古き御伽話 しのぶさん百合夢
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『……なんで私の屋敷にいるのよ』
『弱者が強者の私に口答えですか』
『口答えじゃなくて単純な疑問!』
久しぶりに口にした八千流の名前。
「…卯ノ花…八千流…」
しのぶは八千流の名前を復唱し、脳内にその名を刻んだ。
「女性…ですか…?」
「そう。身長は差ほど高くなく、華奢な体躯だったにも関わらず振るう刃の流れは速く鋭いもので」
“あらゆる流派、あらゆる刃の流れは我が手にあり”
腹立たしいけど、まさにその言葉通りの強さだった。
「それからは何度も戦って負けて、生かされて。何回頸を刎ねられたかしらねぇ」
「逃げなかったんですか?」
「だって逃げたら人を殺しに行っちゃうんだもの。足止めしないとじゃない?」
「た、確かに…。本当に危険な人だったんですね…」
「まぁ、そのおかげで日に日に私も強くなったっていうのもあるんだけどね」
八千流のおかげで…。
いえ、八千流のせいでここまで強くさせられた。
アレと毎日戦わされたら強くならざるを得ないわよ。
「屋敷にも居座られるし。散々よ」
私より強いあいつには、何を言い返しても“弱い癖に文句だけは一人前ですね”なんて鼻で笑われた。
「……お屋敷にですか」
しのぶがなんか嫌そうな表情を浮かべてる。
「まぁ、別に私たちの間に好いた好かれたとか恋愛感情はなかったけど」
「…“けど?”」
隠すのもあれだから。
私は煙管を咥えて。
「やることはやったわね」
甘い煙を吐き出してニコリと笑った。
「………」
しのぶは眉間に皺を寄せて。
「しのぶ?」
深呼吸を数回して。
「……別に?そんな五百年前の出来事に?嫉妬なんてしませんからね、私は」
しのぶもニコリと笑った。
可愛い笑顔だけど、こめかみには青筋が浮かんでいて。
「あは!本当にしのぶは可愛いわね」
感情を表に出さないようにしてるけど、嫉妬丸出しで可愛すぎる。
「本当、死ぬまで強い奴だったわよ」
おばあちゃんになっても身のこなしとかが軽やかで。
刃の流れの速さは変わることなく、鋭さもそのままで。
「ある日、お茶の淹れろって言うから急須を取りに行って、戻ったらね。居眠りをしているかのように息を引き取っていたわ」
「…そうだったんですね」
あれはびっくりした。
『八千流?ねぇ、寝てるの?お茶は?』
何回揺すっても起きないし。
『…ムカつく。最期まで勝てなかったんだけど』
ただ、本当に穏やかな表情だった。
「勝ち逃げされたことに腹が立ったわよ」
私はクスクスと笑った。
「ですが、白麗さんは八千流さんから人を守ったということなので、実質白麗さんの勝ちですよ」
と、しのぶは私の味方になってくれた。
「そうかしら?」
「そうです。そうに決まってます」
八千流から人を守った、か。
そんなふうに考えたことはなかったなぁ。
「ありがと」
しのぶの頬に手を伸ばし、クスリと笑むと。
「…っ」
しのぶはほんのり頬を赤らめた。
「というのが、あの刀…“皆尽”っていうんだけど、“皆尽”がここにある由来。人の血を吸いすぎて妖刀と化したアホみたいな刀なの」
「…“皆尽”……今の話を聞いて、“皆尽”が白麗さんだけに気を許しているのも頷けますね」
あ、なんか企ててる表情してる。
「しのぶ、間違ってもあの刀には触らないようにね?」
「………わかってます」
「その間の長さ。“アレ”に取り憑かれたら洒落にならないわよ?」
「もし取り憑かれたら、八千流さんのような強さが手に入るというわけですよね?」
ほらー。
危ないことを考えてるー。
「取り憑かれたことがないからわからないけど、私の頸を刎ねには来るわね」
「……それは絶対に嫌です」
「なら、絶対にダメよ」
あの部屋に辿り着かないような術式に変更しないと駄目ね。
「っと、話しすぎたわね」
辺りが暗くなり、世界は夜へと姿を変えた。
