名探偵コナン 旧拍手文置き場
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ブー ブー ブー
「あら、スピリタスから電話だわ」
「…ほう。あの女が誰かに連絡をするとは…珍しいこともあるものだな…」
ある日の夜。
ジンと“仕事”をしたその帰りの車の中で。
アイリから電話があった。
アイリから電話が来たのは初めて。
いつも私から連絡をしているし、某トークアプリですら即既読にはならずに1時間や2時間待つのは当たり前だったのに。
「私は特別なのかしらね」
なんて。
誰に優越感を感じているのかわからないけれど。
柄にもなく、アイリからの初めての電話が嬉しかった。
「じゃあジン、またね」
「……ふん」
私の愛車が停まっている駐車場で降りれば、ジンに一睨みされて去って行った。
「なんでいちいち睨むのかしら。あの男の悪い癖よね」
そんなジンにため息を零して。
「もしもし、ごめんね取るの遅れて。どうしたの?あなたから連絡なんて『○○企業の地下駐車場にいるから迎えに来て』え?ちょ………」
だけ言われて切れた。
「…なによ、もう」
掛け直しても出ない。
「………やっぱり腹が立つわね」
腹が立つけど、好きだから仕方ない。
「なんで私、こんな自己中心的なのに惚れたのかしら」
自分でも不思議に思うことがあるけど。
最終的には“思い通りにならないから”に行き着くのよね。
「……○○企業、ね」
仕方ないから迎えに行きましょうか。
で、文句言ってやるわ。
この私を便利屋扱いしたことにね。
「暗いわね…」
指定された○○企業の地下駐車場は真っ暗で。
電気系統が故障しているみたい。
適当に車を停めて。
「……迎えに来てあげたんだから電話くらい出なさいよね」
電話を掛けたけど出ない。
ため息を零し、車から降りてスマホのライト機能でアイリを探す。
「どこにいるのよ」
拳銃も持ち、もしもの時のために備えて。
すると。
「……ここよ…ベルモット…」
小さくだけど、確かに聞こえたアイリの声に。
「アイリ、どこ?」
声が聞こえた方へと足を進めれば。
「……ここ…」
壁際に、アイリが座っていて。
「こんなところで何を………」
で、言葉を飲み込み絶句した。
「ッちょっと…!!血だらけじゃない!!」
思わず出てしまった大きな声が駐車場内に響く。
そう。
ライトで照らしたアイリは血だらけで。
息も絶え絶えで。
「……もう歩けないの」
痛々しく笑みを浮かべた。
「バカ…!!なんで電話の時に言わないのよ!!」
慌ててアイリへ駆け寄り、腕を肩に掛けて立ち上がらせる。
「…つ…っ…だって…ジンと仕事だったんでしょ…?アレに馬鹿にされるのやだし…」
「そんなことを気にしてる場合!?」
ゆっくりと私の車に連れて行って、後部座席に座らせる。
「……血が付くわよ、座席に…」
「いいから。意識はちゃんと保ってなさい」
「……寝たい」
「ダメに決まってるでしょ」
アイリの車はあとで組織の者に取りに行かせるとして。
なんとかアイリが意識を失わないように話をかけながら。
車を走らせた。
「毎日朝と夜に消毒をして包帯を取り替えてください」
「…わかったわ。ご苦労様」
アイリの自宅に呼んだ、組織の闇医者。
簡易的な手術を施してもらい、帰らせた。
病院に運ぼうとしたら“病院は嫌だ”とかほざいたの。
部屋に入り、ベッドへ腰をかける。
「……アイリ…」
眠るアイリの頬に触れて、唇に軽くキスをする。
麻酔が効いているだろうから、まだしばらくは起きないでしょうね。
「…いつもの腹が立つあなたの声が聞きたいわ…」
こんなに弱ってるアイリを見るのは初めて。
“仕事”に失敗した?
いいえ、失敗していないからアイリは生きていた。
最後の悪足掻きでもされたのね、きっと。
足元には血だらけのアイリの衣服。
「…車を取りに行かせないと」
血だらけの服を持って寝室から出る。
組織に連絡をして、アイリの車を取りに行かせる。
あとは地下駐車場にアイリの血液があるかもしれないからそれも確認させて。
出来うる限り証拠を消さないと。
メールで連絡をしたから、手の空いている者が行動してくれるでしょう。
アイリが起きた時、鎮痛剤と抗生物質を飲ませるために何か軽くでも食べさせて。
キッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。
「……これ…」
冷蔵庫の中には、スイーツで有名店のロゴが入った箱があって。
開けてみると、そのお店の一番人気であるフルーツタルトが二つ入っていた。
これ、一つは私の分なの?
