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『運命』 千速さん百合夢
「は……」
「小隊長?どうしました?」
「なんです?どうしたんです?」
ある日の夜。
部下二名と共に飲みに行った時。
日付けも変わりそうな時刻だというのに、煌々と灯りの灯ったとあるカフェの窓際に。
「……まずい…」
「はい?」
「何がまずいんですか?」
机に置いてあるだろうスマホへと視線を落としている、憂いを秘めた金色の髪の美しい女がいた。
「……惚れた…」
「は?」
「はい?」
惚れた。
所謂一目惚れという奴だ。
「声かけてくる」
「「え!?小隊長!?」」
さっそく声をかけに行こうと思えば。
「ん?」
若い男二名に声をかけられていた。
「……取られてたまるか!」
「ちょっ!?」
「待ってくださいよ!」
私はカフェに入って、女の席へと近寄る。
「泊まるところないんでしょ?俺らホテル代出すしさ」
「時間も時間だし、早く寝たいんじゃない?」
「ごめんねぇ、お姉さん今忙しいの」
女は目を細め、小さく笑んでいる。
…とんでもなく良い女だ。
「そこまでだ」
「「「!」」」
三人は私へと視線を向けた。
「な、なんだよあんた…」
「…お姉さんも綺麗じゃん」
男たちは私と女を交互に見て、ニヤニヤ笑う。
「私は神奈川県警 交通部 第三交通機動隊 小隊長の萩原千速だ。簡単に言えば警察なんだよ。お前ら、迷惑行為で連行しちゃうぞ?」
と、追って来た部下たちを指す。
「「…っ!やべ…!」」
「早く帰って寝ろ」
見たところ未成年ではなさそうだし、口頭注意だけで充分効果的だろう。
「「す、すみませんでしたー!」」
と、そそくさと去って行った。
「ありがとうございます」
女はニコリと笑った。
ナンパされるのは初めてではなさそうだな。
「いえ。こんな時間に若い女性が一人で出歩いているのは感心しないな」
「それはあなたも…って、あなたは一人じゃないし警察官か」
女は部下へ視線を巡らせ、軽く会釈をする。
「終電逃しちゃって、どこか泊まれるホテルないかなぁと探してたんです」
「こんな時間に?」
「こんな時間に」
私の疑問に、クスクス笑って。
「推しのイベントで、イベ会場で仲良くなった同担な子たちと遊んでたらこんな時間になっちゃったの」
久しぶりに羽目を外し過ぎた、と言った。
「なるほど」
「お巡りさん、どこか良いホテルを知りませんか?」
私は部下へ目配らせをし、部下は肩を竦めてカフェから出て行った。
「知ってますよ。案内するので付いて来てくれ」
「あ、本当?助かります」
女は伝票を持って会計しに行き、その間に私は外に出て。
「すまないな。二次会はなしだ」
私の言葉に、部下はジト目で睨んできて。
「…良いホテルって、まさか自宅じゃないでしょうね?」
「警察官がやばいことしないでくださいよ?」
そう言った。
「私を信じろ。誓って犯罪じみたことはしないさ」
「…信じますからね」
「自分は嫌ですからね?小隊長の自宅をガサ入れするの…」
「大丈夫だ!」
私はクツクツ笑って、部下の背中を叩く。
「お待たせしました。というか、いいんですか?」
私と部下たちを交互に見て、首を傾げる。
「あ、はい。もう解散というところでしたので」
「自分らはここで失礼します」
ビシッと敬礼し、私を指を差すことで念を押してきた。
私は肩を竦めることで答え、部下たちは帰って行った。
「よし!まずは君の名前を教えてほしい。私は先ほども名乗ったが萩原千速だ」
「私はクレア・セイフォードです。イギリス人だけど、生まれは日本で帰化してるわ」
「だから日本語が達者なのだな。っと、バイクを停めてる駐車場はあっちなんだ」
バイクを停めている方向を指し、歩き出す。
「お酒飲んでるのにバイク?お巡りさん?」
「もちろん運転をして帰るつもりはなかったぞ?押して帰るつもりだったんだ」
「押して帰る、ねぇ」
クレアはどこか含み笑いをして。
「良いホテルって、まさかご自宅?」
問いかけきた。
「あ、いや…」
…鋭いな。
いや、黙ってるつもりはなかった!
「ち、ちゃんと話すつもりだった…!」
クレアはニヤニヤ笑って。
「ま、そういうことにしといてあげる」
そう言った。
そういうことにしといてくれるなら、そういうことをしてもいいという解釈をしてしまう。
「お巡りさんとだなんて、なんだか背徳感があってワクワクしちゃうわね」
「背徳感ってなんだよ。確かに私は警察官だがその前に一人の人間だぞ?」
鼻歌を歌いながら、私の隣を歩くクレア。
「それはそうなんだけどー」
と、クレアはクスクス笑う。
くそぅ。
可愛いな。
「あ、コンビニ寄ってもいいかしら?」
「あぁ、もちろんだ」
駐車場近くのコンビニに入って、飲み物を見ているふりをしてクレアを見る。
何度見てもどストライクの容姿だ。
声も良い、性格も良さそうだし。
きっと頭も良さそうだな。
「アクエリでいっかなー。千速さんは何か買う?」
一緒に払うわよ?と。
「いや、私が払うよ」
「えー?泊めてもらうのにそれは悪いわよ」
「なに、大した金額じゃないさ」
スマホをかざし、電子マネーで決済を済ませる。
「ありがと」
「いいえ」
ふ、と笑い合う。
結構気が合うんじゃないか?
