3章
紺碧館の扉を押し開けると、ひんやりした空気が俺たちを包んだ。
広い。
天井の高い広間には、紺碧色のシャンデリアがいくつもぶら下がっている。
壁一面に飾られた肖像画も、いくつかは斜めに歪み、床には砕けたガラスが散らばっていた。
「…好き放題やってくれてんな」
ラルドが目を細める。
広間の奥。
青い敷物の先、小さな玉座のような椅子に、ひとりの男が足を組んで座っていた。
緑の和服。
妖狐の耳みたいな髪飾り。黒い長髪をひとつに束ね、団扇でぱたぱたと風を起こしている。
「待っておったぞ、小童ども」
ヴェルだ。
「おお、ちゃんと来おったか。紺碧館へようこそ。歓迎してやるわい」
「お前は主じゃねえだろ。歓迎の仕方が最悪なんだよ、お前の場合」
俺は自然と剣の柄に手をかけていた。
「ブラッドアップル燃やしたり、ルピに化けて好き放題したり、ジェム家とヴァンプ家を喧嘩させたり。お前の悪さ、一個ずつ請求書にして投げつけてやろうか?」
「ダルクのじ、よみにくいー」
「スタラそれ今じゃねえ」
マジカルが一歩、前に出た。
「こっちには、ジェム家とヴァンプ家、両方から“正式に”殴り込む許可をもらってるのよ。覚悟はいい?」
「ふむ、族長のお墨付きか。なら遠慮はいらんのう」
ヴェルは、すっと立ち上がる。
「儂はカンコンソーサイのヴェル。四天王最弱と好き勝手言われておるがな」
その手に、いつの間にか二つの宝石が浮かんでいた。
ひとつは柘榴色の、ひとつは風を思わせる淡い緑の光。
「精霊石を二つ預かっておる。地と風。小童ども、精霊の力というものを、たっぷり味わっていけ」
次の瞬間、床がうねった。
ボス ヴェル
「儂は弱小ではないことを証明してやろう!」
「にこずるーい!」
「普通、魔物ってのは魔法属性は一つ依存。あいつは精霊石二個使って強化してきたってことか」
「ってことは、あいつを倒せば…シャインとクラウディアを取り返せる!」
途中から
ヴェルが口元を歪める。
「なかなかやるのう。さて…」
広間の隅、柱の影から、青白い光線が走った。
「っな!?」
俺の隣の床が爆ぜる。
破片が飛び散り、熱が頬をなでた。
「今の、ヴェルの攻撃じゃない!」
「トラップでしょうか?」
「そっちは気にせんでもよい。儂の援護よ。いやでも顔を合わせることになるがな。今は儂と遊べ、小童」
「“援護”にしてはこっちにばっか飛んできてんだろうが…!あっちのダメージも気にしろよ、いいな!?」
※数ターンごとにビーム乱入しダメージを与えてきます
倒した
「四天王最弱…ではない…」
ヴェルが膝をついた。
地と風の精霊石を取り返した!
