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エレボスの淵

※※※プロローグ



 エリス・ソールンは家の門をあけようとして、ふと隣宅に目を向けた。

 重厚な石造りの巨大な門柱。ぴったりと閉ざされた太い鋼鉄の門扉は聳えるように高い。
 向こうに広がる庭は鬱蒼とした森で、深い緑の奥に石造りの塔が五本見える。
 地図で見ると、この屋敷は五角形ペンタスを形作っている。
 森の向こうの塔はその五角形の先端なのだ。城の背後は原生林が広がり、まるで緑の海に浮かぶ星――否。魔法陣と呼ぶのが相応しいだろう。

 魔法陣――この城はもともと強大な魔法使いが所有していたが、百五十年ほど前から女が住むようになったのだと言われている。
 人外のものの姿を見ただの、怪しげな人物が出入りしているだの……昔から噂は絶えないようだが、何より荒唐無稽なのは、この城の女主人は百五十年たった今でも若く美しいままだという――だから、人はこの女主人のことを【ペンタスの魔女】と呼ぶ。

 引っ越してきた当初は、あまりにもひと気がないので無人かと思っていた。
 だが時おり、深夜、ひと目をはばかるように高級車――いかにも要人が乗るような――が出入りするのを見る。不審極まりないが、逆に言えば、平凡な自分たちとは無縁の人間が確かに住んでいるということだ。

「……魔女、ね……」
 エリスは鼻で嗤うように呟き、栗色の髪をうるさげに払うと家の中に入って行った。


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