私と二人で食べようと思ったの?
今日私から連絡があると想定して?
「……参るわね、本当に」
どこまで依存させれば気が済むのかしら。
どこまで好きにさせれば気が済むのよ、まったく。
フルーツタルトを冷蔵庫へ戻して。
「……お粥の準備でもしておきましょうか」
いつ起きてもすぐ食べられるように、ね。
それから数時間後。
「………ん…」
「!起きた?」
アイリの意識が戻った。
アイリはゆっくりと目を開けて。
「…ベルモット…」
「えぇ」
ゆっくりと辺りを見回して。
「……私の家…?」
場所を把握した。
「そうよ。私に迎えに来てと連絡したのは覚えてる?」
「……うん…」
まだ完全には覚めきってないアイリはモゾモゾと布団から手を出して。
「?なに?」
人差し指を屈伸させたから顔を近づけると。
「ん」
そのまま唇に誘導された。
少しだけ啄むようにキスをして。
「…あなたからの初めての連絡がこれなんて酷すぎない?」
初めての連絡がこれであることに不満を言ったんだけど。
「…ベルモット以外浮かばなかったのよ…」
そう言われたら…。
「……まったく。本当にあなたは腹が立つわね」
何も言い返せないじゃない。
アイリは小さく笑って。
「……っい…っ」
「起きるの?」
「水飲みたい…」
身体を起こそうとするから、手伝ってあげてベッドヘッドに寄り掛からせる。
もちろん身体とベッドヘッドの間にクッションを入れて、ね。
「水を持ってくるわ」
「ん…」
うとうとしてるところを見ると、麻酔も完全には切れてない。
「ほら、飲める?」
水を持って来て、アイリに渡すもまだ手に力が入らないみたいで。
「バブちゃんね」
「…うるさいなぁ…」
私が水を飲み、口移しで飲ませてあげた。
「ちょっとお粥作って来るから待ってて」
「んー…」
アイリをベッドへ寝かせ、キッチンに行こうとすれば。
「アイリ?」
手を掴まれた。
「……まだいいから…」
ここに居て、と。
眠りに落ちそうな小さな声で、そう言った。
…本当にアイリは私の喜ばせ方を熟知してるわよね。
「…わかったわ。ここに居るから」
アイリの額にキスを落として。
「…起きたら、冷蔵庫のタルトを一緒に食べましょうね」
「……バレ…た…」
「バレバレよ」
なんて小さく笑い合って、アイリは再び眠りに就いた。
––ああ。
––愛おしい。
アイリの寝顔を見て、つくづくそう思った。
で。
「お腹空いたんですがぁ」
「ねぇ、さっきまでのしおらしいあなたはどこへ行ったの?」
目を覚ましてすぐ、可愛くないことをほざいたわよ。
「全然覚えてない」
「大丈夫?病院行く?」
「早くご飯作って」
「ステーキでもいいかしら。ちょっと牛をシメて来るから待っててちょうだい」
「そこから!?でも待つわ」
「待つの?そんなことより冷蔵庫のタルトを食べましょう」
「………」
黙った。
やっと黙った。
アイリは頬を赤らめて、私から視線を逸らしつつ。
「…冷蔵庫の盗み見やめてください」
「冷蔵庫を見ないと何を作れるかわからないでしょ?まったく、ちょっとお粥を作って来るから待ってなさい」
ハリウッド女優の私にこんなことをさせるなんて。
アイリだけよね。
「あ、ちなみに。あなたの車を取りに行く手配も、あなたが無駄に垂れ流した血液を洗浄させる手配も、あなたの怪我の治療をするための手配も私がしたから」
「…手配しただけであなた自身は何もしてないじゃない」
なんてまた可愛くないことをほざくアイリは、チラッと私を見て。
「…まぁ…ありがと…」
小さくお礼の言葉を口にしたから、私も小さく笑みを浮かべて。
「あと、これからはちゃんとあなたからも連絡をちょうだい。こんな連絡ばかりは嫌だからね」
「…はいはい、わかりました」
釘を刺し、キッチンへ行った。
あのしおらしさは貴重だったけど。
アイリはやっぱりこの可愛くなくて腹が立つ感じが一番良い。
なんて。
アイリには死んでも言わないけどね。
END
ブー ブー ブー
「あら、スピリタスから電話だわ」
「…ほう。あの女が誰かに連絡をするとは…珍しいこともあるものだな…」
ある日の夜。
ジンと“仕事”をしたその帰りの車の中で。
アイリから電話があった。
