず。
「…潰されないといいが…」
いつか、その責任の重さで潰されそうで心配になる。
助けてやりたいと思っても、階級が違いすぎて無理だ。
というか、部署も違うんだよな。
あの人は刑事課で私は交通課。
違う部署の警視の執務室に入り浸ってる私、結構凄くないか?
「……うちの隊長に文句を言われてたりしてな」
…確か、年齢は○○さんと変わらないはずだ。
しかも同じ警視だし。
もしかしたら同期かもしれん。
……凄いな、あの人。
法曹界の女王と親友で、元大人気女優と親友で。
あの名探偵と同級生で、極め付けに警視総監のお気に入りときたもんだ。
あの人の周りにいる人間が凄すぎる。
「……そんな人を口説き落とした私もなかなか凄いと思う」
クツリと小さく笑い、時計を見て。
「もう少し待って、帰って来なかったら先に食うか」
待ちすぎるのも良くないだろうし、日付が変わるかもしれんと言っていたしな。
ソファーへと寝転がり、スマホを見ようとして。
「…っいだ…ッ」
手が滑って顔面に落とし、悶絶した…。
「ふー…」
日付が変わる少し前。
頭を拭きながら浴室を出た時に。
ガチャ
ドアが開く音が聞こえてきた。
「やっと帰ってきたか」
玄関へ行って。
「おかえり」
「!起きててくれたの?」
出迎えると、冬華さんは少し驚いたように私を見た。
「起きてたというより、寝るにはまだ早いだろ?」
「えー?良い子はもう寝てるでしょ?」
「…私が良い子だと思うか?」
「思わない!」
笑っているが、どこか疲れている様子で。
「鞄持つよ」
「ん、ありがと」
鞄を受け取り、リビングへ行く。
冬華さんは上着を脱ぎ、ソファーの背もたれに掛けて。
私が鞄をその前に置くと。
「千速ー」
と、両手を広げたから。
「…ん」
ギュッと抱き締めた。
「はー…疲れが取れるー…」
抱き締めただけでそんなわけないだろって思うが、それでも嬉しくなってしまう。
「晩飯は一応作ってある。あ、風呂も沸いてるぞ」
「先にお風呂いただこうかしら。せっかく千速が作ってくれた夜ご飯、ゆっくり食べたいし」
「…そんな大したものじゃない」
「私のために作ってくれたってだけで十分よ。ありがとね」
触れるだけのキスをして、冬華さんは浴室へと行った。
「…私の喜ばせ方を熟知してるよな、あの人は」
キッチンに立ち、晩飯を温める。
「そういや交際してから叱られることがなくなったかも」
白バイを駄目にしたことだってあるのに、冬華さんは笑うだけだし。
クレカを渡されたことや、50万以下なら相談なしに買い物をしてもいいんだぞ?
「…とんでもなく甘やかされてる」
クツクツと笑い、鼻歌を歌いながら料理を温めていた時。
「……」
僅かに聞こえてくるのは水の音。
今、冬華さんが風呂に入っているから聞こえてくるのは当たり前だ。
…私は風呂から上がったばかりだしな。
「……」
コンロの火を止めて。
浴室のドアに手を付いて、コクリと息を呑む。
静かに開けると、散乱している冬華さんのスーツと下着。
それらを手に取り、洗濯カゴに入れて。
「冬華さ『入ってくるのはいいけど、今入ってくるってことはそういうことよ?わかるわよね?千速』
私の気配に気付いてか、冬華さんに言葉を遮られた。
“入ってくるってことはそういうこと”
つまりそれは。
その…するって…ことだよな。
私は返事をせずに服を脱いで。
ガラッ
「!あら、返事の代わり?」
丁度シャワーを浴びていた冬華さんに抱き着くことで返事をした。
「ああ、可愛––––
顔を上げ、今度は私が冬華さんの言葉を遮るようにキスをした。
「ん」
「ン、ン…」
啄むようなキスから、徐々に深くなって。
「んっ、んっ」
冬華さんが私の両頬に手を添えて、舌を差し入れてきたから。
「っは…っぁ…っ」
その舌を絡め取り、シャワーの音にも負けないくらい厭らしい水音を響かせた。
「ん…っぅ…っ」
リップノイズを立て、唇を離して。
「は…っん…っ」
首筋に舌を這わせられ、その感触にゾクゾクと身体が反応してしまう。
鎖骨辺りに痕を残されて。
「…っあ…っ」
胸の先を口に含まれ、ピクッと身体が跳ねた。
「ん、千速、壁に背中付けて」
「っ冷た…っ」
「すぐ熱くなるわ」
転ばないように、壁に背中を付けて。
「…んっんぅっん…っ」
胸への愛撫に声を抑える。
「声出してもいいのにー」
むしろ聴きたい、とほざいているが。
