ハガレン 旧拍手文置き場
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『幼児化事件』
「…な、なにこれ…」
ある日、それは起きた。
朝起きて、ベッドから降りようとした時に。
「……?」
床に足が付かないことに違和感を覚え、ベッドの下を見ると。
「!?!?」
ベッドが高くなってることに気付いた。
「え?なに?私の家ではない場所?」
寝ている間に誘拐された?
いえ、そんなの気付かないわけがない。
いえ、眠らされた?
いえ、昨日は帰宅が遅く夕食は摂らずにミネラルウォーターしか口にしていない。
それに、部屋を見渡しても家具も家具の配置も私の部屋であるのは確か。
じゃあどうしてベッドが高いの?
どうして床に足が……。
「………え?」
ふと自分の足を見ると、ルームウェアがブカブカで足が見えなかった。
サイズの大きなルームウェアを着ているみたいで。
「え?」
手を見ても同じ。
ルームウェアに埋もれて見えないの。
「え?嘘…」
ベッドが高くなったのではなく…。
「…わたしが…ちぢん…だ…?」
え?
なぜ?
どうして?
何が起こっているの?
「…アイリさん…っ」
わからない。
自分の身に何が起きてるのかわからない。
私は何とかベッドから降りて、歩こうにも服が大きすぎて歩けない。
「…しかたないわね」
仕方ないから服を脱いで、落ちていたタオルで体を隠す。
「ワン!ワンワン!」
「ハヤテごう…」
寝室から出れば、ハヤテ号が迎えてくれて。
ハヤテ号は縮まず、成犬のまま。
「キューン…」
私の体の異変に、ハヤテ号も心配そう。
「だいじょうぶよ…ハヤテごう…」
ハヤテ号の頭を撫でてあげて、ハヤテ号と一緒に電話のところへ行く。
「いらっしゃるかしら…アイリさん…」
でも、ご自宅へ電話しても出なくて。
「…やっぱりもうしゅっきんしてるわね…」
中央司令部へかけてみよう。
『はい、セントラルシティ 中央司令部です』
「…あ…あの…リザ・ホークアイ ちゅういです… セイフォードしょうしょうはいらっしゃいますでしょうか…?」
今の私の声が幼すぎて…。
『お嬢ちゃん、ホークアイ中尉の知り合いかな?リザお姉ちゃんと代わってくれるかな?』
…やっぱり本人だと思われないわね…。
「あの…わたしです…セイフォードしょうしょうに…」
アイリさんに繋いで欲しいのだけど。
『んー…困ったなぁ…リザお姉ちゃんに内緒でイタズラ電話はよくないよー?』
イタズラだと思われてる…。
本人確認も取れないのに将官に繋ぐわけにはいかないわよね…。
『じゃあ、リザお姉ちゃんから掛けてもらうようにしてね?またね』
「あ…」
切れてしまった…。
「……どうしよう…」
電話しても繋いでもらえないし、東方司令部にかけてみようかしら…。
いえ、きっと同じ対応になるわね…。
今日が非番でよかったけれど…。
このまま一人でいるのは不安すぎる…。
「…せんとらるしてぃにいってみようかしら…」
中央司令部に行って、申し訳ないけれど受け付けでアイリさんを出してもらえるまで粘ってみようか迷う。
「…ごめいわくをかけてしまうわよね…」
でもこんな状態で一人で…というか。
………子供用の服、ない。
「……やっぱりイタズラにおもわれるかもしれないけど…アイリさんにつないでもらえるまでかけたほうがいいわね…」
ごめんなさいアイリさん…。
ごめんなさい中央司令部の皆さん…。
どうかアイリさんに繋いでもらえますように…。
「悪戯電話?」
「ホークアイ中尉の名で、あなたを出して欲しいと子供かららしいですよ」
ある日、中央司令部に私宛の悪戯電話がかかって来た。
しかもリザの名前を語る悪戯電話らしい。
大人なら悪質な悪戯電話だけど、子供からならちょっとした悪戯なのかな?とは思う。
でもどうしてリザの名前を?
