pixiv作品 名探偵コナン
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“生まれ変わっても、千速に出会えるかなー?”
“祈らずとも必ず見つけてやる”
“あは!ありがと!千速!”
お前はそう言って。
綺麗な笑みを浮かべた。
「おい千速!こんなところで寝るな!」
「!……なんだ重悟か。いたのかお前」
「お前、こんな場所で無防備で寝るな」
「寝ていたつもりはないんだが。というかここは県警本部なんだから襲ってくる馬鹿などいなかろう」
ある昼時。
神奈川県警の中庭で休憩をしていたら、どうやらうたた寝をしてしまっていたらしく。
重悟に起こされた。
「寝言で名前呟いてたぞ」
「…ああ、学生時代の夢を見てた」
「寝てたんじゃねぇか」
学生時代の、あいつの夢を。
「…恋人か?」
「正確には“だった”だがな」
そう。
学生時代、私には恋人がいた。
蒼月冬華という名で、可愛らしい笑みと優しい声色にすぐ惚れて。
“好きだ!付き合ってくれ!絶対!”
すぐ告白をした。
でもあいつは首を横に振って。
“私はやめといたほうがいいわよ。面倒だから”
そう言って笑ったから、腹が立って。
“関係ない!絶対に落とすからな!”
そう宣言をした二ヶ月後。
“落ちたな”
“…落ちましたとも”
私はお前を抱いた。
「なんだ、別れたのか?」
重悟はニヤニヤしながら聞いてきた。
私はそんな重悟に小さく笑って。
「死んだ」
そう伝えた。
「…すまん」
重悟はきょとん顔をして、バツの悪そうな表情を浮かべた。
「構わんよ。もう十年以上前の話だ」
そう。
死んだんだ、お前は。
たった一人で、命を絶った。
「さて、と。巡回へ行くか」
「あ、あぁ。本当悪かった」
「気にするな。知らなかったんだから」
重悟の胸をノックするかのように叩き、ウィンクをする。
「じゃあな、重悟」
「…おう」
私は背中を伸ばし、休憩を終わらせた。
「あの入り方は危ないですよ」
「…ぅ…すみません…急いでて…」
今日も違反車両の切符を切る。
今回の奴は素直に免許証を出してきた。
この前の奴はゴネてゴネて大変だったからな。
「じゃあ、気をつけて運転をしてください」
違反車両を行かせ、白バイを路肩に留める。
「ふう」
ヘルメットのバイザーを開け、一息吐いた。
空を見上げると、青空が広がっていて。
「良い天気だ」
こんな良い天気の日は。
“こんな良い天気の日はピクニック日和ね”
“ピクニックぅ?今時お前…”
“ピクニックに時代なんて関係ありませんがぁ!”
お前のピクニックに行きたいを思い出す。
時間が出来ると、どうしてもお前のことを思い出してしまう。
仕事中だろうとお構いなしにお前は私の心を支配する。
「墓参りには毎年行ってるんだから、少しくらい休ませろよな」
なんて言いつつ、私自身がお前を少しの間でも忘れたくないんだがな。
命日が近いから、こうして物思い耽ってしまう。
私は少し心のざわつきを抑えるためにヘルメットを脱ぎ、深呼吸をする。
そして。
「…本当に…」
居ないんだなぁ。
本当にお前が居ないんだということを。
また実感してしまう。
お前が死んで、十年以上経つのに。
未だに信じられないんだ。
どこかからひょこっと顔を見せるんじゃないかって期待をしてしまうんだ。
お前と歩いた道を辿り、お前を探してしまうんだ。
でも、お前はどこにもいない。
「…冬華…」
“お前少し痩せたか?”
“あ、わかる?ちょっとね、ダイエットしてるの!”
あの時、その言葉を信じずにいたら。
その言葉を信じないで、お前の苦しみに気付いていたら。
或いはお前は今も、生きていたかもしれない。
“生まれ変わっても、千速に出会えるかなー?”
“祈らずとも必ず見つけてやる”
“あは!ありがと!千速!”
いつからだったか、お前はよく“生まれ変わり”の話をするようになった。
あの時は、私は今ほどの知識もなくて。
その言葉をそのまま受け取り、聞いていた。
“生まれ変わったら、また会えるかな?”
