ハガレン 旧拍手文置き場
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『気付き』
「……」
私は今、非常に迷っている。
なぜなら今日は、3月14日でホワイトデーという日だからだ。
2月14日のバレンタインデーにチョコレートをもらった者が、お返しものとして渡すというイベントだ。
私はそんなイベントになど興味はなく、仕事をせずに浮かれている部下どもに苛立ちすら覚える。
……と、いつもなら思っているのだが。
今年は違う。
私はバレンタインデーに、セイフォード少将からチョコレートをもらっている。
“いっつもくだらない書類ばかり提出してくるし”
“すぐ睨んできて不貞腐れるし”
“上官に対しての悪すぎる態度に、毎日嫌な思いをしてるのよね”
“これを機に改めてくれるなら、あげなくもないけど?”
などと、小言を言われもしたが、あの方は私にチョコレートをくれた。
セイフォード少将は男女問わず人気がある。
不本意だが容姿は良い、これも不本意だが頭も良い。
私は一度も見たことはないが、セイフォード少将の笑みの破壊力が凄いとかなんとか。
そんなセイフォード少将を射止めたホークアイ中尉が凄いとかなんとか。
セイフォード少将に関しての噂は絶えず。
しかし、嫌な噂は耳にしたことがない。
将官たちの妬みや嫌味は聞けど、部下からのセイフォード少将に対する嫌な話は聞いたことがない。
つまり、部下には優しいということなのだろうが。
私には冷たい。
私はただ、将官たちが中央司令官で少しでも過ごしやすく働きやすくさせるための考えなのにも関わらず。
セイフォード少将は書類を確認してはため息を零して。
“却下”
受理してくださらない。
将官たちに伝えても。
“セイフォード君が受理しないのなら…”
と、言葉を濁すだけ。
軍上層部はセイフォード少将に全ての責任を押し付けたがっている。
まったく使えない…。
と、まぁセイフォード少将と将官たちの愚痴はここまでにして、だ。
私の妻が、だな。
『セイフォード少将に頂いたのなら、ちゃんとお返しをしないと駄目よ』
と、言い出して。
私はいらないと言ったんだが。
無理やりお返しなるものを持たされたのだ。
ちょっとした厚みのない小箱。
形からしてハンカチだと思う。
…ハンカチなどもらっても困るのでは?
…まぁいい。
とりあえずは仕事に集中せねば。
ガチャ
「……なに?さっきから人の執務室の前をウロウロと」
「ッ!!」
突然開いた扉に、ビクッと体が震えた。
…セイフォード少将の執務室前だったのを忘れていた。
「…いえ。入室してもよろしいですか?」
「え?えぇ、いいけど…」
咳払いをして、セイフォード少将の執務室へと入る。
「で、何か用事?」
セイフォード少将はデスクに付き、書類に視線を落とす。
ただ渡すだけ。
妻が渡せと言ったでいい。
それなのに、変に緊張している…。
「……その…」
「えぇ、なに?」
私は深呼吸をして。
「…つ、妻が、バレンタインデーのお返しに、と」
小さな小箱をデスクに置いた。
「え?」
私と小箱を交互に見て。
「私に?奥さんから?」
「…もらったのだから、お返しをしなさいと妻に」
何度も私と小箱を見て。
「…開けてもいい?」
「…どうぞ」
セイフォード少将は小箱を手に取り、丁寧に包装を開く。
「…ハンカチ」
「……」
やはりハンカチだったか。
セイフォード少将がそのハンカチを開くと、ハンカチの角にフラワーのワンポイントの刺繍が入っているもので。
「…この花、確か…サンダーソニア…だったかしら」
「サンダーソニア…」
なぜ妻は、そんなわけ分からん花の刺繍にしたのだろう。
セイフォード少将は少し考えて。
「……あはっ」
「…?なんですか?」
すぐにクスクス笑って。
「あなたの奥さん、粋な計らいをしてくれたのね」
「粋な計らい…?」
私へとハンカチを見せて。
「このサンダーソニアのワンポイントは、私の“雷鳴”の“雷”と“サンダーソニア”の“サンダー”を掛けたようね」
花言葉はわからないけど、きっと悪い言葉ではないはず。と。
セイフォード少将はクスクスと笑った。
こうして間近で笑っているのを見るのは初めてだ。
「クレミン准将、奥さんに“ありがとうございます、大切に使わせていただきます”と伝えてちょうだい」
優しげな表情を浮かべるセイフォード少将から目が離せなかった。
この人はなぜ、妻へだとしても簡単に部下にお礼が言えるのだろう。
上官としてのプライドはないのだろうか。
今のセイフォード少将には威厳もなく、ただ優しい表情を浮かべる綺麗な………。
「……なに?」
「……いえ」
セイフォード少将はハンカチを畳み、箱へと戻す。
「とにかく、ありがとね」
「……では、失礼します」
敬礼をして、執務室を後にした。
普段は苛立たせてくれる上官だが、こうしたちょっとしたことに笑みを浮かべお礼を口にする。
部下にお礼など、上官としての威厳やプライドはないのだろうか。
……いや。
だからこそ、部下から慕われるのか。
部下だから、なんて関係ない。
お礼を言うべきところはお礼を言い、謝罪すべきところはキチンと頭を下げる。
あの人はこれが出来ているのだ。
威厳は常にではなく、必要なところで発揮して。
部下に見せる背中は常に格好良く。
“いいかい?クレミン君。よく見るんだ。誰の背中を見るべきなのか、追うべきなのか。君の人生を大きく左右する大切な選択を間違えてはいけないよ”
昔、ある人に言われた言葉を思い出す。
昔そう教わっていたのに。
私はどこで間違ったんだ。
何を見ていたんだ。
誰を追っていたんだ。
ガチャ
「……まだ何か用事?」
また執務室の扉が開き、セイフォード少将が顔を覗かせた。
今からでも間に合うだろうか。
「…書類、半分請け負いますよ」
「え?」
怪訝な表情を浮かべられるだろうが、それは私が招いたことだから。
どうしたの?大丈夫?頭打った?