合ってるよな?
「でもまさかお巡りさんにナンパされるとはなー」
「な、ナンパでは…ない…とは言い切れないよな…」
ナンパをしたつもりはないんだが、結果的にはそうなるよな。
「ナンパを撃退してくれたお巡りさんにナンパされて、お持ち帰りされるってなかなか経験出来ないわよね」
「…ぅ」
クレアはニヤニヤ笑いながら私の頬を突っつく。
私は突かれた頬を押さえ、周りを見る。
時間も時間だけあって人がいない。
「……」
「?どう……」
だから私はクレアの腕を掴み、顔の高さまで上げて。
「嫌なら拒絶してくれ」
ゆっくりと顔を近づけた。
「…ん」
クレアは拒絶することなく受け入れてくれた。
掴んでいる腕を私の首元へと誘導して。
「ン、、ん…」
クレアが腕を絡めてくれたことで、塀へと押し付けながら。
「っん…っンぅ…っ」
キスを深くする。
静まり返ったこの場所で聞こえてくるのは、厭らしい水音と。
遠くで聞こえる車の排気音。
どこかの馬鹿がヤンチャしてるのか、なんて考える余裕などなくて。
「…は…っン…っ」
この時間がたまらなく快感で。
「…っち…はやさん…っ外では…っ」
唇を離し、首筋に舌を這わせた時。
「嫌か?」
拒絶の言葉?
「…さすがに恥ずかしいし、あなた警察官でしょ?」
「……確かに」
拒絶ではなく、羞恥と警察官である私への気遣いだった。
「忘れてた?」
「忘れてはいないが、忘れてた」
「ふふっ、忘れてたんじゃない」
「…キスだけのつもりだったんだよ」
「ああ、理性が一瞬飛んだってことね」
クレアはまたクスクス笑って。
「ちが「ご自宅まで我慢しましょー」
手を繋いできた。
しかも、恋人同士が繋ぐように指を絡めて。
抱かれるということはちゃんと認識してるんだな。
そして嫌ではない。
「……」
もしや…誰でもいい…という…。
「誰でも良いなら最初のナンパ君たちの誘いを受けてますよ」
「…っ!?」
私の思考を読み取ってか、クレアはそう言った。
「…なぜわかった?まさかエスパー…」
「小さく声に出てましたー」
「……」
私は顔を押さえ、ため息を吐く。
「不覚」
「あは!可愛いなぁ」
「く…」
…可愛いは初めて言われたな。
随分と余裕をかましてるようだが、家に着いたら覚悟しといてもらおう。
「上がってくれ」
「お邪魔しまーす」
家に着いた。
「!」
リビングへと先導し、クレアが入ってきと同時に。
「っあ…っちょ…っちょっと…っ!」
ドアへと押し付けるように、首筋に噛み付くように唇を寄せた。
「っま…っ待って待って…っん…っ」
「待たない」
道中、散々余裕をかましてたんだからな。
「…っご挨拶させて…!」
「挨拶?……ああ、わかった」
クレアは仏壇を指し、私はクレアを一度解放する。
「弟の研二だ」
「そう…弟さん…」
ロウソクに火を灯し、クレアは一本の線香を二つに折って火を灯した。
「お邪魔します」
リンを鳴らし、手を合わせる。
なぜ亡くなったのかを聞かず、ただ祈ってくれた。
「…リビングでするのはちょっと恥ずかしいわね」
研二君が見てるかもだし、とクレアは恥ずかしがった。
私は小さく笑い、研二の写真を見て。
「あの馬鹿に見せつけてやってもいいんだがな」
小さく笑う。
何でもいいんだ。
怒る声、呆れる声、慌てる声。
何でもいい。
何でもいいから。
声が聞きたい。
もう一度だけ。
研二、お前の声が…。
「…あられもない姿を見られるの私なんだけども」
クレアは優しい笑みを浮かべて。
「でも大丈夫よ、千速さん」
私の首に腕を回して。
「時間がかかるけど、必ず会える日が来るわ」
触れるだけのキスをして。
そして。
「だからその時までに、あなたはこれ以上の悔いがないようシワシワのおばあちゃんになるまで生きないとね」
そう口にした。
これ以上の悔いがないように、か。
「…そうだな」
まったくもって、その通りだ。
いつか必ず会えるその日まで。
研二にとって自慢の姉だと誇れるような。
立派な……。
「…ナンパしてお持ち帰りをしてしまった姉を弟が見たらなんて言うかな…」
「んー、何やってんの姉ちゃん!かな?」
なんて笑い合って。
「ソファーの下なら見えないだろ?」
「見えないわね」
私たちは熱を分かち合った。
「……」
翌日、朝四時頃に目を覚まして。
隣を見たらクレアが居なかった。
「…夢か?」
もしかして、夢を見ていたのか?
