ハガレン 旧拍手文置き場
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『胸』
「ねぇ、ホークアイ中尉」
「なに?カタリナ少尉」
「あんた、胸大きくなった?」
「…あなたは仕事中になんてことを言うの…」
ある日。
オフィスにレベッカが来て。
“胸大きくなった?”と聞いてきた。
仕事中に。
オフィスで。
みんなの前で。
「…マジ「ハボック少尉、真面目に仕事をしなさい」
ハボック少尉の言葉を遮る。
「まぁ…少将と「ブレダ少尉?」ナンデモナイッス…」
ブレダ少尉の言葉も遮る。
「いや絶対に「カタリナ少尉、馬鹿なことを言ってないで早く仕事に戻りなさい」
レベッカの言葉も遮る。
……胸が大きくなったなんて、今言うこと?
仕事中に、オフィスで、みんなの前で…。
どうしてそういうデリケートなことをみんなの前で言うのよ。
…ま、まぁ…確かに…少し大きくはなったけれど…。
「ね、リザ」
「なに…って…ッちょっと…!」
少しだけ物思いに耽っていたら、あろうことかレベッカが胸を揉んできた。
「いやぁ、やっぱり大きくなったわよね」
「やめなさい!仕事中よ!!」
「…女同士っていいよなぁ…」
「俺らが触ったら逮捕もんだよな…」
後ろから鷲掴みにされて、手を掴んでも離れない。
こんなところアイリさんに見られたら大変。
「ッレベッカ…!いい加減にしないと怒るわよ!」
「えー?なに?感じてる?」
私の肩に顎を乗せて、絶対にニヤニヤしてるに違いない。
「ちょ“バンッ”
悪ふざけのしつこさに、さすがに本気で怒ろうとした時。
「「セイフォード少将…っ!」」
アイリさんがオフィスに入ってきた。
「………」
眉間に皺を寄せて、私たちを横目で見る。
「あ、あのこれは…!悪ふざけで…!!」
レベッカは慌てて離れる。
…あの怒り方って…。
「………」
アイリさんは私たちから視線を外して。
「リザ」
「は、はい…」
私の名前を呼んで。
「しばらく帰らないわ」
そう言った。
「え?」
え?
「…セイフォード少将…?」
ハボック少尉がアイリさんを呼ぶ。
「……」
アイリさんはこちらへ振り返ることなく、出て行ってしまった。
「あれヤバくね…?」
「かなり怒ってますよね…」
静まり返るオフィス。
「いやごめんリザ「違うわ」
やっぱり、あれは違う。
あれは、私たちへの怒りじゃない。
「違う?何が…ってリザ!?どこ行くの!?」
私はアイリさんを追う。
あれは私たちにじゃない。
あれは。
あれは。
「アイリさん!」
東方司令部の入り口で、アイリさんを呼び止める。
「…なに?」
早足になるくらいアイリさんは怒ってる。
誰に?
それは。
中央司令部の、クレミン准将に。
アイリさんは私へは振り返らない。
きっと苛立ちをぶつけないようにしているのだろう。
だから私は、アイリさんの手を掴んで。
「!リ………」
手を掴むことによって振り返ったアイリさんへ、キスをした。
司令部の入り口という、みんながいる場所で。
すごい見られてるのはわかってる。
でも、せずには居られなかった。
「待ってますから」
アイリさんから離れ、小さく笑いかけると。
アイリさんは目を閉じ深呼吸をして。
「ん、ありがとね」
はにかむように笑った。
多分、自分でも信じられないくらいの苛立ちだったんだと思う。
「気をつけて行ってきてくださいね」
「えぇ。あ、そうそう」
アイリさんは私の背後を見つめながら。
「レベッカに、帰ってきたらじっくりとお話ししましょうねって伝えておいてちょうだい」
ニコリと笑った。
振り返ればレベッカが青褪めた表情を浮かべていて。
「わかりました、しっかり伝えておきます」
「よろしくね。じゃあ行ってくるから」
「はい」
ちゅ、と額にキスをしてくれて、##NAME1##さんは中央司令部へと行った。
「あんた、よくわかったわね…」
アイリさんの様子について、レベッカにそう言われた。
