ハガレン 旧拍手文置き場
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『憧れた瞬間』
ある日の非番。
「…この拳銃を使い始めて、もう相当経つわね」
拳銃の手入れをしていて、ふと思い出したのは。
“構えてから射出するまでのスピードと、ターゲットへの正確無比の狙撃。見事なものね”
アイリ・セイフォードという人間を知った時のことだった。
私がまだ士官候補生の頃。
教官が突然言った。
“明日、雷鳴の錬金術師に急遽射撃訓練のご指導していただけることになった”
急遽 雷鳴の錬金術師の予定が取れたようで、わざわざ中央からお越しいただけるらしい。
“雷鳴の錬金術師 アイリ・セイフォード”
その名と二つ名は知っているけれど、どんな人物なのかは知らなくて。
どうせ偉そうで高飛車に違いないと勝手に思い込んでいた。
当時すでに父のお弟子さんだったマスタング大佐に、“雷鳴の錬金術師”について伺ってみると。
“とても優しく、綺麗で強い人だよ”
と優しげな笑みを浮かべて教えてくれた。
“偉そうで高飛車”という私のイメージが、マスタング大佐に…当時は少佐だったけれど、マスタング大佐にそう言わせるくらいの人なんだと思って。
でもまぁ、関わることはないだろうと。
この時はそう思っていた。
翌日、射撃訓練場で。
同期たちは“雷鳴の錬金術師”が来ることにワクワクを隠せなく、ざわざわしている。
他の教官たちも居ることから結構な階級の方なのだろうと思いながら。
私は一人でライフルを構え、的を射抜く。
今日はなかなか調子がいい。
ガチャン、とコッキングをした時に。
『リザ・ホークアイ、至急 教官室に来るように』
校内放送で呼び出された。
ざわざわと場内がざわつく。
私は静かにライフル銃を置き、チラチラと見てくる視線をそのままに教官室へ向かった。
「失礼します」
「!来たか、ホークアイ」
教官室へ行けば、金色の綺麗な髪の女性が座っていて。
教官に手招きをされた。
コートを着ているためこの女性の階級がわからないけれど、歩み寄って敬礼をする。
「わざわざ来てもらっちゃってごめんね。」
そう言って、ニコリと笑った。
…綺麗な人。
「グラマン中将のお孫さんの成績はどう?って聞いたら、呼んでくれたみたいで」
祖父のことを知っているということは、東方司令部勤務の方なのだろうか。
「…いえ」
私は少し視線を下げると、女性はきょとん顔を浮かべた。
「グラマン中将から“孫娘のために講習をしてもらえんかのう”って何度も電話がかかってきてね」
今日しか予定が空けられなかった、と。
女性は言う。
ああ、じゃあこの人が“雷鳴の錬金術師 アイリ・セイフォード”
「……祖父が…すみません…」
少し俯くと、“雷鳴の錬金術師”は立ち上がり私の顎に手を添えて。
「いいえ。グラマン中将の頼みは聞くようにはしているから」
と、クッと顎を持ち上げられて上を向かされた。
綺麗な“雷鳴の錬金術師”の顔が目に映る。
“雷鳴の錬金術師”はニコリと笑み、私の肩に手を置いて。
「さて、と。そろそろ時間だから行こうかな。来てくれてありがとうね」
「あ…いえ、失礼しました」
再び敬礼をし、教官室を出て。
私は“雷鳴の錬金術師”に触れられた顎に触れ、教官室へ振り返る。
上を向かされたのは何故だろう。
上官を前にして俯くなということかしら。
それにしても、あの後の笑みはそんなふうに言ってるようには見えなかったし…。
まぁ、何にしても気を付けないといけないわね。
射撃訓練場に戻り、少ししたら“雷鳴の錬金術師”が入って来た。
教官たちは敬礼し、私たちも整列して敬礼する。
“雷鳴の錬金術師”が片手を上げることで敬礼を解き、後ろに組む。
「私はアイリ・セイフォード。階級は大佐よ」
…この若さで大佐って。
国家錬金術師だとしても、すごい出世スピード…。
「今日しか空いていなくて、急な予定変更で申し訳ないけれどよろしくね」
ニコリと笑むと、教官含む周りの人たちは頬を赤らめた。
…本当、綺麗な人ね。
“雷鳴の錬金術師”、セイフォード大佐が一人一人に銃の構え方から視線の先、腕の角度など様々なことを教えている。
