pixiv作品 名探偵コナン
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「冬華さん、ポッキーゲームしないか?」
「いいわよ?私の代わりに前を見といてくれる?」
「そこは断れ!」
ある日。
私も冬華さんも風邪が良くなった頃、冬華さんが警視庁へ行くと言うのでついて行った。
私は休みだし、ついて行ってもいいかを聞いたらいいって言ったからな。
バイクで行ってもよかったんだが、病み上がりにバイクの冷風は良くないということで○○さんの車で向かうことに。
「東京で千速は何をしてるの?」
「なんか適当に美味そうなものでも食ってる」
「美味しそうなのあったら教えてね」
「あぁ、写メしとく」
冬華さんが警視庁に居る間は私は暇だから、東京観光でもしていようと思う。
忍に土産を買って、交通課の奴らにもなんか買って行くか。
「あ、そうそう」
「ん?」
信号で停まり、冬華さんは鞄から財布を取り出して。
「これ、渡しておくわね」
「…クレジットカード?」
クレカを渡された…。
「せっかくの東京だし、お金を気にせず欲しいものを買ってちょうだい」
「…甘すぎないか?」
クレジットカードを裏返し、記載された○○さんの名前を指でなぞる。
「あら、可愛い恋人さんは甘やかしてなんぼでしょ?」
「…っ」
…本当にこの人は、恥ずかしい台詞を簡単に吐く。
「…す、好きなものを買っていいのか?」
○○さんのクレカを持ってるってだけで、何故か一人じゃないという安心感が生まれた。
「えぇ、いいわよ」
私はニコリと笑って。
「新しいバイク「50万以上の買い物は要相談!」
言い終える前に遮られたことに笑ってしまった。
その時。
パァーッパッパァーッ
突然クラクションを鳴らされた。
「何かしら」
「わからん、何だろう」
冬華さんはバックミラーで、私は振り返って後ろを確認する。
男三人が乗ってる赤いスポーツカーが、蛇行運転をしていた。
「ハンドル壊れてるっぽいわね」
「どう見ても煽り運転だろ」
よもや私たちを煽るとは。
パァーッ パッパァーッ パァーッ
「煩いなぁ」
「クラクションが壊れたのかもしれんな」
「ドラレコあるけど、ナンバーと車種を控えてちょうだい」
「ん」
タプタプとスマホにナンバーと車種を打ち込んでいると、助手席側に横付けされて。
「開けろとさ」
「開けてあげて。何か困ってるのかも」
「絶対に違うだろ」
窓を開けろと合図してきたから、クツクツと笑いながら窓を開ければ。
「おいおいおいー!チンタラ走ってんじゃねぇよこらぁ!」
「舐めてんのかおらぁ!」
「女だからって俺らは優しくねぇぞこらぁ!」
でかい声を出してきた。
「あらま。嘘みたいに煽られてるんだけど」
「嘘みたいに煽ってるな」
私は窓枠に腕を置いて。
「うるせぇよ。捕まりたくなきゃとっとと失せろ」
はっ、と笑って言ってやると。
「なんだとてめぇ!!良い女だからって調子こくなよこらぁ!」
「良い女だからって何でも許されると思うなよおらぁ!」
「っつか良い女過ぎるだろ!ヤらせろこらぁ!」
「煽ってるのか褒めてくれてるのかどっちなの?」
「面白い奴らだな」
煽りながら褒めてきた。
「煽り運転は一発免許取り消しだ。見逃してやるから二度とするなよ?」
こんなに優しく見逃してやろうとしているのに。
「うるせーぞぉ!停まれこらぁ!」
「俺らを舐めるなよおらぁ!」
「ヤらせろこらぁ!」
一向に煽り運転を辞めないため。
「…千速、私のポケットに“あれ”入ってるから」
冬華さんの我慢が限界を迎えた。
「ん?“あれ”か、わかった」
冬華さんのポケットから“あれ”を取り出す。
「いいか、お前ら。警告はしたからな?」
“あれ”を出す前に、もう一度警告してみたが。
「喧しいこらぁ!」
「さっさと停まれおらぁ!」
「ヤらせろこらぁ!」
ダメみたいだな。
本当に馬鹿な奴だ。
