pixiv作品 名探偵コナン
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それは
なんの前触れもなく
突然だった
その日は。
「…ずるいだろ」
「警視の執務室だからね」
とても暑い日だった。
その日も、冬華さんの執務室で昼飯を食っていた。
クーラーがガンガン効いていて、暑い日なのにすごく涼しくて。
「…どこにも行きたくない」
「熱中症に気を付けて巡回へ行ってちょうだい」
快適すぎて、執務室から出たくなさ過ぎて。
来客用ソファーに寝転がり、ウダウダしていて。
いつも通り。
有り触れた日常というものを送っていた。
七年前に、思い知ったはずだというのに。
この有り触れた日常が、あまりに幸せで。
有り触れた日常を送れることが。
当たり前のものではないことを。
私は忘れていた。
「そうだ。今日の夜、総監と会食があるから帰りが遅くなるわ」
「…また会食か。最近多くないか?」
ソファーで寝転がったまま、冬華さんをジト目で睨む。
最近、夜飯を一緒に食えていない。
冬華さんの忙しさもあるが、こうした会食が増えているのも理由の一つだ。
「警視にもなれば、付き合いってのがあるの」
冬華さんはクスクスと笑いながら私へと歩み寄ってきて。
寝転がっている私に触れるだけのキスを落としてきた。
「寂しいの?」
「…っはぁ?別にそんなんじゃない」
ただやっぱり、面白くはないだろ。
「…どこで食うんだよ」
「□□っていう高級レストランよ」
「…ドレスコードがあるようなレストランじゃないか」
「まぁスーツだから問題ないわ」
プライベートを削ってまで幹部連中に付き合わされるなんて。
「美味しかったら今度連れて行ってあげるわよ?」
「私はそういう高級料理店は苦手だ」
あいつら、お高くとまりやがるからな。
「もったいないなぁ。三つ星レストランとか興味ないの?」
「興味はあるが、前に重悟に誘われて行ったら出禁になったから苦手になった」
「…それいつの話?浮気?」
冬華さんは眉間に皺を寄せる。
「浮気なわけあるか!冬華さんと交際する前だ!」
「…ならいいけども」
私は体を起こして。
「…どうしても行くのか?」
行かなきゃいけない会食なのかを問いかけた。
「えぇ、行くわ」
「……」
冬華さんは不貞腐れる私にクスクス笑いながら。
「終わったら千速の家に行くから、ね?」
「…む」
「良い子で待ってて?」
ちゅ、と。もう一度。
「…子供扱いするな」
「可愛くてつい」
6つしか変わらないのに、私を子供扱いしてくる。
…いや、6つは結構な差だろうか?
…14歳の中学生と二十歳の大人と考えれば、結構な差か。
だが90歳と96歳って思うと…別にそんな……いや、やっぱり結構な差…か…?
94歳と100歳……かなりの差だな…。
「出来るだけ早く帰るから」
「…そう言って早く帰ってきた試しがない」
「ぅ…」
冬華さんは苦笑を零して。
「こ、今回は頑張ります」
ちゅ、と。三回目。
「…わかった」
期待しないで待ってるとするか。
日付が変わる前には帰ってくるだろうし。
この人はザルだから、酔い潰れることもないから心配はしない。
「ほら、そろそろ仕事に戻りなさい」
「ゔぅ…出たくない…」
冬華さんに起こされ、額にキスをしてくれて。
「じゃあまた、今日の夜にね?」
「…うん。くれぐれも早く帰ってきてくれよ?」
「ふふ、わかってる」
期待はしてないが、念を押して。
私は巡回へと行くべく、交通課のオフィスへと戻った。
「…なんで私が」
白バイで違反車両を追跡していたら。
あまりに危ない運転をするものだから白バイをぶつけて停まらせた結果。
始末書を書く羽目に。
「停まらないあいつが悪いだろ」
デスクで頬杖を付き、パソコンと睨めっこをしてポチポチとやる気なくキーボードのキーを押す。
「…面倒臭いが、ちゃんと書かないと冬華さんに破られるからな」
