2章

???

スペイドの研究所…だった場所の、最奥近く。
元は精密な装置や魔導機械が並んでいたであろうフロアは、今や完全に「セブンフルーツ工場」と化していた。
ベルトコンベアの上を、黄色い房が次から次へと流れていく。
カッターが皮をむき、圧搾器が果肉をペーストにし、巨大なタンクがぐつぐつとそれを煮詰めている。
甘ったるい匂いが充満しすぎて、もはや気持ち悪いレベルだ。

「ふひひ、いいかんじだじょ〜」

ジャロはご機嫌だった。
猫のように小柄な身体でタンクの縁に乗っかり、コップにできたてのジュースを注いで飲む。
「たくしゃんセブンフルーツをペーシュトにして、ぎゅ〜っとして、まりょくつくる!ゲンしゃまもきっとぼくをみなおしゅはじゅだじょ!」
足元の床には、空になったコンテナが山のように積み上がっている。
自作のセブンフルーツジュースの出来が良いのかかなりご満足だ。
その時。

「…ずいぶんとご機嫌だな」

低い声が、工場の喧騒をすっと割った。
ジャロが振り返ると、そこには黒いローブをまとった長身の男が立っていた。
顔のほとんどがフードの影に隠れていて、表情は読めない。
「おっ、きたじょ!!ゲンしゃm…」
「あ?誰が、ゲン様だと?ここでは名前を出すな」
より低い声が返ってきた。
「…あっ」
ジャロは慌てて口を押さえた。
「(まちがえた…あのしゅがたのときはゲンしゃまっていっちゃいけないんだったあぶないあぶない)あんたがメッシェンジャーだな?」
ジャロはぴょんっと飛び降りて、小瓶を差し出した。
「れいのぶつはできてるじょ!」
中にはセブンフルーツから抽出した魔力が濃縮され詰まっている。
「みてみて!これがぼくちんとくしぇいの“まほうジュース”だじょ!」
ローブの男は無言で小瓶を受け取り、指先で軽く振る。
水面がぴたりと揺れ、かすかな魔力の波紋が広がった。
「…悪くない。お前にしては、よく頭を使った」
「へっへ〜ん!でしょでしょ?ほめていいじょ、もっとほめていいじょ!」
「これは、何から作った?」
ゲ…いやメッセンジャーと呼ばれたローブの男が問う。
「しょりゃセブンフルーツからだじょ!」
「そうではない。どうやって“こんなに大量に”セブンフルーツを用意した?」
「ん?」
ジャロはきょとんと首をかしげた。
「どうやってって…?ぼくちんちゃんとセブンフルーツからつくってるじょ?ちゃんとじぶんでよういしてるじょ!あれみて!」
「…」
しばし沈黙。
ジャロの指さす方向にある工場のラインに視線を滑らせた。
それはベルトコンベアの端だった。
そこでは、さっきまでフォレストタウンの店先にあったであろう商品が、次々とセブンフルーツに変わっていっていた。
青い瓶に入ったポーションが、ぱん、と音を立てて黄色い房になる。
木で作られた椅子が、くるりとねじれてセブンフルーツの房に変わる。
さらには、誰かが忘れていったマフラーまでが、もこもこの布から、つるりとした皮を持つフルーツへと姿を変えていく。
「…っ」
ローブの下で、何かを悟った気配があった。なにか見てはいけないものを見てしまったようにもみえる。
「わかってくれた?」
ジャロは自慢げに胸を張る。
「まちのなかの“いろんなもの”を、ぜ〜んぶセブンフルーツにかえたんだじょ!おやしゃいも、ぶきも、たぶんなんかだいじなものも!もとがなんだったかぼくちんでもわからないや」
「…元には、戻らんの?こいつらって」
「もどらないじょ!」
ジャロはきっぱり言い切った。
まるで「そこがいい所」とでも言いたげな笑顔で。
「かこーしたセブンフルーツは、もうセブンフルーツとしてしかいきられないじょ。てかもともとなんだったかなんて、セブンフルーツになったじてんで、どーでもいいんだじょ!だからこころおきなく、まりょくだけしぼれるじぇ〜」
メッセンジャーは、小瓶を見下ろしたまま、少しだけ肩をすくめた。
「くだらん執着だと思っていたが…利用価値はある。お前にしては、だがな」
ぽつりと呟く。
「でしょでしょでしょ〜!?ゲンしゃまの“まりょくかきあつめだいしゃくしぇん”、これでぼくちんもだいかつやくだじょ!」
ジャロはぴょんぴょん跳ねている。
「このこーじょーがもっとうごけば、あのまち、しょのうちしぇかいのものをセブンフルーツにしてやるじょ!じぇ〜んぶフルーツ!じぇ〜んぶジュース!じぇ〜んぶ!!」
「…ほどほどにしておけ」
メッセンジャー、いやゲンはくるりと背を向けた。
「使いすぎれば、目立つ。見つかるのも時間の問題だ」
「ふっふーん、かんけーない!じゃましゅるやつみんなフルーツにしてやる!」
「ところで、ここの研究所には俺達の邪魔になりかねない精霊の研究をしているそうだ。もしそういった極秘情報があれば…潰しておけよ。この時代の連中に、余計なことを思い出されるわけにはいかない」
「あいあいさー」
ローブの男は小瓶だけを懐にしまうと、そのまま通路の闇へと溶けていった。
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