2章

フォレストタウン地方。
ここは、マジカルタウンが万年春であるのとは逆に、万年冬のエリアだ。地方によっては季節そのものが固定されているらしい。

ここの名物(?)といえば、雪に覆われた広大な森林。
小さな町・フォレストタウンの南には、氷の精霊が住処にしているらしい小さな森がある。通称、雪うさぎの森。その奥には、この町の町長であり、世界でただ一人の科学者でもあるスペイド博士の研究所が建っている。

西側には、いつも霧が立ち込める霧の森。ゾンビやゴーストなど、不死の魔物たちの住処とされている。
そこからさらに分かれ道があって、大きな滝がそびえる山がひとつ。あれが紺碧の山。頂上には、裕福なゴースト一族の屋敷がある。

もう一つの分かれ道の先には大きな湖。その中心の小島には、高貴な吸血鬼一族の屋敷が建っている。
ゴースト一族のジェム一家、吸血鬼族のヴァンプ一家。この二つの屋敷は、不死の魔物たちの中でもとりわけ格上の派閥で、どうも対立しあっているとか。

俺たちからしたら、まさに触らぬ神に祟りなしってやつで、不要な接触は避けるのが暗黙の了解になっている。ラルドはゴースト一族とは知り合いらしいが、最近は会っていないらしい。

…とまあ、これがフォレストタウン地方のざっくりした事情だ。




そんなフォレストタウンの、ちょうど入り口近く。
そこに、俺たちの乗った幽霊船は派手な音を立てて着地した。

着地の衝撃と音に気づいたのか、村の面々がぞろぞろと様子を見にやって来る。

「な、なんだ?」
「え? 空から船が落ちてきたぞ?」
「幽霊船みたいだが…またゴースト達のいたずらか?」

なんでそうなる…と思ったが、あとからノオに聞いた話だと、この町はよく不死の魔物たちの被害を受けているらしい。そりゃ幽霊船=ゴーストのイタズラって発想にもなるか。

「ラルド! 軽いノリで墜落させんじゃねえ!」
「いやあ、俺も船も軽いからさ」
ゴーストジョークなんて冗談もいいとこだ。
俺はラルドと一緒に、どうやら一番乗りで船から降りたらしい。

「ダルクさん…?」

「ん?」

俺に話しかけてきたのは…

「あ、ノオか?」

後輩のノオだった。そういや、ノオはフォレストタウンに暮らしていたんだったな。
「わあ、驚きました…まさか空飛ぶ船に乗っていたなんて」
もじもじしながら話しかけてくるノオに、俺は曖昧に笑って返す。
「話すと長いんだが…」
そのとき、よく通る声が村のざわめきを切り裂いた。

「皆、落ち着きなさい。何事だ?」

村の者たちをまとめているのは…ああ、間違いない。
あの変わった服、白衣を着ているのは、この町の村長にして、この世界で唯一の科学者・スペイド博士だ。
この世界は魔法が主流で、科学なんて「迷信」扱いされることも多い。俺も正直、最初はそう思っていた。けど、スペイドさんの研究はかなりガチだ。だからこそ、今では彼の研究を笑うやつはほとんどいない。

「スペイド博士。お久しぶりです」

次から次へと人が降りてくる中、マオ先生がスペイドさんに気づいて声をかけた。
「おお、マオ君じゃないか。マジカルタウンの方はどうかな? 順調かね?」
そういえばマオ先生は、マジカルタウンの町長も兼任している。
スペイドさんは、違う町同士でも積極的に交流を持っている、と前に聞いたことがある。
「あまり“いい”とは言えませんがね…緊急事態です」
ちょうどそのとき、スペイドさんの視線の先で、ジールさんがノアさんを支えながら船から降りてくるのが見えた。
ネーロが治しているとはいえ、ノアさんの状態はまだまだ“ボロボロ”に近い。
「…わかった。至急、宿の者に手配をする。詳しい内容はあとでまとめて聞かせてもらおう」

スペイドさんは短くそう告げると、すぐに動き出した。
ふと横を見ると、マジカルがやたらソワソワしていた。視線の先にはスペイドさん。
…あ、そうか。こいつが精霊ってこと、表向きにはしてないんだった。
俺は気づかないふりを決め込むことにした。
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