ハガレン 旧拍手文置き場
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『逆鱗』
「セイフォード少将ー、将棋指しません?」
「いいわよ。ただ私はルールブックを読んだだけだからそんな強くはないわよ?」
「じゃあ、もし俺に勝てたらアイス奢ります」
「あら、言ったわね?でも私一人にじゃあれだから、負けた方がみんなにアイスを奢るっていうのはどう?」
「上等っス!」
「頑張ってください、セイフォード少将」
「さすがのセイフォード少将もルールブック読んだだけならブレダには勝てないんじゃないっスかね」
一時間後。
「……う、嘘だろ…」
「戦略に長けてるのはあなただけじゃあないってことね」
「……これがアメストリス最強の国家錬金術師の頭脳か」
「…何手先まで読んでるんでしょう」
「…私ですらブレダには敵わないというのに…」
その日、それは起きた。
その日は、何気ない日だった。
その日は、ブレダが得意な将棋を初心者のアイリに挑み見事に負けて。
錬金術師の頭脳はバケモンだと知らしめられた日で。
「さすがセイフォード少将です」
「リザ、どんなアイス食べたいー?」
アイリの勝利を心から喜びたいが、みんなの手前キリッと祝うリザに、アイリはクスクス笑って。
「これお財布」
「え?」
「セイフォード少将、賭けはブレダ少尉の負けなのでセイフォード少将がお出しするのは違いますよ」
「ここにいる私たちだけじゃなく、東方司令部みんなのを買って来てちょうだい。罰ゲームはそれでいいわ」
「やった…!あざす!少将!!」
東方司令部みんなのアイスを買いに行くことが罰ゲームに変更して。
「…あなたは甘すぎますよ」
「えー?甘い私は嫌い?」
「…す…き…です…けど…っ」
「中尉が惚気た…」
なんて、和気藹々と。
みんな楽しく会話をしていて。
「ブレダ少尉、私も手伝うわ」
「しゃーねぇから俺も付き合ってやらぁ」
「あざす!中尉!サンキューな、ハボック!」
ブレダ、リザ、ハボックでアイスを買いにオフィスを出た時だった。
「…見てください…セイフォード少将の財布の中…」
「………普段からこんな額を持ち歩いてるのね」
「…金持ちは違うっスね…」
アイリの財布の中身を見て青褪める三人の前に。
「あらあら、楽しそうねぇ」
マリー・アウル中将が現れたのは。
「「「アウル中将!」」」
三人はすぐに敬礼をする。
マリーはニコリと笑み、三人を見つめて。
リザを見てクイクイと人差し指を屈伸させ、自分の近くにリザを呼ぶ。
「…(行くんスか?中尉)」
「…(行かない理由がないわ)」
「…(まずいんじゃないスか?)」
「…(…大丈夫よ)」
三人はアイコンタクトで会話して。
リザはカツン、と音を立ててマリーの前に立つ。
「…っ!アウル中将…!」
「アイリちゃんはどうしてあなたに依存してるのかしらね」
マリーはリザの顎に手を添え、上を向かせる。
「アウル中将!暴力は「暴力なんて振るわないわ」
ハボックの言葉を遮るマリーは笑みを深める。
何を考えているのか。
三人は眉間に皺を寄せてマリーを睨むように見た時。
「…ッッ!!!」
突如。
リザは目を見開いて。
視線を下げた。
視線の先にあるのは、マリーの手。
注射器を持っている。
「「ホークアイ中尉……ッッ!!!」」
刺された。
何か。
何か注入された。
「……ッアウル…ちゅう…じょ………」
何かを刺されてから、リザの意識がなくなるまで。
5秒もあっただろうか。
カクン、と崩れたリザを抱き留めたのは駆け寄ったハボックで。
「ホークアイ中尉…ッ!!ホークアイ中尉…ッ!起きろ!!!」
