始まり しのぶさん百合夢
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「…こ…ろした…?」
耳を疑った。
「そう、殺した」
だって、だって。
人の命を命として尊重し、守ってくれる白麗さんが。
たった一人の母親を殺しただなんて。
白麗さんを見れば、悲しそうな笑みを浮かべていた。
「しのぶは、私が“人の命を尊重する鬼”という認識でいるでしょ?」
「…もちろんです。白麗さんが言った“人を食ったことがない”も信じてます…」
そう、信じてる。
信じてるんです、白麗さん。
だから、間違いですよね?
あなたが人を殺しただなんて。
「私だって鬼にされた直後は自我なんてなかったのよ?」
「…え?」
千年前、鬼舞辻無惨を鬼にした医者。
「千年前、流行病にかかってしまった私はただ死を待つだけだった」
語られるのは、白麗さんが人だった頃。
千年前に白麗さん自身に起きた悲劇。
「今の医学なら治せるかもしれないけど、千年前は死亡率非常に高くてね。母が何人も医者を連れてきてくれたけど、誰も治せなかった」
次第に医者は白麗さんたちを恐れ、移らないように家に近づかなくなった。
それでも白麗さんのお母さんは医者を探しては頭を下げて。
“娘を助けてください”と助けを求め続けた。
「そんな中、一人の医者が現れたわ」
「……まさか」
白麗さんはクスクスと笑って頷いて。
「あんにゃろ、本当ムカつくわよね」
なんて口にした。
白麗さんたちの前に現れた医者。
それは、白麗さんと鬼舞辻無惨を鬼にした医者…。
「何か変な薬を飲まされてからの記憶がなくて」
「…変な薬…」
白麗さんは私を見て。
「気が付いたら母の肩に噛み付いていたわ」
「……」
苦笑を零した。
自我を失ったんだ。
その薬で、鬼へと変異してしまって。
自我を失い、お母さんを襲った。
「自我を失っている時に聞こえていたのは母の言葉」
「…お母さんの言葉…?」
白麗さんは頷き、口にした言葉は。
“良い子、良い子、あんたは良い子。大丈夫だから戻っておいで、戻っておいで私の可愛いあんた”
お母さんが白麗さんの自我が戻るまで言いづけた言葉だった。
「自我を取り戻した時、母は血だらけだし家の中まで血だらけ傷だらけ。私が人を襲わないように、暴れる私を母が抑え続けてくれたみたいでね」
涙が零れた。
白麗さんは、お母さんの大きな愛で守られた。
「母を殺してしまったことによる凄まじいまでの罪悪感と狂おしい程の悲しみに苛まれて、何度も死のうと思った」
それでも死にきれなかったのは、鬼になったことによる再生の力のせい。
…いえ、違う。
「…楔になってくれたんですね」
その命を賭して、白麗さんの自我を取り戻させてくれたお母さんが楔になった。
だって死んでしまったら、お母さんが命を賭けた意味がなくなってしまうから。
「そうよ。刀で胸を刺そうとしても、母の存在がそれを躊躇わせた」
「…太陽光で焼けることに気付いたのは…?」
「母を殺して泣き叫んでたら住民が来てね。変わった私の見た目と、血だらけで横たわってる母を見て私がやったんだと気付かれて」
追い立てられ、逃げている時に陽が上り身体が焼けた、と。
白麗さんは言って。
「…よく焼け消えませんでしたね」
「本当よね。今思えば、母が助けてくれたのかもしれないわね」
クスクスと笑って、白麗さんは私をへと視線を向けて。
「嫌いになった?」
問いかけてきた。
「え?」
私はきょとんと白麗さんを見つめ返す。
嫌いに?
「自我がなかったとはいえ、私は実の母親を殺したわ」
だから白麗さんを嫌いに?
