ハガレン 旧拍手文置き場
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『年越し』
「ごめんねリザ…今年は無理そう…」
『いえ、仕方ないことです。ただご無理はせずに…』
12月31日、大晦日。
私は中央司令部で仕事をしていた。
大総統やレイブン中将、他の将官たちは早々と帰宅して連休を取って。
年末くらい家族でゆっくり過ごすとかほざいて。
年末くらいって何よ。
普段は真面目ですって聞こえるんだけど。
普段から仕事しないくせにもう。
まぁ、去年までと違うとすれば。
コンコン
『クレミン准将です』
クレミン准将がいるということかしら。
「入っていいわよ」
「失礼します。セイフォード少将、こちらは確認済みですので判だけいただければ」
クレミン准将は今年のホワイトデーの時から変わった。
ようやく目覚めてくれて、真面目に働いてくれるようになった。
それでも忙しいけど。
「ありがと。助かる」
誰かが手伝ってくれることで、心に余裕が出来るってものよね。
「……いえ」
「?どうしたの?」
クレミン准将は私のデスクにある書類の山を見渡して。
「………すごいなと思いまして」
書類の量に絶句した。
「ポンコツたちが何にもしないで貯めに貯めた書類がね、一気に回ってくるの」
こんなになるまで貯めないでさっさと持ってきてほしいわよ。
「…期限切れも多数ありましたが、どうしますか?」
「内容次第では各部署に私から謝罪連絡しておくからチェックしておいて」
「…セイフォード少将から、ですか…」
「そ。それも私の仕事みたい」
まぁ、みんな優しいし私の忙しさをわかってくれてるから怒ることはないけどね。
…いえ、将官である私に怒るなんて出来ないか。
「というか、あなた帰らなくていいの?」
クレミン准将の奥様が帰りを待っているんじゃないのかしら。
「妻には年末年始は帰宅出来ないことは伝えてあります」
「あら。奥様わかってくれたんだ?」
「妻はセイフォード少将を信頼しているので大丈夫です」
クレミン准将の奥様にはお会いした事ないけれど、信頼してくれてるって嬉しいわよね。
私は小さく笑みを浮かべて。
「じゃあ、あなたを誘惑してみようかな」
目を細めてやれば、クレミン准将はチラッと私を見て目を伏せて。
「ご冗談を。私は妻を愛していますし、セイフォード少将にもホークアイ中尉という愛して止まない恋人がいらっしゃるでしょう」
そう言った。
「あは!まさかフラれるとは思わなかったわ!」
何かしら焦ったりするかなと思ったのに、意外と冷静だった。
「まったく。では、こちらの書類の確認をしてきます。」
「えぇ、お願い。私はちょっと大総統府へ行ってくるわ」
「大総統いらっしゃいませんよ?」
「置いてくるだけよ。出勤した時に一番に目に入るように」
書類を見せ、コートを羽織って。
「じゃあ行ってくるわね」
「お気をつけて」
中央司令部を出た。
「はぁ…」
中央司令部の入り口で、空を見上げる。
ため息を吐けば白い息が出て、寒さを実感する。
「リザに会いたいなぁ…」
会いたいけど、リザはイーストシティにいて私はセントラルシティにいる。
私たちは遠距離恋愛をしているから、会いたい時に会えない。
さらに、私の忙しさ故に毎日電話もできないし…。
「…声だけでもいい…」
せめて声だけでも聞けたら頑張れるのになぁ。
またため息を零せば白い息が出て。
「本当にもう、リザがいない時期の私ってどうやって年末を乗り切ってたっけってなるわよね…」
小さく笑って前を向く。
「さむさむ!早く行こ!」
仕事はまだまだ山ほどあるんだから、早く行って早く戻らないと!