「そういえば、何か用事があったんじゃないの?」
しのぶがここに来た理由を問えば。
「あ、あまね様より“一緒にパンを焼きませんか?”とのことです」
「あまねまで…。どうなってるのよ、あなたたちのお館様たちは…」
耀哉の奥さんであるあまねに招待されたわ。
「お館様もあまね様も、白麗さんとお話がしたいのかもしれませんね」
なんて、しのぶはクスクスと笑った。
「人と鬼がこんな親しくなるなんてね」
「偏に白麗さんの人柄の賜物ですよ」
もしも鬼舞辻無惨が、私のように出会った人たちに恵まれていたら。
或いはこんな悪にはならない……わけないわね。
あいつ医者殺したし。
ちょっと同情しそうになっちゃったわ。
「さて、と。私は温泉入り直すけど。しのぶはどうするの?」
「…私も入ります」
立ち上がって背中を伸ばせば、しのぶはまた頬を赤らめて私の寝巻きの袖を握った。
「一緒に入るってことは、期待してるってことでいいのよね?」
「…き、期待…は…別に…してませんが…でも大丈夫です…」
ゴニョゴニョと恥ずかしそうに視線を逸らしながら言葉を濁した。
まったく。
可愛すぎるんだから。
“私の強さは私だけのもの。誰にも伝えない”
八千流はそう言っていた。
最初こそなんて傲慢な奴だろうと思っていたけれど、今思えば自分の危険さを理解していたのかもしれないわね。
子を成さなかったのも、血に濡れた自分の手で抱く資格がないと思ったのかもしれない。
もしかしたら自分の狂気が我が子にまで向いてしまうかもしれない。
八千流自身、自分のことをよく理解して決断したのかもしれないわよね。
そう思うと、少しは人らしいところがあったんだと思った。
「…っ白麗さ…ん…っ」
「ん?」
「し、集中…っしてくださ…っぃあっ」
八千流のことを考えていたことがしのぶにバレて、今の行為に集中するよう言われた。
「ふふっ、やっぱり八千流に嫉妬してる?」
「ぁ…っして…っません…っ!絶対に…っぁっあっ」
「あは!可愛いなぁもう」
八千流に嫉妬してないって頑張るけど、バレバレの嫉妬心が可愛すぎる。
「…あの“皆尽”を手入れするときは教えてください」
「触らないって約束するなら」
「………」
「しのぶ、“皆尽”は本当に危険なの」
「……わかり…ました…」
「…わかってない表情をしてるわね」
“皆尽”を何とか手懐けようと目論んでるに違いないわね、これは。
「白麗さんにとって、卯ノ花八千流さんはどんな存在ですか?」
私にとって八千流はどんな存在か、か。
「そうねぇ」
私は温泉に浸かりながら天井を見上げる。
『白麗、今日もあなたの負けなのですから薪割りをお願いします。それと水汲みや食事の準備も』
『…全部ってことじゃない。食事に関しては人の味付けなんてわからないんだから自分で作ってちょうだい』
『ですから、弱者が強者に意見をしないでくださいな。料理は教えて差し上げます』
『教えてくれるくらいなら作りなさいよ!』
私はふと笑って。
「まぁ、ムカつく同居人って感じかしらね」
そう答えた。
ねぇ、八千流。
あなたのことを私以外の人間が知ったわよ。
語り継がれることのないあなたの話を。
あなたの御伽話を。
今あなたは地獄にいると思うけど、どうせそこでも強さをひけらかして蹂躙してるんでしょうね。
いつか。
いつの日か、私もそこに行くと思うから。
そうしたら。
『天気が良いですね。どこか出掛けましょうか』
『遠回しに死ねって言うの上手いわよね』
ムカつくけど、また話し相手くらいにはなってあげるわよ。
まぁ今は。
「…白麗さん、また八千流さんのことを考えてますね」
「あらバレた。でも思い出させたのはしのぶなんだからね?」
「…やはり好いておられたのでは…?」
この不安そうに見上げて来る子を。
「好きになる要素がなかったわよ。何回頚を刎ね飛ばされたと思ってるの」
「…た、確かに…」
たくさん愛でようと思うわ。
ねぇ八千流。
今日は、あなたと出逢った夜と同じ。
綺麗な満月が出ているわよ。