「観念しろよ、ヴェル。お前もジャロと同じように」
「まだ…終わらぬ…」
ヴェルが悔しそうに笑った、そのとき。
「ダルク様!」
「連れてきたぞ!!」
広間の別の扉が勢いよく開く。
そこからアンバーとパル、エンジ、アオイ、そして…
「み、皆さん…!」
見覚えのある少年のような青年が、顔を覗かせた。
群青の礼服。頭には十字架のような飾り。少し不安そうな、でも優しい目。
「兄貴!」
「サフィさん!」
ノオがぱっと顔を輝かせる。
たまきちが「きゅいっ」と鳴いて、ノオの肩から飛び降りた。
ふよふよと浮かびながら、サフィの方へ向かう。
「間に合ってよかった…! 話はパルさんから聞いた。ノオちゃんが危ないって」
サフィが胸を押さえる。アンバーも、その横で小さく息をついた。
「地下の連中はひとまず解放した。誰も犠牲はない」
「こっちもヴェルは倒した。精霊も二人、救えたぜ」
俺は手にした精霊石を見せてそう報告した。
「ん?」
ラルドが周囲を見回す。
「どしたの?」
「さっきから“ゴーストの気配”が一つ、多すぎる気がする」
その瞬間だった。
「そうかい?」
俺たちの背後から、声がした。
振り返ると、そこにはもうひとりのサフィが立っていた。
同じ顔。
同じ服。
同じ頭飾り。
「…は?」
「え?」
ノオが固まる。
「え、ええと…サフィさん、二人…?」
「これは…」
パルが目を細める。
「ややこしいことになりましたわね」
「ヴェルの…最後のあがき…? ど、どっちが本物なの!?」
ローザが目を白黒させる。
二人のサフィが、同時に口を開いた。
「僕が本物だよ」
「僕が本物だ」
声まで同じ。
しゃべり方も、仕草も、細かい癖も、ほとんど違いがわからない。
「…なあ」
俺は、ちらっとノオの肩を見る。
そこでは、たまきちがぽよぽよ震えていた。
右と左のサフィを、落ち着きなく見比べている。
「たまきちちゃん?」
ノオが、そっと呼びかけた。
「どっちが…サフィさん?」
たまきちは、しばらく二人のサフィの間を行ったり来たりした。
そして…
すっと、左側のサフィの方へ寄った。
頭…というか帽子のあたりに、ほわっと体をくっつける。
「…決まり、みたいね」
マジカルが小さく呟く。
「たまきちは兄貴の分身。本体から生まれた“かけら”。どんなに姿を似せても、魂の匂いまでは誤魔化せないぞ」
「じゃあ、右が…」
俺が剣を構え直すと、右側の“サフィ”が、わずかに口元を歪めた。
「ちっ、バレたか」
声のトーンが変わる。
次の瞬間、“サフィ”の身体がぐにゃりと歪み、緑の煙を上げた。
煙が晴れると、そこには見慣れた妖狐男ヴェルの姿があった。
「ほんと、悪あがきがひどいやつね…!」
マジカルが呆れたように言う。
「儂も、往生際が悪いとよく言われるのう」
ヴェルが肩をすくめる。
「このどさくさに紛れて、小童どもの誰か一人でも特にローザあたりでも連れて行ければ儲けものじゃったが」
「ローザ狙ってた?」
「やっぱりそうかあ」
ローザが頬を膨らませる。
「…もういいよね、ダルク」
「もちろん」
俺は一歩、前に出た。
「ヴェル。いったんぶっ飛ばしたのに、まだサフィに化けてこそこそやろうとするってのは…」
双剣を構えながら、深く息を吸う。
「さすがに、許せねえ」
ヴェルは少しだけ目を細めた。
「儂も、ここらが潮時かの。せいぜい後悔せんよう、精霊を大事にするんじゃぞ」
「誰が言ってんだよ」
