不意打ち ベルモット百合夢
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「着きました」
「お釣りいらないから」
タクシーには1万円を置いて降りる。
如月ホテルには入らず、アイリが待っている公園へと急ぐ。
走ったわ。
とにかく走った。
映画の撮影でもこんなに走ることなんてないくらい走った。
公園が見えてきた。
「アイリ!!」
アイリの名前を叫ぶと。
「あ、やっと来たー」
アイリは大きな雪だるまの横からひょいと顔を覗かせた。
私はすぐに駆け寄り、アイリの頬に手を寄せる。
冷たい。
すごく冷たい。
手も冷たいし、もう冷え切っている。
「あなたッ!いつからここにいたの!?」
アイリから香るアルコール。
結構な量だと思う。
「んー。9時くらいに出てー、色々見ながら歩いて来たの」
9時って……ッ
「バ、カじゃないのッ!?こんなに冷え切って…ッ」
「ベルモットの連絡先知らないから、連絡しようにないじゃない」
「そういう問題じゃないの!要は約2時間も外にいるとか馬鹿じゃないのってことよ!」
鞄を漁るもカイロなんて都合の良いものはない。
ただずっと頬に触れたり、手を摩ってあげたり。
とにかく暖めないと。
「来なさい!」
すぐに如月ホテルの私の部屋でお風呂に入れないと。
「あ、待って待って」
するとアイリは私の手を離し、滑り台のほうへ。
「何してるのよ!早く行くわよ!」
一刻も早く暖めないと。
それしか頭になかったから。
熱い湯船に浸からせて、念のために風邪薬も飲ませて。
部屋の温度も上げて、風邪を引かせないようにしないと。
それしか頭になかったから。
完全な不意打ちだった。
「はいこれ。クリスマスプレゼント」
差し出された紙袋は。
帝王ホテルに入る時に持っていたもの。
「え?」
誰に渡すのか。
ずっと気になり、苛立っていたもの。
「…え?な、なに…?え…?」
あまりの驚きに受け取れずにいると。
「あなたに買えない物はないでしょうから、何を贈ろうかすっごく悩んだの」
アイリが紙袋を開けて、中から取り出したものは。
「だから買うことは出来ない、世界に一つだけのものを贈ろうと決めて」
白いマフラー。
「編み物なんてやったことないけど、本ってすごいわよねー。本を読みながら編んだら結構上手く編めてね」
私の首に巻いてくれて。
「ブラックがいいかなー?って思ったけど、あえてホワイトにしたの。早くこちら側に来てほしいって気持ちを込めて」
アイリは綺麗に、可愛らしく。
「メリークリスマス。ベルモット」
笑みを浮かべた。
帝王ホテルに入る時に持っていたプレゼントは。
私宛てだった。
ずっと抜け出すタイミングを伺い、こうして抜け出してきてくれた。
「…バカ」
ああもう。
「本当、あなたは馬鹿よね」
「嬉しい?気に入ってくれた?」
ああもう。
「当たり前でしょ?嬉しくないわけないじゃない馬鹿」
––––––––––––愛しい。
「ふふっ」
「もう。渡したいがためだけに抜け出して、こんな寒い思いをしたの?」
「そー。パーティー断れなかったのよ。ごめんね?」
「…バカ。いいのよ、もう」
アイリの手を取り、如月ホテルへと戻って。
「お風呂入れたから、体を暖めなさい」
「はーい。一緒に入る?」
「酔ってるところを抱いても意味ないの」
「えー?ベルモットらしくなーい」
「煩いわね。早く入りなさい」
アイリを浴室へと押し込んで。
アイリの鼻歌を聴きながら、マフラーを手に取って。
「……」
顔を埋める。
いつ編んだの?
どこで?
