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『遥か昔』
『フリーレン、おいで。お前に会わせたい人がいる』
『会わせたい人?』
『きっと、もう人の前に現れることがないだろう人だ』
『もう人の前に現れないなら、会ってくれないんじゃない?』
『多分、まだギリギリ会ってくれると思う』
『ギリギリ』
これは。
千年以上前の話。
私はまだ魔法使いと名乗れるほどではなかった時代。
大魔法使い・フランメの弟子になり、師匠(せんせい)が私をゼーリエに紹介して間もない時期。
師匠が私に会わせたい人がいると言った。
『どんな人なの?』
師匠は横目で私を見て。
『自分の全てを師匠に託した人だ』
自分の全てをゼーリエに。
つまり。
『ゼーリエの師匠ってこと?』
『そうだ』
え。
めちゃくちゃ凄い人じゃん。
『まぁ、本人は師匠に全部押し付けて隠居したいかららしいが』
『隠居…』
だから会ってくれるかわならないのか。
いや、今ならまだギリギリ会ってくれるみたいだけど。
でもゼーリエの師匠なら、凄い魔法使いなんだろう。
『師匠は会ったことあるの?』
『あぁ。人生で二度会ったことがある。今回会ってくれたなら三度目だ』
人間の人生は短いから、そんな短い人生で二度も会ったことがあるのか。
じゃああまり大したことないのかも。
いやゼーリエは凄い魔法使いだから、大したことがないわけないか。
けど、特別驚くことはないのかも、なんて。
思っていた。
『……師匠、まだ着かないの…?』
『多分まだかかる』
『…なんでそんな遠いところに…』
もう二日は歩いてるのに一向に着かない。
まぁ世界は広いから、結構遠いところにいるんだろうけどさ。
それにしたってさ。
二日も歩いててまだかかるって、さすがに疲れるよね。
『……私はそこまでして会わなくてもいいんだけど』
別に私が会いたいわけじゃない。
師匠が私に会わせたいってだけだから。
私の言葉に、師匠はクツクツと笑って。
『会ったらわかる』
そう言った。
『わかるって何が?』
『それは会ってからのお楽しみ』
何がわかるのかは教えてくれなかった。
それからはただひたすら森の中を歩いた。
道中には魔物も魔族もいなかった。
『そういえば、名前はなんていうの?』
一週間は歩いただろうある夜。
聞き忘れていたことを聞いた。
会いに行ってる人の名前を。
『クレアだ』
『クレア。呼び捨て?』
『敬称も敬語もいらないと言っていたからな』
そんな大それた人物じゃないって言いたいのかもしれないけど、ゼーリエに全てを教えた人が凄くないわけないんだよね。
凄い人、いや凄くないか、いやいや凄いでしょ、という曖昧な感情でどういう表情をしていいのかわからない。
『というか、さすがに遠すぎでしょ。まだ着かないの?』
『なんだ?エルフの長い寿命の中で、まだたった一週間だぞ?』
師匠はニヤニヤと笑い、小馬鹿にしてきた。
『エルフだって一週間も歩けば疲れるよ』
もう帰りたい。
私は別に会いたいわけじゃないし。
帰りたい。
そう思った時だった。
『おや』
師匠が視線だけを横に向けて。
『会ってくれるみたいだ』
そう言って、焚き火に枝を放り投げた瞬間。
ブワッと。
『!!』
本当に、ブワッと。
辺りが暗くなって。
ピチョン、と。
水音が聞こえたと思ったら。
【…一週間も姿を見せないんだから諦めてちょうだいよ】
真っ暗な中、ただ一つある小さな池から。
『前は半年だったから、一週間なんて短いくらいだ』
水で造られた人のような物が現れ、師匠へと歩み寄ってきた。
なんだ、あれ。
私はあれを、魔法として認識していない。
魔力を感じない。
魔力探知出来ない。
【……はぁもう。私も暇じゃないのよ】
『隠居してるんだから暇だろ』
師匠は人の形をした水に手を伸ばして。
『あなたに紹介したい子がいるんだ』
『本当に、ゼーリエの弟子なだけあって強引よね』
人の形をした水も師匠に手を伸ばし、触れ合った瞬間。
パァンッ
水が弾け、真っ白な人が現れた。
シャラン、と綺麗な音を立てた青い宝石が付いている杖と。
真っ白な衣を纏う、真っ白なその人は。
物凄く綺麗な人で。
『あなた、名前は?私はクレアよ』
声もまた良い声。
『…フリーレン』
名前だけを告げる。
『フリーレン。よろしくね』
一切の魔力を感じない。
『…よろしく』
差し出された手を取れば冷たくて。
『え、死人?』
と、思わず言葉に出してしまった。
『『……』』
クレアが笑顔を引くつかせ、ため息を吐いて。
『!』
人差し指で私の額に触れた。
体が光に包まれ、暖かくなった。
『いいのか?』
『そうしてほしいから連れて来たんでしょう?』
“そうしてほしい?”
