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｢…な………にを………｣


一瞬、ボウヤが何を言っているのか理解出来なかった。

あの人が…。

生きている……？

だってあの時、あの人の頭を撃ち抜いた時。

額に銃口を押し当てている状態で。

｢…撃ったと同時に、血液だって夥しいほど飛び散ったのよ…？｣

真っ白なソファーが、一瞬で真紅に染まったのは今でも忘れていない。

｢んなの、引き金を注意して見ていればどうとでもなるじゃねぇか｣

｢…視線は真っ直ぐ私に向けられていたわ｣

｢だったら、オメー以上に銃の仕組みをわかってるってだけだ｣

ダメ。

動揺して…。

聞かなくてもわかるだろう疑問を聞いてしまう。

｢…あの炎の中…どうやって…｣

まさか地下があったの？

｢焼け焦げた家から見つかった骨…鑑定の結果、“あの人”のもので間違いなかった…｣

｢変装のスペシャリストなら、鑑定医に変装して情報を操作したのかもしれない｣

私の疑問に、ボウヤは全て答えてくれる。








生きていると提示しているかのように。









｢あくまで、“かもしれない”ということだけどな｣










不確定なことでも。

｢……でも…｣

あの人が、生きているかもしれない。

｢…どうして…死を装う必要が…｣

溢れてくる涙。

どうしてあの人は、私を騙す必要があったの？

｢…私に…愛想を尽かせたということ…？｣

私から離れたいから。

私が嫌になったから、死を装って私の前から消えたの？

｢その逆だよ…ベルモット…｣

｢…え？｣

私の問いかけに、ボウヤは目を閉じて。













｢オメーとアイリが愛おしいからこそ、旦那はオメーらの前から消えたんだ。

アイリの存在が組織にバレてしまうという恐怖から解放させるために。

毎日を怯えて過ごすオメーを救うために｣














そう言った。

｢…それ…って…｣

私は目を見開き、ボウヤを見つめる。

｢あぁ…。これも仮定でしかねぇが、組織にアイリの存在をバラしたのは…｣





アイリの存在を組織にバラしたのは……。





あの人本人…？






｢オメーが家に戻ってきたってことは、オメーの手で旦那を殺すことがアイリを助ける条件だった。それを旦那は知ってたんだよ｣







ボウヤは火事の記事を折り畳み、私を見つめた。

｢…私が戻るとは限らないでしょ？それに、アイリも“あの人”も殺せと命じられたかもしれないでしょ？｣


｢そうなれば、アイリとオメーを連れて逃げようと思ってたんじゃねぇか？オメーが自宅に戻らなければ、組織に乗り込んでまでオメーを救うだろうしな｣

オレならそうする、と。

ボウヤは言う。

｢……じゃあ…あの人は…｣

本当に生きて…？

｢さっきも言ったが、あくまで可能性に過ぎない。立証するには証拠が無さすぎるから｣

でも、ボウヤの話で少しでも“生きている可能性”を見出せた。




あの時失ったものを、取り戻せるかもしれない。








｢…｣

ボウヤは顎に手を添え、何かを考えているようで。

｢…ベルモット｣

私を呼んだ。

｢なに？｣

私は涙を拭い、未だ震える手でタバコを取り出す。

｢オメーの旦那の捜索、手伝ってやってもいいぞ｣

｢え？｣

確かにボウヤの頭脳があれば、より早く真実を掴める。

けれど。

｢……何が条件なの？｣

ボウヤの眼差しは、タダでは動かないと言ったような眼差しで。






｢オレがオメーの旦那の捜索に手を貸すための条件はただ一つ。｣







ボウヤは深呼吸をして、再び私を真っ直ぐ見つめて。











｢ベルモットお前、組織を抜けろ｣











とんでもない条件を放った…──。


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