3章
ジャロを倒して、あの変な核をネーロに渡したそのあと、フォレストタウンの騒ぎは、嘘みたいに静まった。
さっきまで町中の看板もベンチも、道ばたの石ころまでセブンフルーツに変わっていたのに。
色とりどりの果物で埋め尽くされていた景色は、いつの間にかいつもの木造の家並みに戻っている。
「あれー、フルーツない!もとにもどってる?」
「おう、ちゃんと戻ってるだろ。ほら、あそこ。さっきまでフルーツだった屋台、ちゃんと店になってんだろ」
スタラが、セブンフルーツがなくなっていることをちょっと残念そうに眺めている。
…いや、俺の方はあのセブンフルーツ工場での悪夢を思い出して、思わず肩をすくめた。
だって、何からできたかわからんセブンフルーツだぞ?
それを工場で延々と加工してるのを想像したら…余計に気持ち悪くなる。
「町の後始末は、フランとスペイドさm…さんに任せましょ。ここから先は、アタシ達のやることを優先すべきだし」
マジカルが真面目な顔でそう言ったので、俺たちはフォレストタウンの片隅にあるノオの家…一人で住むには大きい一軒家に集まることになった。
メンバーは、俺、スタラ、ラルド、ノオ、マジカル、ローザ。
そして、普通に歩き回れるくらいには元気になったノアさんと、その中にいるネーロだ。
席についてしばらくすると、テーブルの上にはローザお手製のスイーツがずらりと並べられていた。
「はーい、皆お待ちかねティータイムにしよ! セブンフルーツでパフェとかー、プリンとかタルトとか作ったよ!」
にこっと笑ってローザが言う。
パフェ、タルト、プリン…どれも見た目だけなら、最高にうまそうだ。見た目だけなら。
「…」
「…」
「…い、いやあ、俺ちょっと腹痛くなってきたかも」
「いや。ラルド、お前ゴーストだろ、腹痛なんて起きないだろうが…」
俺もマジカルも、同時に青ざめた顔で固まった。
工場のラインに流され続けた悪夢が、フラッシュバックしてくる。フルーツの甘い匂いすら、なんだかトラウマだ。
「え?どうしたの?みんな顔色悪いよ?」
「ローザさん…セブンフルーツって、あの工場にあったものではないですよね…?」
「ダルクに怒られたから持ってきてないよ?」
「ローザ! これおいしー!」
スタラは普通にプリンをぱくぱく食べている。ああ、スタラはそうだった。セブンフルーツ大好きだ。
ローザも、元からか特に気にしていない。
「どうしたダルク。腹は減ってないのか?」
ノアさんもローザから貰ったタルトを食べている。あれ、右手でフォークを持ってるが…?
ふとノアさんの右腕を見ると、治った…と思いきや、ネーロの触腕が手の形になって代わりの手となっていただけだった。ずいぶん器用なことできるんだな。
『お?なんやローザ。ずいぶん張り切ったなあ』
「ネーロ、セブンフルーツって使い道多いんだねー。ジャロが好きになるのも納得かも~」
ローザは照れくさそうにネーロに答える。まるでカップルだな。
『おーい、ノア。俺にも食わしてくれー』
「どうやって食うんだよ」
『あ、せや。俺は俺で食う方法がある』
ノアさんの身体から生えてるネーロの触腕の一部に、牙がにゅっと生えたと思ったら…
誰も手を付けてないパフェに、そのままかぶりついた。ガラスの容器ごと。
『おお、こりゃうまいやん。ちょっと硬いけど』
「おい、容器ごと食うやつがいるか!」
ぼりぼりと無邪気に頬張るネーロを見て、俺たちはなんとも言えない顔になった。
「…そろそろ本題に入るか」
俺が無理やり話を切り替えると、全員が真面目な顔でテーブルを囲み直した。
「ダンをこのままにしておくわけにはいかねえ。ゲンに取り憑かれたまんまってのは、やっぱり気持ち悪い」
「しかも、あれは普通のゴーストじゃねえ。千年も恨みを募らせていれば、もはや怨霊レベルだ」
ラルドが腕を組んで唸る。
「そうなると…普通の除霊じゃダメなのか?」
俺が言うと、ノオがこくりとうなずいた。
