2章
「そこのおねーさん! こっちは安全だよ!」
甘ったるい声で言いながら、すごい速さで手を振ってる女の子がいた。
ピンクの髪、ふわっとしたドレス、背中にはデカい飴の棒。
どう見ても戦場にいていい格好じゃない。
「あんた、誰なの…」
「? ローザだよ。詳しい話はあとあと!そのお兄さん、早く手当しなきゃ!」
怪しさは満点だった。
だけど…ノアを見て、選択肢は無かった。
ローザに案内されたのは、唯一壊れずにすんだ建物。
品を見るからに、もともとは店のようだ。
「連れてきたよ〜」
『ご苦労さん。ひゃあ、兄ちゃん、これは派手にやられたなぁ』
ローザの呼び掛けに、どこからか男の声が聞こえる。
「ローザ以外にも誰かいるの?」
『お、俺の声聞こえるか?ここやここ』
声が聞こえる方に視線を向けると、ローザが大きめのジャムの瓶を見せてきた。
中には真っ黒い物質のようなものが入っていて、手のような触腕を作り、こっちに向かってひらひら手を振っている。声はそこから来ていた。
「…なにこの暗黒物質。失敗作?」
「ぶー、違うよー」
『ええ…も少しいい例えしてくれよな。いや、自分、悪い奴やないで。姿はこうやけどな』
このおかしな口調…妙に腹立つけど、おそらくゴーストの類いなんだろう。
「さっきの…追っ手か…」
気絶していたノアが、うっすら目を開けて起き上がる。
「動かないで! 傷が開くって!」
圧倒的に立場は悪い。だけどノアは、ローザ達を警戒している。
『あまり時間の猶予があらへんな。ええか? 兄ちゃん達、俺たちの話、聞いてくれ』
ローザはノアにオロオロしていて、敵意は一切ないのが分かる。
『簡潔に言うで。取引しよか。俺とローザで助けたる。時間はかかるが、俺がその傷も癒したる。その代わりなんだが…俺を匿ってくれ』
「匿う…どういうことだ…」
『俺は今、この通り動けん。この瓶が割れたら、俺は消滅してしまう。せやから、兄ちゃんの中に“同居”させてもらう。表に出る時は、ちょっと身体借りる。そういうこっちゃ』
「身体を貸せだと…断る…」
いきなり取り憑かれるのは、誰だって嫌だ。
強がるノアに、暗黒物質…いやネーロは慌てふためく。
『待て待て。そのままやと、兄ちゃん、じきに死ぬっつーの!助けはよこさん。気合だけでどうにかなる怪我ちゃう』
ビシッと指みたいな触腕を作って、ノアを指さす。
「ローザ達は、誰も死なせたくないの」
ローザも同調している。まだ目が潤んでて、今にも泣きそうな顔だ。
「あんた…何者?」
『ネーロ。この災害を起こしたカンコンソーサイの“元”リーダーや。一回破壊されたが、奴らを止めるために、こんな姿になってまでも追いかけてきた。頼む…恩は返す! 俺に、奴らを止める力をくれ…!』
必死さだけは、本物に見えた。
アタシは、ノアの方を見る。
「…どうするの、ノア」
「……」
そこでノアは、一度だけ大きく息を吐いた。
「分かった…条件を飲む。背に腹は代えられない…ジール、もしこいつが何かやらかそうとしたら…容赦なく俺ごと撃て」
先に覚悟を決めたのは、ノアの方だった。
それならアタシも、ここで断る理由もない。
「アンタのこと、信用したわけじゃない。でも…この状況で背中向けるほど、アタシも馬鹿じゃない」
『それでええ。信用なんて、後から勝手についてくるもんや』
ローザが、ネーロの入っているジャム瓶の蓋を開けた。
『んじゃ、このまま俺を飲みこんでくれ。そうすればええ』
「飲む…?」
アタシもノアも、ぽかんとした。
いや、今のあんた、モザイクかけたいレベルの暗黒物質なの忘れてない?