なんだろう。
何をされたんだ。
と、言いたげに師匠を見る。
師匠は小さな笑みを浮かべて。
『クレアの加護だ』
そう言った。
『加護』
ああ、そうか。
今回の目的は、私にクレアの加護を受けさせるためだったんだ。
『まぁ、あまり見ない同族だしね』
『それは引きこもってばかりいるからだろ』
『ああ煩い。ああ言えばこう言う』
見た目は大人のエルフ。
私やゼーリエよりも、気が狂いそうになるだろう永い刻を生きているんだろう。
『…でもまだまだ子供か』
けれど、どこか子供っぽいところがある。
『…はぁ?現在進行形の子供であるあなたに言われたくないんですがぁ…』
『そういうところが子供だって言ってんだ』
『んま!二人して馬鹿にして!帰るのに五年かかる魔法かけてやろ!』
師匠もケラケラ笑ってクレアをからかってる。
…本当にゼーリエの師匠なのか疑っちゃうよ。
未だ魔力だって全然感じないしさ。
『まったく。ゼーリエにくれぐれもよろしく言っといてちょうだい』
『元気してることを伝えとくさ。というか、師匠のことだからもうわかってると思うがな』
師匠は私の頭に手を置いて。
『じゃあ帰るとしよう、フリーレン』
笑った。
なんか師匠がこうして笑うの、初めて見た。
楽しそうというか。
いつもみたいな余裕の笑みじゃなくて。
純粋に楽しんでる。
ゼーリエの前とはまた違う。
古い友人のように。
『死ぬなよ、クレア』
師匠の言葉に、クレアは小さく笑って。
『えぇ。あなたも、フランメ』
師匠の額にキスをした。
『………』
それをジト目で見て。
『私は?』
『はいはいはい、わかりました』
私の額にもキスをしてくれた。
『あなたも、元気でねフリーレン』
もうきっと、会うことはない。
『うん』
私の永い人生の中でも、きっと。
辺りは眩い光に包まれて。
そして。
クレアは消えた。
『クレアって、そんなに凄い人なの?』
何回も疑ってしまう。
全然凄い感じがしない。
『ゼーリエに全てを伝えた人って言われたら凄いけど、全然そうは見えなかった』
『まぁそれが、あの人の良いところなんだろうな』
変に緊張したりしないから、と。
師匠は言った。
『クレアの凄いところもうないの?』
『んー、そうだな』
それは凄いってのがあれば、尊敬するんだけどな。
『人類と魔物がまだ曖昧で混沌としていた時代。“人類”と“魔物”を分けたのがクレアだ』
思考・言語・道具を用いて複雑な社会を築いた存在を“人間”と総称して。
その“人類”に災厄をもたらす存在を“魔物”と定義付けたのがクレア。
『え、すご…』
さすがにそれは凄い。
しかも、その後に師匠が言葉を使う魔物を“魔族”と定義付けた。
え、凄い。
『私たちでは想像も出来ない程永い刻の中を生きているんだ、クレアは』
そうは見えないのに。
神々しく、崇め祀られたくないがためにあんなフランクな感じなのかもしれない。
本当に、ただ静かに暮らしたいだけで。
『ゼーリエはなんて言うかな』
『師匠には言って来てない』
『え゙…絶対に怒られるやつじゃん…』
『なぁに、なんか言われたらガツンと言い返すさ』
『頼もしい』
ガツンと言い返してくれるなら安心だ。
『で?なぜ勝手にあの人に会いに行ったんだ?』
『ごめんなさい』
『よわ…ガツンと言い返すんじゃなかったの…』
ゼーリエは呆れるようにため息を零した。
『でも師匠、私が師匠に連れられてあの人の加護を授けられたように、私も私の弟子にあの人の加護を授けてほしかったんだ』
『馬鹿か。それは勝手に会いに行った理由にはならないんだよ』
『ごめんなさい』
『や、やっぱり弱い…』
本当にこの人はプライドがないよな。
すぐ謝るし、すぐ命乞いをする。
『フリーレン、あの人に会った感想は?』
感想、か。
『なんか子供っぽい人だったよ。全然凄そうに見えなかったかな』