「はい。同じゴーストによる除霊術が、一番安全だと思います。人間側の術で無理やりはがそうとすると、ダンさんの魂ごと傷つけちゃうかもしれませんし…」
「そこで、ゴースト一族のジェム家の出番ってわけね」
マジカルが話を引き継ぐ。
「そうだ。俺のようなただのゴーストには、そんな力はねえ。ジェム一家は数少ない上位種のゴーストだ。霧の森の奥、紺碧の滝のそばに邸を構えるサフィール=ジェム。通称サフィと呼ばれてる。あいつなら…できるかもしれんな。だが、生憎俺は接点は少ない」
「あの、僕はサフィさんとちょっとだけ交流あります」
ラルドが補足し、ノオが胸を張った。
「たまに霧の森を通るとき、ブラッドアップルを分けてくれたり、道案内してもらったりとか…だから僕からお願いしてみます。サフィさんが味方になってくれれば、ダンさんの除霊も現実的になるかと」
「ノオ一人じゃ危ないからな、俺は一緒に行くぞ」
「!」
「おおー、流石ね、ダルク!」
マジカルが褒めて、ノオが嬉しそうにしていた。
『ローザは引き続きダルクと一緒に行動せい。カンコンソーサイに遭遇した時のためにな』
ネーロはさっき齧り付いたグラスの欠片を吐き出しては器用に元の形に組み立てていた。
「ネーロはどうするの?」
『ノアのケガもあと少しやし、まあ俺は俺でやりたいことがあんねん。ノアも付き合ってもらうで』
「えー、ネーロも一緒がよかったのに」
「二人一緒だったら、奇襲によっては一網打尽となるだろ。別行動はそれを防ぐためだ」
ノアさんに突っ込まれると、ローザは残念そうだった。
「とはいえ、あのやばい犬っころがネーロを狙って来てくれれば好都合だがな」
「そう!そこで鉢合わせすればサフィにゲンを引き抜いてもらう!」
「そううまくいくとは思えんがな」
「だからこそ、サフィの力が必要なんでしょ?」
マジカルが静かに言う。
「上位種のゴーストの力で、内と外から同時にゲンを弱める。それくらい慎重にやらないと、ダンを守れないもの」
「…一刻も早く、サフィさんに会いに行きたいですね」
ノオの声にも、焦りが滲む。
そう思った、そのときだった。
「…ん?」
ノオの家の戸口から、何かがふよふよと入ってきた。
「おー?なにあれー?」
スタラが目をキラキラさせて指さした先には、青いサンタ帽をちょこんとかぶった、髑髏の顔のちっちゃなゴーストがいた。
まるで飴玉みたいな体が、ぷかぷかと空中を漂っている。
「たまきちちゃん!」
ノオがぱあっと顔を輝かせて駆け寄る。
「今日も遊びにきたんですね?」
「たまきち?」と、俺たちが首をかしげる。
「はい。この子、ジェム一家と僕がちゃんと繋がってる証として、サフィさんが預けてくれたゴーストです。 僕が勝手に“たまきち”って名前つけてますが…」
ノオはたまきちの頭…というか帽子をそっと撫でる。
たまきちは表情はわからないが、嬉しそうにぷかぷか揺れている。
「こんなゴースト、見たことねえ…」
ラルドが目を丸くする。
「まあ、一番下位種のミニゴーストかもしれねえな」
「たまきちなら、サフィさんの居場所もわかるかもな」
俺が言うと、たまきちは俺に気付いたのか、こくこくと頷くように上下に揺れた。なんか今の状況も察してくれたっぽい。頭いいな。
「よし、じゃあサフィのところへ行く案内役は、たまきちに任せよう」
「まって! せっかく行くなら手ぶらで行くわけにもいかないよ?」
ローザがそう言うと、スタラの耳がぴんと立った。
「おみやげ? なにもってく?」
「ブラッドアップルを使ったお菓子はどうでしょう?」
「ブラッドアップルってなんだ?」
俺は首をかしげる。
…あ、まあ後から聞いたことを説明すると、そっちの世界(現実)でいうリンゴのことだ。
「ただのフルーツじゃないんです。切ると血みたいに真っ赤な果汁が出て、すっごく栄養満点。不死の魔物はみんな大好きなんですよ。貧血にも効くから、吸血鬼一族はジュースを血の代わりに飲んでます。だから、霧の森の吸血鬼一家のヴァンプ家はわざわざ人を襲いません。そこらじゅうにブラッドアップルが自生してるので困ることはないんです」
