ハガレン 旧拍手文置き場
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『休息』
「え?セイフォード少将が?」
「うむ。またグラマン中将がお呼びしたようで、午後からいらっしゃることになった」
「…午前中は西方司令部の査察へ行ってるはずですが…」
「まぁ、チェスは息抜きにはなってるらしいがね」
ある日。
アイリさんが東方司令部へいらっしゃることになった。
またグラマン中将に呼ばれたようで。
昨日電話で、“西方司令部の査察に行く”と言っていたのに…。
中央司令部へ戻るのではなく、西方司令部の査察を終えてからその足で東方司令部へといらっしゃるみたい…。
「…それにしたって、西方司令部へ行っているのに東方司令部に呼ぶなんて…」
アイリさんと会えるのは嬉しい。
でも体が心配…。
体調崩してなければいいけど…。
アイリさんと過ごしたのは、一月ほど前。
もちろん丸一日ではなく、午後から。
その夜も、中央司令部の呼び出しに嫌々応じていたし…。
帰って来たのは空が白んで来てからで。
『ごめんね…リザ…』
『いえ、あまり無理をしないでくださいね…?』
眠らずに、長めのキスをしてそのまままた中央司令部へ戻って行った。
中央司令部は本当にアイリさんなしでは何も出来なくなるくらい頼りきってる。
アイリさんもまたこなしてしまうから余計なのよね。
「こちらに来た時は休んでいただこう」
「そうですね。ですが、休めと言って休む方でもないのですが…」
きっと“ありがとう、でも大丈夫よ”とか言って休まないに決まってる。
無理をしてでも仕事をするあの人を、どうにかして休ませる方法はないのかしら…。
「大佐ー、セイフォード少将そろそろ到着するみたいっスよー」
「わかった、行くぞ中尉」
「はい」
午後1時、アイリさんが到着して。
私たちはお出迎えをしに行く。
みんなで向かい、ずらりと並んで。
グラマン中将も珍しく出て来てて、ニコニコしてる…。
「来たみたいじゃな」
一台の黒い車が入って来た。
車は私たちの前で泊まり、後部座席のドアが開く。
「ありがとね」
運転手にお礼を言い、車から出て来たアイリさん。
「!!」
みんな敬礼をする中。
「毎回お出迎えいらないのに。わざわざありがとう」
アイリさんは私に小さく笑みを浮かべてくれたけど、私は敬礼するのを忘れてしまうくらい目を見開いた。
「…中尉?どうした?」
敬礼をせずずっとアイリさんを見ている私に、マスタング大佐が訝しげに私を見て。
「グラマン中将、私は忙しいと後何回言わせてくれるんですか?」
「んー?そうじゃのう。あと5、6回かな?」
「そんなに呼ばれるんですか…」
アイリさんは苦笑を零し、グラマン中将と話しながら中へ入って行こうとしたのを。
「!!」
アイリさんの腕を掴む事で立ち止まらせた。
「……」
静まり返る。
「?なぁに?」
アイリさんもグラマン中将も、大佐や周りの軍人たちもきょとんとしながら私を見つめていて。
私はアイリさんを見上げて。
「…大丈夫ですか?」
一言そう問いかけた。
「「……」」
静まり返る場に、アイリさんはニコリと笑って。
「大丈夫よ、ありがと」
私の手を優しく解いた。
「具合悪いんかの?」
「いえ、ほら私忙しくしてますから心配してくれてるんですよ」
なんて会話をしながら、アイリさんは行ってしまわれた…。
「君も結構大胆な行動をするんだな」
大佐がニヤニヤ笑いながら私の横に立つ。
「……」
私がアイリさんの背中を見つめたまま、眉間に皺を寄せると。
「どうしたんだい?」
大佐が首を傾げた。
「…すごく体調が悪いと思います」
「え?」
大佐はアイリさんの背中と私を交互に見る。
「……いつも通りにしか見えんが…」
私だけにしかわからない。
