ハガレン 旧拍手文置き場
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『怖い話』
「で、その女性軍人は今も殺された恨みを抱えて彷徨ってるらしいわよ」
「へぇ。早く成仏出来るといいわね」
ある日。
給湯室でレベッカに聞いた怖い話。
東方司令部に纏わるもので。
100年くらい前に、東方司令部に勤めていた女性軍人が夜勤中に数名の男性軍人に乱暴されて殺されたとか。
で、バレないようにご遺体を今の射撃訓練場の地面の下に埋めたとか。
子供騙しのような話に、呆れるようにため息を吐く。
「成仏出来るといいわねって…もっと怖がるとかないの?」
「?怖がるような話なの?」
「…あんたのその冷めた性格直した方がいいわね」
レベッカも呆れるようにため息を零す。
「それが本当の話なら、射撃訓練場の地面の下を掘って探さないと「だからそんなガチ回答はいらないの!怖がって欲しかったの!」
レベッカは立ち上がって。
「次はちゃんと怖がりなさいね!」
と言い、去って行った。
「次もあるのね」
確かに冷めたこの性格、如何なものかと思うけど。
性格なんてそんな簡単に変わるものではない。
「性格が変わったらアイリさんも驚くわよね」
まぁ悪い方向に変わらなければ、びっくりはされても愛想は尽かされないと思う。
「…アイリさんは怖い話とか…怖がるのかしら…」
いえ、アイリさんは科学者だから怖い話というか幽霊や神様といった曖昧な存在は信じないわね。
と、アイリさんのコーヒーをトレーに置いた時。
ガタンッ
「!!」
音がした。
給湯室内を見ても、何が倒れたのか何が落ちたのかわならない。
え?音だけ?
「………」
トレーを持って、給湯室から出て。
「まぁ、東方司令部が建って結構経つしね」
けど、建物の劣化は由々しき事態だから、ちゃんとアイリさんに報告しないと。
「射撃訓練場の地面の下に?」
アイリさんの執務室。
アイリさんに、レベッカから聞いた話をする。
「はい。レベッカが言うには、その女性軍人のご遺体は射撃訓練場の地面の下に埋められたようで…」
アイリさんは少しだけ考えて。
「その話をされる前に、“言い伝え”とか“怖い話”とか言ってなかった?」
「…言ってました」
「やっぱりね」
私がそう答えると、クスクス笑った。
「そんな事件、明るみに出ない方がおかしいもの。」
「ですが、事件を引き起こした軍人が将官なら隠蔽出来るのでは?」
「遺族が騒がないわけないでしょ?うちの娘はどこ行ったんだー!になるわよ」
と言うけど、それは今の時代で考えるから。
「事件は100年前ですよ?」
「…あのね?リザ」
私の言葉に、アイリさんは書類を置いて。
「そもそも隠蔽出来てないから、100年前から今の今まで伝えられてきたんでしょ?」
と。
言った。
私はきょとんとして。
「…………」
「違う?」
アイリさんに背中を向けて。
「…いえ…違わなくないです…」
顔を両手で覆い隠した。
恥ずかしい…。
そんなことにも気付かないなんて…。
「なぁに、怖い話を信じてたの?」
アイリさんがニヤニヤ笑う。
「…信じてません。ただ本当なら由々しき事態だと思ったたけです…」
「本当ならって、信じたからそう思ったんじゃない」
信じてないとそうは思いません。と。
アイリさんはクスクス笑う。
「……そんな子供騙しに怖がるほど怖がりじゃありませんから」
そう、アイリさんが言うようにこれはただの“怖い話”
100年も前の話で、事実ならとうの昔に発見されているはず。
「子供騙し、ねぇ…?」
「…なんですか」
アイリさんはニヤニヤ笑いながら私を見て。
「今日一日一緒に居てあげましょうか?」
一緒に居てくれるのは嬉しいけれど、今一緒に居てと言ったら怖がっていることを認めることになるから。
「大丈夫です。こんな子供騙しに公私混同は良くありませんよ」
「本当に大丈夫ー?」
「しつこいですよ…!」
……ということで。
「………」
夕方。
みんなはすでに退勤していて、誰も居ないオフィスで私一人。
ちなみにあれからアイリさんは、クレミン准将に呼ばれて怒りながら中央へ行った。
帰っててもいいと言っていたのだけど、アイリさんは一度東方司令部に戻ってからの帰宅になるから、せっかくだから一緒に帰ろうと思って待っているの。
「……」
振り返ってももちろん誰も居ない。
「いえ、別に怖いわけじゃないわよ」
誰も居ないのに、誰かに言い訳をするように独り言を呟く。
ガタンッ
「っ!!」
また物音がして、肩が震えた。
いえ、突然音が鳴ったら誰でも驚くじゃない?
