名探偵コナン 旧拍手文置き場
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「…ホワイトデーか」
今日は3月14日、ホワイトデー。
ベルモットにバレンタインデーのお返しをしないといけない。
いや別に。
しないといけないわけではない。
でもまぁ…もらったからね。
ベルモットは人気ハリウッド女優だから買えないものはないでしょうし、正直何を買えばいいのかすらわからない。
悩みに悩んで、結局は決まらずに当日を迎えてしまった。
「…オーダーメイドのアクセサリーかなぁ」
それだって買えなくはないし…。
はぁ…なんか面倒臭くなってきた。
「お待たせ、アイリ」
ため息を吐いたところに、実の姉であるクレアが来た。
今日はクレアに呼び出されたの。
「クレア、久しぶりー」
クレアは向かいの席に座り、ニコリと笑む。
で。
「ん」
「ん?」
私に手を差し出す。
「クリス・ヴィンヤードのサインは?」
「…あー…」
ベルモットのサインを寄越せ、の手ね。
私はクレアから目を逸らして。
「…ほら、あいつも私も忙しいから」
そう言うと。
「また?これで何回目?」
「ぅ…」
クレアはため息を零した。
「私の存在は話したのでしょ?」
「…まぁ、ね」
「だったら姉がファンだからサインちょうだいでいいじゃない」
…まぁ貰うのは簡単なのよ。
ベルモット自身もクレアに会いたがってるし。
私の姉だから、挨拶がしたいみたい。
「…そうだけど」
私はクレアから視線を外すと、クレアはテーブルに頬杖を付いて。
「“心移りしたらどうしよう”とか思ってるんだ?」
ニヤニヤ笑ってきた。
「……そんなことありませんがぁ」
私に依存してるベルモットが心移りなんて。
そんなまさか。
まさか、ね…。
「…そんなことより、今日はどうしたの?」
私は咳払いをし、今日呼び出されたことについて問いかけた。
「話しを逸らしたわね」
「うるっさい。早く要件を言って」
クレアには口で敵わないのよね…。
クレアはクスクス笑いながら、鞄からファイルを取り出して。
「この人を探してもらえる?」
写真を見せてきた。
「何したの?」
その写真を見ながら聞くと。
「うちの会社に勤めていた63歳のパートさんから、3千万円騙し取って逃走してるの」
クレアが経営している会社のパートさんが詐欺られたようで。
「すごく良く働いて、うちの社員の体調も気にしてくれていた人でね。社員からも好かれていたし、私自身もよく愚痴を聞いてもらったりで助けられていたのよ」
「……ふーん」
“勤めていた”
“社員の体調も気にしてくれていた”
“助けられていた”
全部“過去形”だ。
「助けてあげなかったの?」
写真を伏せ、テーブルに頬杖を付く。
「知ったのは自殺した後。彼女はお給料でホームレス仲間にご飯をご馳走しながら、“社長に恩返しをするために貯金してる”って話してたみたいでね」
「社長に、ね」
クレアは10年くらい前にホームレスを雇ったって言っていたことがあった。
なぜなら、そのホームレスの人はクレアが落とした小さなポーチを拾い交番に届けてくれたから。
そのポーチにはお財布やらカードケースやら貴重品がたくさん入っていて。
警察から連絡があり、慌てて取りに行ってポーチを見たら開けられた形跡もなく、拾ってそのまますぐに交番に届けてくれたようで。
『泣きそうになったぁ…』
『私なら1万円くらい抜くけどね』
『そんなくだらないことで逮捕されたら姉妹の縁を切ります!』
って安堵した声色で電話が来てたのを思い出した。
その時もそのホームレスを探して欲しいと言われ、見つけ出してお礼に家と働く場所を提供した。
ずっと頑張って働いてくれてたのね。
「いつまでに?」
「期間は問わないけど、出来るだけ早く」
私はファイルを鞄に入れて。
「了解。今度ご飯奢ってね」
「あなた今までお金出したことないでしょ?」