アイリさんの些細な体調の変化。
疲労がピークに達してる。
今にも倒れてしまいそうなくらい、疲れてる。
「……なんとかして休ませないと」
「倒れてからじゃ遅いからな」
「はい…」
アイリさん…。
「完全なる私の勝利」
「グラマン中将ももう意地になってますよね」
オフィスで。
グラマン中将とのチェスを終えたアイリさんが顔を出してくれた。
「…セイフォード少将、少し休まれた方がいいです」
「今のチェスで結構休めたから大丈夫よ」
「ですが…」
アイリさんは笑うだけで休もうとしてくれない。
もう…。
人の気も知らないで…。
「少将、将棋のルール覚えてくださいよ」
「将棋?ああ、ブレダ少尉が得意なボードゲームね。ルールブックあるなら次までに覚えておくわよ?」
「マジっスか!ルールブックあるので、ぜひ対戦してください!!」
ブレダ少尉はデスクの引き出しを漁って、ボロボロのルールブックをアイリさんに渡した。
アイリさんはそれを受け取り、パラパラと捲って。
「ふーん…」
目を細めた。
……格好良い。
違うわ、そうじゃなくて。
「……セイフォード少将…」
「んー?大丈夫だって。リザは心配性ね」
何とかしてお休みいただきたいのに、まったく聞く耳を持ってくれない。
「よろしい。次来た時、勝負しましょうか」
「望むところっす!」
アイリさんは不敵な笑みを浮かべ、将棋のルールブックをパタンと閉じた。
「さて、と。そろそろ中央に戻るかな」
と。
一歩前に踏み出した時だった。
「……ッ!?」
「「「ッセイフォード少将ッッ!!!」」」
アイリさんの膝が、ガクンと崩れて。
「ッッ!!」
私がアイリさんを抱き留めることで、床に倒れることはなかったけれど。
「アイリさんッ!!」
「大丈夫っスか!?」
「あー…」
アイリさんは苦笑を零して。
「大丈夫「なわけないじゃないですかッ!今倒れたんですよあなたはッ!」
大丈夫という言葉を遮り、怒る。
「…いえ、急に足に力が入らなくなっただけなの」
「体に限界が来てるんです!ハボック少尉!」
「うーっす。セイフォード少将失礼しまーす」
「っちょ…!」
ハボック少尉はアイリさんを横抱きにして、医務室へと連れて行く。
「………」
…横抱き…じゃなくても…。
肩に腕を回すとか…あるじゃない…。
でもアイリさんを運んでもらったわけだから…。
口には出さないけど…。
「過労ですよ、セイフォード少将」
「いえ、違うわ。ちょっと躓いただけなのよ」
「さっきは足に力が入らなくなったって言ってましたよ」
医務室で。
軍医に診て貰えばやはり過労。
ただ、ここでちゃんとした処置は出来ないから病院へと説得をしてるのだけど…。
「もう大丈夫だから」
頷くわけがないのよね。
「セイフォード少将、今はホークアイ中尉たちが居たからよかったものの、誰も居ないところで倒れられては大変なんです」
マスタング大佐も駆けつけてくれて、説得を試みてくれたんだけど。
「えぇ、わかったわ。もう倒れないから」
わかってくれない…。
アイリさんがいないと、中央司令部は大変になることは理解してる。
でも。
でも。
「…わかりました」
「ホークアイ中尉?」
「まさかセイフォード少将の大丈夫を信じたわけじゃ…」
もう二度と、あんな倒れる瞬間を見るのは嫌。
私はスタスタと歩き、受話器を上げて。
「…リザ?どこに電話をするの?」
アイリさんを見つめて。
「救急車を呼び「待ってちょうだい」
そう言うと、すかさずアイリさんが待ったの声を上げた。
「なんですか」
「リザ、あのね。私が休んだら中央司令部がどうなるかわかるわよね?」
「わかります」
「うん、でね。前々から休むって決めてたわけじゃないからそりゃあ大変なことになるの、わかるわよね?」
「はい、わかります」