「あの人は私たちに対してあんな怒り方をする方じゃないもの」
特にレベッカは私の親しい友人だと知っているから、嫉妬はするものの怒ったりはしない。
みんなの前でのキスを突っ込まれるかと思ったけれど、誰も突っ込んでは来なかった。
きっとアイリさんの様子から、キスをすることで怒りが少しでも収まったことにホッとしたのね。
…でも。
「…しばらく帰らない、か…」
中央司令部からのしつこいくらいの電話なのはわかるけど…。
「すぐ戻って来るわよ」
レベッカが私の肩に手を置く。
「…そうね」
どのくらい向こうにいるのかしら…。
というか、アイリさんは元々中央司令部勤務の方。
今はグラマン中将に東部での案件を任されているから来ているだけで。
そう、前までの遠距離恋愛に戻るだけ。
もし東部での案件を解決したら中央司令部に戻ってしまうんだから、寂しがってちゃダメよね。
「さて、と。仕事に戻るわよ」
「はーい」
切り替えないと。
今は仕事に集中。
「ふぅ…」
帰宅して、家の中を見渡す。
いつもならさアイリさんと一緒に帰宅していたのに。
今日からしばらく一人。
「クーン」
足に擦り寄るハヤテ号の頭を撫でる。
元々は遠距離恋愛。
大丈夫、すぐに慣れるわ。
寂しいのは最初だけ。
「…電話してくれるかしら」
いえ、きっと忙しくて今日は来ないでしょうね。
「…夕食を食べて寝ましょうか…」
寂しいけれど、仕方のないこと。
夕食を食べて、シャワーを浴びて。
アイリさんがいつも寝ていた側のベッドに触れて。
「……」
アイリさんが使っていた枕を抱き締めて、早めに眠りに就いた。
それから、アイリさんは一週間も戻らなかった。
「…禁断症状が出そう」
「…あんたがそこまでになるの珍しいわね」
一週間も帰って来なくて、一週間も連絡がないの。
ご自宅に電話をしても出ないし…。
忙しさが極まってるのでしょうけど。
大丈夫なの?アイリさん…。
家にも帰れないくらい忙しいの?
食事はちゃんと摂ってる?
睡眠は?
心配で私まで眠れなくなってしまうわよ…もう…。
「クレミン准将、かつてないくらいセイフォード少将に叱られてたらしいじゃない」
「セイフォード少将が怒鳴ってるの初めて見た、という話が広まってるわよね」
「セイフォード少将を怒らせることが出来るなんて、それにびっくりだわ…」
普段から優しいアイリさんを、かつてないくらいまで怒らせたクレミン准将がすごいわ。
噂ではあまりの迫力に、レイブン中将がアイリさんを羽交締めにして止めに入るほどだったとか。
「ちょっと見てみたかったなー。セイフォード少将がブチギレるのを!」
なんてレベッカが残念そうに言うから。
「あら、見れるかもしれないわよ?」
「え゙?」
「中央へ行く前に言ってたじゃない。“じっくりお話をしましょう”って」
なんてクスクス笑いながら言うと。
「そ、そうだった…やばい…」
顔を真っ青にさせたわ。
まぁ、アイリさんはちゃんと冗談だとわかってくれているから、怒るようなことはないけれどね。
「さて、と。そろそろ戻らないと」
「私も戻って反省文書こ…」
…反省文って。
本当、レベッカは一緒に居て飽きないわよね。
'
「ただいま、ハヤテ号」
仕事を終え、帰宅した。
ハヤテ号が尻尾を振って出迎えてくれてくれた。
「?」
でもちょっと違和感。
いつもなら“ワンワン”と2回だけ吠えて出迎えてくれるのに、今は尻尾を振っているだけ。
「ハヤテ号、どうしたの?」
ハヤテ号の頭を撫でようと手を伸ばせば。
ハヤテ号が駆け足で家の中に。
で、振り返ってまた走る。
まるで早く来てと言わんばかりに。
「ハヤ……テ…………」
ハヤテ号を追うようにリビングへ行って。
ハヤテ号が居る位置を見て、目を見開く。
ハヤテ号はソファーの近くにいて、ソファーからは脱ぎ掛けの軍靴を履いたままの足が見えていて。
「…ッアイリさん…ッ」
慌てて駆け寄った。
うそ、うそ。
帰って来た?