「!随分時間かかりましたね?」
「もう最悪…ヒューリー中将に捕まっちゃって…」
ヒューリー中将に捕まったことにより、大総統府から中央司令部に戻るまで2時間もかかったわ…。
あんな目と鼻の先にある場所なのに…。
「…ヒューリー少将も残って仕事を?」
「…いえ、“丁度良いところに!私もう帰るから後よろしくね!”って色々押し付けられたわ…」
バサッと書類の束を見せると、クレミン准将は眉間に皺を寄せた。
「………以前の私もそうでしたか」
「あなたは押し付けるというより、上官である私に仕事を押し付けられないから仕事を置いて勝手に帰ってたの」
「……」
「で、私は優しいから別に連絡することもなく独りで寂しく仕事をしていたの。優しいから」
「………」
クレミン准将はさらに深く眉間に皺を寄せたのを見て、私はクスクス笑う。
「あなたも私からは連絡が来ないってわかってたでしょ?」
「………はい」
一人で仕事をしていることも、誰かに頼ることもしない。
だって出来てしまうから。
誰かに頼らずとも、終わらせちゃうから私。
「……ですが今は違います」
「あは!わかってる。頼りにしてるわ」
今はクレミン准将が居るから随分楽になった。
「さて、と!頑張りましょ!」
と、自分の執務室の扉を開けた。
「あ、お疲れ様です。こちらの書類、確認しておきました」
閉めた。
え、待って。
「「………」」
また開けた。
え?どういう…。
「?どうされました?セイフォード少将」
また閉めた。
なんで?どうして?
「なにを「ねぇ、幻?ねぇ、リザよね?ねぇ今リザ居たわよね?」
扉を指し、クレミン准将を見る。
私の執務室にリザがいるの。
ねぇ、嘘よね?
だってリザはイーストシティにいるはずだもの。
まさかエンヴィーが化けてる?
はぁもう、エンヴィーは一回痛い目に合わせないとダメなのかしら。
「落ち着いてください。」
クレミン准将に宥められたと同時に。
「セイフォード少将、どうされたのですか?」
ガチャっと扉が開き、リザが顔を覗かせたから。
「…ッ」
「ッセイフォード少将…ッ!」
ギュウッッと抱き締めた。
違う。
エンヴィーじゃない。
わかる。
本当のリザだ。
ああ、無理離したくない。
ああ、もう離れたくない。
「…なんで居るのよー」
会いたかった。
声が聞きたかった。
私の腕の中でリザはクスリと笑って。
「“とある将官”からグラマン中将へ、“セイフォード少将のやる気が著しく低下中のため大至急ホークアイ中尉を派遣してほしい”という緊急連絡が入りました」
リザを少し離す。
「…“とある将官”?」
しかも緊急連絡って…。
確かにやる気は低下していたけど、仕事速度は落としてないと思う…。
いえ、わからないわね。
自分では気づかないだけかも…。
「グラマン中将も“それは由々しき事態”ということで、私が派遣されました」
リザはクレミン准将を見て。
「そうですよね?」
そう言った。
「え?」
きょとんとリザとクレミン准将を交互に見る。
え、うそ。
「…うっそ…“とある将官”ってクレミン准将なの?」
「……私はくれぐれも名前を出すなと言ったはずだが…」
「名前は口にしてませんよ」
クレミン准将は眉間に皺を寄せて咳払いをして。
「…日付が変わる前には終わらせて帰宅したかっただけですので」
決して私を甘やかすためではない、と。
今度は私とリザが顔を見合わせて。
「あは!ありがと、クレミン准将。超やる気出たから絶対に日付が変わる前に終わらせてみせるわ」
「…はい」
「私も出来うる限りサポートします」
クレミン准将は私とリザを交互に見て。
「………」
スッと指を差して。
“わかってますよね?あまりイチャイチャしすぎないように”と言わんばかりに小さく指を振った。
「わかりましたー」
