ハガレン 旧拍手文置き場
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『もしも生まれ変わったら』
「ねぇ、アイリ」
「……だから、私の執務室には来ないでと言ったでしょ?」
ある日。
アイリの執務室へと訪れれば。
物凄く嫌そうな顔で出迎えてくれた。
いえ、出迎えてくれたわけじゃないのだけれど。
「いいじゃない。そう嫌わないで?」
クスリと笑い、ソファーに腰を掛ける。
「…ラスト、あなたたちの存在を今みんなに知られるのは些か面倒くさいんだけど」
私たちの存在。
それは、人造人間(ホムンクルス)という存在のこと。
「そんな簡単にはバレないわよ」
あなたたち人間は鈍感だから。
アメストリスという国の歴史も曖昧なまま。
この国がなぜ建国されたのかなんて気にも留めないでしょう?
「忙しいの、私は」
「えぇ、気を使わず仕事をしていていいわ」
去る気がないと諦めたようで、アイリはため息を零した。
アイリは士官学校へ入学したその年に引き抜かれ、軍人になった。
父親の情報を求めて、国家機密を探りたいがために階級上げに励んでいた。
早い話、将官に体を売って階級を上げていたの。
国家錬金術師も二名の将官が連名で推薦し、見事合格。
少佐から中佐になるまで三ヶ月経っていたかしら。
憎しみが込められた強い眼差し。
錬金術師としての戦闘スキルや頭脳の高さ。
私たちとしては放っておいていい人間ではなくて。
殺すか仲間に引き入れるか、二択しかなかった。
優れた人間は利用出来なければ殺すしかない。
何故なら必ず私たちの野望の邪魔になるから。
でもある時から、憎悪に満ちた眼差しが落ち着いて。
笑みが増えるようになって。
優しい人間になった。
“雷鳴の錬金術師”をどうしようか、私たちの間で話し合っていた時に。
『不老不死に興味はないか?』
レイブンという中将がアイリに問いかけた。
なんて浅はかな男だろうと思った。
優れた人間に、そう問うリスクを考えていない愚かな人間。
アイリは目を細め、小さく笑って。
『素晴らしいですね』
すぐにニコリと優しい笑みを浮かべた。
私はすぐに何か企んでいるとわかった。
でも、軍上層部はアイリを中央司令部へと残した。
アイリの危険さをお父様に報告すべきか迷った。
仕事量は働かない将官の分もこなし、何度か過労で倒れたり。
私たちにもこうしてすぐ嫌な顔をする。
絶対に良からぬことを考えているに違いないとわかっていたのに。
『…人造人間(ホムンクルス)でも痛みはあるんでしょ?』
些細なこと。
紙で指を切っただけなのに。
『体の構造はあなたたち人間と一緒だから、痛い時は痛いわよ』
『ふーん…はい、絆創膏』
『もう治ったわ』
『はい化け物決定』
たまに見せる優しさに、迷いを生じさせる。
『私は忙しいんだから出て行って』
『さぁ、知らないわ』
どんなに悪態を吐かれても。
『美味しそうなものを食べてるわね』
『…受け付けの子がくれたの。食べるなら嫌々あげるけど』
やっぱり不意に見せる優しさと。
『…なに?』
『あなたたちも“体調悪い”とかあるのね』
『…体の構造は人と一緒だと言ったでしょ』
『体調悪いなら、上半身吹っ飛ばして再生させたら楽になるんじゃない?』
『…とんでもないことを言うわね』
気遣いに調子が狂う。
笑顔なんて見せてくれたことはないけれど。
『恋人にあなたの状況を知られたら何て言われるかしらね』
『罵られる覚悟は出来ているから、そんな脅しになんて屈しません』
恋人を想い、小さく笑みを浮かべるのを見た時は。
本当に恋人を殺してやろうかとすら思った。
「……人の執務室で物思いに耽らないでもらえる?」
アイリの言葉に、ハッと我に返る。
「考え事くらいいいじゃない」
「良くないから、さっさと出て行って」
アイリを見つめて思うのは。
「恋人に見られたら大変?」
「恋人だけじゃないわ」
「ふふっ、それもそうね」
アイリはきっと、私たち側の人間ではないだろうということ。
自分の仕事や、押し付けられた仕事もそつなくこなして。
将官たちの信頼を獲得して。
今や中央司令部はアイリなしでは機能しないのでは?と言いたくなるくらい中央司令部はアイリに依存している。
アイリもアイリでそれを利用し、私たちを内側から崩すために私たちの味方のふりをしている。
エンヴィーやラースすら気付いていないだろう、アイリの思惑。
誰にも言わずに。
一人で立ち向かって来てる。
本当はお父様に報告して、すぐに殺したっていい。
けれど、なぜそうしないのか。
それは。
「ねぇ、アイリ」
「……なに」
私がアイリに興味を持ったから。