自分らしくない上擦った声を聴かれるほうの身にもなってほしい。
「ぁ…っあ…っん…っ」
手で口を抑えてなんとか耐える。
胸から下へ、舌を這わせられる。
ヘソの下にまた一つ紅い痕が咲いて。
「あ…それ…っ」
されることを理解して思わず声を出してしまった。
「嫌?嫌ならしないわ」
ちゅ、ちゅ、と。
私の返事を待つように下腹部にキスをして。
「千速?されたくない?」
私を見上げてくる。
「……っ」
こんなの、私らしくないのに。
私らしくないのに。
私は両手で顔を覆い隠して。
「…っそ、そういうことは…っきか…っ聞かないでくれ…っ」
恥ずかしさの余り、おかしくなりそうになった。
「…はぁ…可愛すぎる…可愛すぎていじめたい…」
「…っ!」
片足を持ち上げられ、肩に掛けられて。
「あっあっあ…っあ…っま…っまて…っまって…っ」
秘部にある小さな突起を、ねっとりと舐められて。
私の意思とは関係なく背中が反った。
だめだ。
これはだめだ。
これは耐えられない。
「あっあ…っああ…っ冬華さ…っんぁ…っああっ」
耐えられない。
耐えられない。
「ま…って…っあっン…っあ…っああっも…っあっ」
「ん」
小さな突起を口に含まれ、指もナカに挿入されて。
「あぁあっあっあっそれイク…ッッ!!」
強く吸われながらイイトコロを摩られれば。
「あっあっあっイクイクイク…ッあっあっああッッ!!」
背中を反らせたまま…すぐ達してしまった…。
「あー、イっちゃった」
「あ…ぁ…た…耐えられるわけ…っない…だろ…っ」
「声を我慢しなければもっと緩やかにイかせてあげたのになー」
身体が余韻で震える。
「千速」
「あ…っ」
○○さんは立ち上がり、私をシャワーの下へと引っ張って。
「ん」
シャワーを浴びながらキスをしてくれた。
私も冬華さんの首に腕を回して。
事後の啄むキスと、舌を絡ませるキスをして。
「…は…ぁ…」
「大丈夫?」
「…だいじょばない…」
「ふふっ、すぐイッちゃったものね」
冬華さんに抱き締められたまま、呼吸を整えた。
事後、湯船に浸かる私たち。
私は冬華さんに後ろから抱き締められている体勢で浸かっている。
冬華さんの腕は私の腹に回っていて、今のところ変な動きはない。
「良いお湯ねぇ…」
「私は二回目だがな」
「抱かれに入ってきたのはあなたよ?千速」
「う…っ」
○○さんは小さく笑って。
「…はー…」
深く息を吐き出し、私の肩に額を乗せて。
「……おい風呂場で寝るな」
「……はっ」
一瞬で眠りに落ちたのを起こしてやった。
「出るか?」
「んー…気持ち良いし、もう少し入ってたい」
「ん」
私は冬華さんにもたれ掛かるように背中を預ける。
背中には、気持ち良い感触が二つ。
「そういえば、私に聞きたいことがあるんじゃなかった?」
「ん?ああ、そうだった」
私は冬華さんから離れ、向かい合わせになる。
「学生の頃、異常なまでにモテてたって話なんだが」
「なぁに?」
私が気になっていたのは。
「余りに粘着されて、一時期不登校になったとか」
「あー…まぁね…。毎日毎回の休憩時間に来て“好きです”って言われ続けてね」
「…毎日、毎回の休暇時間にか」
パシャっと自分の肩にお湯をかけて。
「そう。その都度断るのも面倒だったし、その都度クラスメイトたちが盛り上がるし」
「…妃さんと工藤さん以外?」
「えぇ。英理もユキも苦笑いを零すくらい毎時間よ」
嫌になっちゃったとため息を零した。
「“いい加減受けてやれよ”って何回言われたことか」
「…それは不登校にならざるを得ないな」
さすがに不登校になる気持ちがわかった…。
でもそれなら、尚更わからない。
「それが気になってたこと?」
「いや」
私は冬華さんの頬に触れて、親指で優しく撫でる。
「私も同じだっただろ?学生時代に粘着してきた奴らと」
私も毎日口説いたんだから。
毎日会いに行って、毎日口説いた。
「私とそいつらと、何が違ってなぜ私の気持ちは受けてくれたのかが気になってな」
最初こそ鬱陶しがってはいたと思う。
「あー…」
冬華さんは視線を泳がせて。
「…まぁ、気になるわよね」
はにかむように笑った。
「話したくないことか?」
…なら無理には聞かないが…。
「話したくないんじゃなくて、ちょっと…なんというか…」
冬華さんは湯船に口元まで浸かって。
「……自分が意外とチョロくて…恥ずかしいというか…」
ブクブクと濁しながらそう言った。
…チョロい?
