想いの在処 リザさん百合夢

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[#dn=2#]少将がいらして、一月が経った頃。

「[#dn=2#]少将!トレインジャックが発生しました!」

「声明は?」

「“赤の組織”という名で、数ヶ月前に拘束されたボスを解放しろという声明を出してます!」

事件が発生した。

「……“赤の組織”ね。直ちに現場へ出動。民間人の避難を忘れずに」

「「「「はっ!!」」」」

[#dn=2#]少将の指揮の下、私たちは直ちに出動した。

[#dn=2#]少将が来てから初めての事件。

これで[#dn=2#]少将の力量が問われる。

優秀なのか、はたまた“少将”の階級は飾りなのか。

[#dn=2#]少将は黒いコートを纏い、私が運転する車に乗り込む。

少将の隣にはマスタング大佐。

「“赤の組織”に心当たりが?」

マスタング大佐が問うと。

[#dn=2#]少将は窓枠に肘を置いて、窓の外を見たまま。

「…“赤の組織”を壊滅させたのは私だから」

そう、言った。

「「え?」」

私はバックミラー越しにマスタング大佐と視線を交わす。

「一人で、ですか?」

「えぇ。」

「な、なぜ一人でそんな危険なことを…」

「……調査してたらたまたま中枢に入って。面倒だからそのまま」

壊滅させた、と。

簡単に…言った…。

嘘でしょ…。

こ、この人凄すぎない…?

「…では、残党が残っていたということですね」

「そうね。組織の建物丸ごと檻にしたから、外に居た奴らかもしれないわね」

またマスタング大佐とバックミラー越しに視線を交わす。

建物内に居た人間は、[#dn=2#]少将の錬金術によって丸ごと拘束した、と…。

もう一度言うわ。

この人凄すぎない…?

“雷鳴の錬金術師”とその名を馳せるだけあるわね…。

「止めて」

「え?」

突然、[#dn=2#]少将が車を止めろという。

「早く!!」

「あ、はい!」

車を止めると、急いで[#dn=2#]少将が車から降りて。

「ちょ…!![#dn=2#]少将!?」

「どこへ!?」

走り出した。

「…どこへ行くんでしょうか…」

「わからんが…トレインジャックが発生しているというのに何を考えて…」

私もマスタング大佐も車から降りて。

気付いた。

「あ、あれ…」

「ん?」

マンションの四階。

「「……ッッ!!」」

窓の手摺りにぶら下がっている3才くらいの子供。

が。



落ちる瞬間だった。



地面に落ちる前に、[#dn=2#]少将が受け止めた。

「ッよかった…っ」

「少将…!」

私も大佐も[#dn=2#]少将に駆け寄る。

「うわぁああんっ」

途端に男の子は泣き出した。

ザワザワと通行人が集まってきて。

うそだろ、とか。

気づかなかった、とか。

周りの人たちは驚いていた。

「マスタング大佐、あの部屋から親を引き摺り出してきて」

「…わかりました」

大佐に親を連れて来るよう指示して。

[#dn=2#]少将は未だ泣き続けている男の子の背中を摩って。

「大丈夫よ、怖かったわね」

あやしていた。

「……」

笑顔こそなくても、大丈夫 大丈夫と優しく摩り続けてる…。

あの[#dn=2#]少将が…。

「ルイ…ッ!!」

母親が走ってきた。

「ママぁ…っ!!」

男の子も母親へ手を伸ばしたから、[#dn=2#]少将は男の子を母親へと渡して。



「こんな小さい子から目を離すなんて、あなたはそれでも親なの?」



…やっぱり[#dn=2#]少将だった。

「す、すみません…っお昼寝をしてたから…っその間に家事をしてて…っ」

母親は大変なの。

育児をしながら、家事までしないといけないから。

これは子供がいないとわからない大変さ。

私も大佐も、多分[#dn=2#]少将も育児と家事の両立は大変だとわかっている。

でも頭でわかっている以上に、育児と家事は大変なんだろう。

この母親を見ていたらそれがわかるくらい、母親もどこか余裕がない感じだった。

「………」

[#dn=2#]少将は眉間に皺を寄せて。

男の子が落ちてきた部屋を見上げて。

「「「…!!」」」

男の子が潜れないだろう幅の格子を、窓に錬成した。

「…あ…」

母親もそれに気づいて、[#dn=2#]少将と格子を交互に見る。



「……命は取り戻せないんだから、気を付けて」



[#dn=2#]少将は母親に背中を向けて。

「行くわよ」

私たちにそう声をかけて、車へと歩き出した。

「あ…ありがとうございます…!!」

母親が頭を下げてお礼を言うと、[#dn=2#]少将は一度足を止めて。

僅かに母親へ視線を向けて。

片手を上げた。

「………カッコいい」

「…あんな一面があったとは…」

私も大佐も、[#dn=2#]少将の知られざる一面を知って驚きを隠せないまま。

「何をしているの?早く行くわよ」

「「は、はい!!」」

少将への印象が少し変わりながら、イーストシティの駅へ向かった。


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