カンコンソーサイのお正月
こたつ。みかん。
壁には、ジャロの字らしき丸っこいひらがなで「おしょうがつ かいぎ」。
ネーロを中心に、カンコンソーサイたちがこたつをぐるりと囲んでいた。
ネーロが両手をパン、と打つ。
「よっしゃ、みんな集まったな!今日はな、“平和な正月”や。ほな、ええとこ見せたろ思て、俺が仕切ったるわ。…ただし!」
一拍、置いて。
「壊すな!燃やすな!金で殴るもんでもない!それと…」
その“それと”の瞬間を狙ったかのように、ジャロが真っ先に手を挙げた。
「セブンフルーツをいれるんだじょー!」
「なんでや!それは真っ先にねえわ!」
ネーロが即ツッコむ。
ローザが肩を揺らして笑う。
「あっはは、みんなやりかねないこと、予め釘刺されてる!」
ブランは湯呑みを手にしたまま、短く言った。
「…禁止事項、多いな」
「そらそうや。こうでもせんと正月が事件になるねん。みんな“クセ”強すぎや!」
ネーロが胸を張る。
そこへ、やけに優雅な声が割って入った。
「まあまあ。そういうのは僕が全部、手配しておいたよ。おせちも、最高級の…」
「だから金の力で解決すな! 正月の醍醐味ゼロや!」
ネーロが指を突きつけると、アランは涼しい顔で微笑む。
「えー?“効率”って、素敵だろう?」
その隣で、ロッソが嬉しそうに手を叩いた。
「あらー、いいじゃない! 豪華にいきましょ! 火力も気持ちも、アタシが盛り上げてあげるわ!」
「盛り上げ方が燃える方向やろがい!」
ネーロのツッコミが、もう正月というより防災訓練だった。
そのとき、こたつの端から、のんびりした声がふわりと聞こえる。
「正月の作法は、儂に任せい。まずは…」
ネーロがきょろきょろと首を回した。
「…ん? いま、ええ声したな」
「ここじゃ、ここ。最初からおるぞい」
ヴェルが、穏やかな笑みで手を挙げる。
「あっ、ヴェルおったんか!すまんすまん、影が薄…いや薄い言うたらアカンやつ!」
ネーロが慌てて言い直す。
「気にするでない。慣れておる」
ヴェルは穏やかに言ったが…
(絶対気にしてる…)
ローザが心の中でだけツッコんだ。
ブルは、こたつの端で正座したまま、視線だけが左右に忙しい。
手元には、なぜか消火器。たぶん、ロッソ対策だ。開幕からすでに“平和”が危うい。
そんな中、ローザがぱん、と手を合わせた。
「じゃあ、まずは役割分担しよう。伊達巻とか栗きんとん、あとデザートもローザがやるね!」
ネーロが即座に返す。
「ほんまに甘いのしかやらんのかい!」
ブランが、珍しく小さく突っ込んだ。
「…偏りすぎだ」
ローザはにこっと笑う。
「甘いのは重要だよ。正月は、甘さで平和になるからね」
「…根拠は?」
「希望」
ブランの問いかけにローザは即答える。
「希望で押し切るな!」
ネーロが反発する中でジャロが大きくうなずく。
「キボーはたいせつだじょ!」
「お前はそこだけ賛同すな!!」
カンコンソーサイだけのお正月、果たしてどうなることやら…
まずはおせち作りに取り掛かることになった。
栗きんとんと伊達巻はローザ担当。
ブルは隣で黙々と手伝い、栗を裏ごしする手元だけがやけに器用だった。
ネーロは煮豆に向き合い、腕まくりをする。
「この豆は俺に任せとき!」
ブランが、短く首をかしげる。
「…根拠は」
「根拠? そら決まってるやろ。なんたって俺カラーのブラックビーンズやからな!」
ネーロが胸を張る。
その横で、ヴェルが穏やかに言った。
「ちなみに色なんぞ関係ないぞい。まめに働けるように、という願いが込められておる」
「それ今言う必要あるか?」
ネーロが仮面越しに鋭く睨む。