どこでリザの名前を知ったの?
誰かが子供にリザの名前を利用させて、私を誘き出そうとしてる?
すごい不思議よね。
「事件性はなさそうなの?」
「誰かに言わされている感じはなく、どうしてもあなたと話したいと何回もかかってくるようです」
リザの名前を語る子供が私と、ねぇ。
クレミン准将は書類を見ながら。
「次にかかって来たら、あなたに繋ぐように言いますか?」
私が気にしてることに気づいて、そう言った。
「えぇ、ちょっとその子と話してみようかしら。何か困ってるのかもしれないし」
リザの名を語る以上、放ってはおけないしね。
同姓同名なのかを確認して、私に何の用なのかを聞かないと。
「では、受け付けに言っておきます」
「お願いね」
クレミン准将は敬礼をして、執務室を去った。
5分後に。
『セイフォード少将、例の子供からかかってきました』
すぐ電話がかかって来た。
「繋いでちょうだい」
『わかりました』
その子と話すべく、繋いでもらうと。
『…も、もしもし…アイリさん…ですか…?』
オドオドした女の子の声が聞こえた。
「えぇ、そうよ。あなたのお名前は?」
名前は“リザ・ホークアイ”と名乗るのは知ってるけど、本人から聞きたい。
『わたしです…リザです…』
やっぱりリザの名前を語った。
「そう、リザちゃん。リザちゃんはどうして私に電話をかけてきたのかな?何か困り事?」
怖がらせないように優しく。
『…ほんとうにわたしなんです…アイリさん…っ』
ちょっと泣きそうな声色。
本当に“リザ・ホークアイ”だと言われても…。
どう聞いても子供の声だしなぁ…。
「んー」
困ってると、控えめに扉が開きクレミン准将が顔を覗かせた。
クレミン准将も気になってるみたいで、ちょいちょいと手招きをして入らせた。
「どうなさるのですか?」
小さな声で問われて、私は受話器の通話口を押さえて。
「どうしたものかしらねぇ…」
どうしようか悩んでいた時。
『…ワン!ワンワン!』
受話器の向こうから犬の鳴き声が。
「!犬を飼ってるのね」
『…ブラック・ハヤテごうです…』
「………ハヤテ号?」
ハヤテ号の名前を口にした。
え?
リザのハヤテ号と同じ名前?
……うそ、待って。
リザと同じ名前の子と、リザの犬と同じ名前の犬?
私はクレミン准将と視線を合わせて。
「…あなた、お祖父さんいる?名前はわかる?」
恐る恐る祖父の名前を聞いてみると。
『…とうほうしれいぶのしれいかん…グラマンちゅうじょうです…』
グラマン中将の名前を口にした。
嘘でしょ。
「…え…本当に…リザ…なの…?」
本当にリザ?
本物のリザなの?
『そうです…アイリさん…っ』
嗚咽する声に。
「すぐ行くから待ってて」
居ても立っても居られなくて。
『はやく…きてくださ…っ』
「すぐ行く」
そう言って受話器を置けば。
「こちらは何とかしますので」
クレミン准将もわかったようで、そう言ってくれた。
「えぇ、ありがとう。ごめんね」
どうして子供になってるの?
一体何があったの?
気になることばかりだけど、とにかく今は一刻も早くリザのところに行かないと。
「行ってくるわね」
「はい、お気をつけて」
すぐに中央司令部を出てリザのところへ向かった。
.