と、以前の出来事を持ち出して小さく笑う。
まぁ交通課の始末書だから冬華さんは関係ないんだが。
それでもあれを見た以上、適当には作成出来ない。
「…あの後、凄かったな」
揶揄いすぎた罰が下り、とんでもないくらい鳴かされた。
初めて声が枯れて、なんかもう羞恥も何もわからなくなるほど熱に浮かされて。
快楽に溺れた。
普段が優しいから、あんな激しいのは本当にキツい。
…だがそれでも。
“…っあん…っあ…っ冬華さ…っ”
“…っ千速…”
キツいけど、嫌じゃないのが困るんだよ。
色を含む冬華さんの艶やかな瞳が、本当に理性を掻き乱してくる。
……結局最後は多分、失神したんだよな。
最後覚えてないもんな…。
「……普段が優しすぎるから、そのギャップにやられちまう…」
ズルい人だよ本当に。
私はチラッと時計を見る。
定時で帰るのはもう無理だけど。
「…早く帰らないとな」
万が一、いや…億が一にでも冬華さんが早く帰ってくるかもしれないし。
さっさと終わらせて、さっさと帰ろう。
「よし、やるか」
深呼吸をして、椅子に座り直して。
私は始末書作成に集中した。
「…ぅ…ッはぁーっ!」
ようやく始末書の作成が終わった。
始末書を隊長のデスクに置いて。
「ジュースでも買ってくるか」
給湯室にある自販機へとジュースを買いに行った時に。
ドンッ
「!」
突然聞こえた。
「なんだ?花火でも上がったか?」
花火が上がったかのような音。
今日は花火大会でもあるのか?
「そんな知らせ来てたかな」
花火大会が開催されるなら、交通整備などで交通課に要請が出る可能性がある。
だから絶対に市から予め報告があるはずなんだが。
…なんだろうな。
何か、凄く胸騒ぎがする。
「… 冬華さんに連絡してみるか」
総監との会食が始まってるだろうけど、既読くらいは付くだろ。
タプタプとスマホを打ちながら歩いていたら。
『各員 各員、▽▽区▽▽町▽▽ビルにて爆破事件発生!機捜及び所轄の全車、現場へ急行せよ!逃走経路を封鎖、一般市民の避難を最優先とせよ!繰り返す!』
緊急指令が鳴り響いた。
『交通機動隊は第一、第二部隊は出勤、第三部隊は指令を待て!』
「…第三部隊の私は待機か」
全ての部隊が出払うわけにもいかんしな。
スマホを見るが、既読にはならず。
「…またあの人、今度は車にでも忘れたか?」
まったく、あれだけ反省してたはずなのにな。
「何してる!!急げ!!」
「は、はいッ!!」
刑事課から重悟たち刑事が多数飛び出してきた。
刑事課は全員出動か。
「重悟!」
「!」
私は重悟を呼び止める。
「気を付けろよ?重悟。犯人はまだ近くにいるかもしれないからな」
「わかってる。お前ももし出動になったら気を付けろよ?」
「あぁ。すぐに出動出来るよう準備しておく」
重悟と拳を合わせて。
「じゃあ俺は先に行くからな」
「おう」
私も私で、ジュースなんて買ってる場合じゃないな。
すぐに出動出来るよう準備をせねば。
「横溝警部!車両を付けました!!」
「おう!」
重悟の背中を横目で見つつ。
スマホを見て、まだ冬華さんが既読を付けてくれないことにイライラしながら。
踵を返した時だった。
「で!?総監は無事なのか!?」
重悟が。
そう叫んだ。
「…そうかん?」
そうかんって。
警視総監のことか?
“総監は無事なのか”
やっぱり警視総監のこと、だよな。
え?
待て待て。
待てよ。
待ってくれよ。
え?
警視総監がいる店、なのか?
警視総監が、いる、店、?
“そうだ。今日の夜、総監と会食があるから帰りが遅くなるわ”
「ッ待て!!待て待て待て!!!重悟!!!」
嘘だ。
「あ!?なん「総監がいる店なのか!?!?□□って店が入ってるビルが爆破されたのか!?!?」
嘘だよ、そんなの。
「あ、あぁ、そう報告されてるが…どうしたんだよ千速」
そんなわけない。
そんなわけあるはずがない!!!