やっと帰って来てくれた?
バッとソファーを覗き込めば、アイリさんが寝息を立てていた。
「…アイリさん…」
寝顔でもわかるくらい疲れてる表情をしてる…。
この一週間、すごく忙しかったのね…。
アイリさんの傍に座り、胸に静かに頭を置く。
重くないかしら。
起きちゃうかもしれない。
でも許してほしい。
だって、本当は今すぐにでも抱き締めてキスをしたいんだもの。
アイリさんに私の名前を呼んでほしいんだもの。
でも今は眠っているから、我慢するから。
せめて規則正しい鼓動で安心させて。
「…」
私の傍で、尻尾を振っているハヤテ号の頭を撫でる。
「アイリさんが寝ているから吠えなかったのね。」
本当に賢い子。
と、思っていれば。
「ワン!」
「!?」
吠えた…。
「(ハヤテ号…!静かに…!)」
咄嗟にハヤテ号を抱き抱える。
しっ、と口元で人差し指を立てるも。
「ワン!ワン!」
また吠えた…。
「こ、こら…!」
アイリさんが起きちゃう。
何とかハヤテ号を静かにさせないと。
「…ん」
あ…。
「ワン!」
「…ハヤテ…号…」
アイリさんが起きちゃった…。
私がアイリさんの名前を呼ぼうとした時。
「…ハヤテ号…リザ帰ってきたぁ…?」
眠そうな声色で、そう言って。
「ハヤテ………」
「……」
ハヤテ号のほうを見ようと顔をこちらに向けたアイリさんと、ばっちり目が合ったから。
「ふふっ、おかえり…リザ…」
ギュウッと抱き付いた。
「アイリさんも…おかえりなさい…」
「ん、ただいま…」
はぁ…安らぐ…。
やっと聞けたアイリさんの声に、心から安心する自分がいた。
「ハヤテ号にリザが帰って来たら起こしてーって言ってたのよ。」
「だからハヤテ号が吠えたんですね…」
「そうみたいね。でもまさか本当に起こしてくれるとは思わなかったわ」
お利口さん、とアイリさんはアイリさんの顔の近くに鼻を寄せたハヤテ号を撫でて体を起こした。
「ごめんね?リザ…一週間も連絡出来なくて…」
一週間の音信不通に、アイリさんは申し訳なさそうに謝って来た。
心配はした。
でも、謝る必要なんてない。
「それだけ忙しかったということですし、仕方ないです」
こうして帰って来てくれたから。
もう大丈夫。
「…もうね、初めて人を殴り飛ばしたいと思ったわよ…。」
「…アイリ少将のブチギレ事件はもう広まってますよ」
「大総統にまで知られて、クレミン准将が大総統府に呼び出されてたわ」
ざまぁみろよね、と。
アイリさんはため息を零した。
「ふふっ、お疲れ様でした」
私はクスクス笑って、ちゅ、とキスをする。
「何か食べますか?」
「んー…」
夕食もまだでしょうけど、眠そうな顔をしているからきっと。
「もう少し寝ていたい…」
って言うわよね。
「ではベッドに…っ!」
ベッドへと行かせようとすれば、グイッと手を引かれてアイリさんに重なるように抱き締められた。
「…ちょっとだけだから」
だからベッドじゃなくてソファーでいい、と。
「…もう」
ギュウッと抱き締めてくれたから、私も抱き締め返して。
「…わかりました、ちょっとしたら起こしますね」
「…ん、ありがと」
そうして、アイリさんは再び眠りに就いた。
アイリさんの寝顔を見つめ、薄く開く唇に触れるだけのキスをして。
「…いつもお疲れ様です」
小さく呟き、アイリさんの胸に顔を埋めた。
翌日。
コンコン
「ホークアイ中尉です。お茶をお持ちしました」
お茶を持ってアイリさんの執務室へと訪れた。
「?セイフォード少将?」
ノックをしても返事がなかったので、そっと扉を開けると。
アイリさんはデスクに両肘を付き、組んだ手に額を乗せて。
プルプルと肩を震わせていた。
一見怒りで肩を震わせているように見えるけれど。
「何をそんなに笑ってらっしゃるんですか?」
物凄く笑っているって私にはわかる。
「っっっはーっ!もう…!レベッカは本当に面白い子…!」
