想いの在処 リザさん百合夢

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走った。

とにかく走った。


ずるい。

なんてずるい人。

何も言わないで居なくなるなんて。

こんなに好きにさせておいて居なくなるなんて。

[#dn=2#]少将の気持ちの在処はわからない。

でも、私はあなたが好き。

あなたが好きで好きで仕方がないの。

何も伝えないままなんて嫌。

このままでなんて居たくない。

フラれるかもしれない。

あの夜はただの雰囲気だっただけかもしれない。

でも、それでもいいから。






「[#dn=2#]少将…ッッ!!」





見えた後ろ姿。

滅多に出さない大きな声で、呼び止めれば。

「…驚いた。抜け出してきたの?」

振り返った[#dn=2#]少将は驚くような表情を浮かべていた。

「はぁ…はぁ…」

一定の距離を空けて、相対する。

「…どうして何も言わずに居なくなるんですか」

「言わなきゃいけないわけじゃないもの」

そうだけど。

「引き継ぎも終わっていたし、何も問題ないわ」

そうだけど。

「…[#dn=2#]少将」

「なに?」

「私とあなたの関係は、なんですか?」

ずっと聞きたかったことを聞いた。

「……」

[#dn=2#]少将が黙った。

「どうしてあの夜、私を抱いたんですか?」

あの夜の出来事は、あなたにとって大したことのない時間だった?

「やっぱりそういう雰囲気だっただけですか?」

あなたにとって私は、何なんですか?

私は。



「私は…あなたに触れてもらえて…嬉しかったです…」



あなたに触れてもらえて。

あなたの眼差しを独り占め出来て。

あなた自身を独り占め出来て。

私は嬉しかった。



[#dn=2#]少将は真っ直ぐ私を見つめて。

小さく笑って。




「離したくなくなるから、何も言わないで来たのよ」



そう口にした。

「あの夜、あなたを抱いたのは。確かにそこに想いがあったから」

カツン、と。

一歩、私に近づく。

「雰囲気で抱く?馬鹿言わないで。さすがにそこまで最低な人間じゃないつもりよ?」

カツン、と。

もう一歩。

「私にとってあなたはどういう存在か、か。そうねぇ…」

カツン、と。

私の目の前に立って。





「出来れば、独占したい存在。かしら」




私の頬に手を添えて、そして。







「私、あなたが好きよ」






そう言った。

「…っ」

途端に涙が溢れて。



「私も…っあなたが好きです…っ」



私は[#dn=2#]少将を抱き締めた。

離れたくない。

離れたくない。

[#dn=2#]少将の腕が私の背中に回されて。

「あーもー。中央に戻れなくなるじゃない」

クスクス笑った。

「…っ戻らないで…っくださ…っ」

ずっと傍に居て欲しい。

「ほら、やっぱり駄々っ子ちゃん。」

「…っ」

「東方司令部に戻らないといけないのに、そんなに泣かないの」

[#dn=2#]少将が私の顎に手を添えて、上を向かせられた。

「…でも…っあそこにあなたはもう居ない…っ」

ちゅ、とキスをしてくれて。

「今生の別れじゃないのよ?」

「…っ」

[#dn=2#]少将の胸にグリグリと顔を押し付ける。

「いつも命令違反をしてくる強気のあなたはどこに行ったのかしら」

だって離れたくないんだもの。

ずっと一緒に居たいんだもの。

[#dn=2#]少将は私の耳に唇を寄せて。




「リザ」




私の名前を囁いた。

「…っ!!」

バッと顔を上げて、[#dn=2#]少将を見上げると。

とても優しい笑みを浮かべていて。

「時間作って会いに来るから、ね?」

ちゅ、とまたキスをしてくれた。

「…私も…っ会いに行きます…っ」

ああ、好き。

本当に好きすぎておかしくなりそう。


汽車が来た。

「リザ、それは?」

「あ…これ…」

私が持っていた封筒を指し、それを渡した。

「グラマン中将から…渡し忘れたからと…」

「…グラマン中将から?」

[#dn=2#]少将は封筒を開けて、中の書類を取り出して。

「ふっ、ふふっ」

笑い出した。

「…?」

私が首を傾げると、書類を反転して見せてくれた。

「………、、、!?!?」

そこに書かれていたのは。





“孫娘の花嫁姿を楽しみにしているよ”