「いや、事実じゃから…」
ヴェルは視線を泳がせた。
(儂、急に存在を認識されたと思ったら、急に詰められておる…)
一方、栗きんとん組は平和だ。
ローザは栗を押さえながら、嬉しそうに言う。
「うん、いい感じ。甘さは“妥協しない”方向でいくね」
ブルは無言で頷き、砂糖を正確に計量して差し出した。
“しゃべらない”のに、仕事が早い。
そこへ、アランが優雅に近づいてくる。
「ねえ、ヴェル。これにも由来があるのかい?」
「確か…栗きんとんは、金運上昇じゃの」
ヴェルが言い終える前に、アランの目がキラリと光った。
「ほう。じゃあ、これは僕にぴったりじゃないか」
アランはローザに微笑みかける。
「材料が足りなかったら、特注の素材を用意するよ。最高級の栗とか、金箔とか」
ローザはにこっと笑った。
「ありがとー。でも足りてるから、だいじょーぶ!」
ネーロが横から突っ込む。
「金が絡むと反応早いな、ほんま…」
ロッソの方を見ると、煮しめ担当で鍋を抱えていた。
具材を丁寧に切っているところまでは、完璧だった。
ネーロが匂いを吸い込む。
「ええ匂いするやんか」
ロッソが情熱的に胸を張る。
「いいでしょう? でも待ちきれないし、火力で調理短縮するわ!」
「いや、そこは妥協すんな。じっくり炊くことに意味があるんや…」
ネーロが言い終えるより早く、ロッソは笑った。
「大丈夫。ちゃんと弱くするから」
数秒後。
鍋が、火だるまになった。
「おい! これのどこが弱火や!」
ネーロが叫ぶ。
ロッソは悪びれずに答える。
「え?強めの弱火よ?」
「強めたら意味ないやろがい!!!」
ネーロのツッコミが台所に響いた。
ブルがすぐに立ち上がり、無言で消火器を抱えて現れる。
目が“今こそ出番”と言っている。
(しゃべらないのに、危機察知だけは最速だ……)
その騒ぎの影で、ジャロがこそこそと何かをしていた。
テーブルの下、彩りのいいフルーツを並べている。
ブランが視線だけで刺す。
「…そこで、なにしている」
ジャロが振り向き、得意げに言った。
「セブンフルーツいれるじょ!」
ネーロが慌てて止めに入る。
「待て待て! 合わんから!」
ジャロは両手を広げた。
「ななふくでなな!ななはえんぎのいいすうじ!」
「たしかにそうやけど、だからって入れようとすんな!!」
ネーロが頭を抱える。
ヴェルがまた穏やかに口を挟む。
「煮しめに果物は、地域によっては甘味付けで使うこともあるぞい」
ジャロがすかさず乗る。
「ほらほらー!」
ネーロは天井を仰いだ。
「もう、どうにでもなれや…」
ブランがぽつり。
「…なったら困る」
「せやねん!!」
おせちができたとこでお雑煮用の餅を焼くことにした。
ロッソの火力でやれば、餅ではなく炭が完成するという判断で、七輪が採用された。
炭火の上で、餅がじわじわと色づいていく。
膨れる瞬間に興味があるのか、ブルは一度も目を逸らさず、じっと餅を見つめている。
瞬きの回数すら減っていた。しゃべらないくせに、こういう時だけ存在感が濃い。
一方ローザは、台所で出汁を取っていた。
さすがに甘い醤油にはしなかった。そこは“甘い世界”でも越えないラインらしい。
「ネーロ」
ローザが声をかける。
「なんや、どうした」
ネーロは器を並べながら振り返った。
「雑煮に入れるお餅、焼き目つける? 煮る?」
「んなもん普通に煮るんやし、関係ないやろ」
ローザが頬を膨らませる。
「ぶー。“普通”って言葉は、甘い世界には存在しませーん」
「なんやねん甘い世界って…」
ネーロはぶつくさ言いながらも、人数分の器に具材を均等に配っていく。
こういうところだけ、妙にきっちりしている。
