ハガレン 旧拍手文置き場
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『逆鱗』
「ホークアイ中尉」
「!フィリックス准将。お疲れ様です」
「これはあなたが作成した書類よね?」
「はい。そうです」
「誤字、脱字が酷いわ。作り直して」
「え?あ、はい…すみません。確認したつもりでしたが…」
「つもり、じゃダメなのわかる?こういうことは困るから徹底してほしいものだわ」
「はい、申し訳ありません。すぐに直します」
数日前から。
ロザリー・フィリックス准将が東方司令部へとやって来て。
あれやこれやと指示をし始めていた。
仕事の仕方から、上官への態度。
休憩の取り方などなど。
色んなことに口を出していて、東方司令部の面々は快く思っていなくて。
「…中尉…大丈夫っスか…?」
「え?えぇ、大丈夫よ」
特にリザに対しては当たりが強く、何かと文句を言ってくる。
「書類のミスなんて珍しいっスね」
リザは戻された書類を見て、ため息を零す。
「これは私が作成したものではないわ」
「え!?どういうことっスか!?」
ハボックはその書類とリザを交互に見る。
「すり替えられたみたいね」
「何のために…」
「さぁ、何のためかしら」
なんて言うが。
こんなあからさまなことをされて、気づかないわけがない。
ただ、なぜそうされるのかに心当たりがない。
「とりあえず急いで作成し直さないと」
東方司令部からの書類提出が遅くなれば、アイリが困るから。
「…まじフィリックス准将にはどっか行って欲しいっスね…」
「ハボック少尉、不穏当な発言は控えなさい」
誰が聞いているかもわからないのだから、とリザはデスクに付き書類作成をし始めた。
「グラマン中将に報告します?」
「いいから、仕事をしなさい」
リザは大して気にしていないのか、いつもと変わらない様子にハボックは眉間に皺を寄せたのだった。
またある日。
「ちょっといいかしら、ホークアイ中尉」
「フィリックス准将」
「はい、どうされました?」
リザがロイの執務室でロイを見張っていると、ロザリーが入って来た。
「これ、あなたのタイムカードだけれど」
「はい」
ロザリーはリザにリザのタイムカードを見せながら。
「この日とこの日、この日の三日間遅刻ギリギリの出勤には何か理由があるの?」
「ギリギリだとしても、遅刻はしていないので問題ないのでは?」
リザの代わりにロイが言うと。
「マスタング大佐、あなたに聞いているわけじゃないの」
ピシャリと一刀両断。
ロイは肩を竦め、押し黙る。
「この三日間は…その…」
リザは口籠もり、言うか言わないか迷っている。
リザが遅刻ギリギリに出勤した三日間は、アイリと過ごした日だから。
一月の間に三回も一緒に過ごせた奇跡を思い出し、小さく笑みを浮かべれば。
「…何を笑ってるのよ。私を馬鹿にしているの?」
ロザリーは眉間に皺を寄せた。
「いえ、申し訳ありません。」
「…で、この三日間の遅い出勤の理由は?」
答えるまで許さない、というかのように。
リザに詰め寄る。
「その三日間は…」
リザが諦めて言おうとした時に。
コンコン
『私だけど、入るわね』
「「「!!!」」」
アイリの声が聞こえて来た。
「お邪魔しまーす」
アイリが執務室に入れば、三人はすぐに敬礼をした。
「お疲れ様です、セイフォード少将」
ロザリーはニコリと笑みを浮かべる。
「えぇ、あなたもね。フィリックス准将」
アイリも笑みを浮かべ、片手を上げたため三人は敬礼を止めて後ろに組んだ。
「どうされたんですか?」
ロザリーが問うと。
「グラマン中将に呼ばれてね。その前にリザの顔が見たいなーって思って」
来ちゃった、とリザの隣に立つ。
リザはほんのりと頬を赤らめ、ロザリーは眉間に皺を寄せた。