でもまた何かが倒れた形跡はない。
「……本当、老朽化は由々しき事態ね…」
東方司令部の老朽化についての報告書を作成しないとダメねこれは。
「……アイリさん、まだかしら…」
時計を見れば、19時を回っていて。
夕食は外食になりそうね。
「…コーヒーでも入れて、落ち着かないと」
いえ別に、動揺しているわけじゃないけれどね。
「…ふぅ」
給湯室で。
昼間、ここでレベッカに聞いた“射撃訓練場の怪”
女性軍人が数名の男性軍人に乱暴された挙句、殺害されてしまったと。
それを隠すべく、当時は何も建物がなかった射撃訓練場の地面の下に埋められたと。
「その怨霊が、夜な夜な彷徨っている、と…」
まったく。
それが本当なら、なぜ今まで見なかったのよ。
目撃情報すらないのだから、信憑性なんてあるわけがない。
「レベッカは私が怖がると思ったのかしら」
そんな子供騙しの怪談話に怖がるはずがないわ。
ガタンッ
「ッ!!」
また物音。
「…………」
いい加減、ちょっと老朽化箇所を探そうかしら。
あまりにも同じ物音がし過ぎて、心配になる。
………“同じ物音”?
今日、3回聞いた物音は。
1回目と3回目はこの給湯室だったけど。
2回目はオフィス。
なのに、“同じ物音”?
「………」
いえ、怖くない。
大丈夫、怖くないわ。
給湯室から出て、アイリさんの執務室へ向かう。
怖くないわよ。
全然怖くない。
アイリさんの執務室へ行くのは、アイリさんが戻って来てるかもしれないから。
怖いから行くんじゃないわ。
「…………」
足音が。
私じゃない足音が聞こえる。
カツン、カツン、と。
静かな東方司令部の廊下に響く、私の足音ともう一つの足音。
待って、待って。
少し早い。
アイリさんの執務室に着く前に、追いつかれてしまう。
ただの怖い話じゃないの?
ねぇレベッカ。
本当の話なの?
いえ、怖くなんてない。
怖いなんて思うから霊的なアレに取り憑かれたりするのよ。
だから全然怖くなんてないわよ。
ガバッ
「ただいまぁ!!」
急に抱きつかれた。
「ねぇ、びっくりした?」
急に抱きつかれた。
「ね、リザ?」
脇に書類を抱えて戻って来たアイリさん。
アイリさんは私を呼びながら、私の体を自分のほうへと向けて。
「リ……ザ……」
固まった。
「……いやごめんね…?まさか泣いちゃうとは思わなかったわ…」
そして、謝ってきた。
なぜなら。
「……っっっ」
心臓が口から飛び出そうになったから。
そう、怖くて泣いたわけじゃない。
びっくりしただけ。
びっくりしただけだから。
私はアイリさんに抱きついて、アイリさんの胸に顔を埋めてグリグリする。
「怖かったのー?」
アイリさんは私を抱き締め返してくれて、背中を摩ってくれた。
「…っ怖くなんてありませ…っ」
「ふふっ、怖いわけじゃなかったらどうして泣いてるのよー」
アイリさんのクスクス笑う声に、心が落ち着いてきた。
不安が取り除かれ、安心感で満たされて。
「遅くなってごめんね?クレミン准将がポンコツで説教してたら遅くなっちゃった」
ちゅ、ちゅ、とキスをしてくれて。
「…いえ…大丈夫です…」
ようやく落ち着いたわ…。
「よし、じゃあ射撃訓練場に行きましょう」
「え゙?」
射撃訓練場に?
今から?
こんな暗くなってから行かなくてもいいんじゃない…?