私たちは頷き合い、そいつらに“あれ”を見せて。
悪質な煽り運転ということで。
「神奈川県警 警視様のお通りだぞ。誘導するからついて来い」
しょっぴくことにした。
「「「ッ警察!?!?警視!?」」」
渡された“あれ”とは冬華さんの警察手帳で。
「お前ら、警察車両を煽るとはなかなかの根性じゃないか」
冬華さんもクツリと笑いそう言う。
「…っずらか「ああ、逃げようとしても無駄だ。ナンバーと車種は控えてある」
一拍置いて。
「それにこの車は前後にドラレコが搭載されている車だし、おっと車内のドラレコでもお前らの暴言が録音されちまってるぞ?オマケに」
と、パシャッとスマホでそいつらの写真を撮って。
「お前らの顔写真もゲットだ。逃走して罪を重くするのか、素直に誘導に従って変わらぬ罪のままでいるのか」
私はニコリと笑って。
「特別に選ばせてやるよ」
そう告げると、そいつらは見る見るうちに顔を真っ青にさせて仲間と顔を見合わせて。
「「「…従います…すみませんでした…」」」
「素直でよろしい」
投降した。
ということで。
路肩に停車させ、全員の切符を切った。
運転手だけじゃなく、同乗者のもな。
同乗者の場合はグレーだが、この人は警視だからな。
権力で何とでもなる。
「…あの…ほんとすみません…」
「俺ら調子に乗っちゃって…」
「今日新車の納車日で…その…テンション上がっちゃって…」
警視庁の奴らが来るまで路肩で正座をさせられている。
真っ青な顔のまま謝っているが。
「蒼月警視、許しますか?」
私がケラケラ笑いながら聞くと。
「絶対に許さん。あれだけ警告したにも関わらずずっと煽ってくるなど、お前らに車を運転する資格などない」
断固として許さない姿勢だ。
「新車の納車日に免許取り消しか。今日一日の気分はまるでジェットコースターだな!」
「…ぐ…っ」
私は男の額をコンコンとノックするかのように軽く叩く。
「ア、アンタは何なんだよ…!関係ねぇだろ!」
「は?関係ないわけないだろ?」
私は立ち上がり、冬華さんと顔を見合わせて。
「ほら、この紋所が目に入らぬか」
と、私の警察手帳を見せつけた。
「警察!?」
「アンタも!?」
「しかも警部補!?」
「神奈川県警 交通部 第三交通機動隊の小隊長を務める者だ。よろしくな」
ニッと笑った時に。
「蒼月警視!萩原警部補!お疲れ様です!」
警視庁のパトカーが三台来た。
基本的にパトカーは、被疑者を挟むように刑事二人が乗るから被疑者は一人しか乗せられない。
「ご苦労。すまないがよろしく頼む」
「はっ!」
行き交う車は、パトカー三台も来て何事かと思ってるだろうな。
「あ、あの…車は…」
「レッカーを呼んである。とっとと乗れ」
新車だしな。
心配だよな。
「ああ、ちなみに」
「…?」
そんな男らに、冬華さんが声を上げて立ち止まらせて。
「免許の再取得は最短で一年、最長で十年かかる。まぁ大体は一年から二年の間に取得できるようになるが」
「…一年から二年すか」
「そうだ」
「そ、それならもし「だがお前らはあまりにも悪質だったから恐らくは十年はかかるだろうな」
期待させてから地獄に堕とした…。
……そういう手続きをするつもりだな。
鬼だが、自業自得だから仕方ない。
…そうして。
「…そ、そんなぁ…」
「うぅ…許してくださぁあい!!」
「うわぁあ!!」
「喧しい。連れて行け」
「はっ!」
男たちは泣きながら連行された。
「バカな奴らだったな」
「本当に。まったくもって馬鹿者だわ」
私たちも呆れ返ってしまったよ。
「じゃあ千速、終わったら連絡するから」
「わかった、待ってる」
東京駅で下ろしてもらい、冬華さんは警視庁へと行った。
「さて。私は何をしていようか」
とりあえず、何か食うか。
スマホを取り出して、“東京 美味い店”で検索をかける。
「“カフェ 風林火山のパンケーキが絶品”と」
口コミは悪くないな。
「お、ここから近いみたいだ。ラッキー」