人類と魔物を分けたのは凄いけど。
私がそう言うと、ゼーリエはクツクツと笑って。
『相変わらずなんだな、あの人は』
なんて、少しだけ嬉しそうだった。
「……ん」
「やっと起きましたか、フリーレン様」
「いつになくグッスリ寝てたんだな」
目を開ければ、フェルンが目に入った。
視線を動かせばシュタルクもいた。
ああ、夢か。
まぁそれもそうか。
なんてたって千年以上前のことなんだから。
夢に決まってるよね。
「なんか懐かしい夢を見てたよ」
「…フリーレンが懐かしいって言うくらいなら、百年前とか?」
「千年以上前の、かな」
「懐かしいを通り越して妄想の域ですよそれ…」
いつ頃の夢かを教えてあげると、フェルンもシュタルクもドン引きした。
「……」
私はフェルンを見る。
クレアの加護を受けてから千年以上経った魔王との決戦の夜。
『…フリーレン…それは…』
『…やば、多分今の一撃で死んでたかも』
クレアの加護が発動した。
あの時、本当にクレアの加護を受けてたんだと実感したと同時に。
千年以上経ったのにも関わらず、発動するなんて凄すぎない?とまで思った。
まぁ、人間である師匠の結界だって千年の刻を経ても効力を発揮してるんだからね。
化け物みたいなゼーリエやクレアの魔法が発動しても何らおかしくはない。
「フリーレン様?どうしました?」
クレアの加護、か。
ゼーリエが師匠を連れて行ったように。
師匠が私を連れて行ったように。
私もフェルンを連れて、クレアに会いに行こう。
もう会うことはないと思ったクレアに。
会ってくれるかわからないけど。
いや、きっと会ってくれるはずだ。
だって私は。
大魔法使い・フランメの弟子なんだから。
「いや、夢を見て思い出したんだけど、フェルンに会わせたい人がいるんだ」
きっとクレアは。
『…ゼーリエといいフランメといい、あなた方は弟子を甘やかしすぎでしょ』
なんて文句を言うだろうけどね。
「フェルンに会わせたい奴ってどんな奴なの?」
「うーん。簡単に言うと、ゼーリエに全てを伝えた人で神話の時代より遥か昔に“人類”と“魔物”を分けた人かな」
「え゙」
「“奴”って言ってごめんなさい…」
フェルンもシュタルクもまたドン引きしてる。
「見た目は神々しいけど話したら子供みたいな人だから大丈夫だよ。それに敬われるの嫌な人だからフランクに話してあげて」
「……敬われるのが嫌な方…」
「そんな神様みたいな人なのに…」
クレアは崇め祀られるのを嫌う。
そう、クレアはただ単に。
“友達”がほしいだけだから。
私は小さく笑う。
「まぁ、会うまでに結構かかると思うけどね」
あ、ゼーリエの許可………まぁいいか。
きっとゼーリエなら私の行動なんて手に取るようにわかるだろうし。
ゼーリエ、弟子を全員クレアに会わせてるのかな。
その辺の話もクレアと出来たらな、なんて小さな期待を胸に。
「俺も行っていいもんなの?」
「当たり前でしょ。シュタルクは私たちのパーティなんだからね」
私たちはクレアが居るだろう、懐かしい場所へと歩き出した。
END
『フリーレン、おいで。お前に会わせたい人がいる』
『会わせたい人?』
『きっと、もう人の前に現れることがないだろう人だ』
『もう人の前に現れないなら、会ってくれないんじゃない?』
『多分、まだギリギリ会ってくれると思う』
『ギリギリ』
これは。
千年以上前の話。
私はまだ魔法使いと名乗れるほどではなかった時代。
大魔法使い・フランメの弟子になり、師匠(せんせい)が私をゼーリエに紹介して間もない時期。
師匠が私に会わせたい人がいると言った。
『どんな人なの?』
師匠は横目で私を見て。
『自分の全てを師匠に託した人だ』
自分の全てをゼーリエに。
つまり。
『ゼーリエの師匠ってこと?』
『そうだ』
え。
めちゃくちゃ凄い人じゃん。