そこへ、アランが優雅に現れた。
手には、きらきらと光る金箔。
「これを飾れば完成だね」
「もう! 過剰だよ!」
ローザが即座に止める。
ネーロも眉をひそめる。
「雑煮は雑煮や!きらびやかにせんでええ!」
ブランが静かに言った。
「…それ、食えるのか」
「もちろん食用だよ」
アランは微笑む。まるで「食用以外があるの?」と言いたげに。
ネーロが額を押さえる。
「一体どこで用意してるんや…」
そのとき、後ろからこそこそした影が近づく。
ジャロだ。両手にフルーツを抱えている。
「んじゃさ、きんぱくじゃなくて セブンフルーツを」
『却下』
全員の声が綺麗に重なった。
ブルですら、無言の圧で首を横に振った。たぶん。
ジャロは固まってから、口を尖らせた。
「ふええん…」
ネーロがすかさず言い切る。
「お前の“やりたいこと”、全員もう察しとるわ!」
食事の前に初詣ごっこもしてみることに。
神社というものがないため、居間の一角に簡易の鳥居としめ縄を飾った。
鳥居は紙と木材でそれっぽく。しめ縄は本格的でそこだけ妙に完成度が高い。
もちろん作ったのはヴェルだ。誰も褒めていないが。
ヴェルは、神主のように咳払いをしてから、ゆったりと言った。
「二礼二拍手一礼じゃ。順番にの」
ネーロが腕を組む。
「願い事か…まあせっかくやし、順に“何願ったか”教え合おうや」
ローザが目を輝かせた。
「じゃあネーロは、何お願いしたの?」
「全員が普通に…」
ネーロが言いかけたところで、ローザが首を傾げる。
「ふつうって、なに?」
「え…そこからかい」
ネーロのツッコミが、鳥居の下にむなしく響く。
ローザはにっこりして、すぐ次に行った。
「私はね、もっと美味しいもの探したい!」
ネーロが笑う。
「ローザらしいな」
次に、ブランが短く口を開く。
「…俺は、静かに過ごしたい」
「確かに、その通りやな」
ネーロが頷くと、ブランは間髪入れずに言った。
「…お前が一番うるさい」
「ぐっ…正論やめろ!!」
ネーロが胸を押さえる。
アランは、余裕の微笑みで宣言した。
「僕は更なる金運上昇を願ったよ」
ローザが素で聞く。
「それ以上、上げる必要なくない?」
「必要だよ」
アランは即答した。
「上がるものは、上げておいた方がいい」
ネーロが頭を抱える。
「正月に“資産運用の格言”みたいなん言うなや…」
ロッソが勢いよく手を挙げる。
「アタシはもっと情熱的な出会いが欲しいわ! 燃やしてやりたいような…」
「燃やすないうとるやろ!」
ネーロのツッコミが早すぎて、拍手より軽快だった。
そしてヴェルが、少しだけ間を置いて言う。
「儂は…もっと目立ちたいのう」
その瞬間、空気が一拍だけ止まった。
ブランが珍しく言葉を足す。
「…すまん」
ネーロが目を丸くする。
「ブランが謝るなんて珍しいな!?」
ローザもぽかんとした。
「ほんとだ…初日の出よりレアかも」
ヴェルは遠い目で笑った。
「…新年から胸が温かいのう(虚無)」
最後に、ジャロが元気よく叫ぶ。
「ぼくちんは セブンフルーツで みんなしあわせにするんだじょ!」
ロッソが首を傾げる。
「その理屈だけ、なんで綺麗に聞こえるのかしら」
ネーロが即答する。
「“願い”の形しとるからや。中身はだいぶゴリ押しやけど」
そしてブルの番になった。
ブルはしめ縄の前で立ち止まり、じっと鳥居を見つめた。
何か言いそうで、言わない。
ただ、そっと手を合わせる。
ネーロは肩をすくめて笑う。
「…うん。無理して言わんでもええ。なんとなく、わかった気がするわ」
ブランが小さく頷いた。
「…それでいい」
ヴェルが最後にまとめるように、ゆったり言った。
