2章

 「…よしっ!」
最後の一撃が決まり、結晶の獣は甲高い悲鳴のような音を上げると、そのまま光の粒になって砕け散った。 床一面に、キラキラとした破片が雨のように降り注ぐ。

「砕けちまったな…」
剣をしまいながら、俺は足元の破片を見下ろした。
さっきまであんなに暴れてたのに、今はただのガラクタみたいに静かだ。
「これ、スペイドさんに見せたら何か調べられるかも。破片、集めとこうぜ」
「はい!」
ノオがすぐさましゃがみこんで、慎重に欠片を拾い始める。
ローザもひょいひょいと大きめの欠片を選んでは、袋に入れていく。
「キャンディーみたいにキレイだけど、ぜんっぜん可愛くない魔力してたなあ…アランの悪趣味がわかるし、飾りには向かないタイプだ」
「スタラ、これくらいのやつもってくー!」
スタラは自分の手のひらよりちょっと大きいかけらを掲げてはしゃいでいる。
…あとでちゃんと危なくないやつに選別しないとな。

「ダルク君! お友達の皆さんも、本当にありがとうございます!」
ビルバさんが駆け寄ってきた。さっきまで怯えていたのが嘘みたいに、ほっとした顔をしている。
「ビルバさん、ケガもなくて良かったです」
「ええ、ちょっと転んだくらいで済んだわ。それにしてもダルク君、頼もしくなったわねえ」
そう言って笑う顔は、さすが“ハンター向け民宿の女将さん”って感じで、どこか肝が据わっている。
「ノワールと一緒じゃなかったの?あの子も町にいたはずよ」
「今、マジカルタウン大変なことになってて…」
胸の奥が、少しざわつく。
「ノアさんはフォレストタウンにいますよ。ノアさん、今はちょっと動けない状態だから…俺が代わりに、ビルバさんを迎えにきたんです」
「そうなのね…」
ビルバさんは一瞬だけ目を伏せて、それからふわっと柔らかく微笑んだ。
「わざわざありがとね。本当に、助かったわ」
(これで、とりあえず“迎えに行く”って約束は果たせたな)
俺がそう思っていると、隣から落ち着いた声がした。
「君たち、なかなか腕があるね。マジカルタウンのハンターかな?」
さっきまで異形獣と対峙していた、白スーツの男がこちらに歩み寄ってくる。
血は一滴もついていない。剣の扱いが相当慣れてるんだろう。
「いや、俺はまだ学生です…」
「そうなのかい? それであれだけ動けるなら、将来有望だね」
柔らかく笑うその顔は、どこか掴みどころがない。
銀色の前髪に隠された右の目が見えないせいか、余計に“素性不明感”がある。
「あんた、ここらじゃ見ないな。よその町の出身か?」
ラルドがふわっと浮いたまま、じろじろ観察している。
「まあ、そうだね。僕はハーデス。町医者をやっている。マジカルタウンに向かおうとして、この宿に立ち寄ったんだが…さっきの魔物に女将さんと襲われたってところだな」
「町医者…」
確かに、白スーツはそれっぽい。
ただの旅人って感じではないし、剣を扱える医者ってのもだいぶ物騒だが。
「マジカルタウンは、今は危険ですよ。住民のほとんどは、フォレストタウンに避難してます」
「ああ、そうなのか。それは知らなかったな…。道理で途中、やけに静かだと思った」
「不運でしたね」
ノオが申し訳なさそうに言うと、ハーデスは「はは」と軽く笑った。
「運が悪いのは慣れてるさ。でも、運そのものは悪くない。ほら、こうして君たちに助けてもらえたんだからね」
サラッとした言い方なのに、妙に説得力があった。
…こういうタイプ、ちょっと敵に回したくないかも。
「せっかくだし、ハーデスさんも一緒に行きましょー!フォレストタウンなら安全だよ」
ローザが提案する。
「うん、そうだね。マジカルタウンの人たちがそこにいるなら、僕が向かう先も変わらない。ついていこうかな」

 そうして 目的だったビルバさんの救助は無事完了。
 ついでに(と言ったら失礼だが)謎の町医者ハーデスさんも新たに合流し、
 俺たちはみんなでフォレストタウンへ戻ることになった。

(ノアさんにも、ちゃんと“連れてきた”って報告しないとな)

 狩人の森での異形獣とのバトルの余韻を背負ったまま、俺たちは来た道を引き返し始めた。
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