ロイは視線を左から右に動かして。
「セイフォード少将、ホークアイ中尉の遅刻ギリギリの出勤について心当たりありますか?」
アイリにそう問いかけた。
「…ッ!」
すぐにロザリーはロイを睨むが、ロイは素知らぬ顔を浮かべる。
「リザの遅刻ギリギリ出勤?え?私になんでそれを聞く…ああー…この日ねぇ…」
リザのタイムカードの日にちを見て、ニヤニヤと笑い始める。
「この三日間、一緒に過ごしたのよ。一月で三回も一緒に過ごせたことって今までになかったから、そりゃもう、ね?」
「っセイフォード少将、そういう発言は控えてください!」
「えー?だって事実だし、ね?」
「…っ」
アイリとリザが惚気ている時に、ロイはロザリーを見て。
「だそうですよ。」
ニコリと笑うと。
「っセイフォード少将、部下に示しが付きませんよ」
「はーい、控えまーす。リザ、一緒にグラマン中将のところに行きましょ」
「え?私もですか?」
ロザリーは悔しそうに下唇を噛んだ。
それを見て、ロイは確信した。
ロザリーがリザに嫉妬をして、それをパワハラとしてぶつけていることを。
「今日の会食の話をしながらチェスだしいいわよ」
「わかりました」
「じゃあロイ君、フィリックス准将、またね」
「はい、お疲れ様でした」
「…お疲れ様でした」
アイリとリザは執務室から去って、残されたロイとロザリーは。
「フィリックス准将」
「…なにかしら」
「彼女にもしものことが起これば、“雷”が落ちますのでご注意を」
ロイはそう警告をした。
「…ふん」
ロザリーはそんなロイを睨み、執務室から出て行った。
数日後。
「ホークアイ中尉、いいかしら」
「!フィリックス准将」
射撃訓練をしているリザの下に、ロザリーがやって来た。
「あなたの射撃を見せてもらったんだけど、構えてから射出するまで速すぎるわ。正確性も欠けるからもっとしっかり構えたほうがいいわよ?」
リザに、射撃について指導するが。
「……」
「…なに?」
リザが視線を彷徨わせたことに、ロザリーは眉間に皺を寄せた。
「…以前、構えてから射出するまでのスピードと正確無比の狙撃を、見事なものだとセイフォード少将に褒めていただいたことがありますので…」
その気持ちを大切にしたい、とリザが言えば。
パァン
乾いた音が射撃場に響く。
「………」
「やっぱりあなた、私を馬鹿にしてるんでしょ?」
ロザリーがリザの頬を打った音だった。
リザの唇が切れ、血が滲む。
その様子を他の軍人たちは手を止め見ていた。
「いえ、そうではなくて「口答えはいい。あなたはただ上官の言われた通りにすればいいのよ」
リザとロザリーの視線が交差して。
「…了解しました。」
下位官であるリザが折れるしかなかった。
「最初からそう言えばいいの」
ふん、とロザリーは射撃訓練場から去った。
「…ホークアイ中尉、大丈夫ですか…?」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう」
居合わせた者がリザにハンカチを渡して、血の滲む唇を拭った。
「…グラマン中将に報告しましょうよ」
「いえ、大したことじゃないわ」
報告したところで、より一層当たりが強くなるだけ。
面倒だし、はいはい言っていればいい。
とリザはやはり大して気にしていない様子。
「…ホークアイ中尉、その唇の傷はどうしたんだね…」
「乾燥で切れたようです。そんなことより大佐、サボらないでください」
ロイはリザの怪我の理由を知っているのだが、リザはロザリーに打たれたことを言わずに淡々と仕事をこなす。
「わかったよ(さすがに部下に手を出されてはね)」
リザが望まないから、今まで黙っていたけれど。
部下に手を出された以上、放ってはおけないと。