『まぁ、本人は師匠に全部押し付けて隠居したいかららしいが』
『隠居…』
だから会ってくれるかわならないのか。
いや、今ならまだギリギリ会ってくれるみたいだけど。
でもゼーリエの師匠なら、凄い魔法使いなんだろう。
『師匠は会ったことあるの?』
『あぁ。人生で二度会ったことがある。今回会ってくれたなら三度目だ』
人間の人生は短いから、そんな短い人生で二度も会ったことがあるのか。
じゃああまり大したことないのかも。
いやゼーリエは凄い魔法使いだから、大したことがないわけないか。
けど、特別驚くことはないのかも、なんて。
思っていた。
『……師匠、まだ着かないの…?』
『多分まだかかる』
『…なんでそんな遠いところに…』
もう二日は歩いてるのに一向に着かない。
まぁ世界は広いから、結構遠いところにいるんだろうけどさ。
それにしたってさ。
二日も歩いててまだかかるって、さすがに疲れるよね。
『……私はそこまでして会わなくてもいいんだけど』
別に私が会いたいわけじゃない。
師匠が私に会わせたいってだけだから。
私の言葉に、師匠はクツクツと笑って。
『会ったらわかる』
そう言った。
『わかるって何が?』
『それは会ってからのお楽しみ』
何がわかるのかは教えてくれなかった。
それからはただひたすら森の中を歩いた。
道中には魔物も魔族もいなかった。
『そういえば、名前はなんていうの?』
一週間は歩いただろうある夜。
聞き忘れていたことを聞いた。
会いに行ってる人の名前を。
『クレアだ』
『クレア。呼び捨て?』
『敬称も敬語もいらないと言っていたからな』
そんな大それた人物じゃないって言いたいのかもしれないけど、ゼーリエに全てを教えた人が凄くないわけないんだよね。
凄い人、いや凄くないか、いやいや凄いでしょ、という曖昧な感情でどういう表情をしていいのかわからない。
『というか、さすがに遠すぎでしょ。まだ着かないの?』
『なんだ?エルフの長い寿命の中で、まだたった一週間だぞ?』
師匠はニヤニヤと笑い、小馬鹿にしてきた。
『エルフだって一週間も歩けば疲れるよ』
もう帰りたい。
私は別に会いたいわけじゃないし。
帰りたい。
そう思った時だった。
『おや』
師匠が視線だけを横に向けて。
『会ってくれるみたいだ』
そう言って、焚き火に枝を放り投げた瞬間。
ブワッと。
『!!』
本当に、ブワッと。
辺りが暗くなって。
ピチョン、と。
水音が聞こえたと思ったら。
【…一週間も姿を見せないんだから諦めてちょうだいよ】
真っ暗な中、ただ一つある小さな池から。
『前は半年だったから、一週間なんて短いくらいだ』
水で造られた人のような物が現れ、師匠へと歩み寄ってきた。
なんだ、あれ。
私はあれを、魔法として認識していない。
魔力を感じない。
魔力探知出来ない。
【……はぁもう。私も暇じゃないのよ】
『隠居してるんだから暇だろ』
師匠は人の形をした水に手を伸ばして。
『あなたに紹介したい子がいるんだ』
『本当に、ゼーリエの弟子なだけあって強引よね』
人の形をした水も師匠に手を伸ばし、触れ合った瞬間。
パァンッ
水が弾け、真っ白な人が現れた。
シャラン、と綺麗な音を立てた青い宝石が付いている杖と。
真っ白な衣を纏う、真っ白なその人は。
物凄く綺麗な人で。
『あなた、名前は?私はクレアよ』
声もまた良い声。
『…フリーレン』
名前だけを告げる。
『フリーレン。よろしくね』
一切の魔力を感じない。
『…よろしく』
差し出された手を取れば冷たくて。
『え、死人?』
と、思わず言葉に出してしまった。
『『……』』
クレアが笑顔を引くつかせ、ため息を吐いて。
『!』
人差し指で私の額に触れた。
体が光に包まれ、暖かくなった。
『いいのか?』
『そうしてほしいから連れて来たんでしょう?』
“そうしてほしい?”
