pixiv作品 名探偵コナン
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「来月から警務部の会計を引き継いでくれる蒼月冬華さんです」
「蒼月冬華です、よろしくお願いします」
「「「お願いしまーす!!」」」
神奈川県警 総務部
私は今月末で退職する田中さんから引き継ぎを受けるため、神奈川県警へとやってきた。
簡単な自己紹介を終えて、皆さんが拍手で迎えてくれて。
皆さんにも自己紹介をしていただいて。
「この方はあそこでニヤニヤしている萩原警部補の奥さんなので、萩原警部補を敵に回したくない人は絶対に手を出さないように」
と、千速のほうを指しながら千速の恋人だということも紹介していただいて…。
「あ、あの「え?敵に回してもいいなら口説いていいんですか!?」
「ダメに決まってるだろ!セクハラで訴えるからな!」
「ちは…萩原警部補…静かに…」
千速は私の傍に来て、腰を抱いてくるから。
「いいか、お前ら」
「萩原警部補…!自分の部署に行ってください!」
と、千速を離そうとしても。
「絶対に手を出すなよ?出したら逮捕するからな!」
「ちょっと千速…!」
離れてくれず、ギュウッと抱き締められた。
「…蒼月さんの大変さがわかる…」
「これから先が思いやられるけど、イチャイチャを見てたいまである…」
や、優しそうな方々で安心したけど…。
初日から物凄く恥ずかしい…。
「ほら…!早く自分の部署に行ってください…!」
「離れたくないが、昼にまた来る」
「えぇ、わかったから早く行きなさい…!」
ようやく千速を引き剥がし、千速は何度も振り返りながら自分の部署へと行った。
「…大変でしたね」
「す、すみません…っ」
「で、さっそくだけど!」
「あ、はい!」
与えられたデスクに、ドサッと置かれた資料たち…。
「お…お…」
その資料の多さに息を呑む。
「…まーじで大変だから、覚悟してね!?」
「は、はい…!」
メモ帳とペンを用意して、深呼吸をして。
「まず最初だけど」
「はい!」
いざ、会計の仕事を!
まずは予算と決算の管理。
警察活動に必要な予算の要求や執行、決算の作成。
次に、物品と備品の管理。
捜査車両や防弾ベストなど、警察活動に欠かせない物品の購入と管理。
さらに、給与と旅費の事務。
警察官や職員の給与計算、出張旅費の支給。
最後に、施設管理。
警察署の庁舎の維持管理や警備委託の契約など。
「って感じだけど、なんとなくわかる?」
「はい、大丈夫です」
メモを取り終え、資料をパラパラと捲る。
「その資料は今まで私がまとめたやつだから、参考程度にしてね」
「ありがとうございます。全部拝見させていただきますね」
すごく見やすい資料。
綺麗な字でまとめられていて、重要な箇所はちゃんと赤ペンで書かれてる。
すごいなぁ。
何年も働いていたから、と言われればそれまでなんだけれど。
この資料があれば、引き継ぎはわりと簡単なのかもしれないと思えるほど綺麗な資料だった。
「…蒼月さんには本当に申し訳ないけれど…」
「はい?」
田中さんは私の肩に手を置いて。
「……交通課と刑事課の経費管理が本当に大変だから…本当に覚悟しといて…」
真っ青な顔でそう言った。
交通課の経費…って…多分…千速が…原因…よね…。
「は、萩原がすみません…」
けれど。
これからは私が管理することになるから、いくら千速と言えど一切の妥協はしない。
「…これ、今月の交通課でかかった金額…」
「?拝見しますね」
交通課の書類を確認して。
「………」
……絶句。
「で、これが刑事課の…」
「……」
また絶句。
「……あなたならどうする?これ…」
「…こ、れ…は……」
待って…。
これ…ちょっと待って…。
他の部署のも確認して、見比べて。
「あ、でも、刑事課はここから引っ張れそうですね」
「ほ、本当だ…。じゃあ交通課は…?」
交通課は…。
「……ど、どうやっても足りない…」
「でしょ…?」
何回も書類を確認し、何回も計算し直しても。
どうしたって足りない…。
「…支給内で収まった時が奇跡なのよ…」
「あー、でもほら、ここから…」
「いやでもさ、そこから引っ張るとこっちが…」
「あー…」