ノオが得意げに補足した。
「…なるほどな。じゃあ、サフィへの手土産は決まりだな」
俺の言葉に賛同したノオは、ローザの方を見る。
「ローザさん、ブラッドアップルパイ、作りませんか?」
ノオの提案に、ローザの瞳がぱっと輝いた。
「いいねいいね!アップルパイってサイコーだよ!ブラッドアップルを使ったパイなんてとってもおいしそう!」
『ローザ、自分で食う前提はあかんで』
「わかってるー!味見程度に余分に作るのはいいよね?」
「はい、ちょうどおすそ分けで貰ったブラッドアップルがあるので、それを使いましょう」
しばらくすると、ノオとローザにより、パイの香ばしい匂いが家いっぱいに広がる。
「…いい匂い!」
「さっきまでセブンフルーツ見ただけで胃がひっくり返りそうだったのに、俺も腹減ってきたな」
「あんた腹減るの?」
「当たり前よ! 食うことは生きることだろ!俺死んでっけど」
マジカルがしっぽをブンブンさせて、その隣ではラルドのゴーストジョークが炸裂している。
ジャロの工場のトラウマで萎びていた心が、じんわりと温まっていくのを感じた。
「ダンもおなかすかせてるかなー。ちゃんとごはんたべてるのかな…」
スタラがぽつりと言う。
「まあゲンだって、ダンに死なれたら困るだろうし、食ってはいそうだな。ただ、ちゃんとしたのならいいが」
焼き上がったブラッドアップルパイを見つめながら、俺は小さく拳を握った。
たまきちが、その上をうれしそうにくるくると回っている。
さっきまで町中の看板もベンチも、道ばたの石ころまでセブンフルーツに変わっていたのに。
色とりどりの果物で埋め尽くされていた景色は、いつの間にかいつもの木造の家並みに戻っている。
「あれー、フルーツない!もとにもどってる?」
「おう、ちゃんと戻ってるだろ。ほら、あそこ。さっきまでフルーツだった屋台、ちゃんと店になってんだろ」
スタラが、セブンフルーツがなくなっていることをちょっと残念そうに眺めている。
…いや、俺の方はあのセブンフルーツ工場での悪夢を思い出して、思わず肩をすくめた。
だって、何からできたかわからんセブンフルーツだぞ?
それを工場で延々と加工してるのを想像したら…余計に気持ち悪くなる。
「町の後始末は、フランとスペイドさm…さんに任せましょ。ここから先は、アタシ達のやることを優先すべきだし」
マジカルが真面目な顔でそう言ったので、俺たちはフォレストタウンの片隅にあるノオの家…一人で住むには大きい一軒家に集まることになった。
メンバーは、俺、スタラ、ラルド、ノオ、マジカル、ローザ。
そして、普通に歩き回れるくらいには元気になったノアさんと、その中にいるネーロだ。
席についてしばらくすると、テーブルの上にはローザお手製のスイーツがずらりと並べられていた。
「はーい、皆お待ちかねティータイムにしよ! セブンフルーツでパフェとかー、プリンとかタルトとか作ったよ!」
にこっと笑ってローザが言う。
パフェ、タルト、プリン…どれも見た目だけなら、最高にうまそうだ。見た目だけなら。
「…」
「…」
「…い、いやあ、俺ちょっと腹痛くなってきたかも」
「いや。ラルド、お前ゴーストだろ、腹痛なんて起きないだろうが…」
俺もマジカルも、同時に青ざめた顔で固まった。
工場のラインに流され続けた悪夢が、フラッシュバックしてくる。フルーツの甘い匂いすら、なんだかトラウマだ。
「え?どうしたの?みんな顔色悪いよ?」
「ローザさん…セブンフルーツって、あの工場にあったものではないですよね…?」
「ダルクに怒られたから持ってきてないよ?」
「ローザ! これおいしー!」
スタラは普通にプリンをぱくぱく食べている。ああ、スタラはそうだった。セブンフルーツ大好きだ。
ローザも、元からか特に気にしていない。
「どうしたダルク。腹は減ってないのか?」
ノアさんもローザから貰ったタルトを食べている。あれ、右手でフォークを持ってるが…?