「よし。これで全員、参拝は済んだの。あとはご馳走にありつこうじゃないか」
完成した(ことにされた)おせちと雑煮を、こたつの上に並べる。
焦げかけた煮しめも、奇跡的に形を保っている。
金運の圧が強すぎる栗きんとんも、ローザの甘さへの執念で“おいしい”に着地していた。
そしてブルは無言のまま、全員の湯呑みをさりげなく満たして回っている。頼もしすぎる。
ネーロが箸を持ったまま、ほっと息を吐いた。
「…なんやかんや、平和に終わりそうやな」
ロッソが元気よく七輪の前に立つ。
「餅のお代わりいる人いる? アタシ、焼いてあげるわ!」
ネーロがすかさず釘を刺す。
「よし、弱火でな?」
ロッソはにっこり。
「ええ、“強めの弱火”で!」
「もうええて!」
ネーロのツッコミが、年明け早々に枯れかける。
ローザがぱちん、と手を合わせた。
「ねえ、デザート。お正月だから“七段ショートケーキ”作っていい?」
ジャロが飛び跳ねる。
「なな!! セブンフルーツいれて!」
ネーロが即座に遮る。
「そこだけ反応すな!!」
ブランが、湯呑みを置いて短く言う。
「…今年も、騒がしい」
「せやな。俺も疲れたわ…」
ネーロは肩を落とす。
ローザが当然みたいに言った。
「大丈夫。そういう時は甘いもの食べればいい!」
「…根拠は」
「希望」
ブランが問いかけるとローザは即答。それにアランが優雅に頷く。
「それに、希望は金で買えるからね」
「買わんでええって!」
その隅でヴェルが、誰にも気づかれぬまま小さく微笑む。
「…よい正月じゃのう」
ブルは無言で頷き、みかんをそっとヴェルの前に置いた。
たぶん、それが“目立つ”ということなのだ。
こうして、8人の正月は、ツッコミだけが忙しく更けていった。
壁には、ジャロの字らしき丸っこいひらがなで「おしょうがつ かいぎ」。
ネーロを中心に、カンコンソーサイたちがこたつをぐるりと囲んでいた。
ネーロが両手をパン、と打つ。
「よっしゃ、みんな集まったな!今日はな、“平和な正月”や。ほな、ええとこ見せたろ思て、俺が仕切ったるわ。…ただし!」
一拍、置いて。
「壊すな!燃やすな!金で殴るもんでもない!それと…」
その“それと”の瞬間を狙ったかのように、ジャロが真っ先に手を挙げた。
「セブンフルーツをいれるんだじょー!」
「なんでや!それは真っ先にねえわ!」
ネーロが即ツッコむ。
ローザが肩を揺らして笑う。
「あっはは、みんなやりかねないこと、予め釘刺されてる!」
ブランは湯呑みを手にしたまま、短く言った。
「…禁止事項、多いな」
「そらそうや。こうでもせんと正月が事件になるねん。みんな“クセ”強すぎや!」
ネーロが胸を張る。
そこへ、やけに優雅な声が割って入った。
「まあまあ。そういうのは僕が全部、手配しておいたよ。おせちも、最高級の…」
「だから金の力で解決すな! 正月の醍醐味ゼロや!」
ネーロが指を突きつけると、アランは涼しい顔で微笑む。
「えー?“効率”って、素敵だろう?」
その隣で、ロッソが嬉しそうに手を叩いた。
「あらー、いいじゃない! 豪華にいきましょ! 火力も気持ちも、アタシが盛り上げてあげるわ!」
「盛り上げ方が燃える方向やろがい!」
ネーロのツッコミが、もう正月というより防災訓練だった。
そのとき、こたつの端から、のんびりした声がふわりと聞こえる。
「正月の作法は、儂に任せい。まずは…」
ネーロがきょろきょろと首を回した。
「…ん? いま、ええ声したな」
「ここじゃ、ここ。最初からおるぞい」
ヴェルが、穏やかな笑みで手を挙げる。