リザの自宅に着き、合鍵で鍵を開けて中に入る。
「リザ!!」
「アイリさん…っ」
「ワン!」
出迎えてくれたのは、子供の姿のリザとハヤテ号。
「ハヤテ号、ありがとうね。あなたの鳴き声でリザに気付けたわ…」
「キューン」
リザを抱き締めながら、まずはハヤテ号の頭を撫でる。
「…リザ、何があったの?」
着れる服がないからか、バスタオルで身を隠している小さなリザ。
「…わか…っわかりませんっおきたら…っこんなすがたに…っ」
ヒックヒックと嗚咽しながら泣く小さなリザ。
……不謹慎だけど、可愛すぎる…。
リザの子供の頃の写真はグラマン中将に見せてもらったことあるから知ってるけど、こうして本物を見るのは初めて。
「…起きたら子供に、か。何が理由か調べる前に、服を何とかしないとね」
「…だっこしてください…」
「やぁだ可愛すぎるんだけど…」
お望みのままリザを抱っこして、寝室へ行く。
「この服を使ってもいい?」
「はい…」
色合い的に、この服が良さげね。
可愛いワンピースにしちゃお。
と、錬金術で6才くらいの女の子が着るような可愛いワンピースに変えて。
「はいリザ、これ着て」
「………」
リザに渡せば、不満そうな顔をした。
普段のリザなら絶対に着ないだろうワンピース。
でもほら、今は子供だから。
ね?
可愛い服着て欲しいじゃない?ね?
「…もっと…なんか…」
「えー?でも可愛いし、ほら」
「……」
リザは渋々ワンピースを着て。
「髪はポニーテールがいいわね」
大きな赤いリボン付きのゴムを錬成し、ポニーテールにして付けてあげた。
「……可愛すぎる…」
「…こどもじゃないですよっ」
ほんのり頬を赤らめながらそう言っても、逆に可愛さが増すだけ。
「…お買い物行かない?」
なんかもうたくさん買ってあげたい。
オモチャとか、お洋服とか、お菓子とか。
なんかもたくさん色んなものを。
「…いきませんっ!アイリさん、わたしはこまってるんですよ…っ!」
「やだぁ…可愛すぎてどうしよう…」
そんな怒ったってただただ可愛いだけなのに。
「ちょっとだけだから、ね?行きましょう。というか連れて行くわ」
「アイリさんっ」
リザの自宅にある私の私服に着替え、またリザを抱っこする。
「はい行きましょー」
「おろしてくださいっ」
降ろしてと言うわりに、降りたそうではなくて。
「本当に降ろしてほしい?自分で歩く?」
そう聞くと。
「……やです…」
ギュッと私の首に腕を回した。
「はぁ可愛い…やばいなぁもう…」
はぁ…可愛すぎてやばい…。
「こんな服どう?」
「…わたしのこのみではないです」
「でも絶対似合うのよね。よし買い」
「アイリさんっむだづかいダメですよ…!」
「このリュック背負って欲しい」
「……や「買うわね」
某ショッピングモールで、アイリさんと子供服売り場にて。
アイリさんが可愛らしい子供服をたくさんカゴに入れ始めた。
無駄遣いは駄目と言ってるのに、金銭感覚がバブちゃんだからお構いなしになってる…。
「でも、私に繋げてもらえるまで電話をかけ続けたのを考えると、ちょっと笑っちゃう」
アイリさんはクスクス笑いながら服を見てる。
「…ひっしだったんです。ひとりでいるのふあんですし…もうしわけないですが、つなげてもらえるまでかけさせていただきました…」
元の姿に戻ったらお詫びの品を持っていかないと…。
「うんうん、正しい選択でした」
「ハヤテごうにかんしゃしないと…」
ハヤテ号が吠えてくれたおかげで違和感に気付いてくれたから。
「ハヤテ号は本当に優秀よね」
どの軍用犬よりも優秀だとアイリさんは褒めてくれた。
「このお店ではこのくらいかなー」
「…このおみせではってなんですか。もうひつようないですよ」
お会計をして、その金額は…。
「………」
絶句。
……怖くて口に出せない。
「ブランド品ってすごいわよね」
「アイリさん…おねがいですからむだづかいしないでください…っ!」
「えー?無駄ではないわよ。全部リザに着てもらうし」
子供の私ではこの人は止められない…。
「ね、アイス食べに行かない?」
紙袋を2つ腕に下げたまま私を抱っこしてくれた。
「…いきません…もうかえりましょう」