だった。

「あの人エスパーなんじゃないかしら」

「…凄い祖父を持ってしまったみたいですね」

二人で笑い合う。



[#dn=2#]少将が汽車に乗り込んで。

「じゃあ、またね」

「はい…」

扉の前。

扉が閉まるその瞬間に。






「[#dn=3#]、[#dn=1#]さん…!また…近いうちに必ず…!」




[#dn=2#]少将の名前を口にした。

[#dn=2#]少将は…いえ、[#dn=1#]さんは目を見開いて。

優しく笑みを浮かべて。

窓ガラスに息を吹きかけて曇らせて。



“好き”



そう描いた。

「私もです…」

声は届かないなら、口の動きで伝えて。


ガラス越しに手を合わせて。


そして。



汽車が、動き出した。




今生の別れじゃない。

イーストシティとセントラルシティの遠距離恋愛になるけれど。

必ず会える。

会いに来てくれるし、会いにも行く。

今までは東方司令部でしか会うことがなかったけれど、今度からはプライベートで会えるんだ。

軍服じゃなくて、お互いにオシャレをして。

手を繋いで。

少将と中尉じゃなくて。

[#dn=1#]さんと私。




「何の書類だったんスか?」

「最重要書類だったみたいよ」

「最重要なのに渡し忘れたんスか!?」

「おっちょこちょいよね、グラマン中将も」

「…それで済まされる内容の最重要書類って何なんだ…」

東方司令部に帰還後、ハボック少尉に聞かれて適当に答えた。




でも、私と[#dn=1#]さんの関係は瞬く間に広がって。

「……最近色んな人に根掘り葉掘り聞かれるのですが…」

『あ、隠して居たかった?なんか最近色んな人に告白されるから、恋人が出来たことを伝えて断ってるの』

「…………詳しく聞かせてください」

[#dn=1#]さんがモテ始めたことに、気が気じゃ居られなくなって。

「…明日非番なので、今日行きます」

『私は仕事だから、中央司令部まで家の鍵取りに来てくれる?』

「わかりました」

暇が出来ると会いに行っている。

[#dn=1#]さんは滅多に休みがないから、あまりこちらには来れないけれど。

仕事の合間に公用と称して電話をくれたり、帰宅すれば毎日電話をくれた。

東方司令部に来た当初は笑みすらなく、相槌からの次には無視だった冷たい[#dn=2#]少将が。

中央司令部へ帰るころには優しい[#dn=1#]さんになっていた。

私のためかどうかはわからないけれど。

「…ですから、グラマン中将。私は忙しいんですって…」

「うんうん。ご苦労様だねいつも」

グラマン中将は頻繁に東部に[#dn=1#]さんを呼ぶようになった。

「孫娘の花嫁衣装についてだがね?」

「気が早すぎますよ。私たち交際を始めてまだ一ヶ月も経ってませんからね?」

「愛があれば交際期間は0日でも良し!」

私と[#dn=2#]さんを繋げてくれた祖父と。

「…またあなたたちは恥ずかしい話をしているんですか…?まったくもう…」

「リザ、あなたのおじいさん気が早すぎて困ってるの何とかして」

「君も[#dn=2#]君ならいいよね?」

「………はい」

「リザ?」

私と祖父を繋げてくれた[#dn=1#]さんに、感謝を込めて。



「ああもう。本当に二人は…。子供の名前何にするー?」

「[#dn=1#]さんこそ気が早いじゃないですかっ」



“愛している”という言葉を。


––––––あなたたちに贈ります。



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