ロイはとある書類に視線を落とした。
「ホークアイ中尉」
「フィリックス准将、どうされましたか?」
また数日後、ロザリーはリザの下にやって来た。
「どうしたもこうしたも、前にも言ったと思うけどこの書類、誤字脱字だらけで中央に提出出来ないのよ」
ロザリーに突き付けられた書類を受け取り、内容を確認する。
確かに誤字脱字は多く、書類として成り立たないだろう。
しかし。
「…申し訳ありません。」
やはりリザが作成したものではなく、すり替えられたもので。
口答えをすればまた打たれて周りに心配をさせてしまうため、リザはただ一言謝罪をした。
「あなた軍人になって何年になるの?ろくに書類も作成出来ないで、よく中尉官になれたものだわ」
「…フィリックス准将、その言い方は…」
ハボックが反論しようとすれば、リザに止められた。
「なに?ハボック少尉」
「…いえ、なんでもありません」
ただ寄らぬオフィスの雰囲気に、みんなピリピリしていた時だった。
「なぁに、この雰囲気。すごいピリピリムードじゃない」
オフィスの扉が開き、アイリが入って来た。
「「「「セイフォード少将!」」」」
また抜き打ち訪問に、全員敬礼をする。
「リザ」
「はい?………っ!?」
そんな様子を見つつ、アイリはリザへ手招きをして、近づいて来たリザの顎に手を添えて上を向かせる。
「…セイフォード少将?」
「………」
何かを確認しているかのように見つめ、離した。
「フィリックス准将」
「はっ」
リザを後ろに控えさせ、アイリは書類に視線を落として。
「これ、あなたのホークアイ中尉に対するパワハラの有無が記載された報告書なんだけどね?」
「……」
顔を上げ、ニコリと笑って。
「事実なの?」
問いかけた。
「……」
ロザリーは眉間に皺を寄せ、アイリの後ろにいるリザを一睨みして。
「お言葉ですがドンッッ
反論しようとした時、アイリが振り返らずに背後にある壁に自分の拳を叩きつけた。
「「「「……ッッッ!!!」」」」
その瞬間に錬金術も発動させたため、壁は大きく割れて数メートルの亀裂も入った。
アイリはロザリーを睨み上げるように。
「聞かれたことに答えろ」
見たことがないアイリの鋭い視線と、低い声に。
オフィスに居た者たちの背筋が凍った。
“ああ、雷鳴の逆鱗に触れた”
そう思い、誰も言葉を発することが出来ないでいた。
「ぁ…う…あ…の…その…」
ロザリーは顔を真っ青にさせ、ガタガタと震え始める。
「事実なのか、否か。どうなの?」
再度アイリが問いかけた時。
「……されてません」
リザが答えた。
アイリはリザへ振り返る。
「リザ?」
眉間に皺を寄せ、リザを見つめる。
「その報告書がどんな内容なのかは存じませんが、厳しい指導をしていただいただけでパワハラを受けたわけではありません。」
リザ自身がパワハラではないと否定した。
「ホークアイ中尉!」
ハボックたちは目を見開くが、リザは首を横に振る。
「リザ…」
アイリは困ったような表情を浮かべて。
「……いいのね?」
問いかけると、リザは真っ直ぐアイリを見つめて。
「いいも何も、パワハラなんて受けてませんから」
ニコリと笑った。
アイリは目を閉じ、ため息を零して。
「…本人がこう言っているから、この件は不問にするわ」
リザの手を引き、オフィスを出ようとすれば。
「セイフォード少将!!私は…っ!!」
ロザリーがアイリを呼び止めた。
「リザが望まないからこの件でこれで終わりだけど、もしまたこんな報告が上がったらリザの意思とは関係なく」
アイリはロザリーへと振り返って。
「私はあなたを許さない」
真っ直ぐな警告を発し、オフィスから出て行った。
「…っ」
ロザリーは俯き、溢れそうになる涙を必死に耐えていた…。