そんな言葉を投げかけられるかと思ったが。
「いいの?」
セイフォード少将はきょとん顔を浮かべて。
「…今日は定時で上がって、ホークアイ中尉のところへ行ってください」
私の言葉に、見る見るうちに笑顔になって。
そして。
「ありがとね、クレミン准将。必ず埋め合わせをするわ」
お礼と、必ず埋め合わせをする。など。
他の将官たちには有り得ない言葉。
しかも半分と言ったのに、4分の1しか書類を渡されなかった。
「あの…まだ…」
「あとは確認だけだから大丈夫よ。ありがとう」
じゃあお願いね、と。
セイフォード少将は執務室へと戻られた。
「……“ありがとう”か」
今はっきりとわかった。
誰の背中を見るべきなのか、追うべきなのか。
ようやく理解した。
あの人は私よりも随分年下だ。
だがそんなものは関係ない。
上官を畏れず真っ直ぐ前を見る強い眼差しを持つあの人の背中こそ。
私が見るべきで追うべき存在だ。
「……」
部下からの信頼を獲得するには時間がかかるだろうけれど。
私はもう間違わない。
部下の前では常に格好良く。
誇れる背中になろうと決めた日だった。
END
「……」
私は今、非常に迷っている。
なぜなら今日は、3月14日でホワイトデーという日だからだ。
2月14日のバレンタインデーにチョコレートをもらった者が、お返しものとして渡すというイベントだ。
私はそんなイベントになど興味はなく、仕事をせずに浮かれている部下どもに苛立ちすら覚える。
……と、いつもなら思っているのだが。
今年は違う。
私はバレンタインデーに、セイフォード少将からチョコレートをもらっている。
“いっつもくだらない書類ばかり提出してくるし”
“すぐ睨んできて不貞腐れるし”
“上官に対しての悪すぎる態度に、毎日嫌な思いをしてるのよね”
“これを機に改めてくれるなら、あげなくもないけど?”
などと、小言を言われもしたが、あの方は私にチョコレートをくれた。
セイフォード少将は男女問わず人気がある。
不本意だが容姿は良い、これも不本意だが頭も良い。
私は一度も見たことはないが、セイフォード少将の笑みの破壊力が凄いとかなんとか。
そんなセイフォード少将を射止めたホークアイ中尉が凄いとかなんとか。
セイフォード少将に関しての噂は絶えず。
しかし、嫌な噂は耳にしたことがない。
将官たちの妬みや嫌味は聞けど、部下からのセイフォード少将に対する嫌な話は聞いたことがない。
つまり、部下には優しいということなのだろうが。
私には冷たい。
私はただ、将官たちが中央司令官で少しでも過ごしやすく働きやすくさせるための考えなのにも関わらず。
セイフォード少将は書類を確認してはため息を零して。
“却下”
受理してくださらない。
将官たちに伝えても。
“セイフォード君が受理しないのなら…”
と、言葉を濁すだけ。
軍上層部はセイフォード少将に全ての責任を押し付けたがっている。
まったく使えない…。
と、まぁセイフォード少将と将官たちの愚痴はここまでにして、だ。
私の妻が、だな。
『セイフォード少将に頂いたのなら、ちゃんとお返しをしないと駄目よ』
と、言い出して。
私はいらないと言ったんだが。
無理やりお返しなるものを持たされたのだ。
ちょっとした厚みのない小箱。
形からしてハンカチだと思う。
…ハンカチなどもらっても困るのでは?