なんだろう。
何をされたんだ。
と、言いたげに師匠を見る。
師匠は小さな笑みを浮かべて。
『クレアの加護だ』
そう言った。
『加護』
ああ、そうか。
今回の目的は、私にクレアの加護を受けさせるためだったんだ。
『まぁ、あまり見ない同族だしね』
『それは引きこもってばかりいるからだろ』
『ああ煩い。ああ言えばこう言う』
見た目は大人のエルフ。
私やゼーリエよりも、気が狂いそうになるだろう永い刻を生きているんだろう。
『…でもまだまだ子供か』
けれど、どこか子供っぽいところがある。
『…はぁ?現在進行形の子供であるあなたに言われたくないんですがぁ…』
『そういうところが子供だって言ってんだ』
『んま!二人して馬鹿にして!帰るのに五年かかる魔法かけてやろ!』
師匠もケラケラ笑ってクレアをからかってる。
…本当にゼーリエの師匠なのか疑っちゃうよ。
未だ魔力だって全然感じないしさ。
『まったく。ゼーリエにくれぐれもよろしく言っといてちょうだい』
『元気してることを伝えとくさ。というか、師匠のことだからもうわかってると思うがな』
師匠は私の頭に手を置いて。
『じゃあ帰るとしよう、フリーレン』
笑った。
なんか師匠がこうして笑うの、初めて見た。
楽しそうというか。
いつもみたいな余裕の笑みじゃなくて。
純粋に楽しんでる。
ゼーリエの前とはまた違う。
古い友人のように。
『死ぬなよ、クレア』
師匠の言葉に、クレアは小さく笑って。
『えぇ。あなたも、フランメ』
師匠の額にキスをした。
『………』
それをジト目で見て。
『私は?』
『はいはいはい、わかりました』
私の額にもキスをしてくれた。
『あなたも、元気でねフリーレン』
もうきっと、会うことはない。
『うん』
私の永い人生の中でも、きっと。
辺りは眩い光に包まれて。
そして。
クレアは消えた。
『クレアって、そんなに凄い人なの?』
何回も疑ってしまう。
全然凄い感じがしない。
『ゼーリエに全てを伝えた人って言われたら凄いけど、全然そうは見えなかった』
『まぁそれが、あの人の良いところなんだろうな』
変に緊張したりしないから、と。
師匠は言った。
『クレアの凄いところもうないの?』
『んー、そうだな』
それは凄いってのがあれば、尊敬するんだけどな。
『人類と魔物がまだ曖昧で混沌としていた時代。“人類”と“魔物”を分けたのがクレアだ』
思考・言語・道具を用いて複雑な社会を築いた存在を“人間”と総称して。
その“人類”に災厄をもたらす存在を“魔物”と定義付けたのがクレア。
『え、すご…』
さすがにそれは凄い。
しかも、その後に師匠が言葉を使う魔物を“魔族”と定義付けた。
え、凄い。
『私たちでは想像も出来ない程永い刻の中を生きているんだ、クレアは』
そうは見えないのに。
神々しく、崇め祀られたくないがためにあんなフランクな感じなのかもしれない。
本当に、ただ静かに暮らしたいだけで。
『ゼーリエはなんて言うかな』
『師匠には言って来てない』
『え゙…絶対に怒られるやつじゃん…』
『なぁに、なんか言われたらガツンと言い返すさ』
『頼もしい』
ガツンと言い返してくれるなら安心だ。
『で?なぜ勝手にあの人に会いに行ったんだ?』
『ごめんなさい』
『よわ…ガツンと言い返すんじゃなかったの…』
ゼーリエは呆れるようにため息を零した。
『でも師匠、私が師匠に連れられてあの人の加護を授けられたように、私も私の弟子にあの人の加護を授けてほしかったんだ』