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「ホークアイ中尉」
「!フィリックス准将。お疲れ様です」
「これはあなたが作成した書類よね?」
「はい。そうです」
「誤字、脱字が酷いわ。作り直して」
「え?あ、はい…すみません。確認したつもりでしたが…」
「つもり、じゃダメなのわかる?こういうことは困るから徹底してほしいものだわ」
「はい、申し訳ありません。すぐに直します」
数日前から。
ロザリー・フィリックス准将が東方司令部へとやって来て。
あれやこれやと指示をし始めていた。
仕事の仕方から、上官への態度。
休憩の取り方などなど。
色んなことに口を出していて、東方司令部の面々は快く思っていなくて。
「…中尉…大丈夫っスか…?」
「え?えぇ、大丈夫よ」
特にリザに対しては当たりが強く、何かと文句を言ってくる。
「書類のミスなんて珍しいっスね」
リザは戻された書類を見て、ため息を零す。
「これは私が作成したものではないわ」
「え!?どういうことっスか!?」
ハボックはその書類とリザを交互に見る。
「すり替えられたみたいね」
「何のために…」
「さぁ、何のためかしら」
なんて言うが。
こんなあからさまなことをされて、気づかないわけがない。
ただ、なぜそうされるのかに心当たりがない。
「とりあえず急いで作成し直さないと」
東方司令部からの書類提出が遅くなれば、アイリが困るから。
「…まじフィリックス准将にはどっか行って欲しいっスね…」
「ハボック少尉、不穏当な発言は控えなさい」
誰が聞いているかもわからないのだから、とリザはデスクに付き書類作成をし始めた。
「グラマン中将に報告します?」
「いいから、仕事をしなさい」
リザは大して気にしていないのか、いつもと変わらない様子にハボックは眉間に皺を寄せたのだった。
またある日。
「ちょっといいかしら、ホークアイ中尉」
「フィリックス准将」
「はい、どうされました?」
リザがロイの執務室でロイを見張っていると、ロザリーが入って来た。
「これ、あなたのタイムカードだけれど」
「はい」
ロザリーはリザにリザのタイムカードを見せながら。
「この日とこの日、この日の三日間遅刻ギリギリの出勤には何か理由があるの?」
「ギリギリだとしても、遅刻はしていないので問題ないのでは?」
リザの代わりにロイが言うと。
「マスタング大佐、あなたに聞いているわけじゃないの」
ピシャリと一刀両断。
ロイは肩を竦め、押し黙る。
「この三日間は…その…」
リザは口籠もり、言うか言わないか迷っている。
リザが遅刻ギリギリに出勤した三日間は、アイリと過ごした日だから。
一月の間に三回も一緒に過ごせた奇跡を思い出し、小さく笑みを浮かべれば。
「…何を笑ってるのよ。私を馬鹿にしているの?」
ロザリーは眉間に皺を寄せた。
「いえ、申し訳ありません。」
「…で、この三日間の遅い出勤の理由は?」
答えるまで許さない、というかのように。
リザに詰め寄る。
「その三日間は…」
リザが諦めて言おうとした時に。
コンコン
『私だけど、入るわね』
「「「!!!」」」
アイリの声が聞こえて来た。
「お邪魔しまーす」
アイリが執務室に入れば、三人はすぐに敬礼をした。
「お疲れ様です、セイフォード少将」
ロザリーはニコリと笑みを浮かべる。
「えぇ、あなたもね。フィリックス准将」
アイリも笑みを浮かべ、片手を上げたため三人は敬礼を止めて後ろに組んだ。
「どうされたんですか?」
ロザリーが問うと。
「グラマン中将に呼ばれてね。その前にリザの顔が見たいなーって思って」
来ちゃった、とリザの隣に立つ。
リザはほんのりと頬を赤らめ、ロザリーは眉間に皺を寄せた。
ロイは視線を左から右に動かして。