「待て待て! そんなグロテスクな物体を食えというのか!?」
『ローザが味付けしてくれたから、コーヒー味らしいで、今の俺』
「味の問題じゃない! やめろ、こっち来るな!」
『はあ、時間ないってのに…しょうがない。ローザ、ちょい手を貸してくれや』
「大丈夫! ネーロはまずくない! ローザの味付けは格別だからー!ちょっと感触悪いと思うけど、つるんといっちゃってー!」
「ぐぼぉ!!」
憑りつくんじゃないのかい!って突っ込みたくなった。
なんか…ノアには悪いけど、その先は見ていられなかった。
無理やり食わされてて、思わずアタシは目を背けてしまう。
「ほんとにごめん…ノア」
しばらくして…
『…ふぅ。とりあえず、入居完了や』
無理やり食わせたからか、ぐったりしていたノアが、すっと体を起こす。
ノアの顔なのに、どこか違う。口からは、ネーロの声がする。
「ノアは…大丈夫なの?」
『今は寝かしとく。時間はかかるけど、傷は俺の方で少しずつ再生させたる。その間にできることを、俺がやるで』
ネーロがそう言うと、ノアの身体はゆっくり立ち上がった。
ふと右腕を見ると、出血が治まっている。仕事がほんとに早い。
『ほな、ここからが本番や。のんびりしてる余裕はあらへんで』
「だよね。じゃ、ローザは先導するね!」
ローザが店の裏口を開け、先に外へ飛び出す。
その背中を追うように、ネーロに操られたノアの身体が歩き出した。
船の中
「…こうしてアタシ達は、一度ブランとロッソの戦場から離脱したわけ。
アイツらがどこまで本気で潰し合うのかは見なかったけど…その隙に、街の様子を見ながら、最終的にマジカルタウンを目指したのよ」
アタシはそこまで言って、話を締めくくる。
甘ったるい声で言いながら、すごい速さで手を振ってる女の子がいた。
ピンクの髪、ふわっとしたドレス、背中にはデカい飴の棒。
どう見ても戦場にいていい格好じゃない。
「あんた、誰なの…」
「? ローザだよ。詳しい話はあとあと!そのお兄さん、早く手当しなきゃ!」
怪しさは満点だった。
だけど…ノアを見て、選択肢は無かった。
ローザに案内されたのは、唯一壊れずにすんだ建物。
品を見るからに、もともとは店のようだ。
「連れてきたよ〜」
『ご苦労さん。ひゃあ、兄ちゃん、これは派手にやられたなぁ』
ローザの呼び掛けに、どこからか男の声が聞こえる。
「ローザ以外にも誰かいるの?」
『お、俺の声聞こえるか?ここやここ』
声が聞こえる方に視線を向けると、ローザが大きめのジャムの瓶を見せてきた。
中には真っ黒い物質のようなものが入っていて、手のような触腕を作り、こっちに向かってひらひら手を振っている。声はそこから来ていた。
「…なにこの暗黒物質。失敗作?」
「ぶー、違うよー」
『ええ…も少しいい例えしてくれよな。いや、自分、悪い奴やないで。姿はこうやけどな』
このおかしな口調…妙に腹立つけど、おそらくゴーストの類いなんだろう。
「さっきの…追っ手か…」
気絶していたノアが、うっすら目を開けて起き上がる。
「動かないで! 傷が開くって!」
圧倒的に立場は悪い。だけどノアは、ローザ達を警戒している。
『あまり時間の猶予があらへんな。ええか? 兄ちゃん達、俺たちの話、聞いてくれ』
ローザはノアにオロオロしていて、敵意は一切ないのが分かる。
『簡潔に言うで。取引しよか。俺とローザで助けたる。時間はかかるが、俺がその傷も癒したる。その代わりなんだが…俺を匿ってくれ』