「アイスいらない?」
「……たべたい」
「一回断るって申し訳なさが出てる証拠よね。そんなリザも可愛すぎるだけなんだけどね」
すっかり子供扱いされてしまってる…。
今は子供だから仕方ないのだけど…。
「三段にする?」
「あ、にだんで…」
いえ二段って。
そこは一段でいいでしょう私。
…なんだかんだで私も子供を演じてしまってるわよね。
だって、アイリさんが抱っこしてくれるし。
服は子供服だけど、選んでる姿をみると楽しそうだし。
可愛い可愛いって言ってくれるし。
いえ、それはいつもだけど。
それに、抱っこしてくれるし。
「お金払って来るから食べててね」
「はい…」
アイスを持たされ、近くのベンチで座って待つ。
スプーンでアイスを掬い、一口食べる。
「…おいしい」
美味しいアイス。
もう一口食べようとした時だった。
「ッ!?!?」
突然体が浮いて、その拍子にアイスを落としてしまった。
見上げれば知らない男で。
ああ、誘拐だ。
すぐにわかった。
「アイリさ…ッ!!」
アイリさんのほうを見てもアイリさんは居なくて。
どこへ、なんて思っていればまた私の体に腕が巻き付いて。
そして。
ドガガ…ッ
「ぐわ…ッ」
誘拐犯が吹っ飛んだ…。
私を抱っこしてくれてるのはアイリさんで、誘拐犯に回し蹴りをしたんだと後で分かった。
「白昼堂々と誘拐だなんて、随分舐めた真似をしてくれたわね」
アイリさんを見上げると、眉間に皺を寄せていて。
「……」
恐怖よりも、アイリさんの格好良さが勝ってしまって心臓が煩かった。
誘拐犯は錬金術で拘束され、アイリさんが東方司令部に通報した。
「ごめんね?リザ…怖かったわよね…」
「…いえ、アイリさんカッコよかったです」
ギュウッと抱き締めてくれた。
「…ホークアイ中尉、なんですか!?」
駆け付けたマスタング大佐が驚くように私を見る。
「そうです…」
「子供になっちゃったみたいで、必死に中央司令部に電話して知らせてくれたのよ」
「な、何がどうなって…」
誘拐事件もあったことで、買い物どころではなくなったため。
「後はよろしくね、ロイ君」
「は、はい。しかし後ほどホークアイ中尉のご自宅に伺いますので詳しく聞かせてください」
マスタング大佐に事後処理を任せ、私たちは帰路に着いた。
「このミネラルウォーターをねぇ」
「…きのうはきたくがおそかったので、しょくじはとらずに水だけをのんでねました…」
「で、朝起きたら体が縮んでいた、と」
「はい…」
自宅にて、ようやく調べ始めてくれた。
というよりも、このミネラルウォーターが怪しいのだけどね。
「ふーむ。ちょっと成分調べてみようかしらね」
科学者の性で成分が気になる、と。
アイリさんは言った。
「とりあえずロイ君が来て、状況説明後に私の家に行きましょう」
中央司令部勤務のアイリさんは、頻繁にイーストシティには通えないから。
元の姿に戻るまではアイリさんのご自宅暮らし。
…姿、戻らなくてもいいかも…と思ってしまった。
「ハヤテ号も一緒に、私の留守中はリザを守ってね?」
「ワンワン!」
アイリさんは優しく笑み、ハヤテ号の頭を撫でた。
それから。
「いい?リザ。出掛けるなとは言わないけど、出掛けるならハヤテ号を必ず連れて行くこと」
「わかりました」
「ハヤテ号、お願いね」
「ワンワン!」
一日経っても姿は戻らずで、アイリさんのご自宅でお世話になることに。
グラマン中将にも話は通してあり、その日のうちに会いに来てくださった。
…クマさんのぬいぐるみを持参して。
必ず持ち歩くようにと言われました。
みんなして子供扱いして、もう…。
「お昼は必ず帰って来るからね」
「はい、まってます」
「ああ可愛いなぁあああ」
ギューッと抱き締められ、お部屋の中を移動するのも抱っこされる。
…ちょっと子供を満喫しようと思ったのは言うまでもないわよね。
END
「…な、なにこれ…」
ある日、それは起きた。
朝起きて、ベッドから降りようとした時に。
「……?」
床に足が付かないことに違和感を覚え、ベッドの下を見ると。
「!?!?」
ベッドが高くなってることに気付いた。
「え?なに?私の家ではない場所?」
寝ている間に誘拐された?