「わ、わかりました…」
そうして、パタンと扉が閉まった瞬間に。
「ん…っんぅ…っ」
噛み付くようにキスをした。
「ふ…っ」
舌を絡め合わせ、お互いの吐息を吸って。
「んっん…っ」
深く深く求めた。
「…っはぁ…っ」
「は…」
離れた時には透明な糸が私たちを繋いで。
「……抱きたい」
「……ダメに決まってるでしょう」
「今迷ったわよね?」
「ま、迷ってませんっ」
「えー?本当ー?」
抱きたいけど、さすがに中央司令部ではね。
それに仕事もまだまだたくさんあるし。
こうして抱き締めてキスが出来ただけでも疲れなんて吹っ飛んで。
また頑張れる。
「じゃあ帰ってからのお楽しみにするかな」
「…っ」
リザは顔を赤くしながら咳払いをして。
「こちら側の書類は確認してあとは判のみのものを置いてますが、こちら側は私の階級では見るべきものではなかったので未確認です」
「ありがと。本当助かるわ」
椅子に座り、また書類と睨めっこ。
さっきまではため息しか出なかったけれど。
チラッと顔を上げればリザがいる。
癒し。
私の究極の癒し。
「でも会えると思ってなかったから、家に帰っても何もないなぁ…」
「退勤する頃にはお店は閉まってますからね」
家に帰ってもご馳走を作るような材料はない。
「…ですが私は」
「んー?」
リザのほうを見ると、リザは顔を赤くしながら。
「…アイリさんと一緒なら…ご馳走なんてなくても大丈夫です」
なんて、可愛いことを言うものだから。
「……はぁ…なんでこんなに可愛いのかしら…」
悶えた。
そこに。
コン
『私だ、入るぞ』
「「!!」」
オリヴィエの声が聞こえてきて。
「やはり阿保みたく仕事をしていたのか」
「阿保みたくは余計だけどね。あなたこそ、またフィリップさんに引っ張り出されたの?」
「お、お疲れ様です、アームストロング少将」
「あぁ。派遣されたんだな、ホークアイ」
「はい」
カツンと音を立てて入ってきた。
「“年末くらい顔を出せ”とここ一週間、毎日電話が来てな」
「フィリップさんも相変わらずね」
「いつまで子供扱いすれば気が済むのやらな」
オリヴィエは呆れてため息を零し、私とリザは苦笑を零す。
「ですが、中央司令部へはどのようなご用事ですか?」
「なに、ずっと実家にいるのは気が滅入るから来ただけさ」
大した用はないって言うから。
「軍服で来たってことは、働く気できたのよね?」
ん、と。
オリヴィエに書類の束を渡す。
「貴様はまだこんなくだらない書類と睨めっこをしているのか」
「くだらない書類じゃない書類があるかもしれないじゃない」
「あったことは?」
「ないわね」
「ないんですか…」
私たちは三人同時にため息を零した時。
「あ、そうだ」
「どうしました?」
「オリヴィエ、暇なんでしょ?」
「暇ではないが時間はある」
「世間ではそれを暇って言うのよ。ね、アームストロング家の名前でケーキの材料調達出来ない?」
「なに?」
リザとオリヴィエは顔を見合わせる。
「年末に仕事をしている可哀想な野郎たちに、せめてケーキだけでも焼いてあげようかなって」
「ケーキが焼き上がるまでに結構時間がかかりますよ?」
リザの問いに、私はニコリと笑って。
「そこはほら、私頭良いから」
そう言った。
「…アメストリスが誇る最強の頭脳ですもんね、あなたは」
「こいつに口で勝てる奴はこの国にはいないな」
オリヴィエはクツクツと笑って扉のほうへ。
「集めるのに些か時間がかかるぞ」
「えぇ、準備しとく」
「わかった」
材料調達はオリヴィエに任せて。
「リザは残ってる人たちの人数を把握して、私に教えてちょうだい。私は食堂にいるから」
「わかりました…ですが、仕事はいいんですか?」
仕事、ね。
デスクにある書類を見て。