「…ッ!!」
重悟を突き飛ばして、今度は私が走り出す。
「おい!!千速!!」
向かう先は白バイのガレージで。
ヘルメットなんて被る暇も余裕もなくて。
第三部隊への指令など待ってられなくて。
エンジンをかけ、フルスロットルで発進した。
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ。
“終わったら千速の家に行くから、ね?”
そう言った。
あんたはそう言ったんだ。
帰ってくるって言ったんだ。
嘘だ。
嘘だろ。
なぁ冬華さん。
言ったよな?
“じゃあまた、今日の夜にね?”
今日の夜。
帰ってくるって。
私の家に。
帰ってくるって。
あんたは約束をしたんだ。
「……はぁ…っはぁ…っ」
見えてきたのは、延々と上がる黒煙と。
轟々と燃え盛る赤い炎。
消防車のサイレン、市民の悲鳴と車のクラクション。
「…は…は…」
全てが聞こえなくなって。
まだ中に冬華さんがいるだろう崩壊した建物に。
「ッ!萩原!!待て!!」
「ッ離せ!!まだ中に冬華さんがいるんだよ!!」
飛び込もうとすれば、羽交締めにされて止められた。
どうして止める?
まだ間に合うかもしれないだろ?
どうして止めるんだよ。
「ッ離せ…ッ!離せよッ!まだ中に「誰も居ない!!もう誰も居ないんだよ萩原!!」
誰も、いない?
それは。
どういう意味で?
救助されたから居ないのか?
それとも。
それとも。
爆発で。
全員。
吹き飛ばされて?
「…っ…ぁ゙…っ」
膝を付き、何度も何度も地面に拳を打ち付ける。
私はあと何度。
何度。
何度 絶望を経験しなければならないのだろう。
どうして私なんだ。
どうして私の大切な人ばかり居なくなるんだ。
「……は…は……ッ」
苦しい。
「…ハァ……ッ……ハァ…ッ」
息が出来ない。
過呼吸に陥るほど嗚咽した。
誰かが叫んでいる。
私の名前を叫んでいる気がする。
息が出来ないから。
息をすることが出来ないから。
どうして私ばかり苦しまないといけないんだ。
どうして私ではなく、私が大切に想う人ばかり。
先に逝ってしまうんだ。
私の背中を摩り、刑事たちが慌ただしく叫んでいるのを横目で見ると。
視線の先には刑事たち数人が、怪我をしている警視総監を支えていて。
助かったのは総監だけなのかと。
あいつは。
あの人を見捨てて。
自分だけ逃げたのか。
自分さえ助かれば。
あの人が犠牲になってもよかったのか。
自分では抑えきれない凄まじいまでの憎悪に駆られて。
あいつを。
警視総監をぶん殴りに行こうと走り出した瞬間。
視界の端に映ったシルエットに。
そちらを見れば。
頭から血を流していて。
白いワイシャツが血だらけになっている。
––––– 冬華さんが立っていた。
生き、てる?
生きてる?
呆然と、冬華さんを見つめる。
生きて、るの、か、?
亡霊じゃなくて。
本物の。
冬華さん、なの、か?