「あっ、ヴェルおったんか!すまんすまん、影が薄…いや薄い言うたらアカンやつ!」
ネーロが慌てて言い直す。
「気にするでない。慣れておる」
ヴェルは穏やかに言ったが…
(絶対気にしてる…)
ローザが心の中でだけツッコんだ。
ブルは、こたつの端で正座したまま、視線だけが左右に忙しい。
手元には、なぜか消火器。たぶん、ロッソ対策だ。開幕からすでに“平和”が危うい。
そんな中、ローザがぱん、と手を合わせた。
「じゃあ、まずは役割分担しよう。伊達巻とか栗きんとん、あとデザートもローザがやるね!」
ネーロが即座に返す。
「ほんまに甘いのしかやらんのかい!」
ブランが、珍しく小さく突っ込んだ。
「…偏りすぎだ」
ローザはにこっと笑う。
「甘いのは重要だよ。正月は、甘さで平和になるからね」
「…根拠は?」
「希望」
ブランの問いかけにローザは即答える。
「希望で押し切るな!」
ネーロが反発する中でジャロが大きくうなずく。
「キボーはたいせつだじょ!」
「お前はそこだけ賛同すな!!」
カンコンソーサイだけのお正月、果たしてどうなることやら…
まずはおせち作りに取り掛かることになった。
栗きんとんと伊達巻はローザ担当。
ブルは隣で黙々と手伝い、栗を裏ごしする手元だけがやけに器用だった。
ネーロは煮豆に向き合い、腕まくりをする。
「この豆は俺に任せとき!」
ブランが、短く首をかしげる。
「…根拠は」
「根拠? そら決まってるやろ。なんたって俺カラーのブラックビーンズやからな!」
ネーロが胸を張る。
その横で、ヴェルが穏やかに言った。
「ちなみに色なんぞ関係ないぞい。まめに働けるように、という願いが込められておる」
「それ今言う必要あるか?」
ネーロが仮面越しに鋭く睨む。
「いや、事実じゃから…」
ヴェルは視線を泳がせた。
(儂、急に存在を認識されたと思ったら、急に詰められておる…)
一方、栗きんとん組は平和だ。
ローザは栗を押さえながら、嬉しそうに言う。
「うん、いい感じ。甘さは“妥協しない”方向でいくね」
ブルは無言で頷き、砂糖を正確に計量して差し出した。
“しゃべらない”のに、仕事が早い。
そこへ、アランが優雅に近づいてくる。
「ねえ、ヴェル。これにも由来があるのかい?」
「確か…栗きんとんは、金運上昇じゃの」
ヴェルが言い終える前に、アランの目がキラリと光った。
「ほう。じゃあ、これは僕にぴったりじゃないか」
アランはローザに微笑みかける。
「材料が足りなかったら、特注の素材を用意するよ。最高級の栗とか、金箔とか」
ローザはにこっと笑った。
「ありがとー。でも足りてるから、だいじょーぶ!」
ネーロが横から突っ込む。
「金が絡むと反応早いな、ほんま…」
ロッソの方を見ると、煮しめ担当で鍋を抱えていた。
具材を丁寧に切っているところまでは、完璧だった。
ネーロが匂いを吸い込む。
「ええ匂いするやんか」
ロッソが情熱的に胸を張る。
「いいでしょう? でも待ちきれないし、火力で調理短縮するわ!」
「いや、そこは妥協すんな。じっくり炊くことに意味があるんや…」
ネーロが言い終えるより早く、ロッソは笑った。
「大丈夫。ちゃんと弱くするから」
数秒後。
鍋が、火だるまになった。
「おい! これのどこが弱火や!」
ネーロが叫ぶ。
ロッソは悪びれずに答える。
「え?強めの弱火よ?」
「強めたら意味ないやろがい!!!」
ネーロのツッコミが台所に響いた。
ブルがすぐに立ち上がり、無言で消火器を抱えて現れる。
目が“今こそ出番”と言っている。
(しゃべらないのに、危機察知だけは最速だ……)
その騒ぎの影で、ジャロがこそこそと何かをしていた。
テーブルの下、彩りのいいフルーツを並べている。