観念したのか、ヴェルは抵抗を見せない。
「これで、本当に終わりだ!」
剣がヴェルの胸を貫いた。
カラン、と何かが転がる音がした。
ヴェルの中から、小さな核のような結晶がこぼれ落ちる。
「…お見事」
ヴェルは、どこか満足そうに笑った。
「儂はここで退場か。せいぜい、残りの奴らに気をつけるんじゃな、小童」
その身体が、結晶ごと砕け、緑の光の粉になって消えていく。
「ローザ!」
「うん!」
ローザがすかさず飛び出した。
剣を引き抜くとヴェルの核がゴロンと床に落ちる。
アツアツの飴を垂らして、ヴェルの核を包んでいく。
「これ以上、悪さできないようにコーティングしとくね」
ジャロの時と同じような飴玉ができあがった。
違いは、中に沈んでいる核が、深い緑色ってところか。
「…これで、本当に終わり、っと」
ローザが小さく息を吐く。
広い。
天井の高い広間には、紺碧色のシャンデリアがいくつもぶら下がっている。
壁一面に飾られた肖像画も、いくつかは斜めに歪み、床には砕けたガラスが散らばっていた。
「…好き放題やってくれてんな」
ラルドが目を細める。
広間の奥。
青い敷物の先、小さな玉座のような椅子に、ひとりの男が足を組んで座っていた。
緑の和服。
妖狐の耳みたいな髪飾り。黒い長髪をひとつに束ね、団扇でぱたぱたと風を起こしている。
「待っておったぞ、小童ども」
ヴェルだ。
「おお、ちゃんと来おったか。紺碧館へようこそ。歓迎してやるわい」
「お前は主じゃねえだろ。歓迎の仕方が最悪なんだよ、お前の場合」
俺は自然と剣の柄に手をかけていた。
「ブラッドアップル燃やしたり、ルピに化けて好き放題したり、ジェム家とヴァンプ家を喧嘩させたり。お前の悪さ、一個ずつ請求書にして投げつけてやろうか?」
「ダルクのじ、よみにくいー」
「スタラそれ今じゃねえ」
マジカルが一歩、前に出た。
「こっちには、ジェム家とヴァンプ家、両方から“正式に”殴り込む許可をもらってるのよ。覚悟はいい?」
「ふむ、族長のお墨付きか。なら遠慮はいらんのう」
ヴェルは、すっと立ち上がる。
「儂はカンコンソーサイのヴェル。四天王最弱と好き勝手言われておるがな」
その手に、いつの間にか二つの宝石が浮かんでいた。
ひとつは柘榴色の、ひとつは風を思わせる淡い緑の光。
「精霊石を二つ預かっておる。地と風。小童ども、精霊の力というものを、たっぷり味わっていけ」
次の瞬間、床がうねった。
ボス ヴェル
「儂は弱小ではないことを証明してやろう!」
「にこずるーい!」
「普通、魔物ってのは魔法属性は一つ依存。あいつは精霊石二個使って強化してきたってことか」
「ってことは、あいつを倒せば…シャインとクラウディアを取り返せる!」
途中から
ヴェルが口元を歪める。
「なかなかやるのう。さて…」
広間の隅、柱の影から、青白い光線が走った。
「っな!?」
俺の隣の床が爆ぜる。
破片が飛び散り、熱が頬をなでた。
「今の、ヴェルの攻撃じゃない!」
「トラップでしょうか?」
「そっちは気にせんでもよい。儂の援護よ。いやでも顔を合わせることになるがな。今は儂と遊べ、小童」
「“援護”にしてはこっちにばっか飛んできてんだろうが…!あっちのダメージも気にしろよ、いいな!?」
※数ターンごとにビーム乱入しダメージを与えてきます
倒した
「四天王最弱…ではない…」
ヴェルが膝をついた。
地と風の精霊石を取り返した!