酒も入っていたし、夢かもしれん。
「…あー…」
あんな良い女、夢でしか会えないなんて残念でならない。
「喉が渇いたな…」
私は起き上がり、頭を掻きながらリビングへ行く。
「あ、おはよ。もう起きたの?」
「…ッ!?」
誰もいないはずのリビングで、突然声が聞こえて肩が震えた。
「あ…あれ…」
「んー?」
いる…。
昨日お持ち帰りしたクレアが…。
「夢じゃなかったのか…」
「夢にしちゃ随分エッチな夢を見てたのねぇ」
クレアはクスクス笑う。
ハッとクレアを見れば、身支度をしていて。
「もう行くのか?」
「えぇ、始発に乗らないと仕事に間に合わないもの」
仕事らしい。
「そういや仕事は何をしてるんだ?」
私は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、コップに注ぐ。
「えー、聞きたい?」
クレアは私の首に腕を絡ませ、ニヤニヤ笑う。
「まさか夜職か?」
夜職なら、もう働かなくてもいいように私が養う。
いや、夜職じゃなくても一緒にはなりたいが。
「んーん」
ちゅ、とキスをして。
「小学校のせんせ」
クスリと笑った。
「…は?」
「せんせ。担任は持ってないけど、怪我をして入院してる教師の代わりに代理でクラスを持ってるわ」
クレアは私から離れ、後ろで手を組んで。
「今日はそのクラスの生徒数名と、放課後に入院中の担任の先生のお見舞いに行くの」
そう言った。
「…まさか教師と警察官が…」
「外で熱いチューもしちゃったわね」
こんなことが学校や県警にバレたら大目玉を喰らうが。
「……なかなかに燃えるな」
「いけない人ねぇ」
「君も同罪だぞ」
背徳感などなど。
なかなかにスリルがあって逆に燃える。
「駅まで送るよ」
「ありがと」
私も着替えて、クレアを駅まで送る。
「次はいつ会える?」
私の問いに、クレアは首を横に振って。
「今日で最後よ。素敵な夜をありがとうね」
そう言った。
「なんでだよ。私はまた会いたい。ワンナイトのために君に声をかけたんじゃないぞ」
「あなたは警察で私は教師。会う時間なんてほぼ取れないわ」
それは…そうだろうけれど…。
東京行き始発が到着して。
「じゃあ、さようなら。千速さん」
「…私は諦めないからな」
クレアはクスリと笑って。
「また会えたら、それそこ運命なのかもしれないわね」
触れるだけのキスをしてくれて。
「またな、クレア」
閉まるドア、クレアは手を振って。
電車は動き出した。
私の中ではすでに運命だと思ってるんだからな。
「というか探す」
絶対にまた会えると信じているから。
「…とりあえずは帰って寝るか」
非番と言えど、酒も抜け切ってないしな。
「なに?重悟が?」
『はい、怪我の程度は大したことないようですが一応病院へ』
「そうか。どの病院だ?」
昼頃、同僚から連絡があった。
重悟が怪我をして、今病院にいると。
「東京か。わかった。非番だし行ってみる」
あの馬鹿、大した怪我じゃないと言ってるらしいが…。
あいつの言葉こそ信用出来ないからな。
クレアがどこから来たのかも聞いてないし、連絡先も聞いてない。
せめて連絡先を聞けばよかったな。
「何か手土産でも買ってくか」
いらないかもしれんが、ちょっとした食べ物と飲み物を。
「“私が行くまで待っていろ”と」
重悟に連絡をすると。
“大した怪我じゃねぇから必要ねぇよ”
と、返ってきた。
「“いいから。もう向かってるからジッとしてろ”」
大した怪我かどうか、私が直接見て判断してやる。
私はヘルメットを被り、バイクを走らせた。
「ここか」
一時間ほどバイクを走らせ、重悟がいる病院へと着いた。
結構大きな病院に搬送されたんだな。
「…本当に大した怪我じゃないんだろうな、あいつ」
こんな大きな病院に搬送されたなら、それなりの怪我なんじゃ…。
受け付けへと行き、横溝重悟がどこで処置をしてるのかを聞こうかと思っていたら。
「あれ?千速さん?」
私を呼ぶ声が聞こえた。
「ん?あぁ、少年じゃないか」
振り返れば、いつぞやの事件で世話になった少年がいて。
「コナン君、知り合い?」
「綺麗な姉ちゃんだなぁ」
少年の友達だろう子供たちが数名一緒にいた。
「あぁ、ちょっとな」
少年は適当に返し、私が警察だということを伏せた。
「こんなところでどうしたの?千速さん」
「重悟の見舞いに。あの馬鹿、怪我をしてここに運ばれたらしいんだ。君たちは?」
「横溝刑事が?なんかの事件?ボクらも担任の先生のお見舞いなんだけどさ」
「担任の見舞いか」
ん?