ブランが視線だけで刺す。
「…そこで、なにしている」
ジャロが振り向き、得意げに言った。
「セブンフルーツいれるじょ!」
ネーロが慌てて止めに入る。
「待て待て! 合わんから!」
ジャロは両手を広げた。
「ななふくでなな!ななはえんぎのいいすうじ!」
「たしかにそうやけど、だからって入れようとすんな!!」
ネーロが頭を抱える。
ヴェルがまた穏やかに口を挟む。
「煮しめに果物は、地域によっては甘味付けで使うこともあるぞい」
ジャロがすかさず乗る。
「ほらほらー!」
ネーロは天井を仰いだ。
「もう、どうにでもなれや…」
ブランがぽつり。
「…なったら困る」
「せやねん!!」
おせちができたとこでお雑煮用の餅を焼くことにした。
ロッソの火力でやれば、餅ではなく炭が完成するという判断で、七輪が採用された。
炭火の上で、餅がじわじわと色づいていく。
膨れる瞬間に興味があるのか、ブルは一度も目を逸らさず、じっと餅を見つめている。
瞬きの回数すら減っていた。しゃべらないくせに、こういう時だけ存在感が濃い。
一方ローザは、台所で出汁を取っていた。
さすがに甘い醤油にはしなかった。そこは“甘い世界”でも越えないラインらしい。
「ネーロ」
ローザが声をかける。
「なんや、どうした」
ネーロは器を並べながら振り返った。
「雑煮に入れるお餅、焼き目つける? 煮る?」
「んなもん普通に煮るんやし、関係ないやろ」
ローザが頬を膨らませる。
「ぶー。“普通”って言葉は、甘い世界には存在しませーん」
「なんやねん甘い世界って…」
ネーロはぶつくさ言いながらも、人数分の器に具材を均等に配っていく。
こういうところだけ、妙にきっちりしている。
そこへ、アランが優雅に現れた。
手には、きらきらと光る金箔。
「これを飾れば完成だね」
「もう! 過剰だよ!」
ローザが即座に止める。
ネーロも眉をひそめる。
「雑煮は雑煮や!きらびやかにせんでええ!」
ブランが静かに言った。
「…それ、食えるのか」
「もちろん食用だよ」
アランは微笑む。まるで「食用以外があるの?」と言いたげに。
ネーロが額を押さえる。
「一体どこで用意してるんや…」
そのとき、後ろからこそこそした影が近づく。
ジャロだ。両手にフルーツを抱えている。
「んじゃさ、きんぱくじゃなくて セブンフルーツを」
『却下』
全員の声が綺麗に重なった。
ブルですら、無言の圧で首を横に振った。たぶん。
ジャロは固まってから、口を尖らせた。
「ふええん…」
ネーロがすかさず言い切る。
「お前の“やりたいこと”、全員もう察しとるわ!」
食事の前に初詣ごっこもしてみることに。
神社というものがないため、居間の一角に簡易の鳥居としめ縄を飾った。
鳥居は紙と木材でそれっぽく。しめ縄は本格的でそこだけ妙に完成度が高い。
もちろん作ったのはヴェルだ。誰も褒めていないが。
ヴェルは、神主のように咳払いをしてから、ゆったりと言った。
「二礼二拍手一礼じゃ。順番にの」
ネーロが腕を組む。
「願い事か…まあせっかくやし、順に“何願ったか”教え合おうや」
ローザが目を輝かせた。
「じゃあネーロは、何お願いしたの?」
「全員が普通に…」
ネーロが言いかけたところで、ローザが首を傾げる。
「ふつうって、なに?」
「え…そこからかい」
ネーロのツッコミが、鳥居の下にむなしく響く。
ローザはにっこりして、すぐ次に行った。
「私はね、もっと美味しいもの探したい!」
ネーロが笑う。
「ローザらしいな」
次に、ブランが短く口を開く。
「…俺は、静かに過ごしたい」
「確かに、その通りやな」