ハボックはマリーを睨み、リザの頬を軽く叩く。
しかしリザは目を覚まさずで。
「アウル中将!ホークアイ中尉に何を打ったんですかッッ!!」
「さぁ?何かしら」
マリーはクスクス笑い、見下すように眠るリザを睨んだ。
「何をしているの?」
騒ぎを聞きつけたアイリが来た。
「アウル中将…なぜここ……に……」
マリーの足元にいるハボックへ視線を向け、アイリは目を見開く。
「……リザ?」
ハボックが抱き締めているのはリザで。
意識がない。
「セイフォード少将…!ホークアイ中尉が…っ」
ハボックはすぐにアイリの下にリザを連れて行く。
「リザ、リザ。起きて」
アイリは膝を付き、リザの頬に手を添える。
「そんなんじゃ起きないわよぉ?アイリちゃん」
クスクス、クスクス。
マリーは狂ったように笑う。
「…ブレダ、すぐに救急車を呼べ。」
付いてきていたロイが救急車を呼ばせる。
「はい…!」
「ハボックはホークアイ中尉を連れて裏口で待機していろ」
「っス!!」
ハボックはマリーを睨み、リザを連れて行った。
「…セイフォード少将、一緒に救急車に……」
ロイは言いかけて。
止めた。
––––ゾッとした。
初めて見る。
アイリの憎悪を滲ませる瞳に。
「随分怖い顔で睨んで来るわねぇ、アイリちゃん」
ゆっくりと立ち上がり、横目でマリーを睨むその眼差しに。
戦慄する。
「セイフォード少将、落ち着いてください」
マリーの言葉に、アイリが動こうとしたのをロイが手を掴むことで止めた。
「落ち着いているわ。離してちょうだい、ロイ君」
「離せません。ホークアイ中尉は必ず助かりますから怒りを鎮めてください」
ロイ自身も部下を傷つけられて怒りでどうにかなりそうだったが、それ以上にアイリを止めねば大変なことになると感じていた。
「私は離せと言ってるの」
「ホークアイ中尉は報復を望んだりしませんよ」
またピクリとアイリが反応する。
「ねぇアイリちゃん。二人きりで話したいの。二人きりで会いたいの」
クスクス、クスクス。
マリーは笑い続ける。
「セイフォード少将」
「あなたはリザじゃない。リザがどう思うかなんてわかるわけないわ」
「セイフォード少将、冷静に「離せ、マスタング大佐」
命令。
それにロイは眉間に皺を寄せて。
「…従いかねます」
首を横に振った。
「……そう」
アイリの肩の力が抜け、ホッとしたその瞬間。
アイリは掴まれている手でロイの手を掴み返して。
「じゃあ仕方ないわね」
ロイの手首に、いつの間にか錬成していた拳銃を当てがった。
「…ッッセイフォード少将…ッッ!!!」
撃たれる。
そう思った時。
「おやおや、騒がしいのう」
カツンと足音を立ててやって来たのは、グラマンで。
アイリは横目でグラマンを見て、舌打ちをする。
「マスタング大佐…!」
「ブレダか…グラマン中将を呼んだのは…」
「っス。道すがら、話してあります」
「…そうか」
ロイの下に、ブレダが戻ってきた。
どうやらブレダがグラマンを呼んだようで、ロイはホッとしたように深く息を吐き出す。
「セイフォード君、ホークアイ中尉は君に誰かを傷つけてほしくないはずだよ」
「マスタング大佐にも言いましたが、あなたはリザじゃない。リザがどう思うかなんてわかるわけがない」
ロイに放ったように、グラマンにも同じことを放つ。
「ふむ」
グラマンは顎に手を添えて。
「じゃあ、君の中にいるリザはどうだい?」
アイリに問いかければ。
「え?」
「君の中にいるリザは、誰かを傷つけることを望むような子かい?」
「…ッッ!」
アイリは目を見開いた。
「そ、それは…」
アイリが動揺し始める。
自分の中にいるリザは、アイリに報復をしてほしいなんて望まない。