いえ、そんなの気付かないわけがない。
いえ、眠らされた?
いえ、昨日は帰宅が遅く夕食は摂らずにミネラルウォーターしか口にしていない。
それに、部屋を見渡しても家具も家具の配置も私の部屋であるのは確か。
じゃあどうしてベッドが高いの?
どうして床に足が……。
「………え?」
ふと自分の足を見ると、ルームウェアがブカブカで足が見えなかった。
サイズの大きなルームウェアを着ているみたいで。
「え?」
手を見ても同じ。
ルームウェアに埋もれて見えないの。
「え?嘘…」
ベッドが高くなったのではなく…。
「…わたしが…ちぢん…だ…?」
え?
なぜ?
どうして?
何が起こっているの?
「…アイリさん…っ」
わからない。
自分の身に何が起きてるのかわからない。
私は何とかベッドから降りて、歩こうにも服が大きすぎて歩けない。
「…しかたないわね」
仕方ないから服を脱いで、落ちていたタオルで体を隠す。
「ワン!ワンワン!」
「ハヤテごう…」
寝室から出れば、ハヤテ号が迎えてくれて。
ハヤテ号は縮まず、成犬のまま。
「キューン…」
私の体の異変に、ハヤテ号も心配そう。
「だいじょうぶよ…ハヤテごう…」
ハヤテ号の頭を撫でてあげて、ハヤテ号と一緒に電話のところへ行く。
「いらっしゃるかしら…アイリさん…」
でも、ご自宅へ電話しても出なくて。
「…やっぱりもうしゅっきんしてるわね…」
中央司令部へかけてみよう。
『はい、セントラルシティ 中央司令部です』
「…あ…あの…リザ・ホークアイ ちゅういです… セイフォードしょうしょうはいらっしゃいますでしょうか…?」
今の私の声が幼すぎて…。
『お嬢ちゃん、ホークアイ中尉の知り合いかな?リザお姉ちゃんと代わってくれるかな?』
…やっぱり本人だと思われないわね…。
「あの…わたしです…セイフォードしょうしょうに…」
アイリさんに繋いで欲しいのだけど。
『んー…困ったなぁ…リザお姉ちゃんに内緒でイタズラ電話はよくないよー?』
イタズラだと思われてる…。
本人確認も取れないのに将官に繋ぐわけにはいかないわよね…。
『じゃあ、リザお姉ちゃんから掛けてもらうようにしてね?またね』
「あ…」
切れてしまった…。
「……どうしよう…」
電話しても繋いでもらえないし、東方司令部にかけてみようかしら…。
いえ、きっと同じ対応になるわね…。
今日が非番でよかったけれど…。
このまま一人でいるのは不安すぎる…。
「…せんとらるしてぃにいってみようかしら…」
中央司令部に行って、申し訳ないけれど受け付けでアイリさんを出してもらえるまで粘ってみようか迷う。
「…ごめいわくをかけてしまうわよね…」
でもこんな状態で一人で…というか。
………子供用の服、ない。
「……やっぱりイタズラにおもわれるかもしれないけど…アイリさんにつないでもらえるまでかけたほうがいいわね…」
ごめんなさいアイリさん…。
ごめんなさい中央司令部の皆さん…。
どうかアイリさんに繋いでもらえますように…。
「悪戯電話?」
「ホークアイ中尉の名で、あなたを出して欲しいと子供かららしいですよ」
ある日、中央司令部に私宛の悪戯電話がかかって来た。
しかもリザの名前を語る悪戯電話らしい。
大人なら悪質な悪戯電話だけど、子供からならちょっとした悪戯なのかな?とは思う。
でもどうしてリザの名前を?