警務部の皆さんで交通課でかかったお金をどうするかを考えてる…。
「…あの…本当に萩原が…すみません…」
もう一度謝罪をしました…。
「冬華ー!」
「!ちは……萩原警部補。お疲れ様です」
結構時間が経った頃、トントンと書類を整えていたら千速が顔を出してきた。
それで、私の姿を見るや否や固まった。
「…神奈川県警のロゴ入りのブルーのワイシャツ…」
私が着ているのは、朝出勤した時とは違って。
「丁度良いサイズのがあって、ワイシャツだけ支給してもらいました」
神奈川県警のロゴが袖の上の方にある青いワイシャツで。
「似合わない?」
千速が口元を押さえてワナワナ震えてるから、似合わないのかと思っていたら。
「……とんでもなく似合う…」
口を押さえたまま、親指を立てた。
「よかったー。カッコいいワイシャツでワクワクしちゃうわよね!」
足のつま先から頭のてっぺんまでジッと見られて。
「しかも…眼鏡…」
私の頬に触れる。
「度数は入ってなくて、ブルーライトカットの眼鏡なんですよ」
パソコンと睨めっこになるだろうから、昔使っていたものを引っ張り出した。
「………」
「千速?あ、萩原警部補?」
階級呼びになかなか慣れないなぁと思っていたら。
「……っ」
またギュッと抱き締められた。
「…っちょ…っと…!」
皆さんの、前で。
皆さんの視線が刺さりまくるから、何とかして千速を離そうと頑張るけれど。
「っちは「欲望を抑え込んでいるから待ってくれ」
と、耳元で囁かれたら…。
「…っそれは…っ」
それは私だってまずくなるわよ…。
「…ラブラブすぎる」
「入り込める余地がない…」
「入り込んだら殺される…」
などなどの声を聞きながら。
「…っ萩原警部補!何か用事があって来たんじゃないんですか!?」
なんとか千速を引き剥がした。
「昼にまた来るって言っただろ」
「お昼?」
時計を見るともうお昼で。
「もうそんな時間なんだ」
あっという間に時間が溶けて、びっくりしちゃった。
「蒼月さん、今日は引き継ぎだけですのでもう上がっても大丈夫よ」
「あ、はい。わかりました」
「というか引き継ぎだけの予定だったのに仕事をさせてごめんね…?元公認会計士さんだけあってめちゃくちゃ仕事が出来る人だからついたくさん任せちゃって…」
「とんでもないです。公認会計士としての知識を活かせるのでこれからが楽しみです」
と、田中さんの話していたら。
「…っわ…っ萩原警部補…!?」
「!?」
また千速が抱き着いてきた…。
「……触らないでもらえるか?」
千速は田中さんを威嚇し、その威嚇を受けた田中さんはきょとんとして。
「はい…私は絶対に蒼月さんに触りません…」
両手を上げて、投降ポーズを取った。
さ、触られたわけではないけれどね。
「だから千速、私は上が……る…」
お昼休憩を取る前に退勤しようと思えば…。
「……ど…どうしても…帰るのか…?」
ウルウル…と瞳を潤ませて訴えられたら…。
「…食べてから帰ります」
ってなるわよね…。
「よし!食堂に案内する!」
パァッと明るくなった。
「…蒼月さん、私には萩原警部補に尻尾が生えているように見えるのだけど…」
「ふふ、私にも見えます」
イマジナリー尻尾だと思ってたけど、他の人にも見えるようで笑っちゃった。
「ここが食堂だ」
「結構広いんですね」
県警内の食堂へやって来た。
すると。
「よぉ、今日から出勤かい?」
横溝さんがいて、声をかけてくれた。
「横溝さ……警部、お疲れ様です」
「…良い響き「おい重悟、お前私に喧嘩を売ってるのか?」
すぐに噛み付くうちのワンちゃん…。
「相変わらず面白いな、お前は」
横溝さんは千速を見ながらニヤニヤ笑う。
「今日は引き継ぎだけなので、ご飯を食べたら退勤させていただきます」
「飯を食ったら?……まーたお前が我儘を言ったんだろ」
「ワガママなど言っておらん。訴えかけただけだ」
「言ったようなもんじゃねぇか」
二人を見て苦笑を零す私。
「あ、そうだ」
そして思い出す。
「横溝警部、これを」
せっかくだし、横溝さんにとある領収証をお渡しする。
「領収証?」
「そうです」
「何のだよ」
千速もその領収証を覗き込み、二人して私を見つめてくるから。