…どこかで聞いたような…。
「そう!小林先生が入院してるから、代わりに先生をしてくれてる先生と!」
ね!と、少女が振り返る。
私は視線を上げて。
「…ッ!」
その先生とやらを見ながら。
「…“また会えたなら、それこそ運命”だったかな?」
明後日の方を見つつ鞄で顔を隠している人物…。
「……なんでいるのぉ…」
クレアへと笑いかけた。
顔を隠しているが、耳まで赤くなってるのがわかる。
「まさか同じ病院だったとはな!」
やった。
会えた。
また会えた。
「クレア先生、知り合いなの?」
ブロンドの髪の少女がクレアに問いかけたが、私はクレアの手を掴んで。
「ちょ…っンっ…んぅ…っ」
そのままキスをした。
「「……は…ッ!?!?」」
「「「え!?!?」」」
子供たちの。
「ん…っぅ…っ」
目の前で。
見開かれた綺麗な空色の瞳を見ながら、両手で頬を押さえて噛み付くような激しいキスを。
「は…っ」
「は…」
離れた時にはクレアの息が上がっていて。
「ッちょっと来て!!」
真っ赤な顔をしたままクレアに手を引かれた。
「少年!重悟に待っとけって伝えておいてくれ!」
「はーい…」
少年たちも顔が真っ赤で、そんな少年にウィンクして重悟に伝言を頼んだ。
「本当に!どうして!子供たちの前で!」
「いやすまない。再会出来たことが嬉しすぎてつい」
病院の外、人通りが少ない場所で。
クレアに叱られた。
子供たちの前でキスをしたからな。
「まったくもう…!人前でのキスは禁止だから!」
「わかったわかった。人前ではもうしない」
私はクツクツと笑い、クレアの掌にキスをする。
「っだか「これは許してくれ。本当に会いたかったんだ」
私の言葉に、クレアは小さな苦笑を零して。
「会いたかったのは、私も同じよ」
額にキスをしてくれた。
「っクレア「ただ!今はほら、私はまだ先生としてここにいるから」
う…。
確かに、生徒を連れて来ているんだものな。
「うむ、すまなかった…」
シュン、と肩を落とせば、クレアはクスクス笑う。
「ほら、お互い同僚のお見舞いに行かないと」
「あぁ、この後時間ある?」
「一度学校戻らないとだけど、あるわよ」
私たちは並んで病院に戻って。
「クレア、連絡先を教えてくれないか?」
「もちろん。私からも連絡するわね」
連絡先を交換し、そして。
「じゃあ、またあとで」
「またあとでな」
私たちは別れた。
私は重悟がいるだろう処置室に向かう途中で。
「…っし!」
ガッツポーズをした。
だって、するだろ?
会いたかった人に、こんな早くに会えたんだ。
連絡先だって知れた。
多分交際に発展…いや、すでに交際してるようなものだろ。
というか、絶対に離さない。
誰にも渡さない。
「…お前は何やってんだ千速…」
処置室の前の椅子で、重悟が呆れるような眼差しで見てきた。
少年に事情を聞いたようだ。
「昨日とんでもなく良い女と出会って、今日もまた会えたんだ。テンション上がるだろ」
「あのな…警察官なんだから場所を弁えろ…」
「連絡先も交換できた!」
「俺の話を聞け」
説教をされたが、今の私は無敵だ。
「というか、お前怪我は大丈夫なのか?」
「今思い出しただろ。大したことないから来なくていいって言ったぞ俺は」
「そんなことはない!ただ、お前の怪我の具合よりも良い女に出会えた話をしたかっただけだ!」
まぁ、大した怪我でもなかったしな。
「そんなに良い女なのか?」
「私と同じくらい良い女だ」
「…例えが的確なのが逆に腹が立つな」
重悟はため息を零して。
「俺は帰るが、お前はどうする?」
これからの予定を聞いてきた。
「私はクレアをいただく」
「だから弁えろっつってんだろうがよ」
私はクツクツと笑って。
「今度紹介するよ。あ、手を出すなよ?」
そう言うと、重悟はニヤリと笑って。
「さぁな。俺に奪われるってことは、お前の愛が足りなかったってことだろ」
とんでもないことを言った。
「は!?おい重悟!私とお前の仲だとしてもそれは絶対に許さんからな!」
「さーなー。じゃあ俺は帰るが、相手は教師なんだからその辺考えてやれよ?」
「わ、わかってるさ!お前こそあんまり怪我を負うなよ!」
重悟は片手を上げて去って行った。
昨夜、私は運命的な出会いをした。
その相手はイギリス人で、小学校教師。
さらに私は警察官だから、あまり会えないだろうけど。
「“おやすみ”と」
『おやすみなさい、また明日ね』
次の休みはクレアが会いに来てくれることになってるから耐えられる。
クレアはクレアで、あの少年に根掘り葉掘り聞かれるらしいがな。
「“運命”、か」
クレアと再び出会って、改めて思う。
運命の出会いというのは本当にあるんだな、と。
END
「は……」
「小隊長?どうしました?」
「なんです?どうしたんです?」
ある日の夜。
部下二名と共に飲みに行った時。
日付けも変わりそうな時刻だというのに、煌々と灯りの灯ったとあるカフェの窓際に。