優しいアイリで居て欲しいと望むはず。
「いいかい?アイリちゃん」
グラマンは手を後ろに組んで。
「今君がすべきことは、病院で眠るリザの手を握ってあげることではないだろうか」
セイフォード君ではなく、アイリちゃん。
グラマンが言い聞かせるように優しくそう言うと。
「……」
アイリは俯いて。
深く深呼吸をしたことで。
ようやくロイはアイリの手を離した。
「…どうして手を離さなかったの?」
アイリはロイへ問いかけた。
ロイはアイリの手にある拳銃を掴み、銃口を天井へと向けて。
「空だとあなたを信じました」
カチッとトリガーを引いた。
弾は出ない。
「……」
弾丸が込められていない拳銃で、拳銃を突き付ければ離すだろうと思っていたアイリはロイに背中を向けて。
「……ありがと。ごめんね…?ロイ君…」
はにかむように小さく笑みを浮かべた。
「今度食事でも」
「その時はリザも一緒に」
「もちろん」
二人は視線を交差させて。
カツンと歩き出し、アイリはマリーの横を通り過ぎてリザが居るだろう病院へと向かった。
「…さて。ここからだぞ」
「…大佐?」
ロイは難しい表情を浮かべた。
「グラマン中将、私はアイリちゃんとお話がしたかったのに。でもまぁアイリちゃん怒ってたし、助かったと言っておくわね」
マリーは笑みを絶やさず、グラマンへと歩み寄る。
「“助かった”…だと?ほっほっ、お前さんは何を言っておるのじゃ」
グラマンはマリーを横目で睨んで。
「…貴様が傷つけたのは、儂のたった一人の孫娘だぞ」
そして。
「只で済むと思うなよッ!!」
アイリ以上の怒りと憎悪をマリーへと向けた。
「「……ッッ!!」」
ビクッと肩を振るわせたブレダとマリー。
普段温厚なグラマンがここまで怒っているのは初めて見た。
「…まだセイフォード少将を怒らせていたほうがよかったかもしれん」
「…グラマン中将ってキレたらやべぇスね…」
キレたグラマンにビクビクしながら、二人はマリーを連行した。
三日後、病院にて。
「…まだ力が入らないです…」
「結構強力なものみたいだからね」
入院中のリザの手を握るアイリがいた。
リザに打たれたものは、強力な睡眠剤で。
病院に搬送された日に中和剤を投与し、昨夜目を覚ました。
アイリは部下であるロイに銃を向けたことにより、謹慎処分に。
まぁ、謹慎という名の“リザの傍に”というグラマンの計らいだった。
「…まだ眠そうよ?」
「眠いですが…」
リザはアイリの手を握り返して。
「…キスしてほしいです」
おねだりをした。
「いくらでもしてあげる」
「ん」
ちゅ、ちゅ、と啄むようにキスをして。
「怒ったでしょう?」
「ブチギレちゃったわよ…」
「想像出来ます」
「…あんにゃろ」
リザはクスクス笑った。
「それで、アウル中将は…」
「さぁ?グラマン中将に一任してるから、どうなったかはわからないわ」
「…そうですか…」
アイリはわからないわけではない。
教えないだけ。
教えれば、きっとグラマンへのイメージを壊してしまうから。
リザにとってグラマンは、優しいお祖父さんだから。
「あ、ロイ君たちがそろそろ来るわよ。目を覚ましたことを連絡してあるから」
「あ、はい。わかりました」
何があっても冷静で居られる気がしていた。
冷静で、正しい判断が出来ると過信していた。
でも実際は。
愛しい人を傷つけられて。
冷静さを失ってしまった。
リザを失うかもしれない恐怖心で判断を鈍らせて。
リザを傷つけられた動揺で決断を誤った。
如何にリザに依存しているかを思い知り、守れなかった自分が情けなかった。
「…私もまだまだだなぁ…」
「そうですね、まだまだです」
“次はこうならない”ように、深く深く誓って。