ネーロが頷くと、ブランは間髪入れずに言った。
「…お前が一番うるさい」
「ぐっ…正論やめろ!!」
ネーロが胸を押さえる。
アランは、余裕の微笑みで宣言した。
「僕は更なる金運上昇を願ったよ」
ローザが素で聞く。
「それ以上、上げる必要なくない?」
「必要だよ」
アランは即答した。
「上がるものは、上げておいた方がいい」
ネーロが頭を抱える。
「正月に“資産運用の格言”みたいなん言うなや…」
ロッソが勢いよく手を挙げる。
「アタシはもっと情熱的な出会いが欲しいわ! 燃やしてやりたいような…」
「燃やすないうとるやろ!」
ネーロのツッコミが早すぎて、拍手より軽快だった。
そしてヴェルが、少しだけ間を置いて言う。
「儂は…もっと目立ちたいのう」
その瞬間、空気が一拍だけ止まった。
ブランが珍しく言葉を足す。
「…すまん」
ネーロが目を丸くする。
「ブランが謝るなんて珍しいな!?」
ローザもぽかんとした。
「ほんとだ…初日の出よりレアかも」
ヴェルは遠い目で笑った。
「…新年から胸が温かいのう(虚無)」
最後に、ジャロが元気よく叫ぶ。
「ぼくちんは セブンフルーツで みんなしあわせにするんだじょ!」
ロッソが首を傾げる。
「その理屈だけ、なんで綺麗に聞こえるのかしら」
ネーロが即答する。
「“願い”の形しとるからや。中身はだいぶゴリ押しやけど」
そしてブルの番になった。
ブルはしめ縄の前で立ち止まり、じっと鳥居を見つめた。
何か言いそうで、言わない。
ただ、そっと手を合わせる。
ネーロは肩をすくめて笑う。
「…うん。無理して言わんでもええ。なんとなく、わかった気がするわ」
ブランが小さく頷いた。
「…それでいい」
ヴェルが最後にまとめるように、ゆったり言った。
「よし。これで全員、参拝は済んだの。あとはご馳走にありつこうじゃないか」
完成した(ことにされた)おせちと雑煮を、こたつの上に並べる。
焦げかけた煮しめも、奇跡的に形を保っている。
金運の圧が強すぎる栗きんとんも、ローザの甘さへの執念で“おいしい”に着地していた。
そしてブルは無言のまま、全員の湯呑みをさりげなく満たして回っている。頼もしすぎる。
ネーロが箸を持ったまま、ほっと息を吐いた。
「…なんやかんや、平和に終わりそうやな」
ロッソが元気よく七輪の前に立つ。
「餅のお代わりいる人いる? アタシ、焼いてあげるわ!」
ネーロがすかさず釘を刺す。
「よし、弱火でな?」
ロッソはにっこり。
「ええ、“強めの弱火”で!」
「もうええて!」
ネーロのツッコミが、年明け早々に枯れかける。
ローザがぱちん、と手を合わせた。
「ねえ、デザート。お正月だから“七段ショートケーキ”作っていい?」
ジャロが飛び跳ねる。
「なな!! セブンフルーツいれて!」
ネーロが即座に遮る。
「そこだけ反応すな!!」
ブランが、湯呑みを置いて短く言う。
「…今年も、騒がしい」
「せやな。俺も疲れたわ…」
ネーロは肩を落とす。
ローザが当然みたいに言った。
「大丈夫。そういう時は甘いもの食べればいい!」
「…根拠は」
「希望」
ブランが問いかけるとローザは即答。それにアランが優雅に頷く。
「それに、希望は金で買えるからね」
「買わんでええって!」
その隅でヴェルが、誰にも気づかれぬまま小さく微笑む。
「…よい正月じゃのう」
ブルは無言で頷き、みかんをそっとヴェルの前に置いた。
たぶん、それが“目立つ”ということなのだ。
こうして、8人の正月は、ツッコミだけが忙しく更けていった。
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