古き御伽話 しのぶさん百合夢
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で、寝室へ戻って縁側に腰を掛ける。
縁側の柱に背中を預け、側にある煙管を吹かす。
「ふぅ」
一息吐き、私は隣に座るしのぶに笑いかけると、しのぶはどこか安心したかのように表情を緩めた。
可愛いなぁ。
「それで、どんな人だったんですか?」
話を即す。
早く聞きたいのでしょうね、あの刀の持ち主のことを。
「主観的にしか話せないけど、いいかしら?」
「はい、聞かせてください」
ふぅ、と煙管を吹かして。
「一言で言うなら、“暴君”だったわね」
“アレ”は人の皮を被った鬼。
「…暴君…」
「出会いは突然。私が友人たちとお酒を飲み歩いていた時」
友人、まぁ人なんだけど、その友人たちとお酒を飲み歩いていたある満月の夜。
友人たちは私を人だと認識していて、一緒に楽しく笑いながら飲んでいた。
そんな時。
「前方から、二つの何かを引き摺るような音が聞こえてね。そちらを見れば人で」
一つはカラカラという金属音。
「一つは剥き出しの刀の鋒が、地面と擦れる時に出る音で」
もう一つは、重い荷物を引き摺るような、嫌な音。
目を凝らしてその人間を見ると。
「そいつは片手で血だらけの人間を引き摺っていたわ」
重い荷物ではなく、成人男性の死体を引き摺っていた。
「…っ」
人を引き摺りながら、ゆっくりとこちらへ歩いてきて。
「それが人だと認識した瞬間、まず私の左手が飛んだ」
あれはびっくりしたわよ。
「え?」
しのぶがきょとんと私を見る。
「左手が?」
「そう、左手が」
スパッ、と。
ジェスチャーすると、しのぶの顔が見る見るうちに青褪めた。
「か、躱わせなかったんですか?」
「躱わせなかった。でも初撃が私で助かったわ。友人だったら死んでいたからね」
“あいつ”は恐らく、瞬時に私が強者だと理解したんだと思う。
「逃げようとは…」
「友人たちがいたし、戦うしかなかった。何より逃げ切れないと思ったしね」
“あいつ”を前に、友人たちを抱えて逃げ切れると思えなかった。
だから、私には戦うしか選択肢が残っていなかった。
友人たちが逃げ切るまで。
たとえ友人たちに正体がバレたとしても。
“あいつ”の鋒が友人たちに向かないように。
「強かった。とにかく強くて、私の血鬼術なんてものともせずに斬り裂かれて」
血鬼術を駆使しても、全てを斬り裂かれた。
「……嘘…」
信じられない、というようなしのぶの表情。
「…しかもその人…同じ人間を殺していたなんて…」
「“あいつ”の鋒は、鬼じゃなくて人に向いていたのよ」
「…そんな…」
というより、戦えれば誰でもいいみたいな。
倦んでいたから。
剣に、戦いに。
それ故、剣に悦ばせるに足る敵を求めて。
“あいつ”はあらゆる場所を彷徨ったんだと思う。
だからこそ。
“あいつ”の攻撃を受けども死なず、あまつさえ躱したり攻撃をしたり。
拮抗とまではいかなくても、“あいつ”にとって初めて出会えただろう強者に。
“あいつ”は悦びを感じていた。
「で、陽が昇る直前まで戦っていて、逃げようにも逃げ切れないから背中が焼け始めて」
「…っ」
ギュッと私の寝巻きの袖を握るしのぶ。
可愛いー。
「“ああ、死んだ”って思ったら、日陰に蹴飛ばされてね?」
『弱者が、何を勝手に死のうとしてるんですか』
『…いえ、あなたに殺されそうになってるだけなんだけど…』
「なーんて言われて、生かされたわ」
懐かしいなぁ。
本当なら死んでいたのに。
マシな戦いが出来る相手を失いたくないがために。
“あいつ”の我儘で生かされた。
「……白麗さんを弱者だなんて…」
しのぶは受け入れ難い真実に驚きっぱなし。
「実弥が聞いたら卒倒しそうよね」
私はまたクスクス笑って、煙管を吹かす。
「…その剣士の名前を聞いてもいいですか?もしかしたら何かの文献に…」
「文献になんて載ってないわよ。何せ出会った人間をみんな殺していたんだから」
文献に載せるなんて出来やしない。
「“あらゆる流派、あらゆる刃の流れは我が手にあり”なんて傲慢なことをほざいていてね。でもそれを否定出来るほどの力が私にはなかった」
“あいつ”を知る人物は、みんな殺されている。
だから噂として広がらなかった。
「…その人の名前を教えてください…」
それでもしのぶは“あいつ”の名前を知りたいようで。
私はまた煙管に口を付けて。
「名前は…」
『ねぇ、あなたの名前は?』
『弱者に名乗る名などありませんが、まぁいいでしょう。私の名は』
私は小さく笑って、甘い煙を吐き出すと同時に。
「卯ノ花 八千流」
『卯ノ花八千流』
“あいつ”
八千流の名前を口にした。
.