瞳に涙を浮かばせるくらい笑っていたのね。
「見て、これ。デスクに置いてあったんだけど、レベッカの反省文」
「反省文…」
レベッカが書いた反省文を見せてもらうと。
「…『この度は私の悪ふざけで本当にごめんなさい。反省しています。どうか許してくださいごめんなさい。』」
「ごめんなさい、がたくさん書いてあるでしょ?」
「…ある意味怖いですね」
「あは!語尾にごめんなさいって面白い発想よ」
アイリさんはクスクス笑う。
「で、だけど」
「?はい」
で、デスクに頬杖を付いて。
「胸、大きくなったの?」
ニヤニヤ笑いながら問いかけて来た。
「……そ、れは…」
「ん?」
「………」
私はチラッとアイリさんを見て。
「…あなたから見て、どうだと思いますか?」
問い返せば。
「え?」
アイリさんはきょとんと私を見た。
あ、これ。
そう返されると思わなかったという表情。
私が恥じらって顔を赤くさせると思ってた表情ね。
だから私は、アイリさんへ向き直って。
「毎日一緒にシャワーを浴びて、私の胸を見ていて大きくなったと思います?」
ニコリと笑って問うと。
「……待って想像させないで鼻血出そう…」
アイリさんがデスクに顔を伏せて悶えた。
「…アイリさん?確かめてみますか?」
アイリさん側に回り込んで、耳元で囁く。
「…うんわかった私の負けだから…っ負けを認めるから…っお願いちょっと理性がやばいから離れて…っ」
デスクに顔を伏せながら両手で顔を隠した。
耳まで真っ赤にさせてる。
ふふ、今回は私の勝ちみたいね。
「次のお休み、下着買いに付き合ってくださいね」
「……はい」
こうして、珍しくアイリさんを言い負かして。
次のお休みに下着を買いに行きました。
「こんなのどう?」
「私が着用した姿を想像してみてください。似合いそうですか?」
「…………」
「アイリさん?」
「もうヤヴァイ…」
アイリさんの弱点を見つけちゃったわね、ふふっ。
END
「ねぇ、ホークアイ中尉」
「なに?カタリナ少尉」
「あんた、胸大きくなった?」
「…あなたは仕事中になんてことを言うの…」
ある日。
オフィスにレベッカが来て。
“胸大きくなった?”と聞いてきた。
仕事中に。
オフィスで。
みんなの前で。
「…マジ「ハボック少尉、真面目に仕事をしなさい」
ハボック少尉の言葉を遮る。
「まぁ…少将と「ブレダ少尉?」ナンデモナイッス…」
ブレダ少尉の言葉も遮る。
「いや絶対に「カタリナ少尉、馬鹿なことを言ってないで早く仕事に戻りなさい」
レベッカの言葉も遮る。
……胸が大きくなったなんて、今言うこと?
仕事中に、オフィスで、みんなの前で…。
どうしてそういうデリケートなことをみんなの前で言うのよ。
…ま、まぁ…確かに…少し大きくはなったけれど…。
「ね、リザ」
「なに…って…ッちょっと…!」
少しだけ物思いに耽っていたら、あろうことかレベッカが胸を揉んできた。
「いやぁ、やっぱり大きくなったわよね」
「やめなさい!仕事中よ!!」
「…女同士っていいよなぁ…」
「俺らが触ったら逮捕もんだよな…」
後ろから鷲掴みにされて、手を掴んでも離れない。
こんなところアイリさんに見られたら大変。
「ッレベッカ…!いい加減にしないと怒るわよ!」
「えー?なに?感じてる?」
私の肩に顎を乗せて、絶対にニヤニヤしてるに違いない。
「ちょ“バンッ”
悪ふざけのしつこさに、さすがに本気で怒ろうとした時。
「「セイフォード少将…っ!」」
アイリさんがオフィスに入ってきた。
「………」
眉間に皺を寄せて、私たちを横目で見る。
「あ、あのこれは…!悪ふざけで…!!」
レベッカは慌てて離れる。
…あの怒り方って…。
「………」
アイリさんは私たちから視線を外して。
「リザ」
「は、はい…」
私の名前を呼んで。
「しばらく帰らないわ」
そう言った。
「え?」
え?