「……まずい…」
「はい?」
「何がまずいんですか?」
机に置いてあるだろうスマホへと視線を落としている、憂いを秘めた金色の髪の美しい女がいた。
「……惚れた…」
「は?」
「はい?」
惚れた。
所謂一目惚れという奴だ。
「声かけてくる」
「「え!?小隊長!?」」
さっそく声をかけに行こうと思えば。
「ん?」
若い男二名に声をかけられていた。
「……取られてたまるか!」
「ちょっ!?」
「待ってくださいよ!」
私はカフェに入って、女の席へと近寄る。
「泊まるところないんでしょ?俺らホテル代出すしさ」
「時間も時間だし、早く寝たいんじゃない?」
「ごめんねぇ、お姉さん今忙しいの」
女は目を細め、小さく笑んでいる。
…とんでもなく良い女だ。
「そこまでだ」
「「「!」」」
三人は私へと視線を向けた。
「な、なんだよあんた…」
「…お姉さんも綺麗じゃん」
男たちは私と女を交互に見て、ニヤニヤ笑う。
「私は神奈川県警 交通部 第三交通機動隊 小隊長の萩原千速だ。簡単に言えば警察なんだよ。お前ら、迷惑行為で連行しちゃうぞ?」
と、追って来た部下たちを指す。
「「…っ!やべ…!」」
「早く帰って寝ろ」
見たところ未成年ではなさそうだし、口頭注意だけで充分効果的だろう。
「「す、すみませんでしたー!」」
と、そそくさと去って行った。
「ありがとうございます」
女はニコリと笑った。
ナンパされるのは初めてではなさそうだな。
「いえ。こんな時間に若い女性が一人で出歩いているのは感心しないな」
「それはあなたも…って、あなたは一人じゃないし警察官か」
女は部下へ視線を巡らせ、軽く会釈をする。
「終電逃しちゃって、どこか泊まれるホテルないかなぁと探してたんです」
「こんな時間に?」
「こんな時間に」
私の疑問に、クスクス笑って。
「推しのイベントで、イベ会場で仲良くなった同担な子たちと遊んでたらこんな時間になっちゃったの」
久しぶりに羽目を外し過ぎた、と言った。
「なるほど」
「お巡りさん、どこか良いホテルを知りませんか?」
私は部下へ目配らせをし、部下は肩を竦めてカフェから出て行った。
「知ってますよ。案内するので付いて来てくれ」
「あ、本当?助かります」
女は伝票を持って会計しに行き、その間に私は外に出て。
「すまないな。二次会はなしだ」
私の言葉に、部下はジト目で睨んできて。
「…良いホテルって、まさか自宅じゃないでしょうね?」
「警察官がやばいことしないでくださいよ?」
そう言った。
「私を信じろ。誓って犯罪じみたことはしないさ」
「…信じますからね」
「自分は嫌ですからね?小隊長の自宅をガサ入れするの…」
「大丈夫だ!」
私はクツクツ笑って、部下の背中を叩く。
「お待たせしました。というか、いいんですか?」
私と部下たちを交互に見て、首を傾げる。
「あ、はい。もう解散というところでしたので」
「自分らはここで失礼します」
ビシッと敬礼し、私を指を差すことで念を押してきた。
私は肩を竦めることで答え、部下たちは帰って行った。
「よし!まずは君の名前を教えてほしい。私は先ほども名乗ったが萩原千速だ」
「私はクレア・セイフォードです。イギリス人だけど、生まれは日本で帰化してるわ」
「だから日本語が達者なのだな。っと、バイクを停めてる駐車場はあっちなんだ」
バイクを停めている方向を指し、歩き出す。
「お酒飲んでるのにバイク?お巡りさん?」
「もちろん運転をして帰るつもりはなかったぞ?押して帰るつもりだったんだ」
「押して帰る、ねぇ」
クレアはどこか含み笑いをして。
「良いホテルって、まさかご自宅?」
問いかけきた。
「あ、いや…」
…鋭いな。
いや、黙ってるつもりはなかった!
「ち、ちゃんと話すつもりだった…!」
クレアはニヤニヤ笑って。
「ま、そういうことにしといてあげる」
そう言った。
そういうことにしといてくれるなら、そういうことをしてもいいという解釈をしてしまう。
「お巡りさんとだなんて、なんだか背徳感があってワクワクしちゃうわね」
「背徳感ってなんだよ。確かに私は警察官だがその前に一人の人間だぞ?」
鼻歌を歌いながら、私の隣を歩くクレア。
「それはそうなんだけどー」
と、クレアはクスクス笑う。
くそぅ。
可愛いな。
「あ、コンビニ寄ってもいいかしら?」
「あぁ、もちろんだ」
駐車場近くのコンビニに入って、飲み物を見ているふりをしてクレアを見る。
何度見てもどストライクの容姿だ。
声も良い、性格も良さそうだし。
きっと頭も良さそうだな。
「アクエリでいっかなー。千速さんは何か買う?」
一緒に払うわよ?と。
「いや、私が払うよ」
「えー?泊めてもらうのにそれは悪いわよ」
「なに、大した金額じゃないさ」
スマホをかざし、電子マネーで決済を済ませる。
「ありがと」
「いいえ」
ふ、と笑い合う。
結構気が合うんじゃないか?