「でしょ?だからね、休むわけにはいかないのもわかるわよね?」
「えぇ、わかります」
私を説得しようと必死になってる。
…ちょっと可愛い。
でもダメ。
「言いたいことはそれだけですか?では救急車を呼び「まったくわかってくれてないわよね?」
絶対ダメ。
こればかりは譲れない。
「中央司令部に連絡もしてないのよ!?」
アイリさんが焦る中。
「じゃあ、ワシから中央司令部へ連絡を入れておこうかの」
突然聞こえた声に、振り返ればグラマン中将が入って来て。
「「「「……!?!?」」」」
みんな敬礼をする。
「グラマン中将まで…」
「アイリ君、君が無理をして倒れる方が長く中央司令部を留守にすることになるんだよ?」
グラマン中将は私の傍に立って。
「それは…」
「休息は必要なことじゃ。また元気に働くためのね」
私に笑みを向けてくださる。
「しかし…」
「それでも中央へ戻ると言うなら…」
グラマン中将も受話器を上げて。
「グラマン中将?」
「救急車を呼ぼ「わかりました、わかりましたから」
ついにアイリさんが折れた。
「休ませていただきます…」
「うんうん、じゃあホークアイ中尉。君のご自宅まで送ってあげておくれ」
「了解しました」
「いえ、一人で行けますよ」
アイリさんの言葉に、私とグラマン中将は顔を見合わせて。
「そう言って中央司令部に帰るつもりですよね」
「君の魂胆はわかっておるよ。」
「…なにこの二人怖い…」
ということで。
「ワン!ワン!」
「ハヤテ号ー、ただいまぁ」
私の自宅までアイリさんをお連れした。
「やー、ちょっとリザー」
「ダメです。寝室に行きますよ」
で、キッチンに立とうとするから手を引いて寝室へ。
「ちゃんと休んでください」
「はいはい。まったくあなたには負けたわ…」
アイリさんはベッドへ腰を掛けて、軍服の上着を脱いで。
「………」
佐官から支給されるスカートも脱いで。
ワイシャツとショーツのみの、眠る時のいつもの格好になった。
綺麗で長い足。
ワイシャツのボタンの上二つを外すことによって見え隠れする鎖骨。
「……っ」
思わず息を呑んでしまった。
「はぁ…」
アイリさんはパタリとベッドに倒れ込むように横になって。
「一緒に寝る?」
なんて目を細められたら…。
「…っわ、私は仕事に戻りますから…っ!」
欲情が反応してしまうわよ…。
でも。
「んっ」
キスくらいは…いいわよね…?
「ん…ン…」
会うの久しぶりだし…。
アイリさんが眠る前に…。
「ん…」
「はぁ…」
リップノイズを立てて離れて。
「…じゃあ行ってきますね…」
「えぇ…行ってらっしゃい…」
私がアイリさんへと背中を向け、少しだけ振り返ると。
「……アイリさん?」
アイリさんはすでに、寝息を立てていた。
「……こんな疲れ果てるまで働いて…」
静かにベッドへ歩み寄り、眠るアイリさんの頬に手を添えて。
「…あまり心配させないでください…」
寝息を立てるその唇に、そっとキスをして。
私は仕事へと戻った。
その後。
「ただいま」
仕事を終えて帰宅すれば、ハヤテ号が吠えずに尻尾だけを振って出迎えてくれたということは。
「アイリさん、まだ眠ってるのね」
アイリさんはまだ目覚めてないということ。
ハヤテ号の頭を撫で、寝室へ行く。
月明かりが差し込む寝室のベッドには、アイリさんのシルエットが浮かび上がってて。
「……綺麗な人ね…本当に…」
そのシルエットにただただ見惚れてしまった。
ずっと眠ってるってことは、何も食べてないし飲んでないから。
一度アイリさんを起こさないと。
「…アイリさん、アイリさん」
アイリさんの肩を揺らし、声をかける。
「ん…」
アイリさんは身動いで。
「……ん…ぅ…」
うっすらと目を開けて。
「…おかえり……リザ…」
眠たげに微笑まれれば。
「んん゙ッッ」