「…あーあ、その時はクリスも誘おうと思ったのに、そんな可愛くないこと言うんだ?」
「絶対に今思いついたわよね。いいわ、こちらからクリスにアプローチかけるから」
「ちょ!ダメに決まってるでしょ!!」
クレアはクスリと笑い、私の口に人差し指を当てて。
「ふふっ、バレンタインデーのお返しは“ソレ”でいいんじゃない?」
そう言った。
「な「じゃあよろしくね。」
そうして、クレアは伝票を持って去って行った。
「………お返しは“ソレ”…か…」
私はテーブルに突っ伏す。
“ソレ”とはまさに、今の私の心情。
クレアがクリスに会いたいという気持ちにヤキモチと独占欲を抱いている感情。
それはつまり…。
「…というか」
なんで私がバレンタインのお返しに悩んでること知ってるのよ。
「まったく…本当に敵わないなぁもう…」
優秀な姉を持つと全てを見透かされる…。
「ねぇ、どこへ行っていたの?」
「……なぁに、ハリウッド女優は嘘で本当はニートなの?」
いつものようにアイリの自宅へ行けば、家主不在だった。
出掛ける際は必ず連絡してといつも言っているのに、くれたことがない。
毎回私から連絡をして。
「そんなわけないでしょ。どこに行っていたのよ」
「どこだっていいじゃない」
毎回鬱陶しがられる。
独占欲と束縛の強さが鬱陶しいのだろうけれど。
どこへ行くのかを連絡くれれば追求しないのに。
面倒臭がられるけど面倒臭いのはあなたのほうよって言ってやりたいわ。
「よかったら聞かないわよ」
アイリがソファーに座ったから、その隣に座る。
「まさかまた眼鏡の坊や?」
「またって言うほどあの坊ちゃんとは会ってないわよ」
あの坊ちゃん“とは”?
「じゃあ誰と頻繁に会ってるの?」
その言い方は、頻繁に会ってる人物がいるってことじゃない。
「……はぁもう。クレアと会って来たの」
観念したかのように吐き出した名前は、アイリの実の姉の名前。
「え?」
きょとん、とアイリを見る。
「クレアから仕事の依頼があって、その内容を聞きに行ってただけよ」
表情からして嘘ではなさそう。
「そう。クレアと」
「……なに?嫉妬しないの?」
今度はアイリがきょとんと私を見る。
私は立ち上がり、腰に手を当てて。
「バカね。あなたの実の姉に嫉妬なんてするわけないでしょ」
クスリと笑うと、アイリはムッと頬を膨らませた。
「あら、嫉妬してほしかったの?」
「そんなことありません」
唯一の肉親であるクレアとなら頻繁に会っても文句はない。
逆に会わせてほしいくらい。
「ま、クレアと会っていたことがわかったからそれはもういいわ」
「なに?ほかに何かあるの?」
「ん」
「ん?」
アイリに手を差し出す。
「今日、ホワイトデーだけど。お返しは?」
「………いや、まぁ…」
まぁ、用意は出来ないわよね。
だって、私に買えないものは何もないと思っているでしょうから。
ブランドのアクセサリーにしたって私は簡単に買えてしまうし、ジュエリーだってそう。
「…一応、悩んではいるのよ?」
渡そうという気持ちはあるみたい。
私には買えないものではなく、買えるけど“喜んでもらえるもの”を考えてほしいわね。
例えばお揃いの指輪とか。
有りふれたプレゼントだけれど、アイリとお揃いのものがあるのは嬉しい。
ま、私が買ってプレゼントしてもいいんだけどね。
私はクスリと笑みを浮かべて。
「お金が有り余っていてごめん遊ばせ」
「はぁ!?嫌味ー!」
今から予約出来るお店を探すため、スマホを見ながら嫌味を一つ。
「……でもまぁ…物じゃなくても…いいなら…」
“物”じゃないとなると、高級な食べ物?
それともお店?
「今、今夜行けそうなお店を調べてるのだけど、あなたの奢り?」
またクスリと笑う。
「………好きよ、クリス」
突然。
「………え?」
聞こえた言葉に、反応が遅れて。
「え?」
アイリを見る。
アイリは私から視線を逸らして。
頬を赤らめていて。
「今、え?なんて?」
え?