無謀とも取れる戦いに、たった一人で挑んで来る面白い子だから。
だからもしも。
「もしも生まれ変わったら、私たち恋人同士になれると思う?」
もしも生まれ変わったら。
あなたの恋人になって、あなたという人間を間近で見ていたい。
「……生まれ変わったらって、なに?珍しく死んだ先のことを考えていたの?」
「もしも、よ」
リザ・ホークアイより先に出会えれば。
「…恋人同士にはなれないというより、なりたくないわね。」
アイリはチラッと私を見て。
「私は来世でもリザを探すし、リザしか目に映らないから」
そう言った。
「依存が過ぎない?まったく」
恋人に依存が激しいアイリにため息を零すと。
「……まぁ」
「?」
またチラッと私を見て。
「恋人にはなりたくないけど、知り合いくらいにならなってあげてもいいけど」
書類へと視線を戻した。
「友人じゃなくて知り合いだけ?」
「当たり前。あ、どうもーって会釈するくらいならいいわよ」
本当に面白い子よね。
私はクスリと笑み、立ち上がって。
「じゃあ、来世はそれでお願い。」
「…えぇ、わかったわ」
そう言って、執務室を出た。
私たちはきっと負ける。
私たちの目的はきっと果たされない。
四百年余り生きてきたけれど、今の時代の人間たちの結束力は強く揺るがない。
“雷鳴の錬金術師”という嘘みたいに優れた錬金術師が現れて。
“焔の錬金術師”という焔の付いた強い瞳をする錬金術師も現れた。
私たちは時間を掛けすぎたし、人間を甘く見ていた。
「完敗よ。」
ほらね。
「悔しいけど、貴方みたいな男に殺られるのも悪くない。」
負けたわ。
「そのに迷いのない真っ直ぐな目。」
アイリと同じ、揺るぎない強さを秘めた目。
「好きよ。」
出来ればアイリの手で死にたかったけれど。
「楽しみね。」
楽しみね。
「その目が苦悩に歪む日は」
アイリの裏切りと、うちに秘めた真実を知ったらあなたたちはどうするのか。
「すぐ…そこ…」
もう少しで知るだろう真実を。
アイリの真実を知ったあなたたちの表情、見てみたかったわ。
出来るならアイリの手で殺されたかった。
最期に目に映るのは、アイリがよかった。
ねぇ、アイリ。
あの約束。
忘れないで。
生まれ変わったら、私たちは。
『あ、どうも』
『こんにちは。良い天気ね』
『ですねー。じゃあまた』
『えぇ、また』
軽く会釈をして、短い会話をするような。
“ただの知り合い”になるんだから。
END
「ねぇ、アイリ」
「……だから、私の執務室には来ないでと言ったでしょ?」
ある日。
アイリの執務室へと訪れれば。
物凄く嫌そうな顔で出迎えてくれた。
いえ、出迎えてくれたわけじゃないのだけれど。
「いいじゃない。そう嫌わないで?」
クスリと笑い、ソファーに腰を掛ける。
「…ラスト、あなたたちの存在を今みんなに知られるのは些か面倒くさいんだけど」
私たちの存在。
それは、人造人間(ホムンクルス)という存在のこと。
「そんな簡単にはバレないわよ」
あなたたち人間は鈍感だから。
アメストリスという国の歴史も曖昧なまま。
この国がなぜ建国されたのかなんて気にも留めないでしょう?
「忙しいの、私は」
「えぇ、気を使わず仕事をしていていいわ」
去る気がないと諦めたようで、アイリはため息を零した。
アイリは士官学校へ入学したその年に引き抜かれ、軍人になった。
父親の情報を求めて、国家機密を探りたいがために階級上げに励んでいた。
早い話、将官に体を売って階級を上げていたの。
国家錬金術師も二名の将官が連名で推薦し、見事合格。
少佐から中佐になるまで三ヶ月経っていたかしら。
憎しみが込められた強い眼差し。
錬金術師としての戦闘スキルや頭脳の高さ。
私たちとしては放っておいていい人間ではなくて。
殺すか仲間に引き入れるか、二択しかなかった。
優れた人間は利用出来なければ殺すしかない。
何故なら必ず私たちの野望の邪魔になるから。
でもある時から、憎悪に満ちた眼差しが落ち着いて。
笑みが増えるようになって。
優しい人間になった。
“雷鳴の錬金術師”をどうしようか、私たちの間で話し合っていた時に。
『不老不死に興味はないか?』
レイブンという中将がアイリに問いかけた。
なんて浅はかな男だろうと思った。
優れた人間に、そう問うリスクを考えていない愚かな人間。
アイリは目を細め、小さく笑って。
『素晴らしいですね』
すぐにニコリと優しい笑みを浮かべた。
私はすぐに何か企んでいるとわかった。
でも、軍上層部はアイリを中央司令部へと残した。
アイリの危険さをお父様に報告すべきか迷った。
仕事量は働かない将官の分もこなし、何度か過労で倒れたり。
私たちにもこうしてすぐ嫌な顔をする。