「大丈夫よ。私が居るから」
ギュウッと手を繋いで。
「……リザ、さすがに歩きづらいわよ?」
アイリさんに密着しながら歩いて。
射撃訓練場へとやって来た。
「………どうするんですか?」
ギュウ、とアイリさんの背中に抱きつく。
「ん?」
アイリさんはニコリと笑って。
パチンッと指を鳴らした瞬間。
「ッッ!!!」
大規模な錬成反応と共に。
「ほら、なーんもない」
射撃訓練場の地面数十メートルを掘り起こした。
すご…い…。
こんなことを簡単にしてしまうなんて…。
「…ですが…物音が…聞こえたのは…事実です…し…。それに違う場所なのに同じ物音が…」
「同じ物音に聞こえたのは、不安に駆られてる時の人間の心理ね。なぜなら…」
「え…?」
アイリさんは脇に抱えていた書類を私に見せてくれて。
「“給湯室とオフィス、その他各所で変な音がするので業者に依頼出してください”って言われてるの」
「………」
私はその書類を見てる間にまた錬成反応が起こりそちらを見れば、地面が綺麗になっていて。
「だから物音の理由はまだわからないけど、聞こえるのはリザだけじゃないし怪奇現象じゃないから大丈夫よ」
きっと老朽化ねー、とアイリさんが射撃訓練場の壁に触れると。
ガタンッ
「!!」
「あら。射撃訓練場もガタが来てるかー」
また物音が聞こえた。
アイリさんは科学者だから、物音にも驚かない。
「まぁ、東方司令部の設計図と材料さえあれば、新しく造り直せるけどね」
アイリさんは私を見つめて。
「でも愛するリザが怖い思いをするなら、やっちゃおうかなぁ」
クスクス笑った。
「…錬金術の安売りをしないでください」
「はーい。さて、と。何か食べてから帰ろっか」
「……そうですね。お腹空きました…」
そうして、午後8時頃。
私たちは東方司令部を出た…。
ああ、もう。
レベッカのせいで今日は無駄に疲れたわよ…。
レベッカのせいで…。
結局は東方司令部の老朽化が進んでいたみたいで、あちらこちらで物音が報告されて…。
「セイフォード君、頼める?」
「対価はなんでしょう?大総統」
「んんん!有給五日!」
「一週間でどうです?」
「……わかったわかった。それで頼むよ」
「仰せのままに」
アイリさんが大総統と有給休暇一週間で手を打ち、ものの数分で新しい東方司令部へと造り上げた。
「……怪談よりこの人が怖いわ」
「本当よね…本当…好き…」
「…今心の声が口に出てたわよ?」
「あ!リザー!一週間休みになったから旅行に行きましょ!」
「行きたいですが私は仕事ですよ。行きたいですが」
「あんたのすごく行きたいって気持ちがよくわかるわ…」
END
「で、その女性軍人は今も殺された恨みを抱えて彷徨ってるらしいわよ」
「へぇ。早く成仏出来るといいわね」
ある日。
給湯室でレベッカに聞いた怖い話。
東方司令部に纏わるもので。
100年くらい前に、東方司令部に勤めていた女性軍人が夜勤中に数名の男性軍人に乱暴されて殺されたとか。
で、バレないようにご遺体を今の射撃訓練場の地面の下に埋めたとか。
子供騙しのような話に、呆れるようにため息を吐く。
「成仏出来るといいわねって…もっと怖がるとかないの?」
「?怖がるような話なの?」
「…あんたのその冷めた性格直した方がいいわね」
レベッカも呆れるようにため息を零す。
「それが本当の話なら、射撃訓練場の地面の下を掘って探さないと「だからそんなガチ回答はいらないの!怖がって欲しかったの!」
レベッカは立ち上がって。
「次はちゃんと怖がりなさいね!」
と言い、去って行った。
「次もあるのね」
確かに冷めたこの性格、如何なものかと思うけど。
性格なんてそんな簡単に変わるものではない。
「性格が変わったらアイリさんも驚くわよね」
まぁ悪い方向に変わらなければ、びっくりはされても愛想は尽かされないと思う。
「…アイリさんは怖い話とか…怖がるのかしら…」
いえ、アイリさんは科学者だから怖い話というか幽霊や神様といった曖昧な存在は信じないわね。
と、アイリさんのコーヒーをトレーに置いた時。
ガタンッ
「!!」
音がした。
給湯室内を見ても、何が倒れたのか何が落ちたのかわならない。
え?音だけ?