今の、言葉って。
待って。
ちょっと待って。
「……一回しか言いませんからもう言いません」
アイリがキッチンのほうへ行こうとしたから。
「ねぇ、お願い。もう一回言って」
腕を掴む。
スマホを見ていたところの不意打ちだったから。
いえ、聞き間違いだったのかもしれないから。
「……ハリウッド女優は言われ慣れてるでしょ」
「あなたが言う意味と社交辞令で言われる意味は違うわよ」
ちゃんと聞きたいの。
「ねぇ、アイリ。お願い」
もう一度聞きたい。
もう一度だけ。
もう一度だけでいいから。
アイリはチラッと私を見て。
「…もう一度しか言わないからね?」
「えぇ、いいわ」
前を向き、そして。
「…好きよ、クリス」
もう一度、“愛”を囁いてくれた。
言葉なんていらないと思っていた。
言葉なんてただの言葉で。
意味などない、ただの単語に過ぎないと。
でも違った。
好きな人に言われる“その単語”は、好きな人に言われて初めて“意味”が吹き込まれる。
だからこそ。
アイリに言われた“好き”という言葉が。
「……演技ですか」
「…そう思えるならあなた見る目ないわね」
涙が出るほど嬉しかった。
もう言ってくれないだろう“特別な言葉”
私にしか言わないだろう“アイノコトノハ”
「私も…あなたが好きよ、アイリ」
バレンタインデーのお返しは。
予想を遥かに超えた最高のお返しだった。
アイリは私を見て。
「知ってるわよ、そんなの」
クスクス笑った。
こうした優しい笑みを見たのも初めて。
私に呆れるようなため息を吐くけど満更でもない様子で。
思い通りにならなくていつも腹が立つけど、依存してしまったから離れられなくて。
いつも私ばかりが求めていたのに。
「ねぇ、抱いてもいい?」
今はアイリが私を求めてくれている。
「私が駄目だと言うと思う?」
「んーん。私に依存してるから言えないわよね」
ああ。
幸せだと。
初めて感じた。
幸せって、こういうことなのね。
満たされるって、こういうことなのね。
「…クレアがさぁ…クリスにサイン貰ってって煩いのよね」
「サインなんていつでもあげるわよ。というか、いつ会わせてくれるのかしら」
「…クレアに心移りしないって誓う?」
「私のあなたへの依存度を舐めてるわね」
ベッドで。
アイリを見上げながら。
「あなたの想像以上に、私はあなたに依存してるんだからそろそろ信用してちょうだい」
そう伝えると。
「……わかった」
アイリは顔を赤らませて小さく頷いた。
そうして私たちは。
昼間から日付が変わるまで熱に溺れて。
「……さすがに疲れた…」
「…加減というものを学んでほしいわね…」
クタクタになりながら、一緒にシャワーを浴びたわ。
END
「…ホワイトデーか」
今日は3月14日、ホワイトデー。
ベルモットにバレンタインデーのお返しをしないといけない。
いや別に。
しないといけないわけではない。
でもまぁ…もらったからね。
ベルモットは人気ハリウッド女優だから買えないものはないでしょうし、正直何を買えばいいのかすらわからない。
悩みに悩んで、結局は決まらずに当日を迎えてしまった。
「…オーダーメイドのアクセサリーかなぁ」
それだって買えなくはないし…。
はぁ…なんか面倒臭くなってきた。
「お待たせ、アイリ」
ため息を吐いたところに、実の姉であるクレアが来た。
今日はクレアに呼び出されたの。
「クレア、久しぶりー」
クレアは向かいの席に座り、ニコリと笑む。
で。
「ん」
「ん?」
私に手を差し出す。
「クリス・ヴィンヤードのサインは?」
「…あー…」
ベルモットのサインを寄越せ、の手ね。
私はクレアから目を逸らして。
「…ほら、あいつも私も忙しいから」
そう言うと。
「また?これで何回目?」
「ぅ…」
クレアはため息を零した。
「私の存在は話したのでしょ?」
「…まぁ、ね」
「だったら姉がファンだからサインちょうだいでいいじゃない」
…まぁ貰うのは簡単なのよ。
ベルモット自身もクレアに会いたがってるし。
私の姉だから、挨拶がしたいみたい。
「…そうだけど」