「…セイフォード少将…?」
ハボック少尉がアイリさんを呼ぶ。
「……」
アイリさんはこちらへ振り返ることなく、出て行ってしまった。
「あれヤバくね…?」
「かなり怒ってますよね…」
静まり返るオフィス。
「いやごめんリザ「違うわ」
やっぱり、あれは違う。
あれは、私たちへの怒りじゃない。
「違う?何が…ってリザ!?どこ行くの!?」
私はアイリさんを追う。
あれは私たちにじゃない。
あれは。
あれは。
「アイリさん!」
東方司令部の入り口で、アイリさんを呼び止める。
「…なに?」
早足になるくらいアイリさんは怒ってる。
誰に?
それは。
中央司令部の、クレミン准将に。
アイリさんは私へは振り返らない。
きっと苛立ちをぶつけないようにしているのだろう。
だから私は、アイリさんの手を掴んで。
「!リ………」
手を掴むことによって振り返ったアイリさんへ、キスをした。
司令部の入り口という、みんながいる場所で。
すごい見られてるのはわかってる。
でも、せずには居られなかった。
「待ってますから」
アイリさんから離れ、小さく笑いかけると。
アイリさんは目を閉じ深呼吸をして。
「ん、ありがとね」
はにかむように笑った。
多分、自分でも信じられないくらいの苛立ちだったんだと思う。
「気をつけて行ってきてくださいね」
「えぇ。あ、そうそう」
アイリさんは私の背後を見つめながら。
「レベッカに、帰ってきたらじっくりとお話ししましょうねって伝えておいてちょうだい」
ニコリと笑った。
振り返ればレベッカが青褪めた表情を浮かべていて。
「わかりました、しっかり伝えておきます」
「よろしくね。じゃあ行ってくるから」
「はい」
ちゅ、と額にキスをしてくれて、##NAME1##さんは中央司令部へと行った。
「あんた、よくわかったわね…」
アイリさんの様子について、レベッカにそう言われた。
「あの人は私たちに対してあんな怒り方をする方じゃないもの」
特にレベッカは私の親しい友人だと知っているから、嫉妬はするものの怒ったりはしない。
みんなの前でのキスを突っ込まれるかと思ったけれど、誰も突っ込んでは来なかった。
きっとアイリさんの様子から、キスをすることで怒りが少しでも収まったことにホッとしたのね。
…でも。
「…しばらく帰らない、か…」
中央司令部からのしつこいくらいの電話なのはわかるけど…。
「すぐ戻って来るわよ」
レベッカが私の肩に手を置く。
「…そうね」
どのくらい向こうにいるのかしら…。
というか、アイリさんは元々中央司令部勤務の方。
今はグラマン中将に東部での案件を任されているから来ているだけで。
そう、前までの遠距離恋愛に戻るだけ。
もし東部での案件を解決したら中央司令部に戻ってしまうんだから、寂しがってちゃダメよね。
「さて、と。仕事に戻るわよ」
「はーい」
切り替えないと。
今は仕事に集中。
「ふぅ…」
帰宅して、家の中を見渡す。
いつもならさアイリさんと一緒に帰宅していたのに。
今日からしばらく一人。
「クーン」
足に擦り寄るハヤテ号の頭を撫でる。
元々は遠距離恋愛。
大丈夫、すぐに慣れるわ。
寂しいのは最初だけ。
「…電話してくれるかしら」
いえ、きっと忙しくて今日は来ないでしょうね。
「…夕食を食べて寝ましょうか…」
寂しいけれど、仕方のないこと。
夕食を食べて、シャワーを浴びて。
アイリさんがいつも寝ていた側のベッドに触れて。
「……」
アイリさんが使っていた枕を抱き締めて、早めに眠りに就いた。
それから、アイリさんは一週間も戻らなかった。
「…禁断症状が出そう」
「…あんたがそこまでになるの珍しいわね」
一週間も帰って来なくて、一週間も連絡がないの。
ご自宅に電話をしても出ないし…。
忙しさが極まってるのでしょうけど。
大丈夫なの?アイリさん…。
家にも帰れないくらい忙しいの?
食事はちゃんと摂ってる?
睡眠は?