「この日の昼食代だと思いますけれどね?横溝警部」
「お、おう…」
私はニコリと笑って。
「どこの世界に3800円もする“あんぱん”と“牛乳”があるんですか。但し書きは【正確に】、お願いします」
そう言った。
「……いや、これは張り込みで…だな…」
「はい。【詳しく】記載してくださいね」
「……」
「重悟、公認会計士である冬華の前では一切の省略も許されないからな」
タジタジになる横溝さんと、そんな横溝さんをケラケラ笑う千速だけど。
「萩原警部補」
あなたにもあります。
「!は、はい…」
A4サイズの書類を千速に見せて。
「白バイ、壊しすぎです。修理費がとんでもない数字になってますよ」
「ぅ…いや…私は必要な追跡を…して…」
「必要な追跡後に白バイでアタックはダメだろお前」
千速に手渡して。
「今回は色々な方面から何とか工面は出来ましたけど、これが続くようなら本部長行きです」
ニコリと笑うと。
「い、嫌だ!!気を付けます!!!」
顔を真っ青にさせた。
さすがの千速も本部長のことが苦手なようね。
「よろしくお願いしますね」
「「は、はい…」」
千速も横溝さんもガクッと肩を落とした。
「メニューたくさんあるー!」
「何か注文するか?」
「千速はどうするの?」
「私は弁当があるから弁当を食べる」
お説教後、食堂のメニューを見上げる私。
「座ってていいぞ。注文してくるから」
「本当?じゃあお魚定食!」
食堂の端に座り、千速が注文しに行ってくれた。
「ねぇ!新しく警務部に来た人だよね!?」
「!は、はい」
途端に声をかけられ、ビクッと肩が震えた。
びっくりした…。
「交通課の萩原の嫁さんだろ?」
「あ、はい…あの、蒼月冬華と言います」
「冬華ちゃんかー!可愛いね!いくつ!?」
ね、年齢は…言いたくない…。
「お前女の子に年齢聞くのダメだろー」
と言いつつ期待をされている…。
仕方ないか…。
「あー…萩原警部補の年齢、ご存じですか?」
「あ、うん。31だっけ」
「高校の同級生なので、同じ年です」
と、千速も巻き込んでやった。
「うっそ!見えない!っつか萩原も見えねーけど冬華ちゃんはもっと見えない!」
若く見えるってことかな?
それなら嬉しいけど…。
「あのさ冬華ちゃ「おい、お前ら」
とんでもない殺気を放って戻ってきた千速。
「「ひぃ!」」
途端に怯え出した…。
「何勝手に口説いてるんだ、こら」
「く、口説いてなんか…っ!」
「は、萩原…!違う!ただ話してただけだ!」
「喧しい。年齢聞く時点でアウトだ。どっか行け」
落ち着いてる声だけど…めちゃくちゃ怒ってる表情で。
「すみませーん!」
「またね冬華ちゃーん!」
「あ、はいま「またはない!」
慌てていなくなった人たちに、私は苦笑いを零しながら小さく手を振った。
「まったく。油断も隙もない」
「若く見えるのかしら」
「口説かれたことを喜ぶな」
「あら、若く見えてるなら嬉しいじゃない?」
千速はムゥ…っと頬を膨らませ、私の隣に座った。
私はテーブルの一番端。
その隣ということは、逆サイドには誰も座れないということで。
「ふふ」
「なんだよ」
「んーん、守られてるなぁと思って」
どこに居ても守ってくれる千速が改めて好きだなって思っちゃった。
「ん、おいしー!」
「お前の玉子焼きも美味い」
少しして、お魚定食が出来上がった。
取りに行こうと思ったら、千速が取りに行ってくれて。
その隙にまた声を掛けられたけれど。
私は苦笑いを零しながら千速を指すと、千速が物凄い形相で見ていることに皆さんは怯えて私から離れて行った。
「一口くれ」
千速は長年勤めているから、食べ慣れているものだろうに。
「ん、いいわよ」
多分、あーんをしてほしいんだろうなぁと予想して。
「あーん」
「あー、ん」
お望み通り、あーんをしてあげると。
千速は周りを見ながら。
「ふ」
勝ち誇った笑みを浮かべた。
“くそ…ラブラブしやがって羨ましい…”
“いいなぁ…俺にもやってほしい…”
などなどのお声をいただきました…。
「おいし?」
「美味いけど、私はお前の料理のが好きだな」
「ふふ、ありがと!」
箸を置いて、お味噌汁を飲んだ時に。
「っ」
「どうした?」
熱くて、舌がちょっとピリついた。