交差する視線の中で。
冬華さんは私へと手を差し伸べて。
「…大丈夫。ちゃんと生きてる。千速」
力なく笑った瞬間。
「………ッッッ」
走った。
走って。
「…ッ…ッ!!」
強く。
強く強く強く。
強く抱き締めた。
怖い。
怖い。
怖かった。
研二や陣平のように。
また私の前から居なくなってしまうのかと怖くてたまらなくて。
「…ゔ…ッ…ぁ゙…ッ」
上手く喋れなくて。
冬華さんにしがみ付きながら、膝から崩れた。
「大丈夫、大丈夫よ。千速…」
冬華さんも屈み込み、抱き締めて背中を摩ってくれた。
あの絶望を。
また味わわなければならないのかと。
絶望した。
「…千速、総監を見た?無事よね?」
…あんな奴どうだっていいが。
「…っあいつだけ逃げたのかと思…って…っぶん殴ろうとした…っ」
冬華さんが救った命だからと思って、そう伝えると。
「ふふ、総監を殴っちゃダメよ」
冬華さんはクスクスと笑い、私の頭を撫でてくれて。
「…ねぇ千速、私は現場の指揮を取らないといけないの」
すぐに切り替えて、そう言った。
「……っ」
わかってる。
わかってるんだ。
でも、離れたくないんだよ。
離したくないんだ、○○さん。
「…っ離れたくない…」
「…千速」
困った声をしたって無駄だ。
絶対に離れない。
「蒼月警視!」
「!横溝。総監は?」
重悟が走ってきた。
「今病院で手当を受けてます。あちらに救急車が来てますので、警視も手当てを」
「私以上の負傷者がいるでしょ?そちらを優先してちょうだい」
「…いませんよ。警視と総監がみんなをいち早く逃してくれたので、怪我人はあなたと総監だけです」
重悟の声を背中で聞く。
「…そう…わかったわ。横溝、しばらく現場をお願いね。手当てを終えたらすぐに行くわ」
「っす」
重悟は敬礼をして、現場の指示をしに行った。
「…歩きにくいんですけどぉ」
「…知らん」
冬華さんは、私を引っ付けたまま救急車まで行く。
「千速、震えてるわよ?」
「っ当たり前だろ…!!う、失うかと…っおも…っ思ったんだから…っ!」
貴女を失う以上の恐怖は存在しないのだから。
だからどうか私から。
これ以上奪わないでくれ。
どうかこの人だけは。
私から奪わないでくれよ。
「…戻るのか?」
「えぇ、戻らないと」
額の怪我にガーゼを貼って、冬華さんは現場に戻ると言った。
自分だって被害者なのに。
こんな時まで“警視”にならなくてもいいだろうに。
少し落ち着いて、周りを見る。
交通機動隊の第一部隊と第二部隊で交通規制をしている。
「……そうか」
第三部隊にも何か要請があったのかもしれんが、今の私には知る由もない。
そう思っていたら。
「萩原警部補!」
「「!」」
私たちの下に、交通課の奴が走ってきた。
「これ…!ヘルメットです!」
「え?」
「本部長より“見なかったことにしてやるから第一部隊に加わって任務を全うしろ”とのことです!」
ビシッと敬礼し、持ち場へ戻って行った。
ヘルメットを被らず、私情で白バイに乗ったことへお咎めはなし。
私はヘルメットへ視線を落とす。
「私たちには使命がある。そうでしょ?」
「……」
冬華さんの言葉に、目を閉じて。
「…行ってくる」
ヘルメットを被った。
「えぇ、私も現場に戻るわ」
傍に居たい。
離れたくない。
だが。
私たちは警察官だから。
果たすべき使命があるから。
交通規制や安全確保、一般市民に説明をしながら、遠くから傷だらけで現場の指揮を取る冬華さんを見つめて。
「……」
頬を伝う涙をそのままに。
私は責務を全うした。
空が白んできた頃。
一部の区間のみ交通規制が解け、私は県警本部へと戻った。
泣きすぎたせいか頭が痛いし、すごく眠い。
それでも冬華さんが戻るまで冬華さんの執務室で待っていた。
まだ体が震えている。
まだバクバクと心臓が脈打っていて、落ち着かない。