私もそれを横目で見つつ、私は私でライフル銃を構えて撃つ。
コッキングをして、また構えて撃つ。
「すごいわね」
「!」
いつの間か、セイフォード大佐が私の隣に立っていた。
「セイフォード大佐…」
敬礼しようとすれば止められて。
「撃って」
「あ…はい…」
そう言われたので、コッキングして構えて撃つ。
「うん」
セイフォード大佐は頷き、的を見ながら私の肩に手を置いて。
「構えてから射出するまでのスピードと、ターゲットへの正確無比の狙撃。見事なものね」
素晴らしい、と。
私の狙撃技術を誉めてくれた。
今まで的確に的を射抜く点については何度も褒められたけれど。
構えてから撃つまでを褒められたことがなかった。
「…あ、いえ。ありがとうございます…」
嬉しかった。
教官に褒められることよりも、“国軍大佐”に褒められたことが。
「ねぇ、リザ」
「え…?あ、はい」
セイフォード大佐は私の顎に手を添えて。
「下を向く理由、何かあるの?」
私に問いかけてきた。
下を向く理由って…。
「特にありませんが…」
なぜそんなことを聞くのだろうと思えば。
「そう。」
セイフォード大佐はまた私の顎を持ち上げて。
「じゃあ下を向く必要ないわよね?」
ニコリと笑う。
「真っ直ぐ前を見て。下ばかり見ていたら、守れるものも守れない」
ライフル銃を拳銃へと造り替えて。
「その瞳に映る人を守れるように。あなたが守るべき人を守るために」
私へと差し出した。
私はその拳銃とセイフォード大佐を交互に見つめて。
その拳銃を受け取ると。
「期待してるから、あなたに」
セイフォード大佐は綺麗に微笑んで、背中を向けた。
「訓練の続き、始めるわよ」
「セイフォード大佐、新しいライフル銃を頼みますよ」
「ごめーん。すぐ新しいの送るから」
教官たちも萎縮せず、気軽にセイフォード大佐と話をしている。
高飛車でもなく、偉そうでもなく。
“とても優しく、綺麗で強い人だよ”
マスタングさんが言っていた通りの方だった。
「…真っ直ぐ…前を…」
向く。
下ばかり見ていては、守れる人も守れない。
未来、私に守るべき人が現れた時。
その人を守るために。
引きそうになる顎を止め、顔を上げる。
セイフォード大佐の背中を見つめる。
格好良い背中だと思った。
その背中にどれほどのものを背負っているのだろう。
どれほどのものを背負えば、そんな格好良い背中になれるのだろう。
「…穴の中に全弾通すって…」
「これでも大佐だからね」
初めてお会いし、アイリ・セイフォードという人を知って。
マスタングさんが信頼を寄せる意味を理解して。
猛烈に憧れた。
私も、マスタングさんや祖父、このセイフォード大佐の信頼の中に入りたい。
“期待している”
セイフォード大佐はそう言ってくれたから。
私は真っ直ぐ前を見て。
視線はもう落とさず、前を見て。
私の瞳に映る人を守れるくらい強くなりたいと。
目標が出来た瞬間だった。
次にお会いしたのは、イシュヴァールの内乱で。
その時はアイリさんは准将にまでなっていて。
その時に直で見た。
“雷鳴の錬金術師”による、“雷の力”の凄まじさを。
アイリさんは私に言った。
真っ直ぐ前を向いて、と。
アイリさんは戦争の最中でも下を向くことなく、絶望することもなく。
真っ直ぐ前だけを見て。
強く、揺るぎない眼差しで未来を見据えていた。
その背中はやっぱり格好良くて。
その強さと優しさを秘めた眼差しが。
いつまでも揺るぐことのないようにと願った。
「…懐かしい」
拳銃の手入れを終え、拳銃を見る。
アイリさんが造ってくれたこの拳銃。
教官たちは“雷鳴の錬金術師がお前にくれたものだから、大切にしろ”と言い、持って帰ることを許可してくれた。
あの時のアイリさんの言葉があったから。
私は今も前を向いて戦える。
私が守るべき人、マスタング大佐の背中を守って。
マスタング大佐が振り返らなくてもいいように。
アイリさんのあの言葉があったから。
私は強くなれた。
全てはアイリさんの、あの言葉。
“ 真っ直ぐ前を見て。下ばかり見ていたら、守れるものも守れない”
“ その瞳に映る人を守れるように。あなたが守るべき人を守るために”
この言葉のおかげです。
「…というか、そろそろ起きてくださいアイリさん」