心配で私まで眠れなくなってしまうわよ…もう…。
「クレミン准将、かつてないくらいセイフォード少将に叱られてたらしいじゃない」
「セイフォード少将が怒鳴ってるの初めて見た、という話が広まってるわよね」
「セイフォード少将を怒らせることが出来るなんて、それにびっくりだわ…」
普段から優しいアイリさんを、かつてないくらいまで怒らせたクレミン准将がすごいわ。
噂ではあまりの迫力に、レイブン中将がアイリさんを羽交締めにして止めに入るほどだったとか。
「ちょっと見てみたかったなー。セイフォード少将がブチギレるのを!」
なんてレベッカが残念そうに言うから。
「あら、見れるかもしれないわよ?」
「え゙?」
「中央へ行く前に言ってたじゃない。“じっくりお話をしましょう”って」
なんてクスクス笑いながら言うと。
「そ、そうだった…やばい…」
顔を真っ青にさせたわ。
まぁ、アイリさんはちゃんと冗談だとわかってくれているから、怒るようなことはないけれどね。
「さて、と。そろそろ戻らないと」
「私も戻って反省文書こ…」
…反省文って。
本当、レベッカは一緒に居て飽きないわよね。
'
「ただいま、ハヤテ号」
仕事を終え、帰宅した。
ハヤテ号が尻尾を振って出迎えてくれてくれた。
「?」
でもちょっと違和感。
いつもなら“ワンワン”と2回だけ吠えて出迎えてくれるのに、今は尻尾を振っているだけ。
「ハヤテ号、どうしたの?」
ハヤテ号の頭を撫でようと手を伸ばせば。
ハヤテ号が駆け足で家の中に。
で、振り返ってまた走る。
まるで早く来てと言わんばかりに。
「ハヤ……テ…………」
ハヤテ号を追うようにリビングへ行って。
ハヤテ号が居る位置を見て、目を見開く。
ハヤテ号はソファーの近くにいて、ソファーからは脱ぎ掛けの軍靴を履いたままの足が見えていて。
「…ッアイリさん…ッ」
慌てて駆け寄った。
うそ、うそ。
帰って来た?
やっと帰って来てくれた?
バッとソファーを覗き込めば、アイリさんが寝息を立てていた。
「…アイリさん…」
寝顔でもわかるくらい疲れてる表情をしてる…。
この一週間、すごく忙しかったのね…。
アイリさんの傍に座り、胸に静かに頭を置く。
重くないかしら。
起きちゃうかもしれない。
でも許してほしい。
だって、本当は今すぐにでも抱き締めてキスをしたいんだもの。
アイリさんに私の名前を呼んでほしいんだもの。
でも今は眠っているから、我慢するから。
せめて規則正しい鼓動で安心させて。
「…」
私の傍で、尻尾を振っているハヤテ号の頭を撫でる。
「アイリさんが寝ているから吠えなかったのね。」
本当に賢い子。
と、思っていれば。
「ワン!」
「!?」
吠えた…。
「(ハヤテ号…!静かに…!)」
咄嗟にハヤテ号を抱き抱える。
しっ、と口元で人差し指を立てるも。
「ワン!ワン!」
また吠えた…。
「こ、こら…!」
アイリさんが起きちゃう。
何とかハヤテ号を静かにさせないと。
「…ん」
あ…。
「ワン!」
「…ハヤテ…号…」
アイリさんが起きちゃった…。
私がアイリさんの名前を呼ぼうとした時。
「…ハヤテ号…リザ帰ってきたぁ…?」
眠そうな声色で、そう言って。
「ハヤテ………」
「……」
ハヤテ号のほうを見ようと顔をこちらに向けたアイリさんと、ばっちり目が合ったから。
「ふふっ、おかえり…リザ…」
ギュウッと抱き付いた。
「アイリさんも…おかえりなさい…」
「ん、ただいま…」
はぁ…安らぐ…。
やっと聞けたアイリさんの声に、心から安心する自分がいた。
「ハヤテ号にリザが帰って来たら起こしてーって言ってたのよ。」
「だからハヤテ号が吠えたんですね…」
「そうみたいね。でもまさか本当に起こしてくれるとは思わなかったわ」
お利口さん、とアイリさんはアイリさんの顔の近くに鼻を寄せたハヤテ号を撫でて体を起こした。
「ごめんね?リザ…一週間も連絡出来なくて…」