合ってるよな?
「でもまさかお巡りさんにナンパされるとはなー」
「な、ナンパでは…ない…とは言い切れないよな…」
ナンパをしたつもりはないんだが、結果的にはそうなるよな。
「ナンパを撃退してくれたお巡りさんにナンパされて、お持ち帰りされるってなかなか経験出来ないわよね」
「…ぅ」
クレアはニヤニヤ笑いながら私の頬を突っつく。
私は突かれた頬を押さえ、周りを見る。
時間も時間だけあって人がいない。
「……」
「?どう……」
だから私はクレアの腕を掴み、顔の高さまで上げて。
「嫌なら拒絶してくれ」
ゆっくりと顔を近づけた。
「…ん」
クレアは拒絶することなく受け入れてくれた。
掴んでいる腕を私の首元へと誘導して。
「ン、、ん…」
クレアが腕を絡めてくれたことで、塀へと押し付けながら。
「っん…っンぅ…っ」
キスを深くする。
静まり返ったこの場所で聞こえてくるのは、厭らしい水音と。
遠くで聞こえる車の排気音。
どこかの馬鹿がヤンチャしてるのか、なんて考える余裕などなくて。
「…は…っン…っ」
この時間がたまらなく快感で。
「…っち…はやさん…っ外では…っ」
唇を離し、首筋に舌を這わせた時。
「嫌か?」
拒絶の言葉?
「…さすがに恥ずかしいし、あなた警察官でしょ?」
「……確かに」
拒絶ではなく、羞恥と警察官である私への気遣いだった。
「忘れてた?」
「忘れてはいないが、忘れてた」
「ふふっ、忘れてたんじゃない」
「…キスだけのつもりだったんだよ」
「ああ、理性が一瞬飛んだってことね」
クレアはまたクスクス笑って。
「ちが「ご自宅まで我慢しましょー」
手を繋いできた。
しかも、恋人同士が繋ぐように指を絡めて。
抱かれるということはちゃんと認識してるんだな。
そして嫌ではない。
「……」
もしや…誰でもいい…という…。
「誰でも良いなら最初のナンパ君たちの誘いを受けてますよ」
「…っ!?」
私の思考を読み取ってか、クレアはそう言った。
「…なぜわかった?まさかエスパー…」
「小さく声に出てましたー」
「……」
私は顔を押さえ、ため息を吐く。
「不覚」
「あは!可愛いなぁ」
「く…」
…可愛いは初めて言われたな。
随分と余裕をかましてるようだが、家に着いたら覚悟しといてもらおう。
「上がってくれ」
「お邪魔しまーす」
家に着いた。
「!」
リビングへと先導し、クレアが入ってきと同時に。
「っあ…っちょ…っちょっと…っ!」
ドアへと押し付けるように、首筋に噛み付くように唇を寄せた。
「っま…っ待って待って…っん…っ」
「待たない」
道中、散々余裕をかましてたんだからな。
「…っご挨拶させて…!」
「挨拶?……ああ、わかった」
クレアは仏壇を指し、私はクレアを一度解放する。
「弟の研二だ」
「そう…弟さん…」
ロウソクに火を灯し、クレアは一本の線香を二つに折って火を灯した。
「お邪魔します」
リンを鳴らし、手を合わせる。
なぜ亡くなったのかを聞かず、ただ祈ってくれた。
「…リビングでするのはちょっと恥ずかしいわね」
研二君が見てるかもだし、とクレアは恥ずかしがった。
私は小さく笑い、研二の写真を見て。
「あの馬鹿に見せつけてやってもいいんだがな」
小さく笑う。
何でもいいんだ。
怒る声、呆れる声、慌てる声。
何でもいい。
何でもいいから。
声が聞きたい。
もう一度だけ。
研二、お前の声が…。
「…あられもない姿を見られるの私なんだけども」
クレアは優しい笑みを浮かべて。
「でも大丈夫よ、千速さん」
私の首に腕を回して。
「時間がかかるけど、必ず会える日が来るわ」
触れるだけのキスをして。
そして。
「だからその時までに、あなたはこれ以上の悔いがないようシワシワのおばあちゃんになるまで生きないとね」
そう口にした。
これ以上の悔いがないように、か。
「…そうだな」
まったくもって、その通りだ。
いつか必ず会えるその日まで。
研二にとって自慢の姉だと誇れるような。
立派な……。
「…ナンパしてお持ち帰りをしてしまった姉を弟が見たらなんて言うかな…」
「んー、何やってんの姉ちゃん!かな?」
なんて笑い合って。
「ソファーの下なら見えないだろ?」
「見えないわね」
私たちは熱を分かち合った。
「……」
翌日、朝四時頃に目を覚まして。
隣を見たらクレアが居なかった。
「…夢か?」
もしかして、夢を見ていたのか?