その可愛さに、口に手を当てた…。
「っアイリさん…一度起きて、水分摂ってください…」
「…ん…」
アイリさんはゆっくりと体を起こす。
アイリさんの手を引いて、リビングへ行く。
「食事も用意しますので、座って待っててくださいね」
「ん…」
リビングのソファーで、ウトウトしてて。
今にも眠りに就きそう。
「お水です」
「ん、ありがと…」
グラスを受け取ってはくれたけど、飲もうとしないから。
「…んぅ…」
私が水を飲み、アイリさんに口移しで飲ませた。
「は…ぁ…」
まだまだ眠たいみたいで、こんな状態のアイリさんを見たのは初めて…。
「……リザ…」
「はい?」
アイリさんはポンポンと自分の隣を叩くから、そこに座ると。
「!!」
アイリさんが抱き着いて来て。
「…眠くてダメ…もう少し寝かせて…」
ご飯は後回しでいいから寝かせてほしい、と。
「……」
アイリさんに抱き締められたまま、身動きが取れない。
でも…。
「わかりました…」
こんな甘えん坊なアイリさんも初めてだから。
私はアイリさんの背中に腕を回して。
「……ゆっくり眠ってください…」
アイリさんの首筋に顔を埋めた。
2時間後には。
「…めちゃくちゃお腹空いたぁ…」
「かなりの時間眠ってましたからね。今用意します」
「どこか外に出る?」
「いえ、今日はゆっくりしましょう」
アイリさんも目が覚めて、お腹を空かせていたわ。
「今起きて、また眠れますか?」
「多分眠れるわ。でも中央に「救急車呼びますよ?」わかりました…今日はリザの家に泊まります…」
END
「え?セイフォード少将が?」
「うむ。またグラマン中将がお呼びしたようで、午後からいらっしゃることになった」
「…午前中は西方司令部の査察へ行ってるはずですが…」
「まぁ、チェスは息抜きにはなってるらしいがね」
ある日。
アイリさんが東方司令部へいらっしゃることになった。
またグラマン中将に呼ばれたようで。
昨日電話で、“西方司令部の査察に行く”と言っていたのに…。
中央司令部へ戻るのではなく、西方司令部の査察を終えてからその足で東方司令部へといらっしゃるみたい…。
「…それにしたって、西方司令部へ行っているのに東方司令部に呼ぶなんて…」
アイリさんと会えるのは嬉しい。
でも体が心配…。
体調崩してなければいいけど…。
アイリさんと過ごしたのは、一月ほど前。
もちろん丸一日ではなく、午後から。
その夜も、中央司令部の呼び出しに嫌々応じていたし…。
帰って来たのは空が白んで来てからで。
『ごめんね…リザ…』
『いえ、あまり無理をしないでくださいね…?』
眠らずに、長めのキスをしてそのまままた中央司令部へ戻って行った。
中央司令部は本当にアイリさんなしでは何も出来なくなるくらい頼りきってる。
アイリさんもまたこなしてしまうから余計なのよね。
「こちらに来た時は休んでいただこう」
「そうですね。ですが、休めと言って休む方でもないのですが…」
きっと“ありがとう、でも大丈夫よ”とか言って休まないに決まってる。
無理をしてでも仕事をするあの人を、どうにかして休ませる方法はないのかしら…。
「大佐ー、セイフォード少将そろそろ到着するみたいっスよー」
「わかった、行くぞ中尉」
「はい」
午後1時、アイリさんが到着して。
私たちはお出迎えをしに行く。
みんなで向かい、ずらりと並んで。
グラマン中将も珍しく出て来てて、ニコニコしてる…。
「来たみたいじゃな」
一台の黒い車が入って来た。
車は私たちの前で泊まり、後部座席のドアが開く。
「ありがとね」
運転手にお礼を言い、車から出て来たアイリさん。
「!!」
みんな敬礼をする中。
「毎回お出迎えいらないのに。わざわざありがとう」
アイリさんは私に小さく笑みを浮かべてくれたけど、私は敬礼するのを忘れてしまうくらい目を見開いた。