「観念しろよ、ヴェル。お前もジャロと同じように」
「まだ…終わらぬ…」
ヴェルが悔しそうに笑った、そのとき。
「ダルク様!」
「連れてきたぞ!!」
広間の別の扉が勢いよく開く。
そこからアンバーとパル、エンジ、アオイ、そして…
「み、皆さん…!」
見覚えのある少年のような青年が、顔を覗かせた。
群青の礼服。頭には十字架のような飾り。少し不安そうな、でも優しい目。
「兄貴!」
「サフィさん!」
ノオがぱっと顔を輝かせる。
たまきちが「きゅいっ」と鳴いて、ノオの肩から飛び降りた。
ふよふよと浮かびながら、サフィの方へ向かう。
「間に合ってよかった…! 話はパルさんから聞いた。ノオちゃんが危ないって」
サフィが胸を押さえる。アンバーも、その横で小さく息をついた。
「地下の連中はひとまず解放した。誰も犠牲はない」
「こっちもヴェルは倒した。精霊も二人、救えたぜ」
俺は手にした精霊石を見せてそう報告した。
「ん?」
ラルドが周囲を見回す。
「どしたの?」
「さっきから“ゴーストの気配”が一つ、多すぎる気がする」
その瞬間だった。
「そうかい?」
俺たちの背後から、声がした。
振り返ると、そこにはもうひとりのサフィが立っていた。
同じ顔。
同じ服。
同じ頭飾り。
「…は?」
「え?」
ノオが固まる。
「え、ええと…サフィさん、二人…?」
「これは…」
パルが目を細める。
「ややこしいことになりましたわね」
「ヴェルの…最後のあがき…? ど、どっちが本物なの!?」
ローザが目を白黒させる。
二人のサフィが、同時に口を開いた。
「僕が本物だよ」
「僕が本物だ」
声まで同じ。
しゃべり方も、仕草も、細かい癖も、ほとんど違いがわからない。
「…なあ」
俺は、ちらっとノオの肩を見る。
そこでは、たまきちがぽよぽよ震えていた。
右と左のサフィを、落ち着きなく見比べている。
「たまきちちゃん?」
ノオが、そっと呼びかけた。
「どっちが…サフィさん?」
たまきちは、しばらく二人のサフィの間を行ったり来たりした。
そして…
すっと、左側のサフィの方へ寄った。
頭…というか帽子のあたりに、ほわっと体をくっつける。
「…決まり、みたいね」
マジカルが小さく呟く。
「たまきちは兄貴の分身。本体から生まれた“かけら”。どんなに姿を似せても、魂の匂いまでは誤魔化せないぞ」
「じゃあ、右が…」
俺が剣を構え直すと、右側の“サフィ”が、わずかに口元を歪めた。
「ちっ、バレたか」
声のトーンが変わる。
次の瞬間、“サフィ”の身体がぐにゃりと歪み、緑の煙を上げた。
煙が晴れると、そこには見慣れた妖狐男ヴェルの姿があった。
「ほんと、悪あがきがひどいやつね…!」
マジカルが呆れたように言う。
「儂も、往生際が悪いとよく言われるのう」
ヴェルが肩をすくめる。
「このどさくさに紛れて、小童どもの誰か一人でも特にローザあたりでも連れて行ければ儲けものじゃったが」
「ローザ狙ってた?」
「やっぱりそうかあ」
ローザが頬を膨らませる。
「…もういいよね、ダルク」
「もちろん」
俺は一歩、前に出た。
「ヴェル。いったんぶっ飛ばしたのに、まだサフィに化けてこそこそやろうとするってのは…」
双剣を構えながら、深く息を吸う。
「さすがに、許せねえ」
ヴェルは少しだけ目を細めた。
「儂も、ここらが潮時かの。せいぜい後悔せんよう、精霊を大事にするんじゃぞ」
「誰が言ってんだよ」
観念したのか、ヴェルは抵抗を見せない。
「これで、本当に終わりだ!」
剣がヴェルの胸を貫いた。
カラン、と何かが転がる音がした。
ヴェルの中から、小さな核のような結晶がこぼれ落ちる。
「…お見事」
ヴェルは、どこか満足そうに笑った。
「儂はここで退場か。せいぜい、残りの奴らに気をつけるんじゃな、小童」
その身体が、結晶ごと砕け、緑の光の粉になって消えていく。
「ローザ!」
「うん!」
ローザがすかさず飛び出した。
剣を引き抜くとヴェルの核がゴロンと床に落ちる。
アツアツの飴を垂らして、ヴェルの核を包んでいく。
「これ以上、悪さできないようにコーティングしとくね」
ジャロの時と同じような飴玉ができあがった。
違いは、中に沈んでいる核が、深い緑色ってところか。
「…これで、本当に終わり、っと」
ローザが小さく息を吐く。
