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｢な、なによ…アンタ…｣

｢お前｣

“あの人”はジーッと私を見つめて。

｢遅刻だよ。１時間も待ったぞ…｣

｢え？｣

わけのわからないことを口にした。

｢え？って。忘れたのか？今日俺んちで映画観るって約束してただろ？｣

な、なにを言っているの？

｢てめ…。その顔は本当に忘れてやがるな…｣

ジト目で見られてもわからないわよ…。

｢なに言ってるかわから……｣

ない。

とは続けず。

なぜなら。

チラリと一瞬だけ。

“あの人”は私の背後へと視線を移した。



“合わせろ”



金色の綺麗な瞳で、私にそう語りかけているようで。

｢な…に言ってるのよ。約束したのは１４日。明日でしょうが。｣

気付いている。

私がＦＢＩに追われていることに。

ＦＢＩに追われている私を、なぜ助けようとしているのかはわからないけれど。

今、この場から逃げるためには“あの人”に合わせてやり過ごすしかない。

｢ああん？今日が１４日だろ？｣

｢１３日よ馬鹿｣

チラリと後ろを見れば、ＦＢＩが首を傾げている。

今の変装をしてる私に目を付けていたんだけど、“あの人”が私に話しかけてきたものだから、人違いだと思い始めた。

と、いった感じね。

｢マジかよ…。まぁいいや。ＤＶＤは手に入ってるから今日観るぞ。もう夕飯の材料買っちゃったし。早く行こうぜ｣

｢え、えぇ｣

手を掴まれたまま、“あの人”は歩き出した。

ＦＢＩも途中までついて来ていたけれど。

｢そういやさ。昨日カインズに会って｣

“あの人”があまりにも親しく私に話しをかけるものだから、人違いだと判断し、いなくなった。

｢…よし｣

小さく聞こえた声に見上げると。






｢ＦＢＩも騙せる俺の演技力、すげぇだろ？｣







“あの人”はニッと悪戯に笑った。

｢…なぜ助けたの？｣

静かに問い掛ける。

｢人を助けることに、論理的な思考なんて存在しない。早い話、何となくだ｣

“論理的な思考は存在しない”

後に、ＮＹで同じ台詞を聞くことになるなんて、夢にも思わなかったわ。

｢…｣

私は掴まれている手首を見つめる。

振り解こうと思えば、振り解けないこともない。

でも…。

｢怪我もしてるみたいだしな｣

｢……｣

なぜだか。

｢…後悔するわよ？私を助けたことを｣

｢どうだかな。｣

振り解く、という選択肢はなかった。



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