スマホをジャケットのポケットに入れ、手を突っ込んだまま歩く。
…しかし東京は人が多いな。
建物も高く、空が遠いと感じる。
横浜ももちろん高い建物はたくさんあるが。
横浜は空が広く、手が届きそうなくらい近いと感じる場所も多い。
「ふ、“空に手が届きそう”とは、私もなかなか詩人だな」
自分で発した言葉に小さく笑った時。
「あら?あなた…萩原さんじゃない?」
声をかけられた。
「!」
振り返れば、そこにいたのは。
「っと、妃さん。お久しぶりです」
冬華さんの友人の妃さんと。
「英理?知り合い?」
もう一人。
…どこかで見たことあるような顔の女で。
「お久しぶりね、萩原さん。萩原さん、こちら私と冬華の友人の工藤有希子っていうの」
「工藤有希子よ、よろしくね!」
「ああ、萩原千速です。よろしく」
手を差し伸べてきたので、握手を交わした。
冬華さんの友人か。
…妃さん以外にいたんだな。
「二人はなぜここに?」
妃さんと工藤さんが何故こんな場所にいるのかを聞けば。
「有希子が久しぶりに日本に帰ってきたから、飲みましょうかって話になって」
「冬華にも連絡したら仕事だって断られたわ!」
で、仕方ないから二人で食事でも、ということらしい。
私は苦笑いを零して。
「タイミングが合いませんでしたね」
そう言うと、妃さんは。
「残念だけどね」
笑みを浮かべながらジッと私を見てきた。
「…?」
なんだ…?私の顔に何か付いてるか?
と思っていれば。
「そうそう有希子。驚かないで聞いて?」
「なになに?わかった、驚かないわ」
私の肩に手を置いて。
「彼女、冬華の恋人よ」
…そう言った。
「は?」
工藤さんはきょとんとして、私と妃さんを交互に見て。
「え?…は…?……え?」
ワナワナと震え出して。
「冬華の恋人!?!?嘘でしょ!?!?」
ガシッと私の肩の掴んできた。
「…い、いや…嘘ではないが…」
な、なんだ…?
私が恋人だと何かおかしいのか?
「えええ!?!?あの難攻不落のジャンジラ要塞とまで言われてた冬華を口説き落としたというの!?」
じゃ、じゃんじら…?
「有希子、落ち着きなさい。ごめんなさいね、萩原さん。ジャンジラ要塞というのはインドのアラビア海に浮かぶ海上要塞で、“難攻不落の海城”って知られてる要塞なのよ」
妃さんがジャンジラ要塞について簡単に解説をしながら、私から工藤さんを引き剥がしてくれた。
「…そんなに堅物だったんですか?」
私は冬華さんの学生時代は知らないから、結構貴重な情報だ。
「堅物も堅物!あの男勝りな性格も相まって、異常なまでに女の子にモテてね!でもみーんな玉砕してたわ!」
…男勝り?冬華さんが?
「私も最初聞いた時は驚いたけど、ついにかって思うと嬉しくてね」
妃さんはクスクスと笑った。
……おいまさか。
…二人の前でも男勝りな喋り方なのか?
ワントーン高い声の女の口調は、私の前だけなのか?
「えー!詳しく話聞きたいんだけど!?」
「萩原さん、時間あったらどこかでお茶しない?」
まぁ、暇だし。
冬華さんの学生時代の話を聞けるなら構わない。
「わかりました。“カフェ 風林火山”って店のパンケーキが美味いらしいのでどうですか?」
「行く!」
「本当ごめんなさいね…萩原さん」
「いえ、大丈夫です」
天真爛漫だっただろう工藤さんと、絶対に生徒会長だっただろう妃さん。
この二人と親友だった冬華さんは、一体どんな感じだったんだろうな。
…気になりまくる。
カフェ・風林火山にて。
「おいしそー!」
「いただきます」
二人の向かい側に座る私。
私が頼んだのはチョコパンケーキで。
チョコレートクリームと生クリームがかけられているパンケーキだ。
「で!?さっそくだけど!どうやって口説き落としたの!?」
工藤さんがパンケーキを頬張りながら興味津々で聞いてきた。
「…まぁ、特別なことはしてませんが、毎日口説きました」
「鬱陶しがられなかった!?」