「優先すべきは年末年始をここで過ごす野郎たちにケーキを食べさせること!仕事なんてあとあと!」
ニッと悪戯に笑うと。
「年末年始、残ってよかったという思い出に変わりますね」
リザも可愛らしく微笑んだ。
「…一回抱い「では行ってきますね!」
リザは頬を赤らめながら執務室を出て行った。
「可愛いなぁもう」
で、私も。
「オリヴィエのことだから、きっとケーキの材料のほかにいろんな料理も手配してくれそうね」
それらに向けて、色々準備をするべく。
「何人いるかなー」
年末年始を中央司令部で過ごす愛すべき部下たちに。
「セイフォード少将のケーキ!?!?」
「嘘だろ!?今日仕事でよかったぁあ!」
「一生セイフォード少将について行きます!」
「今日いる人全員の分あるんですか!?」
「やぁあ!大好きですセイフォード少将っ!」
「オリヴィエ…アームストロング少将のおかげでもあるから、ちゃんとお礼言うように」
「「「「アームストロング少将ありがとうございます!!!」」」」
「…うむ」
一肌脱ぐのが上司ってものよね。
「大喜びですね」
「本当ね」
「阿保な奴らだ」
食堂で、私とリザ、オリヴィエはちょっと離れたところから大喜びする部下たちを見つめて。
「しかし、たまにはこんな日があってもよかろう」
オリヴィエも珍しく楽しそうで。
私とリザは顔を見合わせて。
「そうね」
「そうですね」
同時に発し、笑い合った。
年末年始に仕事を押し付けられるのはもう慣れていたはずなのに。
リザと交際してから、こういうイベントの時はリザにたまらなく会いたくなる。
いえ、いつでも毎日会いたいんだけど。
世間が恋人たちでイチャイチャしてる時、私もイチャイチャしたいって思うようになった。
リザと交際してガラッと変わった自分の感情に、小さく笑みを浮かべて。
「今年は三人で年明けね」
「阿保こけ。私は帰る」
「え!?手伝ってくれないの!?」
「大丈夫です。アームストロング少将は手伝ってくださいますよ」
「………」
「オリヴィエもリザには敵わないわね。好きになったら許さないから」
「阿保が」
今年は私とリザ、オリヴィエの三人で年を越した。
「…コーヒーをお持ちしました」
「あ、ありがと」
「うむ」
「ありがとうございます、クレミン准将」
あ、クレミン准将も一緒に、ね。
END
「ごめんねリザ…今年は無理そう…」
『いえ、仕方ないことです。ただご無理はせずに…』
12月31日、大晦日。
私は中央司令部で仕事をしていた。
大総統やレイブン中将、他の将官たちは早々と帰宅して連休を取って。
年末くらい家族でゆっくり過ごすとかほざいて。
年末くらいって何よ。
普段は真面目ですって聞こえるんだけど。
普段から仕事しないくせにもう。
まぁ、去年までと違うとすれば。
コンコン
『クレミン准将です』
クレミン准将がいるということかしら。
「入っていいわよ」
「失礼します。セイフォード少将、こちらは確認済みですので判だけいただければ」
クレミン准将は今年のホワイトデーの時から変わった。
ようやく目覚めてくれて、真面目に働いてくれるようになった。
それでも忙しいけど。
「ありがと。助かる」
誰かが手伝ってくれることで、心に余裕が出来るってものよね。
「……いえ」
「?どうしたの?」
クレミン准将は私のデスクにある書類の山を見渡して。
「………すごいなと思いまして」
書類の量に絶句した。
「ポンコツたちが何にもしないで貯めに貯めた書類がね、一気に回ってくるの」
こんなになるまで貯めないでさっさと持ってきてほしいわよ。
「…期限切れも多数ありましたが、どうしますか?」
「内容次第では各部署に私から謝罪連絡しておくからチェックしておいて」
「…セイフォード少将から、ですか…」
「そ。それも私の仕事みたい」