END
『……なんで私の屋敷にいるのよ』
『弱者が強者の私に口答えですか』
『口答えじゃなくて単純な疑問!』
久しぶりに口にした八千流の名前。
「…卯ノ花…八千流…」
しのぶは八千流の名前を復唱し、脳内にその名を刻んだ。
「女性…ですか…?」
「そう。身長は差ほど高くなく、華奢な体躯だったにも関わらず振るう刃の流れは速く鋭いもので」
“あらゆる流派、あらゆる刃の流れは我が手にあり”
腹立たしいけど、まさにその言葉通りの強さだった。
「それからは何度も戦って負けて、生かされて。何回頸を刎ねられたかしらねぇ」
「逃げなかったんですか?」
「だって逃げたら人を殺しに行っちゃうんだもの。足止めしないとじゃない?」
「た、確かに…。本当に危険な人だったんですね…」
「まぁ、そのおかげで日に日に私も強くなったっていうのもあるんだけどね」
八千流のおかげで…。
いえ、八千流のせいでここまで強くさせられた。
アレと毎日戦わされたら強くならざるを得ないわよ。
「屋敷にも居座られるし。散々よ」
私より強いあいつには、何を言い返しても“弱い癖に文句だけは一人前ですね”なんて鼻で笑われた。
「……お屋敷にですか」
しのぶがなんか嫌そうな表情を浮かべてる。
「まぁ、別に私たちの間に好いた好かれたとか恋愛感情はなかったけど」
「…“けど?”」
隠すのもあれだから。
私は煙管を咥えて。
「やることはやったわね」
甘い煙を吐き出してニコリと笑った。
「………」
しのぶは眉間に皺を寄せて。
「しのぶ?」
深呼吸を数回して。
「……別に?そんな五百年前の出来事に?嫉妬なんてしませんからね、私は」
しのぶもニコリと笑った。
可愛い笑顔だけど、こめかみには青筋が浮かんでいて。
「あは!本当にしのぶは可愛いわね」
感情を表に出さないようにしてるけど、嫉妬丸出しで可愛すぎる。
「本当、死ぬまで強い奴だったわよ」
おばあちゃんになっても身のこなしとかが軽やかで。
刃の流れの速さは変わることなく、鋭さもそのままで。
「ある日、お茶の淹れろって言うから急須を取りに行って、戻ったらね。居眠りをしているかのように息を引き取っていたわ」
「…そうだったんですね」
あれはびっくりした。
『八千流?ねぇ、寝てるの?お茶は?』
何回揺すっても起きないし。
『…ムカつく。最期まで勝てなかったんだけど』
ただ、本当に穏やかな表情だった。
「勝ち逃げされたことに腹が立ったわよ」
私はクスクスと笑った。
「ですが、白麗さんは八千流さんから人を守ったということなので、実質白麗さんの勝ちですよ」
と、しのぶは私の味方になってくれた。
「そうかしら?」
「そうです。そうに決まってます」
八千流から人を守った、か。
そんなふうに考えたことはなかったなぁ。
「ありがと」
しのぶの頬に手を伸ばし、クスリと笑むと。
「…っ」
しのぶはほんのり頬を赤らめた。
「というのが、あの刀…“皆尽”っていうんだけど、“皆尽”がここにある由来。人の血を吸いすぎて妖刀と化したアホみたいな刀なの」
「…“皆尽”……今の話を聞いて、“皆尽”が白麗さんだけに気を許しているのも頷けますね」
あ、なんか企ててる表情してる。
「しのぶ、間違ってもあの刀には触らないようにね?」
「………わかってます」
「その間の長さ。“アレ”に取り憑かれたら洒落にならないわよ?」
「もし取り憑かれたら、八千流さんのような強さが手に入るというわけですよね?」
ほらー。
危ないことを考えてるー。
「取り憑かれたことがないからわからないけど、私の頸を刎ねには来るわね」
「……それは絶対に嫌です」
「なら、絶対にダメよ」
あの部屋に辿り着かないような術式に変更しないと駄目ね。
「っと、話しすぎたわね」
辺りが暗くなり、世界は夜へと姿を変えた。
「そういえば、何か用事があったんじゃないの?」
しのぶがここに来た理由を問えば。
「あ、あまね様より“一緒にパンを焼きませんか?”とのことです」