『馬鹿か。それは勝手に会いに行った理由にはならないんだよ』
『ごめんなさい』
『や、やっぱり弱い…』
本当にこの人はプライドがないよな。
すぐ謝るし、すぐ命乞いをする。
『フリーレン、あの人に会った感想は?』
感想、か。
『なんか子供っぽい人だったよ。全然凄そうに見えなかったかな』
人類と魔物を分けたのは凄いけど。
私がそう言うと、ゼーリエはクツクツと笑って。
『相変わらずなんだな、あの人は』
なんて、少しだけ嬉しそうだった。
「……ん」
「やっと起きましたか、フリーレン様」
「いつになくグッスリ寝てたんだな」
目を開ければ、フェルンが目に入った。
視線を動かせばシュタルクもいた。
ああ、夢か。
まぁそれもそうか。
なんてたって千年以上前のことなんだから。
夢に決まってるよね。
「なんか懐かしい夢を見てたよ」
「…フリーレンが懐かしいって言うくらいなら、百年前とか?」
「千年以上前の、かな」
「懐かしいを通り越して妄想の域ですよそれ…」
いつ頃の夢かを教えてあげると、フェルンもシュタルクもドン引きした。
「……」
私はフェルンを見る。
クレアの加護を受けてから千年以上経った魔王との決戦の夜。
『…フリーレン…それは…』
『…やば、多分今の一撃で死んでたかも』
クレアの加護が発動した。
あの時、本当にクレアの加護を受けてたんだと実感したと同時に。
千年以上経ったのにも関わらず、発動するなんて凄すぎない?とまで思った。
まぁ、人間である師匠の結界だって千年の刻を経ても効力を発揮してるんだからね。
化け物みたいなゼーリエやクレアの魔法が発動しても何らおかしくはない。
「フリーレン様?どうしました?」
クレアの加護、か。
ゼーリエが師匠を連れて行ったように。
師匠が私を連れて行ったように。
私もフェルンを連れて、クレアに会いに行こう。
もう会うことはないと思ったクレアに。
会ってくれるかわからないけど。
いや、きっと会ってくれるはずだ。
だって私は。
大魔法使い・フランメの弟子なんだから。
「いや、夢を見て思い出したんだけど、フェルンに会わせたい人がいるんだ」
きっとクレアは。
『…ゼーリエといいフランメといい、あなた方は弟子を甘やかしすぎでしょ』
なんて文句を言うだろうけどね。
「フェルンに会わせたい奴ってどんな奴なの?」
「うーん。簡単に言うと、ゼーリエに全てを伝えた人で神話の時代より遥か昔に“人類”と“魔物”を分けた人かな」
「え゙」
「“奴”って言ってごめんなさい…」
フェルンもシュタルクもまたドン引きしてる。
「見た目は神々しいけど話したら子供みたいな人だから大丈夫だよ。それに敬われるの嫌な人だからフランクに話してあげて」
「……敬われるのが嫌な方…」
「そんな神様みたいな人なのに…」
クレアは崇め祀られるのを嫌う。
そう、クレアはただ単に。
“友達”がほしいだけだから。
私は小さく笑う。
「まぁ、会うまでに結構かかると思うけどね」
あ、ゼーリエの許可………まぁいいか。
きっとゼーリエなら私の行動なんて手に取るようにわかるだろうし。
ゼーリエ、弟子を全員クレアに会わせてるのかな。
その辺の話もクレアと出来たらな、なんて小さな期待を胸に。
「俺も行っていいもんなの?」
「当たり前でしょ。シュタルクは私たちのパーティなんだからね」
私たちはクレアが居るだろう、懐かしい場所へと歩き出した。
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