まったく気付かなかった。
こんなものを用意してくれていたなんて。
「…ヤバイわね…これ…」
お気に入りすぎて。
嬉しすぎて。
私が所持している全ての物よりも。
何よりも価値があり、何物にも代え難い大切なものになった。
日付が変わり、クリスマスはもう過ぎてしまったけれど。
「あー…ねむ…」
お風呂から上がり、マフっとベッドに倒れ込んだアイリを見つめて。
バスタオル一枚だけを纏うアイリを見つめて。
不思議と“抱きたい”という欲望はなくて。
「ちゃんと起こしてあげるから、眠っていいわよ?」
部屋の温度を上げて、アイリの頭を優しく撫でてあげれば。
「ね…るぅ…」
静かな寝息を立て始めたアイリの首に。
「…私からもあるの、アイリ」
アイリのために購入したネックレスを付けて。
「メリークリスマス、アイリ」
アイリを抱き締めるように。
今この幸せを。
ただただ感じていた。
今年は寂しいクリスマスになると思っていた。
こんな寂しいクリスマス初めてだと。
でもそれが一転した。
今までかつてないくらいの。
最高のクリスマス。
私のために抜け出したパーティー。
私のために編んでくれたマフラー。
私をずっと待ってくれていて。
必ず来ると。
信じてくれて。
悪に手を染める私にも、サンタさんは粋な計らいをしてくれた。
スウスウと寝息を立てるアイリの額にキスを落として。
「好きよ、アイリ」
静かに愛を囁き、私も眠りに就いた———。
END
「着きました」
「お釣りいらないから」
タクシーには1万円を置いて降りる。
如月ホテルには入らず、アイリが待っている公園へと急ぐ。
走ったわ。
とにかく走った。
映画の撮影でもこんなに走ることなんてないくらい走った。
公園が見えてきた。
「アイリ!!」
アイリの名前を叫ぶと。
「あ、やっと来たー」
アイリは大きな雪だるまの横からひょいと顔を覗かせた。
私はすぐに駆け寄り、アイリの頬に手を寄せる。
冷たい。
すごく冷たい。
手も冷たいし、もう冷え切っている。
「あなたッ!いつからここにいたの!?」
アイリから香るアルコール。
結構な量だと思う。
「んー。9時くらいに出てー、色々見ながら歩いて来たの」
9時って……ッ
「バ、カじゃないのッ!?こんなに冷え切って…ッ」
「ベルモットの連絡先知らないから、連絡しようにないじゃない」
「そういう問題じゃないの!要は約2時間も外にいるとか馬鹿じゃないのってことよ!」
鞄を漁るもカイロなんて都合の良いものはない。
ただずっと頬に触れたり、手を摩ってあげたり。
とにかく暖めないと。
「来なさい!」
すぐに如月ホテルの私の部屋でお風呂に入れないと。
「あ、待って待って」
するとアイリは私の手を離し、滑り台のほうへ。
「何してるのよ!早く行くわよ!」
一刻も早く暖めないと。
それしか頭になかったから。
熱い湯船に浸からせて、念のために風邪薬も飲ませて。
部屋の温度も上げて、風邪を引かせないようにしないと。
それしか頭になかったから。
完全な不意打ちだった。
「はいこれ。クリスマスプレゼント」
差し出された紙袋は。
帝王ホテルに入る時に持っていたもの。
「え?」
誰に渡すのか。
ずっと気になり、苛立っていたもの。
「…え?な、なに…?え…?」
あまりの驚きに受け取れずにいると。
「あなたに買えない物はないでしょうから、何を贈ろうかすっごく悩んだの」
アイリが紙袋を開けて、中から取り出したものは。
「だから買うことは出来ない、世界に一つだけのものを贈ろうと決めて」
白いマフラー。
「編み物なんてやったことないけど、本ってすごいわよねー。本を読みながら編んだら結構上手く編めてね」
私の首に巻いてくれて。
「ブラックがいいかなー?って思ったけど、あえてホワイトにしたの。早くこちら側に来てほしいって気持ちを込めて」
アイリは綺麗に、可愛らしく。
「メリークリスマス。ベルモット」
笑みを浮かべた。
帝王ホテルに入る時に持っていたプレゼントは。
私宛てだった。
ずっと抜け出すタイミングを伺い、こうして抜け出してきてくれた。
「…バカ」
ああもう。
「本当、あなたは馬鹿よね」
「嬉しい?気に入ってくれた?」
ああもう。
「当たり前でしょ?嬉しくないわけないじゃない馬鹿」
––––––––––––愛しい。
「ふふっ」
「もう。渡したいがためだけに抜け出して、こんな寒い思いをしたの?」
「そー。パーティー断れなかったのよ。ごめんね?」
「…バカ。いいのよ、もう」
アイリの手を取り、如月ホテルへと戻って。
「お風呂入れたから、体を暖めなさい」
「はーい。一緒に入る?」
「酔ってるところを抱いても意味ないの」
「えー?ベルモットらしくなーい」
「煩いわね。早く入りなさい」
アイリを浴室へと押し込んで。
アイリの鼻歌を聴きながら、マフラーを手に取って。
「……」
顔を埋める。
いつ編んだの?
どこで?
まったく気付かなかった。
こんなものを用意してくれていたなんて。
「…ヤバイわね…これ…」
お気に入りすぎて。
嬉しすぎて。
私が所持している全ての物よりも。
何よりも価値があり、何物にも代え難い大切なものになった。
日付が変わり、クリスマスはもう過ぎてしまったけれど。
「あー…ねむ…」
お風呂から上がり、マフっとベッドに倒れ込んだアイリを見つめて。
バスタオル一枚だけを纏うアイリを見つめて。
不思議と“抱きたい”という欲望はなくて。
「ちゃんと起こしてあげるから、眠っていいわよ?」
部屋の温度を上げて、アイリの頭を優しく撫でてあげれば。
「ね…るぅ…」
静かな寝息を立て始めたアイリの首に。
「…私からもあるの、アイリ」
アイリのために購入したネックレスを付けて。
「メリークリスマス、アイリ」
アイリを抱き締めるように。
今この幸せを。
ただただ感じていた。
今年は寂しいクリスマスになると思っていた。
こんな寂しいクリスマス初めてだと。
でもそれが一転した。
今までかつてないくらいの。
最高のクリスマス。
私のために抜け出したパーティー。
私のために編んでくれたマフラー。
私をずっと待ってくれていて。
必ず来ると。
信じてくれて。
悪に手を染める私にも、サンタさんは粋な計らいをしてくれた。
スウスウと寝息を立てるアイリの額にキスを落として。
「好きよ、アイリ」
静かに愛を囁き、私も眠りに就いた———。
END
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