「………」
トレーを持って、給湯室から出て。
「まぁ、東方司令部が建って結構経つしね」
けど、建物の劣化は由々しき事態だから、ちゃんとアイリさんに報告しないと。
「射撃訓練場の地面の下に?」
アイリさんの執務室。
アイリさんに、レベッカから聞いた話をする。
「はい。レベッカが言うには、その女性軍人のご遺体は射撃訓練場の地面の下に埋められたようで…」
アイリさんは少しだけ考えて。
「その話をされる前に、“言い伝え”とか“怖い話”とか言ってなかった?」
「…言ってました」
「やっぱりね」
私がそう答えると、クスクス笑った。
「そんな事件、明るみに出ない方がおかしいもの。」
「ですが、事件を引き起こした軍人が将官なら隠蔽出来るのでは?」
「遺族が騒がないわけないでしょ?うちの娘はどこ行ったんだー!になるわよ」
と言うけど、それは今の時代で考えるから。
「事件は100年前ですよ?」
「…あのね?リザ」
私の言葉に、アイリさんは書類を置いて。
「そもそも隠蔽出来てないから、100年前から今の今まで伝えられてきたんでしょ?」
と。
言った。
私はきょとんとして。
「…………」
「違う?」
アイリさんに背中を向けて。
「…いえ…違わなくないです…」
顔を両手で覆い隠した。
恥ずかしい…。
そんなことにも気付かないなんて…。
「なぁに、怖い話を信じてたの?」
アイリさんがニヤニヤ笑う。
「…信じてません。ただ本当なら由々しき事態だと思ったたけです…」
「本当ならって、信じたからそう思ったんじゃない」
信じてないとそうは思いません。と。
アイリさんはクスクス笑う。
「……そんな子供騙しに怖がるほど怖がりじゃありませんから」
そう、アイリさんが言うようにこれはただの“怖い話”
100年も前の話で、事実ならとうの昔に発見されているはず。
「子供騙し、ねぇ…?」
「…なんですか」
アイリさんはニヤニヤ笑いながら私を見て。
「今日一日一緒に居てあげましょうか?」
一緒に居てくれるのは嬉しいけれど、今一緒に居てと言ったら怖がっていることを認めることになるから。
「大丈夫です。こんな子供騙しに公私混同は良くありませんよ」
「本当に大丈夫ー?」
「しつこいですよ…!」
……ということで。
「………」
夕方。
みんなはすでに退勤していて、誰も居ないオフィスで私一人。
ちなみにあれからアイリさんは、クレミン准将に呼ばれて怒りながら中央へ行った。
帰っててもいいと言っていたのだけど、アイリさんは一度東方司令部に戻ってからの帰宅になるから、せっかくだから一緒に帰ろうと思って待っているの。
「……」
振り返ってももちろん誰も居ない。
「いえ、別に怖いわけじゃないわよ」
誰も居ないのに、誰かに言い訳をするように独り言を呟く。
ガタンッ
「っ!!」
また物音がして、肩が震えた。
いえ、突然音が鳴ったら誰でも驚くじゃない?
でもまた何かが倒れた形跡はない。
「……本当、老朽化は由々しき事態ね…」
東方司令部の老朽化についての報告書を作成しないとダメねこれは。
「……アイリさん、まだかしら…」
時計を見れば、19時を回っていて。
夕食は外食になりそうね。
「…コーヒーでも入れて、落ち着かないと」
いえ別に、動揺しているわけじゃないけれどね。
「…ふぅ」
給湯室で。
昼間、ここでレベッカに聞いた“射撃訓練場の怪”
女性軍人が数名の男性軍人に乱暴された挙句、殺害されてしまったと。
それを隠すべく、当時は何も建物がなかった射撃訓練場の地面の下に埋められたと。
「その怨霊が、夜な夜な彷徨っている、と…」
まったく。
それが本当なら、なぜ今まで見なかったのよ。
目撃情報すらないのだから、信憑性なんてあるわけがない。
「レベッカは私が怖がると思ったのかしら」
そんな子供騙しの怪談話に怖がるはずがないわ。
ガタンッ
「ッ!!」
また物音。
「…………」
いい加減、ちょっと老朽化箇所を探そうかしら。
あまりにも同じ物音がし過ぎて、心配になる。
………“同じ物音”?
今日、3回聞いた物音は。
1回目と3回目はこの給湯室だったけど。
2回目はオフィス。
なのに、“同じ物音”?
「………」
いえ、怖くない。
大丈夫、怖くないわ。
給湯室から出て、アイリさんの執務室へ向かう。
怖くないわよ。
全然怖くない。
アイリさんの執務室へ行くのは、アイリさんが戻って来てるかもしれないから。
怖いから行くんじゃないわ。
「…………」
足音が。
私じゃない足音が聞こえる。
カツン、カツン、と。
静かな東方司令部の廊下に響く、私の足音ともう一つの足音。
待って、待って。
少し早い。
アイリさんの執務室に着く前に、追いつかれてしまう。
ただの怖い話じゃないの?