火傷とまでは行ってないと思うけど。
「舌がヒリヒリ…」
と、ちょっとだけ舌を出して千速に見せると。
「…っ」
「…ッ!」
顔を近づけてきたから、すかさず片手で千速の両頬を掴むように止めた。
「…あにひゅんだよ…」
何すんだよ、と文句を言ってきた。
「っば、場所を弁えてくださいね!?」
危なかった…。
こんな刑事さんや職員さんたちが大勢いる中で、キスをされそうになった…。
「…お前が誘ったんだぞ」
「っ誘ってません!どうした?って言うから舌を見せただけでしょっ」
…千速と同じ職場は嬉しいけど、それ以上に色々と大変かもしれないわね…。
「それでは、お先に失礼します」
「お疲れ様でーす」
「さまっしたー!」
退勤の挨拶をして、警務部のオフィスを出る。
「ちょっとお手洗いに行ってから帰ろうかな」
と、トイレの前を通りかかったから中に入って。
タンクの上に資料を置いて。
用を足して、服装を整える。
で、資料を持った時に、ギィ…とトイレのドアが開く音が聞こえてきたから、誰か入ってきたんだなと思って。
極力音を立てずに個室の鍵を開けて出ると。
「!千速」
目の前に千速が立っていて。
千速は私を見据えつつ、ニィ…と笑みを浮かべたので。
「…っ」
これはまずいと思って慌てて個室に戻ろうとしたけど…。
「…っちょっとま…って…っ」
一歩遅くて、千速に個室へ押し込められて、その拍子に資料が入った茶封筒を落としてしまった。
「資料が…っ」
「しー、静かに」
千速に手で口を塞がれ、手を引かれて個室の扉に押し付けられて。
「んぅ…っ」
キスをされた。
鍵は閉まっていないのに、噛み付くような深いキスで。
「ふ…っンっ」
何度も角度を変え、舌を絡め取られて。
「は…っち…っはや…っま…って…っん…っ」
深く深く求められて。
脳髄までが痺れそうになった。
その時。
ギィ
「萩原警部補の奥さん見た?」
「見た見た!可愛い人だったねー!」
職員さんたちが、トイレに入ってきた。
「「…!!」」
千速と目を見合わせ、息を潜める。
「正直私さ、萩原警部補推しだから奥さんが来るって聞いてショックだったけど、あの人だったらなんか納得しちゃった!」
「わかる…!イチャイチャしてるとこ見てみたい!」
千速のファンの子らしいけど、どうやら私も認められたみたいで。
「…(私のファンだとさ)」
「…っ」
耳元で囁かれ、ピクッと反応してしまった。
「さっき食堂でイチャイチャしてたみたいだよ!」
「うわー!見てみたかったー!」
女性たちは身だしなみのためにトイレに入ってきたようで、隣の個室に入る気配はなかった。
は、早く…その…トイレから出てくれないと…私たちが出られないし…。
「…っ」
早く出ないと、千速の愛撫がエスカレートしてしまう。
「二人セットでご飯とか誘ったら来てくれるかな?」
「部署が違うから誘いづらいよねぇ」
ワイシャツのボタンを開けられ、下着を上げられた。
嘘。
うそうそ。
待ってよ。
鍵が閉まってないの。
私を扉に押し付けることで閉まってるだけで。
鍵は閉まってないのよ千速。
それなのに。
露わになった胸の先に、千速は私と視線を合わせたまま顔を近づけて。
「…っン…ッ」
舌先で触れられた瞬間、ビクッと肩が震えた。
「…ン…ッ」
声が。
「…ンン…ッ」
声が出ちゃう。
ギィ
『今度ツーショ撮らせてもらおー!』
『幸せのご利益ありそうだよね』
女性たちが私たちに気付かず、出て行って声が遠退いた瞬間。
「ああっン゙…っ!」
強く吸われ、背中を反らせて…。
また身体が震えた…。
「イった?」
「…ぁ…っン…っ」
ふる…っ、と僅かに痙攣を起こし千速に抱き着くことで治りを待つ。
「…っばか…っじゃないの…!?こんな場所で…!」
「そのワイシャツを乱したかった」
今日支給された神奈川県警のロゴが入った青いワイシャツが仇になるとは…。
千速は、私の下着を戻してワイシャツのボタンを留めてくれて。
「しかも場所が県警本部ってのもいいだろ?」
バレそうでバレないスリル感がいい、と。
ニヤニヤしてる…。
「…出勤初日でこれじゃ、私の身が保たないんだけど」
「嫌じゃないくせに」
「っ場所を弁えてなさいってば…!」
い、嫌では…っないけど…!