どこでリザの名前を知ったの?
誰かが子供にリザの名前を利用させて、私を誘き出そうとしてる?
すごい不思議よね。
「事件性はなさそうなの?」
「誰かに言わされている感じはなく、どうしてもあなたと話したいと何回もかかってくるようです」
リザの名前を語る子供が私と、ねぇ。
クレミン准将は書類を見ながら。
「次にかかって来たら、あなたに繋ぐように言いますか?」
私が気にしてることに気づいて、そう言った。
「えぇ、ちょっとその子と話してみようかしら。何か困ってるのかもしれないし」
リザの名を語る以上、放ってはおけないしね。
同姓同名なのかを確認して、私に何の用なのかを聞かないと。
「では、受け付けに言っておきます」
「お願いね」
クレミン准将は敬礼をして、執務室を去った。
5分後に。
『セイフォード少将、例の子供からかかってきました』
すぐ電話がかかって来た。
「繋いでちょうだい」
『わかりました』
その子と話すべく、繋いでもらうと。
『…も、もしもし…アイリさん…ですか…?』
オドオドした女の子の声が聞こえた。
「えぇ、そうよ。あなたのお名前は?」
名前は“リザ・ホークアイ”と名乗るのは知ってるけど、本人から聞きたい。
『わたしです…リザです…』
やっぱりリザの名前を語った。
「そう、リザちゃん。リザちゃんはどうして私に電話をかけてきたのかな?何か困り事?」
怖がらせないように優しく。
『…ほんとうにわたしなんです…アイリさん…っ』
ちょっと泣きそうな声色。
本当に“リザ・ホークアイ”だと言われても…。
どう聞いても子供の声だしなぁ…。
「んー」
困ってると、控えめに扉が開きクレミン准将が顔を覗かせた。
クレミン准将も気になってるみたいで、ちょいちょいと手招きをして入らせた。
「どうなさるのですか?」
小さな声で問われて、私は受話器の通話口を押さえて。
「どうしたものかしらねぇ…」
どうしようか悩んでいた時。
『…ワン!ワンワン!』
受話器の向こうから犬の鳴き声が。
「!犬を飼ってるのね」
『…ブラック・ハヤテごうです…』
「………ハヤテ号?」
ハヤテ号の名前を口にした。
え?
リザのハヤテ号と同じ名前?
……うそ、待って。
リザと同じ名前の子と、リザの犬と同じ名前の犬?
私はクレミン准将と視線を合わせて。
「…あなた、お祖父さんいる?名前はわかる?」
恐る恐る祖父の名前を聞いてみると。
『…とうほうしれいぶのしれいかん…グラマンちゅうじょうです…』
グラマン中将の名前を口にした。
嘘でしょ。
「…え…本当に…リザ…なの…?」
本当にリザ?
本物のリザなの?
『そうです…アイリさん…っ』
嗚咽する声に。
「すぐ行くから待ってて」
居ても立っても居られなくて。
『はやく…きてくださ…っ』
「すぐ行く」
そう言って受話器を置けば。
「こちらは何とかしますので」
クレミン准将もわかったようで、そう言ってくれた。
「えぇ、ありがとう。ごめんね」
どうして子供になってるの?
一体何があったの?
気になることばかりだけど、とにかく今は一刻も早くリザのところに行かないと。
「行ってくるわね」
「はい、お気をつけて」
すぐに中央司令部を出てリザのところへ向かった。
.