ねぇレベッカ。
本当の話なの?
いえ、怖くなんてない。
怖いなんて思うから霊的なアレに取り憑かれたりするのよ。
だから全然怖くなんてないわよ。
ガバッ
「ただいまぁ!!」
急に抱きつかれた。
「ねぇ、びっくりした?」
急に抱きつかれた。
「ね、リザ?」
脇に書類を抱えて戻って来たアイリさん。
アイリさんは私を呼びながら、私の体を自分のほうへと向けて。
「リ……ザ……」
固まった。
「……いやごめんね…?まさか泣いちゃうとは思わなかったわ…」
そして、謝ってきた。
なぜなら。
「……っっっ」
心臓が口から飛び出そうになったから。
そう、怖くて泣いたわけじゃない。
びっくりしただけ。
びっくりしただけだから。
私はアイリさんに抱きついて、アイリさんの胸に顔を埋めてグリグリする。
「怖かったのー?」
アイリさんは私を抱き締め返してくれて、背中を摩ってくれた。
「…っ怖くなんてありませ…っ」
「ふふっ、怖いわけじゃなかったらどうして泣いてるのよー」
アイリさんのクスクス笑う声に、心が落ち着いてきた。
不安が取り除かれ、安心感で満たされて。
「遅くなってごめんね?クレミン准将がポンコツで説教してたら遅くなっちゃった」
ちゅ、ちゅ、とキスをしてくれて。
「…いえ…大丈夫です…」
ようやく落ち着いたわ…。
「よし、じゃあ射撃訓練場に行きましょう」
「え゙?」
射撃訓練場に?
今から?
こんな暗くなってから行かなくてもいいんじゃない…?
「大丈夫よ。私が居るから」
ギュウッと手を繋いで。
「……リザ、さすがに歩きづらいわよ?」
アイリさんに密着しながら歩いて。
射撃訓練場へとやって来た。
「………どうするんですか?」
ギュウ、とアイリさんの背中に抱きつく。
「ん?」
アイリさんはニコリと笑って。
パチンッと指を鳴らした瞬間。
「ッッ!!!」
大規模な錬成反応と共に。
「ほら、なーんもない」
射撃訓練場の地面数十メートルを掘り起こした。
すご…い…。
こんなことを簡単にしてしまうなんて…。
「…ですが…物音が…聞こえたのは…事実です…し…。それに違う場所なのに同じ物音が…」
「同じ物音に聞こえたのは、不安に駆られてる時の人間の心理ね。なぜなら…」
「え…?」
アイリさんは脇に抱えていた書類を私に見せてくれて。
「“給湯室とオフィス、その他各所で変な音がするので業者に依頼出してください”って言われてるの」
「………」
私はその書類を見てる間にまた錬成反応が起こりそちらを見れば、地面が綺麗になっていて。
「だから物音の理由はまだわからないけど、聞こえるのはリザだけじゃないし怪奇現象じゃないから大丈夫よ」
きっと老朽化ねー、とアイリさんが射撃訓練場の壁に触れると。
ガタンッ
「!!」
「あら。射撃訓練場もガタが来てるかー」
また物音が聞こえた。
アイリさんは科学者だから、物音にも驚かない。
「まぁ、東方司令部の設計図と材料さえあれば、新しく造り直せるけどね」
アイリさんは私を見つめて。
「でも愛するリザが怖い思いをするなら、やっちゃおうかなぁ」
クスクス笑った。
「…錬金術の安売りをしないでください」
「はーい。さて、と。何か食べてから帰ろっか」
「……そうですね。お腹空きました…」
そうして、午後8時頃。
私たちは東方司令部を出た…。
ああ、もう。
レベッカのせいで今日は無駄に疲れたわよ…。
レベッカのせいで…。
結局は東方司令部の老朽化が進んでいたみたいで、あちらこちらで物音が報告されて…。
「セイフォード君、頼める?」
「対価はなんでしょう?大総統」
「んんん!有給五日!」
「一週間でどうです?」
「……わかったわかった。それで頼むよ」
「仰せのままに」
アイリさんが大総統と有給休暇一週間で手を打ち、ものの数分で新しい東方司令部へと造り上げた。
「……怪談よりこの人が怖いわ」
「本当よね…本当…好き…」
「…今心の声が口に出てたわよ?」
「あ!リザー!一週間休みになったから旅行に行きましょ!」
「行きたいですが私は仕事ですよ。行きたいですが」
「あんたのすごく行きたいって気持ちがよくわかるわ…」
END