まったく。
何を言っているのか、この人は。
「母親を死なせてしまった絶望を知るあなたを、嫌いになんてなるはずないじゃないですか」
嫌いになんてなるはずない。
むしろ私は嬉しい。
あなたのことを少しでも知れたのだから。
あなたが背負う罪を知り、苦しみと悲しみを知れたのだから。
「…ありがと」
白麗さんは少しだけホッとしたような表情を浮かべた。
「さて、と。もう少し夜明けですから、山の麓街で休みましょう」
「そうね。夜になったら帰りましょうか」
私たちは桜の木に背中を向けて。
少しだけ振り返って。
「…また来るわね、お母さん」
白麗さんは小さくそう呟き、歩き出した。
だから私も。
「…白麗さんのことは私に任せてくださいね」
白麗さんのお母さんへそう呟いて、白麗さんを追った。
すると。
「「…!!」」
気持ちの良い風が私たちの間を抜けて、枝垂れ桜がザワザワと風に揺れた。
それはまるで、白麗さんのお母さんが“白麗をお願いね”と言っているかのような。
とても暖かな風だった。
「届きましたかね?」
「届いたわね、きっと」
なんて、白麗さんと笑った。
千年前。
白麗さんの身に降りかかった悲劇を知った。
生か死かの瀬戸際に、助けを求めて応じてくれたのが白麗さんと無惨を鬼にした医者。
医者にとっては都合の良い実験体だったのだろう。
その医者が居なければ、この世に鬼なんて現れなかったのに。
「あ、鬼になった一年後くらいに無惨にも会ったわよ」
「え゙?そ、それでどうしたんですか?」
「そりゃ殴り合いの喧嘩よ。だってあいつ医者を殺したってほざいたんだもの」
「…人間に戻れないことが確定しちゃったからですね…」
「最初の百年くらいは眷属を作っては私に差し向けてね。本当に嫌な奴。今思えばあの時殺しておくべきだったわ」
「…す、すごい…」
考えてしまう。
白麗さんや無惨を鬼に変えた医者がいなければ、鬼はこの世にはいなかった。
それはつまり、白麗さんだって千年前の流行病で死んでいて。
今ここには居ない。
その医者が居たから鬼は生まれ、白麗さんがここに居る。
考えてしまう。
鬼なんて居なければいいのにって思うのに。
白麗さんと出逢うには必要な存在だということを。
そんな複雑な気持ちのまま、私たちは足早に弥勒山を後にした。
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「…こ…ろした…?」
耳を疑った。
「そう、殺した」
だって、だって。
人の命を命として尊重し、守ってくれる白麗さんが。
たった一人の母親を殺しただなんて。
白麗さんを見れば、悲しそうな笑みを浮かべていた。
「しのぶは、私が“人の命を尊重する鬼”という認識でいるでしょ?」
「…もちろんです。白麗さんが言った“人を食ったことがない”も信じてます…」
そう、信じてる。
信じてるんです、白麗さん。
だから、間違いですよね?
あなたが人を殺しただなんて。
「私だって鬼にされた直後は自我なんてなかったのよ?」
「…え?」
千年前、鬼舞辻無惨を鬼にした医者。
「千年前、流行病にかかってしまった私はただ死を待つだけだった」
語られるのは、白麗さんが人だった頃。
千年前に白麗さん自身に起きた悲劇。
「今の医学なら治せるかもしれないけど、千年前は死亡率非常に高くてね。母が何人も医者を連れてきてくれたけど、誰も治せなかった」
次第に医者は白麗さんたちを恐れ、移らないように家に近づかなくなった。
それでも白麗さんのお母さんは医者を探しては頭を下げて。
“娘を助けてください”と助けを求め続けた。
「そんな中、一人の医者が現れたわ」
「……まさか」
白麗さんはクスクスと笑って頷いて。
「あんにゃろ、本当ムカつくわよね」
なんて口にした。
白麗さんたちの前に現れた医者。
それは、白麗さんと鬼舞辻無惨を鬼にした医者…。
「何か変な薬を飲まされてからの記憶がなくて」
「…変な薬…」
白麗さんは私を見て。
「気が付いたら母の肩に噛み付いていたわ」
「……」
苦笑を零した。
自我を失ったんだ。
その薬で、鬼へと変異してしまって。
自我を失い、お母さんを襲った。