「最初は多分、鬱陶しがられていたと思います。しかし、嫌な顔はされなかったし、逃げられることもなかった」
パンケーキを食べながらそう言うと。
「うそぉ!学生の頃はあまりにも粘着されるから一時期不登校になったのに!」
工藤さんはとんでもなく驚いていた。
「私と有希子で説得して連れてきたのよね」
「そうそう!“…もう面倒だから行かん”って言うのを私たちで頑張って説得したの!」
結構暗い性格だったのかな。
「…冬華さんは学生の頃、どういう感じだったんですか?」
話をそちらに向けて、冬華さんを口説き落とした話から逸らしてみる。
詳しく話すには照れくさいし、何より冬華さんが知られたくないだろうしな。
「冬華ってめちゃ美人ちゃんでしょ?だから色んな子から毎日のように告白をされていたわ」
「先生にまで告白されて、その先生飛ばされてたわよ」
…そ、そんなにモテてたのか。
「そう!あれは驚いたー!でも冬華に言わせたら“生徒の体を触るような奴なのに何故クビにならんのか不思議だ”ってブチギレててね」
「それを聞いた私たちもブチギレたわよね」
「…ヤバい教師だったんですね」
私は苦笑いを零して、パンケーキの欠片を口に運ぶ。
「って、冬華がモテてた話は良い気しないわよね。ごめんなさい」
「あ、いえ。構いませんよ」
難攻不落のジャン…なんだか要塞と言われた○○さんを落としたのは私だけのようだし。
なんなら気分が良い。
「でも冬華に恋人かー。ずっと独り身かと思ってたから安心しちゃった」
と、工藤さんは優しい眼差しで私を見て。
「本当にね。久しぶりに再会した時、萩原さんの同窓会にカチコミに行くぞって言っていた時の冬華の表情がまぁ楽しそうで」
「それー。あたしも見たかったなー」
「有希子はその頃、イギリスに居たんじゃなかった?」
「そ。本当はあの日に日本に帰国するはずだったのに、新ちゃんに編集者に居場所をバラされて帰れなくなって、それで帰国が今になっちゃったの!」
新ちゃん、とは多分工藤さんの子供か。
編集者ということは、何か執筆系の仕事を?
まぁ、何でもいいんだが。
「…あの時、妃さんが止めてくれていたんですか?」
「そうよ。せっかくの同窓会を邪魔しないのって話していたら、“あいつも楽しそうだぞ?”ってニヤニヤしてたわよ」
「そうなんですか」
……やっぱり。
やっぱりだ。
妃さんや工藤さんも、女口調のあの人を知らないんだ。
私だけなんだ。
冬華さんの“女の部分”を知っているのは。
……やばい。ニヤつきそう。
ニヤつきそうなのを、コーヒーを飲むことで誤魔化そうとしたが。
「…千速ちゃん、なんか嬉しそうね?」
工藤さんにバレた。
工藤さんはテーブルで頬杖を付きながら、ニヤニヤ笑っている。
「…冬華さんの学生時代の話は貴重なので」
平常心だ。
心を乱すな。
「千速ちゃんが知らない冬華を知れてちょっと嬉しい、とか?」
「…まぁ、はい…」
そりゃ嬉しいだろ。
どう足掻いても、私にはもう二人から話を聞くことでしか学生時代の冬華さんを知れないのだから。
「ふふっ。あ、っていうか、あいつ番号変わってない!?電話しても通じないの!」
「ああ、爆破事件でスマホ吹っ飛んだって言ってたから買い替えてるわね」
「爆破事件!?え!?冬華、爆破事件に巻き込まれたの!?」
「…冬華さんと警視総監が会食をしていた店が入っているビルが爆破されました」
「えええ!?それで生きてるの!?」
「あの子、そういう直感だけは化け物だからね」
妃さんは優雅に冷静にコーヒーを啜っている。
さすが弁護士だな。
「英理は知ってるの?冬華の番号」
「知ってるわよ。連絡来たから」
「なんで私にはないの!?」
「…妃さんは弁護士なので、ホームページからアクセスしてましたよ」
「それにスマホがないんだもの。あなたの番号わからないでしょ?」
「……じゃあ仕方ないか」
…妃さんが教えればよかったのでは?