「…起き…て…る…」
「嘘にも程がありますよ…もう…」
END
ある日の非番。
「…この拳銃を使い始めて、もう相当経つわね」
拳銃の手入れをしていて、ふと思い出したのは。
“構えてから射出するまでのスピードと、ターゲットへの正確無比の狙撃。見事なものね”
アイリ・セイフォードという人間を知った時のことだった。
私がまだ士官候補生の頃。
教官が突然言った。
“明日、雷鳴の錬金術師に急遽射撃訓練のご指導していただけることになった”
急遽 雷鳴の錬金術師の予定が取れたようで、わざわざ中央からお越しいただけるらしい。
“雷鳴の錬金術師 アイリ・セイフォード”
その名と二つ名は知っているけれど、どんな人物なのかは知らなくて。
どうせ偉そうで高飛車に違いないと勝手に思い込んでいた。
当時すでに父のお弟子さんだったマスタング大佐に、“雷鳴の錬金術師”について伺ってみると。
“とても優しく、綺麗で強い人だよ”
と優しげな笑みを浮かべて教えてくれた。
“偉そうで高飛車”という私のイメージが、マスタング大佐に…当時は少佐だったけれど、マスタング大佐にそう言わせるくらいの人なんだと思って。
でもまぁ、関わることはないだろうと。
この時はそう思っていた。
翌日、射撃訓練場で。
同期たちは“雷鳴の錬金術師”が来ることにワクワクを隠せなく、ざわざわしている。
他の教官たちも居ることから結構な階級の方なのだろうと思いながら。
私は一人でライフルを構え、的を射抜く。
今日はなかなか調子がいい。
ガチャン、とコッキングをした時に。
『リザ・ホークアイ、至急 教官室に来るように』
校内放送で呼び出された。
ざわざわと場内がざわつく。
私は静かにライフル銃を置き、チラチラと見てくる視線をそのままに教官室へ向かった。
「失礼します」
「!来たか、ホークアイ」
教官室へ行けば、金色の綺麗な髪の女性が座っていて。
教官に手招きをされた。
コートを着ているためこの女性の階級がわからないけれど、歩み寄って敬礼をする。
「わざわざ来てもらっちゃってごめんね。」
そう言って、ニコリと笑った。
…綺麗な人。
「グラマン中将のお孫さんの成績はどう?って聞いたら、呼んでくれたみたいで」
祖父のことを知っているということは、東方司令部勤務の方なのだろうか。
「…いえ」
私は少し視線を下げると、女性はきょとん顔を浮かべた。
「グラマン中将から“孫娘のために講習をしてもらえんかのう”って何度も電話がかかってきてね」
今日しか予定が空けられなかった、と。
女性は言う。
ああ、じゃあこの人が“雷鳴の錬金術師 アイリ・セイフォード”
「……祖父が…すみません…」
少し俯くと、“雷鳴の錬金術師”は立ち上がり私の顎に手を添えて。
「いいえ。グラマン中将の頼みは聞くようにはしているから」
と、クッと顎を持ち上げられて上を向かされた。
綺麗な“雷鳴の錬金術師”の顔が目に映る。
“雷鳴の錬金術師”はニコリと笑み、私の肩に手を置いて。
「さて、と。そろそろ時間だから行こうかな。来てくれてありがとうね」
「あ…いえ、失礼しました」
再び敬礼をし、教官室を出て。
私は“雷鳴の錬金術師”に触れられた顎に触れ、教官室へ振り返る。
上を向かされたのは何故だろう。
上官を前にして俯くなということかしら。
それにしても、あの後の笑みはそんなふうに言ってるようには見えなかったし…。
まぁ、何にしても気を付けないといけないわね。
射撃訓練場に戻り、少ししたら“雷鳴の錬金術師”が入って来た。
教官たちは敬礼し、私たちも整列して敬礼する。
“雷鳴の錬金術師”が片手を上げることで敬礼を解き、後ろに組む。
「私はアイリ・セイフォード。階級は大佐よ」
…この若さで大佐って。
国家錬金術師だとしても、すごい出世スピード…。
「今日しか空いていなくて、急な予定変更で申し訳ないけれどよろしくね」
ニコリと笑むと、教官含む周りの人たちは頬を赤らめた。
…本当、綺麗な人ね。
“雷鳴の錬金術師”、セイフォード大佐が一人一人に銃の構え方から視線の先、腕の角度など様々なことを教えている。
私もそれを横目で見つつ、私は私でライフル銃を構えて撃つ。
コッキングをして、また構えて撃つ。