で、寝室へ戻って縁側に腰を掛ける。
縁側の柱に背中を預け、側にある煙管を吹かす。
「ふぅ」
一息吐き、私は隣に座るしのぶに笑いかけると、しのぶはどこか安心したかのように表情を緩めた。
可愛いなぁ。
「それで、どんな人だったんですか?」
話を即す。
早く聞きたいのでしょうね、あの刀の持ち主のことを。
「主観的にしか話せないけど、いいかしら?」
「はい、聞かせてください」
ふぅ、と煙管を吹かして。
「一言で言うなら、“暴君”だったわね」
“アレ”は人の皮を被った鬼。
「…暴君…」
「出会いは突然。私が友人たちとお酒を飲み歩いていた時」
友人、まぁ人なんだけど、その友人たちとお酒を飲み歩いていたある満月の夜。
友人たちは私を人だと認識していて、一緒に楽しく笑いながら飲んでいた。
そんな時。
「前方から、二つの何かを引き摺るような音が聞こえてね。そちらを見れば人で」
一つはカラカラという金属音。
「一つは剥き出しの刀の鋒が、地面と擦れる時に出る音で」
もう一つは、重い荷物を引き摺るような、嫌な音。
目を凝らしてその人間を見ると。
「そいつは片手で血だらけの人間を引き摺っていたわ」
重い荷物ではなく、成人男性の死体を引き摺っていた。
「…っ」
人を引き摺りながら、ゆっくりとこちらへ歩いてきて。
「それが人だと認識した瞬間、まず私の左手が飛んだ」
あれはびっくりしたわよ。
「え?」
しのぶがきょとんと私を見る。
「左手が?」
「そう、左手が」
スパッ、と。
ジェスチャーすると、しのぶの顔が見る見るうちに青褪めた。
「か、躱わせなかったんですか?」
「躱わせなかった。でも初撃が私で助かったわ。友人だったら死んでいたからね」
“あいつ”は恐らく、瞬時に私が強者だと理解したんだと思う。
「逃げようとは…」
「友人たちがいたし、戦うしかなかった。何より逃げ切れないと思ったしね」
“あいつ”を前に、友人たちを抱えて逃げ切れると思えなかった。
だから、私には戦うしか選択肢が残っていなかった。
友人たちが逃げ切るまで。
たとえ友人たちに正体がバレたとしても。
“あいつ”の鋒が友人たちに向かないように。
「強かった。とにかく強くて、私の血鬼術なんてものともせずに斬り裂かれて」
血鬼術を駆使しても、全てを斬り裂かれた。
「……嘘…」
信じられない、というようなしのぶの表情。
「…しかもその人…同じ人間を殺していたなんて…」
「“あいつ”の鋒は、鬼じゃなくて人に向いていたのよ」
「…そんな…」
というより、戦えれば誰でもいいみたいな。
倦んでいたから。
剣に、戦いに。
それ故、剣に悦ばせるに足る敵を求めて。
“あいつ”はあらゆる場所を彷徨ったんだと思う。
だからこそ。
“あいつ”の攻撃を受けども死なず、あまつさえ躱したり攻撃をしたり。
拮抗とまではいかなくても、“あいつ”にとって初めて出会えただろう強者に。
“あいつ”は悦びを感じていた。
「で、陽が昇る直前まで戦っていて、逃げようにも逃げ切れないから背中が焼け始めて」
「…っ」
ギュッと私の寝巻きの袖を握るしのぶ。
可愛いー。
「“ああ、死んだ”って思ったら、日陰に蹴飛ばされてね?」
『弱者が、何を勝手に死のうとしてるんですか』
『…いえ、あなたに殺されそうになってるだけなんだけど…』
「なーんて言われて、生かされたわ」
懐かしいなぁ。
本当なら死んでいたのに。
マシな戦いが出来る相手を失いたくないがために。
“あいつ”の我儘で生かされた。
「……白麗さんを弱者だなんて…」
しのぶは受け入れ難い真実に驚きっぱなし。
「実弥が聞いたら卒倒しそうよね」
私はまたクスクス笑って、煙管を吹かす。
「…その剣士の名前を聞いてもいいですか?もしかしたら何かの文献に…」
「文献になんて載ってないわよ。何せ出会った人間をみんな殺していたんだから」
文献に載せるなんて出来やしない。
「“あらゆる流派、あらゆる刃の流れは我が手にあり”なんて傲慢なことをほざいていてね。でもそれを否定出来るほどの力が私にはなかった」
“あいつ”を知る人物は、みんな殺されている。
だから噂として広がらなかった。
「…その人の名前を教えてください…」
それでもしのぶは“あいつ”の名前を知りたいようで。
私はまた煙管に口を付けて。
「名前は…」
『ねぇ、あなたの名前は?』
『弱者に名乗る名などありませんが、まぁいいでしょう。私の名は』
私は小さく笑って、甘い煙を吐き出すと同時に。
「卯ノ花 八千流」
『卯ノ花八千流』
“あいつ”
八千流の名前を口にした。
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