まぁ、みんな優しいし私の忙しさをわかってくれてるから怒ることはないけどね。
…いえ、将官である私に怒るなんて出来ないか。
「というか、あなた帰らなくていいの?」
クレミン准将の奥様が帰りを待っているんじゃないのかしら。
「妻には年末年始は帰宅出来ないことは伝えてあります」
「あら。奥様わかってくれたんだ?」
「妻はセイフォード少将を信頼しているので大丈夫です」
クレミン准将の奥様にはお会いした事ないけれど、信頼してくれてるって嬉しいわよね。
私は小さく笑みを浮かべて。
「じゃあ、あなたを誘惑してみようかな」
目を細めてやれば、クレミン准将はチラッと私を見て目を伏せて。
「ご冗談を。私は妻を愛していますし、セイフォード少将にもホークアイ中尉という愛して止まない恋人がいらっしゃるでしょう」
そう言った。
「あは!まさかフラれるとは思わなかったわ!」
何かしら焦ったりするかなと思ったのに、意外と冷静だった。
「まったく。では、こちらの書類の確認をしてきます。」
「えぇ、お願い。私はちょっと大総統府へ行ってくるわ」
「大総統いらっしゃいませんよ?」
「置いてくるだけよ。出勤した時に一番に目に入るように」
書類を見せ、コートを羽織って。
「じゃあ行ってくるわね」
「お気をつけて」
中央司令部を出た。
「はぁ…」
中央司令部の入り口で、空を見上げる。
ため息を吐けば白い息が出て、寒さを実感する。
「リザに会いたいなぁ…」
会いたいけど、リザはイーストシティにいて私はセントラルシティにいる。
私たちは遠距離恋愛をしているから、会いたい時に会えない。
さらに、私の忙しさ故に毎日電話もできないし…。
「…声だけでもいい…」
せめて声だけでも聞けたら頑張れるのになぁ。
またため息を零せば白い息が出て。
「本当にもう、リザがいない時期の私ってどうやって年末を乗り切ってたっけってなるわよね…」
小さく笑って前を向く。
「さむさむ!早く行こ!」
仕事はまだまだ山ほどあるんだから、早く行って早く戻らないと!
「!随分時間かかりましたね?」
「もう最悪…ヒューリー中将に捕まっちゃって…」
ヒューリー中将に捕まったことにより、大総統府から中央司令部に戻るまで2時間もかかったわ…。
あんな目と鼻の先にある場所なのに…。
「…ヒューリー少将も残って仕事を?」
「…いえ、“丁度良いところに!私もう帰るから後よろしくね!”って色々押し付けられたわ…」
バサッと書類の束を見せると、クレミン准将は眉間に皺を寄せた。
「………以前の私もそうでしたか」
「あなたは押し付けるというより、上官である私に仕事を押し付けられないから仕事を置いて勝手に帰ってたの」
「……」
「で、私は優しいから別に連絡することもなく独りで寂しく仕事をしていたの。優しいから」
「………」
クレミン准将はさらに深く眉間に皺を寄せたのを見て、私はクスクス笑う。
「あなたも私からは連絡が来ないってわかってたでしょ?」
「………はい」
一人で仕事をしていることも、誰かに頼ることもしない。
だって出来てしまうから。
誰かに頼らずとも、終わらせちゃうから私。
「……ですが今は違います」
「あは!わかってる。頼りにしてるわ」
今はクレミン准将が居るから随分楽になった。
「さて、と!頑張りましょ!」
と、自分の執務室の扉を開けた。
「あ、お疲れ様です。こちらの書類、確認しておきました」
閉めた。
え、待って。
「「………」」
また開けた。
え?どういう…。
「?どうされました?セイフォード少将」
また閉めた。
なんで?どうして?
「なにを「ねぇ、幻?ねぇ、リザよね?ねぇ今リザ居たわよね?」
扉を指し、クレミン准将を見る。
私の執務室にリザがいるの。
ねぇ、嘘よね?
だってリザはイーストシティにいるはずだもの。
まさかエンヴィーが化けてる?