“次がある”奇跡に感謝して。
二人で小さく笑った。
END
「セイフォード少将ー、将棋指しません?」
「いいわよ。ただ私はルールブックを読んだだけだからそんな強くはないわよ?」
「じゃあ、もし俺に勝てたらアイス奢ります」
「あら、言ったわね?でも私一人にじゃあれだから、負けた方がみんなにアイスを奢るっていうのはどう?」
「上等っス!」
「頑張ってください、セイフォード少将」
「さすがのセイフォード少将もルールブック読んだだけならブレダには勝てないんじゃないっスかね」
一時間後。
「……う、嘘だろ…」
「戦略に長けてるのはあなただけじゃあないってことね」
「……これがアメストリス最強の国家錬金術師の頭脳か」
「…何手先まで読んでるんでしょう」
「…私ですらブレダには敵わないというのに…」
その日、それは起きた。
その日は、何気ない日だった。
その日は、ブレダが得意な将棋を初心者のアイリに挑み見事に負けて。
錬金術師の頭脳はバケモンだと知らしめられた日で。
「さすがセイフォード少将です」
「リザ、どんなアイス食べたいー?」
アイリの勝利を心から喜びたいが、みんなの手前キリッと祝うリザに、アイリはクスクス笑って。
「これお財布」
「え?」
「セイフォード少将、賭けはブレダ少尉の負けなのでセイフォード少将がお出しするのは違いますよ」
「ここにいる私たちだけじゃなく、東方司令部みんなのを買って来てちょうだい。罰ゲームはそれでいいわ」
「やった…!あざす!少将!!」
東方司令部みんなのアイスを買いに行くことが罰ゲームに変更して。
「…あなたは甘すぎますよ」
「えー?甘い私は嫌い?」
「…す…き…です…けど…っ」
「中尉が惚気た…」
なんて、和気藹々と。
みんな楽しく会話をしていて。
「ブレダ少尉、私も手伝うわ」
「しゃーねぇから俺も付き合ってやらぁ」
「あざす!中尉!サンキューな、ハボック!」
ブレダ、リザ、ハボックでアイスを買いにオフィスを出た時だった。
「…見てください…セイフォード少将の財布の中…」
「………普段からこんな額を持ち歩いてるのね」
「…金持ちは違うっスね…」
アイリの財布の中身を見て青褪める三人の前に。
「あらあら、楽しそうねぇ」
マリー・アウル中将が現れたのは。
「「「アウル中将!」」」
三人はすぐに敬礼をする。
マリーはニコリと笑み、三人を見つめて。
リザを見てクイクイと人差し指を屈伸させ、自分の近くにリザを呼ぶ。
「…(行くんスか?中尉)」
「…(行かない理由がないわ)」
「…(まずいんじゃないスか?)」
「…(…大丈夫よ)」
三人はアイコンタクトで会話して。
リザはカツン、と音を立ててマリーの前に立つ。
「…っ!アウル中将…!」
「アイリちゃんはどうしてあなたに依存してるのかしらね」
マリーはリザの顎に手を添え、上を向かせる。
「アウル中将!暴力は「暴力なんて振るわないわ」
ハボックの言葉を遮るマリーは笑みを深める。
何を考えているのか。
三人は眉間に皺を寄せてマリーを睨むように見た時。
「…ッッ!!!」
突如。
リザは目を見開いて。
視線を下げた。
視線の先にあるのは、マリーの手。
注射器を持っている。
「「ホークアイ中尉……ッッ!!!」」
刺された。
何か。
何か注入された。
「……ッアウル…ちゅう…じょ………」
何かを刺されてから、リザの意識がなくなるまで。
5秒もあっただろうか。
カクン、と崩れたリザを抱き留めたのは駆け寄ったハボックで。
「ホークアイ中尉…ッ!!ホークアイ中尉…ッ!起きろ!!!」
ハボックはマリーを睨み、リザの頬を軽く叩く。
しかしリザは目を覚まさずで。