「セイフォード少将、ホークアイ中尉の遅刻ギリギリの出勤について心当たりありますか?」
アイリにそう問いかけた。
「…ッ!」
すぐにロザリーはロイを睨むが、ロイは素知らぬ顔を浮かべる。
「リザの遅刻ギリギリ出勤?え?私になんでそれを聞く…ああー…この日ねぇ…」
リザのタイムカードの日にちを見て、ニヤニヤと笑い始める。
「この三日間、一緒に過ごしたのよ。一月で三回も一緒に過ごせたことって今までになかったから、そりゃもう、ね?」
「っセイフォード少将、そういう発言は控えてください!」
「えー?だって事実だし、ね?」
「…っ」
アイリとリザが惚気ている時に、ロイはロザリーを見て。
「だそうですよ。」
ニコリと笑うと。
「っセイフォード少将、部下に示しが付きませんよ」
「はーい、控えまーす。リザ、一緒にグラマン中将のところに行きましょ」
「え?私もですか?」
ロザリーは悔しそうに下唇を噛んだ。
それを見て、ロイは確信した。
ロザリーがリザに嫉妬をして、それをパワハラとしてぶつけていることを。
「今日の会食の話をしながらチェスだしいいわよ」
「わかりました」
「じゃあロイ君、フィリックス准将、またね」
「はい、お疲れ様でした」
「…お疲れ様でした」
アイリとリザは執務室から去って、残されたロイとロザリーは。
「フィリックス准将」
「…なにかしら」
「彼女にもしものことが起これば、“雷”が落ちますのでご注意を」
ロイはそう警告をした。
「…ふん」
ロザリーはそんなロイを睨み、執務室から出て行った。
数日後。
「ホークアイ中尉、いいかしら」
「!フィリックス准将」
射撃訓練をしているリザの下に、ロザリーがやって来た。
「あなたの射撃を見せてもらったんだけど、構えてから射出するまで速すぎるわ。正確性も欠けるからもっとしっかり構えたほうがいいわよ?」
リザに、射撃について指導するが。
「……」
「…なに?」
リザが視線を彷徨わせたことに、ロザリーは眉間に皺を寄せた。
「…以前、構えてから射出するまでのスピードと正確無比の狙撃を、見事なものだとセイフォード少将に褒めていただいたことがありますので…」
その気持ちを大切にしたい、とリザが言えば。
パァン
乾いた音が射撃場に響く。
「………」
「やっぱりあなた、私を馬鹿にしてるんでしょ?」
ロザリーがリザの頬を打った音だった。
リザの唇が切れ、血が滲む。
その様子を他の軍人たちは手を止め見ていた。
「いえ、そうではなくて「口答えはいい。あなたはただ上官の言われた通りにすればいいのよ」
リザとロザリーの視線が交差して。
「…了解しました。」
下位官であるリザが折れるしかなかった。
「最初からそう言えばいいの」
ふん、とロザリーは射撃訓練場から去った。
「…ホークアイ中尉、大丈夫ですか…?」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう」
居合わせた者がリザにハンカチを渡して、血の滲む唇を拭った。
「…グラマン中将に報告しましょうよ」
「いえ、大したことじゃないわ」
報告したところで、より一層当たりが強くなるだけ。
面倒だし、はいはい言っていればいい。
とリザはやはり大して気にしていない様子。
「…ホークアイ中尉、その唇の傷はどうしたんだね…」
「乾燥で切れたようです。そんなことより大佐、サボらないでください」
ロイはリザの怪我の理由を知っているのだが、リザはロザリーに打たれたことを言わずに淡々と仕事をこなす。
「わかったよ(さすがに部下に手を出されてはね)」
リザが望まないから、今まで黙っていたけれど。
部下に手を出された以上、放ってはおけないと。
ロイはとある書類に視線を落とした。
「ホークアイ中尉」
