始まり しのぶさん百合夢
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「見えてきたわね。あの山よ」
「桜の木…あの山…もしかして弥勒山ですか?」
「あら、よく知ってるわね?」
お屋敷を出て、しばらく歩いた。
白麗さんは遠くに見えてきた山を指した。
その山は山頂に季節外れの桜が咲いていた。
「…父がよく御伽話で話してくれたんです」
「御伽話?」
足を止め、白麗さんは私を見て首を傾げた。
「はい…“始まりの鬼”の、“始まりの地”だと…」
父が愛読していた文献は、“赤眼の鬼の伝承”
当時の私は幼さもあってか、鬼の存在を信じていなかったから。
「私って御伽話になってるの?」
「知らなかったんですか?」
「だって自分が御伽話になってるなんて思わないでしょー?」
まぁ確かに。
人間なら偉大な功績を残せば、死後に或いは歴史に残るかもしれない。
でも“この人”は、生きながらに文献や伝承として語り継がれているから。
御伽話の存在がすぐ隣に居るって、なんだか不思議な感覚というか。
「なぁに?」
「…いえ、白麗さんて実は凄いんだなぁと改めて思いまして…」
「その御伽話がどういう話なのかわからないけど、別に凄くはないわよ」
功績を残したわけでもないし、と。
白麗さんは言う。
「…豊臣秀吉が残したとされる一通の手紙に、“白麗”と記載されたものがあるとかないとか…」
「豊臣秀吉?ああ、藤吉郎ね。天下統一を手伝ってほしいみたいな手紙が来たことあるわね」
「……なんて返事をしたんですか…?」
歴史上の偉人と接点があるなんて…。
「面倒臭いし、自分の力で成し遂げることに意味があるんじゃない?的なことを言ったわ」
「…そしたらなんて…?」
「自分の力で天下統一をしたら祝言を挙げてほしいって」
「……」
私は今とんでもないことを聞いているのではないでしょうか。
そんなこと、歴史上に残ってない。
でも白麗さんは生き証人だし、事実なのだろう。
「あのお猿さんには奥さんや側室もいたし、丁重にお断りしました」
「…歴史に残ってませんよ、そんなこと…」
「そりゃ鬼に求愛したんだもの、残さないでしょ。証拠隠滅のし忘れで、私の名前が記載されたものもあるかもしれないけど」
クスクスと白麗さんはまた笑った。
「ま、それは五百年くらい前の話だけどね」
「…だから御伽話になるんですよ…もう…」
もっと話を聞けば、もっと歴史的な新事実を知ることが出来そう。
「ですが、桜の季節ではないのに桜が咲いてるなんて不思議ですね」
再び歩き出して、話を桜の木に戻す。
「聞いたことない?桜の木の下には死体が埋まってるって」
「え゙…?」
聞いたことはあるけど…。
白麗さんはクスリと笑って。
「千年前、あの桜の木の下に母を埋めたの」
そう口にした。
「あの…桜の木の下に…」
「母の遺言だったというのもあるけどね」
その遺言通り、白麗さんはお母さんを埋葬した。
「白麗さ「っと、ちょっと急がないと陽が昇っちゃうわね」
太陽が出てしまうと、白麗さんが焼け死んでしまう。
「急ぎましょう」
「えぇ」
弥勒山にはきっと、日光を遮る場所があると思うから。
私たちは地を蹴り、弥勒山へと急いだ。
「…わぁ…」
夜明け前、弥勒山の桜の木まで辿り着いた私たち。
近くで見ると大きくて立派で。
とても美しい枝垂れ桜だった。
「…季節外れなのにこんなに咲き乱れているなんて…」
季節外れの桜に驚く私に、白麗さんは桜を見上げながら。
「昔はもっと小さい桜だったけど、千年もの間にとんでもなく大きくなって笑っちゃった」
小さく笑って。
「母の遺言は、自分の死後に私が迷わないように道標になるからって」
「…迷わないように…」
白麗さんのお母さんは生前、もしも自分が死んだ時。
“あの桜の木の根元に埋葬しておくれ。そうしたら、あんたが迷わないようにずっと咲いているから”
そう言っていたらしい。
迷わないようにというのは、道に迷ったらという意味ではなく。
“間違いを起こさないように見ている”
そういう意味なのだろう。
「白麗さんのお母さんは、優しい人だったんですね」
「…そう、ね」
白麗さんは桜の木を見上げたまま。
「優しい人だった…」
「…白麗さん…?」
私の呼びかけにも答えずに。
悲しそうに。
「…千年という…気が狂いそうになる程永い永い時の中で…」
目を細めて。
「…私が…唯一殺した人間…」
そう口にした。
.