ふとノアさんの右腕を見ると、治った…と思いきや、ネーロの触腕が手の形になって代わりの手となっていただけだった。ずいぶん器用なことできるんだな。
『お?なんやローザ。ずいぶん張り切ったなあ』
「ネーロ、セブンフルーツって使い道多いんだねー。ジャロが好きになるのも納得かも~」
ローザは照れくさそうにネーロに答える。まるでカップルだな。
『おーい、ノア。俺にも食わしてくれー』
「どうやって食うんだよ」
『あ、せや。俺は俺で食う方法がある』
ノアさんの身体から生えてるネーロの触腕の一部に、牙がにゅっと生えたと思ったら…
誰も手を付けてないパフェに、そのままかぶりついた。ガラスの容器ごと。
『おお、こりゃうまいやん。ちょっと硬いけど』
「おい、容器ごと食うやつがいるか!」
ぼりぼりと無邪気に頬張るネーロを見て、俺たちはなんとも言えない顔になった。
「…そろそろ本題に入るか」
俺が無理やり話を切り替えると、全員が真面目な顔でテーブルを囲み直した。
「ダンをこのままにしておくわけにはいかねえ。ゲンに取り憑かれたまんまってのは、やっぱり気持ち悪い」
「しかも、あれは普通のゴーストじゃねえ。千年も恨みを募らせていれば、もはや怨霊レベルだ」
ラルドが腕を組んで唸る。
「そうなると…普通の除霊じゃダメなのか?」
俺が言うと、ノオがこくりとうなずいた。
「はい。同じゴーストによる除霊術が、一番安全だと思います。人間側の術で無理やりはがそうとすると、ダンさんの魂ごと傷つけちゃうかもしれませんし…」
「そこで、ゴースト一族のジェム家の出番ってわけね」
マジカルが話を引き継ぐ。
「そうだ。俺のようなただのゴーストには、そんな力はねえ。ジェム一家は数少ない上位種のゴーストだ。霧の森の奥、紺碧の滝のそばに邸を構えるサフィール=ジェム。通称サフィと呼ばれてる。あいつなら…できるかもしれんな。だが、生憎俺は接点は少ない」
「あの、僕はサフィさんとちょっとだけ交流あります」
ラルドが補足し、ノオが胸を張った。
「たまに霧の森を通るとき、ブラッドアップルを分けてくれたり、道案内してもらったりとか…だから僕からお願いしてみます。サフィさんが味方になってくれれば、ダンさんの除霊も現実的になるかと」
「ノオ一人じゃ危ないからな、俺は一緒に行くぞ」
「!」
「おおー、流石ね、ダルク!」
マジカルが褒めて、ノオが嬉しそうにしていた。
『ローザは引き続きダルクと一緒に行動せい。カンコンソーサイに遭遇した時のためにな』
ネーロはさっき齧り付いたグラスの欠片を吐き出しては器用に元の形に組み立てていた。
「ネーロはどうするの?」
『ノアのケガもあと少しやし、まあ俺は俺でやりたいことがあんねん。ノアも付き合ってもらうで』
「えー、ネーロも一緒がよかったのに」
「二人一緒だったら、奇襲によっては一網打尽となるだろ。別行動はそれを防ぐためだ」
ノアさんに突っ込まれると、ローザは残念そうだった。
「とはいえ、あのやばい犬っころがネーロを狙って来てくれれば好都合だがな」
「そう!そこで鉢合わせすればサフィにゲンを引き抜いてもらう!」
「そううまくいくとは思えんがな」
「だからこそ、サフィの力が必要なんでしょ?」
マジカルが静かに言う。
「上位種のゴーストの力で、内と外から同時にゲンを弱める。それくらい慎重にやらないと、ダンを守れないもの」
「…一刻も早く、サフィさんに会いに行きたいですね」
ノオの声にも、焦りが滲む。
そう思った、そのときだった。
