pixiv作品 名探偵コナン
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どうか、私の前から居なくならないで。
“千速はちょっと私に対して過保護すぎない?”
そう言って、お前は笑った。
7年前、弟の研二を失った。
爆処で、爆弾解体中に。
研二の親友で、いつも私に告白をしてきた陣平から聞かされた。
私は陣平に、泣きながら“お前は死ぬな”と言った。
陣平は笑いながら、“俺はお前を嫁にするまで死なねぇよ”と言った。
陣平の気持ちには応えられなかった。
私には好いている奴がいたから。
学生時代からの友人で、チャリで二人乗りをして警察に補導だってされたことがある。
私は警察に文句を言ったが、そいつはそんな私を宥めていつも場を納めてくれた。
陣平も私がそいつを好いていることを知っていて。
“千速を嫁にすんのは俺だからな!”と宣戦布告をした時に。
あいつは。
“負ける気がしない!いつでもかかってこーい!”と笑い合っていた。
陣平と気が合い、なんだかんだ仲良くしていたのを見ると妬けた。
“おーい、そろそろ私も構え!”
そう言うと、あいつは可愛らしく笑って。
“嫉妬かなぁ?可愛いなぁ千速は!”なんて揶揄ってきた。
「懐かしいな」
小さな呟きは、誰にも聞こえずに消えた。
「死ぬなって言ったのに、陣平の奴も約束を守らずに死んじまった」
真っ白な部屋のカーテンが、風に揺れる。
「研二も居なくなって、陣平まで居なくなって」
独りぼっちだよ。
私の視線の先で。
綺麗な顔で眠っているお前を見つめて。
「…お前まで…私を独りにしないでくれよ」
頬に触れる。
五年前。
お前が長い眠りに就いた日を。
思い出さない日がなかった。
“千速!!”
駆け付けた陣平と。
“心臓マッサージを!!”
血だらけのお前に跨り、心臓マッサージを施している救急隊員。
呆然とする私を、陣平が私の名を叫んで正気を取り戻させてくれた。
一瞬だった。
一瞬だったんだ。
“危ない!!”
お前とデートをしている時。
お前は急に飛び出した子供を救おうとして。
車に轢かれた。
掴めなかった。
お前の腕を掴み、代わりに私が走ればよかったのに。
一瞬だったから掴めなかった。
心肺は鼓動を始めたのに。
お前の意識は戻らないまま。
「もう五年だぞ、まったく」
その間に陣平も死んでしまった。
私を“千速”と呼んでくれる奴はもう…。
「いや、一人いたな」
クツリと笑う。
研二が死んだ日に声をかけてきた重悟だ。
あいつは私を“千速”と名前で呼ぶ。
“千速”
名前で呼ばれる度に、お前を救えなかったことを後悔してしまう。
「冬華…」
いい加減、目を覚ましてくれよ。
何をそんなに夢に浸ってるんだよ。
どんな夢を見てるんだ?
覚めたくないくらい良い夢なのか?
その夢には私がちゃんと出演してるんだろうな?
規則正しい吐息を零す唇に、触れるだけのキスを落として。
「…また来るよ」
私は病室を後にした。
「千速」
「重悟か。何か用事か?」
ある日の午後。
重悟に声をかけられた。
「今日、飯でもどうだ?」
重悟は照れくさそうに、私を食事に誘った。
「すまない。行くところがあるんだ」
そう告げると、重悟は眉間に皺を寄せた。
「…あの子か?」
重悟はわかっていたようで。
「そうだ。一日も欠かさずに会いに行っているんだ」
もしかしたら今日目が覚めるかもしれないと。
淡い期待を胸に、毎日。
「そうか」
「あぁ、だから悪いな重悟」
「いや、いい」
重悟は横目で私を見て。
「…どうしたって、その子には敵わないってわけか」
ため息を零した。
敵わないな。
きっと、永遠に。
私は外に出て、空を見上げる。
「お前以上に好く奴なんて、きっと現れない」
“千速ー!”
お前の声が聞きたい。
“過保護の千速ちゃん”
お前の笑顔が見たいよ。
『萩原警部補、緊急要請です。出動を』
不意に聞こえたアナウンス。
傍に抱えたヘルメットから。
私はヘルメットを被って。
「了解した」
白バイを走らせた。
だからこそ。
病院からの電話に気付かなかった。
「ふぅ…」
被疑者を捕まえ、ヘルメットを脱ぐ。
肺に空気を取り入れ、暴れてる被疑者へ視線を向ける。
まったく。
往生際の悪い。
ふと視線を感じて、そちらを見る。
「……研二…陣平…?」
そこには研二と陣平が立っていて。
二人はある方向を指していた。
なんだ?