冬華さんが?
…難攻不落のジャンジラ要塞と言われた冬華さんが?
「……とりあえず、上がりましょうか」
「あ、あぁ、わかった」
風呂から上がり、着替えて。
ソファーで隣り合わせに座る。
「…まぁ、ほら、初めて千速に声をかけた時に」
「ああ、白バイを壊しすぎだってやつだよな?」
「そう、その時」
この時、初めて私たちは会話をした。
刑事課の奴らが冬華さんを畏怖しているのは知っていたし、何ならすごい怒鳴られてるのを目撃したことすらあるほど。
だからこそ、声をかけられた時には本当にビビった。
「あの時ね?あなたの部署の上司、同期なんだけど」
やっぱり隊長と同期だったんだな。
「その同期が、前に“うちの萩原が白バイクラッシャーで大変なんだ…っ”と私の執務室に来て涙を零してて」
…す、すみません隊長…。
「“お前からも注意してやってくれ…!”と言われたからあなたに声をかけたの」
「隊長が…」
…ん?
まさか、隊長がキューピッド?
「そしたらあなた、“…げ…蒼月警視…”って物凄い嫌な顔したの忘れてないわよ?」
「く…っあれは…っまた貴女を知る前だったからで…!」
冬華さんはクスクスと笑って。
「まぁそれで、注意をしたじゃない?」
「まぁ…そうだな…」
自腹になるって脅されたな。
「あんなに嫌な顔をしていたのに、注意をした同じ日に突然告白をされて驚いたのなんのって」
「…だから…ギャップにだな」
「あの時も言ってたわよね。ギャップにどハマりしたって」
男勝りな口調で叱られたのに、給湯室で憂いを秘めた伏せ目がちの眼差しで。
“…はぁ…疲れたわね…”
に、ハマらない奴はいないと思う。
「自分では本当に気付かなかったんだけど、でも小学生の頃にバカにされたあの口調を“好き”だと思ってくれたのよね、あなたは」
「ん、どハマりした」
冬華さんは優しく、でもどこか懐かしむような眼差しで。
「大好きな祖母を、認めてもらえた気がして。なんだか嬉しくて」
今度は冬華さんが私の頬に触れて。
「千速は毎日面白く口説いてくるし、それが楽しくなっちゃってね」
“…しつこい。私は誰のものにもならん諦めろ”
この言葉も。
“だから萩原、白バイを傷つけすぎだと何回言えばわかるんだ”
この言葉も。
“文脈がおかしいんだよお前は”
この言葉も。
全部、鬱陶しがられていると思っていたのに。
「次はどう口説いてくるんだろうって、ワクワクして。むしろ私があなたを探していたくらいに」
冬華さんはそう思ってはいなくて。
ただ、私との会話を楽しんでくれていた。
冬華さん自ら、私を探すくらい楽しんでくれていた。
「一ヶ月間、白バイを傷つけずにいたら〜のあれ、あれはさすがに卑怯だったわよ?」
「本気で貴女が欲しかったから、なりふり構ってられなかったんだ」
“じゃあ今月いっぱい、白バイを傷つけずにいたら私のものになってくれますか?”
“…な、なんでそうなる…”
「ふふっ、随分無茶な賭けを持ち出したなって思ったもの。騙されたー」
“どうなんですか、冬華警視”
「距離を詰めた時に下がったのは?」
「あれは…」
冬華さんは膝で頬杖を付いて。
「…今思えば、その時にはもう惹かれてたんじゃないかなぁ。なんか恥ずかしかったのよ、あの時」
頬を赤らめた。
…この時にはすでに、私に…。
ヤバい、ニヤける…。
「その後、千速が白バイに乗らなくなったの笑っちゃったわよ。同期も“萩原がおかしくなった”って驚いてたわよ?」
“お前白バイ乗らないの卑怯だろう!”
“誰も乗るなんて言ってませんよ”
このやり取りも、本当は楽しんでくれていたんだな。
「あなたに会いに行くきっかけが出来て嬉しかった」
“…巡回行かなくていいのか?”