“探し出すって言ってるだろ?”
“生まれ変わったら、どんな未来になってるかな?”
“青いたぬき型ロボットが作られてるかもしれんぞ”
一緒に未来の想像をして、こんな未来になったらいいなと笑い合ったな。
“ねぇ、生まれ変わったらまた好きになってくれる?”
お前はどこか不安そうにそう聞いてきたから。
“当然だな”
私がニッと笑って答えたら、お前は不安そうな表情を一転させて。
“うん、私も絶対に千速のこと好きになると思う”
綺麗な笑みを浮かべた。
“思うってなんだよ思うって”
“あは!絶対に好きになります!”
“そうだろ?それが正解だ”
その翌日だったな。
“…しん…だ…?”
お前の訃報を知ったのは。
発見したのはお前の母親。
朝、起きてこないお前を起こしに行ったら。
透明なテープで部屋のドアや窓を目貼りして。
練炭で。
“……おい…うそ…だろ…冬華…”
お前は眠るように。
生涯を終えた。
人生で、あの時ほど泣いたことはなかった。
嗚咽して、何度も吐いた。
あの時の様子を、後に研二が“姉ちゃんまで死んじまうかと思った…”と語ったほど。
お前の頬を撫でて、少しを揺すれば起きるんじゃないかとさえ思うほど。
お前はとても綺麗な笑みを浮かべたまま眠っていた。
“…父…親に…”
お前が死んだ理由は、実の父親による性暴力。
司法解剖の末、事件の全容が明らかになって。
父親は逮捕された。
この悲しい事件は、全国ニュースで瞬く間に広がった。
ただ救いなのは、今ほどSNSが流行っていなかったから。
三日も経てば、人々の記憶から消えた事件だった。
「…ちょっと寄り道をするか」
ヘルメットのバイザーを下げ、白バイを走らせる。
向かった先は、お前がピクニックをしたいと言っていた公園。
駐車場に白バイを止めて、園内を見渡す。
「結構ピクニックしてる人がいるんだな」
主に家族連れだが、大きな弁当を囲んで楽しそうに会話をしている風景を見ながら。
あの時のお前は、プリプリと怒っていたが。
“怒った顔も可愛いだけだぞ?”
“…っ怒ってるんだから可愛いもないでしょ!”
そんなお前も可愛かった。
「…ピクニック…か…」
ピクニック、行けばよかった。
今更そう思っても遅いのに。
私は今更遅いことばかりを考えしまうんだ。
あの時こうしていたら、とか。
本当、今更遅いのに。
「何を言っているんだろうな…」
皮肉に笑うことしかできなかった。
「!千速、戻ったのか」
「今戻った。どうした?重悟」
巡回を終えれば、重悟がいて。
「…通報があったぞ、お前」
「ああ?通報?どんな?」
私はヘルメットを傍に抱え、眉間に皺を寄せる。
「“白バイが公園でサボってる”ってよ」
「サボって…など………いなくも…ない…」
サボっていたわけではないが、側から見たらそう見えるよな。
「…お前、今日はもう帰れ」
「なに?私はまだ業務が「交通課の奴らには俺から言っておくから」
重悟は私の肩に手を置いて。
「命日が近いんだろ?」
「!なん…で…」
一言も口にしていないのに。
「だからお前、今日は心ここに在らずなんだよ」
そんな中で白バイなんて運転したら危ねぇだろ、と重悟は言う。
そんなに様子がおかしかったのか、私は。
「…そうか」
私自身、そんなつもりはなかったんだが。
「では、お言葉に甘えるとするか」
トン、と。
また重悟の胸をノックするように叩く。
「おう。気をつけて帰れよ」
「ああ、ありがとう」
重悟に感謝を述べて、私は早退した。
白バイではなく、自分のバイクで向かった先は。
“じゃーん!秘密基地!”
“子供か”
住宅街から外れたところにある古びた空き家。
持ち主不明で、行政も手を焼いているその家に勝手に入って勝手に寛いでいた。
“なんか出そうだな…”
“え!?千速 幽霊とか怖いの!?意外!!”
“は、はぁ!?怖くなんてない!ただ出そうだなって言っただけだろ!”
“えー?幽霊より生きた人間のが怖いでしょー!”