「あまねまで…。どうなってるのよ、あなたたちのお館様たちは…」
耀哉の奥さんであるあまねに招待されたわ。
「お館様もあまね様も、白麗さんとお話がしたいのかもしれませんね」
なんて、しのぶはクスクスと笑った。
「人と鬼がこんな親しくなるなんてね」
「偏に白麗さんの人柄の賜物ですよ」
もしも鬼舞辻無惨が、私のように出会った人たちに恵まれていたら。
或いはこんな悪にはならない……わけないわね。
あいつ医者殺したし。
ちょっと同情しそうになっちゃったわ。
「さて、と。私は温泉入り直すけど。しのぶはどうするの?」
「…私も入ります」
立ち上がって背中を伸ばせば、しのぶはまた頬を赤らめて私の寝巻きの袖を握った。
「一緒に入るってことは、期待してるってことでいいのよね?」
「…き、期待…は…別に…してませんが…でも大丈夫です…」
ゴニョゴニョと恥ずかしそうに視線を逸らしながら言葉を濁した。
まったく。
可愛すぎるんだから。
“私の強さは私だけのもの。誰にも伝えない”
八千流はそう言っていた。
最初こそなんて傲慢な奴だろうと思っていたけれど、今思えば自分の危険さを理解していたのかもしれないわね。
子を成さなかったのも、血に濡れた自分の手で抱く資格がないと思ったのかもしれない。
もしかしたら自分の狂気が我が子にまで向いてしまうかもしれない。
八千流自身、自分のことをよく理解して決断したのかもしれないわよね。
そう思うと、少しは人らしいところがあったんだと思った。
「…っ白麗さ…ん…っ」
「ん?」
「し、集中…っしてくださ…っぃあっ」
八千流のことを考えていたことがしのぶにバレて、今の行為に集中するよう言われた。
「ふふっ、やっぱり八千流に嫉妬してる?」
「ぁ…っして…っません…っ!絶対に…っぁっあっ」
「あは!可愛いなぁもう」
八千流に嫉妬してないって頑張るけど、バレバレの嫉妬心が可愛すぎる。
「…あの“皆尽”を手入れするときは教えてください」
「触らないって約束するなら」
「………」
「しのぶ、“皆尽”は本当に危険なの」
「……わかり…ました…」
「…わかってない表情をしてるわね」
“皆尽”を何とか手懐けようと目論んでるに違いないわね、これは。
「白麗さんにとって、卯ノ花八千流さんはどんな存在ですか?」
私にとって八千流はどんな存在か、か。
「そうねぇ」
私は温泉に浸かりながら天井を見上げる。
『白麗、今日もあなたの負けなのですから薪割りをお願いします。それと水汲みや食事の準備も』
『…全部ってことじゃない。食事に関しては人の味付けなんてわからないんだから自分で作ってちょうだい』
『ですから、弱者が強者に意見をしないでくださいな。料理は教えて差し上げます』
『教えてくれるくらいなら作りなさいよ!』
私はふと笑って。
「まぁ、ムカつく同居人って感じかしらね」
そう答えた。
ねぇ、八千流。
あなたのことを私以外の人間が知ったわよ。
語り継がれることのないあなたの話を。
あなたの御伽話を。
今あなたは地獄にいると思うけど、どうせそこでも強さをひけらかして蹂躙してるんでしょうね。
いつか。
いつの日か、私もそこに行くと思うから。
そうしたら。
『天気が良いですね。どこか出掛けましょうか』
『遠回しに死ねって言うの上手いわよね』
ムカつくけど、また話し相手くらいにはなってあげるわよ。
まぁ今は。
「…白麗さん、また八千流さんのことを考えてますね」
「あらバレた。でも思い出させたのはしのぶなんだからね?」
「…やはり好いておられたのでは…?」
この不安そうに見上げて来る子を。
「好きになる要素がなかったわよ。何回頚を刎ね飛ばされたと思ってるの」
「…た、確かに…」
たくさん愛でようと思うわ。
ねぇ八千流。
今日は、あなたと出逢った夜と同じ。
綺麗な満月が出ているわよ。
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