はぁもう、エンヴィーは一回痛い目に合わせないとダメなのかしら。
「落ち着いてください。」
クレミン准将に宥められたと同時に。
「セイフォード少将、どうされたのですか?」
ガチャっと扉が開き、リザが顔を覗かせたから。
「…ッ」
「ッセイフォード少将…ッ!」
ギュウッッと抱き締めた。
違う。
エンヴィーじゃない。
わかる。
本当のリザだ。
ああ、無理離したくない。
ああ、もう離れたくない。
「…なんで居るのよー」
会いたかった。
声が聞きたかった。
私の腕の中でリザはクスリと笑って。
「“とある将官”からグラマン中将へ、“セイフォード少将のやる気が著しく低下中のため大至急ホークアイ中尉を派遣してほしい”という緊急連絡が入りました」
リザを少し離す。
「…“とある将官”?」
しかも緊急連絡って…。
確かにやる気は低下していたけど、仕事速度は落としてないと思う…。
いえ、わからないわね。
自分では気づかないだけかも…。
「グラマン中将も“それは由々しき事態”ということで、私が派遣されました」
リザはクレミン准将を見て。
「そうですよね?」
そう言った。
「え?」
きょとんとリザとクレミン准将を交互に見る。
え、うそ。
「…うっそ…“とある将官”ってクレミン准将なの?」
「……私はくれぐれも名前を出すなと言ったはずだが…」
「名前は口にしてませんよ」
クレミン准将は眉間に皺を寄せて咳払いをして。
「…日付が変わる前には終わらせて帰宅したかっただけですので」
決して私を甘やかすためではない、と。
今度は私とリザが顔を見合わせて。
「あは!ありがと、クレミン准将。超やる気出たから絶対に日付が変わる前に終わらせてみせるわ」
「…はい」
「私も出来うる限りサポートします」
クレミン准将は私とリザを交互に見て。
「………」
スッと指を差して。
“わかってますよね?あまりイチャイチャしすぎないように”と言わんばかりに小さく指を振った。
「わかりましたー」
「わ、わかりました…」
そうして、パタンと扉が閉まった瞬間に。
「ん…っんぅ…っ」
噛み付くようにキスをした。
「ふ…っ」
舌を絡め合わせ、お互いの吐息を吸って。
「んっん…っ」
深く深く求めた。
「…っはぁ…っ」
「は…」
離れた時には透明な糸が私たちを繋いで。
「……抱きたい」
「……ダメに決まってるでしょう」
「今迷ったわよね?」
「ま、迷ってませんっ」
「えー?本当ー?」
抱きたいけど、さすがに中央司令部ではね。
それに仕事もまだまだたくさんあるし。
こうして抱き締めてキスが出来ただけでも疲れなんて吹っ飛んで。
また頑張れる。
「じゃあ帰ってからのお楽しみにするかな」
「…っ」
リザは顔を赤くしながら咳払いをして。
「こちら側の書類は確認してあとは判のみのものを置いてますが、こちら側は私の階級では見るべきものではなかったので未確認です」
「ありがと。本当助かるわ」
椅子に座り、また書類と睨めっこ。
さっきまではため息しか出なかったけれど。
チラッと顔を上げればリザがいる。
癒し。
私の究極の癒し。
「でも会えると思ってなかったから、家に帰っても何もないなぁ…」
「退勤する頃にはお店は閉まってますからね」
家に帰ってもご馳走を作るような材料はない。
「…ですが私は」
「んー?」
リザのほうを見ると、リザは顔を赤くしながら。
「…アイリさんと一緒なら…ご馳走なんてなくても大丈夫です」
なんて、可愛いことを言うものだから。
「……はぁ…なんでこんなに可愛いのかしら…」
悶えた。
そこに。
コン
『私だ、入るぞ』
「「!!」」
オリヴィエの声が聞こえてきて。
「やはり阿保みたく仕事をしていたのか」
「阿保みたくは余計だけどね。あなたこそ、またフィリップさんに引っ張り出されたの?」
「お、お疲れ様です、アームストロング少将」
「あぁ。派遣されたんだな、ホークアイ」
「はい」
カツンと音を立てて入ってきた。
「“年末くらい顔を出せ”とここ一週間、毎日電話が来てな」
「フィリップさんも相変わらずね」
「いつまで子供扱いすれば気が済むのやらな」