「フィリックス准将、どうされましたか?」
また数日後、ロザリーはリザの下にやって来た。
「どうしたもこうしたも、前にも言ったと思うけどこの書類、誤字脱字だらけで中央に提出出来ないのよ」
ロザリーに突き付けられた書類を受け取り、内容を確認する。
確かに誤字脱字は多く、書類として成り立たないだろう。
しかし。
「…申し訳ありません。」
やはりリザが作成したものではなく、すり替えられたもので。
口答えをすればまた打たれて周りに心配をさせてしまうため、リザはただ一言謝罪をした。
「あなた軍人になって何年になるの?ろくに書類も作成出来ないで、よく中尉官になれたものだわ」
「…フィリックス准将、その言い方は…」
ハボックが反論しようとすれば、リザに止められた。
「なに?ハボック少尉」
「…いえ、なんでもありません」
ただ寄らぬオフィスの雰囲気に、みんなピリピリしていた時だった。
「なぁに、この雰囲気。すごいピリピリムードじゃない」
オフィスの扉が開き、アイリが入って来た。
「「「「セイフォード少将!」」」」
また抜き打ち訪問に、全員敬礼をする。
「リザ」
「はい?………っ!?」
そんな様子を見つつ、アイリはリザへ手招きをして、近づいて来たリザの顎に手を添えて上を向かせる。
「…セイフォード少将?」
「………」
何かを確認しているかのように見つめ、離した。
「フィリックス准将」
「はっ」
リザを後ろに控えさせ、アイリは書類に視線を落として。
「これ、あなたのホークアイ中尉に対するパワハラの有無が記載された報告書なんだけどね?」
「……」
顔を上げ、ニコリと笑って。
「事実なの?」
問いかけた。
「……」
ロザリーは眉間に皺を寄せ、アイリの後ろにいるリザを一睨みして。
「お言葉ですがドンッッ
反論しようとした時、アイリが振り返らずに背後にある壁に自分の拳を叩きつけた。
「「「「……ッッッ!!!」」」」
その瞬間に錬金術も発動させたため、壁は大きく割れて数メートルの亀裂も入った。
アイリはロザリーを睨み上げるように。
「聞かれたことに答えろ」
見たことがないアイリの鋭い視線と、低い声に。
オフィスに居た者たちの背筋が凍った。
“ああ、雷鳴の逆鱗に触れた”
そう思い、誰も言葉を発することが出来ないでいた。
「ぁ…う…あ…の…その…」
ロザリーは顔を真っ青にさせ、ガタガタと震え始める。
「事実なのか、否か。どうなの?」
再度アイリが問いかけた時。
「……されてません」
リザが答えた。
アイリはリザへ振り返る。
「リザ?」
眉間に皺を寄せ、リザを見つめる。
「その報告書がどんな内容なのかは存じませんが、厳しい指導をしていただいただけでパワハラを受けたわけではありません。」
リザ自身がパワハラではないと否定した。
「ホークアイ中尉!」
ハボックたちは目を見開くが、リザは首を横に振る。
「リザ…」
アイリは困ったような表情を浮かべて。
「……いいのね?」
問いかけると、リザは真っ直ぐアイリを見つめて。
「いいも何も、パワハラなんて受けてませんから」
ニコリと笑った。
アイリは目を閉じ、ため息を零して。
「…本人がこう言っているから、この件は不問にするわ」
リザの手を引き、オフィスを出ようとすれば。
「セイフォード少将!!私は…っ!!」
ロザリーがアイリを呼び止めた。
「リザが望まないからこの件でこれで終わりだけど、もしまたこんな報告が上がったらリザの意思とは関係なく」
アイリはロザリーへと振り返って。
「私はあなたを許さない」
真っ直ぐな警告を発し、オフィスから出て行った。
「…っ」
ロザリーは俯き、溢れそうになる涙を必死に耐えていた…。
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