「……冬華さん…早く戻ってきてくれよ…」
ソファーに座り、膝を抱えて顔を埋める。
あの人は警視だから、今回の事件を担当することになるだろうし。
しばらくは帰れないかもしれない。
『では警視、警視もしっかり休んでくださいね』
『あぁ、わかっている』
「!」
冬華さんの声が聞こえてきて。
ガチャ
「!…千速…」
ドアが開き冬華さんが入ってきた音がした。
顔を上げず、ずっと膝を抱えて丸くなっている私の隣に座った。
「心配をかけたわね、千速」
ギュッと抱き締めてくれて。
「まぁ多少は怪我をしたけど、こうして元気だから安心して?」
ポンポン、と。
赤子をあやすように背中を軽く叩いて。
「間一髪で爆弾に気付いてね?総監とレストランのスタッフを逃すのが大変だったー」
クスクスと笑って。
「これでもしかしたら、昇進したんじゃない?私」
まぁこれ以上したくないけど、と続けた。
なぁ冬華さん。
今はそんなことどうでもいいんだ。
今はただ。
今は。
今はただ。
「……抱いてくれないかな…冬華さん…」
貴女が生きていることを。
「…え…」
この身に刻みたい。
貴女が生きている証となる体温を。
この身で感じたい。
「……貴女が…生きていることを…今すぐに感じたい…」
未だ治らない震えと。
ずっとバクバクと脈打つ心臓を。
抑えるために。
“大丈夫”という言葉だけでは、今の私には効果はない。
触れて欲しい。
触れることによって感じる体温で。
貴女が生きているという事実を。
体感したい。
「…千速」
冬華さんが立ち上がった気配を感じて、見上げる。
「…ここでいいの?」
「…いい」
誰か来るかもしれないけれど。
誰も来ないことを願って。
「…わかったわ」
冬華さんは執務室の鍵を閉めに行って。
デスクに行き、引き出しからウェットティッシュを出して手を拭く。
「来て、千速」
「ん」
それから私の隣に戻り、ポンポンと自分の太腿を叩くから跨るように座った。
制服のボタンを外そうとしても、手が震えて上手く外せなくて。
「…私が外すわ」
「ん」
手を握るように止められた。
制服のボタンを外される様子を黙って見つめる。
脱がされた制服は隣に置いて。
「ずっと思ってたんだけど、これって暑くないの?」
「…真夏は少し暑いが、接触冷感機能が優れているから見た目ほど暑くはない…」
「へー。結構良いの着てるのね。私にも支給してもらおっかな」
白いハイネックも脱がされ、制服の上に置かれた。
ハイネックの下には、神奈川県警のロゴが左上にワンポイントとして入っているネイビーのTシャツで。
「……」
Tシャツの中に手を入れ、背中に回されて。
ふわりと下着が浮いた。
「本当にここでいいのね?」
最終確認。
「ん…」
冬華さんの首に腕を回して、返事の代わりに私から口付けをする。
「ん…、ン…っ」
「!」
啄むようなキスをしながら、冬華さんの髪を纏めているバレッタを外すと。
綺麗な黒髪が流れるように落ちた。
「…は…っン…っ」
「んっ」
私はその綺麗な黒髪に指を絡ませ、舌を差し入れて冬華さんを求めた。
「…痕残してもいい?」
「…あっ…ん…っ」
胸の先を弄られながら頷くと、首筋に一つ残されて。
「あ…っぁ…っ」
Tシャツを捲られ、指先と舌で責められて。
冬華さんの頭に自分の頭を寄せて、快楽に耐えた。
「…千速、少し腰を浮かしてちょうだい」
「…ん…っ」
制服のズボンのファスナーを下ろされ、中に手が侵入してくる。
「…っン…っあ…っ」
触り方が優しくて、気持ち良いんだが足りない。
今は足りない。
「…冬華さ…ン…っ」
「…なぁに?」
今は貴女を。
貴女が生きているという熱を感じたいんだ。
「ぁ…っも…っと…っつよくて…っいい…っ」
貴女を揶揄った日に受けた。
あの激しさくらいあってもいいから。