「!………」
と思っていたら、妃さんがジト目で私を見ていて。
“有希子には余計なことは言わないように”
というテレパシーを受信したから、小さく頷くことで返事をした。
…きっと伝え忘れていたんだろうな。
「英理、教えて」
「はいはい」
「あ!千速ちゃん、いいかしら!?」
冬華さんの親友なのに、私に許可を求めてくれる辺り良い人なんだろうな。
「構いません。きっと冬華さんも知りたいでしょうし」
冬華さんの親友だから良い人に決まっているんだが。
「ありがと!」
妃さんから番号を聞いて。
「じゃ一枚!」
「ちょっと有希子!」
「!」
工藤さんが、私と妃さんも入るように三人での自撮り写メを撮って。
「冬華に送信!!」
冬華さんに送った。
数秒後。
ヴーッ ヴーッ
私のスマホが鳴った。
「もし『どういうこと?なんで千速、英理とユキといるの?』
声が小さいことから、隙間で連絡をしてきたんだな。
「たまたま会っ「千速ちゃん、貸してくれる?」
私の言葉を遮り、工藤さんが手を差し出してきたのでスマホを渡した。
「もしもーし!久しぶりー!元気してた?」
ニッコニコで話してる工藤さん。
「たまたまそこで会ったのよ。英理とどこで食べようか話してた時に英理が千速ちゃんを見つけてね」
一緒にいる理由を説明してくれている。
「というか!なんで恋人出来たこと黙ってたのよ!」
「…ねぇ有希子、冬華今仕事中でしょ?」
「恐らく合間で連絡をくれたんだと思うが…」
「よね。ほら有希子、貸しなさい」
「あ!ちょっと英理!」
次は妃さんが私のスマホ工藤さんから奪い、耳に当てて。
「ごめんね、冬華。仕事中なんでしょ?えぇ、わかってるわ。また連絡するわね」
私へスマホを返してくれた。
「冬華さん」
『もう行かなきゃだけどユキも悪い子じゃないから大丈夫よ』
私は小さく笑って。
「貴女の学生時代の話を根掘り葉掘り聞いておくさ」
肩を竦めた。
『…いい?千速、くれぐれも変な質問しないようにね?じゃあまた後で』
「あぁ、また」
と、通話を終えた。
まぁ、聞いたりはしないんだがな。
いや、聞きたいのは山々なんだぞ?
ただ聞かれたくない話もあるだろうし、そこら辺の線引きがなかなかに難しいよな。
っと、パンケーキも食い終わったし。
「では、私はそろそろ」
そろそろ失礼しよう。
伝票を持って立ち上がる。
「あ、伝票を返しなさい!」
工藤さんも立ち上がり、手を伸ばしてきたが。
「冬華さんからクレカを預かってますので、私が奢るのではなく冬華さんの奢りです」
そう伝えれば。
「…クレカを渡すなんてあの子、本当にあなたに入れ込んでるのねぇ」
工藤さんは驚くように私を見て。
「冬華にとって萩原さんが初恋の相手だからね。あの子の感じからして最初で最後になる気がするわ」
妃さんが小さく笑った。
「…私が初恋の相手で…」
私で最後。
…そして、あの人の女の部分を知るのも私で最後。
「…千速ちゃんも初恋っぽいなぁ」
「…っ!」
工藤さんがまたニコニコ笑っていて。
「それだもの、お互い依存気味になるってものよね」
妃さんがクスクスと笑う。
二人の前での冬華さんは、クツクツと笑うだろう。
…三人で歩いていたら、全ての人間が振り返りそうだな。
「ね、千速ちゃん」
「?はい」
工藤さんはテーブルに両肘を付き、手に顎を乗せて。
「私たちの大切な親友に幸せをくれてありがとね」
綺麗な笑みを浮かべ、そう言った。
“幸せにしてくれて”ではなく、“幸せをくれて”か。
同じ意味合いなのに、後者の言葉のほうが何故だか暖かくなる言葉だ。
妃さんといい、工藤さんといい。
本当に優しくて格好良い。
私にとっての忍と同じで、こんな人たちだからこそ冬華さんは胸を張って親友だと言えるのだろうな。
「…私も冬華さんから十分すぎるほど幸せをもらってますから」
「ふふっ、また惚気話を聞かせてもらうわ」
「今度は冬華も一緒に、ね?」
私たちは笑い合って。
「あ!冬華にありがとって伝えておいてね!」
「伝えておきます」
軽く頭を下げ、会計を済ませて店を出た。
「うむ、なかなか良い時間だった」