オリヴィエは呆れてため息を零し、私とリザは苦笑を零す。
「ですが、中央司令部へはどのようなご用事ですか?」
「なに、ずっと実家にいるのは気が滅入るから来ただけさ」
大した用はないって言うから。
「軍服で来たってことは、働く気できたのよね?」
ん、と。
オリヴィエに書類の束を渡す。
「貴様はまだこんなくだらない書類と睨めっこをしているのか」
「くだらない書類じゃない書類があるかもしれないじゃない」
「あったことは?」
「ないわね」
「ないんですか…」
私たちは三人同時にため息を零した時。
「あ、そうだ」
「どうしました?」
「オリヴィエ、暇なんでしょ?」
「暇ではないが時間はある」
「世間ではそれを暇って言うのよ。ね、アームストロング家の名前でケーキの材料調達出来ない?」
「なに?」
リザとオリヴィエは顔を見合わせる。
「年末に仕事をしている可哀想な野郎たちに、せめてケーキだけでも焼いてあげようかなって」
「ケーキが焼き上がるまでに結構時間がかかりますよ?」
リザの問いに、私はニコリと笑って。
「そこはほら、私頭良いから」
そう言った。
「…アメストリスが誇る最強の頭脳ですもんね、あなたは」
「こいつに口で勝てる奴はこの国にはいないな」
オリヴィエはクツクツと笑って扉のほうへ。
「集めるのに些か時間がかかるぞ」
「えぇ、準備しとく」
「わかった」
材料調達はオリヴィエに任せて。
「リザは残ってる人たちの人数を把握して、私に教えてちょうだい。私は食堂にいるから」
「わかりました…ですが、仕事はいいんですか?」
仕事、ね。
デスクにある書類を見て。
「優先すべきは年末年始をここで過ごす野郎たちにケーキを食べさせること!仕事なんてあとあと!」
ニッと悪戯に笑うと。
「年末年始、残ってよかったという思い出に変わりますね」
リザも可愛らしく微笑んだ。
「…一回抱い「では行ってきますね!」
リザは頬を赤らめながら執務室を出て行った。
「可愛いなぁもう」
で、私も。
「オリヴィエのことだから、きっとケーキの材料のほかにいろんな料理も手配してくれそうね」
それらに向けて、色々準備をするべく。
「何人いるかなー」
年末年始を中央司令部で過ごす愛すべき部下たちに。
「セイフォード少将のケーキ!?!?」
「嘘だろ!?今日仕事でよかったぁあ!」
「一生セイフォード少将について行きます!」
「今日いる人全員の分あるんですか!?」
「やぁあ!大好きですセイフォード少将っ!」
「オリヴィエ…アームストロング少将のおかげでもあるから、ちゃんとお礼言うように」
「「「「アームストロング少将ありがとうございます!!!」」」」
「…うむ」
一肌脱ぐのが上司ってものよね。
「大喜びですね」
「本当ね」
「阿保な奴らだ」
食堂で、私とリザ、オリヴィエはちょっと離れたところから大喜びする部下たちを見つめて。
「しかし、たまにはこんな日があってもよかろう」
オリヴィエも珍しく楽しそうで。
私とリザは顔を見合わせて。
「そうね」
「そうですね」
同時に発し、笑い合った。
年末年始に仕事を押し付けられるのはもう慣れていたはずなのに。
リザと交際してから、こういうイベントの時はリザにたまらなく会いたくなる。
いえ、いつでも毎日会いたいんだけど。
世間が恋人たちでイチャイチャしてる時、私もイチャイチャしたいって思うようになった。
リザと交際してガラッと変わった自分の感情に、小さく笑みを浮かべて。
「今年は三人で年明けね」
「阿保こけ。私は帰る」
「え!?手伝ってくれないの!?」
「大丈夫です。アームストロング少将は手伝ってくださいますよ」
「………」
「オリヴィエもリザには敵わないわね。好きになったら許さないから」
「阿保が」
今年は私とリザ、オリヴィエの三人で年を越した。
「…コーヒーをお持ちしました」
「あ、ありがと」
「うむ」
「ありがとうございます、クレミン准将」
あ、クレミン准将も一緒に、ね。
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