「…中尉?どうした?」
敬礼をせずずっとアイリさんを見ている私に、マスタング大佐が訝しげに私を見て。
「グラマン中将、私は忙しいと後何回言わせてくれるんですか?」
「んー?そうじゃのう。あと5、6回かな?」
「そんなに呼ばれるんですか…」
アイリさんは苦笑を零し、グラマン中将と話しながら中へ入って行こうとしたのを。
「!!」
アイリさんの腕を掴む事で立ち止まらせた。
「……」
静まり返る。
「?なぁに?」
アイリさんもグラマン中将も、大佐や周りの軍人たちもきょとんとしながら私を見つめていて。
私はアイリさんを見上げて。
「…大丈夫ですか?」
一言そう問いかけた。
「「……」」
静まり返る場に、アイリさんはニコリと笑って。
「大丈夫よ、ありがと」
私の手を優しく解いた。
「具合悪いんかの?」
「いえ、ほら私忙しくしてますから心配してくれてるんですよ」
なんて会話をしながら、アイリさんは行ってしまわれた…。
「君も結構大胆な行動をするんだな」
大佐がニヤニヤ笑いながら私の横に立つ。
「……」
私がアイリさんの背中を見つめたまま、眉間に皺を寄せると。
「どうしたんだい?」
大佐が首を傾げた。
「…すごく体調が悪いと思います」
「え?」
大佐はアイリさんの背中と私を交互に見る。
「……いつも通りにしか見えんが…」
私だけにしかわからない。
アイリさんの些細な体調の変化。
疲労がピークに達してる。
今にも倒れてしまいそうなくらい、疲れてる。
「……なんとかして休ませないと」
「倒れてからじゃ遅いからな」
「はい…」
アイリさん…。
「完全なる私の勝利」
「グラマン中将ももう意地になってますよね」
オフィスで。
グラマン中将とのチェスを終えたアイリさんが顔を出してくれた。
「…セイフォード少将、少し休まれた方がいいです」
「今のチェスで結構休めたから大丈夫よ」
「ですが…」
アイリさんは笑うだけで休もうとしてくれない。
もう…。
人の気も知らないで…。
「少将、将棋のルール覚えてくださいよ」
「将棋?ああ、ブレダ少尉が得意なボードゲームね。ルールブックあるなら次までに覚えておくわよ?」
「マジっスか!ルールブックあるので、ぜひ対戦してください!!」
ブレダ少尉はデスクの引き出しを漁って、ボロボロのルールブックをアイリさんに渡した。
アイリさんはそれを受け取り、パラパラと捲って。
「ふーん…」
目を細めた。
……格好良い。
違うわ、そうじゃなくて。
「……セイフォード少将…」
「んー?大丈夫だって。リザは心配性ね」
何とかしてお休みいただきたいのに、まったく聞く耳を持ってくれない。
「よろしい。次来た時、勝負しましょうか」
「望むところっす!」
アイリさんは不敵な笑みを浮かべ、将棋のルールブックをパタンと閉じた。
「さて、と。そろそろ中央に戻るかな」
と。
一歩前に踏み出した時だった。
「……ッ!?」
「「「ッセイフォード少将ッッ!!!」」」
アイリさんの膝が、ガクンと崩れて。
「ッッ!!」
私がアイリさんを抱き留めることで、床に倒れることはなかったけれど。
「アイリさんッ!!」
「大丈夫っスか!?」
「あー…」
アイリさんは苦笑を零して。
「大丈夫「なわけないじゃないですかッ!今倒れたんですよあなたはッ!」
大丈夫という言葉を遮り、怒る。
「…いえ、急に足に力が入らなくなっただけなの」
「体に限界が来てるんです!ハボック少尉!」
「うーっす。セイフォード少将失礼しまーす」
「っちょ…!」
ハボック少尉はアイリさんを横抱きにして、医務室へと連れて行く。
「………」
…横抱き…じゃなくても…。
肩に腕を回すとか…あるじゃない…。
でもアイリさんを運んでもらったわけだから…。
口には出さないけど…。