一週間の音信不通に、アイリさんは申し訳なさそうに謝って来た。
心配はした。
でも、謝る必要なんてない。
「それだけ忙しかったということですし、仕方ないです」
こうして帰って来てくれたから。
もう大丈夫。
「…もうね、初めて人を殴り飛ばしたいと思ったわよ…。」
「…アイリ少将のブチギレ事件はもう広まってますよ」
「大総統にまで知られて、クレミン准将が大総統府に呼び出されてたわ」
ざまぁみろよね、と。
アイリさんはため息を零した。
「ふふっ、お疲れ様でした」
私はクスクス笑って、ちゅ、とキスをする。
「何か食べますか?」
「んー…」
夕食もまだでしょうけど、眠そうな顔をしているからきっと。
「もう少し寝ていたい…」
って言うわよね。
「ではベッドに…っ!」
ベッドへと行かせようとすれば、グイッと手を引かれてアイリさんに重なるように抱き締められた。
「…ちょっとだけだから」
だからベッドじゃなくてソファーでいい、と。
「…もう」
ギュウッと抱き締めてくれたから、私も抱き締め返して。
「…わかりました、ちょっとしたら起こしますね」
「…ん、ありがと」
そうして、アイリさんは再び眠りに就いた。
アイリさんの寝顔を見つめ、薄く開く唇に触れるだけのキスをして。
「…いつもお疲れ様です」
小さく呟き、アイリさんの胸に顔を埋めた。
翌日。
コンコン
「ホークアイ中尉です。お茶をお持ちしました」
お茶を持ってアイリさんの執務室へと訪れた。
「?セイフォード少将?」
ノックをしても返事がなかったので、そっと扉を開けると。
アイリさんはデスクに両肘を付き、組んだ手に額を乗せて。
プルプルと肩を震わせていた。
一見怒りで肩を震わせているように見えるけれど。
「何をそんなに笑ってらっしゃるんですか?」
物凄く笑っているって私にはわかる。
「っっっはーっ!もう…!レベッカは本当に面白い子…!」
瞳に涙を浮かばせるくらい笑っていたのね。
「見て、これ。デスクに置いてあったんだけど、レベッカの反省文」
「反省文…」
レベッカが書いた反省文を見せてもらうと。
「…『この度は私の悪ふざけで本当にごめんなさい。反省しています。どうか許してくださいごめんなさい。』」
「ごめんなさい、がたくさん書いてあるでしょ?」
「…ある意味怖いですね」
「あは!語尾にごめんなさいって面白い発想よ」
アイリさんはクスクス笑う。
「で、だけど」
「?はい」
で、デスクに頬杖を付いて。
「胸、大きくなったの?」
ニヤニヤ笑いながら問いかけて来た。
「……そ、れは…」
「ん?」
「………」
私はチラッとアイリさんを見て。
「…あなたから見て、どうだと思いますか?」
問い返せば。
「え?」
アイリさんはきょとんと私を見た。
あ、これ。
そう返されると思わなかったという表情。
私が恥じらって顔を赤くさせると思ってた表情ね。
だから私は、アイリさんへ向き直って。
「毎日一緒にシャワーを浴びて、私の胸を見ていて大きくなったと思います?」
ニコリと笑って問うと。
「……待って想像させないで鼻血出そう…」
アイリさんがデスクに顔を伏せて悶えた。
「…アイリさん?確かめてみますか?」
アイリさん側に回り込んで、耳元で囁く。
「…うんわかった私の負けだから…っ負けを認めるから…っお願いちょっと理性がやばいから離れて…っ」
デスクに顔を伏せながら両手で顔を隠した。
耳まで真っ赤にさせてる。
ふふ、今回は私の勝ちみたいね。
「次のお休み、下着買いに付き合ってくださいね」
「……はい」
こうして、珍しくアイリさんを言い負かして。
次のお休みに下着を買いに行きました。
「こんなのどう?」
「私が着用した姿を想像してみてください。似合いそうですか?」
「…………」
「アイリさん?」
「もうヤヴァイ…」
アイリさんの弱点を見つけちゃったわね、ふふっ。
END