「匿う…どういうことだ…」
『俺は今、この通り動けん。この瓶が割れたら、俺は消滅してしまう。せやから、兄ちゃんの中に“同居”させてもらう。表に出る時は、ちょっと身体借りる。そういうこっちゃ』
「身体を貸せだと…断る…」
いきなり取り憑かれるのは、誰だって嫌だ。
強がるノアに、暗黒物質…いやネーロは慌てふためく。
『待て待て。そのままやと、兄ちゃん、じきに死ぬっつーの!助けはよこさん。気合だけでどうにかなる怪我ちゃう』
ビシッと指みたいな触腕を作って、ノアを指さす。
「ローザ達は、誰も死なせたくないの」
ローザも同調している。まだ目が潤んでて、今にも泣きそうな顔だ。
「あんた…何者?」
『ネーロ。この災害を起こしたカンコンソーサイの“元”リーダーや。一回破壊されたが、奴らを止めるために、こんな姿になってまでも追いかけてきた。頼む…恩は返す! 俺に、奴らを止める力をくれ…!』
必死さだけは、本物に見えた。
アタシは、ノアの方を見る。
「…どうするの、ノア」
「……」
そこでノアは、一度だけ大きく息を吐いた。
「分かった…条件を飲む。背に腹は代えられない…ジール、もしこいつが何かやらかそうとしたら…容赦なく俺ごと撃て」
先に覚悟を決めたのは、ノアの方だった。
それならアタシも、ここで断る理由もない。
「アンタのこと、信用したわけじゃない。でも…この状況で背中向けるほど、アタシも馬鹿じゃない」
『それでええ。信用なんて、後から勝手についてくるもんや』
ローザが、ネーロの入っているジャム瓶の蓋を開けた。
『んじゃ、このまま俺を飲みこんでくれ。そうすればええ』
「飲む…?」
アタシもノアも、ぽかんとした。
いや、今のあんた、モザイクかけたいレベルの暗黒物質なの忘れてない?
「待て待て! そんなグロテスクな物体を食えというのか!?」
『ローザが味付けしてくれたから、コーヒー味らしいで、今の俺』
「味の問題じゃない! やめろ、こっち来るな!」
『はあ、時間ないってのに…しょうがない。ローザ、ちょい手を貸してくれや』
「大丈夫! ネーロはまずくない! ローザの味付けは格別だからー!ちょっと感触悪いと思うけど、つるんといっちゃってー!」
「ぐぼぉ!!」
憑りつくんじゃないのかい!って突っ込みたくなった。
なんか…ノアには悪いけど、その先は見ていられなかった。
無理やり食わされてて、思わずアタシは目を背けてしまう。
「ほんとにごめん…ノア」
しばらくして…
『…ふぅ。とりあえず、入居完了や』
無理やり食わせたからか、ぐったりしていたノアが、すっと体を起こす。
ノアの顔なのに、どこか違う。口からは、ネーロの声がする。
「ノアは…大丈夫なの?」
『今は寝かしとく。時間はかかるけど、傷は俺の方で少しずつ再生させたる。その間にできることを、俺がやるで』
ネーロがそう言うと、ノアの身体はゆっくり立ち上がった。
ふと右腕を見ると、出血が治まっている。仕事がほんとに早い。
『ほな、ここからが本番や。のんびりしてる余裕はあらへんで』
「だよね。じゃ、ローザは先導するね!」
ローザが店の裏口を開け、先に外へ飛び出す。
その背中を追うように、ネーロに操られたノアの身体が歩き出した。
船の中
「…こうしてアタシ達は、一度ブランとロッソの戦場から離脱したわけ。
アイツらがどこまで本気で潰し合うのかは見なかったけど…その隙に、街の様子を見ながら、最終的にマジカルタウンを目指したのよ」
アタシはそこまで言って、話を締めくくる。