「…ん?」
ノオの家の戸口から、何かがふよふよと入ってきた。
「おー?なにあれー?」
スタラが目をキラキラさせて指さした先には、青いサンタ帽をちょこんとかぶった、髑髏の顔のちっちゃなゴーストがいた。
まるで飴玉みたいな体が、ぷかぷかと空中を漂っている。
「たまきちちゃん!」
ノオがぱあっと顔を輝かせて駆け寄る。
「今日も遊びにきたんですね?」
「たまきち?」と、俺たちが首をかしげる。
「はい。この子、ジェム一家と僕がちゃんと繋がってる証として、サフィさんが預けてくれたゴーストです。 僕が勝手に“たまきち”って名前つけてますが…」
ノオはたまきちの頭…というか帽子をそっと撫でる。
たまきちは表情はわからないが、嬉しそうにぷかぷか揺れている。
「こんなゴースト、見たことねえ…」
ラルドが目を丸くする。
「まあ、一番下位種のミニゴーストかもしれねえな」
「たまきちなら、サフィさんの居場所もわかるかもな」
俺が言うと、たまきちは俺に気付いたのか、こくこくと頷くように上下に揺れた。なんか今の状況も察してくれたっぽい。頭いいな。
「よし、じゃあサフィのところへ行く案内役は、たまきちに任せよう」
「まって! せっかく行くなら手ぶらで行くわけにもいかないよ?」
ローザがそう言うと、スタラの耳がぴんと立った。
「おみやげ? なにもってく?」
「ブラッドアップルを使ったお菓子はどうでしょう?」
「ブラッドアップルってなんだ?」
俺は首をかしげる。
…あ、まあ後から聞いたことを説明すると、そっちの世界(現実)でいうリンゴのことだ。
「ただのフルーツじゃないんです。切ると血みたいに真っ赤な果汁が出て、すっごく栄養満点。不死の魔物はみんな大好きなんですよ。貧血にも効くから、吸血鬼一族はジュースを血の代わりに飲んでます。だから、霧の森の吸血鬼一家のヴァンプ家はわざわざ人を襲いません。そこらじゅうにブラッドアップルが自生してるので困ることはないんです」
ノオが得意げに補足した。
「…なるほどな。じゃあ、サフィへの手土産は決まりだな」
俺の言葉に賛同したノオは、ローザの方を見る。
「ローザさん、ブラッドアップルパイ、作りませんか?」
ノオの提案に、ローザの瞳がぱっと輝いた。
「いいねいいね!アップルパイってサイコーだよ!ブラッドアップルを使ったパイなんてとってもおいしそう!」
『ローザ、自分で食う前提はあかんで』
「わかってるー!味見程度に余分に作るのはいいよね?」
「はい、ちょうどおすそ分けで貰ったブラッドアップルがあるので、それを使いましょう」
しばらくすると、ノオとローザにより、パイの香ばしい匂いが家いっぱいに広がる。
「…いい匂い!」
「さっきまでセブンフルーツ見ただけで胃がひっくり返りそうだったのに、俺も腹減ってきたな」
「あんた腹減るの?」
「当たり前よ! 食うことは生きることだろ!俺死んでっけど」
マジカルがしっぽをブンブンさせて、その隣ではラルドのゴーストジョークが炸裂している。
ジャロの工場のトラウマで萎びていた心が、じんわりと温まっていくのを感じた。
「ダンもおなかすかせてるかなー。ちゃんとごはんたべてるのかな…」
スタラがぽつりと言う。
「まあゲンだって、ダンに死なれたら困るだろうし、食ってはいそうだな。ただ、ちゃんとしたのならいいが」
焼き上がったブラッドアップルパイを見つめながら、俺は小さく拳を握った。
たまきちが、その上をうれしそうにくるくると回っている。