…まぁいい。
とりあえずは仕事に集中せねば。
ガチャ
「……なに?さっきから人の執務室の前をウロウロと」
「ッ!!」
突然開いた扉に、ビクッと体が震えた。
…セイフォード少将の執務室前だったのを忘れていた。
「…いえ。入室してもよろしいですか?」
「え?えぇ、いいけど…」
咳払いをして、セイフォード少将の執務室へと入る。
「で、何か用事?」
セイフォード少将はデスクに付き、書類に視線を落とす。
ただ渡すだけ。
妻が渡せと言ったでいい。
それなのに、変に緊張している…。
「……その…」
「えぇ、なに?」
私は深呼吸をして。
「…つ、妻が、バレンタインデーのお返しに、と」
小さな小箱をデスクに置いた。
「え?」
私と小箱を交互に見て。
「私に?奥さんから?」
「…もらったのだから、お返しをしなさいと妻に」
何度も私と小箱を見て。
「…開けてもいい?」
「…どうぞ」
セイフォード少将は小箱を手に取り、丁寧に包装を開く。
「…ハンカチ」
「……」
やはりハンカチだったか。
セイフォード少将がそのハンカチを開くと、ハンカチの角にフラワーのワンポイントの刺繍が入っているもので。
「…この花、確か…サンダーソニア…だったかしら」
「サンダーソニア…」
なぜ妻は、そんなわけ分からん花の刺繍にしたのだろう。
セイフォード少将は少し考えて。
「……あはっ」
「…?なんですか?」
すぐにクスクス笑って。
「あなたの奥さん、粋な計らいをしてくれたのね」
「粋な計らい…?」
私へとハンカチを見せて。
「このサンダーソニアのワンポイントは、私の“雷鳴”の“雷”と“サンダーソニア”の“サンダー”を掛けたようね」
花言葉はわからないけど、きっと悪い言葉ではないはず。と。
セイフォード少将はクスクスと笑った。
こうして間近で笑っているのを見るのは初めてだ。
「クレミン准将、奥さんに“ありがとうございます、大切に使わせていただきます”と伝えてちょうだい」
優しげな表情を浮かべるセイフォード少将から目が離せなかった。
この人はなぜ、妻へだとしても簡単に部下にお礼が言えるのだろう。
上官としてのプライドはないのだろうか。
今のセイフォード少将には威厳もなく、ただ優しい表情を浮かべる綺麗な………。
「……なに?」
「……いえ」
セイフォード少将はハンカチを畳み、箱へと戻す。
「とにかく、ありがとね」
「……では、失礼します」
敬礼をして、執務室を後にした。
普段は苛立たせてくれる上官だが、こうしたちょっとしたことに笑みを浮かべお礼を口にする。
部下にお礼など、上官としての威厳やプライドはないのだろうか。
……いや。
だからこそ、部下から慕われるのか。
部下だから、なんて関係ない。
お礼を言うべきところはお礼を言い、謝罪すべきところはキチンと頭を下げる。
あの人はこれが出来ているのだ。
威厳は常にではなく、必要なところで発揮して。
部下に見せる背中は常に格好良く。
“いいかい?クレミン君。よく見るんだ。誰の背中を見るべきなのか、追うべきなのか。君の人生を大きく左右する大切な選択を間違えてはいけないよ”
昔、ある人に言われた言葉を思い出す。
昔そう教わっていたのに。
私はどこで間違ったんだ。
何を見ていたんだ。
誰を追っていたんだ。
ガチャ
「……まだ何か用事?」
また執務室の扉が開き、セイフォード少将が顔を覗かせた。
今からでも間に合うだろうか。
「…書類、半分請け負いますよ」
「え?」
怪訝な表情を浮かべられるだろうが、それは私が招いたことだから。
どうしたの?大丈夫?頭打った?
そんな言葉を投げかけられるかと思ったが。
「いいの?」
セイフォード少将はきょとん顔を浮かべて。
「…今日は定時で上がって、ホークアイ中尉のところへ行ってください」
私の言葉に、見る見るうちに笑顔になって。
そして。
「ありがとね、クレミン准将。必ず埋め合わせをするわ」
お礼と、必ず埋め合わせをする。など。
他の将官たちには有り得ない言葉。
しかも半分と言ったのに、4分の1しか書類を渡されなかった。
「あの…まだ…」
「あとは確認だけだから大丈夫よ。ありがとう」
じゃあお願いね、と。
セイフォード少将は執務室へと戻られた。
「……“ありがとう”か」
今はっきりとわかった。
誰の背中を見るべきなのか、追うべきなのか。
ようやく理解した。
あの人は私よりも随分年下だ。
だがそんなものは関係ない。
上官を畏れず真っ直ぐ前を見る強い眼差しを持つあの人の背中こそ。
私が見るべきで追うべき存在だ。
「……」
部下からの信頼を獲得するには時間がかかるだろうけれど。
私はもう間違わない。
部下の前では常に格好良く。
誇れる背中になろうと決めた日だった。
END