アイリから電話が来たのは初めて。
いつも私から連絡をしているし、某トークアプリですら即既読にはならずに1時間や2時間待つのは当たり前だったのに。
「私は特別なのかしらね」
なんて。
誰に優越感を感じているのかわからないけれど。
柄にもなく、アイリからの初めての電話が嬉しかった。
「じゃあジン、またね」
「……ふん」
私の愛車が停まっている駐車場で降りれば、ジンに一睨みされて去って行った。
「なんでいちいち睨むのかしら。あの男の悪い癖よね」
そんなジンにため息を零して。
「もしもし、ごめんね取るの遅れて。どうしたの?あなたから連絡なんて『○○企業の地下駐車場にいるから迎えに来て』え?ちょ………」
だけ言われて切れた。
「…なによ、もう」
掛け直しても出ない。
「………やっぱり腹が立つわね」
腹が立つけど、好きだから仕方ない。
「なんで私、こんな自己中心的なのに惚れたのかしら」
自分でも不思議に思うことがあるけど。
最終的には“思い通りにならないから”に行き着くのよね。
「……○○企業、ね」
仕方ないから迎えに行きましょうか。
で、文句言ってやるわ。
この私を便利屋扱いしたことにね。
「暗いわね…」
指定された○○企業の地下駐車場は真っ暗で。
電気系統が故障しているみたい。
適当に車を停めて。
「……迎えに来てあげたんだから電話くらい出なさいよね」
電話を掛けたけど出ない。
ため息を零し、車から降りてスマホのライト機能でアイリを探す。
「どこにいるのよ」
拳銃も持ち、もしもの時のために備えて。
すると。
「……ここよ…ベルモット…」
小さくだけど、確かに聞こえたアイリの声に。
「アイリ、どこ?」
声が聞こえた方へと足を進めれば。
「……ここ…」
壁際に、アイリが座っていて。
「こんなところで何を………」
で、言葉を飲み込み絶句した。
「ッちょっと…!!血だらけじゃない!!」
思わず出てしまった大きな声が駐車場内に響く。
そう。
ライトで照らしたアイリは血だらけで。
息も絶え絶えで。
「……もう歩けないの」
痛々しく笑みを浮かべた。
「バカ…!!なんで電話の時に言わないのよ!!」
慌ててアイリへ駆け寄り、腕を肩に掛けて立ち上がらせる。
「…つ…っ…だって…ジンと仕事だったんでしょ…?アレに馬鹿にされるのやだし…」
「そんなことを気にしてる場合!?」
ゆっくりと私の車に連れて行って、後部座席に座らせる。
「……血が付くわよ、座席に…」
「いいから。意識はちゃんと保ってなさい」
「……寝たい」
「ダメに決まってるでしょ」
アイリの車はあとで組織の者に取りに行かせるとして。
なんとかアイリが意識を失わないように話をかけながら。
車を走らせた。
「毎日朝と夜に消毒をして包帯を取り替えてください」
「…わかったわ。ご苦労様」
アイリの自宅に呼んだ、組織の闇医者。
簡易的な手術を施してもらい、帰らせた。
病院に運ぼうとしたら“病院は嫌だ”とかほざいたの。
部屋に入り、ベッドへ腰をかける。
「……アイリ…」
眠るアイリの頬に触れて、唇に軽くキスをする。
麻酔が効いているだろうから、まだしばらくは起きないでしょうね。
「…いつもの腹が立つあなたの声が聞きたいわ…」
こんなに弱ってるアイリを見るのは初めて。
“仕事”に失敗した?
いいえ、失敗していないからアイリは生きていた。
最後の悪足掻きでもされたのね、きっと。
足元には血だらけのアイリの衣服。
「…車を取りに行かせないと」
血だらけの服を持って寝室から出る。
組織に連絡をして、アイリの車を取りに行かせる。
あとは地下駐車場にアイリの血液があるかもしれないからそれも確認させて。
出来うる限り証拠を消さないと。
メールで連絡をしたから、手の空いている者が行動してくれるでしょう。
アイリが起きた時、鎮痛剤と抗生物質を飲ませるために何か軽くでも食べさせて。
キッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。
「……これ…」
冷蔵庫の中には、スイーツで有名店のロゴが入った箱があって。
開けてみると、そのお店の一番人気であるフルーツタルトが二つ入っていた。
これ、一つは私の分なの?
