2章

最奥部らしきフロアに出た。
そこには、分厚い金属の扉がひとつ。魔法陣と封印の紋様がいくつも刻まれている。
その目の前にいた。

「うぬぬぬぬ…あかないじょおおお…!」

ちっこい背中が必死に奮闘していた。
短剣で扉をつついたり、セブンフルーツを押し当てたり、何かぶつぶつ呪文を唱えたりしている。
「あいつが…ジャロか」
ラルドが小声でつぶやく。
「あの時遠目でも見てたが…あいつは猫魔物の姿なのか?」
「うーん…どっちかというと猫スーツ着た子供っぽいわね」
「あの時飴で固めてたけど、ロッソに溶かされて助かったっぽい」
マジカルやローザがぶつぶつ言うがジャロは気づいていない。
「おっかしーなー、“ひらけセブンフルーツ〜!”っていってるのに、ぜんぜんひらかないじょ!」
「呪文からしてすでにおかしいです…」
ノオが引き気味に言った。
俺たちに気づいたのか、ジャロがくるっと振り返る。
「ん? あー!おまいたち、じゃましにきたやつらだじょ!」
あからさまに「見覚えある顔だ」って反応だ。
「あのときはよくもやってくれたな!」
「俺は何もしてないけど…まあ、探す手間が省けたな」
俺は一歩前に出て、二本の片手剣の柄に手をかけた。
「お前を倒せば…親父の呪いが解ける!それに、フォレストタウンもここも、めちゃくちゃにした報いは受けてもらうからな!」
ジャロは一瞬だけ目を丸くしてすぐにニヤニヤと笑い出した。
「なにいってんだじょ〜。まちも、じゅもんも、み〜んなセブンフルーツになったらしあわせだじょ?」
「どこがだよ!」
思わず素でツッコむ。
「人のものは盗ったら泥棒だってこと知らねえのか?あれ全部、誰かの物なんだぞ!」
「しょんなのかんけいない!おやしゃいも!ぶきも!だいじなものも! ぜ〜んぶセブンフルーツになれば、ぼくちんがこうやって“まりょくジュース”つくれるんだじょ!」
ジャロは自慢げに胸を張った。
「ふざけんな。お前の趣味のために、どれだけ迷惑かかってると思ってんだ」
「ふひひ。じゃましゅるやつは…」
ジャロはぴょんっと後ろに跳ねると、持ってきたスイッチを押す。
「み〜んなフルーツにしてやるじょ!!」
ごごご、と床が震える。
ジャロの足元の床が開き、そこから巨大な機械がせり上がってきた。
「…うわ、なんだこれ」
セブンフルーツ色のタンクとパイプがくっついた、妙に丸っこい巨大メカ。
関節のあちこちから、黄色いペーストがだらだら垂れている。
「とんでもないもの作りやがったな…」
「これも、セブンフルーツペーストで動いてるのか…?面白いが嫌な発想力だね…」
スペイドさんが顔をしかめる。
ジャロはその頭部にぴょいっと飛び乗ると、両手で操縦レバーを握った。
「ここにあるセブンフルーツぜ〜んぶ、ぼくちんのへいたいだじょ! おまえらもまとめてフルーツにして、“まりょくジュース”のもとにしてやるじぇ〜!」
「フルーツになんて、なるもんか!」

ジャロ戦
「なるほど、理屈が同じなら…まず最初にあのメカを叩くがいい。機械類なら、おそらく電気に弱い。雷魔法を使える者はいるか?」
「スタラ!かみなりまほう、できる!」
スタラが元気よく手を挙げる。
「今回はスタラに攻撃させるのがよさそうだな」
「ジャロ自体は、見た目通り体力はあまりないはずよ。」
ローザが素早く状況を整理してくれる。
「アタシはスペイドさm…スペイドさんを守ってるわ!」
「ふひひ、やれるもんならやってみるじょ〜!」
ジャロが高笑いしながら、メカの目がぎらりと光る。
「いっくじょ〜!!」
巨大な腕がこちらに振り下ろされる。

 一定のダメージあたえる
「うー!おまえたちしつこいじょ!みんなフルーツになっちゃえ!」
「げ、あの光線ってまさか…」
「変化の呪いよ!でも今は戦闘中だから力は長続きはしなさそうね」
「なっちまっても放っておけば治りそうだ。もしフルーツに変えられても倒れんよう持ちこたえろよ。」

倒す
「あ、あれれ?なんかようしゅがおかしい…じょ…?」

 
ジャロの機械が、ぎぎぎ、と嫌な音を立てながらひしゃげていく。
装甲が外れ、関節からはセブンフルーツペーストがだばだば溢れ出ていた。
「俺達の勝ちだな。観念しろ…」
そう言いかけた、その瞬間だった。

 ドゴォン!!