酒も入っていたし、夢かもしれん。
「…あー…」
あんな良い女、夢でしか会えないなんて残念でならない。
「喉が渇いたな…」
私は起き上がり、頭を掻きながらリビングへ行く。
「あ、おはよ。もう起きたの?」
「…ッ!?」
誰もいないはずのリビングで、突然声が聞こえて肩が震えた。
「あ…あれ…」
「んー?」
いる…。
昨日お持ち帰りしたクレアが…。
「夢じゃなかったのか…」
「夢にしちゃ随分エッチな夢を見てたのねぇ」
クレアはクスクス笑う。
ハッとクレアを見れば、身支度をしていて。
「もう行くのか?」
「えぇ、始発に乗らないと仕事に間に合わないもの」
仕事らしい。
「そういや仕事は何をしてるんだ?」
私は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、コップに注ぐ。
「えー、聞きたい?」
クレアは私の首に腕を絡ませ、ニヤニヤ笑う。
「まさか夜職か?」
夜職なら、もう働かなくてもいいように私が養う。
いや、夜職じゃなくても一緒にはなりたいが。
「んーん」
ちゅ、とキスをして。
「小学校のせんせ」
クスリと笑った。
「…は?」
「せんせ。担任は持ってないけど、怪我をして入院してる教師の代わりに代理でクラスを持ってるわ」
クレアは私から離れ、後ろで手を組んで。
「今日はそのクラスの生徒数名と、放課後に入院中の担任の先生のお見舞いに行くの」
そう言った。
「…まさか教師と警察官が…」
「外で熱いチューもしちゃったわね」
こんなことが学校や県警にバレたら大目玉を喰らうが。
「……なかなかに燃えるな」
「いけない人ねぇ」
「君も同罪だぞ」
背徳感などなど。
なかなかにスリルがあって逆に燃える。
「駅まで送るよ」
「ありがと」
私も着替えて、クレアを駅まで送る。
「次はいつ会える?」
私の問いに、クレアは首を横に振って。
「今日で最後よ。素敵な夜をありがとうね」
そう言った。
「なんでだよ。私はまた会いたい。ワンナイトのために君に声をかけたんじゃないぞ」
「あなたは警察で私は教師。会う時間なんてほぼ取れないわ」
それは…そうだろうけれど…。
東京行き始発が到着して。
「じゃあ、さようなら。千速さん」
「…私は諦めないからな」
クレアはクスリと笑って。
「また会えたら、それそこ運命なのかもしれないわね」
触れるだけのキスをしてくれて。
「またな、クレア」
閉まるドア、クレアは手を振って。
電車は動き出した。
私の中ではすでに運命だと思ってるんだからな。
「というか探す」
絶対にまた会えると信じているから。
「…とりあえずは帰って寝るか」
非番と言えど、酒も抜け切ってないしな。
「なに?重悟が?」
『はい、怪我の程度は大したことないようですが一応病院へ』
「そうか。どの病院だ?」
昼頃、同僚から連絡があった。
重悟が怪我をして、今病院にいると。
「東京か。わかった。非番だし行ってみる」
あの馬鹿、大した怪我じゃないと言ってるらしいが…。
あいつの言葉こそ信用出来ないからな。
クレアがどこから来たのかも聞いてないし、連絡先も聞いてない。
せめて連絡先を聞けばよかったな。
「何か手土産でも買ってくか」
いらないかもしれんが、ちょっとした食べ物と飲み物を。
「“私が行くまで待っていろ”と」
重悟に連絡をすると。
“大した怪我じゃねぇから必要ねぇよ”
と、返ってきた。
「“いいから。もう向かってるからジッとしてろ”」
大した怪我かどうか、私が直接見て判断してやる。
私はヘルメットを被り、バイクを走らせた。
「ここか」
一時間ほどバイクを走らせ、重悟がいる病院へと着いた。
結構大きな病院に搬送されたんだな。
「…本当に大した怪我じゃないんだろうな、あいつ」
こんな大きな病院に搬送されたなら、それなりの怪我なんじゃ…。
受け付けへと行き、横溝重悟がどこで処置をしてるのかを聞こうかと思っていたら。
「あれ?千速さん?」
私を呼ぶ声が聞こえた。
「ん?あぁ、少年じゃないか」
振り返れば、いつぞやの事件で世話になった少年がいて。
「コナン君、知り合い?」
「綺麗な姉ちゃんだなぁ」
少年の友達だろう子供たちが数名一緒にいた。
「あぁ、ちょっとな」
少年は適当に返し、私が警察だということを伏せた。
「こんなところでどうしたの?千速さん」
「重悟の見舞いに。あの馬鹿、怪我をしてここに運ばれたらしいんだ。君たちは?」
「横溝刑事が?なんかの事件?ボクらも担任の先生のお見舞いなんだけどさ」
「担任の見舞いか」
ん?