幽霊が出そうな雰囲気なのに。
“誰も来ないのか?ここ”
“今のところ誰も来たことないよ”
“…そうか。じゃあいいか”
“んー?って…っちょっと千速!?”
“いただきます”
お前と居ると怖くはなかった。
「結構ガタが来てるな」
去年も来たが、年々古くなってる空き家。
そろそろ行政が動きそうだ。
中に入り、汚れたソファーに腰を落とす。
あれから数年。
私は警察官になり、こっそりとあの事件の記録を探した。
お前がいつから苦しんでいたのかを知りたかった。
“……小学…五年生…”
見つけた記録は、父親が供述した内容。
女は小学五年生くらいから体が女へと変化してくる。
個人差によるがな。
そんな中、父親は自分の娘の体の変化を。
“……ぅ…っ”
吐きそうになり、見るのを止めた。
「…誰にも相談出来るわけないよな…」
特に私になんて知られたら、気持ち悪がられてしまうと思っていたんだろう。
冬華、もっと私を信じろよ。
私はお前の苦しみを知り、救い出したかった。
お前の手を引いて走って。
お前と一緒に逃げたかった。
“…千速ちゃん…これ…”
お前の母親から渡された、私宛の手紙。
“…あの子を愛してくれて…ありがとう…っ”
母親の言葉に、私は泣いて頷くことしか出来なかった。
そしてその数日後、お前の母親はお前の後を追った。
さらにその数日後には、お前の父親は獄中で謎の死を遂げた。
母親の記事は新聞の小さな記事でしか公表されなかったが、父親の記事はまた全国放送された。
人は“因果応報”と吐き捨てて。
また三日も経てば、忘れ去られた。
私宛の手紙を開くのに、半年かかった。
読むのが怖かったからだ。
でもお前が私に何を伝えたかったのかを知りたかったから。
震える手で手紙の封筒を開けた。
中には一枚の紙。
“私のことは忘れて、幸せになって”
と、お前の字で大きく書いてあって。
その下には。
“最期に私の人生に彩りをくれてありがとう。大好きだよ、千速”
そう書いてあった。
このたった二行の文字から伝わるのは“死ぬ覚悟”
涙の跡もなく、迷いのない字だった。
涙すら枯れてしまっていたんだな。
「…でもお前、私に抱かれてる時は涙を零してたぞ」
クツリと笑い、天を仰いで腕で両目を隠すように覆う。
「…あれだけ“生まれ変わり”の話をしたのに、最期には“忘れろ”だ?」
ふざけるなよお前と、毎年思う。
お前の命日が近くなる度に、私はこうしてお前との思い出を辿っているのに。
きっとこの思い出巡りは、私が死ぬまで続けると思う。
忘れることなんて出来るわけがないだろ。
…だからちょっと。
「…ちょっとお前を抱いた時のことを思い出してやる」
体を起こし、膝の上で手を組み顎を乗せる。
恥ずかしがるお前を想像するために、ムムム…と思考を巡らせた時。
『この家か』
『そうですね。もう30年以上のままのようです』
「!」
人の声が聞こえてきた。
行政の連中か。
思い出の場所が、取り壊されてしまうんだな。
私は立ち上がって外に出ると。
「!わっ!人が出てきましたよ!」
「え!?」
行政の奴らが驚いて肩を震わせた。
「ああ、すまない。つい猫を追いかけてしまって」
「危ないんですから、入っちゃダメですよ!」
「うむ、すまなかった」
私はバイクに跨って、彼らに会釈をして。
空き家を見上げて、バイクを走らせた。
今日と明日はこうして思い出巡りをしよう。
その後、お前の墓参りに行くよ。
「生まれ変わったら、楽しいところにたくさん行こう」
それこそ、学校や仕事なんてサボりまくって。
お前の手を引いて、たくさん連れ回してやるから。
「覚悟しとけよ?冬華」
そう呟いて、私は笑った。
END
「いいの?会わなくて」
「…今の私に会う資格なんてないよ」
「会うのに資格なんていらないでしょ」
「いるわよ。死を偽装して二人も殺したんだから」
「…本当、馬鹿な子ね」
「元気そうな姿も見れたし、行こっか。ベルモット」
「えぇ、行きましょうか。冬華」
END