千速に触れられて嫌なことはないけども…!
「まったくもう…巡回はいいの?」
「………」
個室から出て、書類を脇に抱えて手を洗う。
「千速?」
鏡越しに千速を見れば、千速は頬を赤らめていたから振り返ると。
「……」
「ちょ、ちょっと…どうしたの?」
千速に押されて個室に戻された。
「お前…10分後くらいにトイレから出ろ」
「え?どうして?」
扉を閉められて。
「鍵を閉めろ」
「なになに?千速?どうしたのよ」
言われた通りに鍵を閉めたけど…。
「色香が…」
「……」
軽くでも達してしまったことにより、私にはわからない色香というものが醸し出されたみたいで。
「…千速が悪いんだからね?」
「わかっている…私が悪い…」
個室の壁に背中を預けた。
「じゃあ私は行くが、10分以上はここにいろ。いいな?」
「ん、わかったわ。気を付けてね?あ、白バイは壊さないように!!」
「は、はい、わかりました!」
そう言って、千速はトイレから出て行った。
「……」
鍵を開け、トイレ内を見る。
誰も居ないのに誰も居ないことを確認し、個室に戻って鍵を閉める。
「…はぁ…」
疼く身体を抱き締める。
「…本当…なんてことをしてくれたのよ…千速め…」
痺れるような深く濃密なキスだけでもヤバかったのに。
軽くでもイかされて。
求めないわけがないのに…。
「…何か飲みたいなぁ」
と思ったら。
ギィ
「!」
また誰か入ってきて。
「冬華」
千速の声が聞こえてきて、鍵を開けた。
「…千速?」
「これ、飲みものを買ってきた」
きっと何か飲みたいだろうと思って、と。
ポカリスエットを買って来てくれた。
「エスパー?」
「お前や忍ほどじゃないが、私もたまにはエスパーを発揮させるさ」
千速はニッと笑って、私の額にキスを落として。
「じゃあな。気を付けて帰るんだぞ?」
「えぇ、千速も頑張ってね。お疲れ様」
今度こそ、巡回へと向かった。
再度 個室に戻り、ポカリスエットを飲みながら。
「ふふ、なかなかいいかも」
千速と同じ職場は色々大変だけど、こうしてジュースも奢ってくれるし。
さっきみたいに認めてもらえたしで。
なんか嬉しくて。
「『初出勤、交通課の出費がヤバいです』、と」
忍にメッセージを送った。
『萩原警部補ですか?』
「『萩原警部補です。白バイクラッシャーです』」
『今、どこからお送りですか?』
「『…お手洗いです』」
『なるほどです。大変ですね』
「え 見えてる?ねぇ見えてるの?忍…」
忍のエスパー力には本当に驚かされる…。
エスパーの域を超えて千里眼よね…。
「さて、と。そろそろ出ようかしら」
もう一度身だしなみを整えて、資料を抱き締めるように持って。
やっとトイレから出られました…。
「ふー…」
ようやく帰宅して、資料をテーブルに置く。
上着を脱いで、ソファーの背もたれに上着を掛ける。
ワイシャツは二着支給されたから、洗い替えがあって嬉しい。
「着替えよ」
というか、着て帰って来ちゃダメよね。
県警のロゴが入っているワイシャツだし。
明日からは着替えてから帰宅しないと。
ワイシャツを脱ぎ、ハンガーに掛ける。
「ふふ、このワイシャツを見るとなんだか千速の交番勤めの時を思い出すわね」
千速が警察官になり立ての頃。
“お巡りさん、お疲れ様であります!”
“お金貸して!お巡りさん!”
“…逮捕するぞ、お前ら…”
交番勤めになった千速を、忍と一緒に揶揄いに行った時に着ていたのがこのワイシャツ。
多機能ベストを纏い、警察の帽子を被って。
千速は背も高いしスタイルも良いから凄く似合ってて。
「…カッコよかったなぁ」
凄く格好良かった。
もちろん白バイ隊員の制服や、白バイを乗っている姿も格好良いんだけどね。
「っと」
持ち帰った資料を読まないと。
会計だけが仕事ではないから、皆さんに迷惑をかけないように完璧に覚える!