「アウル中将!ホークアイ中尉に何を打ったんですかッッ!!」
「さぁ?何かしら」
マリーはクスクス笑い、見下すように眠るリザを睨んだ。
「何をしているの?」
騒ぎを聞きつけたアイリが来た。
「アウル中将…なぜここ……に……」
マリーの足元にいるハボックへ視線を向け、アイリは目を見開く。
「……リザ?」
ハボックが抱き締めているのはリザで。
意識がない。
「セイフォード少将…!ホークアイ中尉が…っ」
ハボックはすぐにアイリの下にリザを連れて行く。
「リザ、リザ。起きて」
アイリは膝を付き、リザの頬に手を添える。
「そんなんじゃ起きないわよぉ?アイリちゃん」
クスクス、クスクス。
マリーは狂ったように笑う。
「…ブレダ、すぐに救急車を呼べ。」
付いてきていたロイが救急車を呼ばせる。
「はい…!」
「ハボックはホークアイ中尉を連れて裏口で待機していろ」
「っス!!」
ハボックはマリーを睨み、リザを連れて行った。
「…セイフォード少将、一緒に救急車に……」
ロイは言いかけて。
止めた。
––––ゾッとした。
初めて見る。
アイリの憎悪を滲ませる瞳に。
「随分怖い顔で睨んで来るわねぇ、アイリちゃん」
ゆっくりと立ち上がり、横目でマリーを睨むその眼差しに。
戦慄する。
「セイフォード少将、落ち着いてください」
マリーの言葉に、アイリが動こうとしたのをロイが手を掴むことで止めた。
「落ち着いているわ。離してちょうだい、ロイ君」
「離せません。ホークアイ中尉は必ず助かりますから怒りを鎮めてください」
ロイ自身も部下を傷つけられて怒りでどうにかなりそうだったが、それ以上にアイリを止めねば大変なことになると感じていた。
「私は離せと言ってるの」
「ホークアイ中尉は報復を望んだりしませんよ」
またピクリとアイリが反応する。
「ねぇアイリちゃん。二人きりで話したいの。二人きりで会いたいの」
クスクス、クスクス。
マリーは笑い続ける。
「セイフォード少将」
「あなたはリザじゃない。リザがどう思うかなんてわかるわけないわ」
「セイフォード少将、冷静に「離せ、マスタング大佐」
命令。
それにロイは眉間に皺を寄せて。
「…従いかねます」
首を横に振った。
「……そう」
アイリの肩の力が抜け、ホッとしたその瞬間。
アイリは掴まれている手でロイの手を掴み返して。
「じゃあ仕方ないわね」
ロイの手首に、いつの間にか錬成していた拳銃を当てがった。
「…ッッセイフォード少将…ッッ!!!」
撃たれる。
そう思った時。
「おやおや、騒がしいのう」
カツンと足音を立ててやって来たのは、グラマンで。
アイリは横目でグラマンを見て、舌打ちをする。
「マスタング大佐…!」
「ブレダか…グラマン中将を呼んだのは…」
「っス。道すがら、話してあります」
「…そうか」
ロイの下に、ブレダが戻ってきた。
どうやらブレダがグラマンを呼んだようで、ロイはホッとしたように深く息を吐き出す。
「セイフォード君、ホークアイ中尉は君に誰かを傷つけてほしくないはずだよ」
「マスタング大佐にも言いましたが、あなたはリザじゃない。リザがどう思うかなんてわかるわけがない」
ロイに放ったように、グラマンにも同じことを放つ。
「ふむ」
グラマンは顎に手を添えて。
「じゃあ、君の中にいるリザはどうだい?」
アイリに問いかければ。
「え?」
「君の中にいるリザは、誰かを傷つけることを望むような子かい?」
「…ッッ!」
アイリは目を見開いた。
「そ、それは…」
アイリが動揺し始める。
自分の中にいるリザは、アイリに報復をしてほしいなんて望まない。
優しいアイリで居て欲しいと望むはず。
「いいかい?アイリちゃん」