私と二人で食べようと思ったの?
今日私から連絡があると想定して?
「……参るわね、本当に」
どこまで依存させれば気が済むのかしら。
どこまで好きにさせれば気が済むのよ、まったく。
フルーツタルトを冷蔵庫へ戻して。
「……お粥の準備でもしておきましょうか」
いつ起きてもすぐ食べられるように、ね。
それから数時間後。
「………ん…」
「!起きた?」
アイリの意識が戻った。
アイリはゆっくりと目を開けて。
「…ベルモット…」
「えぇ」
ゆっくりと辺りを見回して。
「……私の家…?」
場所を把握した。
「そうよ。私に迎えに来てと連絡したのは覚えてる?」
「……うん…」
まだ完全には覚めきってないアイリはモゾモゾと布団から手を出して。
「?なに?」
人差し指を屈伸させたから顔を近づけると。
「ん」
そのまま唇に誘導された。
少しだけ啄むようにキスをして。
「…あなたからの初めての連絡がこれなんて酷すぎない?」
初めての連絡がこれであることに不満を言ったんだけど。
「…ベルモット以外浮かばなかったのよ…」
そう言われたら…。
「……まったく。本当にあなたは腹が立つわね」
何も言い返せないじゃない。
アイリは小さく笑って。
「……っい…っ」
「起きるの?」
「水飲みたい…」
身体を起こそうとするから、手伝ってあげてベッドヘッドに寄り掛からせる。
もちろん身体とベッドヘッドの間にクッションを入れて、ね。
「水を持ってくるわ」
「ん…」
うとうとしてるところを見ると、麻酔も完全には切れてない。
「ほら、飲める?」
水を持って来て、アイリに渡すもまだ手に力が入らないみたいで。
「バブちゃんね」
「…うるさいなぁ…」
私が水を飲み、口移しで飲ませてあげた。
「ちょっとお粥作って来るから待ってて」
「んー…」
アイリをベッドへ寝かせ、キッチンに行こうとすれば。
「アイリ?」
手を掴まれた。
「……まだいいから…」
ここに居て、と。
眠りに落ちそうな小さな声で、そう言った。
…本当にアイリは私の喜ばせ方を熟知してるわよね。
「…わかったわ。ここに居るから」
アイリの額にキスを落として。
「…起きたら、冷蔵庫のタルトを一緒に食べましょうね」
「……バレ…た…」
「バレバレよ」
なんて小さく笑い合って、アイリは再び眠りに就いた。
––ああ。
––愛おしい。
アイリの寝顔を見て、つくづくそう思った。
で。
「お腹空いたんですがぁ」
「ねぇ、さっきまでのしおらしいあなたはどこへ行ったの?」
目を覚ましてすぐ、可愛くないことをほざいたわよ。
「全然覚えてない」
「大丈夫?病院行く?」
「早くご飯作って」
「ステーキでもいいかしら。ちょっと牛をシメて来るから待っててちょうだい」
「そこから!?でも待つわ」
「待つの?そんなことより冷蔵庫のタルトを食べましょう」
「………」
黙った。
やっと黙った。
アイリは頬を赤らめて、私から視線を逸らしつつ。
「…冷蔵庫の盗み見やめてください」
「冷蔵庫を見ないと何を作れるかわからないでしょ?まったく、ちょっとお粥を作って来るから待ってなさい」
ハリウッド女優の私にこんなことをさせるなんて。
アイリだけよね。
「あ、ちなみに。あなたの車を取りに行く手配も、あなたが無駄に垂れ流した血液を洗浄させる手配も、あなたの怪我の治療をするための手配も私がしたから」
「…手配しただけであなた自身は何もしてないじゃない」
なんてまた可愛くないことをほざくアイリは、チラッと私を見て。
「…まぁ…ありがと…」
小さくお礼の言葉を口にしたから、私も小さく笑みを浮かべて。
「あと、これからはちゃんとあなたからも連絡をちょうだい。こんな連絡ばかりは嫌だからね」
「…はいはい、わかりました」
釘を刺し、キッチンへ行った。
あのしおらしさは貴重だったけど。
アイリはやっぱりこの可愛くなくて腹が立つ感じが一番良い。
なんて。
アイリには死んでも言わないけどね。
END