絶対に良からぬことを考えているに違いないとわかっていたのに。
『…人造人間(ホムンクルス)でも痛みはあるんでしょ?』
些細なこと。
紙で指を切っただけなのに。
『体の構造はあなたたち人間と一緒だから、痛い時は痛いわよ』
『ふーん…はい、絆創膏』
『もう治ったわ』
『はい化け物決定』
たまに見せる優しさに、迷いを生じさせる。
『私は忙しいんだから出て行って』
『さぁ、知らないわ』
どんなに悪態を吐かれても。
『美味しそうなものを食べてるわね』
『…受け付けの子がくれたの。食べるなら嫌々あげるけど』
やっぱり不意に見せる優しさと。
『…なに?』
『あなたたちも“体調悪い”とかあるのね』
『…体の構造は人と一緒だと言ったでしょ』
『体調悪いなら、上半身吹っ飛ばして再生させたら楽になるんじゃない?』
『…とんでもないことを言うわね』
気遣いに調子が狂う。
笑顔なんて見せてくれたことはないけれど。
『恋人にあなたの状況を知られたら何て言われるかしらね』
『罵られる覚悟は出来ているから、そんな脅しになんて屈しません』
恋人を想い、小さく笑みを浮かべるのを見た時は。
本当に恋人を殺してやろうかとすら思った。
「……人の執務室で物思いに耽らないでもらえる?」
アイリの言葉に、ハッと我に返る。
「考え事くらいいいじゃない」
「良くないから、さっさと出て行って」
アイリを見つめて思うのは。
「恋人に見られたら大変?」
「恋人だけじゃないわ」
「ふふっ、それもそうね」
アイリはきっと、私たち側の人間ではないだろうということ。
自分の仕事や、押し付けられた仕事もそつなくこなして。
将官たちの信頼を獲得して。
今や中央司令部はアイリなしでは機能しないのでは?と言いたくなるくらい中央司令部はアイリに依存している。
アイリもアイリでそれを利用し、私たちを内側から崩すために私たちの味方のふりをしている。
エンヴィーやラースすら気付いていないだろう、アイリの思惑。
誰にも言わずに。
一人で立ち向かって来てる。
本当はお父様に報告して、すぐに殺したっていい。
けれど、なぜそうしないのか。
それは。
「ねぇ、アイリ」
「……なに」
私がアイリに興味を持ったから。
無謀とも取れる戦いに、たった一人で挑んで来る面白い子だから。
だからもしも。
「もしも生まれ変わったら、私たち恋人同士になれると思う?」
もしも生まれ変わったら。
あなたの恋人になって、あなたという人間を間近で見ていたい。
「……生まれ変わったらって、なに?珍しく死んだ先のことを考えていたの?」
「もしも、よ」
リザ・ホークアイより先に出会えれば。
「…恋人同士にはなれないというより、なりたくないわね。」
アイリはチラッと私を見て。
「私は来世でもリザを探すし、リザしか目に映らないから」
そう言った。
「依存が過ぎない?まったく」
恋人に依存が激しいアイリにため息を零すと。
「……まぁ」
「?」
またチラッと私を見て。
「恋人にはなりたくないけど、知り合いくらいにならなってあげてもいいけど」
書類へと視線を戻した。
「友人じゃなくて知り合いだけ?」
「当たり前。あ、どうもーって会釈するくらいならいいわよ」
本当に面白い子よね。
私はクスリと笑み、立ち上がって。
「じゃあ、来世はそれでお願い。」
「…えぇ、わかったわ」
そう言って、執務室を出た。
私たちはきっと負ける。
私たちの目的はきっと果たされない。
四百年余り生きてきたけれど、今の時代の人間たちの結束力は強く揺るがない。
“雷鳴の錬金術師”という嘘みたいに優れた錬金術師が現れて。
“焔の錬金術師”という焔の付いた強い瞳をする錬金術師も現れた。
私たちは時間を掛けすぎたし、人間を甘く見ていた。
「完敗よ。」
ほらね。
「悔しいけど、貴方みたいな男に殺られるのも悪くない。」
負けたわ。
「そのに迷いのない真っ直ぐな目。」
アイリと同じ、揺るぎない強さを秘めた目。
「好きよ。」
出来ればアイリの手で死にたかったけれど。
「楽しみね。」
楽しみね。
「その目が苦悩に歪む日は」
アイリの裏切りと、うちに秘めた真実を知ったらあなたたちはどうするのか。
「すぐ…そこ…」
もう少しで知るだろう真実を。
アイリの真実を知ったあなたたちの表情、見てみたかったわ。
出来るならアイリの手で殺されたかった。
最期に目に映るのは、アイリがよかった。
ねぇ、アイリ。
あの約束。
忘れないで。
生まれ変わったら、私たちは。
『あ、どうも』
『こんにちは。良い天気ね』
『ですねー。じゃあまた』
『えぇ、また』
軽く会釈をして、短い会話をするような。
“ただの知り合い”になるんだから。
END