グラマンは手を後ろに組んで。
「今君がすべきことは、病院で眠るリザの手を握ってあげることではないだろうか」
セイフォード君ではなく、アイリちゃん。
グラマンが言い聞かせるように優しくそう言うと。
「……」
アイリは俯いて。
深く深呼吸をしたことで。
ようやくロイはアイリの手を離した。
「…どうして手を離さなかったの?」
アイリはロイへ問いかけた。
ロイはアイリの手にある拳銃を掴み、銃口を天井へと向けて。
「空だとあなたを信じました」
カチッとトリガーを引いた。
弾は出ない。
「……」
弾丸が込められていない拳銃で、拳銃を突き付ければ離すだろうと思っていたアイリはロイに背中を向けて。
「……ありがと。ごめんね…?ロイ君…」
はにかむように小さく笑みを浮かべた。
「今度食事でも」
「その時はリザも一緒に」
「もちろん」
二人は視線を交差させて。
カツンと歩き出し、アイリはマリーの横を通り過ぎてリザが居るだろう病院へと向かった。
「…さて。ここからだぞ」
「…大佐?」
ロイは難しい表情を浮かべた。
「グラマン中将、私はアイリちゃんとお話がしたかったのに。でもまぁアイリちゃん怒ってたし、助かったと言っておくわね」
マリーは笑みを絶やさず、グラマンへと歩み寄る。
「“助かった”…だと?ほっほっ、お前さんは何を言っておるのじゃ」
グラマンはマリーを横目で睨んで。
「…貴様が傷つけたのは、儂のたった一人の孫娘だぞ」
そして。
「只で済むと思うなよッ!!」
アイリ以上の怒りと憎悪をマリーへと向けた。
「「……ッッ!!」」
ビクッと肩を振るわせたブレダとマリー。
普段温厚なグラマンがここまで怒っているのは初めて見た。
「…まだセイフォード少将を怒らせていたほうがよかったかもしれん」
「…グラマン中将ってキレたらやべぇスね…」
キレたグラマンにビクビクしながら、二人はマリーを連行した。
三日後、病院にて。
「…まだ力が入らないです…」
「結構強力なものみたいだからね」
入院中のリザの手を握るアイリがいた。
リザに打たれたものは、強力な睡眠剤で。
病院に搬送された日に中和剤を投与し、昨夜目を覚ました。
アイリは部下であるロイに銃を向けたことにより、謹慎処分に。
まぁ、謹慎という名の“リザの傍に”というグラマンの計らいだった。
「…まだ眠そうよ?」
「眠いですが…」
リザはアイリの手を握り返して。
「…キスしてほしいです」
おねだりをした。
「いくらでもしてあげる」
「ん」
ちゅ、ちゅ、と啄むようにキスをして。
「怒ったでしょう?」
「ブチギレちゃったわよ…」
「想像出来ます」
「…あんにゃろ」
リザはクスクス笑った。
「それで、アウル中将は…」
「さぁ?グラマン中将に一任してるから、どうなったかはわからないわ」
「…そうですか…」
アイリはわからないわけではない。
教えないだけ。
教えれば、きっとグラマンへのイメージを壊してしまうから。
リザにとってグラマンは、優しいお祖父さんだから。
「あ、ロイ君たちがそろそろ来るわよ。目を覚ましたことを連絡してあるから」
「あ、はい。わかりました」
何があっても冷静で居られる気がしていた。
冷静で、正しい判断が出来ると過信していた。
でも実際は。
愛しい人を傷つけられて。
冷静さを失ってしまった。
リザを失うかもしれない恐怖心で判断を鈍らせて。
リザを傷つけられた動揺で決断を誤った。
如何にリザに依存しているかを思い知り、守れなかった自分が情けなかった。
「…私もまだまだだなぁ…」
「そうですね、まだまだです」
“次はこうならない”ように、深く深く誓って。
“次がある”奇跡に感謝して。
二人で小さく笑った。
END