メカの中心部がまばゆく光ったかと思うと、次の瞬間、爆音とともに爆散した。
熱風と破片が一斉に吹き荒れ、思わず腕で顔をかばう。

「うおっ!?」
「きゃっ!」

視界が真っ白になり、耳がキーンとする。
気づけば、目の前にいたはずのメカも、ジャロの姿も、跡形もなくなっていた。

代わりに…床の上で、コロン、と何かが転がる音がした。

視線を落とすと、黄色く光るオーブのような球体がひとつ、俺の足元に転がってきた。
表面にはくっきりとヒビが走っているが、内部にはまだ、どくん、どくんと脈打つような魔力の気配が残っている。

「ふう、この部屋だけ防犯装置に予算を大量につぎ込んでいてよかった。でなければ、ここも吹き飛んでいたからな」
スペイドさんが、胸をなで下ろすようにため息をついた。
「ジャロは自爆したってことでいいのか?」
そう言いながら、オーブに手を伸ばす。
触れた瞬間、びりっと静電気みたいな感覚が走った。

「ダルク! それちゃんと持ってて!」
ローザが慌てた声を上げる。

「熱っつ!? あっつ!? ちょっ…」

次の瞬間、壊れたオーブは、俺の手ごとすごく熱い“何か”に包まれた。
「なんだこれ!? あっつ!? マジで熱っつ!!」

手の甲からじゅわっと熱が伝わってくる。
慌てて見ると、ローザが自分の巨大なキャンディー型ハンマーを振りかざしていた。

ハンマーの先から、とろとろに溶けた飴が流れ出して、
オーブを中心に俺の手をも巻き込むように、どろりとコーティングしている。

「溶けた飴だよー。ローザの飴には“魔力を通さない加工”があるから、これでジャロは復活できないはず!」
「俺ごとやるな!!」
「ごめんごめん!こうでもしないと、すぐに再生するから…!」
俺がバタバタ手をふってたおかげか飴はあっという間に冷えて固まり、オーブは巨大飴玉と化した。ついでに、べったり埋まった俺の手形も、しっかり残っていた。
「そのオーブはローザが預かるね。これをネーロに渡せば封印完了。正式にカンコンソーサイ一人目討伐になるよ!」
ローザは嬉しそうに、巨大手形飴玉をひょいっと持ち上げる。
「ほう、お菓子を作り出すのか…面白い能力だね」
スペイドさんが目を細める。
「これ食べられるの…?」
マジカルは若干顔を引きつらせながら、俺の手形飴をじーっと見つめていた。
「ローザのお菓子はちゃんと食べられるよ!毒なんてない!ちょっと元気になる程度!」
説明してるそばから、スタラがお腹すかせてたのか、俺の服に着いた飴の端っこをかじりだす。
「ほんとだー、あまーい!」
「おいおい、そんなもん食うなよ。ばっちいだろ」
「ラルド、それは俺に対しても失礼だろ」
飴を手から外したあとは、軽く火傷して赤くなっていたので、ノオに治療してもらう。じんわりした痛みが癒えていくのと同時に、さっきまでの緊張も少しほぐれた。
「でもね、お腹すいてるとできない。お菓子は自分で食べても回復はしないんだ。ちゃんとしたご飯食べないとなの」
ローザが、少し恥ずかしそうにお腹をさすった。今のでさらに空腹になったようだ。
「ふむ、自己回復はできないのか。不便な点もあるものだな」
スペイドさんは顎に手を当て、ますます興味深そうにローザを見ている。
「帰ったらビルバさんがうまい飯作ってくれると思うぜ」
「えーほんとー?ローザは皆でご飯食べるのがなにより楽しみなんだー!」
ローザの目がきらっと光る。
「もっと機械的なものをイメージしてたが、魔法生物にもしっかり“食欲”は存在するんだな」
スペイドさんは、感心したように小さく笑った。

ジャロの核は無事封じられた。
初めてのカンコンソーサイ撃破の余韻と、うっすら甘いキャラメルの匂いが、部屋に残っていた。
13/15ページ
スキ