リザの自宅に着き、合鍵で鍵を開けて中に入る。
「リザ!!」
「アイリさん…っ」
「ワン!」
出迎えてくれたのは、子供の姿のリザとハヤテ号。
「ハヤテ号、ありがとうね。あなたの鳴き声でリザに気付けたわ…」
「キューン」
リザを抱き締めながら、まずはハヤテ号の頭を撫でる。
「…リザ、何があったの?」
着れる服がないからか、バスタオルで身を隠している小さなリザ。
「…わか…っわかりませんっおきたら…っこんなすがたに…っ」
ヒックヒックと嗚咽しながら泣く小さなリザ。
……不謹慎だけど、可愛すぎる…。
リザの子供の頃の写真はグラマン中将に見せてもらったことあるから知ってるけど、こうして本物を見るのは初めて。
「…起きたら子供に、か。何が理由か調べる前に、服を何とかしないとね」
「…だっこしてください…」
「やぁだ可愛すぎるんだけど…」
お望みのままリザを抱っこして、寝室へ行く。
「この服を使ってもいい?」
「はい…」
色合い的に、この服が良さげね。
可愛いワンピースにしちゃお。
と、錬金術で6才くらいの女の子が着るような可愛いワンピースに変えて。
「はいリザ、これ着て」
「………」
リザに渡せば、不満そうな顔をした。
普段のリザなら絶対に着ないだろうワンピース。
でもほら、今は子供だから。
ね?
可愛い服着て欲しいじゃない?ね?
「…もっと…なんか…」
「えー?でも可愛いし、ほら」
「……」
リザは渋々ワンピースを着て。
「髪はポニーテールがいいわね」
大きな赤いリボン付きのゴムを錬成し、ポニーテールにして付けてあげた。
「……可愛すぎる…」
「…こどもじゃないですよっ」
ほんのり頬を赤らめながらそう言っても、逆に可愛さが増すだけ。
「…お買い物行かない?」
なんかもうたくさん買ってあげたい。
オモチャとか、お洋服とか、お菓子とか。
なんかもたくさん色んなものを。
「…いきませんっ!アイリさん、わたしはこまってるんですよ…っ!」
「やだぁ…可愛すぎてどうしよう…」
そんな怒ったってただただ可愛いだけなのに。
「ちょっとだけだから、ね?行きましょう。というか連れて行くわ」
「アイリさんっ」
リザの自宅にある私の私服に着替え、またリザを抱っこする。
「はい行きましょー」
「おろしてくださいっ」
降ろしてと言うわりに、降りたそうではなくて。
「本当に降ろしてほしい?自分で歩く?」
そう聞くと。
「……やです…」
ギュッと私の首に腕を回した。
「はぁ可愛い…やばいなぁもう…」
はぁ…可愛すぎてやばい…。
「こんな服どう?」
「…わたしのこのみではないです」
「でも絶対似合うのよね。よし買い」
「アイリさんっむだづかいダメですよ…!」
「このリュック背負って欲しい」
「……や「買うわね」
某ショッピングモールで、アイリさんと子供服売り場にて。
アイリさんが可愛らしい子供服をたくさんカゴに入れ始めた。
無駄遣いは駄目と言ってるのに、金銭感覚がバブちゃんだからお構いなしになってる…。
「でも、私に繋げてもらえるまで電話をかけ続けたのを考えると、ちょっと笑っちゃう」
アイリさんはクスクス笑いながら服を見てる。
「…ひっしだったんです。ひとりでいるのふあんですし…もうしわけないですが、つなげてもらえるまでかけさせていただきました…」
元の姿に戻ったらお詫びの品を持っていかないと…。
「うんうん、正しい選択でした」
「ハヤテごうにかんしゃしないと…」
ハヤテ号が吠えてくれたおかげで違和感に気付いてくれたから。
「ハヤテ号は本当に優秀よね」
どの軍用犬よりも優秀だとアイリさんは褒めてくれた。
「このお店ではこのくらいかなー」
「…このおみせではってなんですか。もうひつようないですよ」
お会計をして、その金額は…。
「………」
絶句。
……怖くて口に出せない。
「ブランド品ってすごいわよね」
「アイリさん…おねがいですからむだづかいしないでください…っ!」
「えー?無駄ではないわよ。全部リザに着てもらうし」
子供の私ではこの人は止められない…。