「過労ですよ、セイフォード少将」
「いえ、違うわ。ちょっと躓いただけなのよ」
「さっきは足に力が入らなくなったって言ってましたよ」
医務室で。
軍医に診て貰えばやはり過労。
ただ、ここでちゃんとした処置は出来ないから病院へと説得をしてるのだけど…。
「もう大丈夫だから」
頷くわけがないのよね。
「セイフォード少将、今はホークアイ中尉たちが居たからよかったものの、誰も居ないところで倒れられては大変なんです」
マスタング大佐も駆けつけてくれて、説得を試みてくれたんだけど。
「えぇ、わかったわ。もう倒れないから」
わかってくれない…。
アイリさんがいないと、中央司令部は大変になることは理解してる。
でも。
でも。
「…わかりました」
「ホークアイ中尉?」
「まさかセイフォード少将の大丈夫を信じたわけじゃ…」
もう二度と、あんな倒れる瞬間を見るのは嫌。
私はスタスタと歩き、受話器を上げて。
「…リザ?どこに電話をするの?」
アイリさんを見つめて。
「救急車を呼び「待ってちょうだい」
そう言うと、すかさずアイリさんが待ったの声を上げた。
「なんですか」
「リザ、あのね。私が休んだら中央司令部がどうなるかわかるわよね?」
「わかります」
「うん、でね。前々から休むって決めてたわけじゃないからそりゃあ大変なことになるの、わかるわよね?」
「はい、わかります」
「でしょ?だからね、休むわけにはいかないのもわかるわよね?」
「えぇ、わかります」
私を説得しようと必死になってる。
…ちょっと可愛い。
でもダメ。
「言いたいことはそれだけですか?では救急車を呼び「まったくわかってくれてないわよね?」
絶対ダメ。
こればかりは譲れない。
「中央司令部に連絡もしてないのよ!?」
アイリさんが焦る中。
「じゃあ、ワシから中央司令部へ連絡を入れておこうかの」
突然聞こえた声に、振り返ればグラマン中将が入って来て。
「「「「……!?!?」」」」
みんな敬礼をする。
「グラマン中将まで…」
「アイリ君、君が無理をして倒れる方が長く中央司令部を留守にすることになるんだよ?」
グラマン中将は私の傍に立って。
「それは…」
「休息は必要なことじゃ。また元気に働くためのね」
私に笑みを向けてくださる。
「しかし…」
「それでも中央へ戻ると言うなら…」
グラマン中将も受話器を上げて。
「グラマン中将?」
「救急車を呼ぼ「わかりました、わかりましたから」
ついにアイリさんが折れた。
「休ませていただきます…」
「うんうん、じゃあホークアイ中尉。君のご自宅まで送ってあげておくれ」
「了解しました」
「いえ、一人で行けますよ」
アイリさんの言葉に、私とグラマン中将は顔を見合わせて。
「そう言って中央司令部に帰るつもりですよね」
「君の魂胆はわかっておるよ。」
「…なにこの二人怖い…」
ということで。
「ワン!ワン!」
「ハヤテ号ー、ただいまぁ」
私の自宅までアイリさんをお連れした。
「やー、ちょっとリザー」
「ダメです。寝室に行きますよ」
で、キッチンに立とうとするから手を引いて寝室へ。
「ちゃんと休んでください」
「はいはい。まったくあなたには負けたわ…」
アイリさんはベッドへ腰を掛けて、軍服の上着を脱いで。
「………」
佐官から支給されるスカートも脱いで。
ワイシャツとショーツのみの、眠る時のいつもの格好になった。
綺麗で長い足。
ワイシャツのボタンの上二つを外すことによって見え隠れする鎖骨。
「……っ」
思わず息を呑んでしまった。
「はぁ…」
アイリさんはパタリとベッドに倒れ込むように横になって。
「一緒に寝る?」
なんて目を細められたら…。
「…っわ、私は仕事に戻りますから…っ!」
欲情が反応してしまうわよ…。
でも。
「んっ」
キスくらいは…いいわよね…?
