手を伸ばせば ベルモット百合夢
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「え?」
私の名前を、お母さんが?
「あなたの父親、名前のセンスが欠片もなくてね。だから私が決めたの」
懐かしそうに目を細めて。
「あなたが出来たとわかった時、正直戸惑ったわ」
それはお母さんが女優だから。
そして危険な組織の一員だから。
「戸惑ったけど、堕ろそうとは思わなかった」
「…どうして?私がいたほうが危ないじゃない」
組織は私の命を天秤にかけただろう。
私なんていないほうが。
そう言おうとした時。
「あなたの父親は、私が生涯の中で唯一本気で愛した男よ。そんな男との間に生まれた命が、愛おしくないわけないでしょ?」
お母さんは綺麗な笑みを浮かべて、そう言った。
「ッッ!!」
私は目を見開いた。
だって。
だって。
「あなたを守りたいがために動いていたはずが、逆にあなたを苦しめていたわ。」
そんなこと、言われるなんて。
「あなたの人生だけは守りたかったのに、守れずにこんな姿にさせてしまったわ」
思ってもみなかったから。
「でもね、アイリ」
お母さんは私に歩み寄り、今の私と視線が合うまでしゃがんで。
「あなたの存在があったから、私は今ここにいるのよ」
私の娘として生まれてきてくれてありがとう。
「愛してるわ、アイリ。これからもずっと。あなたを愛してる」
だから。
お母さんは私を抱き締めて。
「生まれてこなければよかった、なんて言わないで」
お願い…。
最後は震えた声で。
初めて。
お母さんの涙を見た。
女優の演技なんかじゃない。
私の言葉に傷つき、本気で零す涙。
「…ごめ…ん…」
私は。
生まれてよかったんだ。
お母さんの足枷じゃなくて。
お母さんの力になってたんだ。
「ごめんなさ…っ」
私もお母さんの背中に腕を回して。
「ごめんなさい…っ」
私も泣いた。
私はお母さんの弱点であり、足枷だと思っていた。
私の存在理由は一体なんなんだろうって。
いつも独りで苦しみ、独りで泣いていた。
でも、そんな必要なかったんだね。
「…時間かかったわね」
志保も起きていたみたいで、私たちを見つめて小さく笑った。
お母さんも今は組織を抜けて、阿笠博士に一緒に匿ってもらってる。
工藤君に何か言われたらしいけど、私にはまだ秘密ってまだ教えてくれない。
お母さんが組織を抜けるほど重要なこと。
でも今は知らなくていい。
今こうして、穏やかなに暮らせているから。
お母さんと、こうして穏やかに。
「ほら、明日も学校なんだから寝るわよ」
「うん…」
身体が小さくなった私をお母さんは抱き上げ、寝室へ行く。
「自分で歩けるよ」
「そうなの?知らなかったわ」
二人でクスクス笑えば、志保は呆れるようなため息を零した。
7年かかった。
いや、正確にはもっともっと。
私が生まれてから今までかかった。
つらくて苦しくて、悲しい毎日だったけど。
今はもうつらくない。
苦しくない。
悲しくないよ。
だからさ、お母さん。
今まで無駄にしてきた時間を、一緒に精一杯楽しもうね。
「おやすみなさい、アイリ」
「おやすみ、お母さん」
今なら言える。
心から愛しているよ、お母さん。
END
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