そちらを見ても、ガードレールがあるくらい。
遠くに見える街並みを見ろと?
「なん「千速!!!」
だよ、とは続かず。
私の名を叫ぶ声が聞こえた。
その声の主は。
応援で来たパトカー、窓から身を乗り出しているのは重悟で。
「落ちるぞー」
私はクツクツ笑ってやると。
「今すぐ病院へ行け!!」
重悟が叫んだ。
今すぐ病院へ。
どこの?
決まってるだろ。
何があったとは聞かない。
聞いている余裕も暇もない。
私はすぐにヘルメットを被り、白バイを走らせて。
「行け!千速!」
–– 行け 姉ちゃん ––
–– 行け 千速 ––
三人の声を纏い、重悟の横を走り抜けた。
何があった?
わからない。
怖い。
目を覚ました?
違ったら?
病院へ着くまでが怖くて。
心臓の音が周りに聞こえてしまうのではないかというくらい脈打って。
「冬華!!!」
病院に着き、ヘルメットを投げ捨てて病室へと走った。
病室の扉を乱暴に開けた。
医者と看護師が驚いて肩を震わせ、振り返った時に見えたのは。
「……千速…」
起き上がって、私を見ているお前だった。
医者が私の肩に手を置き、病室から出た。
看護師も笑顔で、“何の異常もありません”そう言って医者の後を追った。
私はゆっくりと歩み寄る。
「……」
無言でお前に手を伸ばし、頬に触れる。
「…ん、おはよ」
お前が優しく笑みを浮かべた瞬間だった。
視界が歪み、立っていられなくなったのは。
嗚咽を漏らし、子供みたいに泣きじゃくった。
「お…お前…!!どれだけ私が…ッ!!」
どんな思いで今までいたか。
「ごめんね?千速」
お前は弱々しく笑って。
「なんか長い夢を見てた…」
長い夢を。
どんな夢を見ていたんだ。
「…目を覚ましたくない夢だったのか?」
聞くのが怖いが、目を覚まさなかった理由を知りたい。
お前は頬を赤らめて。
「千速のお嫁さんになって、新婚生活を満喫してた」
夢の内容を口にした。
「え?」
私の嫁?
新婚生活を?
「子供も居てね?研二君や陣平君が一緒に遊んでくれて」
幸せすぎて。
この幸せを手放したくなくて。
ずっと眠ったままだった。
「……」
「でもね?子供に言われたの」
「…子供に…?」
なんて言われた?
「“ママ、起きて。ちーちゃんが待ってるよ”って」
頬に涙が伝う。
まだ存在しない夢の中の我が子が。
ママを私の下へと帰してくれた。
お前は私の頬に触れて。
「待っててくれて、ありがとうちーちゃん」
優しく微笑んだ。
抱き締めた。
強く抱き締めた。
「当たり前だろうが…ッ」
失いたくなかった。
これ以上、私の大切な人を。
「お前まで…ッ!私の前から居なくなるな…ッ!」
私を独りにしないでくれ。
「ごめんね、千速。ごめんなさい…」
私たちは共にたくさん泣いた。
長かった。
本当に長かった。
五年だぞ。
五年。
五年間、欠かずに会いに来た。
ずっと欠かず。
「あ、おい。まだ動くな。ちゃんと寝てろ」
「あら、過保護は健在ねぇ」
お前は五年前と同じように。
たまらなく綺麗な笑みと。
たまらなく優しい声色で笑った。
それからしばらくして、冬華は退院した。
「本当に私に似てるな」
「でしょ?似顔絵班ってすごいなぁ」
私たちの間では子は成せないから、似顔絵班に夢に出てきた我が子を描いてもらった。
今思えば不思議な夢だが、私たちの願望だったのかもしれないと笑った。
「見ろ重悟、私の子だ」
「…そっくりだな」
重悟は何も言わず、話に乗ってくれた。
私たちはその我が子の肖像画を、額に入れて飾ることにした。
「陣平君も…」
「あぁ」
今度。
いつもは一人で行っていた研二と陣平の墓参りに。
「忘れ物はない?」
「ない、大丈夫だ。お前こそ体調はどうだ?」
「大丈夫よ。じゃ、行こっか」
今度は二人で。
冬華と手を繋いで。
END
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