「見えてきたわね。あの山よ」
「桜の木…あの山…もしかして弥勒山ですか?」
「あら、よく知ってるわね?」
お屋敷を出て、しばらく歩いた。
白麗さんは遠くに見えてきた山を指した。
その山は山頂に季節外れの桜が咲いていた。
「…父がよく御伽話で話してくれたんです」
「御伽話?」
足を止め、白麗さんは私を見て首を傾げた。
「はい…“始まりの鬼”の、“始まりの地”だと…」
父が愛読していた文献は、“赤眼の鬼の伝承”
当時の私は幼さもあってか、鬼の存在を信じていなかったから。
「私って御伽話になってるの?」
「知らなかったんですか?」
「だって自分が御伽話になってるなんて思わないでしょー?」
まぁ確かに。
人間なら偉大な功績を残せば、死後に或いは歴史に残るかもしれない。
でも“この人”は、生きながらに文献や伝承として語り継がれているから。
御伽話の存在がすぐ隣に居るって、なんだか不思議な感覚というか。
「なぁに?」
「…いえ、白麗さんて実は凄いんだなぁと改めて思いまして…」
「その御伽話がどういう話なのかわからないけど、別に凄くはないわよ」
功績を残したわけでもないし、と。
白麗さんは言う。
「…豊臣秀吉が残したとされる一通の手紙に、“白麗”と記載されたものがあるとかないとか…」
「豊臣秀吉?ああ、藤吉郎ね。天下統一を手伝ってほしいみたいな手紙が来たことあるわね」
「……なんて返事をしたんですか…?」
歴史上の偉人と接点があるなんて…。
「面倒臭いし、自分の力で成し遂げることに意味があるんじゃない?的なことを言ったわ」
「…そしたらなんて…?」
「自分の力で天下統一をしたら祝言を挙げてほしいって」
「……」
私は今とんでもないことを聞いているのではないでしょうか。
そんなこと、歴史上に残ってない。
でも白麗さんは生き証人だし、事実なのだろう。
「あのお猿さんには奥さんや側室もいたし、丁重にお断りしました」
「…歴史に残ってませんよ、そんなこと…」
「そりゃ鬼に求愛したんだもの、残さないでしょ。証拠隠滅のし忘れで、私の名前が記載されたものもあるかもしれないけど」
クスクスと白麗さんはまた笑った。
「ま、それは五百年くらい前の話だけどね」
「…だから御伽話になるんですよ…もう…」
もっと話を聞けば、もっと歴史的な新事実を知ることが出来そう。
「ですが、桜の季節ではないのに桜が咲いてるなんて不思議ですね」
再び歩き出して、話を桜の木に戻す。
「聞いたことない?桜の木の下には死体が埋まってるって」
「え゙…?」
聞いたことはあるけど…。
白麗さんはクスリと笑って。
「千年前、あの桜の木の下に母を埋めたの」
そう口にした。
「あの…桜の木の下に…」
「母の遺言だったというのもあるけどね」
その遺言通り、白麗さんはお母さんを埋葬した。
「白麗さ「っと、ちょっと急がないと陽が昇っちゃうわね」
太陽が出てしまうと、白麗さんが焼け死んでしまう。
「急ぎましょう」
「えぇ」
弥勒山にはきっと、日光を遮る場所があると思うから。
私たちは地を蹴り、弥勒山へと急いだ。
「…わぁ…」
夜明け前、弥勒山の桜の木まで辿り着いた私たち。
近くで見ると大きくて立派で。
とても美しい枝垂れ桜だった。
「…季節外れなのにこんなに咲き乱れているなんて…」
季節外れの桜に驚く私に、白麗さんは桜を見上げながら。
「昔はもっと小さい桜だったけど、千年もの間にとんでもなく大きくなって笑っちゃった」
小さく笑って。
「母の遺言は、自分の死後に私が迷わないように道標になるからって」
「…迷わないように…」
白麗さんのお母さんは生前、もしも自分が死んだ時。
“あの桜の木の根元に埋葬しておくれ。そうしたら、あんたが迷わないようにずっと咲いているから”
そう言っていたらしい。
迷わないようにというのは、道に迷ったらという意味ではなく。
“間違いを起こさないように見ている”
そういう意味なのだろう。
「白麗さんのお母さんは、優しい人だったんですね」
「…そう、ね」
白麗さんは桜の木を見上げたまま。
「優しい人だった…」
「…白麗さん…?」
私の呼びかけにも答えずに。
悲しそうに。
「…千年という…気が狂いそうになる程永い永い時の中で…」
目を細めて。
「…私が…唯一殺した人間…」
そう口にした。
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