私はクレアから視線を外すと、クレアはテーブルに頬杖を付いて。
「“心移りしたらどうしよう”とか思ってるんだ?」
ニヤニヤ笑ってきた。
「……そんなことありませんがぁ」
私に依存してるベルモットが心移りなんて。
そんなまさか。
まさか、ね…。
「…そんなことより、今日はどうしたの?」
私は咳払いをし、今日呼び出されたことについて問いかけた。
「話しを逸らしたわね」
「うるっさい。早く要件を言って」
クレアには口で敵わないのよね…。
クレアはクスクス笑いながら、鞄からファイルを取り出して。
「この人を探してもらえる?」
写真を見せてきた。
「何したの?」
その写真を見ながら聞くと。
「うちの会社に勤めていた63歳のパートさんから、3千万円騙し取って逃走してるの」
クレアが経営している会社のパートさんが詐欺られたようで。
「すごく良く働いて、うちの社員の体調も気にしてくれていた人でね。社員からも好かれていたし、私自身もよく愚痴を聞いてもらったりで助けられていたのよ」
「……ふーん」
“勤めていた”
“社員の体調も気にしてくれていた”
“助けられていた”
全部“過去形”だ。
「助けてあげなかったの?」
写真を伏せ、テーブルに頬杖を付く。
「知ったのは自殺した後。彼女はお給料でホームレス仲間にご飯をご馳走しながら、“社長に恩返しをするために貯金してる”って話してたみたいでね」
「社長に、ね」
クレアは10年くらい前にホームレスを雇ったって言っていたことがあった。
なぜなら、そのホームレスの人はクレアが落とした小さなポーチを拾い交番に届けてくれたから。
そのポーチにはお財布やらカードケースやら貴重品がたくさん入っていて。
警察から連絡があり、慌てて取りに行ってポーチを見たら開けられた形跡もなく、拾ってそのまますぐに交番に届けてくれたようで。
『泣きそうになったぁ…』
『私なら1万円くらい抜くけどね』
『そんなくだらないことで逮捕されたら姉妹の縁を切ります!』
って安堵した声色で電話が来てたのを思い出した。
その時もそのホームレスを探して欲しいと言われ、見つけ出してお礼に家と働く場所を提供した。
ずっと頑張って働いてくれてたのね。
「いつまでに?」
「期間は問わないけど、出来るだけ早く」
私はファイルを鞄に入れて。
「了解。今度ご飯奢ってね」
「あなた今までお金出したことないでしょ?」
「…あーあ、その時はクリスも誘おうと思ったのに、そんな可愛くないこと言うんだ?」
「絶対に今思いついたわよね。いいわ、こちらからクリスにアプローチかけるから」
「ちょ!ダメに決まってるでしょ!!」
クレアはクスリと笑い、私の口に人差し指を当てて。
「ふふっ、バレンタインデーのお返しは“ソレ”でいいんじゃない?」
そう言った。
「な「じゃあよろしくね。」
そうして、クレアは伝票を持って去って行った。
「………お返しは“ソレ”…か…」
私はテーブルに突っ伏す。
“ソレ”とはまさに、今の私の心情。
クレアがクリスに会いたいという気持ちにヤキモチと独占欲を抱いている感情。
それはつまり…。
「…というか」
なんで私がバレンタインのお返しに悩んでること知ってるのよ。
「まったく…本当に敵わないなぁもう…」
優秀な姉を持つと全てを見透かされる…。
「ねぇ、どこへ行っていたの?」
「……なぁに、ハリウッド女優は嘘で本当はニートなの?」
いつものようにアイリの自宅へ行けば、家主不在だった。
出掛ける際は必ず連絡してといつも言っているのに、くれたことがない。
毎回私から連絡をして。
「そんなわけないでしょ。どこに行っていたのよ」
「どこだっていいじゃない」
毎回鬱陶しがられる。
独占欲と束縛の強さが鬱陶しいのだろうけれど。
どこへ行くのかを連絡くれれば追求しないのに。
面倒臭がられるけど面倒臭いのはあなたのほうよって言ってやりたいわ。
「よかったら聞かないわよ」
アイリがソファーに座ったから、その隣に座る。
「まさかまた眼鏡の坊や?」
「またって言うほどあの坊ちゃんとは会ってないわよ」
あの坊ちゃん“とは”?