「ね、アイス食べに行かない?」
紙袋を2つ腕に下げたまま私を抱っこしてくれた。
「…いきません…もうかえりましょう」
「アイスいらない?」
「……たべたい」
「一回断るって申し訳なさが出てる証拠よね。そんなリザも可愛すぎるだけなんだけどね」
すっかり子供扱いされてしまってる…。
今は子供だから仕方ないのだけど…。
「三段にする?」
「あ、にだんで…」
いえ二段って。
そこは一段でいいでしょう私。
…なんだかんだで私も子供を演じてしまってるわよね。
だって、アイリさんが抱っこしてくれるし。
服は子供服だけど、選んでる姿をみると楽しそうだし。
可愛い可愛いって言ってくれるし。
いえ、それはいつもだけど。
それに、抱っこしてくれるし。
「お金払って来るから食べててね」
「はい…」
アイスを持たされ、近くのベンチで座って待つ。
スプーンでアイスを掬い、一口食べる。
「…おいしい」
美味しいアイス。
もう一口食べようとした時だった。
「ッ!?!?」
突然体が浮いて、その拍子にアイスを落としてしまった。
見上げれば知らない男で。
ああ、誘拐だ。
すぐにわかった。
「アイリさ…ッ!!」
アイリさんのほうを見てもアイリさんは居なくて。
どこへ、なんて思っていればまた私の体に腕が巻き付いて。
そして。
ドガガ…ッ
「ぐわ…ッ」
誘拐犯が吹っ飛んだ…。
私を抱っこしてくれてるのはアイリさんで、誘拐犯に回し蹴りをしたんだと後で分かった。
「白昼堂々と誘拐だなんて、随分舐めた真似をしてくれたわね」
アイリさんを見上げると、眉間に皺を寄せていて。
「……」
恐怖よりも、アイリさんの格好良さが勝ってしまって心臓が煩かった。
誘拐犯は錬金術で拘束され、アイリさんが東方司令部に通報した。
「ごめんね?リザ…怖かったわよね…」
「…いえ、アイリさんカッコよかったです」
ギュウッと抱き締めてくれた。
「…ホークアイ中尉、なんですか!?」
駆け付けたマスタング大佐が驚くように私を見る。
「そうです…」
「子供になっちゃったみたいで、必死に中央司令部に電話して知らせてくれたのよ」
「な、何がどうなって…」
誘拐事件もあったことで、買い物どころではなくなったため。
「後はよろしくね、ロイ君」
「は、はい。しかし後ほどホークアイ中尉のご自宅に伺いますので詳しく聞かせてください」
マスタング大佐に事後処理を任せ、私たちは帰路に着いた。
「このミネラルウォーターをねぇ」
「…きのうはきたくがおそかったので、しょくじはとらずに水だけをのんでねました…」
「で、朝起きたら体が縮んでいた、と」
「はい…」
自宅にて、ようやく調べ始めてくれた。
というよりも、このミネラルウォーターが怪しいのだけどね。
「ふーむ。ちょっと成分調べてみようかしらね」
科学者の性で成分が気になる、と。
アイリさんは言った。
「とりあえずロイ君が来て、状況説明後に私の家に行きましょう」
中央司令部勤務のアイリさんは、頻繁にイーストシティには通えないから。
元の姿に戻るまではアイリさんのご自宅暮らし。
…姿、戻らなくてもいいかも…と思ってしまった。
「ハヤテ号も一緒に、私の留守中はリザを守ってね?」
「ワンワン!」
アイリさんは優しく笑み、ハヤテ号の頭を撫でた。
それから。
「いい?リザ。出掛けるなとは言わないけど、出掛けるならハヤテ号を必ず連れて行くこと」
「わかりました」
「ハヤテ号、お願いね」
「ワンワン!」
一日経っても姿は戻らずで、アイリさんのご自宅でお世話になることに。
グラマン中将にも話は通してあり、その日のうちに会いに来てくださった。
…クマさんのぬいぐるみを持参して。
必ず持ち歩くようにと言われました。
みんなして子供扱いして、もう…。
「お昼は必ず帰って来るからね」
「はい、まってます」
「ああ可愛いなぁあああ」
ギューッと抱き締められ、お部屋の中を移動するのも抱っこされる。
…ちょっと子供を満喫しようと思ったのは言うまでもないわよね。
END