今はただただ貴女を感じたい。
「…っヤバ…っ」
冬華さんの両頬に手を添え、キスをする。
「…っん…っ」
舌を絡め合わせ、吐き出した吐息も飲み込むくらい激しい口付けを。
「…っあ…っああ…っあ…っ」
秘部にある小さな突起を強く摩られ、背中が反ることで唇が離れてしまった。
「…っ挿れるわよ?」
「…あっあ…っあ…っ」
小刻みに動かしながら私のナカに侵入してきた貴女の指。
「…千速のナカ、熱いわね」
「あっあっあ…っぁ…っ」
厭らしい水音を立て、律動を刻み続ける指。
「…ああ…っあ…っ冬華さ…っ」
もう一度、冬華さんの頬に触れると。
「…っあ…っつ…っぃ…っあ…っ」
冬華さんからも熱を感じた。
「…っそりゃ熱くなるでしょ」
生きてる。
生きてるんだな、貴女は。
「…っあっン…っああ…っ」
亡霊じゃなくて。
本当に生きてるんだな。
「…っも…っイク…っあっあ…っ」
「…もう少し我慢して、千速」
生きて、私を抱いてくれているんだな。
「ああっあ…っできな…っい…っああっ」
頭を振り、耐えようとしても快楽が強すぎて耐えられなくて。
「あっあっあ…っ!イ…っイク…っイク…ン゙んぅう…ッッ」
冬華さんの頭を抱き締めながら、私は達した。
「ぁ…あ…はぁ…はぁ…」
余韻が強く、痙攣が続く。
「ん」
「…ん…ん…」
啄むキスをして、舌を絡めて。
「…ん…っん…っんんぅ…っ」
まだ私のナカにある冬華さんの指が、また動き始める。
その時だった。
コンコン
『警視、まだいらっしゃいますか?』
声が聞こえたのは。
「「…!!」」
指の動きが止まり、私と冬華さんは顔を見合わせて黙るけど。
「…!」
「…ン…ン…」
冬華さんに啄むキスをしながら居なくなるのを待った。
ガチャガチャ
『鍵が閉まってるからもう帰宅してるよ』
『そうみたいだな。明日朝イチで伺うとするか』
『だな』
カツンカツンと足音が遠退いて。
「…鍵かけといてよかったぁ…」
冬華さんがホッと息を吐き出した。
「…ん、ん」
緩く腰を動かして、早く再開しろと合図する。
「…可愛いなぁもう…ヤバいくらい可愛い…千速…」
「っん…っあっあ…っ」
また緩々と指が動き始めた。
冬華さんの顔を間近で見つめる。
優しい瞳をしている。
愛おしむような眼差しを向けてくれている。
「…千速」
「ん…っあ…っあっまた…っイク…っイ…っ」
二度目の限界が近くなり、指の動きも速まって。
そして。
冬華さんは私の頭に自分の頭を寄せて。
耳元で。
「…大丈夫、絶対にあなたを独りになんてしないから」
冬華さんはそう囁かれて。
「っああ…っあっあ…っ!あぁあ…ッッ!!」
たまらず私は。
ビクンッと大きく体を震わせて、二度目の絶頂を迎えた。
「…ぁ…は…はぁ…」
強い余韻で再び痙攣が治らなくて。
「…んっ」
もう一度啄むキスをして、舌を絡めて。
「…はぁ…はぁ…」
冬華さんの肩に頭を置き、息を整えた。
「…千速」
名前を呼ばれ、頭を上げる。
前髪を掻き上げられるように撫でられ、キスをして。
何度もキスをして。
「……やっと震えが止まったわね」
ようやく体の震えが止まった。
達した余韻ではない、失うかもしれなかった恐怖による体の震えが。
「…はぁ…」
ようやく心のザワつきも治ってきて。
「落ち着いた?」
バクバクと破裂しそうだった心臓も。
「…うん」
落ち着いた。
冬華さんの上から退き、隣に座る。
「千速」
「ん?」
冬華さんは私のTシャツの中に手を入れ、背中に回して下着のホックを付けた。
「バンザイ」
「ん」
白いハイネックも着せられて。
「ほら」
「ん」
制服の上着も着せられた。
「…暑い」
「我慢しなさい」
冬華さんは立ち上がり、デスクへと行って。
引き出しから何かの鍵を取り出した。
「一度帰って着替えないと」
「…また現場に戻るのか」