「久しぶりの仕事にワクワクしちゃう」
そう思うってことは、やっぱり私は公認会計士としての仕事が好きだったんだなぁ。
あの企業では嫌われていたと思うけどね。
一切の妥協もしなかったし、不正も許さなかった。
だからその腹いせに…。
「…っ」
ダメダメ。
思い出しちゃダメだ。
あの企業とはもう関わりがないんだから、思い出す必要はない。
普段着にしているワイシャツに着替えてソファーに座る。
時間を確認して、千速が帰宅する一時間くらい前には終わらせてご飯支度をするという予定を立てて。
「よし」
私は資料を開いて、読み始めた。
「はー…」
資料を読み終えた。
自分の中で重要と思ったところは赤線を引いたり。
赤ペンで自分なりの解釈を入れたり。
凄く読みやすい資料で本当に助かっちゃった。
パラパラと捲り、トントンと整えて。
「んーッ!はぁッ」
背中を伸ばし、時計を見ようとしたら。
「ただいま」
「ッわぁ!」
突然、真正面に千速が現れた。
「び、びっくりしたぁ…!」
「はは、まったく気付かなかったのか?」
千速はケラケラ笑いながら、私の隣に座った。
「全然気付かなかった…いつ帰ってきたの?」
「ん?一時間くらい前」
え?
嘘でしょ?
「…い、一時間…前…?」
「ただいまも言ったし、電気を点けたのだって私だぞ?」
時計を見れば19時で…。
「え!?嘘!!え!?!?」
千速が帰って来るまでには終わらせて、お風呂入れてご飯作る予定だったのに!?
「ごめーん!何にも用意してない!お腹空いたでしょ!?すぐご飯支度するから!」
千速はクスリと笑って。
「ユーバーイーツを頼んだからもうすぐ来るよ。風呂も入れたからもう入れる。だから座ってろ」
そう言った。
「…っ、っ、っ」
行き場のない焦りを抱えたまま、ストンと千速の隣に座って。
「…ごめんなさい」
両手で顔を覆い隠しながら謝った。
「お前は昔から集中すると周りが見えなくなるよな」
「うぅ…私の悪いところよね…」
電気を点けられて明るくなったのにも気付かないなんて…。
しかも千速、スウェットに着替えてる…。
「悪いところでもあるが、良いところでもあるよ」
「…良いところなんてないでしょー…」
今みたいに周りが見えなくなるって、泥棒が入っても気付かない恐れがある…。
「!」
千速に肩を押され、ソファーに倒される。
「…千速…?」
「あれからずっと抱きたいのを我慢していたんだ」
あれから、とは。
県警のトイレでの…アレね…。
「…熱が冷めるまでちょっとかかったんだからね」
「あぁ、悪かった」
千速の首に腕を回すと、千速の綺麗な顔が近づいてきて。
「ん…」
静かに唇を重ね合わせた。
お互いに啄むキスをして、徐々に深くして。
「…ふ…っ」
舌を絡め合わせ、溢れ出る吐息すらも呑み込んで。
「ん…っンぅ…っふ…っ」
含み切れなかった唾液が私の頬を伝って。
「…っぁ…っん…っ」
唇を離し、首筋に舌を這わせられながら千速の手が私の服の中に侵入してきた時に。
ピンポーン
『ユーバーイーツでーす』
ユーバーイーツが届いた。
「「……」」
ピタリと止まる私たち。
「くそ…タイミングが悪い…」
「…頼んだって言ってたものね」
つっ、と舌打ちをして、お料理を受け取りに行ってくれた。
その間に私は身体を起こし、資料を片付けてテーブルを空ける。
「何を注文して…くれた…の…」
千速はお弁当が入った袋をテーブルに置いて、もう一度私の肩を押してソファーに倒された…。
「…千速」
「まずはお前」
「…お弁当冷めちゃうわよ?」
「文明の利器、電子レンジがある」
「…ユーバー頼んだ意味が––––
…その気になった千速を止められるわけもなく…。
「…っも…また…っイ…っ」
「ん、いいぞ」
3回されました…。
「ハンバーグと麻婆豆腐、どっち食う?」
「……まーぼ」
この後もお風呂に一緒に入って、多分…すると思うし…。
「千速」
「ん?」
「私も仕事が始まったんだから、加減してくれないとつらいからね?」
「……」
「ね?千速」
「……」
「千速!わかるでしょ!?」
「わかりますん」
「ちょっと…!」
…結局。
「…っワイシャツ…っ皺になるからぁ…っ」
「もう一着あるだろ?」
県警の青いワイシャツを着せられて、抱かれました…。
「……」
「……悪かった」
「……」
「…こっち向いてくれ」
「……」
もうお預けにはしないけど、千速に背中を向けて怒ってますアピールをして眠りました。
朝起きたら、正面から抱き締められていたけどね…。
END