「ん…ン…」
会うの久しぶりだし…。
アイリさんが眠る前に…。
「ん…」
「はぁ…」
リップノイズを立てて離れて。
「…じゃあ行ってきますね…」
「えぇ…行ってらっしゃい…」
私がアイリさんへと背中を向け、少しだけ振り返ると。
「……アイリさん?」
アイリさんはすでに、寝息を立てていた。
「……こんな疲れ果てるまで働いて…」
静かにベッドへ歩み寄り、眠るアイリさんの頬に手を添えて。
「…あまり心配させないでください…」
寝息を立てるその唇に、そっとキスをして。
私は仕事へと戻った。
その後。
「ただいま」
仕事を終えて帰宅すれば、ハヤテ号が吠えずに尻尾だけを振って出迎えてくれたということは。
「アイリさん、まだ眠ってるのね」
アイリさんはまだ目覚めてないということ。
ハヤテ号の頭を撫で、寝室へ行く。
月明かりが差し込む寝室のベッドには、アイリさんのシルエットが浮かび上がってて。
「……綺麗な人ね…本当に…」
そのシルエットにただただ見惚れてしまった。
ずっと眠ってるってことは、何も食べてないし飲んでないから。
一度アイリさんを起こさないと。
「…アイリさん、アイリさん」
アイリさんの肩を揺らし、声をかける。
「ん…」
アイリさんは身動いで。
「……ん…ぅ…」
うっすらと目を開けて。
「…おかえり……リザ…」
眠たげに微笑まれれば。
「んん゙ッッ」
その可愛さに、口に手を当てた…。
「っアイリさん…一度起きて、水分摂ってください…」
「…ん…」
アイリさんはゆっくりと体を起こす。
アイリさんの手を引いて、リビングへ行く。
「食事も用意しますので、座って待っててくださいね」
「ん…」
リビングのソファーで、ウトウトしてて。
今にも眠りに就きそう。
「お水です」
「ん、ありがと…」
グラスを受け取ってはくれたけど、飲もうとしないから。
「…んぅ…」
私が水を飲み、アイリさんに口移しで飲ませた。
「は…ぁ…」
まだまだ眠たいみたいで、こんな状態のアイリさんを見たのは初めて…。
「……リザ…」
「はい?」
アイリさんはポンポンと自分の隣を叩くから、そこに座ると。
「!!」
アイリさんが抱き着いて来て。
「…眠くてダメ…もう少し寝かせて…」
ご飯は後回しでいいから寝かせてほしい、と。
「……」
アイリさんに抱き締められたまま、身動きが取れない。
でも…。
「わかりました…」
こんな甘えん坊なアイリさんも初めてだから。
私はアイリさんの背中に腕を回して。
「……ゆっくり眠ってください…」
アイリさんの首筋に顔を埋めた。
2時間後には。
「…めちゃくちゃお腹空いたぁ…」
「かなりの時間眠ってましたからね。今用意します」
「どこか外に出る?」
「いえ、今日はゆっくりしましょう」
アイリさんも目が覚めて、お腹を空かせていたわ。
「今起きて、また眠れますか?」
「多分眠れるわ。でも中央に「救急車呼びますよ?」わかりました…今日はリザの家に泊まります…」
END