…どこかで聞いたような…。
「そう!小林先生が入院してるから、代わりに先生をしてくれてる先生と!」
ね!と、少女が振り返る。
私は視線を上げて。
「…ッ!」
その先生とやらを見ながら。
「…“また会えたなら、それこそ運命”だったかな?」
明後日の方を見つつ鞄で顔を隠している人物…。
「……なんでいるのぉ…」
クレアへと笑いかけた。
顔を隠しているが、耳まで赤くなってるのがわかる。
「まさか同じ病院だったとはな!」
やった。
会えた。
また会えた。
「クレア先生、知り合いなの?」
ブロンドの髪の少女がクレアに問いかけたが、私はクレアの手を掴んで。
「ちょ…っンっ…んぅ…っ」
そのままキスをした。
「「……は…ッ!?!?」」
「「「え!?!?」」」
子供たちの。
「ん…っぅ…っ」
目の前で。
見開かれた綺麗な空色の瞳を見ながら、両手で頬を押さえて噛み付くような激しいキスを。
「は…っ」
「は…」
離れた時にはクレアの息が上がっていて。
「ッちょっと来て!!」
真っ赤な顔をしたままクレアに手を引かれた。
「少年!重悟に待っとけって伝えておいてくれ!」
「はーい…」
少年たちも顔が真っ赤で、そんな少年にウィンクして重悟に伝言を頼んだ。
「本当に!どうして!子供たちの前で!」
「いやすまない。再会出来たことが嬉しすぎてつい」
病院の外、人通りが少ない場所で。
クレアに叱られた。
子供たちの前でキスをしたからな。
「まったくもう…!人前でのキスは禁止だから!」
「わかったわかった。人前ではもうしない」
私はクツクツと笑い、クレアの掌にキスをする。
「っだか「これは許してくれ。本当に会いたかったんだ」
私の言葉に、クレアは小さな苦笑を零して。
「会いたかったのは、私も同じよ」
額にキスをしてくれた。
「っクレア「ただ!今はほら、私はまだ先生としてここにいるから」
う…。
確かに、生徒を連れて来ているんだものな。
「うむ、すまなかった…」
シュン、と肩を落とせば、クレアはクスクス笑う。
「ほら、お互い同僚のお見舞いに行かないと」
「あぁ、この後時間ある?」
「一度学校戻らないとだけど、あるわよ」
私たちは並んで病院に戻って。
「クレア、連絡先を教えてくれないか?」
「もちろん。私からも連絡するわね」
連絡先を交換し、そして。
「じゃあ、またあとで」
「またあとでな」
私たちは別れた。
私は重悟がいるだろう処置室に向かう途中で。
「…っし!」
ガッツポーズをした。
だって、するだろ?
会いたかった人に、こんな早くに会えたんだ。
連絡先だって知れた。
多分交際に発展…いや、すでに交際してるようなものだろ。
というか、絶対に離さない。
誰にも渡さない。
「…お前は何やってんだ千速…」
処置室の前の椅子で、重悟が呆れるような眼差しで見てきた。
少年に事情を聞いたようだ。
「昨日とんでもなく良い女と出会って、今日もまた会えたんだ。テンション上がるだろ」
「あのな…警察官なんだから場所を弁えろ…」
「連絡先も交換できた!」
「俺の話を聞け」
説教をされたが、今の私は無敵だ。
「というか、お前怪我は大丈夫なのか?」
「今思い出しただろ。大したことないから来なくていいって言ったぞ俺は」
「そんなことはない!ただ、お前の怪我の具合よりも良い女に出会えた話をしたかっただけだ!」
まぁ、大した怪我でもなかったしな。
「そんなに良い女なのか?」
「私と同じくらい良い女だ」
「…例えが的確なのが逆に腹が立つな」
重悟はため息を零して。
「俺は帰るが、お前はどうする?」
これからの予定を聞いてきた。
「私はクレアをいただく」
「だから弁えろっつってんだろうがよ」
私はクツクツと笑って。
「今度紹介するよ。あ、手を出すなよ?」
そう言うと、重悟はニヤリと笑って。
「さぁな。俺に奪われるってことは、お前の愛が足りなかったってことだろ」
とんでもないことを言った。
「は!?おい重悟!私とお前の仲だとしてもそれは絶対に許さんからな!」
「さーなー。じゃあ俺は帰るが、相手は教師なんだからその辺考えてやれよ?」
「わ、わかってるさ!お前こそあんまり怪我を負うなよ!」
重悟は片手を上げて去って行った。
昨夜、私は運命的な出会いをした。
その相手はイギリス人で、小学校教師。
さらに私は警察官だから、あまり会えないだろうけど。
「“おやすみ”と」
『おやすみなさい、また明日ね』
次の休みはクレアが会いに来てくれることになってるから耐えられる。
クレアはクレアで、あの少年に根掘り葉掘り聞かれるらしいがな。
「“運命”、か」
クレアと再び出会って、改めて思う。
運命の出会いというのは本当にあるんだな、と。
END
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