詳しくは聞いてはいないけど、一番の収穫は○○さんは二人の前でも男勝りな口調だってこと。
あの人の“女の部分”は私だけのもの。
「…だが、何故二人にも隠しているんだろうな」
親友である二人にも、ワントーン高い女口調ではなくワントーン低い男勝りな口調で話す理由は何なんだ。
…あまり重大なことじゃなきゃいいが。
「帰りにでも聞いてみよう」
最初こそ妃さんに嫉妬をしたものの、今日を境にもう嫉妬をすることはないだろう。
何故なら、妃さんも工藤さんも。
私と冬華さんの幸せを願ってくれているから。
“私たちの大切な親友に幸せをくれてありがとね”
こんな言葉を紡いでくれる人たちに、嫉妬をする必要などないからな。
「さて、と」
スマホで時間を確認して。
冬華さんと落ち合うまで、まだまだ時間もあることだし。
グーッと背中を伸ばして。
「バイクショップでも見に行くか」
ジャケットのポケットに手を突っ込んで。
「お、あれ美味そう。忍に買っていこう」
歩き出した。
そして。
帰りの車で。
「冬華さんって、二人の前でも“警視口調”なのか?」
聞こうと思ってたことを聞いてみた。
「そうね。男勝りの口調で話してるわね」
「何か理由があるのか?」
窓枠に肘を掛け、再度問いかけると。
「大したことじゃないんだけど、私は祖母の影響で小学生の頃からこの口調だったのを当時の同級生に馬鹿にされて以来、口調を変えて話していたの」
なんと祖母の影響で、小学生の頃から。
上品な祖母だったんだな。
「長年使ってただけあって男勝りな口調に慣れちゃったから、今更この口調に戻して話すのも気恥ずかしいってだけよ」
「では、何故あの時口調を戻したんだ?」
あの時、とは。
私が冬華さんのギャップにどハマりしたあの瞬間のこと。
「戻したわけじゃなくて、ふと出ちゃったんだと思う。千速に言われるまで気付かなかったし」
冬華さんはクスリと笑って。
「不思議よね。男勝りの口調のほうが長く使っていたのに、今の口調のほうが落ち着くの」
そう言った。
男勝りの口調も、“警視”としての威厳が出て格好良くて好きだが。
「私は今の口調の冬華さんに惚れたから、祖母に感謝だな」
ワントーン高い女の口調の冬華さんにベタ惚れしたからな。
私にしか見せない“女の部分”にやられちまったから。
「ふふっ、ありがと。千速の前でだけは“本来の私”に戻れちゃう」
“本来の冬華さん”か。
「………」
「あ、今ニヤニヤしてるの隠してるでしょ?」
「ニヤけずにはいられない」
「あは!素直でよろしい!」
冬華さんはクスクスと綺麗に笑った。
「というか、二人に会わなくてよかったのか?」
「ああ、大丈夫よ。そのうち会えるから」
そのうち会える。
冬華さんが二人に向けて放つ“そのうち会える”という言葉は、三人が三人とも信頼し合っていての言葉だろう。
「そうだ。ユキにサインとか貰わなかったの?」
「サイン?」
…あの人、有名人か何かなのか?
「彼女、元だけど女優の藤峰有希子よ。弱冠19歳で数々の賞を総なめにした凄い女優だったのよ?」
女優の、藤峰有希子。
「……ああ、通りで見たことがある顔だと思った」
なるほど、納得した。
「あまり興味なさそうね…」
「なさそう、じゃなくて ないんだよ。私が興味津々でもっと知りたいのは貴女だけだ」
「……また可愛いこと言うんだからー」
○○さんは運転をしながら、ほんのり頬を赤らめた。
で。
パァーッ パァッパァーッ
「え、嘘でしょ?また?」
「まただな」
また煽り運転をされた…。
「こんなにも阿呆が多いなんて…私怖いわ…」
「一応見逃し警告はしとくか?」
「いいえ、ここはもう神奈川県警の管轄だから一発免許取り消し十年待ちの刑」
「くっくっ、了解した」
今回は、神奈川県警のほうに通報して。
十年待ちの刑に処される阿呆どもに。
「こちらは神奈川県警だ。誘導に従わなければお前らを指名手配する」
冬華さんの警察手帳を見せて震え上がらせてやった。
「「すみませんでした…」」
「すまんで済んだら警察はいらん。身を持って罪の重さを知れ、愚か者が」
阿呆な奴らだよ、まったく。
END