「…私にベタ惚れじゃないか」
「あは!そうかも!まぁそれも、今思えばだけどね」
何せあの時は気付かなかった、と。
冬華さんは言って。
「千速に“本気なんだ”って言われた時に、キューンって来ちゃって。見事に落とされました」
恥ずかしそうに笑った。
可愛い…。
「だが、渋々だったような気がしたのは?」
“…っわかった…負けたよ…”
私に落とされたという感じがしなかったが…。
「だって見事に落とされちゃったのよ?素直に受けたらなんか癪じゃない!?」
「なんで癪なんだよ!そこは素直に受けてくれよ!」
冬華さんはまたクスクスと笑って。
「だからね?意外とチョロいでしょ?ただ女の口調にどハマりされただけで惚れたのよ?」
ソファーで膝を抱えて丸くなった。
「チョロくはないだろ」
「え?」
私はソファーの背もたれに背中を預けて。
「大好きな祖母が使っていた口調をバカにされたことでその口調がコンプレックスになっちまって」
冬華さんのほうを見ると。
「大好きな祖母を否定された気がして、そして口調を変えたってことは自分自身でも祖母を否定してしまったって思ったんだろ?」
「…えぇ」
冬華さんは膝に顔を埋めていて、小さく頷いた。
「そんな思いを抱えたまま今の今まで生きてきて、本来の自分を隠したまま生きてきてさ」
そんな冬華さんの頭に手を置いて。
「“本来の自分”のほうが好きだって言われりゃ、誰でも惚れちまうだろ」
優しく撫でた。
「そしてそれが私で本当によかったと思うよ。もし妃さんや工藤さん、他の誰だか知らん馬の骨に先に聞かれたりしたら今の私たちはなかったと思うしな」
「…っん」
ずず、と。
鼻を啜る音が聞こえた。
「はは、泣かせてしまったか」
「…な、泣いてないし…!」
運命って言葉があるとしたら、まさにこのことだと思う。
冬華さんが小学生の頃に、女口調をバカにされていなければ今はない。
昔から女口調だったなら、口調のギャップにハマることもなかった。
今でも“鬼警視”として、警戒していたかもしれん。
「だから私としては冬華さんには申し訳ないが、当時のバカガキ共に感謝だよ」
「ふふっ、それがなきゃ今はないものね」
「本当にそう」
お前らのおかげで今、私は冬華さんと交際していると報告してやりたい。
「…はぁ…好き…千速…」
コロンと横になり、私の膝に頭を乗せてきた。
「わ、私もだよ…!」
突然言われると照れ臭いが、私も同じ想いを告げた。
すると。
〜♪ 〜♪ 〜♪
冬華さんのスマホが鳴った。
「……何時だと思ってるのかしら」
「もう日付け変わって一時だぞ」
スマホの画面を見れば、□□県の△△警視長からで。
冬華さんが謹慎処分にされた元凶だった。
「……」
「出ないのか?」
「出たら呼び出しだし、もう行きたくないもの」
乱暴にスマホをテーブルに投げ置いて。
「そういえば、千速ご飯作ってくれたのよね?」
「…あ、ああ、そうだったな。忘れてた。食うか?」
「たーべる!千速が作ってくれたものは全部食べる」
まったくこの人は…。
はぁ…好き過ぎて。
好き過ぎて好きが溢れちまう…はぁ…。
「…だからそんな大したものじゃないから」
二人でキッチンに立つ。
「明日の言い訳は?」
「“非常識な時間でしたので寝てました”かしら」
「寝てましただけにしとけ。また喧嘩になるぞ?」
「ふっかけてくるほうが悪い!」
「乗るのも悪い」
「…く…っ」
冬華さんが私の想いを受けてくれたのは。
単純に押し負けたんじゃなくて。
冬華さんなりの理由があった。
大好きな祖母が使っていた口調を、私が好きだと言ったから。
小学生の頃にバカにされたことによる、自分の中でコンプレックスになってしまって。
祖母への罪悪感と、大好きなはずの祖母を自分でも否定してしまったことへの後悔。
それらをずっと背負いながら、男勝りな口調を通し続けた冬華さんもなかなかに凄いが。
小学生ながらに、相当なコンプレックスになってしまったんだろうな。
…当時のバカガキ、なんて言ったんだよ。
だがまぁ、それを崩して“本来の自分”になれるのが私の前でだけで。
私が冬華さんの心の拠り所になれたことが何よりも嬉しいんだ。
「おいしー!」
「…それならよかった」
まぁ…飯を食った後…。
時間も時間だし寝るのかと思えば…。
「ん…っんン…っあっあした…っも…っしごとだろ…っ」
「仕事だけど、千速が可愛すぎるんだもの」
ベッドでまた抱かれた。
風呂場でした時ほどの激しさはなかったが…。
で、翌朝…。
「…ねむ…眠いし…腰が痛い…」
「シャキッとしなさい。軟弱者め」
「誰のせいだよっ!」
next