何の鍵かと思えば、車の鍵だった。
ああ、あの店に全部置いてきてるんだもんな。
全部吹き飛んだか。
「現場じゃなくて、聴取をね。一応爆発物の第一発見者だから」
「あー…」
間一髪で気付いたって言ってたよな、そういえば。
「立てる?」
「立てる」
手を差し出され、その手を取って立ち上がる。
静かに鍵を開け、まずは顔だけを出して周りを見回して。
「…よし。今なら誰もいない」
手を引かれ、カツンカツンと足音を響かせながら歩く。
冬華さんの背中を見つめる。
背中から見ても、白いワイシャツは血で汚れている。
頭からの血は大袈裟に出るというが、それにしたって血だらけだ。
足元を見る。
ストッキングも伝線してるし、後ろから見ても膝を擦りむいているのがわかる。
「…傷だらけだな、冬華さん」
傷だらけなのに、それに気付かなくて抱かせてしまった。
「…?」
冬華さんは足を止めて、私へ振り返る。
「ね、千速」
「?なんだよ」
私の頬に触れて。
「私は必ず生きて、あなたのところに帰るから」
優しい声色で言葉を紡いで。
「だから、そんなに泣かなくても大丈夫。私を信じて」
綺麗に微笑んだ。
私は目を見開いた。
「現に帰ってきたでしょ?有言実行!」
また涙が溢れて。
「…ぅ…っ」
抑えられない。
「ぅ…う…っ」
繋いでいない手で目元を隠して。
「…こ…こわか…った…っ冬華さんまで…っい、居なくなるのかとおも…って…っこわかったんだ…っ」
自分の中にあった恐怖を口にした。
研二と同じ死に方であることに恐怖して。
絶望して。
神を呪った。
「うん。でも大丈夫。必ず帰るって約束する」
言葉だけでは足りないけれど。
現にこの人は生還した。
機転と行動力のおかげで奇跡を起こした。
「…っ絶対に…っ死なないでくれ…っ私を…っ独りにしないで…っ」
独りは嫌だ。
あの絶望も、悲しみも、苦しみも、憎しみも。
あの地獄を味わうのはもう嫌だ。
「絶対に死なないし、千速を独りになんてしないわ」
安心して、と。
冬華さんは私を抱き締めてくれた。
重悟が放った。
“総監は無事なのか!?”
その言葉で。
私の中の時が全部止まった。
総監が無事じゃないなら、絶対に冬華さんだって無事じゃない。
総監を見殺しにするような無責任な人じゃないから。
一人で逃げるようなことはせず、共に死を選ぶ人だ。
それか総監とスタッフを先に逃し、爆弾解体を試みる人だ。
だからこそ。
そんな人だからこそ。
よく逃げてくれた。
よく生きていてくれた。
私の下に。
ちゃんと帰ってきてくれたことが嬉しくて。
また泣いてしまった。
「…眠い」
「まぁギャン泣きした上に、二回もイッたしねぇ」
「…ギャン泣きって言うなよ」
冬華さんの車の中で、ウトウトしてしまって。
「…っつか、よく爆弾解体しようとしなかったな…?」
気になっていたことを聞くと。
「してみようとは思ったけど」
冬華さんは私をチラッと見て。
「万が一失敗して弟君と同じ死に方をしたら、絶対に千速に怒られるって思って逃げちゃった」
と、小さく笑った。
私の存在が、貴女の楔になったのか。
だったら。
「…もし死んだら、迷わず後を追うからな」
そう伝えておけば。
「絶対的にそれはダメよ」
「じゃあ死ぬなよ、絶対に」
「死にません、絶対に」
貴女は無理が出来なくなるよな?
あの絶望をもう一度味わうくらいなら、貴女が逝った場所へと私も逝くから。
研二や陣平には怒られるかもしれないけど。
もう大切な人の居ない世界で。
生きていくのは何よりの苦痛なんだ。
だから。
貴女が居なくなった瞬間。
私の命も終わることを忘れないで。
「…千速」
「なんだ」
「…誘わないで…抱きそう…」
「抱けばいいだろ」
「…はぁ…可愛い…可愛すぎてもう…はぁ…」
貴女の熱を。
貴女が生きているという証を私の体に刻んで。
END