「すごいわね」
「!」
いつの間か、セイフォード大佐が私の隣に立っていた。
「セイフォード大佐…」
敬礼しようとすれば止められて。
「撃って」
「あ…はい…」
そう言われたので、コッキングして構えて撃つ。
「うん」
セイフォード大佐は頷き、的を見ながら私の肩に手を置いて。
「構えてから射出するまでのスピードと、ターゲットへの正確無比の狙撃。見事なものね」
素晴らしい、と。
私の狙撃技術を誉めてくれた。
今まで的確に的を射抜く点については何度も褒められたけれど。
構えてから撃つまでを褒められたことがなかった。
「…あ、いえ。ありがとうございます…」
嬉しかった。
教官に褒められることよりも、“国軍大佐”に褒められたことが。
「ねぇ、リザ」
「え…?あ、はい」
セイフォード大佐は私の顎に手を添えて。
「下を向く理由、何かあるの?」
私に問いかけてきた。
下を向く理由って…。
「特にありませんが…」
なぜそんなことを聞くのだろうと思えば。
「そう。」
セイフォード大佐はまた私の顎を持ち上げて。
「じゃあ下を向く必要ないわよね?」
ニコリと笑う。
「真っ直ぐ前を見て。下ばかり見ていたら、守れるものも守れない」
ライフル銃を拳銃へと造り替えて。
「その瞳に映る人を守れるように。あなたが守るべき人を守るために」
私へと差し出した。
私はその拳銃とセイフォード大佐を交互に見つめて。
その拳銃を受け取ると。
「期待してるから、あなたに」
セイフォード大佐は綺麗に微笑んで、背中を向けた。
「訓練の続き、始めるわよ」
「セイフォード大佐、新しいライフル銃を頼みますよ」
「ごめーん。すぐ新しいの送るから」
教官たちも萎縮せず、気軽にセイフォード大佐と話をしている。
高飛車でもなく、偉そうでもなく。
“とても優しく、綺麗で強い人だよ”
マスタングさんが言っていた通りの方だった。
「…真っ直ぐ…前を…」
向く。
下ばかり見ていては、守れる人も守れない。
未来、私に守るべき人が現れた時。
その人を守るために。
引きそうになる顎を止め、顔を上げる。
セイフォード大佐の背中を見つめる。
格好良い背中だと思った。
その背中にどれほどのものを背負っているのだろう。
どれほどのものを背負えば、そんな格好良い背中になれるのだろう。
「…穴の中に全弾通すって…」
「これでも大佐だからね」
初めてお会いし、アイリ・セイフォードという人を知って。
マスタングさんが信頼を寄せる意味を理解して。
猛烈に憧れた。
私も、マスタングさんや祖父、このセイフォード大佐の信頼の中に入りたい。
“期待している”
セイフォード大佐はそう言ってくれたから。
私は真っ直ぐ前を見て。
視線はもう落とさず、前を見て。
私の瞳に映る人を守れるくらい強くなりたいと。
目標が出来た瞬間だった。
次にお会いしたのは、イシュヴァールの内乱で。
その時はアイリさんは准将にまでなっていて。
その時に直で見た。
“雷鳴の錬金術師”による、“雷の力”の凄まじさを。
アイリさんは私に言った。
真っ直ぐ前を向いて、と。
アイリさんは戦争の最中でも下を向くことなく、絶望することもなく。
真っ直ぐ前だけを見て。
強く、揺るぎない眼差しで未来を見据えていた。
その背中はやっぱり格好良くて。
その強さと優しさを秘めた眼差しが。
いつまでも揺るぐことのないようにと願った。
「…懐かしい」
拳銃の手入れを終え、拳銃を見る。
アイリさんが造ってくれたこの拳銃。
教官たちは“雷鳴の錬金術師がお前にくれたものだから、大切にしろ”と言い、持って帰ることを許可してくれた。
あの時のアイリさんの言葉があったから。
私は今も前を向いて戦える。
私が守るべき人、マスタング大佐の背中を守って。
マスタング大佐が振り返らなくてもいいように。
アイリさんのあの言葉があったから。
私は強くなれた。
全てはアイリさんの、あの言葉。
“ 真っ直ぐ前を見て。下ばかり見ていたら、守れるものも守れない”
“ その瞳に映る人を守れるように。あなたが守るべき人を守るために”
この言葉のおかげです。
「…というか、そろそろ起きてくださいアイリさん」
「…起き…て…る…」
「嘘にも程がありますよ…もう…」
END