「じゃあ誰と頻繁に会ってるの?」
その言い方は、頻繁に会ってる人物がいるってことじゃない。
「……はぁもう。クレアと会って来たの」
観念したかのように吐き出した名前は、アイリの実の姉の名前。
「え?」
きょとん、とアイリを見る。
「クレアから仕事の依頼があって、その内容を聞きに行ってただけよ」
表情からして嘘ではなさそう。
「そう。クレアと」
「……なに?嫉妬しないの?」
今度はアイリがきょとんと私を見る。
私は立ち上がり、腰に手を当てて。
「バカね。あなたの実の姉に嫉妬なんてするわけないでしょ」
クスリと笑うと、アイリはムッと頬を膨らませた。
「あら、嫉妬してほしかったの?」
「そんなことありません」
唯一の肉親であるクレアとなら頻繁に会っても文句はない。
逆に会わせてほしいくらい。
「ま、クレアと会っていたことがわかったからそれはもういいわ」
「なに?ほかに何かあるの?」
「ん」
「ん?」
アイリに手を差し出す。
「今日、ホワイトデーだけど。お返しは?」
「………いや、まぁ…」
まぁ、用意は出来ないわよね。
だって、私に買えないものは何もないと思っているでしょうから。
ブランドのアクセサリーにしたって私は簡単に買えてしまうし、ジュエリーだってそう。
「…一応、悩んではいるのよ?」
渡そうという気持ちはあるみたい。
私には買えないものではなく、買えるけど“喜んでもらえるもの”を考えてほしいわね。
例えばお揃いの指輪とか。
有りふれたプレゼントだけれど、アイリとお揃いのものがあるのは嬉しい。
ま、私が買ってプレゼントしてもいいんだけどね。
私はクスリと笑みを浮かべて。
「お金が有り余っていてごめん遊ばせ」
「はぁ!?嫌味ー!」
今から予約出来るお店を探すため、スマホを見ながら嫌味を一つ。
「……でもまぁ…物じゃなくても…いいなら…」
“物”じゃないとなると、高級な食べ物?
それともお店?
「今、今夜行けそうなお店を調べてるのだけど、あなたの奢り?」
またクスリと笑う。
「………好きよ、クリス」
突然。
「………え?」
聞こえた言葉に、反応が遅れて。
「え?」
アイリを見る。
アイリは私から視線を逸らして。
頬を赤らめていて。
「今、え?なんて?」
え?
今の、言葉って。
待って。
ちょっと待って。
「……一回しか言いませんからもう言いません」
アイリがキッチンのほうへ行こうとしたから。
「ねぇ、お願い。もう一回言って」
腕を掴む。
スマホを見ていたところの不意打ちだったから。
いえ、聞き間違いだったのかもしれないから。
「……ハリウッド女優は言われ慣れてるでしょ」
「あなたが言う意味と社交辞令で言われる意味は違うわよ」
ちゃんと聞きたいの。
「ねぇ、アイリ。お願い」
もう一度聞きたい。
もう一度だけ。
もう一度だけでいいから。
アイリはチラッと私を見て。
「…もう一度しか言わないからね?」
「えぇ、いいわ」
前を向き、そして。
「…好きよ、クリス」
もう一度、“愛”を囁いてくれた。
言葉なんていらないと思っていた。
言葉なんてただの言葉で。
意味などない、ただの単語に過ぎないと。
でも違った。
好きな人に言われる“その単語”は、好きな人に言われて初めて“意味”が吹き込まれる。
だからこそ。
アイリに言われた“好き”という言葉が。
「……演技ですか」
「…そう思えるならあなた見る目ないわね」
涙が出るほど嬉しかった。
もう言ってくれないだろう“特別な言葉”
私にしか言わないだろう“アイノコトノハ”
「私も…あなたが好きよ、アイリ」
バレンタインデーのお返しは。
予想を遥かに超えた最高のお返しだった。
アイリは私を見て。
「知ってるわよ、そんなの」
クスクス笑った。
こうした優しい笑みを見たのも初めて。
私に呆れるようなため息を吐くけど満更でもない様子で。
思い通りにならなくていつも腹が立つけど、依存してしまったから離れられなくて。
いつも私ばかりが求めていたのに。
「ねぇ、抱いてもいい?」
今はアイリが私を求めてくれている。
「私が駄目だと言うと思う?」
「んーん。私に依存してるから言えないわよね」
ああ。
幸せだと。
初めて感じた。
幸せって、こういうことなのね。
満たされるって、こういうことなのね。
「…クレアがさぁ…クリスにサイン貰ってって煩いのよね」
「サインなんていつでもあげるわよ。というか、いつ会わせてくれるのかしら」
「…クレアに心移りしないって誓う?」
「私のあなたへの依存度を舐めてるわね」
ベッドで。
アイリを見上げながら。
「あなたの想像以上に、私はあなたに依存してるんだからそろそろ信用してちょうだい」
そう伝えると。
「……わかった」
アイリは顔を赤らませて小さく頷いた。
そうして私たちは。
昼間から日付が変わるまで熱に溺れて。
「……さすがに疲れた…」
「…加減というものを学んでほしいわね…」
クタクタになりながら、一緒にシャワーを浴びたわ。
END