「自我を失っている時に聞こえていたのは母の言葉」
「…お母さんの言葉…?」
白麗さんは頷き、口にした言葉は。
“良い子、良い子、あんたは良い子。大丈夫だから戻っておいで、戻っておいで私の可愛いあんた”
お母さんが白麗さんの自我が戻るまで言いづけた言葉だった。
「自我を取り戻した時、母は血だらけだし家の中まで血だらけ傷だらけ。私が人を襲わないように、暴れる私を母が抑え続けてくれたみたいでね」
涙が零れた。
白麗さんは、お母さんの大きな愛で守られた。
「母を殺してしまったことによる凄まじいまでの罪悪感と狂おしい程の悲しみに苛まれて、何度も死のうと思った」
それでも死にきれなかったのは、鬼になったことによる再生の力のせい。
…いえ、違う。
「…楔になってくれたんですね」
その命を賭して、白麗さんの自我を取り戻させてくれたお母さんが楔になった。
だって死んでしまったら、お母さんが命を賭けた意味がなくなってしまうから。
「そうよ。刀で胸を刺そうとしても、母の存在がそれを躊躇わせた」
「…太陽光で焼けることに気付いたのは…?」
「母を殺して泣き叫んでたら住民が来てね。変わった私の見た目と、血だらけで横たわってる母を見て私がやったんだと気付かれて」
追い立てられ、逃げている時に陽が上り身体が焼けた、と。
白麗さんは言って。
「…よく焼け消えませんでしたね」
「本当よね。今思えば、母が助けてくれたのかもしれないわね」
クスクスと笑って、白麗さんは私をへと視線を向けて。
「嫌いになった?」
問いかけてきた。
「え?」
私はきょとんと白麗さんを見つめ返す。
嫌いに?
「自我がなかったとはいえ、私は実の母親を殺したわ」
だから白麗さんを嫌いに?
まったく。
何を言っているのか、この人は。
「母親を死なせてしまった絶望を知るあなたを、嫌いになんてなるはずないじゃないですか」
嫌いになんてなるはずない。
むしろ私は嬉しい。
あなたのことを少しでも知れたのだから。
あなたが背負う罪を知り、苦しみと悲しみを知れたのだから。
「…ありがと」
白麗さんは少しだけホッとしたような表情を浮かべた。
「さて、と。もう少し夜明けですから、山の麓街で休みましょう」
「そうね。夜になったら帰りましょうか」
私たちは桜の木に背中を向けて。
少しだけ振り返って。
「…また来るわね、お母さん」
白麗さんは小さくそう呟き、歩き出した。
だから私も。
「…白麗さんのことは私に任せてくださいね」
白麗さんのお母さんへそう呟いて、白麗さんを追った。
すると。
「「…!!」」
気持ちの良い風が私たちの間を抜けて、枝垂れ桜がザワザワと風に揺れた。
それはまるで、白麗さんのお母さんが“白麗をお願いね”と言っているかのような。
とても暖かな風だった。
「届きましたかね?」
「届いたわね、きっと」
なんて、白麗さんと笑った。
千年前。
白麗さんの身に降りかかった悲劇を知った。
生か死かの瀬戸際に、助けを求めて応じてくれたのが白麗さんと無惨を鬼にした医者。
医者にとっては都合の良い実験体だったのだろう。
その医者が居なければ、この世に鬼なんて現れなかったのに。
「あ、鬼になった一年後くらいに無惨にも会ったわよ」
「え゙?そ、それでどうしたんですか?」
「そりゃ殴り合いの喧嘩よ。だってあいつ医者を殺したってほざいたんだもの」
「…人間に戻れないことが確定しちゃったからですね…」
「最初の百年くらいは眷属を作っては私に差し向けてね。本当に嫌な奴。今思えばあの時殺しておくべきだったわ」
「…す、すごい…」
考えてしまう。
白麗さんや無惨を鬼に変えた医者がいなければ、鬼はこの世にはいなかった。
それはつまり、白麗さんだって千年前の流行病で死んでいて。
今ここには居ない。
その医者が居たから鬼は生まれ、白麗さんがここに居る。
考えてしまう。
鬼なんて居なければいいのにって思うのに。
白麗さんと出逢うには必要な存在だということを。
そんな複雑な気持ちのまま、私たちは足早に弥勒山を後にした。
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